日本看護科学会誌
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原著
大腸がん患者の症状の認識とリスク因子の知識および生活習慣との関連
宇地原 大海神里 みどり
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2018 年 38 巻 p. 383-393

詳細
Abstract

目的:大腸がんの症状の認識とリスク因子の知識,生活習慣との関連を明らかにする.

方法:大腸がん患者を対象に症状の認識とリスク因子の知識,生活習慣に関する質問紙調査を行った.症状の認識の程度に応じて「現在も知らない」,「罹患後に知った」,「罹患前から知っている」の3群にわけ分析した.

結果:研究参加者は95人であった.症状を「現在も知らない」群は36人(37.9%)で,男性,病期II/III期の者が多く,年収,リスク因子の知識が低く,生野菜摂取量が少なく,飲酒,脂肪分の摂取量が多かった.「罹患後に知った」群は40人(42.1%)で,女性,病期II/III期の者で,生野菜の摂取量が多く,飲酒,脂肪分の摂取量が少なかった.「罹患前から知っている」群は19人(20.0%)で,病期0/I期の者が多く,年収,リスク因子の知識が高く,脂肪分の摂取量が少なかった.

結論:大腸がんの症状の認識によりリスク因子の知識や生活習慣に相違があり,特徴に応じた看護支援の必要性が示唆された.

Ⅰ. 緒言

大腸がんは他のがんと比較しても予後が良好ながんのひとつであるが,一方で,過去20年間で罹患数,死亡数ともに増加傾向にあり,我が国の全がんの罹患数第1位,死亡数第2位を占めている(国立がん研究センター,2018).大腸がんは日本だけでなく世界各国で増加傾向にあり(American Cancer Society, 2017),対策が迫られている.その対策の1つが,大腸がんの特徴的な症状について啓発し,早期受診を促すというものである(Moffat et al., 2015).大腸がんは初期ではほとんど症状がみられないが,進行に伴い持続する出血や下痢と便秘を繰り返す排便異常などの特徴的な症状が出現する(American Cancer Society, 2017国立がん研究センター,2018).これらの症状は患者に大腸がんの罹患を気づかせるきっかけとなるが,一般住民の25%が「自覚症状を知らない」と述べていることが明らかになっている(Power et al., 2011).大腸がんの症状を知らないということは単に受診が遅れるだけでなく,予後の短縮とも関連していることが明らかになっており(Niksic et al., 2016),症状の認識を高めることは重要な支援と言える.しかし,国内においては,がん患者が症状を自覚してから医療機関を受診するまでのプロセスを検討した研究(廣川,2006中神・明石,2010小山・佐藤,2013)が実施されているものの,罹患後の大腸がん患者を対象に症状の認識を明らかにした研究は行われていない.

また,普段の生活習慣も大腸がんの予後に影響することが明らかにされている.大腸がん罹患はいくつかのリスク因子が明らかになっており,飲酒や喫煙などの生活習慣が影響すると言われている(American Cancer Society, 2017).これらのリスク因子は大腸がん罹患に影響するだけでなく,大腸がんの罹患後であっても食事内容の変更や適正体重の維持,定期的な身体活動を継続することで,生命予後を延長することが期待されている(Lee et al., 2015Van Blarigan et al., 2018).しかし,生活習慣ががん罹患に影響していることは大腸がん患者にほとんど知られていないことも報告されており(Stead et al., 2012),大腸がん患者は知識不足のために,予後の改善を目的とした生活習慣の改善に至っていないと予想できる.

そこで本研究では,大腸がん患者の症状の認識を明らかにし,さらにその症状の認識とリスク因子の知識,ならびに現在の生活習慣との関連を明らかにすることを目的とする.

Ⅱ. 用語の説明

大腸がんの症状の認識:大腸がんの特徴的症状そのものを知っているかどうか,および出血などの症状が大腸がんと関連するものと認識しているかどうかを指し示す用語として用いる.一般的には罹患部位や進行に応じて血便・肛門出血,便秘・下痢,便狭小などの症状が現れるが,本調査では症状の内容や程度は問わないものとした.一般的には罹患部位や進行に応じて血便・肛門出血,便秘・下痢,便狭小などの症状が現れるが,本調査では症状の内容や程度は問わないものとした.

