日本看護科学会誌
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原著
青年期前期における「親世代になることに対する意識尺度」の作成と信頼性・妥当性の検討
千原 裕香西村 真実子成田 みぎわ金谷 雅代寺井 孝弘伊達岡 五月本部 由梨
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2019 年 39 巻 p. 211-220

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Abstract

目的:青年期前期における親世代になることに対する意識尺度を作成し,信頼性と妥当性を検討する.

方法:予備調査により48項目の尺度原案を作成した.A県内の高校生786名を対象に質問紙調査を実施し,内的整合性と構成概念妥当性を検討した.

結果:回収数762名,有効回答数703名であった.因子分析及び信頼性の検討の結果,【子どもとの関わりに対する意識】【親子関係に対する意識】【親になることに対する意識】【夫婦や社会で子育てすることに対する意識】【子どもや子育てに対する関心・感情】【子育てに対する不安】の6下位尺度33項目で構成された.既知集団妥当性と確証的因子分析により,一定の構成概念妥当性が確保された.各下位尺度のCronbach’s α係数は0.76から0.94で概ね良好な値が得られた.

結論:作成した親世代になることに対する意識尺度の信頼性と妥当性は概ね確保できた.

Translated Abstract

Objective: To construct a scale for adolescent awareness of becoming a parental generation and to examine the reliability and validity of said scale.

Method: A preliminary survey was conducted to create a draft of a 48-item scale on awareness of becoming a parental generation. This survey was conducted on 786 high school students in four high schools in Prefecture A, and its internal consistency and construct validity were examined.

Results: The number of responses collected was 762 (recovery rate: 96.9%); the number of valid responses was 703 (valid response rate: 92.3%). Following a factor analysis and an examination of reliability, a scale was devised with 33 items and 6 factors. The factors were as follows: “awareness of relationships with children,” “awareness of the parent–child relationship,” “awareness of becoming a parent,” “awareness of parenting with a couple and within society,” “interest and feelings regarding children / child care,” and “anxiety about parenting”. Known population validity and a confirmatory factor analysis ensured a constant level of construct validity. The Cronbach’s alpha coefficient for each factor was generally good at 0.76 to 0.94.

Conclusion: The reliability and validity of the scale for awareness of becoming a parental generation that was constructed in this study was generally confirmed.

Ⅰ. 緒言

近年,育児不安や子ども虐待など子育てをめぐる問題が深刻化し,親としての資質の未成熟が原因の一つとして指摘されている.親としての資質に関して,「親性」「育児性」「養育性」「養護性」「親(性)準備性」「次世代育成力」などの用語が使われているが,それぞれが様々な学問分野における対象者や使用目的が異なるものであり,また概念が不明瞭なものもあるとの指摘もあり(大橋・浅野,2009),用語の統一には至っていない.親としての資質である親性について,大橋・浅野(2009)は「すべての人がもっているものであり,女性と男性に共通する,自己を愛し,尊重しながら,他者(子ども)に対しても慈しみやいたわりをもつという性質で,ライフステージとともに発達していくもの」と定義し,中野(2008)も子どもができて初めて身につくものではなく,幼少期からの体験の積み重ねによって少しずつ育まれていくものと考え,「生育過程での乳幼児との接触体験の量や質,自分の成育歴への自己評価など過去の成育体験の影響が大きい」と述べている.また伊藤(2003, 2005)は,青年期は「自分の生き方を模索する時期であり,親になる・ならないかの選択自体がその模索の延長上にある」と述べ,「親としての役割を果たすための資質だけではなく,親とならない場合であっても,社会の一員として備えていくべき資質」と論じている.本稿では,青年期における親としての資質を「親世代になるための資質」と表現する.

現代の若者は少子化などの社会変化により,子どもの育つ過程に触れる機会が少なく,親世代になるための資質を自然に育むことが難しくなっている.そのため,将来の親たちは家庭以外の資源から子育てについて必要な知識を発達させることが重要である(Sasso & Williams, 2002)と指摘され,親世代になるための資質を育む次世代育成教育の重要性が高まっている.

また,次世代育成教育は親世代になるための資質向上だけでなく,虐待予防という点からも重要である.先行研究において不適切な養育が認められる母親はそうでない母親と比べて,子ども時代に自分自身も実親から不適切な養育を経験していた割合が多く(Cicchetti et al., 2006)世代間伝達すること,しかし,自分が親になることに対して肯定的な感情を持て,自分の親との関係を受け止めることができると被虐待の経験が直線的に養育行動や子どもとの関係性に否定的な影響を及ぼすことは認められなかった(Milan et al., 2004)との報告があり,不適切な養育の世代間伝達を断ち切るアプローチとしても期待されている.

