2017 年 37 巻 p. 193-201
目的:新卒看護師のアサーティブネス測定尺度を開発することを目的とした.
方法:質的先行研究と文献研究に基づき,新卒看護師のアサーティブネス尺度の原案を作成した.17病院の新卒看護師1,285人を対象に質問紙調査を実施し,妥当性と信頼性を検証した.
結果:性別によるNNAS原案の総合得点の平均値に差が認められ,女性の有効回答701人を分析対象とした.最尤法,プロマックス回転での因子分析により16項目3因子が抽出された.さらに,確証的因子分析により探索的因子分析で得られた仮説モデルの適合度が確認された.信頼係数は,クロンバックα係数は .81,再テスト法の相関係数 .60,基準関連妥当性の日本版Rathus assertiveness scheduleとの相関係数 –.49であった.
結論:信頼性,妥当性は概ね良好であった.
アサーティブネスとは米国で生まれた概念で,Alberti & Emmons(1986/1994)は「他人の権利を尊重しながら自分の権利を守ることを基本に,無理なく自分を表現するためのコミュニケーション能力」と定義し,アサーティブネス・トレーニングを健常者の訓練として体系化した.
看護の領域においても研究が積み重ねられており,Crosley(1980)やLee & Crockett(1994)は,看護師がアサーティブネスを習得することで効果的に仕事ができるようになると指摘している.
新卒看護師のアサーティブネスは,リアリティショック(糸嶺ら,2006)や職業コミットメント(吾妻・鈴木,2007),バーンアウト(Suzuki et al., 2006)との関連が報告されている.さらに「新卒看護師がアサーティブになれず,不安が口にできないと,自信がないのに一人で業務を行ってしまうことが予想され,医療事故の危険が高い状況が生じる可能性がある」,との報告(鈴木ら,2014)もある.したがって,新卒看護師のアサーティブネスを高めることが望まれる.
アサーティブネスの評価尺度の研究も行われており,野末・野末(2001),勝原・増野(2001),増野・勝原(2001)は,看護師のアサーション・トレーニングプログラム及びアサーティブネス尺度を開発している.しかし,勝原・増野の尺度は信頼性の検証のみで妥当性は検証されておらず,野末・野末は,質問紙の内容を公開していない.また,日本にアサーティブネスの概念が導入されてから(平木,1993,p. 24–25)久しいがわが国においては信頼性,妥当性が検証され総合得点でアサーティブネスを捉える尺度は見当たらなかった.
そこで,われわれは世界での使用頻度が最も高いRathus assertiveness schedule(Rathus, 1973)の日本版であるJ-RASを開発(鈴木ら,2004)し,新卒看護師のアサーティブネスがバーンアウトの影響要因であること,新卒看護師においては,アサーティブネスが高くても低くてもバーンアウトしやすいことを明らかにした(Suzuki et al., 2006,2008).しかし,アサーティブネスは,国,年齢,場,相手によって違うと言われている(鈴木,2006).J-RASは,外国のアサーティブネス尺度の日本版であり,文化の差があると思われ,さらに,質問項目が「レストランにおいて……」のように全て日常における事例で作成されているため,職場での日本の新卒看護師の自己表現は測定できないと危惧された.
また,新卒看護師のアサーティブ得点が低い(鈴木,2006)ことも報告されている.社会人として一歩を踏み出した新卒看護師のコミュニケーションは重要であり,新卒看護師の態度やコミュニケーションのあり方を把握し,これを改善する施策を構築するために,新卒看護師に特化したアサーティブネスの評価尺度が必要であると考えた.日本人のアサーティブネスは他国に比べ低い(鈴木,2006)ことが報告されている.また,日本には,和を大切にし,曖昧で,「察し」の文化があり(阿部,2002;宮脇,1999),本音を率直に表現するよりも,敢えて本音を言わない曖昧な自己表現によって,他者に察してもらうことが適切な場合もある.曖昧で,相手の気持ちや意図を察しコミュニケーションをとる場合,どのようなコミュニケーションをアサーティブとするのか,日本人特有のアサーティブネスとは何か,どの程度察すればいいのか,どの程度の曖昧さが求められるのか,相手や状況にも左右されるので,これを捉えることは困難であると思われた.したがって,従来にない視点でアプローチすることを試みた.
