目的:地域包括ケア病棟の看護職を対象に,地域包括ケアにおける認知症高齢患者に対するシームレスケア実践力尺度作成に向け,妥当性と信頼性を検証することを目的とした.
方法:地域包括ケア病棟137施設の看護職1,370名を対象に,質問紙調査を行った.
結果:570名(41.6%)の有効回答を得た.天井効果および床効果を示す質問項目はなかった.探索的因子分析では,【多職種の強みを活かす】,【家族の現状を考慮する】,【穏やかな日々の生活を維持する】,【認知機能に応じ日常生活動作の向上を目指す】,【退院後へつなぐ医学的管理】,【入院早期からのMSWとの連携】の6因子に分かれ,各因子のα係数は.800以上であった.確認的因子分析では,CFIは.905,RMSEAは.065であった.
結論:本尺度の妥当性と信頼性が示され,認知症高齢患者に対し地域包括ケア病棟が求められる機能を果たすためにも,本尺度の活用が望まれる.
Objective: This study aimed to verify the validity and reliability of the seamless care for elderly dementia patients in community-based integrated care scale.
Method: A questionnaire survey was administered to 1,370 nurses at 137 hospitals for community-based care.
Results: We obtained 570 valid responses (41.6%). There were no question items indicating floor and ceiling effects. An exploratory factor analysis revealed that seamless care consisted of the following six factors: “utilizing the advantages of multiple occupations,” “considering the current state of a patient’s family,” “maintaining a patient’s gentle daily life,” “aiming to improve a patient’s daily living behavior according to cognitive function,” “medical management for a patient after being discharged,” and “cooperation with medical social workers from the beginning of hospitalization.” No question items had factor loadings less than .400. Because the α value of each factor was not less than .800, the internal consistency of this scale could be verified. In a confirmatory factor analysis, the comparative fit index values were .905 and above .900, and the root mean square error of approximation value was .065.
Conclusion: The validity and reliability of this scale were verified. This scale should be used to fulfill functions required for hospitals for community-based care to cope with elderly dementia patients.
高齢の患者は入院すること自体,手術による侵襲,短期間であっても臥床を強いられることなどによりADL(activities of daily living)が低下してしまうことが十分予測される(佐々木ら,2017).仲井ら(2018)は,地域包括ケア時代の入院患者像を,高齢で複数疾患を有し,ADLと認知機能が低下し,内服薬剤数が多く,発症前から生活支援を必要とする人が多い,と述べており,高齢化の進展に伴って今後,このような入院患者のさらなる増加が予測される.また,認知機能が低下している高齢患者の場合は,主疾患をコントロールできても,中核症状から派生するBPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)が入院中に顕在化することがある.そのため,ルーチンワークで行われる退院支援や退院調整では,地域包括ケアシステムが目指す地域での生活の継続に欠かせない日々のセルフケアや社会生活に多くの課題が残ってしまう.
地域包括ケア病棟は,地域包括ケアシステムの要として,ポストアキュート(高度急性期病院などからの受け入れ),サブアキュート(在宅療養あるいは居住系介護施設などからの受け入れ),周辺機能(緊急時やレスパイトなどの受け入れ),在宅・生活復帰支援の4機能が求められている(地域包括ケア病棟協会,2014).そこで,医療者には患者その人の入院前や退院後も視野に入れて切れ目がないケアをしていく,すなわちシームレスケアを実践することが重要となろう.その実現に向けて望まれる医療者の視点としては,総合的ケア,生活支援,生きがい実現の支援がある(猪口,2017).そのため,従来の疾患に目を向けた支援ではなく,シームレスな視点で生活をとらえ支援することが重要となる.
なかでも,地域包括ケア病棟に勤務する看護職においては,地域での生活の再開を目指し入院直後からの患者と家族への意図的な関りが重要である.ベッドサイドケアを担う看護職だからこそ認知症高齢患者のニーズを的確にとらえ,治療が必要な状況の中でも患者のもてる力を活かし,その人らしさを大切にした看護を提供できうる.認知症高齢患者が入院前のように穏やかに療養生活を送れるようであれば,退院後の生活も見通せるため,こうした看護職のシームレスケアの実践は,今は萌芽的,挑戦的ではあっても,その人の生活を整えるということであり,それは看護の本質でもあると考える.
また,退院後の治療の継続に加えて,認知症による生活全体への影響により,介護も必要になる.そのため,看護職には認知症という疾患の特徴を踏まえ,従来の退院支援・退院調整の枠組みを超えて,さまざまな方面から患者を支援していくシームレスケアが求められる.小木曽ら(2018a)は,何らかの医療ニーズを併せもっている認知症高齢患者へのシームレスケアを具体化するためには,必要な医療を継続して行いながら生活機能を高めるケアが求められていることを示している.しかし,看護職によるそのような実践は萌芽的であるため,認知症の特性を踏まえたシームレスケアの実践を評価できる方法を確立し,これを活用してケアの質を高めていく研究と実践の相互協調が必要である.小木曽ら(2018b)はその手立てとして,看護職によるシームレスケア実践の程度を把握・評価するための質問項目の抽出を行っている.具体的には,シームレスケアの概念の検討から,認知症高齢患者におけるシームレスケアとして,日常生活機能を高める,患者・家族とともに転帰先の選択,多職種協働,認知力に応じた関わり,医療的ケアの継続の下位概念を導き,それらに対応する看護実践の表現について選択・改変を重ねて,計36項目からなる地域包括ケアにおける認知症高齢患者に対するシームレスケア実践力尺度(Seamless care for elderly dementia patients in community-based integrated care Scale,以下SCD-CBS)を作成し,その内容的妥当性を確認している.SCD-CBS作成に向けた次の課題として,妥当性と信頼性の検討が明示されている.ただし,この尺度が対象としている認知症高齢患者へ対するシームレスケアということそれ自体が新しい事象であるため,既存の尺度を用いた基準関連妥当性,同時的妥当性,判別的妥当性を検証することはできない.そのため,本研究では妥当性の検討としては,構成概念妥当性および表面的妥当性を用いて検討していくことにする.