このような背景から近年,早期からの次世代育成教育の重要性が認識され,中・高校生を対象に様々な次世代育成教育が試みられている.海外では,幼児期から始める「Roots of Empathy」(Gordon, 2003)や高校生対象の「The Parenting Curriculum」(Sasso & Williams, 2002)などが開発され成果を挙げている.日本においては2003年に次世代育成支援対策推進法が施行され,中高生が乳幼児とふれあう機会の拡充や世代間交流の推進が提唱され,保育体験学習が実施されている(伊藤,2007尾城・吉川,2010).我々は,高校生が乳幼児だけでなくその親たちとも交流し,親になることについて考える「親子交流授業プログラム」を,行政・高校家庭科教諭・子育て支援団体ともに開発している.

このような次世代育成教育の効果測定のために,親世代になるための資質を捉える尺度が必要である.これまで大学生を対象に,親性準備性尺度(佐々木,2007),次世代育成力尺度(菱谷ら,2009),親準備性傾向尺度(西田・諸井,2010)などが作成されている.伊藤(2003)は,青年期前期の中・高校生にとって親になることは遠い将来の未確定な事柄であり,親になることが接近している世代とは異なると考えられ捉え直しが必要と述べており,これらの尺度が青年期前期の中・高校生に使用できるかは不明である.また先行研究の多くは,複数の尺度を組み合わせて調査し,その内容は①子どもに関するもの②子育てに関するもの③親になることに関するものの3つの構成要素に分類され,それらに対する意識という視点からのアプローチが主流である(伊藤,2003佐々木・竹,2018).しかし,この3要素を下位概念にもち,総合して青年期前期の親世代になるための資質を捉える尺度は見当たらなかった.そこで本研究では,青年期前期の親世代になるための資質を測定するための「親世代になることに対する意識尺度」を作成し,その信頼性と妥当性を検討することを目的とした.本研究により,今後増加していく次世代育成教育の発展に貢献できると考える.

Ⅱ. 用語の定義

1. 親世代になるための資質

親になる前の世代がもつ,段階的に形成される親としての資質であり,社会の一員として備えるべき資質(伊藤,2003)とした.

Ⅲ. 研究方法

本研究全体の流れは図1に示す.本研究は我々が開発している親子交流授業プログラム(以下,プログラムとする)に参加予定の高校生を対象に実施した.

図1

本研究全体の流れ

1. 質問項目の作成

プレ実施したプログラムに参加した高校生の学びや感想の自由記載から,青年期の親となるための資質の3つの構成要素(1)子どもに関するもの(子どものイメージ,子どもへの関心・感情),(2)子育てに関するもの(子育てへの感情,子育てに関する認識,子どもの発達に関する認識,夫婦や社会で子育てすることに対する意識),(3)親になることに関するもの(親になることに対する感情・意識)に関連する記述を抽出し,質的帰納的分析方法によりコード・カテゴリー化した.(1)子どもに関するものとして①子どもへの関わり方を知る8項目,②子どもの特徴の実感5項目,③子ども・子育てに対する自分の感情に気づき,親としての適性を考える6項目,(2)子育てに関するものとして④子育ては夫婦や地域で助け合ってするものと知る6項目,⑤子育てへの意欲や自信がめばえる6項目,(3)親になることに関するものとして⑥親に必要なものを感じとる5項目を作成した.また3要素以外に親子関係に関するものが抽出され,⑦親の存在の大きさと親子の絆に気づく16項目とし,7下位概念から構成される52項目の質問項目を作成した.分析の過程で,子育て支援担当の行政関係者,高校家庭科教諭,子育て支援団体関係者に意見を求め,内容妥当性を確認した.

2. 予備調査(質問項目の選定)

予備調査は,石川県立看護大学倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:第933号).2014年9~11月にA県内の高校生895名を対象に,52項目の質問項目について4段階リッカート法により質問紙調査を行った.回収数は885名(回収率98.8%)で,質問項目に欠損値のない828名(有効回答率93.6%)を分析対象とした.対象者の内訳は,学年は1~3年生で1年生が75.9%と最も多く,男子45.3%,女子54.6%であった.探索的因子分析(最尤法・バリマックス回転)にて,8因子41項目が抽出された.各因子のCronbach’s α係数は0.67~0.91で,3因子のα係数が0.75以下で内的整合性が低く,再検討が必要であった.

