日本看護科学会誌
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総説
慢性呼吸器疾患患者のアドバンス・ケア・プランニングを支える介入研究の文献レビュー
田中 孝美田中 晶子殿城 友紀
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2019 年 39 巻 p. 10-18

詳細
Abstract

目的:慢性呼吸器疾患患者のアドバンス・ケア・プランニング(以下ACP)を支える介入研究の文献レビューから,推奨される実践の要素を明らかにすること.

方法:PubMed,CINAHL with Full Text,医学中央雑誌ver. 5の書誌データベースを用い2017年12月までに発表された文献を対象に検索を行った.

結果:慢性呼吸器疾患患者のACPを支える介入研究のレビューから,明らかとなった推奨される実践の要素は,ACPの対象,ACPの介入の潜在的なニーズの評価,ACPの介入実施者と関わりの回数,ACPに関する情報提供,人工呼吸に関する情報提供,ACPに関する記録の共有であった.

結論:慢性呼吸器疾患患者のACP介入研究の効果から捉えるACPの関わりに適した対象の考え方,ACPを支えるために推奨される実践要素の意味について示唆された.

Translated Abstract

Objective: This study aimed to clarify the elements of recommended practice from a literature review of interventional studies that promote advance care planning (ACP) in patients with chronic respiratory diseases.

Methods: This study performed a search of literature regarding studies on interventions that support ACP in patients with chronic respiratory diseases. The bibliographic databases PubMed, CINAHL with Full Text, and Ichushi ver. 5 were used to find related studies published until December 2017.

Results: The review of the interventional studies revealed the following recommended practice elements: targets of ACP, assessment of the potential needs of ACP intervention, number of meetings with ACP intervention practitioners, provision of information on ACP, provision of information on artificial respiration, and sharing records on ACP.

Conclusion: The results indicated way of thinking of subjects suitable for ACP as understood from the results of interventional studies, and significance of practice elements recommended for promoting ACP.

Ⅰ. 緒言

慢性の病いは長期の経過を辿るという特性から,患者やその家族は療養過程において様々な選択を数多く重ねている.慢性呼吸器疾患とともに生きる人々は状態の安定と増悪を重ねながら,徐々に呼吸機能が低下するという病みの軌跡をたどるものの,いつか訪れる死を見越した対話を患者と家族そして医療者が行うことは容易ではない(Simonds, 2003猪飼ら,2015).

近年,医療・ケアを受ける本人が医療・ケアチームと十分話し合い,本人による意思決定を基本としたうえで人生の最終段階における医療・ケアをすすめる重要性が示されるようになった(厚生労働省,2018).その人の価値観をふまえて,希望する医療やケアについて日頃から話合うアドバンス・ケア・プランニング(advance care planning以下,ACP)は重要な課題である.

ACPは,いのちの終わりにかかわる意思決定(支援)の1つの方法として,医療分野を中心に注目されるようになった(阿部,2017).その定義はさまざまであり,これまでのところ統一した見解の一致はみられていない(片山,2016阿部・木澤,2014).しかしながら,ほとんどの定義に共通することとして,①患者と医療者や家族などケア提供者がともに行うこと,②意思決定能力の低下に先立って行われること,③プロセスを指していること,の3点が示されている(阿部・木澤,2014).また,ACPに関連する概念として,事前指示(Advance directives以下,ADs)がある.ADsとは,判断能力のある成人が自分の判断能力の低下や消失に備えて,自らに施される医療に関する希望や拒否などの意向を指示しておくものである(片山,2016).ACPとADsの違いとして,ACPが話し合いによる相互理解を目指すプロセスを示すのに対し,ADsは事前指示書の完成を目的とすることにあると指摘されるが(阿部・木澤,2014),ACPとADsは個々に独立したものではなく,ADsはACPの話し合いのプロセスの成果物として作成されることに意味があると考えられている(片山,2016).