Ⅲ. 研究方法

1. 調査対象者

医療機関3施設で,外来通院中の30~70代で,大腸がんに対する外科的切除を受けて3ヶ月以上経過し,再発・転移が認められない者のうち,コミュニケーション可能で,外来看護師および担当医師により研究参加が可能と判断された日本語の識字能力を持つ者を調査対象者とした.

2. 調査期間

調査期間は平成29年9月11日~10月31日の約7週間であった.

3. データ収集方法

診察の待ち時間を利用して,10~15分程度の無記名による自記式質問紙調査を実施した.質問紙は鍵付きの回収箱への投函,または研究者への手渡しにて回収した.

4. 調査内容

1) 大腸がんの症状の認識

大腸がんの症状の認識について,「現在も知らない」,「罹患後に知った」,「罹患前から知っている」の3択で回答を得た.

2) 大腸がんのリスク因子の知識

国立がん研究センター(2018)およびアメリカがん協会(American Cancer Society, 2017)により,大腸がん罹患との関連が指摘されているリスク因子の知識について,「現在も知らない」,「罹患後に知った」,「罹患前から知っている」の3択で回答を得た.

リスク因子は,①大腸がんの家族歴,②炎症性腸疾患の既往歴,③糖尿病の既往歴,④飲酒習慣,⑤喫煙歴,⑥肥満(BMI≧27 kg/m2),⑦赤身肉の摂取,⑧身体活動の8項目とした.ただし,⑧身体活動の項目は身体不活動のリスクと身体活動の効果の2項目から構成されているため,全質問項目は9項目である.各項目は,「現在も知らない」を1点,「罹患後に知った」を2点,「罹患前から知っている」を3点として点数化した.各質問項目の点数の合計点を算出し,リスク因子の知識得点とした(最低点9点,最高点27点).

3) リスク因子に関連する生活習慣の調査

大腸がん患者の生活習慣を評価する指標として,アメリカ国立がん研究所が公表しているColorectal Cancer Risk Assessment Tool(National Cancer Institute, 2014)と,Breslowの健康習慣に基づいた生活習慣調査票(ヘルスアセスメント検討委員会,2000)を基に19の質問項目を作成した.

4) 基本的属性および医学的特性

基本的属性は年齢,性別,最終学歴,就業状況,年収とした.また,医学的特性は既往歴,家族歴,受診状況とし,治療内容や病期は診療録および担当医から情報を得た.

5. データ分析

得られたデータはIBM SPSS ver. 23.0を用いて分析した.大腸がんの症状の認識に応じて「現在も知らない」,「罹患後に知った」,「罹患前から知っている」の3群にわけて単変量解析を実施した.分析は,名義データにはPearsonのχ2検定を,連続変数にはKruskal-Wallisの検定を用いた.

なお,本研究は3施設にてデータを収集しているため,対象者の基本的属性および医学的属性に有意差がないことを確認し,データの分析を行った.

6. 倫理的配慮

本研究は沖縄県立看護大学倫理審査委員会(承認番号;17003)および各調査施設の倫理審査委員会の承認を得て実施した.外来看護師もしくは主治医が外来患者に研究者による説明の可否を確認した後,患者を紹介してもらった.紹介された対象者に対して研究者から研究目的と方法(診療録の閲覧と質問紙調査),参加は自由意思であること,データは研究目的以外には使用しないこと,匿名性・個人情報の保護,結果の公表方法について文書および口頭にて説明し,質問紙の提出をもって研究参加の同意を得た.なお,研究開始前に患者の紹介を行う医療者に対して説明を行い,依頼時に強制力が働かないように留意した.回答は対象者の負担にならないよう外来診察の待ち時間に個室にて行えるように配慮した.

Ⅳ. 結果

1. 研究対象者

調査期間中に外来受診した大腸がん患者は233人であった.このうち選定基準をもとに主治医・外来看護師により116人が除外され,117人が研究対象者となった.除外基準は年齢,再発・転移・多重がんの有無とした.これらの対象者に研究協力の依頼を行い,107人から同意が得られた.同意取得後に質問紙を配布し,95人から回収した(回収率;88.7%).研究の同意が得られなかった対象者の主な理由は「気分が乗らない」が5人,「体調が悪い」が3人,「時間がない」が2人であった.

