日本看護科学会誌
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原著
腎移植患者の健康習慣と服薬アドヒアランスおよび腎機能とQOLの関連
池田 直隆河野 あゆみ
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2018 年 38 巻 p. 365-373

詳細
Abstract

目的:腎移植患者の健康習慣,服薬アドヒアランスおよび腎機能とQOLの関連について検討すること.

方法:腎移植患者238名を対象とし,自記式質問紙調査では,健康関連QOLを評価するためにSF-36v2,健康習慣を評価するために6つの健康習慣,服薬アドヒアランスを評価するために日本語版MMAS-8を測定した.電子カルテデータの収集は,分析対象者の基本属性,腎機能(eGFR値)を把握した.

結果:分析対象者142名のうち,健康習慣が良好である群と服薬アドヒアランスの高い群は,精神的QOLが高かった.混合効果モデルの結果,精神的QOLが高いことを有意に説明した要因は,良好な健康習慣,年齢,高い服薬アドヒアランス,肥満度であった.

結論:腎移植患者のQOL向上のために,良好な健康習慣と適切な服薬継続が実践・継続できるよう長期的な支援体制を構築する必要性が示唆された.

Ⅰ. 緒言

腎移植は,慢性腎不全に対する唯一の根治療法となり,他の腎代替療法に比べ,より高いQOLをもたらす(Tonelli et al., 2011).本邦においては,優れた免疫抑制剤の開発,術式の確立に伴い,生体間腎移植の5年生着率は94.5%,献体間腎移植の5年生着率は87.3%(日本移植学会・日本臨床腎移植学会,2017)と治療成績が大幅に向上している.そのため今日において,腎移植後という特殊な状態と長期間折り合って暮らしていかねばならない患者の日常生活の質(QOL)をいかに維持・改善していくかが課題である.しかし,腎移植患者のQOLとその関連する要因については,十分に検討されていない現状である.

海外では,腎移植患者のQOLに関連する要因の一つに,移植した腎機能が影響することが報告されている(Czyżewski et al., 2014).移植腎機能の低下には,免疫反応による拒絶反応と肥満,生活習慣病などによる非免疫要因がある(Kaplan, 2006).腎機能が高度に低下した場合,他の腎代替療法である透析療法を余儀なく再導入せざるを得ず,腎移植患者のQOLは著しく低下しやすい(Maglakelidze et al., 2011).

腎移植患者は拒絶反応の発症を予防するため,免疫抑制剤の服薬を生涯に通じて継続していく必要がある(Adams, 2006Legendre et al., 2014).WHO(世界保健機構)は,患者の適切な服薬継続は,「患者が自分が同意した医療者の勧めに一致した行動をとっている程度」と定義される服薬アドヒアランスを高めることが重要であると示している(WHO, 2003).腎移植患者が日常生活の中で確実な服薬継続を実行していくことは難しく,電子モニターを使用した服薬管理に関する研究では,3~7%のノンアドヒアランス患者が報告されている(Israni et al., 2011).腎移植患者のノンアドヒアランスは遅延性の拒絶反応の発症率と腎機能低下に関連することが報告されており(Vlaminck et al., 2004),腎移植患者の透析再導入のリスクを向上させ,QOLの低下に影響することが推察される.そのため,腎移植患者の服薬アドヒアランスを高めることが拒絶反応の発症と腎機能低下を予防し,腎移植患者のQOLの維持に関連すると考える.

また,腎移植患者は,高血圧,糖尿病,脂質代謝異常などの生活習慣病と肥満の発症を防ぐことが重要である(Keven et al., 2006Faenza et al., 2007).生活習慣病の発症と進行は,動脈硬化,糖尿病性血管障害によって腎機能を低下させる(Nankivell et al., 2003).腎移植患者は腎機能改善に伴う透析療法からの離脱によって,厳しい飲水食事制限からの解放とステロイドの副作用による食欲増進から,体重増加と肥満をきたしやすい.本邦の先行研究においては,外来通院中の腎移植患者の12%が肥満度1以上(BMI 25以上)であり,腎移植後の1年間で平均3 kgの体重増加があったことが報告されている(小関ら,2015).また,腎移植後にBMIが5%以上増加した場合は,移植腎機能廃絶のリスクが有意に高まると報告されている(Ducloux et al., 2005).以上より,良好な健康習慣は,肥満,生活習慣病の発症と腎機能低下を予防し腎移植患者のQOLの維持に関連すると考える.