日本でのACPの現状を文献検討した報告では,実践に役立つACPの支援方法や技術を確立・向上していくことが課題とされており,日本に適用可能なACPを構築する必要性が示唆されている(角田,2015).また,慢性呼吸器疾患患者の終末期を含むケアの質を向上するためには,ACPを促進するための介入に焦点をあてる重要性が指摘されている(Janssen et al., 2012).

日本における慢性呼吸器疾患患者のACPを支える取組みを構築するには,国内外の慢性呼吸器疾患患者のACPに関する介入研究の知見を検討することが不可欠である.しかしながら,どのような実践が対象者のACPを支えるうえで適切で効果的であるのか研究知見を集約的に示した文献は見当たらなかった.

そこで,本レビューは,慢性呼吸器疾患患者のACPを支える介入研究の文献レビューから,推奨される実践の要素を明らかにすることを目的とした.なお,本研究におけるACPは,ADsを含むものとして位置付けた.

Ⅱ. 方法

1. 対象論文の抽出

1) 組み入れ基準

研究の種類は,慢性呼吸器疾患患者のACPを支えるための介入を評価する無作為化比較試験(以下,RCT)と比較対照が設定された介入研究(以下,非RCT),さらに前後比較試験を対象とした.その理由は,どのような実践が慢性呼吸器疾患患者のACPを支えるうえで効果的であるのかを比較試験から分析し,日本の実践に取り入れられる要素を検討するためである.対象者の条件は,医療機関に入院あるいは通院する慢性呼吸器疾患患者とした.介入は,慢性呼吸器疾患患者のACPを支えるためにデザインされたアプローチや方法であり,そのプロトコルと結果が示されていることを条件とした.主要アウトカムはACP実施状況とし,副次アウトカムは患者の身体的心理的な指標とした.

2) 除外基準

除外基準は,同一論文の重複,RCTもしくは比較対照のある介入研究以外,主たる対象者が慢性呼吸器疾患患者以外,ACPを目的としない介入研究,日本語と英語以外の言語である,プロトコルのみで結果が含まれていない,とした.

3) 文献検索

PubMed,CINAHL with Full Text,医学中央雑誌ver. 5の書誌データベースを用い2017年12月までに発表されたすべての文献を対象に検索を行った.検索式は,英文献では“Chronic lung disease” AND “Advance care planning”, “Chronic respiratory disease” AND “Advance care planning”, “Chronic pulmonary disease” AND “Advance care planning”とした.和文献は“呼吸器疾患”AND“アドバンス・ケア・プランニング”で検索し,原著論文であることを条件とした.

一次スクリーニングでは,タイトルと抄録を確認して重複論文を除き,組み入れ基準により論文を抽出した.二次スクリーニングでは,2名の研究者が独立して論文を精読し,除外基準に該当する論文を除き,得られた研究の方法論的な質を評価し,論文抽出および内容の読み取りで不一致があった場合には合意に至るまで討議した.最終的に基準を満たした8論文を対象とした(図1).

図1

文献の選定手順

2. 分析方法

牧本(2013)の方法を参考にした.慢性呼吸器疾患患者のACPを支えるためにデザインされた介入内容とその効果を集約し,推奨される実践の要素を明らかにするために,組み入れ基準を満たした研究の特徴を示すマトリクスを作成した(表1).その項目は,研究デザイン,著者(発行年),目的,対象者・人数,介入プロトコル,測定ポイント,介入の主な効果,とした.マトリクスの作成については,研究者2名が独立して論文を精読し,項目に該当する内容を記述した.記述内容の妥当性に関しては,別の研究者1名が対象論文を確認した.作成したマトリクスの内容から母集団や介入が不均一であったため,結果は各研究の介入の主な効果により評価し,メタ分析は行わなかった.本研究における,推奨される実践の要素は,統計学的に効果が認められた実践に関する内容とした.

