日本看護科学会誌
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原著
訪問看護師による終末期がん患者へのアドバンスケアプランニングと希望死亡場所での死亡の実現との関連
石川 孝子福井 小紀子岡本 有子
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2017 年 37 巻 p. 123-131

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Abstract

目的:訪問看護による終末期がん患者への訪問時期別のアドバンスケアプランニング(Advance Care Planning;以下ACP)の実態を把握し,希望死亡場所での死亡の実現との関連を明らかにする.

方法:全国より無作為抽出した1,000事業所の訪問看護師に,受け持った終末期がん患者についての郵送式質問紙調査を実施した.調査項目は,患者の死亡場所および希望死亡場所,訪問時期別のACP(予後理解を促す支援および希望死亡場所の確認と調整)の実践,希望死亡場所での死亡実現のための関連要因とし,希望死亡場所での死亡の実現を従属変数としてロジスティック回帰分析を行った.

結果:374名を分析対象とし,65.0%は自宅死亡,73.8%の希望が実現した.

ACPのうち,生活上への支障を含めた予後の説明(以下,生活予後の説明)の実施割合は27.8~31.8%と低く,希望死亡場所での死亡の実現には,訪問全時期を通じて希望死亡場所の確認(調整済オッズ比:95%信頼区間;訪問初期,19.92:9.48–41.87,悪化期,21.10:9.53–46.71,臨死期187.35:51.79–677.64),悪化期の生活予後の説明(2.44:1.05-5.66)が関連した.

結論:希望死亡場所での死亡の実現には,終末期を通しての繰り返しの希望の確認,症状悪化時に予後予測に基づいて生活予後の説明をすることが重要であることが示唆された.

Ⅰ. 緒言

終末期に自宅死亡を希望する人は,40~60%と報告されている(Fukui et al., 2011Gomes et al., 2012).しかしながら,自宅で最期を迎えた人は12.8%であり,がん患者に限定すると9.9%(厚生労働省,2014)と,死亡場所の希望と実際の隔たりが大きい.終末期がん患者や家族の生活の質(Quality of Life;以下QOL)は国民標準値に比べて低く(Miyashita et al., 2008),療養の場はQOL改善に影響する(Peters & Sellick, 2006)ことが明らかになっている.QOLの概念には,居住環境を含む環境の要素が含まれており(WHO, 1997),希望する死亡場所で最期を迎えることは,終末期がん患者のQOLを高めるうえで必要なことである.

希望死亡場所での死亡の実現のための文献は,自宅死亡の実現をアウトカムとして研究されているものがほとんどであり,このうち阻害要因として,家族の負担および急変時の不安(厚生労働省,2008),知識不足(伊賀瀬ら,2007),医療・介護の認識(佐藤ら,2007),介護者の状態(伊木ら,2001)があり,促進要因として,往診医の存在(田宮ら,1990),患者・家族が予後を理解していること(谷口・松浦,2005),患者が希望を表明すること(Fukui et al., 2003),患者と家族の希望が一致していること(Ikezaki & Ikegami, 2011),医療従事者が患者や家族の希望を確認していること(Degenholtz et al., 2004)があげられていた.

また,医療従事者が希望死亡場所を確認する前提として「病名の告知」「不治の告知」「余命の告知」があげられ,これらが自宅死亡の実現(谷口・松浦,2005)につながっている知見が示されていることから,患者への告知が必要であるといえる.ところが,患者への病名の告知は進んできているものの,治癒の見込み,余命予測は告知が進んでおらず(田代ら,2013),終末期がん患者の希望死亡場所の確認をしていくうえでも影響している可能性がある.このことから,終末期がん患者の希望死亡場所での死亡の実現には,医師による余命の告知の有無を確認し,必要な場合には看護師が医師に余命の告知を促し患者・家族に予後理解を促すこと,希望を確認すること,といった意思決定支援を実践することが重要である.

終末期の意思決定支援としてアドバンスケアプランニング(Advance Care Planning;以下ACP)に関して,欧米では1990年代からその必要性が注目され,終末期がん患者の自宅死亡実現(Abel et al., 2013Stein et al., 2013),患者のQOL向上(Detering et al., 2010),抑うつの減少(Bakitas et al., 2009)といった介入研究による有効性が明らかにされている.一方,日本では,ACPは2010年頃よりがん医療の領域で用いられ始めたが,このような介入研究は無く,ACPの重要性が指摘され始めたところである(木澤,2012西川ら,2011).これら2文献ではACPの要素として終末期の場所をあげており,日本においては,終末期の療養場所に関する知識を提供して,希望死亡場所を確認してゆくことが求められていると考えられるため,本研究はACPを,予後理解を促す支援および希望死亡場所の確認と調整と定義した.