2. 対象者の基本的属性および医学的特性

対象者の基本的属性と医学的特性を表1に示す.性別は男性65人(68.4%),女性30人(31.6%)であった.平均年齢は65.8 ± 8.03歳であり,60歳以上の者が77%を占めた.職業は正規雇用25人(26.3%),非正規雇用10人(10.5%),自営業・農漁業15人(15.8%),主婦を含む無職・定年退職者45人(47.3%)であった.最終学歴は高等学校卒43人(45.3%),年収は100万円以下40人(43.0%)であった.

表1 大腸がんの症状の認識と基本的属性・医学的特性 n = 95
項目 全体 大腸がんの症状の認識 p
①現在も知らない ②罹患後に知った ③罹患前から知っている
n = 95(100.0) n = 36(37.9) n = 40(42.1) n = 19(20.0)
年齢(歳)* 66.0(50–79) 69.0(50–79) 65.0(52–79) 64.0(51–75) .120
n(%) n(%) n(%) n(%)
年代(内訳)
50代 21(22.1) 7(19.4) 8(20.0) 6(31.6) .404
60代 42(44.2) 14(38.9) 18(45.0) 10(52.6)
70代 32(33.7) 15(41.7) 14(35.0) 3(15.8)
性別
男性 65(68.4) 30(83.3) 23(57.5) 12(63.2) .046
女性 30(31.6) 6(16.7) 17(42.5) 7(36.8)
最終学歴
小・中学校 25(26.3) 12(33.3) 11(27.5) 2(10.5) .416
高校 43(45.3) 18(50.0) 15(37.5) 10(52.6)
専門学校 7( 7.4) 1( 2.8) 5(12.5) 1( 5.3)
短期大学 6( 6.3) 1( 2.8) 3( 7.5) 2(10.5)
大学 14(14.7) 4(11.1) 6(15.0) 4(21.1)
職業
正規雇用 25(26.3) 8(22.2) 11(27.5) 6(31.6) .902
非正規雇用 10(10.5) 4(11.1) 5(12.5) 1( 5.3)
自営業・農業・水産業 15(15.8) 8(22.2) 4(10.0) 3(15.8)
主婦 14(14.7) 4(11.1) 7(17.5) 3(15.8)
無職・定年退職 31(32.6) 12(33.3) 13(32.5) 6(31.6)
年収
300万円未満 76(80.0) 32(88.9) 33(82.5) 11(57.9) .037
300万円以上 17(17.9) 4(11.1) 6(15.0) 7(36.8)
病期
0/I期 20(21.1) 7(19.4) 4(10.0) 9(47.4) .004
II/III期 75(78.9) 29(80.6) 36(90.0) 10(52.6)
化学療法の有無
あり 58(61.1) 21(58.3) 29(72.5) 8(42.1) .075
なし 37(38.9) 15(41.7) 11(27.5) 11(57.9)
家族歴の有無
あり 20(21.1) 6(16.7) 7(17.5) 7(36.8) .402
なし 71(74.7) 29(80.6) 31(77.5) 11(57.9)
わからない 4( 4.2) 1( 2.8) 2( 5.0) 1( 5.3)
健診・人間ドック
1年に1回 46(48.4) 14(38.9) 24(60.0) 8(42.1) .113
数年受けていない 12(12.6) 4(11.1) 3( 7.5) 5(26.3)
全く受けていない 37(38.9) 18(50.0) 13(32.5) 6(31.6)
大腸がん検診
1年に1回 17(17.9) 7(19.4) 4(10.0) 6(31.6) .334
数年受けていない 7( 7.4) 2( 5.6) 4(10.0) 1( 5.3)
全く受けていない 71(74.7) 27(75.0) 32(80.0) 12(63.2)

* 中央値,p値はKruskal-Wallisの検定

p値はPeasonのχ2検定

医学的特性として,診断時の病期分類は,0期2人(2.1%),I期18人(18.9%),II期34人(35.8%),III期41人(43.2%)であった.対象者のうち術後補助化学療法を受けていた者は58人(61.1%),大腸がんの家族歴を有する者は20人(21.1%)であった.定期健康診断や人間ドックを毎年受けている者は46人(48.4%)で,大腸がん検診を毎年受けている者は17人(17.9%)であった.