以上により本研究は,小木曽ら(2018b)の尺度を地域包括ケア病棟の看護職に適用し,地域包括ケアにおける認知症高齢患者に対するシームレスケア実践力尺度としての妥当性と信頼性を検証することを目的とした.
本研究では,認知症高齢患者が地域の中で生活するために医療職,福祉職,家族などが包括的にケアを行うこととした.
2. シームレスケア入院前や退院後の生活状況も視野に入れて,必要な医療を継続して行いながら生活機能を高める切れ目ないケアを行うこととした.
3. シームレスケア実践力SCD-CBSにて示されていることとした.
対象施設は2017年5月1日現在,東海北陸厚生局管内である東海4県の地域包括ケア病棟入院料および地域包括ケア入院医療管理料の届け出受理医療機関の地域包括ケア病棟(以下,地域包括ケア病棟)137施設とした.対象者は,各地域包括ケア病棟の看護職10名を看護部長あるいは地域包括ケア病棟の責任者(以下,看護部長)に選出を依頼し,合計1,370名とした.
2. 調査方法・内容調査期間は,2018年5月~6月とした.
調査内容は,基本属性として,年齢,性別,資格(複数回答),職位(スタッフ,スタッフ以外の管理職),カンファレンスの頻度(月に5回以上,月に5回未満),を問うた.SCD-CBSは,いくつかの予備調査を経て抽出された36質問項目からなっており(小木曽ら,2018b),回答は「1:全くできていない」,「2:あまりできていない」,「3:どちらともいえない」,「4:だいたいできている」,「5:十分できている」の5段階で求めた.
3. 分析方法統計処理は,統計用ソフトSPSS Statistics 21(for Windows),共分散構造分析ソフトAMOS 21(for Windows)を用い,有意水準は5%未満とした.
1) 項目分析基礎的統計量,SCD-CBSはceiling effect(以下,天井効果)とfloor effect(以下,床効果)の算出,およびItem-Total相関を検討した.
2) 構成概念妥当性構成概念妥当性を検討するために,SCD-CBSの構造について探索的因子分析(最尤法による因子抽出,プロマックス回転)を行い,パターン行列をもとに因子負荷量.400以上を基準として因子の検討を行った.その結果,6因子構造と判断された.次いで,得られた6因子を潜在変数として,確認的因子分析を行い,モデルの適合度を,適合度指標(GFI: goodness of fit index),自由度修正済み適合度指標(AGFI: adjusted goodness of fit index),比較適合度指標(CFI: comparative fit index),平均二乗誤差平方根(RMSEA: root mean square error of approximation),赤池情報量基準(AIC: Akaike’s Information Criterion)により評価した.
3) 信頼性の検証信頼性の検証には,Cronbachのα係数(以下,α)を算出し,値が.800を超えていれば信頼性が高いとした.
4) 対象者の属性別の傾向看護職の属性による傾向を検討するために,性別,職位,カンファレンスの頻度により2つのグループに分け,SCD-CBSの下位尺度得点のグループ間の差を明らかにするため,性別についてはカイ2乗検定,職位とカンファレンスの頻度はMann-WhitneyのU検定を行った.
4. 倫理的配慮地域包括ケア病棟を有している医療機関の看護部長に目的および調査内容を文書にて説明し同意を得られた後に,看護職に対しても文書にて説明をし,本研究に賛同をしなくとも業務上の不利益がないこと,個人名が特定されないこと,得られた結果は学会などで発表することを説明し研究協力を依頼した.個別の郵送による無記名の質問紙提出をもって,研究同意の意思確認を行った.
なお,本研究は岐阜大学大学院医学系研究等倫理審査委員会の承認(29-423)を得て実施した.
対象者1,370名の内,605名(44.2%)の回収があり,欠損値がない570名(41.6%)を対象とした.以下,有効回答を100%として述べる.平均年齢±SDは42.0 ± 10.0歳であり,女性が536名(94.0%)を占めていた.所持している免許は,看護師は464名(81.4%)が最も多く,次いで看護師と准看護師が50名(8.8%)などであった.職位は,スタッフが444名(77.9%)であり,カンファレンスの頻度は,月に5回以上が397名(69.6%)であった.