これまで,患者・家族に予後理解を促すための要因として,看護経験および職場環境(Cohen & Nirenberg, 2011),予後理解を促す支援の認識(Li et al., 2008),希望死亡場所を確認するための要因として,人間関係の構築(Munday et al., 2009),患者の病状・介護への不安および家族関係(早瀬・森下,2008)が明らかになっている.しかし,ACPの実態は明らかになっておらず,ACPの知見を集積する必要がある.加えて,終末期がん患者の希望死亡場所は,一度決めても変化する(葛西,2006)ため,ACPがどのような時期に行われているのかを明らかにする必要がある.しかし,訪問看護師によるACPの実態を経時的に捉えた研究は見当たらない.そこで,本研究は訪問看護師が終末期がん患者に対して訪問時期別に実践するACPの実態を把握し,患者の希望死亡場所での死亡の実現との関連を明らかにすることを目的とした.

Ⅱ. 研究方法

1. 調査方法

調査対象は,全国訪問看護事業協会正会員リスト(2015年6月30日現在)に掲載されている全4,255事業所より無作為抽出した1,000事業所において,3週間以上自宅で過ごし,自宅または病院で死亡した終末期がん患者(対象が複数の場合は,直近で死亡した患者)を担当した訪問看護師とした.調査対象に,これら患者の状態と対応に関する郵送法による無記名式質問紙調査を実施した.同時に,対象者不在の場合にはFAXの返送を依頼した.データ収集期間は,2015年7月から8月であった.

2. 調査項目

1) 希望死亡場所での死亡の実現

従属変数である希望死亡場所での死亡の実現の有無については,訪問看護師が最後に患者に確認できた時点での希望死亡場所(自宅,病院,施設)と,実際の死亡場所が一致したかどうかで判断した.

2) 訪問看護師が実施するACP

訪問看護師が実施するACPについて,文献検討(Degenholtz et al., 2004Fukui et al., 2003Ikezaki & Ikegami, 2011谷口・松浦,2005)より構成要素を抽出し,がん患者の自宅看取りの経験がある訪問看護師に臨床的妥当性のある構成要素に洗練させるためのインタビューを実施し,次のように作成した.1.予後理解を促す支援として①余命告知の確認,②未告知の対応(医師からの余命の告知を受けていないとき,医師に対して説明をするよう依頼し,患者に説明することを拒否する家族に対して必要性を理解できるように働きかけること),③余命の理解度の確認,④生活予後の説明(その方らしく最期を迎えるために,終末期がん患者の病期が進むことによって生じる,看取りまでに起こる生活上への支障を含めた生命に関する見通しについて,患者および家族が理解できるように伝えること),2.希望死亡場所の確認と調整として①希望死亡場所の確認,②家族調整(患者および家族の希望死亡場所の不一致がある場合に,家族に対して何らかの支援を行うこと).

各構成要素を質問項目として示し,1-③余命の理解度の確認,1-④生活予後の説明,および2-①希望場所の確認については,どのような時期に支援が行われているのかを明らかにするために,「訪問初期」「悪化期」「臨死期」の訪問時期別に支援の実施の有無を尋ねた.その他の構成要素に関しては,訪問全期間を通じての実施の有無を尋ねた.なお,「訪問初期」とは,訪問開始から1週間の時期とし,「悪化期」とは,食事・意識状態・呼吸状態の変化,活動性の低下(歩行困難,痛みの増強)などの終末期の症状悪化が表れはじめてから1週間の時期(山田ら,2008)とし,「臨死期」とは,最後の入院時または自宅死亡前の1週間の時期とした.