表1 慢性呼吸器疾患のアドバンス・ケア・プランニングを支える介入研究の概要
デザイン 著者(発表年) 目的 対象者・人数 介入プロトコル 測定ポイント 介入の主な効果
1.人数:介入群,対照群(完遂数/割付数)
2.適格基準
RCT Sinclair et al.(2017) 看護師主導のACP介入が進行性呼吸器疾患患者のACPを促進するかどうかを評価すること. 1.介入群65/106名,対照群27/43名(肺がん,中皮腫,悪性胸水,COPD,間質性肺炎).
2.一般的あるいは疾患特異的な基準によって死亡ハイリスクと予測されている.
ファシリテーター看護師は,患者,家族,医師に,ACPへの関心を促すよう支援を行った.看護師がACPの話合いを患者に提案し,さらに医師と愛する人々との話合いを促し,患者が医療的な代理意思決定者と予約をとり,事前指示を完成するのを支援した. ベースライン,3か月後,6か月後. ①ACP介入を希望し介入群割付となった患者(Pref-ACP群)は,無作為に介入群へ割付となった患者(Rand-ACP群)と比較して,介入6か月後で有意に正式なACP文書を作成していた.一方,Rand-ACP群と通常ケア群の6か月後比較では文書作成に差を認めなかった.
②ACP文書作成と統計学的関連が認められた要因は4項目で,ファシリテーター看護師との2回以上の面談(対 面談無),ファシリテーター看護師との1回の面談(対 面談無),ベースライン時のACP介入希望(対 Rand-ACP群),ベースライン時の在宅酸素療法導入基準の適格性(対 基準外)であった.
③医療記録内でのACPに関する記述は,介入群はベースラインと6か月後の比較で有意に増加し,通常ケア群は差を認めなかった.
④記録内のACPに関する記述と統計学的関連が認められた要因は5項目で,ソーシャルサポートの低さ,ファシリテーター看護師との2回以上の面談(対 面談無),家族や介護者のACPに関する話合いへの参加(対 参加無),ベースライン時のMRC息切れスケールでグレード4~5(対 グレード0),ベースライン時のACP介入希望であった.
RCT Buckingham et al.(2015) 看護師主導による重症COPD患者を支援する介入(HELP-COPD)を評価すること. 1.介入群19/24名,対照群3/8名.
2.COPD増悪の入院患者.
①介入群には,呼吸ケア専門の支援看護師が退院4週間後に自宅を訪問し介入プログラムを用いて,身体的精神的社会的スピリチュアルな関心に応じて支援看護師が1回目面談を実施した.
②同意の得られたアクションリストは,実行を促がすためにHELP-COPDの記録に残された.HELP-COPD面談の記録を患者ごとに1頁の用紙にまとめ,プライマリケア,セカンダリケアの医療記録を保管した.
③支援看護師は患者に,1か月後,3か月後,6か月後に電話し,その後のACPに関する行動を確認した.6か月時に支援看護師が自宅を訪問し2回目面談を実施した.
ベースライン,3か月後,6か月後. ①介入群は対照群と6か月後の比較で,コミュニケーションの質,主治医と治療の意向について話をする割合,代理意思決定者と治療の意向について話をする割合,のそれぞれが有意に高まっていた.
②介入群は対照群に比べ,EOLのコミュニケーション尺度下位項目の「徐々に悪化することについて自分の気持ちを話すこと」スコアが有意に高く,話すことが促進されていた.
RCT Au et al.(2012) EOLCの話合いに患者の希望をフィードバックする介入が,COPD患者と主治医とのコミュニケーションの質を改善するか評価すること. 1.介入群151/194名,対照群155/182名.医療者92名(医師69.1%,CNS・PA26.2%,PA4.8%).