年齢 | 平均値±SD 42.0 ± 10.0 | |
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性別 | 女性 | 536(94.0) |
男性 | 34(6.0) | |
資格 | 看護師 | 464(81.4) |
看護師と准看護師 | 50(8.8) | |
准看護師 | 23(4.0) | |
看護師と介護支援専門員 | 23(4.0) | |
看護師と准看護師と介護支援専門員 | 8(1.4) | |
看護師と認知症看護認定看護師 | 2(0.4) | |
職位 | スタッフ | 444(77.9) |
スタッフ以外の管理職 | 126(18.6) | |
カンファレンスの頻度 | 月に5回以上 | 397(69.6) |
月に5回未満 | 173(30.4) |
SCD-CBSの項目の平均値とSDでは,“4 咀嚼・嚥下機能に応じた食事形態に変える”が4.23 ± 0.59で最も高く,一方,“6 さりげないトイレ誘導を重ね失禁を予防する”が3.47 ± 0.81で最も低かった.36項目の平均値+SDの値は4.28~4.95の範囲に収まり,天井効果(5以上)を示した質問項目は全くなかった.平均値-SDの値は2.66~3.64の範囲に収まり,床効果(1以下)を示した質問項目は全くなかった.そのため,分布の偏りはないと判断できた.
質問項目 | Mean | SD | 天井 | 床 | 全くできていない←―→十分できている | |||||
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第1因子 多職種の強みを活かす | ||||||||||
24 | 入院中に把握した患者の思いを多職種で共有する | 3.76 | 0.76 | 4.52 | 3.00 | 2(0.35) | 30(5.26) | 148(25.96) | 312(54.74) | 78(13.68) |
25 | 患者及び家族の病状理解の程度を多職種で共有する | 3.70 | 0.77 | 4.47 | 2.93 | 2(0.35) | 37(6.49) | 157(27.54) | 308(54.04) | 66(11.58) |
20 | 多職種が患者の病状を理解した上で同じ目標に向かいケアを行う | 3.83 | 0.78 | 4.61 | 3.05 | 2(0.35) | 30(5.26) | 128(22.46) | 312(54.74) | 98(17.19) |
21 | 入院中のADLの情報を共有し,職種ごとの役割を担う | 3.87 | 0.73 | 4.60 | 3.14 | 2(0.35) | 21(3.68) | 120(21.05) | 334(58.60) | 93(16.32) |
22 | 継続的な医療的ケアを多職種でサポートする | 3.78 | 0.76 | 4.54 | 3.02 | 2(0.35) | 26(4.56) | 154(27.02) | 304(53.33) | 84(14.74) |
19 | 多職種それぞれの情報をチームで共有しケアに活かす | 3.88 | 0.82 | 4.70 | 3.06 | 4(0.70) | 33(5.79) | 104(18.25) | 314(55.09) | 115(20.18) |
23 | それぞれの職種の専門性を活かした介入を行う | 3.91 | 0.72 | 4.63 | 3.19 | 2(0.35) | 18(3.16) | 113(19.82) | 336(58.95) | 101(17.72) |
26 | できるだけ早く認知力の低下に気づき,必要な医療や介護サービスにつなげる | 3.62 | 0.75 | 4.37 | 2.87 | 1(0.18) | 39(6.84) | 186(32.63) | 292(51.23) | 52(9.12) |
18 | 多職種それぞれの意見を持ち寄り,退院時カンファレンスを行う | 3.95 | 0.87 | 4.82 | 3.08 | 7(1.23) | 28(4.91) | 103(18.07) | 281(49.30) | 151(26.49) |
第2因子 家族の現状を考慮する | ||||||||||
10 | 家族の介護力を見極める | 3.75 | 0.75 | 4.50 | 3.00 | 2(0.35) | 35(6.14) | 130(22.81) | 337(59.12) | 66(11.58) |
11 | 忙しくて介護できないなどがある場合,家族の介護力に応じた社会資源の活用を提案する | 3.84 | 0.80 | 4.65 | 3.04 | 3(0.52) | 39(6.84) | 102(17.89) | 328(57.54) | 98(17.19) |
13 | 本当のキーパーソンを見極める | 3.70 | 0.82 | 4.52 | 2.88 | 4(0.70) | 39(6.84) | 162(28.42) | 285(50.00) | 80(14.04) |
12 | 患者と家族の思いの違いに気づくよう心がける | 3.76 | 0.74 | 4.50 | 3.02 | 1(0.18) | 29(5.09) | 148(26.00) | 320(56.14) | 72(12.63) |
9 | 入院(転棟)時から退院支援・退院調整を開始する | 3.88 | 0.88 | 4.76 | 3.00 | 6(1.05) | 37(6.49) | 112(19.65) | 278(48.77) | 137(24.04) |
15 | 在宅で患者・家族のもてる力を発揮できる効果的なケア方法を考案する | 3.58 | 0.78 | 4.36 | 2.80 | 5(0.88) | 39(6.84) | 194(34.04) | 282(49.47) | 50(8.77) |
8 | 入院当日から退院支援をし,療養先を考える | 3.74 | 0.92 | 4.67 | 2.82 | 9(1.58) | 49(8.60) | 134(23.51) | 266(46.67) | 112(19.65) |
第3因子 穏やかな日々の生活を維持する | ||||||||||
29 | 患者が落ち着けるように環境を整える | 3.75 | 0.74 | 4.49 | 3.01 | 31(5.44) | 152(26.67) | 316(55.44) | 71(12.46) | |