3) 希望する場所での死亡が実現するための関連要因(調整変数の候補)

本研究では,Gomes & Higginson(2006)の概念モデルを応用し,看護師要因,医師要因,患者・家族要因の3側面から包括的に検討することとした.看護師要因は①属性(年齢,性別),②経験(訪問看護の経験年数,終末期がん患者の自宅看取り経験)(Cohen & Nirenberg, 2011),③人間関係の構築(患者と訪問看護師との関係性)(Munday et al., 2009),④予後理解を促す支援の認識(予後理解を促す支援の役割認識,患者への説明の必要性)(Li et al., 2008)とした.医師要因は①自宅看取りの知識・経験(症状コントロール力),②自宅看取りへの姿勢とした.患者・家族要因は①属性(年齢,性別),②病状・状態(原発部位,症状コントロールの程度,患者および家族の自宅療養の不安,介護負担感)(厚生労働省,2008),③家族関係(患者と家族との関係性)(早瀬・森下,2008),④終末期への姿勢(患者のがん治癒に向けた治療への姿勢,患者の病院医療の限界についての理解)(佐藤ら,2007),⑤告知(患者への余命の告知)(谷口・松浦,2005),⑥社会資源の活用(訪問診療医の存在)(田宮ら,1990)とした.

3. 分析方法

まず,希望死亡場所での死亡の「実現あり」「実現なし」と,希望する場所での死亡が実現するための関連要因を単変量解析(χ2検定,フィッシャーの正確確率検定,Mann-Whitney検定のいずれか)で分析した.次に,希望死亡場所での死亡の「実現あり」「実現なし」を従属変数,ACPの各構成要素を独立変数,単変量解析でP < .10の関連のみられた変数を調整変数として強制投入し,ロジスティック回帰分析を実施した.なお,各変数間の多重共線性はVIF(Variance Inflation Factor:分散拡大要因)を確認したうえで変数として投入した.有意水準は両側5%とし,分析ソフトはSPSS ver. 17.0を用いた.

また,日本赤十字看護大学の研究倫理審査委員会の承認(第2015-66)を受けた.調査票は個人情報を含まない質問内容とし,研究への参加と同意は,調査票の返送をもって得られることとした.

Ⅲ. 結果

1. 訪問看護師,医師および患者の概要

1,000通郵送し,259通の回答が得られた.対象者不在71件を含む不達等が計107通見られたため,回収率は29.0%であった.1事業所につき最大2事例の調査を依頼した結果,376名分の回答が得られ,未回答の多かった2名を除いた374名を分析対象とした.

訪問看護師の特性は,女性95.2%,平均年齢48.0 ± 7.8歳であった(表1).回答が得られた施設と,対象者不在との返答のあった施設を比較すると,看護師平均常勤換算数が各6.3 ± 5.4人,4.4 ± 1.9人であり,回答が得られた施設で有意に多かった(P < .001).患者の特性は男性53.5%,平均年齢74.7 ± 13.6歳,訪問診療医ありは78.9%,訪問初期に余命の告知があったのは29.4%であった(表1).