2.患者はGOLDガイドラインの基準に基づきCOPDと診断され,COPD治療の主治医が研究参加医師である.
①自記式質問紙を用いて,コミュニケーションや延命治療,終末期に関する患者の要望を査定した.
②介入群の患者と医療者は,EOLCに関する会話を促進するために,質問紙の回答に基づく1頁のフィードバック用紙を受け取った.対照群は,質問紙に回答したが,フィードバックは受け取らなかった.
③2週間後に訪問し,患者が報告した出来事とEOLCのコミュニケーションの質を査定した.
ベースライン,2週間後. ①介入群は対照群と比較して,主治医とのEOLの希望に関する話合いが有意に増加し,代理意思決定者との希望する治療の種類についての話合いも有意に増加した.
②介入群は対照群より,終末期ケアの話合いを有意に高く評価した.
非RCT Rabow et al.(2004) 多職種の緩和ケアチームによるコンサルテーション,外来での直接的サービス(患者,家族,プライマリーケア医)の介入の効果をRCTで評価すること. 1.介入群35/50名(がん13名,心不全17名,COPD20名),対照群31/40名(がん17名,心不全14名,COPD9名)
2.予後が1年から5年と見込まれる,進行心不全,COPD,がんの患者
介入群への包括的ケアチームのプログラムは,緩和ケアのコンサルテーション,ソーシャルワーカーのケースマネジメント,看護師のケア提供者のトレーニングと支援,ボランティアの定期的な電話と訪問による支援,サポートグループでの症状マネジメントやACPの話合い,チャプレンのコンサルテーション,病気や対人関係に関係する感情を探るアートセラピーを統合したもので,7つの構成要素からなる. ベースライン,6か月後,12か月後. ①介入群は介入後に,呼吸困難感と不安が有意に減少し,精神的安寧と睡眠の質が有意に改善した.
前後比較 Van Scoy et al.(2016) 進行した心不全患者とCOPD患者がオンラインの意思決定支援を用いて,どのようにACPを経験するのかを明らかにすること. 1.COPD患者:25/25名,心不全患者:24/24名.
2.病期III~IVのCOPD患者(30歳以上,読む能力に支障がない,認知障害がない,中度~重度のうつでなはい),NYHA IIIかIV/EF35未満の心不全患者.
オンラインのACPに関する意思決定支援ツールで利用者の回答から事前指示書を作成する.このプログラムはビデオや挿絵からの,EOLの状態と治療に関する情報(人工呼吸,心肺蘇生,ホスピス,緩和ケアなど)を含む. オンライン意思決定支援の利用前後. ①介入したCOPD患者25名のうち,オンラインの意思決定支援ツールを「満足」「非常に満足」と回答した割合は,情報の質について84%,意思決定への有用性88%,価値の明確化への有用性88%,意向を伝えることへの有用性88%であった.
②参加者の90%以上が事前指示を「非常に正確」と評価した.
③参加者の意思決定の葛藤は低かった.
④参加者のACP知識スコアは介入後有意に高まった.
前後比較 Reinke et al.(2011) Web上のグループによる患者教育は,エンドオブライフケアに関する知識やコミュニケーションスキルに効果があるか評価すること. 1.COPD患者7/7名
2.病期III~IVにある.先に行っている息切れのセルフマネジメントに関する研究参加者でEOLに関して学ぶことに興味がある.コンピュータを利用できインターネットにつながる.
