2017 年 37 巻 p. 279-287
目的:多職種チームケアをアウトカムの側面から評価する,「特別養護老人ホーム入所者の終末期に関わる多職種チームケア成果尺度」を開発する.
方法:特養の看護職員,介護職員,介護支援専門員,生活相談員を対象に,無記名自記式質問紙調査を郵送法にて実施した.尺度項目に欠損がない243データを分析対象とし,探索的因子分析および検証的因子分析を行った.再テスト法により,尺度の安定性を検討した.
結果:探索的因子分析の結果,【チームワーク】【本人の「生活と死」への支援】【家族・親しい人への働きかけ】の3因子25項目構造となった.検証的因子分析の結果,モデル適合度指数はGFI = .839,AGFI = .807,CFI = .897,RMSEA = .067であった.再テストにおける信頼性係数は,尺度全体で.80であった.
結論:開発した尺度は妥当性および信頼性のある尺度であると示唆された.
わが国の65歳以上人口をみると,2015年は3,392万人であったが,団塊世代が75歳以上となる2025年には3,878万人に達すると見込まれ(内閣府,2017),病院のベッド数には限りがあるため特別養護老人ホーム(以下,特養)などでの終末期ケアの実施が期待されている.実際に特養を含む老人ホームにおける死亡者数は,1995年の1万4千人(死亡者全体の1.5%)から,2015年には8万1千人(6.3%)に増加し(厚生労働省,2016a),約8割の特養において看取りが実施されている(厚生労働省,2016b).このように多くの特養で終末期ケアが行われているものの,職員の知識・技術のばらつきやマンパワーの不足,多職種連携体制,入所者の意思確認が難しいなどの課題を抱えている(厚生労働省,2016b;全国老人福祉施設協議会,2015).
介護保険制度においてケアの質の向上と実施したケアの評価が求められるようになったが,終末期ケアも例外ではない.特養の終末期ケアの質を評価する尺度として,看護実践能力尺度(大村・山下,2016)や介護職員の看取りケア効力感の測定に関するもの(久保田・佐藤,2016)があり,専門職として実践したケアを評価し,次のケアに役立てる上で有用である.しかし,終末期にある特養入所者のニーズは,心身の安寧や療養生活の継続は勿論のこと,家族関係や社会との関わりなど多岐に及ぶ.そのため単一職種で看取りを担うことは難しく,多職種による関わりが不可欠となる.特養において職種・職員の連携・協働が「よりよい終末期ケア」に影響したと報告があり(田中・加藤,2016),多職種チームによるアプローチは,ケアの質の向上になると期待される.
ケアの質は,ストラクチャーがプロセスに,プロセスがアウトカムに影響するため,これらの3側面から評価することが望ましい(Donabedian, 1988).ストラクチャーは人,物,財政,システムなどを,プロセスはケアの内容や方法などを,アウトカムは結果や満足度を評価する.質の評価は難しいが,人の終末期において心身機能の低下と死は避けられないため,特にアウトカム評価は難しい.しかし,実施したケアを振り返ることで入所者のケアの改善を動機づけできる(島田ら,2015)とあるように,実践したケアを多職種で,アウトカムの側面からデスカンファレンスなどにおいて評価する尺度があれば,尺度を指標に施設の事情に応じた柔軟なケアを検討しケアの質の向上を期待できる.
そこで先行研究を概観したところ,終末期ケアをアウトカムの側面から評価する内容として,意思表示が難しい人の心身状態(Volicer et al., 2001),患者や家族の満足や生活および死の質(Stewart et al., 1999)などが報告されていた.また,チームケアによるアウトカムは患者だけでなくチームや組織,チームメンバーにもあり(Lemieux-Charles & McGuire, 2006;Mickan, 2005),ケアコーディネートの改善や(Mickan, 2005),看護師の学びの機会の会得や自信になる(小野,2011)とあった.しかし,これらの内容を含み,かつ医療職の配置が少ないことや老衰死が多いなどの特養の特性を踏まえた多職種チームによるケアを,アウトカムの側面から評価する尺度は探し出せなかった.
以上のことから,本研究では多職種チームケアがよりよい結果に影響すると仮定し,実施した多職種チームケアを,アウトカムの側面からデスカンファレンスなどにおいて評価する「特養入所者の終末期に関わる多職種チームケア成果尺度」を開発することを目的に取り組むこととした.