表1 希望する場所での死亡が実現するための看護師,医師,患者・家族要因
全対象者 希望死亡場所実現 希望死亡場所非実現 χ2/z値(df) P
n = 374 n = 276 n = 98
【看護師要因】
①属性
年齢(平均±SD) 48.0 ± 7.8 48.3 ± 7.8 47.1 ± 7.8 1.742 .081a
性別
男性 9(2.4) 4(1.4) 5(5.1) .060b
女性 356(95.2) 264(95.7) 92(93.9)
不明 9(2.4) 8(2.9) 1(1.0)
②経験
訪問看護の経験年数(平均±SD) 9.6 ± 6.1 9.7 ± 6.3 9.3 ± 5.6 0.307 .759a
終末期がん患者の自宅看取り経験
1年間5人以上 113(30.2) 87(31.5) 26(26.5) 0.854(1) .355
③人間関係の構築
患者と訪問看護師との関係性c 3.9 ± 0.9 4.0 ± 0.8 3.7 ± 0.9 2.737 .006a
④予後理解を促す支援の認識
予後理解を促す支援の役割認識d
看護師が実施すべき 47(12.6) 34(12.3) 13(13.3) 0.059(1) .808
患者への説明の必要性の認識e 4.3 ± 0.9 4.2 ± 0.9 4.3 ± 0.9 0.638 .523a
【医師要因】
①自宅看取りの知識・経験
症状コントロール力良好f 169(45.2) 131(47.5) 38(38.8) 2.204(1) .138
②自宅看取りへの姿勢
自宅看取りへの姿勢良好g 232(62.0) 176(63.8) 56(57.1) 2.316(1) .128
【患者・家族要因】
①属性
年齢(平均±SD) 74.7 ± 13.6 74.3 ± 13.9 75.8 ± 12.5
75歳未満 160(42.8) 121(43.8) 39(39.8) 0.483(1) .487
性別
男性 200(53.5) 146(52.9) 54(55.1) 0.118(1) .732
女性 173(46.3) 129(46.7) 44(44.9)
不明 2(0.5) 1(0.4) 1(1.0)
②病状・状態
原発部位
胃,大腸,直腸,食道 107(28.6) 84(30.4) 23(23.5) 1.718(1) .190
70(18.7) 48(17.4) 22(22.4) 1.216(1) .270
肝臓,胆のう,膵臓 69(18.4) 44(15.9) 25(25.5) 4.401(1) .036
乳,子宮,卵巣 46(12.3) 37(13.4) 9(9.2) 1.195(1) .274
前立腺,膀胱,腎臓 23(6.1) 19(6.9) 4(4.1) 0.984(1) .321
その他 57(15.2) 43(15.6) 14(14.3)
臨死期の疼痛コントロールの程度h 3.6 ± 1.3 3.6 ± 1.3 3.5 ± 1.4 0.545 .586a
臨死期の呼吸困難コントロールの程度h 3.5 ± 1.4 3.5 ± 1.4 3.7 ± 1.3 1.419 .156a
臨死期の患者の自宅療養の不安i 2.7 ± 1.4 2.6 ± 1.4 2.9 ± 1.4 2.083 .037a
臨死期の家族の自宅療養の不安i 3.3 ± 1.5 3.1 ± 1.5 3.7 ± 1.4 3.497 <.001a
臨死期の介護負担感j 3.7 ± 1.3 3.6 ± 1.3 3.9 ± 1.2 2.613 .009a
③家族関係
患者と家族との関係性k 4.0 ± 1.1 4.0 ± 1.1 4.1 ± 1.1 1.199 .231a
④終末期への姿勢
臨死期の患者のがん治癒に向けた治療への姿勢l 4.4 ± 1.0 4.5 ± 0.9 4.0 ± 1.1 3.821 <.001a
患者の病院医療の限界についての理解mあり 105(28.1) 87(31.5) 18(18.4) 6.197(1) .013
⑤告知
訪問初期の患者への余命の告知あり 110(29.4) 91(33.0) 19(19.4) 6.427(1) .011
⑥社会資源の活用
訪問診療医あり 295(78.9) 221(80.1) 74(75.5) 1.397(1) .237

P値にaと提示したものはMann-Whitney検定,bと示したものはフィッシャーの正確確率検定,それ以外はχ2検定を用いた.c:患者と訪問看護師の関係性:全く構築できなかった1点~とてもできた5点の5件法で評価.d:予後理解を促す支援の役割認識:医師が実施すべき・医師と看護師が共に実施すべき・看護師が実施すべきを,それぞれ全くそう思わない1点~非常にそう思う5点の5件法で評価し,看護師が実施すべきを一番強く評価したもの.e:患者への説明の必要性の認識:全くない1点~とてもある5点の5件法で評価.f:症状コントロール力:3件法で尋ね,優れている/どちらともいえない・優れていないで2群に分けた.g:自宅看取りへの姿勢:3件法で尋ね,積極的/どちらともいえない・積極的ではないで2群に分けた.h:症状(呼吸困難・疼痛)コントロールの程度:良好5点~不良1点の5件法で評価.i:臨死期の患者/家族の自宅療養の不安:弱い1点~強い5点の5件法で評価.j:臨死期の介護負担:低い1点~高い5点の5件法で評価.k:患者と家族との関係性:「患者は家族にどの程度率直に希望を伝えているか」全く率直でない1点~とても率直であるの5点の5件法で評価.l:患者の患者のがん治癒に向けた治療への姿勢:治療を希望1点~緩和ケアを希望5点の5件法で評価.m:患者の病院医療の限界についての理解:3件法で尋ね,あり「理解していた」/なし「理解していない・不明」で2群に分けた.

2. 訪問看護師が実施した訪問時期別のACPの実態と希望死亡場所での死亡の実現との関連

患者の最終的な希望死亡場所は自宅60.4%,病院20.3%,施設1.6%,患者の死亡場所は自宅65.0%,病院33.4%,施設1.6%であった.訪問時期により,36.9%の患者は希望死亡場所が変化していた.最終的な希望死亡場所での死亡が実現した患者は,73.8%であった.

