2016 年 36 巻 p. 51-59
目的:両立支援的組織文化が,妻/母親役割を担う看護職における職務満足度,組織コミットメント及び職業継続意思に及ぼす影響を検討すること.
方法:869名の看護職を対象に,無記名自記式質問紙調査を実施した.なお,分析対象者は妻/母親役割がある女性看護職とした.質問項目には,個人属性,両立支援的組織文化尺度看護師版,職務満足度,組織コミットメント,職業継続意思を用いた.
結果:766名(88%)より回答を得た.このうち,分析対象者である妻/母親役割のある女性看護職は335人だった.階層的重回帰分析の結果,(1)両立支援的組織文化は職務満足度を媒介し,職業継続意思を有意に強めていた.(2)両立支援的組織文化は組織コミットメントを媒介し,職業継続意思を有意に強めていた.
結論:両立支援的組織文化は,妻/母親役割を担う看護職の職務満足度及び組織コミットメントを高め,さらに職業継続意思も強めていた.よって,両立支援的組織文化の醸成は看護職の人材定着に寄与することが示唆された.
日本の看護職は約94%が女性(厚生労働省人口動態・保健社会統計課,2013)であり,離職理由として「出産,育児」が上位を占めている現状(厚生労働省医政局看護課,2011)がある.そのため,女性が主として関わる機会が多い出産,育児といった家庭生活上の出来事と,仕事生活との両立が図れる職場環境の構築は,妻/母親の役割を担いつつ勤務する女性看護職における人材定着策として重要である.
家庭と仕事との統合を促進させる支援の一つとして,看護職の職場における両立支援的組織文化の重要性が指摘されている(竹内,2010).両立支援的組織文化(Work-family Culture)とは「従業員の仕事と家庭の統合を組織が支持し,価値を置く程度に関し,従業員が共有する暗黙の了解・信念・価値」(Thompson et al., 1999)と定義される概念である.
両立支援的組織文化が醸成されている職場では,家庭と仕事との統合を支持する共通認識があるため,例えば家庭と仕事との両立を支援する制度(以下,両立支援制度)の活用に対する従業員の抵抗感を軽減し,制度の活用が進むことが明らかになっている(Thompson et al., 1999;Allen, 2001).そのため家庭と仕事との両立を図る上では,両立支援制度の導入のみならず,両立支援的組織文化の醸成を促進させることが重要であると指摘されている(Thompson et al., 1999).
職場における両立支援的組織文化の醸成は,従業員にとって職業継続の判断に影響する重要な一要因と考えられている.国内外の先行研究において,両立支援的組織文化が醸成されている職場では,従業員の職業継続意思の強化(O’Neill et al., 2009;Gordon et al., 2007;Mauno et al., 2011),Work Family Conflictの低下(Takeuchi & Yamazaki, 2010)に影響することが明らかになっている.そして,両立支援的組織文化は職業継続に強い影響を及ぼす職務満足度(O’Neill et al., 2009),組織コミットメント(Thompson et al., 1999)の先行要因となり得ることが指摘されている.このように,両立支援的組織文化は職業継続意思に加え,従業員の職業継続意思を強化させる要因にも直接,間接的に影響を与える重要な概念といえる.
しかし,多くの先行研究は両立支援的組織文化と職業継続意思といった2要因間の影響に焦点を当てた研究にとどまっており,両立支援的組織文化と職業継続意思を媒介する可能性がある職務満足度,あるいは組織コミットメントを含めた要因間の影響は明らかにしていない.職務満足度と組織コミットメントは仕事や職場への満足を高める効果や,所属組織に対し愛着をもたせる効果があるため,組織にとって貴重な人材の定着を促進させる重要な概念である.したがって,両立支援的組織文化と職業継続意思との関連のみならず,職務満足度,組織コミットメントの影響も含めた実証研究は,両立支援的組織文化の醸成が妻/母親役割を担う看護職の人材定着に効果的であるかを検証することに寄与する.
そこで本研究の目的は,妻/母親といった家庭生活上の役割を担いつつ病院で勤務する女性看護職を対象に,両立支援的組織文化,職務満足度及び組織コミットメントが,職業継続意思に及ぼす影響を明らかにすることである.