3. 大腸がんの症状の認識

大腸がんの症状の認識の状況を3群に分けた結果,「現在も知らない」群が36人(37.9%),「罹患後に知った」群が40人(42.1%),「罹患前から知っている」群が19人(20.0%)であった.大腸がんの症状の認識による受診前の自覚症状の有無に有意差はなかった(p = 0.205).

4. 大腸がんの症状の認識別による基本的属性・医学的特性の特徴

大腸がんの症状の認識と基本的属性,医学的特性を比較した結果を表1に示す.年齢を比較した結果,3群間に有意差はなかった.性別では,男性の方が女性よりも大腸がんの症状を「現在も知らない」群が有意に多かった(p = 0.046).特に,大腸がんの症状を「現在も知らない」群の方が「罹患後に知った」群よりも男性が有意に多かった(p = 0.048).年収では,大腸がんの症状を「現在も知らない」群の方が「罹患前から知っている」群より年収300万円以上が有意に多かった(p = 0.037).その他,最終学歴や就業状況では3群間に有意差はなかった.

大腸がんの症状の認識と医学的特性を比較した結果,大腸がんの症状を「現在も知らない」群と「罹患後に知った」群は,「罹患前から知っている」群よりも病期II/III期が有意に多かった(p = 0.004).術後補助化学療法の有無は,3群間で有意差はなかった.

5. 大腸がんの症状の認識別によるリスク因子の知識の特徴

大腸がんの症状の認識とリスク因子の知識を比較した結果を表2に示す.大腸がんの症状を「現在も知らない」群のリスク因子の知識得点は中央値9.0点(範囲;9~16),「罹患後に知った」群のリスク因子の知識得点は中央値11.0点(範囲;9~22),「罹患前から知っている」群のリスク因子の知識得点は中央値15.0点(範囲;9~26)であった.大腸がんの症状を「現在も知らない」群はリスク因子の知識得点が有意に低く,「罹患前から知っている」群は得点が有意に高かった(p < 0.000).

表2 大腸がんの症状の認識とリスク因子の知識 n = 95
項目 全体 大腸がんの症状の認識 p
①現在も知らない ②罹患後に知った ③罹患前から知っている
n = 95(100.0) n = 36(37.9) n = 40(42.1) n = 19(20.0)
リスク因子の知識得点化スコア* 10.0 9.0 11.0 15.0 <.000
n(%) n(%) n(%) n(%)
1.家族歴との関連
現在も知らない 65(68.4) 32(88.9) 27(67.5) 6(31.6) <.000
罹患後に知った 11(11.6) 2( 5.6) 9(22.5) 0( 0.0)
罹患前から知っている 19(20.0) 2( 5.6) 4(10.0) 13(68.4)
2.炎症性腸疾患の既往との関連
現在も知らない 88(92.6) 36(100.0) 39(97.5) 13(68.4) <.000
罹患後に知った 2( 2.1) 0( 0.0) 1( 2.5) 1( 5.3)
罹患前から知っている 5( 5.3) 0( 0.0) 0( 0.0) 5(26.3)
3.糖尿病の既往との関連
現在も知らない 88(92.6) 36(100.0) 38(95.0) 14(73.7) .001
罹患後に知った 3( 3.2) 0( 0.0) 2( 5.0) 1( 5.3)
罹患前から知っている 4( 4.2) 0( 0.0) 0( 0.0) 4(21.1)
4.赤身肉摂取との関連
現在も知らない 61(64.2) 31(86.1) 23(57.5) 7(36.8) <.000
罹患後に知った 23(24.2) 5(13.9) 13(32.5) 5(26.3)
罹患前から知っている 11(11.6) 0( 0.0) 4(10.0) 7(36.8)
5.喫煙習慣との関連
現在も知らない 60(63.2) 32(88.9) 21(52.5) 7(36.8) <.000
罹患後に知った 18(18.9) 2( 5.6) 12(30.0) 4(21.1)
罹患前から知っている 17(17.9) 2( 5.6) 7(17.5) 8(42.1)
6.飲酒習慣との関連
現在も知らない 62(65.3) 31(86.1) 24(60.0) 7(36.8) <.000
罹患後に知った 19(20.0) 5(13.9) 10(25.0) 4(21.1)
罹患前から知っている 14(14.7) 0( 0.0) 6(15.0) 8(42.1)
7.過体重・肥満との関連
現在も知らない 73(76.8) 33(91.7) 30(75.0) 10(52.6) .001
罹患後に知った 14(14.7) 3( 8.3) 8(20.0) 3(15.8)
罹患前から知っている 8( 8.4) 0( 0.0) 2( 5.0) 6(31.6)
8.身体不活動との関連
現在も知らない 71(74.7) 31(86.1) 31(77.5) 9(47.4) .001
罹患後に知った 16(16.8) 5(13.9) 7(17.5) 4(21.1)
罹患前から知っている 8( 8.4) 0( 0.0) 2( 5.0) 6(31.6)
9.身体活動による予防効果
現在も知らない 73(76.8) 36(100.0) 27(67.5) 10(52.6) <.000
罹患後に知った 17(17.9) 0( 0.0) 11(27.5) 6(31.6)
罹患前から知っている 5( 5.3) 0( 0.0) 2( 5.0) 3(15.8)