われわれはアサーティブでないという逆方向からアサーティブネスを捉えることを目指した.そして,職場での新卒看護師のアサーティブネスを評価する尺度を開発するために,まず,先行研究の質的研究により日本の新卒看護師がアサーティブになれない状況を明らかにし報告した(鈴木ら,2014).
本研究では,新卒看護師のアサーティブネス向上を意図し,アサーティブになれない状況を基に新卒看護師のアサーティブネス評価尺度を開発する.
質問項目は,以下の手続きで作成した.
1) アサーティブネスの定義平木(1993)は,「お互いを大切にしながら,それでも率直に,素直にコミュニケーションをすることをアサーションという」と記述しており,鈴木(2014)は,「相手を不愉快にさせることなく,自分の気持ちを表現し,折り合いをつけ,問題解決に向け自己主張すること」と記述している.しかし,自記式質問紙においてお互いを大切にしているか,相手が不愉快にならないかの測定は困難である.本研究では,「アサーティブネスとは,自分の気持ちや意見を率直に適切に伝えることのできるコミュニケーション能力」と定義した.
そして,本研究のアサーティブネスの定義とは逆である「自分の気持ちや意見を率直に適切に伝えることのできないコミュニケーション」を捉え,アサーティブネスとは逆方向からアサーティブネスを評価することを試みた.
2) 質問項目の概要Rathus(1973)は,アサーティブネスの尺度(Rathus Assertiveness schedule: RAS)作成における過程では,大学生に依頼して「行動したかったけれど社会的結果を恐れて行動しなかったこと」の記録を日記としてつけてもらい,それを参考にしたと報告している(Rathus, 1973).われわれは,これを参考にして,先行研究の質的調査で新卒看護師のアサーティブになれない状況を明らかにし報告した(鈴木ら,2014,2012).これは,新卒看護師が職場で①言いたかったけれど言えなかった,断りたかったけれど断れなかった状況(以後:言えなかった状況)②言わなければよかった,押しつけなければよかった状況(以後:言わなければよかった状況)である.この研究において得られた内容を1文脈1単位でそれぞれの文脈について,意味内容の類似したものについてまとめ,カテゴリーとサブカテゴリーに分類して9カテゴリー(言えなかった状況)と4カテゴリー(言わなければよかった状況)を得た.これを基に,素データの表現や先行研究などを参考にし,複数の研究者で議論を重ね,サブカテゴリー内の事例項目数が多く,業務中によく起こると考えられる状況の項目を中心に各カテゴリーから1~2項目を選定し,全23項目の質問文からなる「新卒看護師のアサーティブネス尺度Novice nurses assertiveness scale」(以下,NNAS)の原案を作成した.この際,「言わなければよかった」状況はその性質上逆転項目にしないと表現しにくい,さらにアサーティブネスを逆方向から捉えているため,少しでも理解しやすくするため「言わなければよかった」状況の全てを逆転項目(質問項目:2,10,11,12,13,14)とした.これにより,得点が低いほど「言わなければよかった」すなわち「言い過ぎる」,得点が高いほど「言えなかった」すなわち「言えない」とした.
回答はJ-RASと同様の回答法を採用した.6件法で,1点:まったくわたしの特徴とは異なり,まったく当てはまらない,2点:かなりわたしの特徴とは異なり,当てはまらない時の方が多い,3点:どちらかというとわたしの特徴と異なり,どちらかと言えば当てはまらない,4点:どちらかというとわたしの特徴に近く,どちらかと言えば当てはまる,5点:かなりわたしの特徴に近く,かなり当てはまる,6点:まさにわたしの特徴そのものであり,きわめて当てはまる,とした.