先行研究より,両立支援的組織文化は職務満足度,組織コミットメント及び職業継続意思に対し,直接,間接的に影響を及ぼす先行因子である可能性がある(Allen, 2001;Thompson et al., 1999).職務満足度と組織コミットメントは職業継続意思の先行因子とされる(小野,1993;上野,2005).ゆえに,「職場における両立支援的組織文化の醸成は看護職の職務満足度及び組織コミットメントを高め,その結果,職業継続意思にも影響を及ぼす」(図1)とし,概念枠組みを構築した.

両立支援的組織文化,職務満足度,組織コミットメント及び職業継続意思の概念枠組み
研究実施可能性の観点より,便宜的に東日本A県内の病院から研究協力施設の選定を行った.次にA県内の病院から,基本的な組織体制の統一化を目的に,一般床300床以上で看護配置7:1を取得している総合病院を抽出した.そしてその中から,東日本大震災の影響を考慮し,太平洋沿岸部地域の病院を除外した上で,最終的にA県内の14病院を候補施設として抽出した.
次に,候補施設の看護部長に対し研究協力の依頼文を送付し,返答があった4病院に訪問もしくは電話連絡をし,研究目的と倫理的配慮を説明した.その後,研究協力の同意が得られた4病院に勤務する看護職869名を対象者に,2013年8~9月研究協力施設の看護部へ調査趣意書,無記名自記式の質問紙を一括送付した.そして看護部を介し,対象者全員に配布した.質問紙は,回答後対象者により個別に厳封され,留置き法によって回収したのち,研究者宛てに返送された.
回収した質問紙は766部(回収率88%)であり,そのうち,分析対象者を①女性看護職(保健師,助産師,看護師)であること,②既婚者もしくは③高校生までの子どもがいる者,または②と③両方に該当する者(以下,妻/母親役割を担う看護職)とした.その結果,335人を分析対象者とした.なお,調査対象者と分析対象者が異なるのは,今後妻/母親役割の有無に着目した二次研究を行うことを予定し,調査対象者を妻/母親役割に限定せず4病院に勤務する全看護職としたためだ.
2. 調査内容 1) 個人属性と仕事に関する属性性別,年齢,婚姻状況,扶養児童の有無,経済的な暮らし向き状態,主たる家計保持者の役割及び主観的健康状態を尋ねた.また,職種,総臨床経験年数,現在の病院勤務年数,雇用形態,所属部署,勤務形態,役職の有無及び最終学歴を尋ねた.
2) 職場に関する認識日々の看護業務に関する上司からの支援の有無,日々の看護業務に関する同僚からの支援の有無,職場における両立支援制度の活用状況の程度及び両立支援制度への満足度を,すべて5件法で尋ねた.
3) 両立支援的組織文化Thompson et al.(1999)が作成し,Takeuchi & Yamazakiによって翻訳,改変された両立支援的組織文化尺度看護師版(Takeuchi & Yamazaki, 2010)を,翻訳版の著者に使用許諾を得た上で使用した.両立支援的組織文化とは「従業員の仕事と家庭の統合を組織が支持し,価値を置く程度に関し,従業員が共有する暗黙の了解・信念・価値」と定義される概念である(Thompson et al., 1999).Thompson et al.(1999)が作成した原版尺度は,(1)家庭生活と仕事との両立に関する上司や組織からの支援の程度を示す「組織管理上の両立支援」,(2)家庭と仕事とのバランスを取るため,両立支援制度を利用した場合における「キャリアへの影響」,及び(3)家庭と仕事とのバランスを取るための「時間的な配慮」の3次元から成り立ち,計21項目で構成されている.
その後,原案尺度を踏まえTakeuchi & Yamazaki(2010)により翻訳,改変された両立支援的組織文化尺度看護師版は,原版項目中の従業員という表現を看護師に置き換え,また,看護師が回答しづらい項目と質問内容が重複している項目を削除し,計12項目尺度とした.回答は5件法で尋ね,各項目を1~5点で点数化し,単純加算した.高得点ほど両立支援的組織文化の醸成度が高い状況を示す.