* 中央値,p値はKruskal-Wallisの検定

p値はPeasonのχ2検定

6. 大腸がんの症状の認識別による生活習慣の特徴

大腸がんの症状の認識と生活習慣との関連を表34に示す.大腸がんの症状の認識と有意差がみられた項目は,「脂肪分の摂取状況」,「生野菜の摂取量」,「飲酒習慣の有無」,「甘い物の摂取」などであった.

表3 大腸がんの症状の認識と生活習慣(食事内容・食事の摂り方・嗜好品) n = 95
項目 全体 大腸がんの症状の認識 p値*
①現在も知らない ②罹患後に知った ③罹患前から知っている
n = 95(100.0) n = 36(37.9) n = 40(42.1) n = 19(20.0)
n(%) n(%) n(%) n(%)
食事内容 脂肪分の多い食事をよく食べるか
よく食べる 19(20.0) 14(38.9) 5(12.5) 0( 0.0) .001
食べない 76(80.0) 22(61.1) 35(87.5) 19(100.0)
赤身肉の摂取量
まったく食べない 8( 8.4) 3( 8.3) 3( 7.5) 2(10.5) .393
1~2食/週 48(50.5) 16(44.4) 20(50.0) 12(63.2)
3~4食/週 22(23.2) 6(16.7) 12(30.0) 4(21.1)
5~6食/週 10(10.5) 6(16.7) 3( 7.5) 1( 5.3)
7~10食/週 7( 7.4) 5(13.9) 2( 5.0) 0( 0.0)
赤身肉の摂取状況
減ったと思う 31(32.6) 9(25.0) 14(35.0) 8(42.1) .697
増えたと思う 2( 2.1) 1( 2.8) 1( 2.5) 0( 0.0)
変化しない 62(65.3) 26(72.2) 25(62.5) 11(57.9)
生野菜の摂取回数
まったく食べない 15(15.8) 8(22.2) 6(15.0) 1( 5.3) .159
1~2食/週 27(28.4) 13(36.1) 7(17.5) 7(36.8)
3~4食/週 24(25.3) 4(11.1) 14(35.0) 6(31.6)
5~6食/週 14(14.7) 3( 8.3) 8(20.0) 3(15.8)
7~10食/週 12(12.6) 7(19.4) 4(10.0) 1( 5.3)
10食/週以上 3( 3.2) 1( 2.8) 1( 2.5) 1( 5.3)
生野菜の摂取量
両手1杯/週以下 44(46.3) 23(63.9) 12(30.0) 9(47.4) .047
両手1~3杯/週 32(33.7) 6(16.7) 20(50.0) 6(31.6)
両手3~6杯/週 17(17.9) 7(19.4) 7(17.5) 3(15.8)
両手10杯以上/週 2( 2.1) 0( 0.0) 1( 2.5) 1( 5.3)
食事の摂り方 食事の速度は早い方だと思うか
早いほうだと思う 47(49.5) 22(61.1) 18(45.0) 7(36.8) .175
そうではないと思う 48(50.5) 14(38.9) 22(55.0) 12(63.2)
おなかいっぱい食べる方だと思うか
そう思う 15(15.8) 7(19.4) 7(17.5) 1( 5.3) .362
そう思わない 80(84.2) 29(80.6) 33(82.5) 18(94.7)
食事は規則正しく食べるか
規則正しい 63(66.3) 27(75.0) 24(60.0) 12(63.2) .365
規則正しくない 32(33.7) 9(25.0) 16(40.0) 7(36.8)
食事の味付けは濃いほうか
濃い方だと思う 6( 6.3) 4(11.1) 1( 2.5) 1( 5.3) .254
ふつう 55(57.9) 21(58.3) 26(65.0) 8(42.1)
薄味にしている 34(35.8) 11(30.6) 13(32.5) 10(52.6)
嗜好品 喫煙の有無
現在吸っていてる 20(21.1) 12(33.3) 5(12.5) 3(15.8) .164
過去に吸っていた 38(40.0) 11(30.6) 20(50.0) 7(36.8)
まったく吸わない 37(38.9) 13(36.1) 15(37.5) 9(47.4)
飲酒習慣の有無
ある 44(46.3) 22(61.1) 12(30.0) 10(52.6) .021
ない 51(53.7) 14(38.9) 28(70.0) 9(47.4)
甘いものをよく食べるか
よく食べる 47(49.5) 14(38.9) 19(47.5) 14(73.7) .047
食べない 48(50.5) 22(61.1) 21(52.5) 5(26.3)