以上の結果より,41項目の内13項目の質問表現を変更し,先行研究を参照し5項目を追加した(表1参照).「親は子どもをうっとうしく思う」と「子どもにむやみに手をあげてはいけない」は分析の過程で削除したが,虐待予防の視点から必要な項目と考え再度追加した.また天井効果が認められた項目があり,測定方法を6段階リッカート法に変更した.以上の計48項目を親世代になることに対する意識尺度案(表1)とし,本調査を実施した.

表1 親世代になることに対する意識尺度原案(48項目)
No. 質問項目
子どもに関するもの
第1因子:子どもとの関わりに対する意識
* 1 子どもとのスキンシップのとり方がわかる
2 子どもとの遊び方がわかる
* 3 子どもへの話しかけ方がわかる
4 子どもの機嫌をうまくとる方法がわかる
5 子どもの抱き方がわかる
6 私は子どもに慣れている
* 7 遊具の選び方がわかる
第2因子:子どものイメージ
* 8 子どもには周りを明るくしてくれるパワーがある
* 9 子どもには疲れを癒すパワーがある
10 子どもが泣くのは意思表示である
第3因子:子ども・子育てへの関心・感情
11 子どもと関わりたい
12 子育てに興味がある
13 子どもはかわいい
14 将来,自分の子どもがほしい
15 私は子どもが嫌いであるR
* 16 子育ては楽しい
* 17 子どもを一番に考えられる大人になりたい
子育てに関するもの
第4因子:夫婦や社会で子育てすることに対する意識
18 男性が育児しやすい社会が必要である
19 父親も育児をしなければならない
20 父親と母親は助け合わなければいけない
21 子育て支援制度は重要である
22 子育てを応援できる大人になりたい
* 23 周囲に子どもができたら手伝おうと思う
第5因子:子育てに対する意識(自信)
24 子育てに自信がないR
* 25 自分が子育てするときに余裕がもてると思う
第6因子:子育てに対する意識(不安)
26 子育てできるか心配であるR
27 自分が子育てするときには悩むと思うR
親になることに関するもの
第7因子:親になることに対する意識
* 28 気持ちに余裕がにないと子育てはできない
29 強さがないと子育てはできない
* 30 子育てで自分の時間が減っていく
31 安易な気持ちでは子育てはできない
32 子育てには大変な面がある
33 子どもの個性に応じた関わりが必要である
34 子どもにはしつけが必要である
親子関係に関するもの
第8因子:親子関係に対する意識
* 35 親は子どもが好きである
36 親は子どもを大事に思っている
37 親子には深い絆があると思う
38 親子はお互いを必要とし合っている
39 子どもは親が好きである
* 40 子どもにとって親はなくてはならない存在
41 親と子は支え合って成長していく
追加項目
* 42 子育てで困ったことがあっても何とかなると思う
43 子育てに疲れ,イライラしている自分を想像するR
44 子どもの相手をうまくやれると思う
45 自分は子どもに慕われる大人にはなれない気がするR
* 46 親に感謝している
47 子どもにむやみに手をあげてはいけない
48 親は子どもをうっとうしく思うR

下線は質問の表現を変更した項目

Rは逆転項目

*は因子分析で削除した項目

3. 本調査

1) 対象施設と対象者

A県内の全高校に親子交流授業プログラムの実施と研究協力を依頼し,承諾を得られた高校を対象校とした.対象者は,対象校でプログラムに参加予定である,1~3年生の男女の高校生で,研究参加に同意が得られた者とした.多変量分析に必要な対象者数は,質問項目数の約15倍である720名と考えた.

2) データ収集方法

2015年9~10月に無記名による自記式質問紙調査を行った.学校長の研究協力の承諾が得られた対象校の家庭科教諭に調査用紙を郵送し,対象者への配布を依頼した.質問紙調査はプログラム開始前に集合形式で実施し,回答後は教室に設置した回収箱に投函するよう生徒に依頼した.

3) 調査内容

属性として学年,性別,きょうだいの有無,乳幼児との接触経験,家族形態を尋ねた.親世代になることに対する意識尺度48項目について「とてもそう思う(6点)」「そう思う(5点)」「少しそう思う(4点)」「あまりそう思わない(3点)」「そう思わない(2点)」「全くそう思わない(1点)」の6段階リッカート法で回答を求めた.各下位尺度に含まれる項目の合計得点を下位尺度得点とした.

