日本看護科学会誌
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資料
看護学生が認識するクリニカルIPEの効果および課題の明確化
―同じフィールドで行われている他大学薬学部とのIPEの試み―
志田 淳子大塚 眞理子佐藤 可奈井村 紀子菅原 よしえ高橋 和子
著者情報
キーワード: 看護学実習, IPE, 専門職連携
ジャーナル オープンアクセス HTML

2019 年 39 巻 p. 1-9

詳細
Abstract

目的:同じフィールドで実習している他大学薬学部学生とのクリニカルIPEを,看護学実習の一部に試行導入し,看護学生が認識するIPEの効果および課題を明らかにする.

方法:A大学看護学部学生のうちクリニカルIPEを体験した4年生12名,3年生28名を対象に無記名自記式質問紙調査(自由記載,RIPLS等)を実施し,実習の前後比較を行った.自由記載はBerelsonの内容分析法を用い,統計学分析の有意水準はp < .05とした.

結果:有効回答は4年生7名(58.3%),3年生は12名(42.9%)であった.各学年共に実習前後のRIPLS得点に有意差を認めなかった一方,4年生は専門職に求められる連携・協働の姿勢や態度を学び,3年生はIPEを通して他職種への障壁,緊張が緩和していた.課題として,学年に応じた実習目標の設定および実習方法の工夫等が示された.

結論:クリニカルIPEの一定の効果を確認した一方で,看護学生のレディネスに応じた運営上,指導上の課題が明らかになった.

Translated Abstract

Objective: Trial clinical interprofessional education (IPE) was introduced as part of the nursing practice for University A, involving joint clinical practice with pharmacy students at a different university. This study’s objective was to identify IPE’s effectiveness and issues as perceived by nursing students.

Method: Forty undergraduate students in University A’s School of Nursing (third year, n = 28; fourth year, n = 12) completed an anonymous, self-administered questionnaire before and after the IPE. Surveys included free-response questions, the Readiness for Interprofessional Learning Scale (RIPLS), and goal attainment items. Free responses were examined using Berelson’s protocol for content analysis. Quantitative items were compared between time points (significance: p < 0.05).

Results: Valid responses were received from 7 out of 12 fourth-year (58.3%) and 12 out of 28 (42.9%) third-year nursing students. Statistically significant changes in RIPLS scores after the practice were not observed for students in either year. However, fourth year students had gained professional attitudes for interprofessional work and cooperation. IPE relieved third year students’ awareness of barriers and tensions to other professions. Issues identified by the survey included the need to (a) ensure that goals are set according to students’ grade and (b) introduce modifications in practice methods.

Conclusion: This study showed IPE’s effectiveness to a certain degree. Further, several issues with the program’s operation and supervision were identified, requiring customization to suit nursing students’ readiness to learn.

Ⅰ. 背景

医療技術の高度化と複雑化を伴う保健医療福祉において,より質の高い安全なケアの提供には,専門職連携(Interprofessional Work; IPW)が不可欠である.IPWを実現するために基盤となる能力は,基礎教育課程からの継続的な涵養が必要であり,世界的に専門職連携教育(Interprofessional Education; IPE)の重要性が強調されている(World Health Organization; WHO, 2012).IPEは,「複数の領域の専門職者が連携およびケアの質を改善するために,同じ場所でともに学び,お互いから学び合いながら,お互いのことを学ぶこと」(埼玉県立大学,2009)と定義される.看護学教育においても,医学,歯学,および薬学教育とならび,看護学モデル・コア・カリキュラムに「保健医療福祉チームにおける連携と協働」が明記され(文部科学省,2017),IPEの推進が期待されている.

一方,看護学教育におけるIPEの実施には2点の課題がある.1点目は,学部や大学を超えたカリキュラム調整の難しさ(文部科学省,2014)から,特に単科の看護学部(以下,単科大学)ではIPEの実施に困難を伴うことである.これまで多数報告されているIPEのカリキュラム開発,実践,および有効性の検証は,その多くが医学部や薬学部など,看護学部以外の保健医療学部を併設している大学によるものであり(前野,2015),単科大学をはじめとした看護基礎教育におけるIPEの報告は少ない.2点目は,IPEは現場での協働が求められながら,実習においてIPEを経験できる学生は限られていることである.そのため,ケア提供の場において,体験を通してIPWを学ぶことができる教育方法の構築が求められる.