* p値はPeasonのχ2検定

表4 大腸がんの症状の認識と生活習慣(身体活動習慣・体重管理・睡眠) n = 95
項目 全体 大腸がんの症状の認識 p
①現在も知らない ②罹患後に知った ③罹患前から知っている
n = 95(100.0) n = 36(37.9) n = 40(42.1) n = 19(20.0)
n(%) n(%) n(%) n(%)
身体活動習慣 運動不足だと感じるか*
感じる 58(61.1) 21(58.3) 22(55.0) 15(78.9) .193
感じない 37(38.9) 15(41.7) 18(45.0) 4(21.1)
中等度の身体活動習慣(か月) 6.0 6.0 9.0 5.0 .416
中等度の身体活動習慣(時間)*
1時間/週以下 42(44.2) 21(58.3) 10(25.0) 11(57.9) .114
1~2時間/週 18(18.9) 6(16.7) 9(22.5) 3(15.8)
2~3時間/週 6( 6.3) 1( 2.8) 5(12.5) 0( 0.0)
3~4時間/週 9( 9.5) 2( 5.6) 5(12.5) 2(10.5)
4時間/週以上 20(21.1) 6(16.7) 11(27.5) 3(15.8)
強度の身体活動習慣(か月) 3.0 4.0 2.0 1.0 .215
強度の身体活動習慣(時間)*
1時間/週以下 73(76.8) 26(72.2) 31(77.5) 16(84.2) .440
1~2時間/週 6( 6.3) 4(11.1) 1( 2.5) 1( 5.3)
2~3時間/週 4( 4.2) 2( 5.6) 2( 5.0) 0( 0.0)
3~4時間/週 3( 3.2) 2( 5.6) 0( 0.0) 1( 5.3)
4時間/週以上 9( 9.5) 2( 5.6) 6(15.0) 1( 5.3)
1日の平均歩行時間(分) 30.0 15.0 60.0 25.0 .007
1日の平均座位時間(時間) 4.0 4.0 3.0 5.0 .045
体重管理 体重管理に気を付けているか*
気を付けている 59(62.1) 19(52.8) 27(67.5) 13(68.4) .342
気を付けていない 36(37.9) 17(47.2) 13(32.5) 6(31.6)
睡眠 夜間の熟眠感*
よく眠れる 56(58.9) 23(63.9) 26(65.0) 7(36.8) .090
睡眠不足を感じる 39(41.1) 13(36.1) 14(35.0) 12(63.2)
1日の睡眠時間*
6時間以下 45(47.4) 17(47.2) 14(35.0) 14(73.7) .011
7~8時間 43(45.3) 14(38.9) 25(62.5) 4(21.1)
9時間以上 7( 7.4) 5(13.9) 1( 2.5) 1( 5.3)

* p値はPeasonのχ2検定

中央値,p値はKruskal-Wallisの検定

群間差なし

脂肪分の多い食事については,大腸がんの症状を「現在も知らない」群の方が,「罹患後に知った」群(p = 0.013)と「罹患前から知っている」群(p = 0.002)よりも脂肪分の摂取頻度が有意に多かった.また,生野菜の摂取量では,大腸がんの症状を「現在も知らない」群の方が「罹患後に知った」群と比較して,生野菜の摂取量が有意に少なかった(p = 0.047).なお,加熱野菜の摂取量は3群間で有意差はなかった.

