日本看護科学会誌
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原著
既修の知識と技術を統合する多重課題演習とシャドウイング実習から得られた3年次看護学生の学び
岡田 麻里今井 多樹子井上 誠近藤 美也子土路生 明美船橋 眞子永井 庸央松森 直美
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2017 年 37 巻 p. 446-455

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Abstract

本研究の目的は,看護の実践現場で生じている多重課題演習とシャドウイング実習(以下統合実習と略す)による学びを明らかにすることである.対象は,A大学の3年次生61名(女性54名,男性7名)であった.データは,実習終了後のまとめの総合レポートで,分析方法は質的記述的方法である.分析視点は,学生は演習と実習を通して何を学んだかとし,学びに関する記述をコード化し,カテゴリ化を試みた.その結果,【メンバー看護師の自立の要件】,【多重課題に対応する実践的思考】【チームナーシングの基盤となるスタッフ間の関係構築】,【病院組織としてのチーム管理】,【多職種チームによる的確な情報交換】等,7つのカテゴリが抽出された.先行研究では4年次生で修得された学びが,本研究では3年次生で同様の学びを得ることが出来た.さらに,各カテゴリが【患者中心の看護の提供】とつながっていた点が,本研究から得られた成果であると考えられた.

Ⅰ. 緒言

急速な少子高齢化という社会情勢の大きな変化の中で,地域完結型医療や地域包括ケアシステムづくりが推進されている.病院では在院日数の短縮化,高度な医療的ケアや退院後の生活を考慮した質の高い看護が求められ,実践現場の看護は急速に高度化,複雑化している.このような背景から,減少傾向であるが新人看護師のリアリティショックや早期離職の問題,新人看護師教育の課題が指摘されている(日本看護協会,2006日本看護協会,2014).さらに,実践現場で必要な看護実践能力と看護基礎教育で修得する看護実践能力の乖離が指摘され,看護師に求められる実践能力を育成する教育方法の検討の必要性が指摘されている(厚生労働省,20072011).

佐居ら(2007)は,新卒看護師らは想定外・急変時・未経験・標準的でないケアへの対応,受け持ち患者数の多さ等過去に経験したことがないために生じるリアリティショックを経験していることを明らかにし,看護基礎教育において複数・多重課題に対処する演習等の必要性を指摘した.また,川西ら(2012)は,看護管理者の調査から新人看護師が困難になる多重課題場面は予定変更,複数の行為での優先度,複数の人との関わりの優先度,報告・相談を抽出し,卒業前の臨床能力試験にはこれらを盛り込む必要性を示唆した.清水ら(2010)は,卒業時看護技術演習を通して学生の自己の課題として,複数の患者把握と配慮,患者の立場にたった対応,一連の看護行為の確実な実施,チームとしての連携・協力,状況判断やよく考えた行動,看護師としての責任ある態度を抽出した.このように,各大学では,就職後に直面する困難に対処できる基盤を養うために,卒業時の看護技術向上を目指した多重課題演習や技術試験を実施している.すなわち,学生から新人看護師への移行に焦点を当てた実践的な教育内容の検討(後藤ら,2007)がなされ,「看護の実践と統合」と位置づけることで,リアリティショックの軽減と看護実践力の基盤づくりをしている.

我々は,3年次後期を,看護職として臨地で働くイメージを具体的にし,看護職の自覚を高める一つの移行期ととらえた.さらに,新人看護師が直面する多重課題場面のような実践的な教育内容を,3年次後期に取り入れることで,より早い段階に学生が既修の知識と技術を統合し,看護職として働くことをイメージした上で,以後の各論実習に臨むことを目指した.文部科学省(2007)は看護学の学習の統合は,最終学年だけでなく,学年の進行と共に段階的な追求,「看護の統合と実践」の教授内容の適切な配置,到達目標に向う段階的な修得のための工夫,卒業時の看護実践能力の担保の必要性を指摘している.学内で行う多重課題演習と,現場の看護師へのシャドウイング実習を「看護の統合と実践」として各論実習前に実施し,卒業後の看護実践能力の向上を見据えた教育内容への示唆を得たいと考える.