4) 分析方法

(1) 対象者の属性の記述統計

対象者の属性として,学年,性別,きょうだいの有無,乳幼児との接触経験,家族形態の度数及び割合を算出した.

(2) 項目分析および探索的因子分析

親世代になることに対する意識尺度の記述統計および正規性の検定を行った.探索的因子分析を行い,共通性0.2未満,因子負荷量0.3未満,天井・床効果は平均値±標準偏差が6以上または1以下,因子別I-T相関分析は0.3未満,項目間相関係数0.6以上を削除検討基準とし項目の選定を行った.項目を削除するたびに,因子分析を繰り返した.抽出された因子構造について,研究者らでその内容を解釈し因子を命名した.また内容妥当性について,子育て支援担当の行政関係者,高校家庭科教諭,子育て支援団体関係者に意見を求めた.

(3) 信頼性の検討

内的整合性を検討するために各因子のCronbach’s α係数を算出した.Cronbach’s α係数は0.7以上を基準とした.

(4) 妥当性の検討

既知集団妥当性を検証した.先行研究で女子の方が子どもへの親和や子育てへの受容が高いことが明らかとなっており(伊藤,2003),本尺度において女子の方が男子より下位尺度得点が高いという仮説を立て,t検定を行った.また,乳幼児との接触経験がある者の方が乳幼児への好意感情や育児への積極性が高いとの報告があり(佐々木,2007),本尺度において乳幼児との接触経験がある者の方がない者に比べ下位尺度得点が高いという仮説を検証した.本研究は分析対象数が多く,t検定において有意になりやすいため,効果量rを算出した.また確証的因子分析によりモデルの適合性を確認した.なお統計学的分析には分析ソフトIBM SPSS Statistics 24.0及びSPSS Amos 24.0を使用した.

5) 倫理的配慮

本研究は石川県立看護大学倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:第725号).A県内の高校の学校長宛てと家庭科教諭宛てに,プログラム参画依頼書と研究協力依頼書を郵送し文書による説明を行い,プログラム参画申出書兼研究協力同意書の提出をもって,学校長と家庭科教諭の同意を得た.対象者である高校生には文書にて研究目的,方法,個人の匿名性の保護,任意性の保障と不利益に対する配慮について説明し,質問紙の回答と回収をもって研究参加に同意が得られたものとした.家庭科教諭が質問紙を配布するため強制的にならないよう配慮し,調査は授業の課題ではないこと,成績には関係がないこと等を文書による説明と合わせて,家庭科教諭から口頭にて説明していただいた.また対象者は未成年であるため,保護者に対して文書による説明を行った.

Ⅳ. 結果

1. 対象の特徴

対象校は4校で,質問紙を配布した高校生は786名であった.回収数は762名(回収率96.9%)で,そのうち尺度原案の項目に欠損値のない703名(有効回答率92.3%)を分析対象とした.

対象者は,1年生が650名(92.5%)で 最も多かった.性別は男子283名(40.3%),女子381名(54.2%)であった.乳幼児との接触経験は,接触経験ありと回答した者は520名(74.0%)であった(表2参照).

表2 対象の属性 n = 703
項目 人数 %
学年 1年生 650 92.5
3年生 15 2.1
不明 38 5.4
性別 男子 283 40.3
女子 381 54.2
不明 39 5.5
きょうだいの有無 きょうだいあり 592 84.2
きょうだいなし 72 10.2
不明 39 5.5
家族形態 核家族 484 68.8
拡大家族 180 25.6
不明 39 5.5
乳幼児との接触経験 接触経験あり 520 74.0
毎日~週1回程度 143 27.5
月1~2回程度 67 12.9
月1回以下 306 58.8
不明 4 0.8
接触経験なし 145 20.6
不明 38 5.4

2. 親世代になることに対する意識尺度の構成項目の検討

1) 探索的因子分析による項目の選定

48項目で探索的因子分析(最尤法,バリマックス回転)を実施し,固有値1以上の因子を抽出したところ8因子が抽出された.削除検討基準に従い項目の選定を行なった.項目30は共通性0.29,IT相関係数0.38と低く,削除した場合α係数が上昇するため削除とした.第8因子は項目25の1項目のみで構成され,共通性0.33と低いため削除した.項目28は共通性0.33と低く,項目29や項目31と類似した質問内容であると考えられ削除し,再度45項目で因子分析(最尤法,バリマックス回転)を実施した結果,6因子が抽出された.

