日本看護科学会誌
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急性期病院に入院した後期高齢患者への高齢者総合機能評価を用いた看護介入の有効性
小林 みゆき磯和 勅子平松 万由子
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2017 年 37 巻 p. 202-208

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Abstract

目的:急性期病院に入院した後期高齢患者を対象に,CGAを用いた看護介入を提供し,介入の効果を検討した.

方法:急性期病院に入院した75歳以上の高齢患者39名を,介入群20名(平均年齢83.9歳),対照群19名(平均年齢85.0歳)に割り付け,ベースライン,入院3週間目のADL・認知機能・意欲の変化,入院期間と退院先について比較した.

結果:ADL,認知機能,意欲の総合得点に交互作用を認め,介入群は対照群よりもベースラインに比べ有意に上昇した.また,ADLの下位項目(トイレ動作,更衣,排便コントロール,排尿コントロール),認知機能の下位項目(5品の名前),意欲の下位項目(排泄)の得点に交互作用を認め,介入群は対照群よりもベースラインに比べ有意に上昇した.入院期間は,介入群と対照群に有意差を認めなかった.

結論:CGAを用いた看護介入は,急性期病院に入院している後期高齢患者に対して,ADL,認知機能,意欲の低下予防に効果が示された.

Ⅰ. はじめに

日本は,急速な高齢化を背景に医療施設を受療・入院する高齢者が増加しており,2014年の推計患者数総数における75歳以上の占める割合は,外来26.2%,入院50.8%と増加の一途である(厚生労働省,2014).特に,後期高齢者は,加齢に伴う心身機能の低下が顕著となり,複雑な状態や症状を呈するようになるために,医療機関では,疾患の治療のみならず,高齢患者ゆえに起こりやすい諸問題を的確に捉え,予防的に支援し,早期退院を目指すことが重要となる.しかし,急性期病院では,治療が優先されるため,高齢患者の日常生活活動度(Activities of Daily Living:以下ADL),認知機能,意欲の低下予防に向けた支援が不十分となり,疾病や症状が改善しても,ADL,認知機能,意欲の低下が起こり,入院期間の延長や施設への退院が多くなっている(相川ら,2012湯野ら,2009).そのため,治療が優先されがちな急性期病院において,身体状態や疾患だけでなく,身体機能や精神心理機能,社会機能を含めた総合的なアセスメントに基づく看護支援を行わなければならない.

高齢者を身体機能,精神心理機能,社会機能から多面的に評価できるツールとして,高齢者総合機能評価(Comprehensive Geriatric Assessment:以下CGA)がある.CGAは,疾患の評価に加え,日常生活機能評価として,ADL,手段的日常生活活動度(Instrumental ADL:以下IADL),認知機能,気分,情緒,幸福度,社会的要素,家庭環境などについて,確立した一定の評価手技に則って測定・評価することができる(鳥羽,2003).これまで,CGAを用いた支援として,病院の老年科専門病棟において,ADLの改善,入院期間の短縮などが確かめられており(Stuck et al., 1993西永ら,2000),CGAは高齢患者の看護支援のための有効なツールとして活用できると思われる.そして,急性期病院に入院した高齢患者にCGAを用いる看護介入を実施することにより,入院中の後期高齢患者のADL,認知機能,意欲の低下を予防することができ,入院期間の短縮や在宅復帰率の向上に繋がる効果が期待できると考えた.しかし,これまでに急性期病院において,CGAを用いた看護介入の効果を検討した研究はない.

そこで,本研究では,急性期病院に入院した後期高齢患者を対象に,CGAを用いた看護介入を実践し,その効果を明らかにすることを目的とする.

Ⅱ. 研究方法

1. 研究対象

1) 研究施設

A県にある内科,外科など6診療科を有する一つの急性期病院(220床)で,その中にある二つの病棟(B・C病棟)を対象病棟とした.両病棟は同じ科となっており,内科,外科,泌尿器科の患者が入院し,空室状況によって,入院病棟が決定されている.また,両病棟の看護体制は,10対1であり,看護師の看護経験年数は,B病棟16.5 ± 8.2年,C病棟18.5 ± 9.0年である.さらに看護師の継続教育は,日本看護協会が主催する研修に参加しており,すべての看護師が同等の継続教育を受けている.