Ⅱ. 研究目的

本研究の目的は,3年次生が各論実習に臨む前に,既修の知識と技術を統合するために,多重課題に対応する演習とシャドウイング実習(以下統合実習と略す)を体験した学生の学びを明らかにすることである.

Ⅲ. 研究方法

1. 対象

A大学の3年次生61名全員(女性54名,男性7名)が,実習終了後に提出したまとめの総合レポートA4サイズ1枚程度の記述内容とした.本レポートは,学内多重課題演習・シャドウイング実習ワークシート・学内まとめの演習を踏まえて,実習終了後に学びを振り返りながら書くまとめの記録である.自己のテーマを設定し,具体的な場面に基づいた学びのエッセンスの記述であるため,分析データとして採用した.

2. 統合実習の概要

実習病院は地域拠点病院3か所であり,17病棟(学生2~4名/1病棟)で実施した.実習受け入れの前に,各病院で実習担当者会議を開催し,看護部長,病棟師長,実習指導者を対象に,本実習の目的,内容,指導依頼内容を,実習要綱をもとに説明した.

本実習の主な流れとして,スケジュール・目的・内容を表1に示した.

表1

多重課題演習とシャドウイング実習の流れ

1) 事前学習と学内の多重課題演習

実習1か月前に,全体オリエンテーションの実施と事前学習を課し,学修の準備性を高めて多重課題演習に臨むようにした.

4人部屋を受け持つ新人看護師の立場で,既修の知識を用いて多重課題に対応するシミュレーションをグループで行うことを計画した(岡田ら,2016a2016b).本多重課題演習を通して,学生が自己の課題や疑問点,実習現場で観察すべきことを意識化することを目的とした.多重課題演習の事例は可能な限り臨場感を持たせるために,新人看護師が抱える多重課題について管理者と新人看護師の認識を明らかにした先行調査(今井ら,2014a2014b)に基づいて作成した.また,場面は日勤帯,疾患や患者状況は,本学における教授内容や他の実習との知識技術の積上げを意図した.学生5~6名ずつ11グループに分け,Step 1で事前学修を基に各グループで事例展開し,多重課題の解決方法を考案した.その結果をもとに,Step 2で看護師として必要な実践能力,自己の課題,実習での自分自身の目標,疑問点,課題を各グループ単位で検討,発表,学びの共有という過程を踏んだ.実習初日の9:00~16:10で実施した.

2) 臨地実習(シャドウイング実習)

多重課題演習を通して自己の課題,質問や疑問の明確化,実習で観察すべきことを意識化し,3日間のシャドウイング実習に臨んだ.これによって,学生が実習現場で,主体的に観察や看護師へのインタビューを行い,考察できることを意図した.シャドウイングという手法は,谷ら(2015a, 2015b)によって,学生にとっても実習指導者にとっても成果が得られていることが報告されている.看護師らのシャドウイングを通した積極的な質問は,状況に応じた看護師との適切なコミュニケーションをとる訓練の機会とした.

3) ラベルワークを用いた学びの振り返りと共有

学内多重課題演習,実習施設でのカンファレンス,学内まとめの会では,附箋を用いて学びを書き出すラベルワークという手法を用いた.ラベルワーク(林,2015)は,参画型教育を実践する教育手法であると言われている.学習者が積極的にディスカッションに参画する場づくりや,学びを俯瞰しやすい利点があると言われているため活用した.