訪問看護師が実施したACPは,余命の告知の確認79.7%,未告知の対応8.7%,訪問全時期を通じて余命の理解度の確認45.5~49.7%,生活予後の説明27.8~31.8%,希望死亡場所の確認79.4~82.4%,家族調整37.6%であった(表2).

表2 訪問看護師が実施したACPと希望死亡場所での死亡の実現との関連(単変量解析)
全対象者 希望死亡場所実現 希望死亡場所非実現 χ2値(df = 1) P
n = 374 n = 276 n = 98
1.予後理解を促す支援
①余命告知の確認あり 298(79.7) 222(80.4) 76(77.6) 0.371 .542
②未告知(n = 264)の対応あり 23(8.7) 20(11.1) 3(3.6) 2.437 .066
③余命の理解度の確認あり
訪問初期 184(49.2) 150(54.3) 34(34.7) 11.177 .001
悪化期 186(49.7) 152(55.1) 34(34.7) 12.014 .001
臨死期 170(45.5) 143(51.8) 27(27.6) 17.168 <.001
④生活予後の説明あり
訪問初期 104(27.8) 88(31.9) 16(16.3) 8.719 .003
悪化期 119(31.8) 104(37.7) 15(15.3) 16.690 <.001
臨死期 107(28.6) 94(34.1) 13(13.3) 15.308 <.001
2.希望死亡場所の確認と調整
①希望死亡場所の確認あり
訪問初期 297(79.4) 257(93.1) 40(40.8) 120.992 <0.001
悪化期 308(82.4) 263(95.3) 45(45.9) 121.301 <0.001
臨死期 303(81.0) 271(98.2) 32(32.7) 201.956 <0.001
②家族調整(n = 117)あり 44(37.6) 13(54.2) 31(33.3) 3.529 .060

χ2検定

ACPが希望死亡場所での死亡の実現に関連しているかどうかを検証した.余命の理解度を確認すること(訪問初期,悪化期,臨死期;P = .001,P = .001,P < .001),生活予後の説明を実施すること(訪問初期,悪化期,臨死期;P = .003,P < .001,P < .001),希望死亡場所の確認をすること(訪問初期,悪化期,臨死期;P < .001,P < .001,P < .001)には有意な関連が認められた.余命の告知を確認することには関連がみられなかった(P = .542).訪問初期に余命の告知がなかった204名の患者に対して,未告知の対応をすること(P = .066)および患者と家族の希望死亡場所の不一致があった117名の家族に対して何らかの支援を行う家族調整をすること(P = .060)には,関連する傾向が認められた(表2).

希望死亡場所での死亡の実現について,交絡要因を補正してACPの構成要素との関連を検証するために,訪問時期別に,ACPの各構成要素と調整変数を強制投入してロジスティック回帰分析を実施した.なお,各変数間の多重共線性は認められなかった.関連したのは,「訪問初期」は希望死亡場所の確認をすること(調整済オッズ比:95%信頼区間19.92:9.48–41.87),「悪化期」は生活予後の説明をすること(2.44: 1.05–5.66),および希望死亡場所の確認をすること(21.10: 9.53–46.71),「臨死期」は希望死亡場所の確認をすること(187.35: 51.79–677.64)であった(表3).

表3 訪問看護師が患者に対して実施したACPと希望死亡場所での死亡の実現との関連(多変量解析)n = 374
訪問初期 調整済オッズ比 95%信頼区間
下限 上限
患者への余命告知の確認あり 1.34 0.65 2.79
未告知の対応aあり 2.77 0.65 11.75
訪問初期の余命の理解度の確認あり 0.82 0.37 1.81
訪問初期の生活予後の説明あり 1.21 0.55 2.66
訪問初期の希望死亡場所の確認あり 19.92 9.48 41.87
家族調整bあり 0.94 0.47 1.87
Hosmer & Lemeshow:.786,モデルχ2検定:P < .001,判別的中率:84.8%
悪化期
患者への余命告知の確認あり 1.18 0.57 2.45
未告知の対応aあり 1.65 0.42 6.45
悪化期の余命の理解度の確認あり 0.49 0.21 1.16
悪化期の生活予後の説明あり 2.44 1.05 5.66
悪化期の希望死亡場所の確認あり 21.10 9.53 46.71
家族調整bあり 0.86 0.42 1.77
Hosmer&Lemeshow:.634,モデルχ2検定:P < .001,判別的中率:86.0%
臨死期
患者への余命告知の確認あり 1.44 0.62 3.38
未告知の対応aあり 1.03 0.24 4.39
臨死期の余命の理解度の確認あり 0.49 0.15 1.61
臨死期の生活予後の説明あり 1.55 0.56 4.29
臨死期の希望死亡場所の確認あり 187.35 51.79 677.64
家族調整bあり 0.61 0.26 1.42
Hosmer&Lemeshow:.560,モデルχ2検定:P < .001,判別的中率:90.5%