以上の課題を背景に,医療系の学部としては看護学部のみを有するA大学,B大学薬学部,およびC病院が,IPEを実施するプロジェクトを2016年に立ち上げた.「同一の実習フィールドを中心に,複数機関が協働して展開する実習形態のクリニカルIPE(以下,クリニカルIPE)」である点が本邦では類をみない特徴であり,2017年に両大学の既存の実習へ組み込むことでクリニカルIPEを試行した.本研究では,看護学生が認識する,クリニカルIPEの効果および課題を明らかにすることを目的とした.

Ⅱ. 方法

1. 対象

C病院でのクリニカルIPEを含む実習を経験したA大学看護学部4年生12名,3年生28名のうち,研究協力に同意の得られた学生とした.いずれの学年も,IPEを初めて経験する学生である.

4年生は,総合実習(必修科目)においてクリニカルIPEが組み込まれる実習施設を希望した学生が配置された.3年生は,領域別実習である老年看護学実習・在宅看護学実習(ともに必修科目)にて,クリニカルIPEが組み込まれる実習施設へ,希望はとらず人数の便宜上で配置された.

2. 実習方法

臨地実習開始前に通常の実習オリエンテーションに加えて,クリニカルIPEの定義,目的,目標を説明し,チーム医療に関する事前課題を課した.臨地では,臨床現場における連携場面の見学等に加え,看護学生と薬学生による受け持ち事例のディスカッションを1~2回行った(表1).

表1 クリニカルIPEの目的および展開
1.クリニカルIPEの目的
保健医療福祉専門職の連携と協働を学ぶ.
2.クリニカルIPEの到達目標
1)患者のニーズに沿った支援活動を行ううえでの,保健医療福祉専門職の連携と協働の必要性を理解し,説明できる.
2)連携と協働のために,自身の専門領域の知識・技術・態度を活用できる.
3)連携と協働のために,自身の専門領域とほかの専門領域との共通性を説明できる.
4)連携と協働のために,ほかの専門職についての特徴を理解し,他の専門職がチームに存在する重要性を述べることができる.
5)連携と協働のための技術を理解し,チームで活動できる.
6)医療の質の向上のための課題について,チームで検討できる.
各実習共通(各大学にて実施)
1.実習オリエンテーション
2.2大学共通事前課題の提示(レポートとしてまとめる)
チーム医療とは何か,チーム医療の意義,看護学・薬学の教育制度および免許制度,社会における看護職および薬剤師の役割
3.IPEのレクチャー
IPEの基本
総合実習(4年生) 領域別実習(3年生)
1.受け持ち患者との関わり(看護学生および薬学生が一緒にケアに参画する)
2.臨床現場における連携場面の見学
3.ディスカッション①(60分) ディスカッション2回の場合(老年)
・アイスブレイク 3.ディスカッション①(60分)
・受け持ち患者の情報の共有 ・アイスブレイク
・受け持ち患者の情報の共有,共通理解
4.ディスカッション②(60~90分) 4.ディスカッション②(90分)
・患者の支援目標の設定と支援の検討,発表 ・患者の支援目標検討
・専門職が連携するうえで重要な行動や態度 5.各大学,実習領域における振り返り
ディスカッション1回の場合(在宅)
5.各大学,実習領域における振り返り 3.ディスカッション(60分)
・アイスブレイク
・患者に行われていた退院支援を踏まえ,退院支援を行ううえで必要となる援助や留意点を多職種連携の視点から話し合う
4.各大学,実習領域における振り返り

3. 研究デザイン

無記名自記式質問紙を用いた縦断調査(前後比較デザイン)

4. 調査内容

1) クリニカルIPEに対する思いや他職種に対する障壁の捉え方(実習前後)

クリニカルIPEに対する思いや他職種に対する障壁の捉え方について,自由記載にて回答を求めた.