31 | 認知症の症状に応じて,日常生活行動を整えるケアを工夫する | 3.74 | 0.69 | 4.43 | 3.05 | 20(3.51) | 166(29.12) | 325(57.02) | 59(10.35) | |
30 | 認知症により病状を把握することが困難であるため,様々な情報からアセスメントを行う | 3.71 | 0.70 | 4.41 | 3.01 | 22(3.86) | 182(31.93) | 306(53.68) | 60(10.53) | |
27 | 患者の個別性を知るように努める | 3.83 | 0.69 | 4.52 | 3.14 | 16(2.81) | 143(25.09) | 333(58.42) | 78(13.68) | |
28 | 尊厳を保つ関わりを心がける | 3.83 | 0.73 | 4.56 | 3.10 | 21(3.68) | 147(25.79) | 310(54.39) | 92(16.14) | |
第4因子 認知機能に応じ日常生活動作の向上を目指す | ||||||||||
2 | ADLの維持・向上を目指した日々の積み重ねのケアを行う | 3.71 | 0.70 | 4.41 | 3.01 | 2(0.35) | 27(4.74) | 151(26.49) | 342(60.00) | 48(8.42) |
1 | 入院によるADLの低下をできるだけ防ぐ | 3.57 | 0.74 | 4.31 | 2.83 | 1(0.18) | 48(8.42) | 180(31.58) | 307(53.85) | 34(5.96) |
6 | さりげないトイレ誘導を重ね失禁を予防する | 3.47 | 0.81 | 4.28 | 2.66 | 4(0.70) | 64(11.23) | 200(35.09) | 262(45.96) | 40(7.02) |
3 | 在宅での生活状況に応じて入院中からの生活リハビリを行う | 3.78 | 0.75 | 4.53 | 3.03 | 1(0.18) | 36(6.32) | 126(22.11) | 334(58.60) | 73(12.81) |
7 | 患者の排泄リズムを把握する | 3.53 | 0.79 | 4.32 | 2.74 | 3(0.52) | 55(9.65) | 188(32.98) | 283(49.65) | 41(7.19) |
5 | 入院前にトイレで排泄していた場合は入院中にトイレでの排泄を目指す | 3.93 | 0.67 | 4.60 | 3.26 | 1(0.18) | 14(2.47) | 103(18.07) | 359(69.98) | 93(16.32) |
第5因子 退院後へつなぐ医学的管理 | ||||||||||
36 | 全身状態やADLの低下に応じてケアを変化させる | 4.04 | 0.63 | 4.66 | 3.41 | 10(1.75) | 72(12.63) | 375(65.79) | 113(19.82) | |
35 | 家族が医療処置を継続できるように入院中に手技を習得できるよう指導する | 3.97 | 0.71 | 4.68 | 3.26 | 2(0.35) | 13(2.28) | 101(17.72) | 337(59.12) | 117(20.53) |
32 | 退院後も継続的に必要な医療を受けられるようにする | 3.93 | 0.70 | 4.63 | 3.23 | 1(0.18) | 17(2.98) | 105(18.42) | 345(60.53) | 102(17.89) |
34 | シームレスな診療や介護を行い,ADLやQOLの維持を目指す | 3.64 | 0.73 | 4.38 | 2.91 | 4(0.70) | 28(4.91) | 183(32.11) | 307(53.86) | 48(8.42) |
33 | 入院時残薬を確認することで,在宅での内服状況のアセスメントを行う | 3.93 | 0.84 | 4.77 | 3.09 | 7(1.23) | 25(4.39) | 104(18.25) | 299(52.46) | 135(23.68) |
4 | 咀嚼・嚥下機能に応じた食事形態に変える | 4.23 | 0.59 | 4.82 | 3.64 | 5(0.88) | 33(5.79) | 359(63.00) | 173(30.35) | |
14 | 入院中の情報を退院先の機関(かかりつけ医や転院先)へ伝える | 3.97 | 0.85 | 4.82 | 3.12 | 4(0.70) | 34(5.96) | 88(15.43) | 294(51.58) | 150(26.32) |
第6因子 入院早期からのMSWとの連携 | ||||||||||
17 | 入院早期からMSWが関わるように調整する | 4.04 | 0.91 | 4.95 | 3.13 | 7(1.23) | 37(6.49) | 71(12.46) | 267(46.84) | 188(32.98) |
16 | MSWと連携し患者や家族にとって必要な情報を集める | 4.08 | 0.79 | 4.87 | 3.29 | 4(0.70) | 23(4.04) | 64(11.23) | 310(54.44) | 169(29.65) |
天井:天井効果:Mean + SD,床:床効果:Mean-SD
投入した36項目すべてが抽出され6因子のいずれかに基準以上の高い因子負荷量を示した.第1因子は,“入院中に把握した患者の思いを多職種で共有する”など9項目からなる【多職種の強みを活かす】(α = .946)であった.第2因子は,“家族の介護力を見極める”など7項目からなる【家族の現状を考慮する】(α = .890)であった.第3因子は,“患者が落ち着けるように環境を整える”など5項目からなる【穏やかな日々の生活を維持する】(α = .890)であった.第4因子は,“ADLの維持・向上を目指した日々の積み重ねのケアを行う”など6項目からなる【認知機能に応じ日常生活動作の向上を目指す】(α = .865)であった.第5因子は,“全身状態やADLの低下に応じてケアを変化させる”など7項目からなる【退院後へつなぐ医学的管理】(α = .867)であった.第6因子は,“入院早期からMSW(medical social worker)が関わるように調整する”など2項目からなる【入院早期からのMSWとの連携】(α = .856)であった.下位尺度間で算出した相関はいずれも高い値が得られ,とくに第1因子と第2因子の間は.719(p < .01)と最も強かった.