3. 分析方法

分析方法は質的記述的分析方法とした.学生が演習および実習を通して“何を学んだか”を分析の視点とした.学びとは(Young & Wilson, 2000/2013),ideas:基礎・事実・個々のスキルなど一つ一つのideaを理解する,connections:既修の知識や新しい考えを関連付ける,2つ以上あるいは別々の考えをつなげて理解する,extensions:知っていることから今までにない状況を推定する,新しい課題に応用する,と定義されている.この定義はICEモデルとして紹介され,アクティブ・ラーニングの推進の際に活用されている.本研究では,ICEモデルを活用し,統合実習から得られた学びをideaとし,各カテゴリの関連性を学びのつながりconnections,さらに学びから導き出された自己の課題をextensionsとして抽出した.具体的には,総合レポートの記述を熟読し,“~学んだ”,“~が分かった”,“~に気づいた”などの学びの要素を示す記述ideaに注目した.例えば「自分に任される責任をしっかりと果たすことを学ぶ」「各々が自分の役割を理解しなければならないことが分かる」など,226のコードを抽出した.これらのコードの類似点と相違点を検討し〈看護師としての役割と責任に対する自覚〉など,29のサブカテゴリとした.次に,サブカテゴリ同士の類似点と相違点を検討し,7つのカテゴリにまとめた.さらに,学生の総合レポートから,先のICEモデルの学びの視点であるidea,connections,extensionsに基づき各カテゴリを関連付けた.データの解釈および分析の妥当性を6名の共同研究者間で確認した.

4. 倫理的配慮

研究計画書を県立広島大学研究倫理審査委員会(保健福祉)に提出し承認を得た(承認番号:第14MH040,承認日:平成26年11月).実習終了3ヵ月後,すべての学生の成績を評価した後に,学生全員を対象に同学年が集まる場を活用し,本研究の目的と趣旨を口頭で説明した.さらに,研究への協力は自由意志であり,研究協力を断っても成績には一切関係しないこと,研究結果を公表する際は個人が特定されないプライバシー保護について口頭および文書で説明した.その後,回収箱を設置しサイン済みの同意書を回収した.

Ⅳ. 結果

研究協力に同意が得られたのは,61名中29名(47.5%)であった.

統合実習のまとめの総合レポートから学生が得た学びとして226のコードを抽出し,29サブカテゴリにまとめ,最終的に7カテゴリを抽出した.これらカテゴリ,サブカテゴリおよび代表的な記述を表2に示した.以下,カテゴリを【 】サブカテゴリを〈 〉で示し説明する.