「連携・協働」とは「メンバーが必要な情報を共有して共通理解を図り,協力して働くこと」とした.「特養における終末期ケア」とは「日常生活の延長に死期が近づき,人生の最期の場面を迎えようとしている特養入所者とその家族に対し,心身だけでなくその人の置かれた状況や環境,思想や宗教をも含め,多職種が連携・協働して多角的に取り組む支援」とし,看取りおよび看取り後の支援も含む.「多職種チームケア」とは「入所者の終末期における様々なニーズに対応するために,関わる職種・職員が連携・協働して提供する支援」,「成果」とは「多職種チームケアによって得られた多様なよりよい結果」とした.
筆者は,調査研究を基に特養入所者の終末期に関わる多職種チームケアによって得られた成果の構成概念を明らかにした.見出された概念は「本人が望んだ生活の維持と死」「本人と家族のよい関係」「家族の参加と不安の軽減」「他の入所者が死を肯定的に受け入れ」「チームケアの質の向上」「職員の成長と満足」「施設全体のケアの質の向上」である(田中・加藤,印刷中).このうちの「施設全体のケアの質の向上」は,職員が終末期ケアを経験し成長することで日常のケアの質が向上したなどの間接的成果を指し,1つのケースによって得られた成果とは限らない.そのため,1入所者のケアを評価する内容として適当でないと考えた.そこで「施設全体のケアの質の向上」を除いた6つの概念を基軸とし,終末期ケアの成果およびチームケアの成果の内容を含む国内外の先行研究(小野,2011;Miyashita et al., 2008;Munn et al., 2007;Lemieux-Charles & McGuire, 2006;Mickan, 2005;Curtis et al., 2002;Volicer et al., 2001;吉田,1999;Stewart et al., 1999)などを参考に,老年看護学および終末期看護,チーム医療,介護福祉,尺度開発に精通する研究者を交えて尺度項目案の内容妥当性を検討した.その結果,尺度原案は73項目となった.項目の表面妥当性を確認するために特養の終末期ケアに携わる多職種10人にプレテストを実施した.内容が分かりにくいと意見があった項目の表現を修正し尺度の原案を作成した.
2. 研究方法無記名自記式質問紙調査を郵送法にて実施した.尺度の安定性を検討するために再テスト法(Streiner et al., 2015/2016)を用いた.
1) 研究協力施設と調査対象者厚生労働省介護サービス情報公表システムにおいて,平成27年度主な介護報酬加算「看取り介護の実施」と公表されていた中部地方5県の老人福祉施設411施設の施設長宛に研究協力依頼書を郵送し,同意書の返送があった86施設(承諾率20.9%)を研究協力施設とした.調査対象者は,施設の看取り介護計画作成やケアの内容などを検討する際にチームの中心となることが多い看護職員,介護職員,生活相談員,介護支援専門員(田中・加藤,2016)とし,かつ施設の終末期ケアを5回以上経験した者とした.なお1施設あたり各職種1人ずつ計4人,総計344人を調査対象者とした.対象者の選定は施設長に一任した.
2) データ収集方法と調査期間研究協力施設の施設長宛に調査票を郵送し,研究協力依頼書と調査票,返信用封筒の配布を依頼した.調査対象者の手元に2回分の調査票が届くようにし,1回目と2回目の調査票を連結できるように同じ番号を2回分の調査票に記載した. 1回目調査票は,2016年9月~12月の期間に回収した.2回目調査票は,2016年10月~2017年1月の期間に回収した.
3) 調査内容回答者の基本属性以外は,施設での看取りを希望して本調査より1年以内に亡くなり家族がいた事例の中から,「多職種が連携・協働したことで他のケースに比べてより何らかのよい結果を得たと思われる1事例」を思い浮かべて(以下,思い浮かべた事例)回答するよう依頼し,2回目調査は1回目調査と同じ事例について回答を求めた.
(1) 回答者の概要性別,職種,職種経験年数,終末期ケア経験回数,チームでの立場など.チームでの立場はリーダー,コアメンバー,メンバーのうちいずれかを選択.
(2) 特養入所者の終末期に関わる多職種チームケアの成果作成した尺度原案73項目の回答形式は「そう思う」「どちらかと言えばそう思う」「どちらとも言えない」「どちらかと言えばそう思わない」「そう思わない」の5件法とし,5~1点を付して得点化した.なお,逆転項目は得点の方向が同じになるよう処理した.