因子負荷量 | 共通性 | I-T相関 | ||||||||
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1) | 2) | 3) | 4) | 5) | 6) | |||||
第1因子 多職種の強みを活かす | α:.946 | |||||||||
24 | 入院中に把握した患者の思いを多職種で共有する | 0.870 | 0.594 | 0.613 | 0.546 | 0.603 | 0.387 | 0.764 | .749** | |
25 | 患者及び家族の病状理解の程度を多職種で共有する | 0.863 | 0.607 | 0.640 | 0.520 | 0.602 | 0.352 | 0.764 | .756** | |
20 | 多職種が患者の病状を理解した上で同じ目標に向かいケアを行う | 0.857 | 0.628 | 0.549 | 0.597 | 0.566 | 0.466 | 0.745 | .752** | |
21 | 入院中のADLの情報を共有し,職種ごとの役割を担う | 0.849 | 0.613 | 0.574 | 0.593 | 0.620 | 0.446 | 0.727 | .750** | |
22 | 継続的な医療的ケアを多職種でサポートする | 0.840 | 0.617 | 0.576 | 0.545 | 0.648 | 0.404 | 0.714 | .748** | |
19 | 多職種それぞれの情報をチームで共有しケアに活かす | 0.823 | 0.620 | 0.510 | 0.569 | 0.526 | 0.545 | 0.714 | .743** | |
23 | それぞれの職種の専門性を活かした介入を行う | 0.815 | 0.617 | 0.611 | 0.523 | 0.704 | 0.412 | 0.701 | .748** | |
26 | できるだけ早く認知力の低下に気づき,必要な医療や介護サービスにつなげる | 0.729 | 0.598 | 0.656 | 0.462 | 0.606 | 0.370 | 0.589 | .694** | |
18 | 多職種それぞれの意見を持ち寄り,退院時カンファレンスを行う | 0.688 | 0.552 | 0.428 | 0.470 | 0.473 | 0.561 | 0.540 | .655** | |
第2因子 家族の現状を考慮する | α:.890 | |||||||||
10 | 家族の介護力を見極める | 0.572 | 0.794 | 0.446 | 0.520 | 0.573 | 0.363 | 0.642 | .670** | |
11 | 忙しくて介護できないなどがある場合,家族の介護力に応じた社会資源の活用を提案する | 0.531 | 0.773 | 0.450 | 0.443 | 0.613 | 0.378 | 0.623 | .667** | |
13 | 本当のキーパーソンを見極める | 0.579 | 0.732 | 0.511 | 0.492 | 0.582 | 0.357 | 0.547 | .673** | |
12 | 患者と家族の思いの違いに気づくよう心がける | 0.560 | 0.729 | 0.534 | 0.527 | 0.565 | 0.340 | 0.547 | .669** | |
9 | 入院(転棟)時から退院支援・退院調整を開始する | 0.538 | 0.727 | 0.476 | 0.491 | 0.488 | 0.509 | 0.559 | .677** | |
15 | 在宅で患者・家族のもてる力を発揮できる効果的なケア方法を考案する | 0.603 | 0.712 | 0.548 | 0.492 | 0.527 | 0.399 | 0.534 | .685** | |
8 | 入院当日から退院支援をし,療養先を考える | 0.463 | 0.666 | 0.385 | 0.427 | 0.386 | 0.420 | 0.468 | .575** | |
第3因子 穏やかな日々の生活を維持する | α:.890 | |||||||||
29 | 患者が落ち着けるように環境を整える | 0.521 | 0.474 | 0.795 | 0.511 | 0.508 | 0.280 | 0.653 | .626** | |
31 | 認知症の症状に応じて,日常生活行動を整えるケアを工夫する | 0.555 | 0.571 | 0.793 | 0.487 | 0.603 | 0.287 | 0.641 | .666** | |
30 | 認知症により病状を把握することが困難であるため,様々な情報からアセスメントを行う | 0.606 | 0.578 | 0.779 | 0.458 | 0.624 | 0.300 | 0.628 | .682** | |
27 | 患者の個別性を知るように努める | 0.622 | 0.545 | 0.784 | 0.438 | 0.642 | 0.362 | 0.643 | .678** | |
28 | 尊厳を保つ関わりを心がける | 0.515 | 0.434 | 0.777 | 0.428 | 0.544 | 0.305 | 0.614 | .625** | |
第4因子 認知機能に応じ日常生活動作の向上を目指す | α:.865 | |||||||||
2 | ADLの維持・向上を目指した日々の積み重ねのケアを行う | 0.587 | 0.535 | 0.520 | 0.856 | 0.561 | 0.310 | 0.744 | .664** | |