先行研究の新卒看護師の記述したアサーティブになれない状況の事例を,特別な状況から一般的に起こり得るように抽象化し,質問文を作成した.質問文から読み取れる意味と,それが類別されるカテゴリーとの一致の程度を見るテストを2015年6月~7月に看護師経験者10人を対象に実施した.一致率が低い質問文や,わかりにくい表現,回答しにくい項目の表現の削除と追加,修正を繰り返し,抽象度を上げながら再度ワーディングを行ったうえで再調査をすることを重ねた.カテゴリーごとの一致状況が過半数となり,わかりにくい質問文の表現を改訂したうえで,23の質問項目の作成作業を終了した.
2. 調査方法2015年9月~11月に関東東海地方の大学病院と関連病院12と国立病院機構5病院に勤務する新卒看護師1,285人を対象として,自記式質問紙調査を実施した.再テストは,9月初旬に17病院のうち共同研究者の勤務する関連病院の3病院(349人)に依頼した.Carmines & Zeller(1979/1983)によると本テスト-再テストは2から4週間後がよいとされるため,1回目の調査から約3週間後に,再調査を行った.1回目と2回目のデータは,生年月日により照合した.
3. 調査内容 1) 対象者の属性生年月日,性別,実務職種,最終学歴,配偶者および子どもの有無とした.
2) アサーティブネス質的先行研究と文献研究に基づき,新卒看護師のアサーティブネス尺度の23項目の原案を作成した.回答は6件法とした.
3) 基準関連妥当性基準関連妥当性を分析するために日本版Rathus assertiveness schedule(以下J-RAS)を使用した.J-RASは,鈴木ら(2002年11月)がAssociation for Advancement of Behavior Therapyから許可を得て作成したもので,原版は1973年にRathusが開発した全30項目の評価尺度RASである(Rathus, 1973).鈴木ら(2004),Suzuki et al.(2007),鈴木ら(2007)は,異なった対象において信頼性,妥当性を検証している.J-RASは,原版同様,全30項目からなり,合計得点は–90~90で,点数が高いほどよりアサーティブであることを表す.
4. 分析方法 1) 項目分析とkaiser-Meyer-Olkinの標本妥当性度数分布と記述統計量の確認,平均値と標準偏差の算出,相関分析(IT相関の基準0.3),kaiser-Meyer-Olkinの標本妥当性を検証した.
2) 構成概念妥当性構成概念妥当性を検討するために,取り上げた項目で患者に対するアサーティブの概念が説明されているかどうかを10名の研究者で検討した.また,1回目の調査結果で探索的因子分析を用い,最尤法,プロマックス回転を施した.因子固有値1.0以上,因子負荷量0.4以上,さらに,探索的因子分析で得られた仮説モデルの適合度を確証的因子分析により確認した.
3) 基準関連妥当性基準関連妥当性の検証はNNASの総合得点とJ-RASの総合得点との関係性を検討するため,J-RASとのPearsonの相関係数を求めた.
4) 信頼性の検証 (1) 内部一貫性(内的整合性)1回目の調査結果のクロンバックα係数を求めた.
(2) テスト再テスト法1回目の調査から3週間後に2回目の調査を行い,テスト-再テスト法でPearsonの相関係数を求めた.また,1回目の有効回答者のうち2回目の有効回答者を除いた群と2回目の有効回答者とのNNAS,年齢,実務職種,最終学歴,婚姻の有無,子どもの有無を比較した.平均の差はt検定,率の差はχ2検定を行った.
5. 倫理的配慮対象医療機関の看護部管理者に,研究の趣旨(研究の意義,倫理的配慮,データを本研究以外に用いないこと等)を文書と口頭にて説明し同意を得て,病棟師長を通じて無記名の質問紙を看護師に配布するよう依頼した.対象看護師には,配布文書にて研究の目的,方法,倫理的配慮について説明し,結果公表に際しての匿名性を保証した.また,データは本研究の目的以外には使用しないこと,参加・不参加・中止は自由であり,参加の拒否や,同意後の中止などによる不利益は一切ないこと,回収袋への投函をもって同意とさせていただく旨を説明した.さらに,ヘルシンキ宣言及び文部科学省の疫学研究に関する倫理的基本指針に基づき,細心の注意を払うことを約束し,質問紙は封をしたうえで設置した回収袋に入れるように依頼した.その折,不同意の場合には回収袋への投函の義務はなく,白紙での投函も可能であることを伝えた.本研究は,国際医療福祉大学倫理委員会の審査を受け,承認を得た(2015年10月20日,承認番号15-Ig-62).