表2 多重課題演習とシャドウイング実習から得た学び
カテゴリ サブカテゴリ 学生のまとめの総合レポートの代表的な記述
メンバー看護師の自立の要件 看護師としての役割と責任に対する自覚(7) チーム(メンバー)として動くためにはスタッフ一人一人が果たすべき役割に責任を持ち判断や行動を行っていくことが必要であると感じた.(NO22)
適切な看護ケア技術の必要性(5) 患者さんと直接関わり,その中で適切な時に適切なケアが行われるように配慮し,…略…がメンバー(の役割)である.(NO5)
患者の状態をアセスメントする力の必要性(2) 患者の症状など観察しているがそれが正常なのか,異常なのかを判断しアセスメントする能力である.(NO14)
患者と関係を築く力の必要性(3) 患者さんとコミュニケーションをとり,身体状態,精神状態を把握しながら,患者さんに元気をあたえて,そして,看護師も元気をもらう,そういった関係性が築かれていると感じた.(NO23)
自分の実践能力の見極めとSOSの要請(6) すべてを自分で抱え込み,質の落ちた看護を提供することは患者のためにならないばかりでなく他の看護師の負担を大きくすることにもつながる.自分の持つ能力を適切に判断し,必要時には助けを求めることをも重要であると知った.(NO15)
多重課題に対応する実践的思考 担当する仕事全体の把握による行動計画の明確化(5) 患者それぞれどのようなケアが必要なのか一日の行動計画を明確にし,時間の有効活用する姿を見ることができた(NO6).
生命に直結する重症度・緊急性・危険性の状況判断(8) 看護師がナースステーションに居るときに,呼吸管理のモニターとPHSが同時になった.PHSに出てから,SPO2が低下した患者のもとにまず向かった.(NO12)
計画された業務の優先(4) 点滴や準備を何時までに行っておかなければならないのかを考え,自分の身の振り方を考えておくことが重要だと学んだ.(NO8)
患者の個別性と精神状態への配慮(5) 患者さんの一人一人の性格や精神的な状態も観察し,優先度の決定に組み込むことも必要だと学んだ.(NO8)
効率を考えた時間管理(6) ケアを組み合わせることで,患者の負担が軽減し,業務の効率も上がる.時間を活用するために工夫することが大切であると学んだ.(NO12)
状況変化に応じた臨機応変な対応(9) 自分の計画したことを行うだけでなく,患者の様子を見て新たに提案したこと,患者の要求に応えるために急遽しなければならなくなったこと,など予定していなかったことも多く,時に自分の計画を変更しながら,時に患者に待ってもらいながら,こなしていた.(NO10)
チームナーシングの基盤となるスタッフ間の関係構築 日頃からのよいコミュニケーションづくり(3) チームナーシングが円滑に行えるためにはコミュニケーションがとても大切である.日頃からコミュニケーションを積極的にとり,信頼関係を築くことで困ったときの助け合いの精神が生まれると考える.(NO2)
困ったときに互いに助け合える関係づくり(16) フリーの看護師他の看護師と「お互い様」で協力し合い,高い信頼関係の下で業務を行っていることがわかった.(NO3)
担当以外の周囲の状況に対する気づかい(11) チーム内の自分の担当外の患者へも目を向け情報の収集や気配りを行い,突然のアクシデントに対しても対応がなされていた.(NO25)
師長による個々の看護師から信頼を獲得する気づかい(9) リーダーシップの役割として最も学びにつながったことは看護師や患者への観察・声掛けを含むさまざまな気配りである.師長さんのこの働きかけが,看護師・患者が自分のことを気にかけてくれるという認識につながり,チームでの居場所や役割をもつために不可欠であると考えた.(NO24)
病院組織としてのチーム管理 看護師の能力に適した業務配分と調整(6) 主任や管理者は一人一人の看護師としての能力を理解しており,そのサポート体制ができていることを実習で見ることができた.(NO17)
リーダーによるチーム全体の調整とサポート(13) 私は,リーダーとは単にメンバーを指示してまとめることではなく,メンバーを気にかけ,気にかけてくれているとメンバーが感じられるような働きかけをし,ある時は指導,ある時は評価していくことであると学びを得た.(NO24)
師長による病棟全体の把握と管理(9) 師長は他病棟と連携をとり組織的な指示や把握をおこなったり,病棟全体の把握,調整をおこなっている.(NO21)
多職種チームによる的確な情報交換 自ら得た情報の意味を納得して伝える大切さ(7) 情報を提供するためには,看護師からの報告を聞いたままそのまま変わったことを医師に伝えても,その質問に返すことができない.自分が納得するまで情報収集することを意識して仕事をされていた.(NO6)
相手が正しく判断できるように伝える大切さ(7) 業務の中で,報告・連絡・相談が常に行われており,相手に理解できるように伝えていくことの重要性を思った.(NO17)
看護師の能力に応じた教育的働きかけによる情報収集(6) リーダーは看護師の能力によって報告の際の声掛けが異なっていた.基本的にはアサーティブなコミュニケーションであり,相手の意見を聞き入れ,リーダーの意見も伝え,アイディアの箱をふやしていった.新人の看護師には報告時には具体的に報告してもらう,分からないことを相談しやすい環境を作るとおっしゃっていた.(NO6)
情報共有のための時間捻出とグッズ活用(6) 病棟では,カンファレンスによって一人一人の患者さんの情報をチーム全体で共有したり,誰が見ても分かるように検査呼び出しの貼り出し等を行ったり,情報共有に努めていた.(NO9)
専門職チームによる多職種連携のための情報共有(14) 私が実習させていただいた病棟は急性期病棟であり,患者が入院したときから退院準備が始まっており,循環器カンファレンス,リハビリカンファレンス,退院前カンファレンスなどを行って,医師,リハビリ,地域連携スタッフ,薬剤師,栄養士などの他の医療職種と連携して患者への支援を行っていた.チーム医療は全ての医療職者が平等に意見を述べ合い,個々で分担して医療を提供するのではなく,統合して最善の医療を患者に提供していることが分かった.(NO26)
患者中心の看護の提供 看護師の役割は最善の看護の提供(11) 病院とは適切・効率的に良質の医療を提供する医療機関であり患者に良質な看護を提供することが看護師の果たすべき役割であり,目標である.(NO18)
師長の立場で患者の生の声を聴く大切さ(5) 自分の病棟のベッドコントロールを始め,そのために患者さん一人一人のところに行き,「窓側が空いたから移動しましょう」,「もう少しで個室が空くからまたきます」,などと言って回り,「この部屋はどうですか」と来たばかりの人にも気を配り,生の声を大切にしているということを感じた.師長さんが患者さんの生の声を聞いており,上だけの連携ではないことを学んだ.(NO1)
専門領域の看護実習に向けた自己の課題の明確化 重症度や優先順位を判断する知識と技術の不足(16) 統合実習を通して,自己の課題は優先順位をつけたり,先を見通すための基礎的な知識,アセスメント力,異常・正常の観察力をつけることが必要であると思った.(NO9)
自己の看護実践能力の見極め(2) リーダー・メンバーの実際を見学して得られた学びにより,チームナーシングにおいて求められる看護実践能力と自己の課題としては,基礎的な知識・技術のほかに,自分でできることととできないことの判別を行い,相手を頼る事であると考える.(NO24)
自己の考えをまとめ正しく伝える力の不足(18) 自分の得た情報を自分の考えを含めて伝えるための考察力とコミュニケーション能力を高め,実践していくことを目標として,今後の実習を行って行きたい.(NO3)
チームとして看護する自覚の認識(7) 自分一人ではできないこと,分からないことや気になることは正確に報告・連絡・相談をし,自分もチームの一員であることに自覚と責任をもって情報収集・提供を確実に行う必要がある.(NO18)