1 | 入院によるADLの低下をできるだけ防ぐ | 0.489 | 0.479 | 0.489 | 0.795 | 0.479 | 0.310 | 0.642 | .611** | |
6 | さりげないトイレ誘導を重ね失禁を予防する | 0.542 | 0.510 | 0.441 | 0.682 | 0.419 | 0.289 | 0.491 | .585** | |
3 | 在宅での生活状況に応じて入院中からの生活リハビリを行う | 0.527 | 0.569 | 0.431 | 0.643 | 0.548 | 0.299 | 0.476 | .616** | |
7 | 患者の排泄リズムを把握する | 0.505 | 0.563 | 0.465 | 0.626 | 0.440 | 0.259 | 0.449 | .588** | |
5 | 入院前にトイレで排泄していた場合は入院中にトイレでの排泄を目指す | 0.474 | 0.527 | 0.380 | 0.611 | 0.489 | 0.291 | 0.418 | .560** | |
第5因子 退院後へつなぐ医学的管理 | α:.867 | |||||||||
36 | 全身状態やADLの低下に応じてケアを変化させる | 0.593 | 0.559 | 0.620 | 0.543 | 0.806 | 0.370 | 0.667 | .671** | |
35 | 家族が医療処置を継続できるように入院中に手技を習得できるよう指導する | 0.617 | 0.566 | 0.581 | 0.517 | 0.795 | 0.373 | 0.644 | .693** | |
32 | 退院後も継続的に必要な医療を受けられるようにする | 0.589 | 0.658 | 0.614 | 0.460 | 0.749 | 0.327 | 0.605 | .669** | |
34 | シームレスな診療や介護を行い,ADLやQOLの維持を目指す | 0.677 | 0.647 | 0.653 | 0.582 | 0.700 | 0.321 | 0.599 | .750** | |
33 | 入院時残薬を確認することで,在宅での内服状況のアセスメントを行う | 0.527 | 0.575 | 0.496 | 0.403 | 0.640 | 0.335 | 0.444 | .623** | |
4 | 咀嚼・嚥下機能に応じた食事形態に変える | 0.447 | 0.494 | 0.435 | 0.464 | 0.582 | 0.325 | 0.372 | .610** | |
14 | 入院中の情報を退院先の機関(かかりつけ医や転院先)へ伝える | 0.385 | 0.472 | 0.401 | 0.313 | 0.495 | 0.293 | 0.282 | .549** | |
第6因子 入院早期からのMSWとの連携 | α:.856 | |||||||||
17 | 入院早期からMSWが関わるように調整する | 0.510 | 0.502 | 0.392 | 0.369 | 0.441 | 0.888 | 0.798 | .599** | |
16 | MSWと連携し患者や家族にとって必要な情報を集める | 0.550 | 0.585 | 0.436 | 0.412 | 0.500 | 0.806 | 0.699 | .655** | |
成分相関行列 | 第1因子 | 1 | ||||||||
第2因子 | .719** | 1 | ||||||||
第3因子 | .680** | .626** | 1 | |||||||
第4因子 | .641** | .634** | .556** | 1 | ||||||
第5因子 | .703** | .706** | .703** | .581** | 1 | |||||
第6因子 | .507** | .511** | .355** | .375** | .401** | 1 | ||||
因子抽出法:最尤法 回転法:Kaiserの正規化を伴うプロマックス法 α,標準化された項目に基づいたCronbach’s alpha **:p < .01
探索的因子分析により得られた6因子を潜在変数とするモデルの適合度を確認的因子分析により検討した.その結果,χ2 = 1949.695と十分な値を示した(df = 579,p < .001),モデルの適合度を表す諸指標の値は,GFI = .833,AGFI = .807,CFI = .905,RMSEA = .065,AIC = 2123.695であり,GFI≧AGFIであり,CFIは.900以上の値を確保することができ,RMSEAも.100以下の基準を充たしていた.標準化係数は,第1因子では.687~.860,第2因子では.645~.784,第3因子では.758~.802,第4因子では.660~.813,第5因子では.511~.782,第6因子では.817~.915と,すべて.400以上であった.因子相互間の相関係数としての推定値は.509~.826といずれも高い値であった.
3. 対象者の属性別の傾向(表4)性別では,SCD-CBSの下位尺度に,全く差を示さなかった.職位では,スタッフの第6因子の平均値±SDは8.01 ± 1.60であり,スタッフ以外の管理職では8.52 ± 1.48であり差があった(p < .001).カンファレンスの頻度では,月に5回未満では第1因子の平均値±SDは32.89 ± 6.42,月に5回以上では34.91 ± 5.43であり,第3因子,第6因子ともに差があった(p < .001).