1回目の調査の回収数は857人,回収率66.7%であった.性,NNASの原案に欠損や重複がないものを有効回答とした.有効回答は774人(60.2%)であった.男性63人(8.1%),女性701人(90.6%),不明10人(1.3%)であり,NNAS原案の平均は男性64.1点,女性67.4点で有意な差が認められた(P < .05).このため女性の新卒看護師701人を分析対象とした.対象者の属性を表1に示した.女性701人の平均年齢22.7 ± 3.0歳(Mean ± SD),最低年齢は18歳,最高年齢は45歳であった.実務職種は,9割以上が看護師であり,最終学歴は,看護専門学校卒が6割近かった.殆どの者が子どもはいなかった.
全数 | N = 701 | 2回目有効回答者を除いた者 | N = 565 | 2回目調査参加有効回答者 | N = 136 | |||
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項目 | ||||||||
NNASの平均とSD(16項目) | 67.43 | ±10.11 | 67.59 | ±10.28 | 66.74 | ±9.34 | ||
年齢の平均とSD | 22.69 | ±3.00 | 22.56 | ±2.69 | 23.22 | ±4.04 | ||
実務職種 | ||||||||
看護師 | 657 | (93.7%) | 533 | (94.3%) | 124 | (91.2%) | ||
保健師 | 2 | (0.3%) | 1 | (0.2%) | 1 | (0.7%) | ||
助産師 | 33 | (4.7%) | 23 | (4.1%) | 10 | (7.4%) | ||
不明 | 9 | (1.3%) | 8 | (1.4%) | 1 | (0.7%) | ||
最終学歴 | ** | |||||||
看護専門学校卒 | 414 | (59.1%) | 350 | (61.9%) | 64 | (47.1%) | ||
看護系短期大学卒 | 84 | (12.0%) | 44 | (7.8%) | 40 | (29.4%) | ||
看護系大学卒 | 134 | (19.1%) | 118 | (20.9%) | 16 | (11.8%) | ||
看護系大学院卒 | 2 | (0.3%) | 2 | (0.4%) | 0 | (0.0%) | ||
5年一貫過程 | 56 | (8.0%) | 43 | (7.6%) | 13 | (9.6%) | ||
他の学部の短大,大学卒 | 9 | (1.3%) | 7 | (1.2%) | 2 | (1.5%) | ||
不明 | 2 | (3.0%) | 1 | (0.2%) | 1 | (0.7%) | ||
配偶者 | ||||||||
有 | 11 | (1.6%) | 11 | (1.9%) | 0 | (0.0%) | ||
無 | 680 | (97.0%) | 544 | (96.3%) | 136 | (100.0%) | ||
不明 | 10 | (1.4%) | 10 | (1.8%) | 0 | (0.0%) | ||
子供 | ||||||||
有 | 14 | (2.0%) | 8 | (1.4%) | 6 | (4.4%) | ||
無 | 676 | (96.4%) | 547 | (96.8%) | 129 | (94.9%) | ||
不明 | 11 | (1.6%) | 10 | (1.8%) | 1 | (0.7%) |
**: P < 0.01, SD, standard deviation
2回目の調査対象は349人であり,回収数は184人(52.7%)であった.女性の有効回答は136人(39.0%)であった.
1回目の有効回答者のうち2回目の有効回答者を除いた群565人と2回目の有効回答者136人とのNNAS 16項目,年齢,実務職種,最終学歴,婚姻の有無,子どもの有無を比較した結果,最終学歴のみ有意差が認められた(表1).
各項目の平均値と標準偏差を計算し,天井効果及びフロア効果のみられる項目がないことを確認した.相関分析により,全体得点と項目得点の相関の低い0.3未満の6項目を確認した.さらに,kaiser-Meyer-Olkinの標本妥当性は最終16項目で基準値は .86であった.
1回目の調査において最終16項目でのNNASの平均得点は,67.4 ± 10.1(Mean ± SD)点,最小値32.0点,最大値96.0点であった.