*( )の数はコード数を示す

1. 統合実習から得られた学生の学び

1) 【メンバー看護師の自立の要件】

学生は,自立した看護師として患者ケアを実践するための【メンバー看護師の自立の要件】を学んでいた.すなわち,チームメンバーとして働くためには〈看護師としての役割と責任に対する自覚〉をもち,〈適切な看護ケア技術の必要性〉,〈患者の状態をアセスメントする力の必要性〉,〈患者と関係を築く力の必要性〉を認識した.一方で,全ての仕事を一人で抱え込むのではなく,〈自分の実践能力の見極めとSOSの要請〉も重要であると認識していた.

2) 【多重課題に対応する実践的思考】

学生は,急なナースコール,患者の訴え,モニターのアラーム,検査からの呼び出しへの対応,点滴の交換など,実際の看護場面を観ることや看護師からの説明により,【多重課題に対応する実践的思考】を学んでいた.すなわち,看護師がめまぐるしく変化する状況に対応しながら看護を実践するために,〈担当する仕事全体の把握による行動計画の明確化〉を行い,〈生命に直結する重症度・緊急性・危険性の状況判断〉,〈計画された業務の優先〉,〈患者の個別性と精神状態への配慮〉について学んでいた.同時に,限られたスタッフで多くの業務をこなすために〈効率を考えた時間管理〉,また自分の立てた計画を実践するだけでなく〈状況変化に応じた臨機応変な対応〉が,実践で重視されることを学んでいた.