2) 対象者の条件

急性期病院に入院した75歳以上の高齢患者で,入院前,寝たきりでないこと,治療上絶対安静が指示されていないこと,主治医から研究参加への許可があることの3つの条件をすべて満たし,研究の趣旨を理解し,同意を得た患者とした.

3) 介入群と対照群の設定

B病棟に入院した患者を介入群,C病棟に入院した患者を対照群とした.

2. 研究デザイン

CGAを用いた看護介入を行う介入群と通常の看護介入を行う対照群を設定し,2群間比較する介入研究で準実験研究デザインとした.

3. 介入方法

CGAガイドライン研究班推奨アセスメントセット【標準版】(鳥羽,2003)に則って,入院から3日以内に測定する基本項目3項目と必要時追加する項目6項目としたCGA評価手順を作成した(図1).そして,研究者がCGAを用いた看護介入の実践の前に,B病棟の看護師に対して,CGA,CGA評価手順,CGAを用いる看護介入の手順についての勉強会を行った.

図1

CGAの評価手順

介入群への介入方法は,研究者が入院時から3日以内にCGA評価手順に従って基本項目を測定し,入院日から1週間毎の看護計画評価日に,カンファレンスの場を活用してCGA評価結果をアセスメントに加えた看護計画の評価・修正・追加に関して助言と指導を行い,スタッフが看護を提供した.研究者が参加したカンファレンスは2回実施し,また,必要と判断したCGAの評価項目があれば,適宜測定し,看護計画の評価・修正・追加への助言と指導を行った.特に,ADLや認知機能に着目し,ADLの向上を目標にした排泄セルフケアや消耗性疲労からの回復支援,また,認知機能の低下予防や急性混乱を回避することを目標にした看護計画を追加した.そして,個々のADLに合わせて,ベッドやポータブルトイレの高さ調節,L字柵の設置,車椅子トイレの使用など,ADLを最大限引き上げるための計画とした.また,認知機能に合わせて,説明はゆっくり繰り返し行い,訪室を頻回にし,カレンダーや時計の設置,使い馴れたものを身の回りに置くことやセンサーマットを設置するなど個々に応じた環境調整と安全管理を行った.研究者は,患者毎に,CGAを用いる看護介入の方法と評価について老年看護学の専門家からスーパーバイズを適宜受け,スタッフへの助言や指導を行った.一方,対照群は,入院日から1週間毎の看護計画評価日に,カンファレンスの場を活用して,患者の疾患や症状と安全面におけるアセスメントから看護計画の評価・修正・追加をして,通常の看護を提供した.

4. データ収集方法と測定用具

1)基本属性として,年齢,性別,疾患,介護度,入院前居住地,退院後居住地,入院期間について,カルテより情報を得た.

2)入院3日以内(ベースライン)と入院3週間目にADL,認知機能,意欲を測定した.ただし,入院3週間以内の退院の場合は,退院時に評価を行った.

ADLの測定は,Brathel Index(以下BI)(Mahoney et al., 1965),認知機能の測定は,改訂長谷川式簡易知能評価スケール(以下HDS-R)(加藤ら,1991),意欲の測定は,Vitality index(以下VI)(鳥羽,2002)を用いた.

5. 分析方法

1)基本属性およびベースラインにおけるADL,認知機能,意欲は,記述統計を行った.年齢,ベースラインにおけるADL,認知機能,意欲は,介入群および対照群の比較をt検定にて分析した.

2)CGAを用いた看護介入の有効性は,ベースラインと入院3週目の変化について,介入群と対照群の比較を,反復測定による2要因(対応ありと対応なし)の分散分析にて分析した.なお,統計分析はSPSS ver.20.0J for Windowsを用いて行い,有意性の判定基準は5%未満とした.

6. 倫理的配慮

対象者には,研究の趣旨および方法,研究参加への自由,途中辞退の保障,匿名性,データの管理等について,文書と口頭で説明し,署名にて承諾を得た.また,認知機能の低下により本人の同意が得られない場合は家族の同意を得た.そして,入院治療を受けている後期高齢者が対象であり,心身機能の低下を受けやすい状況であるために,研究参加と研究継続については,主治医に確認した.本研究を行うにあたり,研究施設の倫理委員会と三重大学附属病院臨床研究倫理審査委員会にて倫理審査の承認(承認番号2557)を得た.

Ⅲ. 結果

1. 基本属性とADL,認知機能,意欲(表1

研究対象者は,介入群20名,対照群19名であり,脱落者はなく,全員分析対象とした.両群の特性は,年齢,ベースラインのADL,認知機能,意欲において,群間差を認めなかった.