2. 妥当性の検証 1) 探索的因子分析(表2)23項目での因子分析の結果,回転前固有値1.0以上の5因子を抽出した.5因子で累積固有値寄与率は,42.90%であった.スクリュープロットで3因子に絞り込み,因子分析とクロンバックα係数算出を複数回行い,①因子負荷量が低い(0.4未満)もの,因子負荷量が2因子にまたがるもの,②クロンバックα係数を下げる(0.6未満)質問を再検討し,質問7項目を削除して全16項目となった.この削除した7項目の中に,相関分析で確認したIT相関の低かった6項目も含まれていた.16項目での回転前の累積固有値寄与率は,42.67%であった.削除したものは,表2の下欄に示した.
質問番号 | 質問項目 α = .81 | 抽出因子 | ||||
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第1因子 | 第2因子 | 第3因子 | 共通性 | |||
第1因子:他者からの不当評価を甘受する率直でない受け身的自己表現 α = .85 | ||||||
15 | 私は,他の人のミスを私のミスにされたとしても何も言うことが出来ない | .75 | –.01 | –.07 | .50 | |
5 | 私は,誤解されても訂正できない | .73 | –.04 | –.01 | .52 | |
7 | 私は,人格を否定されたと感じることがあっても何も言えない | .68 | .05 | .14 | .60 | |
8 | 私は,仕事ができないから一緒に仕事をしたくないと言われても何も言えない | .61 | .08 | .14 | .52 | |
16 | 私は,私的な依頼をされて,業務と関係ないと思っても何も言えない | .61 | –.06 | .11 | .46 | |
9 | 私は,面と向かって侮辱されても,何も言えない | .43 | .14 | .22 | .38 | |
第2因子:自己権利優先の適切でない拒否的もしくは攻撃的自己表現 α = .76 | ||||||
14 | * | 私は,しつこく指導されると無視する | –.18 | .75 | .15 | .62 |
10 | * | 私は,責められていると思うと反抗的な態度になる | .03 | .68 | –.07 | .45 |
13 | * | 私は,依頼された仕事を一方的に拒否したことがある | –.18 | .66 | .18 | .50 |
11 | * | 私は,業務量が多いと思うと不満そうな顔をする | .07 | .57 | –.24 | .31 |
2 | * | 私は,指導に対して納得できない時には反発する | .30 | .49 | –.14 | .28 |
12 | * | 私は,勤務時間外の自由を拘束されそうになったら,従わない | .12 | .48 | –.03 | .24 |
第3因子:他者への配慮優先の率直でない非主張的自己表現 α = .69 | ||||||
4 | 私は,他の人の仕事のやり方に疑問をもっても,間違いを指摘できない | .07 | –.10 | .61 | .42 | |
6 | 私は,他の人の患者に対する態度に問題を感じても何も言えない | .14 | –.05 | .58 | .45 | |
1 | 私は,多大な業務量を行うように依頼された時に,断りたくても断れない | .05 | .11 | .50 | .31 | |
3 | 私は,自信がない業務をやるように言われても,断れない | .15 | –.10 | .43 | .28 | |
因子相関 | 1.00 | .03 | .62 | |||
.03 | 1.00 | .21 | ||||
.62 | .21 | 1.00 |
*は逆転項目
削除した質問項目
・私は,自分の看護技術で自信がないとき,先輩に自分の技術があっているか確認してもらいたくても言えない
・私は,指導内容を理解しているかと聞かれたとき,理解していなくても「はい」と答える
・私は,A先輩に教えてもらった通りにして,別の先輩に「違う!」と叱られても,A先輩に教えてもらったとは言えない
・私は,心にもなく「すみません」と言う
・私は,ちょっとした言い合いでも,声が大きくなる
・私は,自分のミスを指摘されたとき言い訳をする
・私は,強く叱責されたり,ひどい言い方をされたら,ふてくされる
16項目での因子抽出を行った結果,3因子が抽出された.回転後の負荷量平方和は第1因子3.68,第2因子2.36,第3因子2.95であった.