(3) 高齢者ケア施設における学際的チームアプローチ実践評価尺度杉本・亀井(2011)が開発した高齢者ケア施設のチームアプローチ実践を自己評価する「学際的チームアプローチ実践(Interdisciplinary team approach)評価尺度(以下,ITA評価尺度)」を用いた.尺度は,因子分析から「組織構造の柔軟さ」「ケアのプロセスと実践度」「メンバーの凝集性と能力」の3因子構造,GFIなどのモデル適合度は.9以上,Cronbachのα係数は.9以上,再テスト法による信頼性係数は.4以上であることが確認されている.
(4) ケアに関する自己評価「職種・職員が多職種チームとして終末期ケアに取り組めたと思うか(以下,多職種チームの評価)」「多職種が連携・協働したことで,他のケースと比べて何らかのよい結果が得られたと思うか(以下,成果の評価)」「他の看取りのケースと比べてよりよい終末期ケアを提供できたと思うか(以下,終末期ケアの評価)」について,「全くそう思わない」「非常にそう思う」を両極とした0から10までの11段階の数字を用いたNumerical Rating Scaleを用いた.
3. 分析方法 1) 項目分析1回目データを用いて尺度項目を検討した.全73項目の天井効果・床効果を確認した.Shapiro-Wilkの正規性検定の結果,全項目において正規性を確認できなかったため,Good-Poor Analysis(以下,G-P分析)は,Mann-WhitneyのU検定を行った.本研究で尺度作成に使用する変数は,5件法による順序尺度である.順序尺度を含む変数の相関係数の算出や因子分析を行う場合には,質的尺度のための相関係数を用いる必要がある(豊田,2012).そこで,豊田(2012)が紹介する手順を参考に,統計フリーソフトR(以下,R)のpolycorパッケージ関数hotcorを使い,項目間相関およびItem-Total相関(以下,I-T相関)を算出した.項目間相関係数を算出後,Rのpsychパッケージ関数faによって73項目を1因子と仮定した因子分析を行い,因子負荷量を確認した.探索的因子分析への投入除外候補項目の基準は,天井効果または床効果を確認した項目,項目間相関係数が.7以上,I-T相関の相関係数が.3以下,G-P分析は上位群と下位群に有意差が認められなかった項目,因子負荷量は.3未満とした.
2) 探索的因子分析成果の項目に影響する多職種チームケアの構成概念を検討するため,質的尺度の相関係数を用いて探索的因子分析を行った.データの正規性を確認できなかったため推定法は分布の仮定をおかずに分析が可能な一般化最小二乗法とし,因子間に関連があり項目間に複雑な関係があると考えオブリミン回転を行った.
3) 妥当性の検討内容妥当性について専門家による調査項目の検討,表面妥当性については多職種にプレテストを実施して質問項目の表現を検討した.構成概念妥当性を検討するために,探索的因子分析の結果から作成したモデルにデータが合致するか,IBM SPSS Amos ver. 22を用いて検証的因子分析を行った.さらに,ケアに関する3つの自己評価との関連についてSpearmanの順位相関係数を算出した.併存的妥当性は,ITA評価尺度との関連をSpearmanの順位相関係数を算出し検討した.多職種チームで使用する尺度として妥当であるかを検討するために,経験年数と終末期ケア経験回数との関連はSpearmanの順位相関係数を,職種による差はデータの正規性を確認し一元配置分散分析を,チームにおける立場による差はデータが非正規分布のためKruskal Wallis検定を行った.
4) 信頼性の検討内的整合性の検討のため,尺度全体および下位尺度のCronbachのα係数を算出した.安定性の検証のため2週間の間隔をあけて再テストを行い,尺度全体および下位尺度間のSpearmanの順位相関係数を算出した.
なお本研究の分析において,質的尺度の相関係数および探索的因子分析,検証的因子分析以外はIBM SPSS Statistics Base System ver. 22を使用した.
4. 倫理的配慮協力施設の施設長および調査対象者には,調査の趣旨・方法,任意性・匿名性,学会で発表することなどを説明した文章を郵送して説明し,研究協力同意書および調査票の返送をもって同意を得たものとした.なお本研究は,金沢大学医学倫理審査委員会(承認番号:700-1)および金城大学研究倫理委員会(承認番号:第28-04号)の承認を得て実施した.