項目1,項目2,項目3はそれぞれ項目間相関が0.8以上と高く,類似した質問内容であることが考えられた.いずれを削除した場合もα係数は大きく低下しないため,共通性0.90,因子負荷量0.92と最も高い項目2「子どもとの遊び方がわかる」を残し,項目1と項目3を削除した.項目7「遊具の選び方がわかる」は,削除した場合もα係数は低下しないため削除とした.項目47「子育てで困ったことがあっても何とかなると思う」は因子負荷量0.31と低く,削除した場合α係数が上昇するため削除とした.項目35「親は子どもが好きである」は項目36と相関係数0.72と高く,削除してもα係数が変わらないため削除とした.項目8,項目9,項目16,項目17,項目23,項目40,項目43は,複数の因子に0.3以上の因子負荷量があり,また削除した場合のα係数が大きく低下しないため削除とし,再度33項目で因子分析(最尤法,バリマックス回転)を行った.その結果,表3に示す6下位尺度33項目からなる質問項目を採択した.Kaiser-Meyer-Olkinの標本妥当性の測度は0.938,Barlettの球面性検定はP < 0.01で因子分析適用の妥当性が保証された.各因子の寄与率は7.14%から12.72%の範囲にあり,累積寄与率は61.98%であった.

表3 探索的因子分析(33項目)結果 n = 703
因子名No. 項目 因子 共通性 因子別I-T相関 項目削除時α 平均値 SD 天井効果 床効果
1 2 3 4 5 6
下位尺度I 子どもとの関わりに対する意識 5項目(得点範囲:5~30点) α = .91
2 子どもとの遊び方が分かる .86 .08 .12 .10 .15 .13 .81 .85 .88 3.86 ±1.15 5.01 2.72
4 子どもの機嫌をうまくとる方法がわかる .84 .05 .08 .08 .11 .10 .74 .81 .89 3.65 ±1.19 4.84 2.46
6 私は子どもに慣れている .81 .09 .08 .03 .23 .13 .75 .83 .88 3.69 ±1.41 5.10 2.28
5 子どもの抱き方がわかる .71 .09 .05 .16 .15 .10 .57 .71 .91 3.73 ±1.29 5.02 2.44
45 子どもの相手をうまくやれると思う .67 .10 .13 .08 .30 .19 .60 .70 .91 4.00 ±1.15 5.15 2.85
下位尺度II 親子関係に対する意識 5項目(得点範囲:5~30点) α = .94
38 親子はお互いを必要とし合っている .12 .84 .24 .21 .16 .04 .84 .88 .92 5.18 ±0.98 6.16 4.20
37 親子には深い絆があると思う .10 .83 .27 .18 .10 .06 .82 .87 .92 5.22 ±0.95 6.17 4.27
39 子どもは親が好きである .11 .79 .24 .18 .19 .02 .76 .84 .93 5.12 ±1.04 6.16 4.08
41 親と子は支え合って成長していく .13 .75 .29 .22 .18 .00 .74 .83 .93 5.20 ±0.98 6.18 4.22
36 親は子どもを大事に思っている .11 .72 .32 .22 .10 .04 .69 .79 .94 5.29 ±0.88 6.17 4.41
下位尺度III 親になることに対する意識 7項目(得点範囲:7~42点) α = .84
31 安易な気持ちで子育てはできない .12 .16 .74 .13 .02 –.04 .61 .69 .80 5.22 ±0.89 6.11 4.33
32 子育てには大変な面がある .05 .22 .73 .21 .13 –.07 .64 .70 .80 5.46 ±0.78 6.24 4.68
33 子どもの個性に応じた関わりが必要である .16 .26 .66 .27 .12 –.08 .62 .72 .79 5.13 ±0.87 6.00 4.27
34 子どもにはしつけが必要である .11 .17 .62 .16 .08 –.13 .48 .64 .81 5.06 ±0.89 5.95 4.17
10 子どもが泣くのは意思表示である .18 .29 .54 .30 .23 –.09 .56 .63 .81 5.17 ±0.91 6.08 4.26
29 強さがないと子育てはできない .04 .15 .42 .18 .05 –.08 .24 .45 .84 4.65 ±1.10 5.75 3.55
42 子どもにむやみに手をあげてはいけない .00 .25 .36 .13 .12 –.08 .24 .41 .85 5.17 ±1.15 6.32 4.02