なお,両立支援的組織文化尺度の看護師版を因子分析したところ,原版は3次元尺度であったが,本研究においては「組織管理上の両立支援」と「キャリアへの影響と時間的配慮」の2因子構造となった.
4) 職業継続意思本研究における職業継続意思とは「現在勤めている病院で看護職を継続したいと思う肯定的な感情」とし,質問紙では「現在勤めている病院で看護職を続けたいか」と尋ねた.7件法で尋ね,1~7点で点数化した.高得点ほど現在勤務している病院における職業継続意思が強いことを示す.
5) 職務満足度McLean(1979)が開発し,田中(1998)によって翻訳,公表された職務満足度尺度を使用した.本研究では,従業員の職業生活全般に対する満足感を測定できる「総合的職務満足度」を使用した.1因子6項目を5件法で尋ね,それぞれを1~5点で点数化し,単純加算した.高得点ほど職務満足度が高いことを示す.本研究では,総合的職務満足度を「職務満足度」と表現する.なお,α係数は .84だった.
6) 組織コミットメントAllen & Meyer(1990)が開発し,高橋(1997)により翻訳された日本語版3次元組織コミットメント尺度を,翻訳版の著者に使用許諾を得て使用した.本研究では,組織への情緒的な愛着を示す「情緒的コミットメント」を使用した.1因子6項目を5件法で尋ね,各々1~5点で得点化し,単純加算を行った.以降,情緒的コミットメントを「組織(情緒的)コミットメント」とする.α係数は .87だった.
3. 分析方法個人属性の基礎集計,各変数の記述統計量の算出,両立支援的組織文化尺度の因子分析及び各尺度の内的整合性(以下,α係数)の確認を行った.次に,両立支援的組織文化,職業継続意思,職務満足度及び組織(情緒的)コミットメントとのPearsonの積率相関係数(以下,相関係数)を算出した.そして,両立支援的組織文化,職務満足度及び組織(情緒的)コミットメントが職業継続意思に与える影響を明らかにするため,以下の順に独立変数を投入する階層的重回帰分析を実施した.職業継続意思を従属変数,個人属性,仕事に関する属性,職場に関する認識を制御変数とした上で,(1)両立支援的組織文化,職務満足度の順に独立変数を投入した.また,(2)両立支援的組織文化,組織(情緒的)コミットメントの順に独立変数を投入した.なお,解析ソフトにはIBM SPSS Statistics 19.0 J for Windowsを用いた.検定はすべて両側検定とし,有意水準は5%とした.
4. 倫理的配慮研究協力施設の管理者に対し,研究目的の説明を行い,署名による研究同意を得た.また,調査対象者である看護職に対しては,質問紙の返信をもって同意と見なした.説明時には倫理的配慮として,研究への参加は個人の自由意思であること,研究に不参加であっても不利益を被らないこと,個人情報が特定されないよう処理した上で研究に利用すること,情報漏洩がないよう情報管理に努めること,及び調査結果は看護部宛てに報告書を送付する旨を伝えた.なお,本研究は東北大学医学系研究科倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:2013-1-6).
対象者の基本属性は,女性335人,平均年齢39.1歳(±8.9)であり,既婚者318人(94.9%),扶養児童がいると回答した者は179人(52.8%)だった.また,330人(98.5%)が看護師,現在勤務している病院での経験年数は平均11.9年(±8.0)だった.常勤職員は313人(93.4%),病棟所属である者は242人(72.5%)であった.そして,両立支援制度の活用状況の程度は5段階平均3.1(±1.1)点で「どちらともいえない」を示した.基本属性と特徴を表1に示す.