1回目調査票は269票回収できた(回収率78.2%).このうち,尺度原案の項目に欠損がない243票(有効回答率90.3%)を分析対象とした.2回目調査票は197票回収できた(回収率57.3%).1・2回目調査票共に返送された174人のデータを再テストの分析対象とした.なお1回目調査回答者の概要(表1)は,職種平均経験年数は13.1 ± 8.6年,終末期ケア平均経験回数は28.3 ± 41.7回,職種は看護職員61人(25.1%),介護職員67人(27.6%),介護支援専門員53人(21.8%),生活相談員62人(25.5%)であった.
項目 | 1回目調査 n = 243 | 2回目調査 n = 174 | |||
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現在の職種の平均経験年数(年) | 13.1 ± 8.6 | 13.5 ± 8.5 | |||
現在の施設での終末期ケア平均経験回数(回) | 28.3 ± 41.7 | 28.9 ± 45.6 | |||
項目 | 人 | % | 人 | % | |
性別 | 男性 | 68 | 28.0 | 44 | 25.3 |
女性 | 175 | 72.0 | 130 | 74.7 | |
現在の職種 | 看護職員 | 61 | 25.1 | 41 | 23.6 |
介護職員 | 67 | 27.6 | 49 | 28.2 | |
介護支援専門員 | 53 | 21.8 | 43 | 24.7 | |
生活相談員 | 62 | 25.5 | 41 | 23.6 | |
事例の終末期ケア計画検討への参加 | 参加した | 217 | 89.3 | 156 | 89.7 |
参加していない | 22 | 9.1 | 15 | 8.6 | |
どちらともいえない | 4 | 1.6 | 3 | 1.7 | |
事例のチームにおける位置づけ | チームリーダー | 38 | 15.6 | 27 | 15.5 |
コアメンバー | 100 | 41.2 | 73 | 42.0 | |
メンバー | 101 | 41.6 | 71 | 40.8 | |
その他 | 4 | 1.6 | 3 | 1.7 |
尺度原案の73項目のうち天井効果に該当する項目が19項目あった.19項目の内容は,誰もがどのようなケースに対しても同じ回答をするとは考えにくいものであったため,ここでは削除しなかった.床効果はなかった.I-T相関では相関係数が.3以下の項目はなかった.G-P分析は,全ての項目で上位群と下位群に有意な差が認められた.1因子を仮定した因子負荷量が.3未満の項目はなかった.項目間相関係数が.7以上の項目が157組あった.このうち,内容が類似していた「家族の参加と不安の軽減」や「チームケアの質の向上」などに関する31項目を削除し,残りの42項目を探索的因子分析の対象項目とした.
3. 探索的因子分析初期の固有値の変化とスクリープロットおよび平行分析から因子数3と判断した.分析の過程で3つの因子において因子負荷量が.4未満の項目,または複数因子で.35以上の因子負荷を示した項目の内容を吟味し,「他の入所者が死を肯定的に受け入れ」などの計17項目を削除した.その結果,3因子25項目の尺度となった(表2).累積寄与率は59%,RMSEA = .015であった.