インターネットのWEBでの双方向プログラム内容は,①EOLに関する会話の大切さ,②それらの話をする際にこのツールが活用できるか,③EOLに関する希望を伝えること,④EOLの希望を話し合うことに関連した感情,⑤EOLの会話を始めるきっかけのポイント,⑥EOLに関係する保険や出費など経済的な情報についてであった.WEB上でのグループミーティングは60分間であった. 介入前,介入直後,介入3か月後. ①WEB上のグループミーティングに参加した患者7名中6名がACPの文書を作成し,うち3名が主治医と文書を共有していた.
②介入後に,家族や親しい友人とEOLについて話をした者は7名中7名,主治医とEOLについて話をした者は7名中6名であった.
③患者は家族や親しい友人,主治医とEOLについて話すことに自信をもてただけでなく,EOLにおける治療が自分の意向に沿うものになると感じていた.
前後比較 Wilson et al.(2005) 増悪時の事前指示についてCOPD患者を支援するために開発した,気管挿管・人工呼吸の経過やリスクそして効果を記し,構造化した意思決定エイドを評価すること. 1.重症COPD患者33/38名.
2.呼吸リハビリテーションプログラムを行っている.1秒率が40%以下.
トレーニングした看護師と個別面談を2回実施した.
①初回面談は,属性と臨床的な内容について聞いた後,ベースラインの質問紙記入を行った.意思決定エイドには,人工呼吸器の平均装着期間,人工呼吸器離脱後の転帰を掲載した.人工呼吸を選択した人の95%以上が亡くなっていることを示し,人工呼吸を行わない場合のサポーティブケアの目標はできる限り安楽を維持することだと説明した.情報提供内容の要約後に,患者は自分の価値観,意思決定への参加の仕方,人工呼吸とサポーティブケアへの質問事項,生命に危険がある状況での人工呼吸実施あるいは見合せの希望,についてのワークシートを用いた課題の説明を受けた.その後,患者は自宅でその課題を行った.
②2回目面談は約2週間後に行い,課題を振り返った.
ベースライン,介入後. ①意思決定支援をした後,参加者31名(94%)は意思決定を行い,そのうち23名(74%)は人工呼吸装着見合せを選択した.
②介入後の方が有意に人工呼吸の効果を正しく理解し,意思決定葛藤スコアは有意に低下していた.
③人工呼吸器の装着を希望した参加者は,寿命を延ばすことを期待していた.一方,装着を希望しない人は治療の負担を考え,長期的な予後を期待できないと捉えていた.
④参加者の8名(24%)は意思決定エイドの全てを理解しているわけでなく,9名(27%)はストレスを感じていた.
前後比較 Dales et al.(1999) 人工呼吸器利用に関する患者の意思決定の支援シナリオを開発し,パイロットテストを行うこと. 1.20/20名
2.よい精神状態にある40歳以上のCOPD患者.初回面談から12か月以内の肺機能検査で%FEV1が45%未満.
人工呼吸の意思決定支援シナリオは,救急医療チームの医師,ソーシャルワーカー,チャプレン,看護職,呼吸リハビリテーションセラピストで話合い,COPD患者の社会的心理的身体的側面の内容を含めて,進行と合併症,挿管と人工呼吸のプロセス,人工呼吸を行う/行わないことによるアウトカムを盛り込んだ.意思決定支援シナリオ最終版は,集中ケア看護師,高校教師,健康な高齢者,人工呼吸の経験のある患者によって検討された.意思決定支援シナリオは,カセット版と小冊子版が作られた. ベースライン,1年後. ①人工呼吸の意思決定シナリオを活用した意思決定支援を受けた20名の患者すべてが意思決定を行い,12名(60%)は人工呼吸を希望しなかった.
②1年後のフォローアップ調査が可能だった18名中2名(11%)が意思決定内容を変更していた.
③意思決定葛藤スコアの平均値は低かった.