3) 【チームナーシングの基盤となるスタッフ間の関係構築】

学生は,チームで看護が行われるための【チームナーシングの基盤となるスタッフ間の関係構築】を学んでいた.すなわち,看護は患者と一人の看護師の二者関係のみで提供されるだけでなく,看護師のチームで行うことを強く認識していた.そのために,看護師らの間で,〈日頃からのよいコミュニケーションづくり〉,〈困ったときに互いに助け合える関係づくり〉,〈担当以外の周囲の状況に対する気づかい〉がなされていることを認識していた.さらに,〈師長による個々の看護師から信頼を獲得する気づかい〉を記述していた.

4) 【病院組織としてのチーム管理】

学生は,師長やリーダー看護師により,【病院組織としてのチーム管理】がなされていたことを学んでいた.病棟全体またはチーム全体がスムーズに機能するためには,〈看護師の能力に適した業務配分と調整〉が行われ,〈リーダーによるチーム全体の調整とサポート〉,〈師長による病棟全体の把握と管理〉が行われていることを認識し,記述していた.

5) 【多職種チームによる的確な情報交換】

学生は,【多職種チームによる的確な情報交換】の実際とその大切さを学んでいた.すなわち,病棟では,新人から熟練まで様々な実践能力の看護師,一般病棟から手術室やIntensive Care Unitなどの様々な部署に所属する看護師,医師・栄養士・社会福祉士・理学療法士・作業療法士などの看護師以外の他職種,多職種が集まり開催されるカンファレンスの場面で,情報交換・情報共有がなされていることをとらえていた.その際,〈自ら得た情報の意味を納得して伝える大切さ〉,〈相手が正しく判断できるように伝える大切さ〉を認識していた.特に,リーダー看護師や師長は,〈看護師の能力に応じた教育的働きかけによる情報収集〉を行うことで,新人看護師からも的確な情報を得ることを心がけていることを学んでいた.さらに,ホワイトボード,連絡帳など,〈情報共有のための時間の捻出とグッズの活用〉,〈専門職チームによる多職種連携のための情報共有〉がなされていることを認識していた.

6) 【患者中心の看護の提供】

学生は,看護師の実践は全て【患者中心の看護の提供】のためであることを認識した.学生のシャドウイングを受けた看護師らは,〈看護師の役割は最善の看護の提供〉のためであることを学生に強調したことが,学生の記述から読み取れた.また,師長のシャドウイングでは,師長が病室を訪ね一人一人の患者や家族と対話する場面をとらえ,〈師長の立場で患者の生の声を聴く大切さ〉を学んでいた.特に,師長は,入院してきたばかりの患者,退院する患者,手術を控えている患者などの不安を抱えている患者や,ポータブルトイレを使用する患者,歩行困難のある患者などベッドコントロールの際に配慮の必要な患者の声を大切にしていたことをとらえていた.

7) 【専門領域の看護実習に向けた自己の課題の明確化】

学生は,統合実習から得た学びを通して,【専門領域の看護実習に向けた自己の課題の明確化】に結び付けていた.すなわち,〈重症度や優先順位を判断する知識と技術の不足〉,〈自己の看護実践能力の見極め〉,〈自己の考えをまとめ正しく伝えるための力の不足〉から,今後更なる学修を積み,これらを高める必要性を感じていた.さらに,〈チームとして看護する自覚の認識〉を高め,看護学生としての自分のなすべきことは何かを考えていた.

2. 各カテゴリ間の関連

統合実習から得られた学びidea,各カテゴリの関連性を学びのつながりconnections,さらに学びから導き出された自己の課題をextensionsとして,統合実習から得られた学びのカテゴリの関連性を図1に示した.すなわち,【メンバー看護師の自立の要件】,【多重課題に対応する実践的思考】は,責任をもって看護を実践するために自律した看護師になるための自覚を高める学びと位置づけられた.また,【チームナーシングの基盤となるスタッフ間の関係構築】,【病院組織としてのチーム管理】は,看護師チームの一員としての自覚を高める学びと位置付けられた.これらは,【多職種チームによる的確な情報交換】を含め,互いに相互関係をもつと同時に,各カテゴリは【患者中心の看護の提供】へとつながっていることを学修していた.学びを深めることによって,【専門領域の看護実習に向けた自己の課題の明確化】に結び付いていた.