項目番号と内容 | 第1因子 | 第2因子 | 第3因子 | 共通性 | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
第1因子 チームワーク | |||||||
se1 | 多職種チームは職種の役割を明確にして終末期ケアに取り組めた | .86 | –.07 | .09 | .74 | ||
se2 | 多職種チームで取り組むことで職員の終末期ケアの実践能力が高まった | .84 | –.02 | –.04 | .65 | ||
se3 | 多職種チームは統一された終末期ケアを実践できた | .82 | .06 | .03 | .76 | ||
se4 | 多職種チームは職種の役割を越えて法律上可能な範囲内の業務を補い合えた | .73 | –.10 | .15 | .55 | ||
se5 | 多職種チームで取り組むことで職員間の信頼関係が深まった | .71 | .15 | –.06 | .62 | ||
se6 | 多職種チームは看取り介護計画の目標を達成できた | .65 | .12 | .10 | .60 | ||
se7 | 多職種チームで取り組むことで職員の終末期ケアの不安が軽減した | .61 | .27 | –.20 | .54 | ||
se8 | 多職種チームは本人の心身の状態に応じた夜間の対応ができた | .60 | .18 | .02 | .55 | ||
se9 | 多職種チームは本人または家族の意向に添った臨死期の対応ができた | .57 | .18 | .20 | .66 | ||
se10 | 多職種チームは本人の終末期ケアに関する意向を把握できた | .54 | .12 | .11 | .46 | ||
第2因子 本人の「生活と死」への支援 | |||||||
se11 | 多職種チームの支援により最期まで本人らしい生活を送ることができた | .06 | .84 | –.04 | .75 | ||
se12 | 多職種チームの支援により本人が望む形で死を迎えられた | –.09 | .79 | .14 | .65 | ||
se13 | 多職種チームの支援により本人が希望する場所で死を迎えられた | –.08 | .75 | –.05 | .47 | ||
se14 | 多職種チームの支援により本人が穏やかに終末期を過ごせた | .05 | .71 | .10 | .62 | ||
se15 | 多職種チームの支援により本人が居心地のよい環境で終末期を過ごせた | .14 | .70 | –.04 | .61 | ||
se16 | 多職種チームの支援により本人が死の間際までこれまでの生活様式を維持できた | .18 | .69 | –.04 | .63 | ||
se17 | 多職種チームの支援により終末期の本人に苦痛が少なかった | –.05 | .69 | .09 | .50 | ||
se18 | 多職種チームの支援により本人が終末期に信じる儀式や信仰を継続できた | .08 | .60 | .00 | .43 | ||
se19 | 多職種チームの支援により本人が穏やかに死を迎えられた | .29 | .53 | .15 | .70 | ||
se20 | 多職種チームの支援により終末期の本人に混乱した様子がなかった | .08 | .46 | .15 | .37 | ||
se21 | 多職種チームの支援により本人が終末期に他の利用者と触れ合えた | .24 | .42 | –.09 | .32 | ||
第3因子 家族・親しい人への働きかけ | |||||||
se22 | 多職種チームの支援により終末期に本人と家族が関わる時間を持てた | .15 | –.05 | .83 | .78 | ||
se23 | 多職種チームの支援により本人が親しい人に見守られながら息を引き取った | –.21 | .30 | .70 | .61 | ||
se24 | 多職種チームの支援により家族に死を迎える準備ができた | .23 | .00 | .67 | .64 | ||
se25 | 多職種チームの支援により家族の看取りに関する意向が叶えられた | .30 | .24 | .44 | .65 | ||
因子寄与率(%) | 25.0 | 24.0 | 10.0 | ||||
累積寄与率(%) | 25.0 | 49.0 | 59.0 | ||||
Cronbach’sのα係数 | 尺度全体 | .93 | .90 | .88 | .76 | ||
因子間相関 | 第1因子 | 第2因子 | 第3因子 | ||||
第1因子 | ― | .68 | .54 | ||||
第2因子 | ― | .58 | |||||
第3因子 | ― |
1回目調査データの分析.ポリコリック相関係数を用いた因子分析.推定法:一般化最小二乗法,回転:オブリミン回転.
因子を構成する項目に影響を与える概念について検討した.第1因子は10項目からなり,チームの望ましい対応や状態に関する項目で構成されたことから,【チームワーク】と命名した.第2因子は11項目からなり,本人らしい生活を送れたなどの本人にとって望ましい生活に関すること,望む形で死を迎えられたなどの死の質に関する項目で構成されたことから,【本人の「生活と死」への支援】と命名した.第3因子は4項目からなり,家族や親しい人と本人との関わりや家族が死の準備をできたなど,家族や親しい人に関する項目で構成されたことから,【家族・親しい人への働きかけ】と命名した.
4. 妥当性の検討構成概念妥当性の検討を目的とした検証的因子分析の結果,χ2 = 571.132(df = 272, P < .001),適合度指数はGFI = .839,AGFI = .807,CFI = .897,RMSEA = .067であった.因子間の標準化推定値は.68~.77,因子と項目間の標準化推定値は.51~.81であった(図1).本尺度全体と「多職種チームの評価」「成果の評価」「終末期ケアの評価」との相関係数は,全て.7以上であった(表3).併存的妥当性を検討するためのITA評価尺度との相関係数は,尺度全体および各因子間において.37~.78であった(表3).チームでの使用を検討する職種経験年数との相関係数は.032,終末期ケア経験回数との相関係数は.004,職種間の一元配置分散分析結果はF = .658(df: 3, 239,P = .579),チームによる立場とのKruskal Wallis検定結果はχ2 = 5.355(df = 2, P. = .069)であった.