2) RIPLS(The Readiness for Interprofessional Learning Scale)日本語版(実習前後)

IPEの準備状況を19項目から評価する尺度(Parsell & Bligh, 1999)である.本研究では信頼性,妥当性が検証された日本語版(Tamura et al., 2012)を使用し,5段階リッカート尺度(5:強くそう思う~1:まったくそう思わない)にて回答を得た.合計得点が高いほどIPEの準備性が高いことを示す.

3) クリニカルIPEにおける到達度(実習後)

クリニカルIPEの到達目標(表1)に基づき設定した34項目について,到達度の自己評価を調査した.回答は5段階リッカート尺度(5:強くそう思う~1:まったくそう思わない)を用いた.

5. 調査期間

2017年5月~2018年3月

6. データ収集方法

実習オリエンテーション時に,研究協力依頼書・質問紙2部(実習前・実習後)を対象者へ配布し,口頭および書面にて研究への協力を依頼した.質問紙は無記名自記式である.ただし,前後比較を行うために,学生が任意に設定した4桁の番号によって識別した.回収は留め置き法であり,対象者は実習前・実習後にそれぞれ質問紙に回答し,対象者自身が回答後の質問紙をA大学内の施錠されたレポートボックスに期限内に投函した.回答の期限は,実習前調査は当該実習開始の前日,実習後調査は当該実習終了から1週間後とした.

7. 分析方法

自由記載のデータの分析はBerelson(1952)の内容分析の手法を用いた.具体的には,学年と実習時期を分け,「看護学生のIPEに対する思いや他職種への障壁の捉え方」が記述されている情報源のフレーズ(句)を記録単位とした.文脈単位はいずれも対象者1名分の記述内容全体とした.次いで,「看護学生のIPEに対する思いや他職種への障壁の捉え方」に対応しない記述,抽象的な記述,および意味が不明瞭な記述を除外したうえで,それぞれの記録単位を意味内容の類似性に基づき分類した.さらに,記録単位個々を意味内容の類似性に基づき分類し,その記述を忠実に反映するカテゴリネームをつけた.分類とカテゴリネームについては,研究者間で繰り返し検討した.最後に,各カテゴリに包含された記録単位の出現頻度を数量化し,カテゴリ毎に集計した.

カテゴリの信頼性は,質的研究の経験を持つ看護学研究者2名に協力を依頼し,カテゴリの一致率をScott(1955)の式に基づき算出した.本研究における一致率は70%を超えており,カテゴリが信頼性を確保していることを示した(Berelson, 1952Scott, 1955).

RIPLS,到達目標の各質問項目については単純集計を行った.続いて,RIPLSの合計得点は,学年ごとに,実習前後の2時点をWilcoxonの符号付き順位検定により比較した.分析には統計解析ソフトウェアSPSS ver.23を使用し,有意水準はいずれもp < .05とした.本研究は対象人数が少ないために,量的データは自由記載の分析内容を補足するものとして位置付けた.

8. 倫理的配慮

対象には,目的,方法,研究協力への任意性,予測される結果,データの保管方法,個人情報保護,研究成果の公表等について,文書と口頭にて研究者が説明した.質問紙調査への協力は任意であり,協力の有無や回答内容が成績に影響しないことを保障するために,質問紙の回収作業は成績確定後に行った.以上について宮城大学研究倫理専門委員会の承認を得て実施した(承認番号 宮城大第161号).

Ⅲ. 結果

質問紙の回収率は,4年生は実習前7名(58.3%),実習後7名(58.3%),3年生は実習前17名(60.7%),実習後12名(42.9%)であった.双方の調査に回答した4年生7名(58.3%),3年生は12名(42.9%)を有効回答とした.

1. 看護学生のIPEに対する思いや他職種に対する障壁の捉え方

4年生の記述内容は,実習前が7文脈単位,29記録単位,一人当たりの記録単位数は4.1,実習後が7文脈単位,36記録単位,一人当たりの記録単位数は5.1であった.3年生の記述内容は,実習前が12文脈単位,30記録単位,一人当たりの記録単位数は2.5,実習後が12文脈単位,40記録単位,一人当たりの記録単位数は3.3であった.