そこで本研究では概念図(図1)に示す通り,腎移植患者の健康習慣と服薬アドヒアランスおよび腎機能とQOLの関連を明らかにする.本研究によって腎移植患者のQOL向上の具体的な看護支援を検討するための有用な資料として還元できると考える.

図1

概念図

Ⅱ. 方法

1. 対象者

対象者は,平成28年6月1日~8月31日にA病院の腎移植外来に通院する腎移植患者約249名のうち,質問紙への回答が困難な患者5名,入院患者6名を除外した238名(100%)とした.調査施設は,累積腎移植件数が286例の特定機能病院である.

調査対象の選定要件は1)20歳以上であること,2)腎移植術を受けて透析再導入に至っていないこと,3)言語的コミュニケーションが可能なこと,4)日本語の質問紙に回答が可能な者とした.

2. 調査方法

本研究のデザインは横断的観察研究であり,調査方法は無記名の自記式質問紙調査と電子カルテデータからの転記である.自記式質問紙調査は腎移植外来受診時に上記の基準を満たす対象者に対し,質問紙を配布した.質問紙は対象者の自記式を原則とし,視覚障害がある場合は,聞き取り調査を行った.

3. 調査内容

1) 基本属性

質問紙調査では,対象者の基本属性として性別,年齢,身長,体重,雇用状況を把握し,電子カルテより,ドナーソース,急性拒絶反応経験,入院期間,移植前透析期間,移植後経過期間を把握した.身長と体重よりBMIを算出し,BMIが25以上を肥満,25未満を普通体重,18.5未満を低体重として肥満度を分類した.

2) 健康習慣

腎移植患者の健康習慣を把握するために,Wadaらが検証した健康習慣に関する6項目「タバコを吸っていない」,「食事摂取量が多くない」などに対し,「はい」または「いいえ」で回答し,「はい」を1点,「いいえ」を0点として加算した合計点で評価する.合計点が高いほど健康習慣の実行数が高いと判断し,0–2項目の場合は少実行群,3–4の場合は中実行群,5–6の場合は多実行群と分類する(Wada et al., 2009).

3) 服薬アドヒアランス

腎移植患者の服薬アドヒアランスを把握するために,日本語版Morisky Medication Adherence Scale-8(以下MMAS-8)を使用した.MMAS-8は英語版では信頼性・妥当性が検証され(Morisky & DiMatteo, 2011Krousel-Wood et al., 2009),広く使用されている.MMAS-8は,日本語訳(Murota et al., 2015)も作成されており,「薬を飲み忘れたことがある」「薬を飲むことに関して無頓着である」などの8項目に対し回答し,「はい」を0点,「いいえ」を1点として加算した合計点で評価する.合計点が高いほど服薬に対するアドヒアランスが高いと判断し,8点の場合を服薬アドヒアランス高群,6~7点の場合を服薬アドヒアランス中群,0~5点の場合を服薬アドヒアランス低群に分類した(Morisky et al., 2008).

4) 腎機能

腎機能として,電子カルテより本調査直近と腎移植術直後の血清クレアチニン値(Cr),推定糸球体濾過量(estimated glomerular filtration rate:以下eGFR)を把握した.

腎移植患者の腎機能は移植された片腎のみであるため,本研究では,CKD診療ガイド2012を参照し慢性腎臓病(chronic kidney disease:以下CKD)重症度分類におけるGFR区分に基づいて,腎機能をG1(90≦eGFR),G2(60≦eGFR≦89),G3a(45≦eGFR≦59),G3b(30≦eGFR≦44),G4(15≦eGFR≦29),G5(eGFR < 15)の6ステージに分類した.

5) 健康関連QOL

腎移植患者のQOLとして,健康関連QOLを把握した.

健康関連QOLの測定には,MOS36-Item short-form health survey(以下SF-36v2)を使用した.SF-36v2は個人の健康関連QOL(health related quality of life)を測定する信頼性と妥当性が検証された自記式尺度である(Fukuhara et al., 1998aFukuhara et al., 1998b福原・鈴鴨,2004).本研究では,SF-36v2によって測定される身体的側面のQOLサマリースコア(physical component summary以下PCS),精神的側面のQOLサマリースコア(mental component summary以下MCS),役割/社会的側面のQOLサマリースコア(role/social component summary以下RCS)を用いた.PCS,MCS,RCSに関する得点は次の手順で算出した.まず36項目の質問項目に対して,アルゴリズムによって再コード化し,8つの下位尺度得点を算出し,福原らによる日本人口の性別及び年代別の国民標準値(平均値と標準偏差)を用いて,標準化得点を算出した.さらにはこれらの得点に重みづけした因子係数を掛け,総計したのち,偏差得点に変換する.PCS,MCS,RCSの偏差得点が50以上であればQOLが高く,50未満であればQOLが低いと判断した(Suzukamo et al., 2011).