「特別養護老人ホーム入所者の終末期に関わる多職種チームケア成果尺度」検証的因子分析結果
注)1回目調査データの分析.n = 243.数値は標準化推定値.モデル適合度 χ2 = 571.132(df = 272, P < .001),GFI = .839,AGFI = .807,CFI = .897,RMSEA = .067
n = 174 | n = 243 | ||||||||||
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本尺度(25項目) | 再テスト(25項目) | ITA評価尺度 | 多職種チームの評価 | 成果の評価 | 終末期ケアの評価 | ||||||
尺度全体 | 第1因子 | 第2因子 | 第3因子 | 尺度全体 | 第1因子 | 第2因子 | 第3因子 | ||||
尺度全体 | .80** | ― | ― | ― | .73** | .71** | .66** | .65** | .74** | .73** | .70** |
第1因子 | ― | .77** | ― | ― | .78** | .74** | .70** | .70** | .75** | .73** | .70** |
第2因子 | ― | ― | .79** | ― | .59** | .57** | .52** | .55** | .62** | .62** | .59** |
第3因子 | ― | ― | ― | .66** | .47** | .50** | .46** | .37** | .47** | .50** | .51** |
本尺度:第1因子【チームワーク】,第2因子【本人の「生活と死」への支援】,第3因子【家族・親しい人への働きかけ】.
ITA尺度:第1因子【組織構造の柔軟さ】,第2因子【ケアのプロセスと実践度】,第3因子【メンバーの凝集性と能力】.**P < .01
Cronbachのα係数は,尺度全体では.93,第1因子は.9,第2因子は.88,第3因子は.76であった(表2).本尺度と再テストの相関係数は尺度全体では.8,第1因子は.77,第2因子は.79,第3因子は.66であった(表3).各項目の相関係数は.42~.64の間にあり,いずれも正の相関(P < .01)を示した.
成果に影響を与える多職種チームケアの構成概念を探索したところ3因子構造となった.探索的因子分析においてRMSEAが.05未満であったことから,分析において必要な因子数を見出したといえよう(豊田,2012).
本尺度の第1因子【チームワーク】は,成果「チームケアの質の向上」「職員の成長と満足」の項目から構成された.チームワークは自然に出来上がるものではなく極めて意識的な活動であり,高いストレス状況にもなるが個々人の貴重な成長の機会にもなる(野中,2007).多職種が意識してチームワークを高めることでケアの調整や職種間のコミュニケーションが強化され(Mickan, 2005),統一された終末期ケアの実践や目標の達成などは勿論,職員の役割の明確化や信頼関係の深まりなどのよい結果が得られたと職員が捉えたと考える.
第2因子【本人の「生活と死」への支援】は,成果「本人が望んだ生活の維持と死」の項目から構成された.特養で死を迎えた入所者のうち6割が老衰死であるが,肺炎や心疾患などで死を迎える人もいる(厚生労働省,2016b).老衰死では枯れるように穏やかに逝くこともあるが,肺炎や心疾患などでは痛みや苦痛を伴うこともある.職員は今までの日々を振り返りその人への思いを巡らせてその人らしい終末を意識し,状況・状態に応じたケアの工夫などのやすらぎを導くためのケアを意識していた(坂下・西田,2012)とあるように,疾病に関係なく入所者がその人らしく穏やかな生活を続け,そして穏やかに最期の時を迎えることを職員は願って支援していたと推察する.
第3因子【家族・親しい人への働きかけ】は,成果「本人が望んだ生活の維持と死」「本人と家族のよい関係」「家族の参加と不安の軽減」から構成された.終末期には,家族による代理意思決定など,家族の関わりが増えてくるが,中には入所者と疎遠になっている家族や入所させてしまったことを悔やむ家族がいる.そして家族に見守られながら最期を迎えたいと思う高齢者がいる(曽根ら,2015).このような時,チームが家族や親しい人に働きかけることで,入所者と家族が関わる時間を持てたなどのよい結果が得られたと職員が捉えたと考える.