前述の分析方法に基づき,実習時期,学年ごとに分類した結果,「看護学生のIPEに対する思いや他職種への障壁の捉え方」について,表2に示すカテゴリが形成された.カテゴリを【 】により示す.

表2 看護学生のIPEに対する思いや他職種に対する障壁の捉え方
カテゴリ 記録単位数(%) カテゴリ 記録単位数(%)
4年生実習前 1.IPEへの不安や懸念 11(37.9) 4年生実習後 1.IPEによって学んだ,専門職に求められる連携・協働の姿勢や態度 11(31.4)
2.薬学生に対する疑問 6(20.7) 2.医療職としての共通性 7(20.0)
3.薬学生との共通性 4(13.8) 3.直接話し合ったからこそ得られた学びや気づき 5(14.3)
4.薬学生との専門性の相違 2(6.9) 4.専門性の違いの気づき 4(11.4)
専門の違いがもたらす連携・協働への影響への疑問 2(6.9) 多職種と連携・協働する際の難しさの実感 4(11.4)
6.障壁をなくすことへの難しさ 1(3.4) 6.IPEへの要望,意見 2(5.7)
障壁はあまり感じない 1(3.4) 7.障壁が軽減した 1(2.9)
本学の他学部生との交流の少なさ 1(3.4) 障壁はあまり感じない 1(2.9)
連携・協働するうえでの価値観や信念 1(3.4) 看護の役割の再認識 1(2.9)
合計 29(100) 合計 36(100)
カテゴリ 記録単位数(%) カテゴリ 記録単位数(%)
3年生実習前 1.薬学生の専門性のイメージ 8(26.7) 3年生実習後 1.IPEへの要望,意見 8(20.0)
2.薬学生に対する疑問 6(20.0) 2.障壁や緊張が緩和した 5(12.5)
3.IPEへの不安や懸念 5(16.7) 薬学生から学んだ薬学の専門性 5(12.5)
4.薬学生との価値観の相違 3(10.0) 医療職としての共通性 5(12.5)
5.情報共有に障壁がある 2(6.7) IPEの不全感 5(12.5)
障壁を感じていない 2(6.7) 6.IPEの重要性や意義 4(10.0)
本学の他学部との交流の少なさ 2(6.7) IPEにおける戸惑いや難しさ 4(10.0)
8.医師,薬剤師のイメージ 1(3.3) 8.障壁はなくなった 2(5.0)
IPEへの期待 1(3.3) 9.IPEによって学んだ,専門職に求められる連携・協働時に姿勢や態度 1(2.5)
障壁をまだ感じる 1(2.5)
合計 30(100) 合計 40(100)

1) 4年生の認識

実習前は,【IPEへの不安や懸念】【薬学生に対する疑問】に関する記述が多かった.一方で,【薬学生との共通性】のように,医療職としての共通性にも着目していた.障壁については,「職種が違うので障壁をなくすのは難しいのではないか」という【障壁をなくすことへの難しさ】と【障壁はあまり感じない】という記述があった.

実習後は,【IPEによって学んだ,専門職に求められる連携・協働姿勢や態度】の記述がもっとも多かった.また,「相手も歩み寄ってくれる」をはじめとした【直接話し合ったからこそ得られた学びや気づき】,【看護の役割の再認識】のような肯定的な記述が多く,【障壁が軽減した】【障壁はあまり感じない】という記述がみられた.一方,「多職種に看護側の考えを誤解なく正確に伝えることが難しい」という【多職種と連携協働する難しさの実感】があった.

2) 3年生の認識

実習前は,「専門用語が難しそう」をはじめとする【薬学生の専門性のイメージ】に関する記述がもっとも多く,【薬学生に対する疑問】【IPEへの不安や懸念】も多くみられた.「情報の共有に時間がかかりそう」のように【情報共有に障壁がある】と感じる一方,【障壁を感じていない】という記述もあった.