なお,SF-36v2の使用にあたっては,NPO健康医療評価研究機構の許可を得た.

4. 分析方法

まず,基本属性が離散変数である場合QOLの関連の検討には,t検定とマンホイットニーのU検定を用いた.また,基本属性が連続変数である場合QOLの関連の検討には,ピアソンの積率相関係数とスピアマンの順位相関係数を用いた.調整変数を検討するために,ここでは危険率10%未満を傾向ありとした.

次に,健康習慣・服薬アドヒアランス・CKDステージとQOLの関連を検討するために,混合モデルの一元配置共分散分析を行い群間差を検討した.本研究では,固定効果として年齢,性別,移植後経過期間を投入,調整変数として単変量でQOLとp < .1未満で関連した変数を投入,変量効果として生体間腎移植と献体間腎移植による個々の属性のばらつきを調整するため,ドナーソースを投入した.

最後に,固定効果に年齢,性別,移植後経過期間,健康習慣,服薬アドヒアランス,CKDステージ,変量効果にドナーソース,調整変数として肥満度を投入した混合効果モデルを行った.なお,多重共線性を回避するため,投入する変数の分散拡大係数は1.0未満であることを確認した.統計解析には,SAS University Editionを用い,危険率5%未満を有意とした.

5. 倫理的配慮

大阪市立大学大学院看護学研究科倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号27-8-3).対象者には調査の趣旨や目的を明記した文書を配布し,目的,意義,方法,匿名性の維持,参加の自由,不参加による不利益がないこと,電子カルテデータの転記を行うことを口頭にて説明した.質問紙の回答ならびに提出をもって調査に同意したとみなし,対象者はIDにて匿名化し,管理・分析した.

Ⅲ. 結果

1. 対象者の基本属性及び健康関連QOL

対象者238名(100%)のうち調査期間内に外来を受診しなかった33名(13.8%)を除き,205名(86.1%)に質問紙を配布し,未回答数35名(14.7%),回収数170名(71.4%)のうち有効回答数142名(59.7%)を分析対象者とした.

対象者の基本属性については,女性が44.4%であり,平均年齢は51.3(SD 12.3)歳,就労ありの者は60.6%であった.ドナーソースは生体間腎移植が86.6%と多数を占め,平均移植前透析期間は51.1(SD 84.4)ヵ月,平均移植後経過期間は82.1(SD 75.4)ヵ月であった.健康習慣は,高実行群が30.3%,中実行群が59.9%,低実行群が9.9%であり,服薬アドヒアランスは,高群が52.1%,中群が38.7%,低群が9.2%であった.腎機能については,平均eGFR値は44.7(SD 13.5)ml/min/1.73 m2であり,CKDステージ3b以上は87.3%であった.また,腎移植直後の平均eGFRは47.8(SD 14.2)ml/min/1.73 m2であった(表1).

対象者の健康関連QOLサマリースコアについては,PCSは48.0(SD 10.6)点,RCSは47.3(SD 15.0)点であり,福原・鈴鴨(2004)によって報告された国民標準値を有意に下回っていた.MCSは51.6(SD 9.3)点で有意な差はなかった(表1).