下位尺度IV 夫婦や社会で子育てすることに対する意識 5項目(得点範囲:5~30点) α = .89
18 男性が育児しやすい社会が必要である .09 .22 .22 .73 .17 –.13 .68 .75 .87 5.04 ±0.97 6.01 4.07
21 子育て支援制度は重要である .13 .23 .40 .70 .12 –.06 .74 .80 .86 5.29 ±0.85 6.14 4.44
20 父親と母親はお互いを思いやり助け合わなければならない .08 .31 .43 .60 .15 .03 .67 .76 .87 5.34 ±0.84 6.18 4.50
19 父親も育児をしなければならない .14 .20 .28 .60 .10 –.01 .51 .67 .89 4.97 ±0.95 5.92 4.02
22 子育てを応援できる大人になりたい .23 .26 .36 .59 .32 –.02 .70 .75 .87 5.18 ±0.95 6.13 4.23
下位尺度V 子どもや子育てに対する関心・感情 5項目(得点範囲:5~30点) α = .92
12 子育てに興味がある .41 .22 .08 .25 .73 .16 .84 .84 .89 4.17 ±1.39 5.56 2.78
11 子どもと関わりたい .45 .27 .12 .16 .69 .17 .82 .83 .89 4.29 ±1.39 5.68 2.90
14 将来,自分の子どもがほしい .35 .18 .19 .26 .61 .13 .65 .76 .90 4.66 ±1.31 5.97 3.35
13 子どもはかわいい .37 .20 .29 .25 .58 .12 .66 .79 .90 4.87 ±1.21 6.08 3.66
15 子どもが嫌いであるR .33 .17 .22 .10 .55 .27 .57 .70 .91 4.70 ±1.26 5.95 3.44
下位尺度VI 子育てに対する不安 6項目(得点範囲:6~36点) α = .76
24 子育てに自信がないR .28 –.08 –.25 –.02 .07 .73 .69 .66 .68 2.62 ±1.13 3.75 1.49
26 子育てできるか心配であるR .09 –.17 –.34 –.11 –.14 .70 .67 .57 .71 2.23 ±1.04 3.27 1.18
27 自分が子育てするときに悩むと思うR .06 –.21 –.43 –.17 –.17 .57 .61 .46 .74 1.96 ±1.00 2.95 0.96
46 自分は子どもに慕われる大人になれない気がするR .21 .09 .02 –.01 .15 .51 .33 .51 .72 3.56 ±1.13 4.69 2.43
44 子育てに疲れ,イライラしている自分を想像するR .06 .08 –.04 –.01 .21 .50 .30 .50 .73 3.42 ±1.31 4.73 2.12
48 親は子どもをうっとうしく思うR .01 .24 .14 .04 .19 .41 .29 .35 .77 4.34 ±1.23 5.57 3.11
因子寄与率(%) 12.72 12.56 12.43 8.80 8.33 7.14
累積寄与率(%) 12.72 25.28 37.71 46.51 54.84 61.98

注)最尤法バリマックス回転の因子構造を示す.数字の囲いは,各因子が最も高い因子負荷量を示した値を表す.

2) 因子構造

抽出された6因子構造についてその内容を解釈した.下位尺度Iは5項目からなり,「子どもとの遊び方が分かる」など子どもとの関わりに対する意識に関する項目であったことから,【子どもとの関わりに対する意識】とした.下位尺度IIは5項目から構成され,「親子はお互いを必要としあっている」など親子関係に対する意識を問う項目であったため,【親子関係に対する意識】と命名した.下位尺度IIIは7項目からなり,「安易な気持ちで子育てできない」など,親になることに対する心構えや意識を問う項目であることから【親になることに対する意識】と命名した.下位尺度IVは5項目から構成され,「男性が育児しやすい社会が必要である」など,夫婦や社会で子育てすることに対する意識を問う項目であったため,【夫婦や社会で子育てすることに対する意識】とした.下位尺度Vは5項目からなり,「子どもと関わりたい」,「子育てに興味がある」など,子どもや子育てへの関心・感情に関する項目で構成されており,【子どもや子育てへの関心・感情】とした.下位尺度VIは6項目からなり,全て逆転項目であった.「子育てできるか心配である」など,将来の子育てや親世代になることへの不安な気持ちを表す項目であったため【子育てに対する不安】と命名した.