飲酒習慣は,大腸がんの症状を「現在も知らない」群の方が,「罹患後に知った」群よりも飲酒習慣を持つ者が有意に多かった(p = 0.021).

「甘い物をよく食べるか」という質問では,大腸がんの症状を「現在も知らない」群の方が「罹患前から知っている」群よりも甘い物の摂取頻度が有意に少なかった(p = 0.047).

身体活動の習慣では,「歩行時間」(p = 0.007)と「座位時間」(p = 0.045)で有意差がみられた.特に「歩行時間」は「現在も知らない」群の方が「罹患後に知った」群よりも歩行時間が有意に短かった(p = 0.007).3群はいずれも,「運動不足と感じる」と回答した者が半数以上だった.

7. 大腸がんの症状の認識の相違による3群の特徴

大腸がんの症状の認識の違いによる各群の特徴として,有意差がみられた項目を図1に示す.

図1

大腸がんの症状の認識による3群の特徴

大腸がんの症状を「現在も知らない」群は,「男性」で,病期は「II/III期」であり,「年収300万円未満」の者が多く,大腸がんのリスク因子の知識が低かった.生活習慣は現在も飲酒習慣を持ち,脂肪分の摂取量が多く,生野菜の摂取量が少なく,歩行時間が短かった.

大腸がんの症状を「罹患後に知った」群は,「女性」で,病期は「II/III期」の者が多かった.生活習慣は,飲酒習慣,脂肪分の摂取量が少なく,生野菜の摂取量が多く,歩行時間が長かった.

大腸がんの症状を「罹患前から知っている」群は,病期は「0/I期」で,「年収300万円以上」の者が多く,大腸がんのリスク因子の知識が高かった.生活習慣では,脂肪分の摂取量が少なかった.

Ⅴ. 考察

本研究の参加者は男女比,年代の分布ともに我が国の大腸がん患者のデータ(国立がん研究センター,2018)と同様の構成であり,今回の結果から一般的な大腸がん患者の特徴が予測できると考える.また,年代は60代以上の者が77%を占めており,年収は100万円以下の者が約4割であるため,定年退職者や年金受給者の割合が多い集団であることが考えられる.

大腸がんの症状の認識によって,リスク因子の知識や生活習慣の現状に相違がみられたので,その特徴について考察する.

1. 大腸がんの症状を「現在も知らない」群の特徴

本研究において,全体の37.9%の者が大腸がんの症状を「現在も知らない」と回答していた.Salz et al.(2014)が大腸がん患者を対象に行った調査でも症状に関する情報提供を受けた患者は全体の48%であったことを明らかにしており,本研究の対象者らも十分な情報提供が行われていない可能性が考えられる.

また,大腸がんの症状を「現在も知らない」群と「罹患後に知った」群は病期がII/III期の者が多くなっており,症状の認識の低さが受診遅延に関連するという先行研究(Forbes et al., 2014)と一致するものであった.

生活習慣についても,「現在も知らない」群は「罹患後に知った」,「罹患前から知っている」の2群と比較して飲酒習慣,脂肪分の摂取量が多く,生野菜の摂取量が少ない集団であった.大腸がん患者にはがんと生活習慣との関連がほとんど知られておらず,生活習慣の改善に至っていないことが明らかにされている(Stead et al., 2012).大腸がんの症状を「現在も知らない」群は,生活習慣という側面からも再発リスクが高い集団であり,この集団の背景や特徴を踏まえた上で,生活習慣の現状をアセスメントし,適切な保健指導を行っていく必要がある.特に食事内容については,化学療法中のため生野菜の摂取を控えていた可能性や,生野菜の摂取が少ないという地域特性の影響が考えられるため,保健指導を行う際に考慮する必要がある.

また,本研究では,大腸がんの症状を「現在も知らない」群は男性で,年収300万円未満の者が多かった.そのため,社会経済的な要因が大腸がんの症状の認識へ影響を及ぼしている可能性がある.今後は年収だけではなく,所得や財産などのその他の経済的な要因を含めて検討する必要がある.また「現在も知らない」群は,歩行時間が短くなっていた.大腸がん患者の身体活動が減少する要因として,治療に伴う倦怠感や年齢,運動機能障害の有無,職業的不活動の関連性が指摘されている(Fassier et al., 2016Fisher et al., 2016).また,今後は身体症状の有無や具体的な職種,就労状況との関連を検討しながら,実施可能な身体活動のプログラムを構築していく必要がある.