【略語】EOL: End of Life, EOLC: End of Life Care, CNS: Certified Nurse Specialist, PA: Physician Assistant

Ⅲ. 結果

1. 慢性呼吸器疾患患者のACPを支える介入研究の動向

1) 研究デザインと年次推移

対象論文の研究デザインは,RCT 3件,非RCT1件,前後比較試験4件であった.年次推移では1999年より発表され,2010年以降に増加していた.対象論文に日本の研究は含まれなかった.

2) 介入対象者

対象者の疾患は,主に慢性閉塞性肺疾患(以下,COPD)であり,その他に間質性肺炎,がん,心不全が含まれていた.重症度は,COPD III期~IV期,予後1年~5年あるいは死亡ハイリスクの予測,COPD増悪による入院であった.

3) 介入プロトコルの特徴

介入プロトコルの概要は表1に示すとおりであった.プロトコルの特徴を類似性から分類すると,研修を受けた看護師によるACPの対話促進(Sinclair et al., 2017Buckingham et al., 2015),コンピュータシステムを用いた患者個別のACP文書自動作成(Au et al., 2012),多職種の包括的ケアチームによる支援(Rabow et al., 2004),インターネットを介したエンド・オブ・ライフの意思決定支援(Van Scoy et al., 2016Reinke et al., 2011),増悪時を想定した人工呼吸に関する事前の意思決定支援(Wilson et al., 2005Dales et al., 1999)であった.

2. 慢性呼吸器疾患患者のACPを支えるために推奨される実践の要素

各介入の主な効果は表1のとおりであった.統計学的に効果の認められた実践内容から導いた,慢性呼吸器疾患患者のACPを支えるために推奨される実践の要素は,表2のとおりであった.以下にその内容を述べる.

表2 COPDを主とした慢性呼吸器疾患患者のACPを支えるために推奨される実践の要素
要素 推奨内容
ACPの対象 ACPの介入を好む,ACPに興味をもつ.
ACP介入の潜在的なニーズ評価 MRC息切れスケール4~5,在宅酸素療法の導入基準を満たす,ソーシャルサポートの低さ,家族や介護者のACPに関する話合いへの参加希望.
ACPの介入実施者と関わりの回数 呼吸ケア領域の緩和ケアに関する知識と経験を有し,ACPに関するコミュニケーションについて適切な訓練を受けた看護師等の専門家らによる,2回以上の関わり.
ACPに関する情報提供 ビデオや挿絵を用いて,一般的な終末期の状態,治療に関する情報(人工呼吸,心肺蘇生,ホスピス,緩和ケアについて),ACPに関する意向を家族等・医療者に伝えること,保険や費用出費など経済的なこと.
人工呼吸に関する情報提供 人工呼吸で期待される効果,人工呼吸を行うことによるリスク,人工呼吸を行わない場合の経過,サポーティブケア.
ACPに関する記録の共有 1枚の用紙に収め患者と医療者双方が保管する,通常の医療記録内の記述に含める,の両方.

1) ACPの対象

ACPを希望し介入群割付となった患者(Pref-ACP群)は無作為に介入群へ割付となった患者(Rand-ACP群)と比較して有意にACPの文書を作成し,ACP文書作成にはACP介入希望が関連していた(Sinclair et al., 2017).End of Life(以下EOL)に興味をもつ患者は介入後にACPの文書を作成し,家族や主治医とEOLについて会話していた(Reinke et al., 2011).これらの結果より抽出されたACPの介入に適する対象の特性は,ACPの介入を好む,ACPに興味をもつ,であった.

2) ACP介入の潜在的なニーズ評価

ACPの文書作成もしくは医療記録の記述と関連が認められた要因(Sinclair et al., 2017)のうち,対象者や家族等の状態を示す結果をACP介入の潜在的なニーズと位置付けた.それらの内容は,MRC息切れスケール・グレード4~5,在宅酸素療法の導入基準を満たす,ソーシャルサポートの低さ,家族や介護者のACPに関する話合いへの参加希望であった.

3) ACP介入実施者と関わりの回数

効果の認められたACP介入の実施者は,呼吸ケア領域の緩和ケアに関する知識と経験を有し,ACPに関するコミュニケーションについて適切な訓練を受けた看護師等の専門家であった(Rabow et al., 2004Wilson et al., 2005Buckingham et al., 2015Sinclair et al., 2017).従って,望ましいACP介入の実施者は,上記の知識や技術に関する訓練を受けた看護師等の専門家であった.