表1 対象者の概要平均値(SD:標準偏差)
介入群(n = 20) 対照群(n = 19)
平均値±SD n % 平均値±SD n % P
年齢a 83.9 ± 4.7 85.0 ± 5.4 .57
性別 10 50.0 7 36.8
10 50.0 12 63.2
疾患 肺炎 4 20.0 6 31.6
胆石・胆のう炎 4 20.0 5 26.3
消化管出血 2 10.0 3 15.8
心不全 3 15.0
尿路感染症 2 10.0 1 5.3
脳梗塞 1 5.3
イレウス 3 15.0
胃癌 1 5.3
すい臓がん 1 5.3
気胸 1 5.0
肝硬変 1 5.3
肛門周囲膿瘍 1 5.0
入居前居住地 自宅 17 85.0 19 100.0
施設 3 15.0 0 0.0
介護度 要支援 1 5.0 3 15.8
要介護1 4 20.0 4 21.1
要介護2 5 25.0 4 21.1
要介護3 2 10.0 1 5.3
要介護4 3 15.0 1 5.3
要介護5 0 0.0 0 0.0
未申請 5 25.0 6 31.6
ADLa (Brrthel Index) 57.00 ± 23.07 64.47 ± 20.40 .29
認知機能a (HDS-R) 19.45 ± 6.28 19.74 ± 6.54 .89
意欲a (Vitality Index) 7.15 ± 1.75 7.63 ± 2.19 .21

a t検定 *P < .05

2. CGAを用いた看護介入の有効性

1) 入院中におけるADLの変化(表2

ADLの総合得点は,介入群において,ベースライン57.0 ± 23.0,入院3週間目73.5 ± 17.9,対照群において,ベースライン64.4 ± 20.4,入院3週間目71.3 ± 22.2であり,両群ともにベースラインに比べ入院3週間目に有意に上昇した(F(1, 37) = 88.6, P = 0.00).また,交互作用を認め,介入群の方が対照群よりもベースラインに比べ入院3週間目に有意に上昇した(F(1, 37) = 15.1, P = 0.00).ADLの下位項目は,トイレ動作,更衣,排便コントロール,排尿コントロールに交互作用を認め,介入群の方が対照群よりもベースラインに比べ入院3週間目に有意に上昇した.

表2 入院中のADLの変化
介入群 対照群 2元配置分散分析(上段:F値,下段P値)
ベースライン 入院3週間目 ベースライン 入院3週間目 交互作用 群間 群内
ADL全体 57.00 73.50 64.47 71.32 15.17 .16 88.65
(23.07) (17.99) (20.40) (22.28) .00* .69 .00*
1.食事 9.75 9.75 9.74 10.00 1.05 .17 1.05
(1.11) (1.11) (1.14) (.00) .31 .68 .31
2.移動 11.50 13.00 12.37 12.89 2.28 .19 9.88
(2.85) (2.51) (3.05) (3.03) .13 .66 .00*
3.整容 4.50 4.50 4.47 4.47
(1.53) (1.53) (1.57) (1.57)
4.トイレ動作 4.75 8.25 6.32 7.63 6.96 .20 33.83
(3.79) (2.44) (3.66) (3.86) .01* .65 .00*
5.入浴 .50 1.50 .79 1.05 1.88 .01 5.54
(1.53) (2.85) (1.87) (2.09) .17 .90 .02*
6.平地歩行 6.75 10.25 7.37 10.79 .00 .22 67.02
(4.94) (4.12) (2.56) (4.17) .92 .64 .00*
7.階段昇降 .50 1.25 1.05 1.84 .00 .57 6.73
(1.53) (2.75) (2.09) (3.42) .94 .45 .01*
8.更衣 5.50 7.75 6.58 6.84 9.65 .00 15.44
(3.94) (3.43) (4.10) (4.15) .00* .94 .00*
9.排便コントロール 7.06 9.12 8.16 8.42 4.34 .04 7.25
(4.35) (1.96) (2.98) (2.91) .04* .83 .01*
10.排尿コントロール 6.76 8.53 7.63 7.63 9.78 .00 9.78
(4.30) (2.34) (3.86) (3.86) .00* .99 .00*