表1 対象者の基本属性及び健康関連QOL n = 142
項目
基本属性
性別 女性 n(%) 63(44.4)
男性 79(55.6)
年齢 Mean(SD) 51.3(12.3) (21–77)
就労 あり n(%) 86(60.6)
なし 56(39.4)
ドナーソース 生体 n(%) 123(86.6)
献腎 19(13.4)
肥満度 低体重 n(%) 21(14.8)
普通体重 97(68.3)
肥満 24(16.9)
急性拒絶反応経験1) あり n(%) 33(25.8)
なし 95(74.2)
入院期間1) Mean(SD) 50.2(27.8) (20–190)
移植前透析期間1) ヵ月 Mean(SD) 51.1(84.4) (0–580)
移植後経過期間 ヵ月 Mean(SD) 82.1(75.4) (1–335)
健康習慣 高実行群 n(%) 43(30.3)
中実行群 85(59.9)
低実行群 14(9.9)
服薬アドヒアランス 高群 n(%) 74(52.1)
中群 55(38.7)
低群 13(9.2)
腎機能
eGFR2) ml/min/1.73 m2 Mean(SD) 44.7(13.5) (7.4–80.5)
腎移植直後のeGFR1) ml/min/1.73 m2 Mean(SD) 47.8(14.2) (22.5–98.6)
CKDステージ G2(60≦eGFR < 90) n(%) 17(12.0)
G3a(45≦eGFR < 60) 55(38.7)
G3b(30≦eGFR < 45) 52(36.6)
G4(15≦eGFR < 30) 14(9.9)
G5(eGFR < 15) 4(2.8)
健康関連QOL:SF-36v2
身体的側面のQOL PCS Mean(SD) 48.0(10.6)* (15.5–78.5)
精神的側面のQOL MCS Mean(SD) 51.6(9.3) (20.3–75.4)
役割/社会的側面のQOL RCS Mean(SD) 47.3(15.0)* (5.5–68.3)

*p < .05 健康関連QOLは福原・鈴鴨(2004)に報告された国民標準値と比較しt検定により算出した.

1)急性拒絶反応経験(n = 128),入院期間(n = 131),移植前透析期間(n = 123),腎移植直後のeGFR(n = 134)

2)eGFR: estimated glomerular filtration rate,推定糸球体濾過量

2. 調整変数の検討

対象者の健康関連QOLのうちPCSについては,年齢(R = –0.24, p = .004),移植前透析期間(R = –0.27, p < .001),就労あり(p = .008),MCSについては,年齢(R = 0.21, p = .002),肥満度(p = .001),RCSについては,年齢(R = –0.25, p = .009),就労あり(p = .001),腎機能(R = 0.18, p = .002)が有意に各得点と関連していた.

3. 健康習慣・服薬アドヒアランスおよび腎機能と健康関連QOLの関連

健康習慣について,高実行群・中実行群・低実行群間にPCSとRCSの得点に有意な差はみられなかったが,MCS得点には有意な差がみられた(F = 7.3, p < .001).MCSの得点について高実行群は55.3(SE 1.5)点,中実行群は50.5(SE 0.9)点,低実行群は46.3(SE 2.3)点であり,健康的な生活習慣を実行しているほどMCS得点が高かった(表2).

表2 健康習慣・服薬アドヒアランスおよび腎機能と健康関連QOLの関連 n = 142
項目 カテゴリ n PCS1)平均推定値(SE MCS2)平均推定値(SE RCS3)平均推定値(SE
健康習慣 高実行群 43 54.3(2.7) 55.3(1.3) 47.4(2.3)
中実行群 85 48.0(1.1) 50.5(0.9) 47.3(1.6)
低実行群 14 47.1(1.6) 46.3(2.3) 49.6(3.9)
F 2.74) 7.3**5) 0.26)
服薬アドヒアランス 高群 74 48.1(1.2) 53.5(0.9) 46.2(1.7)
中群 55 48.7(1.4) 50.7(1.2) 49.8(2.0)
低群 13 48.2(2.8) 44.6(2.4) 46.2(1.7)
F 0.14) 6.3**5) 1.06)
CKDステージ G2 17 47.6(2.6) 52.3(2.2) 40.3(7.0)
G3a 55 50.5(1.4) 52.2(1.2) 46.0(2.8)
G3b 52 47.2(1.4) 50.8(1.3) 48.9(2.7)
G4 14 48.1(2.8) 52.0(2.4) 53.7(6.3)
G5 4 40.2(5.0) 48.4(4.6) 56.5(11.4)
F 1.44) 0.35) 0.36)

* p < .05 ** p < .01 値が高いほどQOLが高いことを示す.

固定効果を性別,年齢,移植後経過期間,変量効果をドナーソースとした混合モデルによる一元配置共分散分析にて算出した.

1)PCS:physical component summary

2)MCS:mental component summary

3)RCS:role/social component summary

4)調整変数として移植前透析期間,就労を投入した.

5)調整変数として肥満度を投入した.

6)調整変数として移植前透析期間,就労を投入した.