第1因子は,相手からミスを押し付けられた,誤解された,人格を否定された,一緒に仕事をしたくないと言われた,私的な依頼をされた,侮辱されたなど相手から不当評価され,納得できない相手の対応を甘受して何も言えず率直でない対応であるため,「他者からの不当評価を甘受する率直でない受け身的自己表現」とした.第2因子は,無視する,拒否する,従わない,反抗的な態度になる,不満そうな顔をする,反発するなど,相手に対する不適切な拒否的もしくは攻撃的な対応であるため「自己権利優先の適切でない拒否的もしくは攻撃的自己表現」とした.第3因子は,間違いを指摘できない,問題を感じても何も言えない,断れないなど,自分の意思を伝えられず率直でない対応であるため「他者への配慮優先の率直でない非主張的自己表現」と命名した.
2) 確証的因子分析(図1)探索的因子分析で得られた結果に基づく仮説モデルに,データが合致するかどうか検討するため共分散構造分析を行った.適合度は,GFI = .929,AGFI = .905,RMSEA = .065(P < .01)であった.
新卒看護師のアサーティブネス評価尺度の確証的因子分析
J-RASの平均得点は,–17.8 ± 20.84(Mean ± SD),最小値–77点,最大値46点であり,NNASの総合得点との相関係数は–.49(P < .01)であった.
3. 信頼性の検証全体のクロンバックα係数は .81であり,下位尺度は,第1因子 .85,第2因子 .76,第3因子 .69であった.テスト-再テスト法については,1回目と2回目のテストのPearsonの相関係数は .60(P < .01)であった.
4. 総合得点と下位尺度ごとの得点新卒看護師のアサーティブネス尺度の総合得点は,第1因子6項目,第2因子6項目,第3因子4項目の合計得点とした.本研究は質的先行研究に基づいて,新卒看護師の「言えなかった状況」と「言わなければよかった状況」から質問項目の原案を作成した.本尺度NNASは,全16項目からなり,総合得点は16~96の間を取り,得点が低い者は「言い過ぎる」.得点が高い者は「言えない」と解釈する.また,本研究では「アサーティブネスとは,自分の気持ちや意見を率直に適切に伝えることのできるコミュニケーション能力」と定義した.下位尺度ごとの得点は,定義とは逆の率直でないコミュニケーションの受け身的自己表現,非主張的自己表現の各得点が低く,適切でないコミュニケーションの拒否的もしくは攻撃的自己表現の得点が高いとアサーティブである.
Rathusの開発したRASでは高得点であるほどアサーティブであるとしている(Rathus, 2000).しかし,日本ではRASが高得点であるとアサーティブであるというのは,当てはまらず,RASが高得点では攻撃的と解釈されている(玉井ら,2007).また,日本の新卒看護師では,RAS得点が高すぎる者,低すぎる者はバーンアウトしやすいこと,RAS得点が–10点から10点がアサーティブネス・トレーニングの目標値であると報告されている(Suzuki et al., 2006).しかし,この目標得点がアサーティブとは一概に言えない.
平木(1993)は,自己表現には,3つのタイプ①アサーティブ,②攻撃的,③非主張的があるとしている.玉井ら(2007)は,新人看護師に対する先輩看護師の自己主張態度について研究し,3タイプ①厳しい(やつあたりしたり無視する・指示・激しい口調),②非主張的(指摘せず自分でしてしまうなど),③標準的(納得いくまで話し合うなど)を報告している.
この平木と玉井の概念と本研究の概念は類似している.平木の言う攻撃的,玉井の言う厳しい(やつあたりしたり無視する・指示・激しい口調)は,本研究の拒否的もしくは攻撃的自己主張にあたり,平木と玉井の非主張的は,本研究の受け身的と非主張的にあたると考える.これにより先行研究と比較しても概念は妥当と考える.
本尺度NNASは,先行研究でおこなった質的研究を基に新卒看護師の「言えなかった状況」と「言わなければよかった状況」から質問項目を作成した.全16項目からなり,総合得点は16~96の間を取り,得点が低いほど「言わなければよかった」すなわち「言い過ぎる」,得点が高いほど「言えなかった」すなわち「言えない」とした.