| 個人属性 | ||
| 性別 | 女性 | 335 |
| 年齢 | 39.1(±8.9) | |
| 婚姻状況 | 未婚 | 9(2.7) |
| 既婚 | 318(94.9) | |
| その他 | 8(2.4) | |
| 扶養児童の有無 | あり | 179(52.8) |
| なし | 156(46.6) | |
| 経済的な暮らし向き | (1–5) | 2.9(±.7) |
| 主たる家計保持者の役割 | あり | 169(50.4) |
| なし | 165(49.3) | |
| 主観的健康状態 | (1–5) | 3.04(±.8) |
| 仕事に関する属性 | ||
| 職種 | 助産師 | 5(1.5) |
| 保健師 | 0(0.0) | |
| 看護師 | 330(98.5) | |
| 総臨床経験年数 | 16.8(±8.8) | |
| 現在の病院勤務年数 | 11.9(±8.0) | |
| 雇用形態 | 常勤 | 313(93.4) |
| 非常勤 | 22(6.6) | |
| 所属部署 | 病棟 | 242(72.5) |
| 外来 | 64(19.2) | |
| その他(手術室,集中治療領域等) | 28(8.4) | |
| 勤務形態 | 交替制勤務 | 214(64.3) |
| 2交代勤務者 | 191(89.2) | |
| 3交代勤務者 | 23(10.8) | |
| 日勤のみ | 95(27.3) | |
| その他 | 28(8.4) | |
| 役職の有無 | 役職なし(スタッフ) | 273(81.5) |
| 役職あり | 62(18.5) | |
| 最終学歴 | 看護師2年課程学校・養成所・短大・高校専攻科 | 62(19.9) |
| 看護師3年課程学校・養成所・短大 | 188(60.5) | |
| 保健師・助産師・保健師助産師学校・短大/大学専攻科 | 28(9.0) | |
| 看護系大学・大学院 | 33(10.6) | |
| 職場に関する認識 | ||
| 日々の看護業務に対する上司からの支援 | (range 1–5) | 3.1(±1.1) |
| 日々の看護業務に対する同僚からの支援 | (range 1–5) | 4.0(±.9) |
| 両立支援制度の活用状況の程度 | (range 1–5) | 3.1(±1.1) |
| 両立支援制度への満足度 | (range 1–5) | 2.8(±1.0) |
(1)表中の数字はn(%またはmean ± SD)を示す.
(2)2,3交代勤務者の割合は,交代制勤務を行っている214人を母数としている.
両立支援的組織文化尺度の探索的因子分析を行った結果,最尤法プロマックス回転により2因子が抽出されたが,因子負荷量が .30に満たない2項目が確認された.そこで,因子負荷量が低い項目を削除し,再度,最尤法プロマックス回転を行ったところ,第1因子は上司からの両立支援に関する項目と,職場における全体的な両立支援の認識を問う項目に対し高い負荷量が確認された(表2).第1因子と原尺度の下位概念「組織管理上の両立支援」の内容とが概ね一致したため,「組織管理上の両立支援」と命名した.α係数は .89だった.第2因子は,原尺度「キャリアへの影響」と「時間的な配慮」の項目より構成されていたことから,「キャリアへの影響と時間的な配慮」と命名した.α係数は .87であった.これらの結果より,本研究における両立支援的組織文化尺度は「組織管理上の両立支援」6項目と「キャリアへの影響と時間的配慮」4項目の2因子より成り立つ尺度とし,使用した.なお,尺度の著者の意向により,尺度項目の全文公表を控える必要があったため,表2には項目の概要を記載した.
| 項目 | 因子 | 共通性 | |
|---|---|---|---|
| Ⅰ | Ⅱ | ||
| 項目1:部下の家族に関するニーズヘの上司の対応 | .92 | –.06 | .82 |
| 項目2:部下の家庭での責任に対する上司の共感 | .91 | –.04 | .80 |
| 項目3:家庭の事情を優先することに対する上司の理解 | .89 | –.03 | .78 |
| 項目4:家庭の事情を理由に仕事や部署の変更を希望する際,職場から得られる支援 | .70 | .11 | .55 |
| 項目5:家庭の話ができる職場 | .60 | –.03 | .36 |
| 項目6:仕事と家庭とを両立しやすい職場 | .44 | .19 | .28 |
| 項目11 r:家庭より仕事を優先させることに対する職場の期待 | –.06 | .92 | .81 |
| 項目12 r:家庭より仕事を優先することに対する上司の期待 | .11 | .77 | .67 |
| 項目10 r:出世のために必要な時間外労働 | –.05 | .65 | .41 |
| 項目9 r:家庭の事情で昇進や移動を拒否した場合,キャリアに生じる影響 | .06 | .56 | .34 |
| 寄与率 | 40.60 | 17.41 | 58.00 |
| 因子相関行列 I | ― | .34 | |
| Cronbach’s α係数 | .89 | .87 | |
(1)項目のrは逆転項目を示す.