実習後は【医療職としての共通性】をはじめ,互いの専門性の理解に関する記述があり,「学生のうちから学ぶことができてよかった」のように【IPEの重要性や意義】を実感していた.「同じ医療を学ぶ学生として身近に感じられた」をはじめ【障壁や緊張が緩和した】ことにつながる記述も多かった.一方で戸惑いや困難に関する記述もみられた.【IPEの不全感】として「薬学生が心を開いてくれなかった」,【IPEにおける戸惑いや難しさ】として「自信がなくて,IPEで意見を述べることは難しかった」があった.さらに,「2回のカンファレンスだけでは打ち解けられなかった」などからなる【IPEへの要望,意見】も多かった.

2. IPEの準備状況―RIPLS合計得点の実習前後の比較―

RIPLSの合計得点の中央値は,いずれの学年も実習前後で有意な変化は認めなかった(Wilcoxon符号付き順位検定,表3).

表3 RIPLS合計得点の実習前後の比較
実習時期(α係数) 度数 中央値 第1四分位点 第3四分位点 平均ランク 順位和 p
RIPLS合計得点(19~95点) 4年生(n = 7) 実習前(α = .881) 7 84.00 78.00 88.00 13.00 91.00 .171
実習後(α = .864) 7 89.00 80.00 90.00 13.50 94.50
3年生(n = 12) 実習前(α = .886) 12 73.00 71.00 80.75 8.25 99.00 .475
実習後(α = .933) 12 74.00 72.25 79.00 7.96 95.50

Wilcoxonの符号付き順位検定

3. 到達目標の達成状況

到達目標の中央値は,4年生はすべての項目で達成を示す4.00以上であった.3年生は,No. 23「リーダーシップ・メンバーシップの役割をとることができた」(中央値3.00)を除き,すべての項目の中央値が4.00であった(表4).