希望死亡場所の実現の有無とP < 0.1の関連のみられた変数で調整し,ACPの構成要素を強制投入しロジスティック回帰分析を実施した.

調整変数は以下の変数である.(1)看護師要因:①年齢,②性別,③患者と訪問看護師との関係性.(2)医師要因:変数なし.(3)患者・家族要因:④原発疾患(肝臓,胆のう,膵臓),⑤臨死期の患者の自宅療養の不安,⑥臨死期の家族の自宅療養の不安,⑦臨死期の介護負担感,⑧臨死期の患者のがん治癒に向けた治療への姿勢,⑨患者の病院医療の限界についての理解,⑩患者への余命の告知

従属変数は希望死亡場所の実現「あり」=1,「なし」=0とした.

a:患者に余命の告知をしていた場合には,未告知の対応ありとした.

b:家族調整は家族に対して実施し,患者と家族の希望死亡場所が一致していた場合には,家族調整ありとした.

Ⅳ. 考察

1. 訪問看護師が実施する患者へのACPの実態

本研究で訪問看護師が実施したACPの実態を調査した結果,生活予後の説明をしたのは27.8から31.8%と少ないことが明らかになった.看護師による予後理解を促す支援の実践状況を調査した研究は,研究者が検索し得た範囲では見当たらないため,先行研究結果と比較することは出来ない.川越(2013)は,「そろそろお迎えがきたのかな」というような理解をする患者には,あえて告知をする必要はないと述べていることから,生活予後の説明をする必要がない患者も存在したと考えられる.また,多くの看護師には終末期患者と接することに対しての困難や,悪い知らせを伝えることに対する苦手意識があり(Munday et al., 2009),生活予後の説明は,患者に対して直接悪い知らせを伝えることになる難しい支援であるため,本研究の結果,この時期の実施の割合が低くなったのではないかと考えられる.さらに,未告知の患者や家族の場合には,看護師は真実を言えない辛さがあり,患者と家族から遠のいてしまう現状にあった(加利川・小河,2013)と指摘している.本研究においても,患者に対して余命の告知がされていたのは29.4%であったことから,訪問看護師による生活予後の説明の割合も低くなっているということが考えられる.しかしながら,がん患者の74.0から96.1%は診断を知りたいと考え(Seo et al., 2000),一般国民の86.1%が診断の完全な開示を望んでいた(Miyata et al., 2005).患者本人は,医療者や家族が考えるよりも病名や余命に関しての正しい情報を知ることを希望したことが窺われる.予後理解を促す支援には,「生命予後」についての側面である医師が行う余命の告知と,終末期における病状が生活上に与える影響の説明である「生活予後」についての側面がある.生活予後の説明は,看護師もその役割を担うことができる支援である.医師からの告知を待つだけではなく,看護師も予後理解を促す支援を実施することが重要であると考える.

訪問看護師による希望死亡場所の確認は,本研究では訪問全時期を通じて79.4から82.4%であった.先行研究では,訪問看護利用者であっても49.0から69.0%と半数以上の患者に希望死亡場所の確認がされていなかった(福本ら,1999樋口ら,2001)という結果と比べると,本研究の結果は高い割合であったといえる.本研究で対象とした訪問看護ステーションは,対象患者が不在であったステーションに比べて看護師の常勤換算数が有意に多く,すなわち職場の規模が大きかった.小規模なステーションであるほど職員一人当たりの訪問件数(医療保険と介護保険の合計数)が少ない(日本看護協会,2008)という報告があることから,本研究で対象とする訪問看護ステーションは,経験を積んだ訪問看護師が多く勤務していることが推測される.実際,本研究の訪問看護師平均経験年数は9.6年と長いものであり,本研究では希望死亡場所の確認の実施割合が高くなっていた可能性がある.