2. 大腸がんの症状を「罹患後に知った」群の特徴

生活習慣を比較すると,大腸がんの症状を「罹患後に知った」群は「現在も知らない」群よりも飲酒習慣や脂肪分の摂取量が少なく,生野菜の摂取量が多く,大腸がんのリスク因子の知識得点も有意に高くなっていた.さらに,他の2群と比較して,有意に女性が多かったことより,男性に比べて普段から調理に携わる機会が得やすいため,生野菜や脂肪分の摂取など食事内容を中心に生活習慣を実行しやすかったものと考える.

これらの結果より,この集団は,罹患前は大腸がんに関する関心は高くなかったが,罹患をきっかけに自発的に情報収集を行い,生活習慣の改善につながった可能性や,もしくは,罹患前から大腸がんに対する関心が高く,罹患後の良好な生活習慣につながった可能性がある.

しかし,本研究では現在の生活習慣を明らかにしているのみであり,どのようなきっかけで大腸がんに対する意識が高まり,情報の獲得や生活習慣の改善に至ったのかは明確ではない.大腸がんの症状を「罹患後に知った」群は食生活,身体活動習慣ともに良好な生活習慣を獲得しており,知識の獲得や生活習慣が改善する過程を明らかにすることで,大腸がん患者に必要な支援の示唆が得られると考える.

3. 大腸がんの症状を「罹患前から知っている」群の特徴

大腸がんの症状を「罹患前から知っている」群は全体のわずか20%で,かつ病期は0/I期の者が多く,早期に発見されている集団であった.大腸がんのリスク因子の知識得点も3群の中で有意に高かったため,罹患前から大腸がんに対する関心が高く,知識を獲得できていた集団だと考える.

今後,この集団が知識を得た過程や受診に至った経緯を明らかにすることで,大腸がんと診断される前の集団への早期受診を促すための知見が得られる可能性があり支援体制の構築につなげることができると考える.

4. 看護への示唆

本研究の結果から,大腸がんの症状の認識の状況によって,性別や社会経済的な状況やリスク因子の知識や生活習慣の現状に相違がみられたことから,これらの集団の特徴を把握した上での看護援助の方略を検討していく必要がある.本研究の対象者は大腸がん術後3ヶ月以上を経て,治療後のフォローアップのために受診している患者集団であった.通常の現在の外来システムでは,本研究で明らかになった症状やリスク因子の知識ならびに生活習慣の把握は困難な状況である.特に外来の看護体制も十分ではなく,患者の治療後の症状マネジメントを中心にした援助が優先されている現状がある.このような状況のなかで,患者の大腸がんの症状やリスク因子ならびに生活習慣の現状を把握できる実用的なアセスメント方略が必要である.その中で,対象者の症状の認識や背景の違いに応じて,焦点を絞った情報提供,生活習慣の評価を行うことで,大腸がん患者の再発リスクや予後を改善する一助になると考える.

5. 研究の限界

本研究は,大腸がん患者の症状の認識について調査したが,具体的な症状の内容や程度については質問していない.今後は患者の症状の理解の程度を把握する必要がある.また,調査時点での生活習慣しか調査していないため,大腸がん患者の症状の認識の相違による,生活習慣が変化する過程や化学療法などの治療に伴う身体症状の有無は不明である.これらの課題を検討することで,大腸がんの症状の認識の背景による,大腸がん患者の特徴がより明確になると考える.

Ⅵ. 結論

大腸がん患者の症状の認識は低く,認識の程度によって,個人属性やリスク因子の知識,生活習慣の現状に違いがみられた.今後は大腸がん患者の症状の認識に応じた,情報提供や生活習慣の改善に向けた看護支援が必要と考える.

付記:本論文は沖縄県立看護大学大学院に提出した修士論文の一部を加筆修正したものです.

謝辞:本研究にご協力いただきました皆様に深謝いたします.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:UHは研究の着想からデザイン,統計解析,分析解釈,原稿作成まで研究全体に貢献した.KMは原稿への示唆および研究全体への助言に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
 
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