2元配置分散分析 平均値(標準偏差)*P < .05

2) 入院中における認知機能の変化(表3

認知機能の総合得点は,介入群において,ベースライン19.4 ± 6.2,入院3週間目21.6 ± 5.7,対照群において,ベースライン19.7 ± 6.5,入院3週間目19.1 ± 7.1であり,介入群でベースラインに比べ入院3週間目に有意に上昇し,対照群でベースラインに比べ入院3週間目に低下しており,群内において有意差を認めた(F(1, 37) = 5.2, P = 0.02).また,交互作用を認め,介入群の方が対照群よりもベースラインに比べ入院3週間目に有意に上昇した(F(1, 37) = 17.2, P = 0.00).認知機能の下位項目は,5品の名前に交互作用を認め,介入群の方が対照群よりもベースラインに比べ入院3週間目に有意に上昇した.

表3 入院中の認知機能の変化
介入群 対照群 2元配置分散分析(上段:F値,下段P値)
ベースライン 入院3週間目 ベースライン 入院3週間目 交互作用 群間 群内
認知機能全体 19.45 21.65 19.74 19.11 17.24 .30 5.29
(6.28) (5.73) (6.54) (7.10) .00* .58 .02*
1.年齢 .90 .85 .95 .89 .00 .24 2.00
(.30) (.36) (.22) (.31) .97 .62 .16
2.日時 2.35 2.45 2.42 2.00 3.21 .17 1.22
(1.42) (1.46) (1.42) (1.56) .88 .67 .27
3.場所 1.75 1.85 1.68 1.85 .94 .51 .94
(.44) (.36) (.67) (.36) .30 .47 .33
4.即時再生 3.00 3.00 3.00 3.00
(.00) (.00) (.00) (.00)
5.引算 1.25 1.45 1.37 1.32 2.80 .00 .96
(.71) (.68) (.68) (.58) .10 .96 .33
6.数字の逆唱 1.00 1.00 .95 1.16 1.43 .55 .55
(.72) (.64) (.78) (.83) .23 .81 .81
7.再言葉 3.25 4.05 2.74 2.95 2.22 1.80 6.53
(1.61) (1.74) (2.28) (2.22) .14 1.18 .01*
8.5品の名前 3.25 3.85 3.21 3.00 6.97 1.50 1.61
(1.20) (1.04) (1.18) (1.45) .01* .22 .21
9.野菜の名前 2.70 3.20 3.47 3.11 3.33 .31 .07
(2.15) (2.04) (1.86) (2.02) .07 .57 .78

2元配置分散分析 平均値(標準偏差)*P < .05

3) 入院中における意欲の変化(表4

意欲の総合得点は,介入群において,ベースライン7.1 ± 1.7,入院3週間目8.6 ± 1.5,対照群において,ベースライン7.6 ± 2.1,入院3週間目8.5 ± 2.3であり,両群ともにベースラインに比べ入院3週間目に有意に上昇した(F(1, 37) = 104.1, P = 0.00).また,交互作用を認め,介入群の方が対照群よりもベースラインに比べ入院3週間目に有意に上昇した(F(1, 37) = 4.5, P = 0.03).意欲の下位項目は,排泄行動に交互作用を認め,介入群の方が対照群よりもベースラインに比べ入院3週間目に有意に上昇した.

表4 入院中の意欲の変化
介入群 対照群 2元配置分散分析(上段:F値,下段P値)
ベースライン 入院3週間目 ベースライン 入院3週間目 交互作用 群間 群内
意欲全体 7.15 8.60 7.63 8.58 4.57 .13 104.13
(1.75) (1.56) (2.19) (2.31) .03* .71 .00*
1.起床 1.70 1.85 1.63 1.79 .00 .25 6.73
(.47) (.36) (.49) (.41) .94 .61 .01*
2.意志 1.40 1.60 1.53 1.79 .20 1.27 11.23
(.50) (.50) (.51) (.41) .65 .26 .00*
3.食事 1.85 1.90 1.84 1.95 .40 .04 3.17
(.36) (.30) (.37) (.22) .53 .83 .08
4.排泄 1.35 1.75 1.68 1.68 8.48 .44 8.48
(.93) (.44) (.58) (.58) .00* .50 .00*
5.活動 .85 1.50 1.11 1.63 .48 3.32 44.19
(.36) (.51) (.31) (.49) .48 .07 .00*

2元配置分散分析 平均値(標準偏差)*P < .05

4) 入院期間と退院後居住地

入院期間は,介入群24.8 ± 9.2日,対照群22.4 ± 13.2日であり,有意差は認めなかった.また,介入群では,全員が入院前居住地と同じ場所に退院し,対照群では,2名が入院前居住地と異なった場所である施設に退院した.