図1

多重課題演習とシャドウイング実習から得た学び

Ⅴ. 考察

1. 統合実習から得られた学びと位置づけ

統合実習を通して,個人の力を高める【メンバー看護師の自立の要件】,【多重課題に対応する実践的思考】,チームの一員としての自覚を高める【チームナーシングの基盤となるスタッフ間の関係構築】,【病院組織としてのチーム管理】,【多職種チームによる的確な情報交換】を学んでおり,それぞれの学びは互いに影響しあっていた.すなわち,患者の生命を最優先しつつ,常に時間と効率を考慮しながらチームで働く看護師の実践的思考(池西,2016)を学ぶことができたと考えられる.さらに,【専門領域の看護実習に向けた自己の課題の明確化】につなげたことは,本実習の目的を達成しており,統合実習の学修成果であると言える.藤澤ら(2013)は,領域ごとに行われる実習を終えた4年生に実施された看護学統合実習について報告した.事前課題・演習・実習という流れ,シャドウイング実習という点が,本統合実習の内容と共通していた.学生の学びは,効率的にケアを行う必要性,緊急性・重症度,患者のニーズや生活を考慮すること,スタッフ間での情報共有の重要性,課題として患者のリスクを予測するための知識の不足を認識していた点が共通していると考えられた.柄澤ら(2010)は卒業前技術演習における多重課題演習で,自分の力量と課題を具体的に自覚することにつながった点,平林ら(2009)は新人看護師への移行演習で,自己の課題を見出し,対応能力を向上させる点を指摘しており,それぞれ自己の課題の明確化という点で本研究と共通していると考えられた.先行研究では4年次生で修得された学びが,本研究では3年次生で同様の学びを得ることができたという点が,大きな教育成果であると考えられた.さらに,本統合実習の学びは,【患者中心の看護の提供】とつながっていた点が,先行研究と異なる点であると考えられた.学生は,看護師や師長の語りや,患者への関わりの場面を通して,忙しい多重課題に対応しながらも看護師による患者や家族に対する温かなケアを学びとっていたと言える.この学びは,学生の看護実践能力の根幹になると考えられた.

本多重課題演習を行ったA大学4年次生の学びと比較した.4年次生の多重課題の事例の理解は,受け持ち患者の看護ケアを通した自らの体験に基づく学びであり,看護職としての就職後の自分を意識する学び(岡田ら,2016a)であった.今回対象とした3年次生は,既修の知識・技術の統合,見学や話を聞くことによる思考を促す学びであり,この点が3年次生と4年次生の学年進行の学びの違いと言える.3年次生にとっては,この学びが受け持ち患者実習を経ることで,4年次の学びを深め,学びの質を高めると考えられた.