性別 | 職位 | カンファレンスの頻度 | |||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
男性(n = 34) | 女性(n = 536) | スタッフ(n = 444) | スタッフ以外の管理職(n = 126) | 月に5回未満(n = 173) | 月に5回以上(n = 397) | ||||||||||
M | SD | M | SD | p | M | SD | M | SD | p | M | SD | M | SD | p | |
第1因子 | 33.44 | 6.33 | 34.35 | 5.79 | .654 | 34.10 | 5.82 | 35.00 | 5.81 | .058 | 32.89 | 6.42 | 34.91 | 5.43 | .000*** |
第2因子 | 25.97 | 4.88 | 26.28 | 4.40 | .832 | 25.98 | 4.45 | 27.25 | 4.20 | .002** | 25.74 | 4.17 | 26.49 | 4.51 | .056 |
第3因子 | 18.41 | 2.97 | 18.89 | 2.96 | .340 | 18.75 | 2.99 | 19.23 | 2.82 | .077 | 18.13 | 2.83 | 19.18 | 2.96 | .000*** |
第4因子 | 21.47 | 3.84 | 22.03 | 3.42 | .709 | 21.94 | 3.41 | 22.17 | 3.57 | .343 | 21.36 | 3.72 | 22.27 | 3.29 | .003** |
第5因子 | 27.15 | 4.59 | 27.74 | 3.70 | .637 | 27.51 | 3.75 | 28.41 | 3.71 | .014* | 26.92 | 3.78 | 28.05 | 3.70 | .003** |
第6因子 | 7.97 | 1.68 | 8.13 | 1.59 | .532 | 8.01 | 1.60 | 8.52 | 1.48 | .000*** | 7.71 | 1.69 | 8.30 | 1.51 | .000*** |
* p < .05 ** p < .01 *** p < .001
性別はカイ2乗検定を用い,職位とカンファレンスの頻度はMann-WhitneyのU検定を用いた.
厚生労働省(2017)による平成28年衛生行政報告例では,40歳代は28.2%であり,次いで30歳代は26.7%であった.また,性別の割合も本研究の標本と類似傾向がみられ,一般的な構成と比べ大きな違いはないと考える.
2. SCD-CBSの妥当性と信頼性の検証SCD-CBSの構成概念妥当性については,探索的因子分析と確認的因子分析により,本尺度は6因子構造であることが検証された.探索的因子分析における因子負荷量は,すべての質問項目で高い水準で確保されてはいるが,因子負荷量がひとつの因子だけでなく他の複数の因子に対しても.500を超えるものもあった.代表的な斜交回転法であるプロマックス法は,因子間に相関が生じることを許容する.相関が強いことは,認知症高齢患者に対するシームレスケアは,さまざまなことへのつながりがあり,切れ目のないケアであるという特性に影響を受けていると考える.
認知機能が低下している場合は,自宅へ転帰する場合であっても,生活の場が変ることで心身の不調を生じリロケーションダメージに至る可能性が高い.SCD-CBSの“16 MSWと連携し患者や家族にとって必要な情報を集める”などは,リロケーションダメージを少なくするための意図的な介入を示す質問項目であり,測定したいシームレスケアのことを含んだ質問内容になっている.すなわち,表面的にも質問項目として内容が適合していると判断でき,表面的妥当性が確保できている(石井・多尾,2014)と考える.また,内的整合性としては,α係数は.856~.946でありすべてにおいて.800を上回っており,十分な値を有していると判断できる.
狩野(2002)は,2変数にしか影響しない因子がある場合,すなわち,因子負荷行列のある列において大きな値の負荷量が2個しか存在しないとき,識別性の問題(データから共通性を一意に決定できないことをいう)が生じ解は不安定になり信用できない,と述べている.本尺度においては,第6因子は二つの質問項目であり,前述の不適解があるという課題をもつ.探索的因子分析で不適解が得られたとき,一つの解決策は検証的因子分析(確認的因子分析)に移行することである(狩野,1998),とされている.本研究では,確認的因子分析では,CFIは.905と.900以上の値を確保でき,GFI≧AGFIであった.RMSEAは.050以下であれば当てはまりの良いモデルであり.100以上であれば当てはまりの良くないモデル(浦上・脇田,2016)であり,本研究ではRMSEAは.050以下ではなかったが.065であることから6因子構造であることが確認できていると考える.しかし,第6因子の二つの質問項目は,ともにMSWとの協働に関する内容である.小木曽ら(2018b)はMSWを含めたさまざまな職種における多職種協働として位置づけていたが,前述のようにMSWに特化した質問項目が第6因子として抽出された.退院後の生活を見据えた社会資源の活用ということが重要であることが示唆され,この質問内容と近い項目を追加することにより,SCD-CBSの改良につながる可能性もあると考える.
第4因子の三つの質問項目は,排泄に関するケアの内容や,移動動作の自立に関するケアの内容であり,日常生活動作の向上として排泄の自立が重要であることが示唆される.岩井ら(2017)は,地域包括ケア病棟からの転院先が自宅以外であった患者の特徴として,入棟時および退棟時の排泄動作能力,移動動作能力については非自宅群で有意に低かったことを明らかにしている.入院前の生活の場への転帰を目指して,排泄動作能力および移動動作能力は重要であり,本尺度の内容とも合致していると考える.
また,小木曽ら(2018c)は,シームレスケアは日常生活行動のひとつ一つをどのように退院後行うのかという小さなパーツに対する看護の実践でもある.入院早期から退院後の状況をシュミレーションし,ADLの維持・向上を目指した日々の積み重ねのある看護を行うことが重要となる,と述べている.本尺度で示された認知症高齢患者に対するシームレスケアは,高齢者のもてる力を見出し,それを活用することで,入院前の生活機能を目指し,日々のケアの積み重ねの実践である.それらは,【多職種の強みを活かす】,【家族の現状を考慮する】,【穏やかな日々の生活を維持する】,【認知機能に応じ日常生活動作の向上を目指す】,【退院後へつなぐ医学的管理】,【入院早期からのMSWとの連携】であると考える.