本研究はアサーティブネスを逆からとらえており,アサーティブでない,「受け身的自己表現」,「非主張的自己表現」,「拒否もしくは攻撃的自己表現」の3タイプとする.すなわち,率直でないコミュニケーションの受け身的自己表現,非主張的自己表現の各得点が低く,適切でないコミュニケーションの拒否的もしくは攻撃的自己表現の得点が高いとアサーティブであるとする.
日本には,和を大切にし,曖昧で,「察し」の文化があり(阿部,2002;宮脇,1999),本音を率直に表現するよりも,敢えて本音を言わない曖昧な自己表現によって,他者に察してもらうことが適切な場合がある.この本音と建て前,曖昧で「察する」能力を含めたアサーティブネスの測定は難しいと思われる.本研究では,「受け身的自己表現」,「非主張的自己表現」,「拒否もしくは攻撃的自己表現」の3つの下位尺度と対極であることがアサーティブネスであるとする.
2. 妥当性基準関連妥当性はJ-RASとの相関係数は –.49で,中程度の逆相関であった.これは,J-RASは高得点であるほどアサーティブであるのに対し,NNASは高得点であるほど「言えない」ためである.また,J-RASは外国の尺度の日本版であり,外国の文化的な特性があり,一般人の日常のアサーティブネスを測定するのに対し,NNASは新卒看護師の病棟でのアサーティブネスを測定する尺度であるため,相関係数は妥当であると考える.また,kaiser-Meyer-Olkinの標本妥当性は良好(Kaiser, 1970)であった.探索的因子分析により抽出された3因子により確証的因子分析を行った結果,モデルのGFI,AGFIは,統計学的水準を満たしており(山本・小野寺,2002)良好な適合度であった.RMSEAは .05以下であれば当てはまりがよく .1以上であれば当てはまりがよくないと判断し(豊田,2007),.08以下であれば適合度は高いとされている(山本・小野寺,2002).本研究では .065であったことから適合度は概ね良好であった.
3. 信頼性クロンバックα係数は,全体および第1因子は高かった.第2因子は基準値(木原ら,2016)をみたしており,第3因子は若干低めであったが基準値に近似しているため許容範囲である(小塩,2011)と思われる.
テスト-再テスト法の有効回答は,136人であった.2回目の有効回答者を除いた群と2回目の有効回答群との特性の比較では最終学歴に有意差が出たが,最も重要なNNASの質問紙の平均には差がなく,その他の指標にも差がないので,2群間は概ね等質であると考える.
約3週間後のテストの相関係数は若干低かった.再検査信頼性係数とその評価について小塩(2016)は,相関係数が .50を下回っても,研究者によって評価がバラバラであること,これまで評価の明確な基準が示されてこなかったことを示し,多くの研究者は相関係数がr = .50未満で信頼性が「不十分」と評価する可能性が高まることを報告している.
本尺度は,概ね信頼性が確保できているものと考えるが,今後研究を積み重ね,精度を上げていく必要がある.
NNASの妥当性,信頼性は概ね検証された.本尺度により看護師のそれぞれの弱み(強み)が把握でき,新人看護師教育や研修会などの効果測定に活用することで,個人に応じた教育的介入が可能となる.
日本人の自己表現は本音と建前があり,曖昧で察することが美徳とされ,アサーティブネスを正面からとらえるのは困難であると考え,逆方向からアサーティブネスを捉えた.また,表現が難しいため,「言い過ぎた」項目を全て逆転項目にした.このため,尺度を理解すること,分析の結果を理解することが難しいことは否定できない.さらに本研究は,大学病院,国立病院機構の新卒看護師を対象としており,一般化には限界がある.今後もさらなる研究を進め一般化に努めたい.
謝辞:ご協力いただきました病院関係者,新卒看護師の皆様に感謝いたします.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:ESは研究全般を実施;AMおよびTAは研究の着想およびデザインに貢献;YTは統計解析の実施及び草稿の作成;ST,MM,TY,AK,KSは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言,すべての著者は最終原稿を読み,承認した.