2. 訪問看護師が実施したACPと希望死亡場所での死亡の実現との関連

希望死亡場所での死亡の実現には,「訪問初期」「悪化期」「臨死期」の訪問全時期を通じて希望死亡場所の確認が有意に関連していた.これは,訪問初期から臨死期に至るまで希望死亡場所の確認を行う必要性が示されたということである.終末期がん患者は在宅療養期間が約1ヶ月と短期間(医療経済研究機構,2006)で,死亡1ヶ月前頃になると状態が急激に悪化し,最後の2週頃には多くの介護や処置が必要となる(恒藤,1999).そのため,訪問看護開始と同時に生活上の変化が見られているケースが多いことが予測される.患者の76.6%は,終末期の意思決定が必要な時に意思決定能力を持っていない(Silveira et al., 2010)との報告があることからも,訪問初期から希望死亡場所の確認を実施しないと,患者本人の意思を知ることができない可能性が高くなると考えられる.訪問初期は,患者や家族にとって最も不安が強く(川越,2013),症状も不安定であることが多い.訪問看護師にとっても,患者や家族との人間関係の構築ができていない段階から,症状緩和,療養環境のアセスメントを同時に行わなければならない大変な時期である.患者が希望する死亡場所での死亡の実現を目指したACPを行うためには,訪問初期からACPを行うことの必要性を理解しておくことが重要であると考える.また,終末期がん患者の希望死亡場所は,一度決めても揺れがある(葛西,2006).本研究の結果,患者の36.9%が訪問時期により変化した.希望死亡場所の確認をすることが自宅死亡の実現と関連している(Degenholtz et al., 2004)ことから,患者の希望死亡場所の確認は,訪問初期から繰り返し実施することが必要であることが示唆された.

生活予後の説明は,「悪化期」に実施されることが希望死亡場所での死亡の実現と関連していた.悪化期は,身体の変化,日常生活動作の低下などが急激に起こり,本人および家族もそれを自覚し,不安が生じやすい(川越,2013).杉谷ら(2011)は,死亡場所の意思決定ができていない段階で状態が悪く入院をすると,患者や家族は選択を病院に任せてしまうと述べていることからも,この不安を解消しないままでいると,病院へ入院になり,自宅での療養生活を継続することができずに,自宅死亡を希望していたとしても実現が困難となる可能性がある.しかし,佐藤ら(2011)は,がん患者には臨死期に至るまでに看取りに関する教育が十分になされた場合,臨死期に比較的落ち着いて看取りが可能となると述べている.この看取りに関する教育は生活予後の説明として行われていると捉えられるため,臨死期に至る前の段階である悪化期に生活予後の説明をすることで,希望死亡場所での死亡の実現につながる可能性が考えられる.以上より,看護師は悪化期の症状の変化が起こるタイミングを逃さず,患者や家族の不安の原因となることを予測して生活予後の説明をすることが重要であることが示唆された.

3. 研究の限界と意義

本研究を解釈する上では,回答サンプリングの問題,がん患者のACPへの関心が高いもののみが回答した可能性を考慮する必要がある.また,悪化期に入る前にも訪問看護のかかわりのあるケースに限定して対象としたため,少なくとも3週間自宅で過ごした終末期がん患者を対象とした.そのため,訪問看護提供期間が3週間未満の短期間のケースに関しては結果を適応することができない.

以上の点から一般化には限界があるが,これまでACPのプロセスを,訪問看護師に着目して訪問時期別に捉えた研究は見当たらないことから,ACPの実態および終末期がん患者の希望死亡場所での死亡の実現に寄与するデータを示すことは有意義であると考える.

Ⅴ. 結論

本研究におけるACPは,生活予後の説明の実施は低い割合であった.訪問看護師が実施したACPと終末期がん患者の希望死亡場所での死亡の実現と関連するのは,訪問全時期を通じて希望死亡場所の確認をすること,悪化期に生活予後の説明を実施することであった.

謝辞:本研究は,日本赤十字看護大学大学院博士後期課程の博士論文の一部であり,2014年度学校法人日本赤十字学園「教育・研究及び奨学金基金」助成を受けて行った.本研究に御協力頂きました全国の訪問看護師の皆様に深謝いたします.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:TI,SF,YOは研究の着想およびデザインに貢献;TIは統計解析の実施および草稿の作成;SF,YOは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言.全ての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
 
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