3. 対象者の属性別の傾向SCD-CBSは,看護職の性別には実践力の差がないが,スタッフ以外の管理職の方が,【入院早期からのMSWとの連携】をしていることが明らかになった.介護保険制度をはじめ,さまざまな社会資源の活用においてはMSWの力が欠かせず,分け隔てなく病棟看護職とMSWが協働することが求められる.前川・谷山(2018)は地域包括ケア病棟の在宅療養支援の課題として,『社会資源活用』の,「地域の社会資源を調べる」,「ケアマネジャーとの早期連携」の実施割合が低いことを明らかにしている.退院支援・退院調整などにおいては看護職がすべてにおいて中心になる必要はなく,むしろそれらに精通しているMSWに入院早期から情報提供を行い,連携・協働していく必要があると考える.その必要性の見極めがスタッフ以外の管理職の方があるという結果につながっていると考える.また,地域包括ケア病棟でのカンファレンスの頻度が多い方が,【多職種の強みを活かす】などの実践が高くなる一方で,【家族の現状を考慮する】は,カンファレンスの頻度とは全く差がみられなかった.カンファレンスを実施する前に,プライマリーナースが家族の情報を多方面から得る必要があるが,家族の面会が頻回にあるケースばかりではなく,情報収集の難しさが背景にあると考える.また,家族構成員が多くとも,それが介護力があるという短絡的な判断にはつながらない.渡部・有馬(2019)は,高齢者や自立度に問題のある患者では,退院に向けて入院早期から身体・精神・環境・社会的問題などを多職種で把握しておくことが重要である,と述べている.在宅における生活の再開には,家族の介護力の状況を把握し,想定される介護の実施が可能かどうかを判断する必要がある.地域包括ケア病棟に入院したその日から,プライマリーナースが家族への関わりを深め,ケアに関わる情報と家族の意向を把握する必要があろう.その実践を,ひとり一人の看護職の裁量で行うのではなく,組織的に実践できるようにすることが求められる.入院前から退院後の生活にも視野を広げて,地域での生活再開に向けたケアを行う必要がある.山根ら(2018)による認知症高齢患者の支援時の訪問看護師の困難として,〈家族間のトラブルに巻き込まれる〉,〈家族の負担への対応に苦慮する〉といった【家族への対応に苦慮する】状況を示している.在宅生活の再開にむけ,想定できる困難をできるだけ入院早期から予測し,それに対応できるケアマネジメントを行うことが重要となる.
4. SCD-CBSの活用に向けて入院患者の高齢化がすすんでおり,認知症の診断がなくとも認知力の低下により,入院生活に課題を抱える患者も増加傾向にある.現場で働く看護職は,その状況に対応ができず,認知症ケアを学びながら実践を行っている現状がある.そのため,本尺度を活用することにより,認知症ケアの質の向上に資することにつながると考えられる.地域包括ケア病棟は,病院の指定された病棟で運営されることが多く,急性期病棟やあるいは小児科病棟などから勤務交代で地域包括ケア病棟に配属されることもある.そのため,看護職としての経験年数が多い場合であっても,その看護の経験が認知症ケアに活かされにくいという現状がある.そのため,新任者だけでなく,キャリアがある看護職に対しても,認知症高齢患者に対するシームレスケアの実践力をリフレクションできる一助にもなると考える.また,看護チームとしての認知症高齢患者に対するシームレスケアの実践力の向上にも役立つと考え,SCD-CBSの活用が望まれる.
地域包括ケア病棟では,理学療法士などのリハビリ職も病棟に配置されており,退院支援・退院調整においては,院内外の多職種協働が重要となる.また,認知症ケア加算の有無によっても,看護職の認知症高齢患者に対するシームレスケアに対する認識も,それに向き合う実践力にも違いがあると考える.そのため,それぞれの特性も考慮していくことも必要である.
本研究は地域包括ケア病棟に焦点を充て尺度開発を行ったが,一般病棟であっても認知症高齢患者に対するシームレスケアの視点は有用である.現時点では一般病棟などで本尺度の活用ができるかどうかは不明であり,さらなる研究をすすめていく必要があろう.また,SCD-CBSについては,探索的因子分析の結果から複数の因子に高い負荷量を示す項目がある,第6因子が二つの質問項目になっている,といった課題が見えており,質問項目のブラッシュアップも含めて,尺度のさらなる改良も必要であると考える.
1.探索的因子分析では,【多職種の強みを活かす】,【家族の現状を考慮する】,【穏やかな日々の生活を維持する】,【認知機能に応じ日常生活動作の向上を目指す】,【退院後へつなぐ医学的管理】,【入院早期からのMSWとの連携】の6因子に分かれ.400未満の因子負荷量を示す項目はなく,下位尺度におけるα係数は.856~.946であった.
2.確認的因子分析では,CFIは.905と.900以上であった.また,RMSEAは.065であり,6因子構造であることを支持できた.
3.SCD-CBSの構成概念妥当性と表面的妥当性により妥当性が検証でき,内的整合性により,信頼性の検証ができた.
謝辞:本研究の調査に関しまして,ご理解とご協力をいただきました地域包括ケア病棟の皆様に感謝申し上げます.なお,本研究は科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金:課題番号16K12193)の助成を受け実施した.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:KOは,研究の着想から原稿作成のプロセス全体に貢献した.KIは,原稿への助言および示唆に貢献した.なお,すべての著者は最終原稿を読み,了解した.