3. 信頼性の検討(表3)

各下位尺度のCronbach’s α係数は,下位尺度Iより順に,α = .91,α = .94,α = .84,α = .89,α = .92,α = .76であった.

4. 妥当性の検討

6因子45項目の因子構造と6因子33項目の因子構造について確証的因子分析を行い,モデルの適合性を比較した.6 因子45項目のモデル適合性は,GFI = .739,AGFI = .709,CFI = .858,RMSEA = .073であり,6因子33項目のモデル適合性は,GFI = .821,AGFI = .791,CFI = .897,RMSEA = .070であった.

また,男女別と乳幼児との接触経験の有無別に各下位尺度得点を比較し,既知集団妥当性を検討した.男女別では【子育てに対する不安】以外の下位尺度得点は男子に比べ女子の方が有意に高かった.効果量は【子どもや子育てへの関心・感情】では0.32と中程度であったが,それ以外の下位尺度では効果量は小さかった(表4).乳幼児との接触の有無別では,【子育てに対する不安】以外の下位尺度得点は乳幼児との接触経験なしと答えた生徒に比べ接触経験ありと答えた生徒の方が,有意に得点が高かった.効果量は【親子関係に対する意識】【親になることに対する意識】【夫婦や社会で子育てすることに対する意識】では中程度であり,【子どもとの関わりに対する意識】【子どもや子育てへの関心・感情】では小さかった(表5).

表4 性別における下位尺度得点の比較 n = 703
下位尺度 性別 n 平均値 SD t値 p 効果量r
子どもとの関わりに対する意識 男子 283 17.65 5.40 5.45 .00*** .21
女子 381 19.88 5.08
親子関係に対する意識 男子 283 24.97 4.54 5.19 .00*** .20
女子 381 26.72 4.13
親になることに対する意識 男子 283 34.60 5.07 6.15 .00*** .26
女子 381 36.86 4.13
夫婦や社会で子育てすることに対する意識 男子 283 24.74 4.23 6.43 .00*** .27
女子 381 26.69 3.28
子どもや子育てに対する関心・感情 男子 283 20.66 5.36 8.55 .00*** .32
女子 381 24.27 5.40
子育てに対する不安 男子 283 18.06 4.81 0.15 .88 .01
女子 381 18.12 4.49

t検定 * P < .05 ** P < .01 *** P < .001

表5 乳幼児との接触経験における下位尺度得点の比較 n = 703
下位尺度 接触経験の有無 n 平均値 SD t値 p 効果量r
子どもとの関わりに対する意識 あり 520 19.71 5.15 7.27 .00*** .27
なし 145 16.21 5.07
親子関係に対する意識 あり 520 26.50 4.15 5.60 .00*** .36
なし 145 24.08 4.72
親になることに対する意識 あり 520 36.48 4.26 5.24 .00*** .35
なし 145 33.88 5.54
夫婦や社会で子育てすることに対する意識 あり 520 26.38 3.44 5.98 .00*** .40
なし 145 23.97 4.51
子どもや子育てに対する関心・感情 あり 520 23.52 5.33 6.94 .00*** .26
なし 145 19.95 5.98
子育てに対する不安 あり 520 18.05 4.53 0.43 .67 .02
なし 145 18.24 5.10

t検定 * P < .05 ** P < .01 *** P < .001

Ⅴ. 考察

1. 尺度の妥当性

内容妥当性に関して,子育て支援担当の行政関係者・高校家庭科教諭・子育て支援団体関係者と共に検討しており確保しているといえる.

本尺度は,【I 子どもとの関わりに対する意識】【II 親子関係に対する意識】【III 親になることに対する意識】【IV 夫婦や社会で子育てすることに対する意識】【V 子どもや子育てに対する関心・感情】【VI 子育てに対する不安】の6因子33項目から構成された.伊藤(2003)が青年期の親となるための資質の構成要素として分類した3要素と比較すると,(1)子どもに関する要素(子どものイメージ,子どもへの関心・感情)は下位尺度I・Vが,(2)子育てに関する要素(子育てへの感情,子育てに関する認識,子どもの発達に関する認識,夫婦や社会で子育てすることに対する意識)は下位尺度IV・V・VIが,(3)親になることに関する要素(親になることに対する感情・意識)には下位尺度IIIが該当すると考える.また下位尺度IIは,親世代になるための資質の関連要因である親子関係に関する要素であると考えられる.よって本尺度は,これまで複数の尺度により捉えてきた親世代になるための資質を総合的に測定していると考える.