(2)項目は概要を記載した.
両立支援的組織文化尺度,職業継続意思尺度,職務満足度尺度及び組織コミットメント尺度の平均得点と標準偏差とを求めた(表3).次に,両立支援的組織文化,職業継続意思,職務満足度,組織(情緒的)コミットメント及び職場に関する認識との相関係数を算出した(表4).その結果,両立支援的組織文化の「組織管理上の両立支援」は「職業継続意思」,「職務満足度」及び「組織(情緒的)コミットメント」と有意な正の相関が確認された.
| 両立支援的組織文化 | ||
| 組織管理上の両立支援 | (range 6–30) | 20.2(±4.8) |
| キャリアへの影響と時間的な配慮 | (range 4–24) | 11.6(±3.2) |
| 職業継続意思 | (range 1–7) | 4.4(±1.5) |
| 職務満足度 | (range 6–28) | 18.3(±4.4) |
| 組織(情緒的)コミットメント | (range 6–29) | 15.8(±4.6) |
| 両立支援的組織文化組織管理上の両立支援 | 両立支援的組織文化キャリアへの影響と時間的配慮 | 職業継続意思 | 職務満足度 | 組織(情緒的)コミットメント | 日々の看護業務に対する上司からの支援 | 日々の看護業務に対する同僚からの支援 | 両立支援制度活用の程度 | 両立支援制度への満足度 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 両立支援的組織文化 | |||||||||
| 組織管理上の両立支援 | ― | ||||||||
| キャリアへの影響と時間的配慮 | .39** | ― | |||||||
| 職業継続意思 | .38** | .15** | ― | ||||||
| 職務満足度 | .49** | .16** | .68** | ― | |||||
| 組織(情緒的)コミットメント | .40** | .11* | .65** | .58** | ― | ||||
| 職場に関する認識 | |||||||||
| 日々の看護業務に対する上司からの支援 | .48** | .16** | .19** | .31** | .23** | ― | |||
| 日々の看護業務に対する同僚からの支援 | .27** | .09 | .20** | .24** | .12* | .36** | ― | ||
| 両立支援制度活用の程度 | .44** | .31** | .24** | .33** | .29** | .16** | .21** | ― | |
| 両立支援制度への満足度 | .45** | .35** | .33** | .36** | .42** | .23** | .14* | .64** | ― |
**. P < 0.01 *. P < 0.05
職業継続意思を従属変数,個人属性,仕事に関する属性及び職場に関する認識を制御変数とし,両立支援的組織文化,職務満足度の順に独立変数を投入した階層的重回帰分析の結果を表5(表中の左)に示す.
| 職務満足度 | 組織(情緒的)コミットメント | ||||||||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| Step 2 | Step 3 | Step 4 | Step 5 | Step 2 | Step 3 | Step 4 | |||||||||
| β | P | β | P | β | P | β | P | β | P | β | P | β | P | ||
| 個人属性 | 年齢 | –.04 | –.02 | .01 | .01 | –.04 | –.02 | –.11 | |||||||
| 婚姻状態(未婚 その他=0,既婚=1) | .01 | –.01 | –1.0 | –.97 | .01 | –.01 | –.04 | ||||||||
| 扶養児童の有無(無=0,有=1) | .15 | ** | .13 | ** | .10 | * | .09 | * | .15 | ** | .13 | * | .09 | * | |
| 経済的な暮らし向き | .10 | .10 | .01 | .01 | .10 | .10 | .07 | ||||||||
| 主たる家計保持者の役割有無(無=0,有=1) | –.02 | –.01 | –.02 | –.02 | –.02 | –.01 | –.01 | ||||||||
| 主観的健康状態 | .06 | .03 | –.02 | –.02 | .06 | .03 | .03 | ||||||||
| 仕事に関する属性 | 現在の病院勤務年数 | .23 | ** | .20 | ** | .14 | * | .14 | * | .23 | ** | .20 | ** | .10 | |