2. 各論実習との連動性を意識した今後の教育内容の方向性

【多職種チームによる的確な情報交換】に〈自ら得た情報の意味を納得して伝える大切さ〉,〈相手が正しく判断できるように伝える大切さ〉,〈看護師の能力に応じた教育的働きかけによる情報収集〉が抽出された.報告・連絡・相談の重要性は先行研究で指摘されているが,本実習では,学生は,誰と,どのように,何のための情報交換かを学んでいたことを明らかにすることができた.同時に,【専門領域実習に向けた自己の課題の明確化】において,〈患者情報と自己の考えをまとめ正しく伝える力の不足〉を認識していた.すなわち,事実として得た学びideaを,他の学びとつなげconnections,それらからさらに今後どうすればいいかを考えるextensionsへと至った.すなわち,ICEモデルにおいて深い学びへと発展していったと考えられた.今井ら(2017)は,本実習の学びから各論実習で活用できた内容を明らかにする調査をテキストマイニングの手法を用いた結果,『報告』の言及頻度が高いこと,看護師に声をかけるタイミング,チーム医療における看護上の相談・連絡,情報共有化で対応することの大切さ,を指摘した.看護師のシャドウイングを中心とし,学生が機会をとらえて看護師にインタビューすることを課した本実習は,受け持ち患者の看護を中心とする専門領域の看護実習で,実習指導者や担当看護師への報告という点で学びを積み上げ生かしていると考えられた.すなわち,忙しく働く看護師へ声をかけるタイミングを習得し,リーダー看護師や受け持ち看護師から病棟で展開されている看護過程や看護課題をタイムリーに説明を受けることで,看護学生も医療チームの一員として受け入れられ,実習中から現実に即した学びが可能となると考えられた.看護学生時代から,実習指導者や担当看護師らと臆することないコミュニケーションがとれ医療チームの一員として自覚を高めることは,就職後のリアリティショックの軽減や早期離職の予防に留まらない,多職種連携を基盤とするチーム医療に貢献できる高度なコミュニケーション力の育成につながると考えられた.この点については,今井ら(2017)が指摘しているように,本実習から専門領域の看護実習へと学びを積み上げることが必要であり,さらには専門領域の看護実習修了後の学びの統合につなげることが課題である.

学生は,退院支援カンファレンスや地域連携部門のスタッフが参加するカンファレンスの参加を通して〈他部門/専門職チームによる多職種連携のための情報共有〉についても,本実習でとらえていた.在院日数の短縮化,地域完結型医療への移行が推進されている現在,病院から地域へ移行する際のシームレスな看護の必要性や地域包括ケアシステムづくりが強調されている.さらには,訪問看護師(日本看護協会,2016)や新卒訪問看護師を事業所で育成するという流れ(きらきら訪問ナース研究会,2016)もある.そのため,地域や在宅での看護実践を視野に入れた多職種連携や的確な情報交換を看護基礎教育に組み込む必要がある.刻々と変化する現場と看護基礎教育の乖離を防ぐために,今後は,生活と医療を統合する継続看護や地域包括ケアシステムづくりの視点を組み入れ,多様な場での多様な形の看護があることを前提とした教育内容を,看護の統合と実践に組み入れていく必要がある(長江,2014岡田ら,2016a2016b)と考える.そのためにも,今後の方向性として,4年次に実習全体を振り返ることで,ライフステージを通じた対象理解,人々の生活やその人の暮らす地域を視野に入れた,入院前または退院後の生活をイメージした継続的な視点を統合する教育内容を検討する必要がある.

3. 本研究の限界と今後の課題

本研究結果は,初年度の3年次生に実施した学びであり,一般化するためには,今後本統合実習を継続し,多角的な評価による学修成果を蓄積することが必要である.また,佐々木ら(2008)が評価しているように卒業後の実践状況との関連から成果の検証が必要であると考える.

謝辞:統合実習を受け入れご指導いただいた実習指導者の看護師の皆様,本調査にご協力いただきました学生の皆様に心より感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:MOは研究の着想から原稿作成までのプロセス全体;TIは研究の着想・考察の視点,原稿作成への示唆;MI,MK,AT,MF,TNは研究の推進,データの解釈・分析の妥当性の検討;NMは教育内容・研究および論文作成全体における意見.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
  •  藤澤 雄太, 外崎 明子, 関 奈緒子,他(2013):国立がん研究センター中央病院における看護実践能力の向上をめざした看護学統合実習の展開,国立看大研紀,12(1), 26–33.
  •  後藤 桂子, 松谷 美和子, 平林 優子,他(2007):新人看護師のリアリティショックを和らげるための看護基礎教育プログラム:実践文献レビュー,聖路加看護学雑誌,11(1), 45–52.
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