表4 目標の到達度
到達目標 中央値 第1四分位点 第3四分位点
1.患者の視点に立って患者の理解を共有できた 4年生 4.00 4.00 5.00
3年生 4.00 3.25 4.00
2.患者中心の共通の支援目標を立てることができた 4年生 4.00 4.00 5.00
3年生 4.00 4.00 4.00
3.共通の支援目標を達成するために必要な支援内容を列挙できた 4年生 4.00 4.00 4.00
3年生 4.00 4.00 4.00
4.必要な支援内容を提供する様々な専門職や機関の役割を列挙できた 4年生 4.00 4.00 5.00
3年生 4.00 3.00 4.00
5.連携と協働のために,他の専門職についての特徴を理解し,他の専門職がチームに存在する重要性を述べることができた 4年生 4.00 4.00 5.00
3年生 4.00 4.00 4.00
6.連携と協働のための技術を理解し,チームで活動ワークを実践できた 4年生 4.00 4.00 5.00
3年生 4.00 4.00 4.00
7.医療の質の向上のための課題について,チームで検討できた 4年生 4.00 3.00 5.00
3年生 4.00 4.00 4.00
8.患者の視点に立って患者の理解を共有できた 4年生 4.00 4.00 4.00
3年生 4.00 4.00 4.75
9.患者中心の共通の支援目標を立てることができた 4年生 4.00 4.00 5.00
3年生 4.00 4.00 4.00
10.共通の支援目標を達成するために必要な支援内容を列挙できた 4年生 4.00 3.75 4.00
3年生 4.00 4.00 4.00
11.必要な支援内容を提供する様々な専門職や機関の役割を列挙できた 4年生 4.00 3.75 4.00
3年生 4.00 3.25 4.00
12.連携・協働と支援活動の関連を考察できた 4年生 4.00 4.00 5.00
3年生 4.00 4.00 4.00
13.自身の専門領域の視点から情報収集の項目を挙げることができた 4年生 5.00 4.00 5.00
3年生 4.00 4.00 4.75
14.診療録閲覧・面談・観察などを通して,自身の専門領域の情報を集めることができた 4年生 5.00 4.00 5.00
3年生 4.00 4.00 5.00
15.患者の医療の質向上のために自身の専門領域の視点から意見を述べることができた 4年生 5.00 4.00 5.00
3年生 4.00 4.00 5.00
16.演習を通して学んだ互いの専門領域の共通性を具体的に述べることができた 4年生 4.00 4.00 5.00
3年生 4.00 3.25 4.00
17.互いの専門領域に共通する支援内容を整理して述べることができた 4年生 4.00 4.00 5.00
3年生 4.00 3.25 4.00
18.実習を通して学んだ自身の専門領域の特性を具体的に述べることができた 4年生 4.00 4.00 5.00
3年生 4.00 4.00 4.00
19.互いの専門領域独自の支援内容を整理して述べることができた 4年生 4.00 4.00 5.00
3年生 4.00 3.00 4.00
20.チームメンバーでは網羅されない支援内容を整理して述べることができた 4年生 4.00 3.00 4.00
3年生 4.00 3.25 4.75
21.患者を取り巻く人々の役割や関わりの可能性について述べることができた 4年生 4.00 4.00 5.00
3年生 4.00 4.00 4.00
22.パートナーシップを発揮できた 4年生 4.00 4.00 5.00
3年生 4.00 3.00 4.00
23.リーダーシップ・メンバーシップの役割をとることができた 4年生 4.00 4.00 5.00
3年生 3.00 3.00 4.00
24.自分の考えを簡明かつ論理的に説明できた 4年生 4.00 4.00 4.00
3年生 4.00 3.00 4.00
25.自分の考えをメンバーに伝わりやすいように工夫できた 4年生 4.00 4.00 5.00
3年生 4.00 3.00 4.00
26.チームメンバーの考えを理解しようと努めることができた 4年生 4.00 4.00 5.00
3年生 4.00 4.00 4.75
27.個々のメンバーが自分の考えを伝えられるように配慮できた 4年生 4.00 4.00 5.00
3年生 4.00 3.25 4.00
28.ディスカッションに積極的に参加できた 4年生 4.00 4.00 5.00
3年生 4.00 3.00 4.00
29.演習を通じてチームワークのプロセスを振り返りをリフレクションすることができた 4年生 4.00 4.00 4.00
3年生 4.00 3.00 4.00
30.医療施設を利用する人々の特徴を述べることができた 4年生 4.00 3.00 4.00
3年生 4.00 3.00 4.00
31.実習医療施設の特徴を説明することができた 4年生 4.00 4.00 4.00
3年生 4.00 3.25 4.00
32.患者の思い,ニーズ,願い,ゴール,ホープなどを討議できた 4年生 4.00 4.00 5.00
3年生 4.00 4.00 4.45
33.医療の質向上のために互いの専門領域が貢献できる内容を述べることができた 4年生 4.00 4.00 5.00
3年生 4.00 3.00 4.00
34.医療の質向上のための課題について述べることができた 4年生 4.00 4.00 4.00
3年生 4.00 3.00 4.00

4年生:n = 7   3年生:n = 12

回答は5段階リッカート尺度(5:強くそう思う,4:そう思う,3:どちらともいえない,2:そう思わない,1:まったくそう思わない)

Ⅳ. 考察

1. 4年生におけるクリニカルIPEの効果と課題

対象は,IPEに特化した科目のないカリキュラムのもとで看護学を学んできた学生であった.このような対象特性のある4年生であっても,クリニカルIPE前に他職種に対する障壁を示す記述は少なく,RIPLSにおけるIPEの準備性も高かった.これらは,4年間の学びを統合する時期にある学生が,3年生までの看護学実習等において,チーム医療や多職種連携の重要性を学んできた影響と考えられる.ならびに,学生はクリニカルIPEを含む実習を自ら希望しており,IPEに対する意識の高さがその準備性に影響したと考えられる.

クリニカルIPE後は,肯定的な学びに関する記述が多くを占めた.具体的には,互いの専門性に気づくとともに,専門職に求められる連携・協働の姿勢や態度について,体験を通して学んでいた実態が明らかになった.これらは,IPWに焦点化した実習を臨床現場において経験したからこそ得られた学びと推察できる.このような肯定的な変化を認めた一方で,IPEの準備性に統計学的な有意差がみられなかった要因は,対象人数の少なさのほか,実習前の得点の高さが影響したと考えられる.また,すべての目標到達度が高かったことは評価できる一方,実習成果としての目標達成の程度を適切に把握するためには,学生のレディネスを考慮した行動目標の再考が必要である.