| 雇用形態(常勤=0,非常勤=1) | .03 | .03 | .03 | .03 | .03 | .03 | .03 | ||||||||
| 所属部署(病棟=0,外来その他=1) | –.01 | –.01 | –.03 | –.03 | –.01 | –.01 | –.03 | ||||||||
| 勤務形態ダミー(交替勤務=0,日勤専従その他=1) | –.03 | –.04 | –.05 | –.06 | –.03 | –.04 | –.03 | ||||||||
| 役職の有無(無=0,有=1) | .07 | .07 | .05 | .05 | .07 | .07 | .01 | ||||||||
| 職場に関する認識 | 日々の看護業務に対する上司からの支援 | .10 | .00 | –.06 | –.06 | .10 | .00 | –.05 | |||||||
| 日々の看護業務に対する同僚からの支援 | .11 | .10 | .04 | .04 | .11 | .10 | .07 | ||||||||
| 両立支援制度の活用程度 | .03 | –.03 | –.06 | –.06 | .03 | –.03 | .00 | ||||||||
| 両立支援制度への満足度 | .24 | ** | .20 | ** | .13 | * | .13 | * | .24 | ** | .20 | ** | .05 | ||
| 両立支援的組織文化 | 組織管理上の両立支援 | .26 | ** | .07 | .07 | .26 | ** | .12 | * | ||||||
| キャリアへの影響と時間的配慮 | –.01 | .02 | .02 | –.01 | .03 | ||||||||||
| 職務満足度 | .62 | ** | .61 | ** | ― | ||||||||||
| 両立支援的組織文化(組織管理上の両立支援)×職務満足度 | .04 | ― | |||||||||||||
| 組織(情緒的)コミットメント | ― | .58 | ** | ||||||||||||
| 調整済みR2 | .18 | .22 | .49 | .49 | .18 | .22 | .45 | ||||||||
**. P < 0.01 *. P < 0.05
誌面の都合上,Step 2から記載している.
制御変数として,Step 1で個人属性と仕事に関する属性,Step 2で職場に関する認識を投入した結果,最終的にStep 2で「扶養児童の有無」,「現在の病院勤務年数」,「両立支援制度への満足度」が職業継続意思と有意な関連を示した.
そしてStep 3では,独立変数である両立支援的組織文化の2因子を投入したところ,Step 2の制御変数に加え,両立支援的組織文化の「組織管理上の両立支援」が職業継続意思と有意な関連を示した.
Step 4では独立変数に「職務満足度」を追加投入した結果,「職務満足度」は職業継続意思に有意な関連を示したが,両立支援的組織文化の「組織管理上の両立支援」の有意差は消失した.これを踏まえ,両立支援的組織文化の「組織管理上の両立支援」と「職務満足度」とには交互作用の影響が検討されたため,Step 5で交互作用項「両立支援的組織文化(組織管理上の両立支援)×職務満足度」の追加投入を行った.しかし,交互作用項「両立支援的組織文化(組織管理上の両立支援)×職務満足度」は従属変数に有意な関連を示さなかった.以上より,両立支援的組織文化と職業継続意思とには職務満足度の完全媒介が確認された.
2) 両立支援的組織文化,組織コミットメントが職業継続意思に及ぼす影響職業継続意思を従属変数,個人属性,仕事に関する属性及び職場に関する認識を制御変数とし,両立支援的組織文化,組織(情緒的)コミットメントの順に独立変数を投入した階層的重回帰分析の結果を表5(表中の右)に示す.
制御変数として,Step 1で個人属性と仕事に関する属性,Step 2で職場に関する認識を投入した結果,最終的にStep 2では「扶養児童の有無」,「現在の病院勤務年数」,「両立支援制度への満足度」が職業継続意思と有意な関連を示した.
Step 3では,独立変数である両立支援的組織文化の2因子を投入したところ,「組織管理上の両立支援」が職業継続意思に有意な関連を示した.そしてStep 4で独立変数に「組織(情緒的)コミットメント」を投入した結果,「組織(情緒的)コミットメント」は職業継続意思に有意な関連を示した.また,両立支援的組織文化の「組織管理上の両立支援」も職業継続意思と有意な関連を示したままだった.以上の結果より,両立支援的組織文化と職業継続意思との関係には組織(情緒的)コミットメントの部分媒介が確認された.