服薬アドヒアランスについて,高群・中群・低群間にPCSとRCSの得点に有意な差はみられなかったが,MCS得点には有意な差がみられた(F = 6.3, p < .001).MCSの得点について高群は53.5(SE 0.9)点,中群は50.7(SE 1.2)点,低群は44.6(SE 2.4)点であり,服薬アドヒアランスが高いほどMCS得点が高かった(表2).

腎機能については,CKDステージによってPCS・MCS・RCS得点に有意な差はみられなかった(表2).

4. 精神的QOLと健康習慣・服薬アドヒアンス・基本属性の関連性

従属変数にMCS得点とした混合効果モデルの結果,MCS得点が高いことを有意に説明した要因は,良好な健康習慣(F = 6.00),高い年齢(F = 4.22),高い服薬アドヒアランス(F = 5.22),高い肥満度(F = 4.22)であった(表3).

表3 混合モデルによる精神的QOLと健康習慣・服薬アドヒアンス・基本属性の関連性 n = 142
独立変数(基準水準) 精神的QOL(MCS)1)
固定効果の解 効果
β(SE) t F
Intercept 54.35(5.66) 9.59
年齢 0.12(0.06) 2.05 4.22*
性別(男性=0) 2.11
女性 –2.14(1.47) –1.45
移植後経過期間 0.01 1.16 1.35
肥満度(肥満群=0) 4.22*
低体重群 –6.19(2.69) –2.30
普通体重群 –5.62(1.99) –2.82
健康習慣(高実行群=0) 6.00**
中実行群 –4.61(1.63) –2.82
低実行群 –7.97(2.67) –3.22
服薬アドヒアランス(高群=0) 5.22**
中群 –1.67(1.53) –1.09
低群 –8.37(2.61) –3.22
CKDステージ(G5 = 0) 0.09
G2 –0.24(4.82) –0.05
G3a 0.64(4.47) 0.14
G3b 0.63(4.43) 0.01
G4 1.59(4.89) 0.33

* p < .05 ** p < .01 固定効果を性別,年齢,移植後経過期間,健康習慣,服薬アドヒアランス,CKDステージ,変量効果をドナーソース,調整変数として肥満度を投入した混合効果モデル

1)MCS:mental component summary

Ⅳ. 考察

本研究の特徴は,自宅で生活している腎移植患者を対象に質問紙調査を行い,腎移植患者の健康習慣,服薬アドヒアランスおよび腎機能とQOLの関連を明らかにしたことである.その結果,以下に得られた知見について考察する.

第1に,本研究における腎移植患者の特徴について述べる.本研究の対象者の平均年齢や性別,ドナーソースの割合は,本邦で実施された腎移植の臨床登録集計の結果(日本移植学会・日本臨床腎移植学会,2017)と比べて大きな違いはなかった.次に,健康関連QOLは,身体的側面のQOLと役割/社会的側面のQOLは国民標準値(Suzukamo et al., 2011)と比較してわずかに下回っていたが,精神的QOL得点は有意な差はなかった.この結果は,先行研究の結果と概ね一致する(McAdams-DeMarco et al., 2018).本尺度におけるQOL得点の臨床における最小重要差(Minimally Important Difference以下MID)は2~3点と報告されており(Swigris et al., 2010),自宅で生活する腎移植患者は,一般的な国民と同程度のQOLを得ていると考えられる.透析療法を離脱した後も腎移植患者は,免疫抑制剤による易感染状態,透析経験による合併症,継続的な内服薬の摂取,定期的な外来通院や検査入院など,QOLを低下させると考えられる複数の要因があるが,腎移植後に安定した経過が得られた場合におけるQOLの高さを示しているものと考えられる.

第2に,健康習慣,服薬アドヒアランスおよび腎機能が健康関連QOLに及ぼす影響について述べる.本研究では,健康習慣と服薬アドヒアランスが腎移植患者の精神的QOLに有意に関連していたが,腎機能は関連していなかった.腎移植患者の生活には,免疫抑制剤の内服,腎保護・感染予防行動,ストレス管理などの自己管理行動を必要とする.そのため,良好な健康習慣を実施していることが,自己効力感を高め,肥満や生活習慣病を予防し,日常生活における精神的QOLの向上につながっていると考えられる.また,高い服薬アドヒアランスによる適切な服薬管理行動が拒絶反応や副作用の出現を予防するとともに,身体症状への不安を軽減し,日常生活における精神的QOLの向上につながっていると考えられる.海外における先行研究において,腎移植患者の不安,うつ病といった精神状態が,死亡率の上昇や腎機能廃絶リスクを上げること(Novak et al., 2010)とQOLの低下,入院率・拒絶反応の発症率の増加,合併症の数に関連することが報告されている(Jana et al., 2014).腎移植患者の精神的QOLの向上は,不安・うつ病といった精神状態に関連することが予測され,腎移植患者のQOL向上のために,良好な健康習慣と適切な服薬継続が実践・継続できるよう長期的な支援体制を構築する必要性が示唆される.