関わり回数は,ACPの文書作成と医療記録ともに面談2回以上で関連が認められ(Sinclair et al., 2017),その他に2回面談で効果の認められた報告が複数あった(Wilson et al., 2005Au et al., 2012Buckingham et al., 2015).これらから抽出された望ましい関わり回数は,2回以上であった.

4) ACPに関する情報提供

介入後,ACPの知識スコアが有意に高まり,情報の質と有用性への満足度が高く,意思決定の葛藤スコアは低かった(Van Scoy et al., 2016).EOLについて話すことに自信がつき,EOLの治療が自分の意向に沿うと感じていた(Reinke et al., 2011).介入で用いた情報から抽出された,推奨されるACPに関する情報提供は,ビデオや挿絵を用いた,一般的な終末期の状態,治療に関する情報(人工呼吸,心肺蘇生,ホスピス,緩和ケア),ACPに関する意向を家族等・医療者に伝えること,保険や費用出費など経済的なこと,であった.

5) 人工呼吸に関する情報提供

介入により,人工呼吸の効果を有意に正しく理解し,意思決定葛藤スコアが有意に低下していたが,対象者の27%は意思決定支援にストレスを感じていた(Wilson et al., 2005).人工呼吸の意思決定支援を受けた20名の患者はすべて意思決定を行い,その60%は人工呼吸を希望せず,意思決定葛藤スコアの平均値は低かった(Dales et al., 1999).介入で用いた情報から抽出された,推奨される人工呼吸に関する情報提供は,人工呼吸で期待される効果,人工呼吸を行うことによるリスク,人工呼吸を行わない場合の経過,サポーティブケアであった.

6) ACPに関する記録の共有

介入群は対照群と比較して,主治医や代理意思決定者とのEOLに関する話合いが有意に増加した(Au et al., 2012).介入群は対照群と比較し,コミュニケーションの質,主治医や代理意思決定者と治療の意向について話をする割合,が有意に高まっていた(Buckingham et al., 2015).これらの介入で用いられた記録の共有方法から抽出された,推奨されるACPに関する記録の共有のあり方は,1枚の用紙に収め患者と医療者双方が保管すること,通常の医療記録内の記述に含めること,の両方であった.

Ⅳ. 考察

1. 介入研究の効果から捉えるACPの関わりに適した対象の考え方

本研究で提示したACP対象の推奨は,ACPに対する当事者の好みや興味を反映するものであり,ACPについて患者と話合う際に患者のACPへの態度を考慮すべきとの指摘(Seamark et al., 2012)を裏付ける結果であると考える.慢性呼吸器疾患は終末期の見極めが難しく(Simonds, 2003),COPDにおいては予後予測の難しさから重症度がACPの準備状態を判断する指標にはならないとの指摘(Wong & Gottwald, 2015)からも,患者本人の意向がACP介入のひとつの判断基準となることが示された意義ある結果と考える.

さらにACPの準備状態の評価に関して,今回提示したACP介入の潜在的ニーズ評価の推奨内容は,患者のおかれた状態をより反映しやすいものであった.この特徴は,患者の支持的ケアと緩和ケアのニーズを評価するためのThe supportive and Palliative Care Indicators Tool(Highet et al., 2014)における呼吸器疾患に関する指標に加えて,MRCスケールでの息切れ評価と在宅酸素療法導入基準の適格性という臨床で日常的に用いられる身体的な評価内容を用いることができ,ソーシャルサポートや家族や介護者の意向も含まれたことが,実践的で有用な知見であると考える.

2. ACPを支えるために推奨される実践要素の意味

今回提示した実践要素のうち,ACPの介入実施者と関わりの回数,ACPに関する情報提供,人工呼吸に関する情報提供,ACPに関する記録の共有は,コミュニケーションと意思決定支援にかかわるACP実践上の重要な内容であった.そこで,これらの意味について先行研究の知見と交差させて考察する.