階層的重回帰分析の結果,両立支援的組織文化が職業継続意思に関連していたが,職務満足度を追加すると,職務満足度のみ職業継続意思に関連した.つまり,両立支援的組織文化と職業継続意思との間を職務満足度が完全媒介していた.
Allen(2001)は,職場における両立支援制度の利用し易さと,家庭と仕事との両立に対する上司からの支援が,「所属組織はファミリー・サポーティブな職場環境である」という従業員の知覚を促し,その結果,従業員の職務満足を高めると指摘している.本研究においても同様の要因により,両立支援的組織文化が看護職の職務満足度を高めたと考える.さらに,高まった職務満足度は看護職の職務に関する態度形成に好意的な影響を及ぼすため,また,家庭と仕事との両立を容易にさせるため,職業継続意思を強めたと考える.
職務満足度が完全媒介した理由には,本研究の結果より職務満足度と職業継続意思との間に強い相関関係があったこと(表4参照),また,先行研究より職務満足度の結果要因として職業継続意思が指摘されており(小野,1993),概念同士の関連が強いことが,完全媒介モデルの形成に影響したと推測する.
2) 両立支援的組織文化,組織コミットメントが職業継続意思に及ぼす影響階層的重回帰分析を行った結果,両立支援的組織文化の「組織管理上の両立支援」と組織(情緒的)コミットメントが職業継続意思に影響を与えていた.つまり,両立支援的組織文化と職業継続意思との間を組織(情緒的)コミットメントが部分媒介していることが明らかとなった.
Thompson et al.(1999)は,両立支援的組織文化が醸成された職場において両立支援制度,例えば勤務時間の調節ができる制度を活用した従業員は,組織から両立支援を受けている認識を強め,所属組織に対し愛着を感じるため,組織(情緒的)コミットメントが高まると指摘した.本研究においても同様の理由により,両立支援的組織文化が看護職の組織(情緒的)コミットメントを高めたと考える.また,組織(情緒的)コミットメントの高まりは,組織の価値や目標に対し情緒的な愛着形成をより高め,組織に残り続けたいという心情を強めるため,看護職の職業継続意思を強めたと考察する.
3) 看護実践への示唆本研究結果より,両立支援的組織文化の醸成には「組織管理上の両立支援」が影響し,中でも上司である看護師長からの両立支援に対する理解と支援が重要だと推測された.なぜならば,シフト作成や人員配置等の業務調整を行うのは,主に師長だからだ.ゆえに,師長への両立支援に関する啓発活動(竹内,2010)は両立支援的組織文化の醸成に寄与する一因と考える.
今回の研究では,両立支援的組織文化が妻/母親役割のない看護職へ及ぼす影響は明らかにしていない.しかし,職場で両立支援を受けながら勤務する看護職の存在は,今後,妻や母親の役割を担うことを希望する看護職にとって,「この職場なら,家庭と仕事との両立が図れるのではないか」と感じさせ,職業継続意思を強める可能性が言及されている(山元,2009).そのため,両立支援的組織文化は妻/母親役割のない看護職の人材定着にも効果的な影響を与えると考察する.
研究の限界として,両立支援的組織文化尺度における測定上の限界が検討されたため,今後は概念の再検討,尺度における妥当性の検証を行い,測定尺度の精度を向上させていく必要がある.次に,研究協力施設と分析対象者における偏りが存在するため,対象者を拡大させ,成果の一般化に努める必要がある.そして,両立支援的な組織文化醸成にむけた方法論の開発へとつなげる必要性がある.
両立支援的組織文化の醸成は,妻/母親役割を担う看護職の職務満足度及び組織(情緒的)コミットメントを高め,職業継続意思も強めていた.この結果より,両立支援的組織文化の醸成が看護職の人材定着に効果的であることが示唆された.
謝辞:本調査にご協力頂きました,4病院の看護部長様,看護職の皆様に御礼申し上げます.また,論文の作成にあたり大変貴重なご意見を頂戴した,東京保健医療大学の佐藤みほ先生,東北福祉大学の渡邊生恵先生に感謝申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:YS,KAは研究の着想およびデザイン,データ収集,データ分析,分析解釈,原稿の作成までの研究プロセス全体に貢献した.著者らは最終原稿を読み,承認した.