2. 3年生におけるクリニカルIPEの効果と課題

クリニカルIPE前は,他職種に対して障壁を抱いていることを示唆する記述は少なかった.他方,IPEに対する不安に加え,薬学生へのイメージに関する記述が多くみられた.領域別実習の途上にある3年生は,実習時に経験できる実感を伴う理解に乏しく,他職種に対するイメージが先行したと考えられる.

クリニカルIPE後は,実習を通して互いの専門性や共通性を学び,他職種への障壁や緊張が緩和された実態が明らかになった.これらが,IPEの重要性や意義を実感する記述につながったと考えられる.しかしながら,3年生はIPEの不全感や戸惑い,難しさに関する記述も多くみられた.これは,学生の希望によらず,通常の領域別実習にクリニカルIPEが組み込まれたことによる負担感や意欲の低さに加え,グループワークに臨むメンバーの否定的な態度が影響したと考えられる.これらが,先行研究(相澤ら,2017)が報告するIPE後のRIPLS得点の有意な上昇につながらなかった要因と推察される.

効果的なディスカッションができず,否定的な感情を抱いた要因は,初対面の相手と関係を築いていくために必要な,対人関係のスキルの獲得状況が影響したと考えられる.特に他の医療系学部と関わる経験が少ない単科大学の学生にとっては,よりハードルが高くなった可能性もある.3年生はパートナーシップやメンバーシップ,リーダーシップの発揮に関する目標の到達度に改善の余地がみられたように,他者との協働に必要なスキルを獲得する途上にあった.今後の学習プロセスにおいて,学生は他者と関係を築くスキルを高め,より円滑なコミュニケーションをとることが可能になるだろう.これにより,IPEの準備性が向上すると考えられる.1回のクリニカルIPEによって獲得できるスキルには限界があるため,学生が継続してIPEを体験できるカリキュラムが求められる.

IPEの構築においては,専門教育のみならず,教養教育の学びや学生のレディネスを考慮することが必要である.日本の大学では,専門教育を重視する傾向を転換し,2010年前後より教養教育を重視した改革が進められてきた(ベネッセ教育総合研究所,2009).教養教育では,思考力を深めるプロセスとして,専門の異なる人との日々の対話が重視されている(石井・藤垣,2016).今後は,大学入学時からの教養教育を通して学生が磨き続けてきたコミュニケーションスキル,プレゼンテーションスキルをはじめとする思考力,協働力をIPWに昇華させることができるIPEの構築と有効性の検証が求められる.

3. 実践への示唆と研究上の課題

保健医療福祉分野の援助者としての専門職を養成する大学教育では,多職種間の連携について,学生が感じ,考え,学ぶようなIPEプログラムの開発と実施の必要性が指摘されている(埼玉県立大学,2009).このため,専門の異なる学生同士が臨床現場において共に学ぶIPEは意義が大きく,本研究は看護学実習としてIPEを展開する重要性を示した.

一方で,本研究は対象人数が少ないため,分析結果の解釈には留意が必要である.今後は,クリニカルIPEの継続によりデータを蓄積し,その有効性を経時的に把握する必要がある.ならびに,教養科目を含む学修状況を考慮し,学生のレディネスに応じた実習目標の設定および実習方法の工夫が必要である.

Ⅴ. 結論

看護学生が認識するクリニカルIPEの効果とその課題を検証した.その結果,薬学生との実習を通して,看護学生は専門職連携に必要な姿勢や態度を学ぶとともに,他職種に対する障壁や緊張が緩和していた.一方,看護学生のレディネスに応じた運営上,指導上の課題が明らかになった.

謝辞:クリニカルIPEの実施にあたりご協力を賜りました患者様,ご家族をはじめ,大学関係者,病院関係者の皆様に心より感謝申し上げます.

利益相反:本研究において利益相反は存在しない.

著者資格:MO,KSおよびNIは研究の着想およびデザインに貢献;著者全員がクリニカルIPE,調査を実施;JSは解析の実施および草稿の作成;MO,KTおよびYSは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承諾した.

文献
 
© 2019 公益社団法人日本看護科学学会
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