海外の先行研究では,腎移植患者のQOLに移植した腎機能が影響することが報告されている(Czyżewski et al., 2014)なか,本研究では,腎機能とQOLが有意に関連していなかったことは興味深い.腎移植患者については,透析療法を離脱することでそのQOLは向上する一方(Tonelli et al.,2011),腎機能が高度に低下し透析を再度導入することでQOLが低下する(Czyżewski et al., 2014)ことが指摘されており,透析療法の導入によりそのQOLは著しく低下する.本研究の対象者には透析療法の再導入に至った者はみられず,このことが本結果においてQOLに腎機能の程度が関連しなかったと考えられる.

第3に,腎移植患者の精神的QOLに関連する要因について述べる.精神的QOLの向上に関連していた要因は,良好な健康習慣(F = 6.00),高い年齢(F = 4.22),高い服薬アドヒアランス(F = 5.22),高い肥満度(F = 4.22)であった.健康習慣と服薬アドヒアランスに加え,肥満度が高いことと高齢であることが良好な精神的QOLと関連していた.肥満腎移植患者は非肥満腎移植患者と比較して優位に状態不安と特性不安が低いと報告されている(小関ら,2015)ことから肥満腎移植患者の低い不安状態が精神的QOLに影響したと推測する.次に,日本人におけるMCS得点は高齢であるほど高くなる傾向が示されているため(Suzukamo et al., 2011),高齢であることが腎移植患者の精神的QOLに影響したと推測する.

Ⅴ. 本研究の限界と看護への適用

本研究の結果の解釈にあたり,限界を以下に述べる.本研究はある一時点における横断調査であるため,対象者の腎機能が経時的な変化がその後のQOLにどのように影響しているかについては示すことができなかった.今後縦断的に調査を行い,腎機能とQOLとの関連を経時的に検討する必要がある.また,未回答者の実態も把握出来ず,未回答者の中にQOLの低い対象が多く含まれている可能性,QOLの高い対象が回答している可能性もある.さらに,同意が得られた1施設のみの調査であり,他施設への結果の一般化には限界がある.

次に看護への適用を述べる.上述した研究の限界はあるが,本研究では,1施設の全数を対象としたことから,統一した治療と退院支援を受けた腎移植患者を調査対象とすることが出来た.また,退院後の腎移植患者の健康習慣と服薬アドヒアランスおよび腎機能とQOLの関連を検討した点は新規性が高いと考えられる.そして,健康習慣と服薬アドヒアランスという自己管理行動が,QOLの向上に関連することは評価できる点である.これらの結果は,腎移植患者の精神状態をアセスメントする際の視点として活用可能であり,退院後の中・長期的な援助を考えるうえでも有用であると考える.レシピエント移植コーディネーター認定制度の制定に伴い,腎移植患者の生活に看護師の援助はますます重要になっていると考えられる.今後,腎移植患者のQOL向上のために,良好な健康習慣と適切な服薬継続が実践・継続できるよう長期的な支援体制を構築する必要性が示唆された.

Ⅵ. 結語

本研究では,腎移植患者に対する質問紙調査を実施し,腎移植患者の健康習慣,服薬アドヒアランスおよび腎機能とQOLの関連を検討した.その結果,健康習慣が良好である群と服薬アドヒアランスが高い群が,精神的QOLが高かった.また,混合効果モデルの結果,精神的QOLが高いことを有意に説明した要因は,高い年齢,良好な健康習慣,高い服薬アドヒアランス,高い肥満度であった.

付記:本論文は大阪市立大学大学院看護学研究科に提出した修士論文に加筆・修正したものの一部である.

謝辞:本研究にご協力頂いた対象者の皆さま,対象施設の医師・コーディネーター・看護師の皆さまに深く御礼申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:筆頭著者INは,研究の着想およびデザイン,調査実施と統計解析,論文執筆まで研究全体のプロセスを中心的に行った.

KAは研究の着想およびデザインに貢献するとともに,論文執筆への示唆および研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
 
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