Ⅳ. 考察

対象者の特性は,年齢,ベースラインのADL,認知機能,意欲において,群間に統計的有意差は認めなかったが,ADL得点や要介護度の状況(表1)より,介入群は対照群に比べ自立度が低い特性を持つ可能性があったと考える.

介入の効果について,ADLと意欲の総合得点は,両群ともベースラインに比べ入院3週間目に向上したが,上昇の程度は介入群の方が大きかった.また,認知機能の総合得点は,介入群はベースラインに比べ入院3週間目に有意に上昇し,逆に対照群はベースラインに比べ入院3週間目に低下した.

一般病院に入院中の認知症高齢患者やせん妄を呈した高齢患者は,身体疾患の治療が優先され,精神面に配慮した看護が見過ごされていると指摘されており(山下ら,2006),急性期病院の看護では,ADLや精神機能に合わせた生活支援が後回しにされる,あるいは重要視されにくい現状にある.しかし,今回の研究では,疾患に伴う症状や治療による苦痛の軽減と共にCGAに基づく日常生活支援を組み合わせたことで,身体機能や意欲,精神面に配慮した看護介入を行うことができ,平均80歳以上の高齢患者であっても入院中のADL,認知機能,意欲の低下を予防することができたと考える.特に,ADLの下位項目であるトイレ動作,更衣,排便コントロール,排尿コントロール,意欲の下位項目である排泄行動において,介入群は対照群よりも得点が上昇した.CGAを用いた看護介入では,安全面を重視してADLの拡大に消極的になるのではなく,認知機能の程度に合わせて訪室回数を増やし,説明を繰り返し,環境調整とセンサーを使用するなどの工夫を行い,ポータルトイレやトイレでの排泄を可能にしたと考える.入院している高齢者のスピリチュアルニーズとして,「加齢とともに失うものが多い高齢者にとって食や排泄といった日常の当たり前ともいえる生活場面で味わう“生きている実感”は,たとえ一瞬でもその人の生を生き生きと支えるものであった」との報告(小楠,2004)や,「排尿誘導をすることで,おむつのままより,意欲とADLが向上した」との報告(Toba et al., 2002)がある.つまり,CGAを用いた看護介入は,多面的な評価に基づくアセスメントにより,高齢患者の望まれる排泄支援となり,ADLと意欲の向上に繋がったと考える.従って,急性期病院において,CGAを用いる看護介入は実施可能であり,後期高齢患者のADL,認知機能,意欲の低下予防に寄与できたと考える.

Ⅴ. 今後の課題

本研究において,CGAを用いた看護介入が,ADL,認知機能,意欲の低下予防に有効であることが明らかになった.しかし,対象者数が少なく,疾患,病状,治療経過がADL,認知機能,意欲に影響を及ぼす可能性があることから,今後の研究では,対象者数を増やし,性別,年齢,各評価指標における両群の等質性を保障したうえでさらに検討する必要がある.また,入院期間は介入群と対照群に有意差を認めなかった.CGAの追加評価項目であるZarit介護負担尺度日本語版やLutbebSocial Network Scaleを使用し,退院支援を計画実施したが,入院期間の短縮につながらなかった.今回の介入では,CGA評価の追加項目測定は,必要時に追加するとした.追加項目が,適切な時期に適切な項目を測定して介入できたかを検証し,追加項目の使用についての検討が必要である.そして,退院先については,介入群の全員が入院前と同じ場所に退院したが,入院前の居住地や介護者の同居の有無が退院先に影響するために,この点を踏まえた介入効果の検証が必要である.

謝辞:本研究への参加を快く承諾下さり,貴重な情報を提供して下さいました対象者の皆様に心から厚く御礼申し上げます.また,研究の実施を温かく受け入れて下さいました,各施設長はじめスタッフの皆様に厚く御礼申し上げます.

本論文は,三重大学大学院医学系研究科の修士論文を一部加筆修正したものである.また,日本老年看護学会第19回学術集会において発表した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:MKは研究のすべての過程に貢献;TI,MHは,研究デザイン,原稿への示唆および研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
 
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