一方で,成果「他の入所者が死を肯定的に受け入れ」に関する項目が消失した.原因は他の入所者に関する項目数が少なかったためと考えるが,他の入所者へのケアに職員の意識が向いていなかった可能性や,他の入所者に話を聞く余裕がなかった可能性がある.さらに,入所者の心身の状態や医療に関する項目も除外された.終末期ケアにおいて心身機能の低下や死が避けられないこと,特養で提供できる医療に限りがあることなどから,職員は多職種チームの力が及びにくいと考えていた可能性がある.終末期ケアの質の向上を目指す上で,これらの成果も考慮してケアを提供することが望ましい.しかし,全ての特養,全ての事例に他の入所者や心身機能面などの成果を求めることは,様々な課題を抱える現状では難しい.まずは【チームワーク】や【本人の「生活と死」への支援】の向上,【家族・親しい人への働きかけ】を目指すことが重要である.
また,菊池(2000)はチームの活動を,課題達成のための活動であるタスクワーク,チームメンバー間の調整・統合の活動であるチームワーク,チームの外部環境にある社会資源などを活用するネットワークに分類することができると述べている.本尺度の第1因子は多職種によるチームワーク,第2因子は終末期ケアというタスクワーク,第3因子は家族に対するネットワークに該当すると考えられ,【チームワーク】【本人の「生活と死」への支援】【家族・親しい人への働きかけ】は多職種チームケアを構成する概念と考える.
検証的因子分析の結果,χ2は期待した結果を得られなかったが,GFI,AGFI,CFIは.807~.897,RMSEAは.067であり,モデルの適合度は良好と判断する.
「思い浮かべた事例」を基にチームアプローチ実践をプロセスの側面から評価するITA評価尺度と,多職種チームケアをアウトカムの側面から評価する本尺度について回答を求め,両尺度の関連を検討したところ正の相関がみられた.このことは,本尺度がチームアプローチに関係した概念を測る尺度であるとの裏付けになる.さらに成果は何らかのアプローチによって得られるという時間的順序を考えると,チームアプローチ実践,すなわち多職種チームケアが本尺度項目に影響した可能性を示唆し,「多職種チームケアがよりよい結果に影響する」と仮定して尺度の構成概念を検討したことは妥当であったと考える.そして,本尺度と「多職種チームの評価」「成果の評価」「終末期ケアの評価」との間に正の相関がみられたこと,経験年数や終末期ケア経験回数との相関がなかったこと,職種やチーム内での立場の違いによる差がなかったことも踏まえ,本尺度は特養の終末期ケアという場面において,実施したケアを多職種チームで成果の側面から評価する尺度として妥当であると判断する.
2. 特養入所者の終末期に関わる多職種チームケア成果尺度の信頼性の検討Cronbachのα係数は少なくとも.7以上なくてはならない(Streiner et al., 2015/2016).本尺度全体のCronbachのα係数は.93,各因子では.76~.9であったことから,内的整合性を確認できたと考える.また,再テストにおける尺度全体の信頼性係数は.8であり,安定性も確認できたと考える.
3. 尺度の活用可能性久保田・佐藤(2016)は介護職員が心理的負担を軽減し看取りに積極的に取り組むために自己効力感に注目しているが,他の職種も同じである.また専門職には専門性があり,1人の入所者に提供されたケアを単一職種で総合的に評価することは難しい.そこで,多職種チームが本尺度を用いてデスカンファレンスなどにおいてケアを振り返ることにより,自分では経験できなかった点を知り実施したケア内容の評価について相互に点検する機会になる(島田ら,2015).そして,これまでに取り組んだケアの得点と比較することで,ケアの改善を判断する材料になると考える.また,看取り個別計画作成などにおいて,職種の役割やケア内容について検討する際の指標として活用できると考えている.
4. 研究の限界と今後の課題本研究は,中部地方にある特養の職員を対象とし,より何らかのよい結果を得たと思われる事例を基にしたデータを分析したものである.今後は調査対象を広げ,何らかの心残りがあった事例などの様々な事例について検証し,開発した尺度の精度を高めることが課題となる.
特養入所者の終末期に関わる多職種チームケア成果尺度は,【チームワーク】【本人の「生活と死」への支援】【家族・親しい人への働きかけ】の3因子25項目から構成され,妥当性および信頼性がある尺度であると示唆された.
謝辞:本研究にご協力いただきました特養の皆さまに心から感謝申し上げます.なお,本研究は平成28年度金城大学特別研究費の助成を受けて実施しました.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:KTは,研究の着想から原稿作成のプロセス全般に貢献;MKは,研究デザイン,原稿作成プロセス全般への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.