先行研究では,ACPにおいて希望を維持する重要性(Philip et al., 2012)と,ACPの話合いを再構成し意義があり実現可能な何かを生みだす能力(Breitbart & Heller, 2003)が指摘されている.慢性呼吸器疾患患者のACPを支える実践においても,患者の希望を維持し,患者にとって重要な何かを実現する能力は肝要である.本レビューで得られたACPの介入実施者の推奨内容,つまり,呼吸ケア領域の緩和ケアの知識と経験,ACPに関するコミュニケーションの習得は,ACPを支えるために必要な能力の向上に重要な意味を持つと考える.

患者の希望や価値を尊重したACPの実践は,患者中心のケアに他ならない.患者中心とは「患者の意向,ニーズ,価値を重視した意思決定を保証して,そのための情報提供と支援をすること」と定義されており(Institute of Medicine, 2001),その意思決定の支援において選択肢の利点とリスクを評価しうる情報の共有は重要な支援に位置づけられる.今回提示したACPと人工呼吸に関する情報提供の推奨内容は,慢性呼吸器疾患患者のACPに深くかかわる情報であり,それら選択肢の利点とリスクが含まれていた.これらの情報提供を患者の意向や価値観を重視した意思決定の支援として行うことが求められる.

日本のACPにおける意思決定支援では,本人の意思,家族の意向,医学的判断が重要な柱とされるが(西川ら,2015),本人の意思把握が実践上の課題にもなっている.日本文化における主体性は,相互協調的で,境界が不明確で,主体性は他者との関係の中で成立することが,文化人類学的観点から指摘されている(Markus & Kitayama, 1991).これらから,日本では特に,患者のACPを支えようとする専門職が患者と対話する関係そのものが,患者の主体性を形づくる基盤となり,意識決定の支援につながる,価値ある援助であると考えられる.

3. 本研究の限界と今後の課題

本研究の限界は,慢性呼吸器疾患患者のACPに関する介入研究は世界的に少なく,レビュー対象論文の母集団や介入が不均一であったため,メタ分析を用いた効果の評価はできなかったという方法論的な限界がある.次に,対象論文の主な研究対象はCOPD III期~IV期の重度気流制限を有する患者であったことから,対象者の偏りがある.そして,レビュー対象論文に日本文献が含まれなかったことから,今回提示したACPを支えるために推奨される実践の要素の活用には,欧米と日本の文化的差異を考慮する必要がある.また,ACPの定義は様々であることから,その内容について吟味しながら今後の研究を行う必要がある.

今後の課題としては,COPDに加えて病状進行像が異なる間質性肺炎などの慢性呼吸器疾患をもつ患者を対象としたACPを支える援助の明確化とその効果の検証が日本でも行われることが望まれる.

Ⅴ. 結論

慢性呼吸器疾患患者のACPを支える介入研究のレビューから,明らかとなった推奨される実践の要素は,ACPの対象,ACPの介入の潜在的なニーズ評価,ACPの介入実施者と関わりの回数,ACPに関する情報提供,人工呼吸に関する情報提供,ACPに関する記録の共有であった.この結果から,慢性呼吸器疾患患者のACP介入研究の効果から捉えるACPの関わりに適した対象の考え方,ACPを支えるために推奨される実践要素の意味が示唆された.

謝辞:本研究にご協力いただいたすべての方に感謝申し上げます.

本研究はJSPS科研費(研究課題16H05582,研究代表者 守田美奈子)の助成を得て遂行した研究課題の一部として実施した.

利益相反:本研究に関する利益相反は存在しない.

著者資格:TTは研究の着想およびデザイン,データ収集と分析,論文作成までの研究全体のプロセスに貢献した.TAはデータ分析と解釈,論文作成への助言を行った.TYはデータ分析と解釈に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

付記:本論文の内容の一部は,第18回日本赤十字看護学会学術集会において発表した.

文献
 
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