既知集団妥当性を検討した結果,女子の方が男子に比べて,下位尺度VIを除く下位尺度において有意に得点が高く,特に【V 子どもや子育てに対する関心・感情】では効果量も中程度であったことから,女子の方が子どもへの親和や子育てへの受容が高い(伊藤,2003)という先行研究と合致している.同様に,乳幼児との接触経験がない者に比べてある者の方が,下位尺度VIを除く下位尺度において有意に得点が高く,特に【II 親子関係に対する意識】,【III 親になることに対する意識】,【IV 夫婦や社会で子育てすることに対する意識】では効果量も中程度であった.乳幼児との接触経験がある者の方が育児への積極性が高い(佐々木,2007)という先行研究と同様の結果であった.

また確証的因子分析により,6因子45項目の因子構造と6因子33項目の因子構造のモデル適合性を比較した結果,6因子33項目の因子構造の方が,GFI,AGFI,CFIが高く,適合度は良好であった.しかし,適合度指標は0.90以上が望ましいとされており,本尺度のモデルはその基準以下であり最適とは言えなかった.星野ら(2005)は,一般的に因子に対する観測変数の数が増えると適合度指標は下がると述べており,本尺度は1因子に対して5~7項目であることからGFIや AGFIが低下したと考えられた.しかし,RMSEAは0.70で“fair fit”である(星野ら,2005)ことから,概ね良好であるといえる.

以上より,一定の構成概念妥当性が確保されたと考える.

2. 尺度の信頼性(内的整合性)

各下位尺度のCronbach’s α係数は0.76~0.94であったことから,概ね内的整合性は高く,信頼性は確認されたといえる.しかし,【VI 子育てに対する不安】のα係数は0.76とやや低かった.下位尺度VIを構成する項目の多くは将来の自分の子育てに関する質問であるのに対し,項目48は一般的な親に関する質問であったことにより内的整合性が低下したと考えられる.

3. 親世代になることに対する意識尺度の構成

これまでの親準備性傾向尺度(西田・諸井,2010)や親性準備性尺度(佐々木,2007)は,親になるための資質の構成要素である子どもに関することについて,下位尺度「子どもに対する関心」や「乳幼児への好意感情」という,子どもに対する心理的側面から捉えていた.本尺度でも【V 子どもや子育てに対する関心・感情】という心理的な側面に関する下位尺度が抽出されたが,加えて【I 子どもとの関わりに対する意識】が下位尺度として抽出された.この下位尺度は,子どもとの遊び方など具体的な関わりに対する意識を問う項目で構成されている.自然に子どもとの関わり方を学習することが難しい現代だからこそ,親世代になるための資質の中に,必要な下位尺度として抽出されたと考える.

近年,男女共同参画社会の実現が望まれ,伝統的性別役割分業観にとらわれない生き方や子育ての必要性が高まり(大橋・浅野,2009),男性の育児参加や地域全体での子育て支援の重要性が叫ばれている.本尺度で抽出された【IV 夫婦や社会で子育てすることに対する意識】は,現代社会での子育てにおいて必要な親世代になるための資質であり,親になる前の青年期前期から育みたい意識であると考える.また親にならないなど多様な価値観が許容される現代であるからこそ必要な下位尺度であると考える.

親世代になるための資質の3つの構成要素以外に,【II 親子関係に対する意識】が下位尺度として抽出された.不適切な養育の世代間伝達を断ち切るためには,自分が親になることに対して肯定的な感情を持て,自分の親との関係を受け止めることが必要(Milan et al., 2004)と言われており,【親子関係に対する意識】は親世代になるための資質として重要な要素であると考える.

4. 尺度の意義と活用可能性

平成30年度に高等学校学習指導要領が改訂され,家庭科での次世代育成教育の強化が図られている.学校教育の必履修科目の中で全ての生徒に対して次世代育成教育を実施する意義は大きく,今後の発展が期待されている.本尺度は青年期前期である高校生を対象に作成した尺度であり,我々が開発している親子交流授業プログラムをはじめとする,様々な次世代育成教育の評価に活用できると考える.また虐待予防の視点からも,本尺度により早期に親世代になるための資質を把握できることは,不適切な養育の世代間伝達を断ち切るアプローチの第一歩となり,その意義は大きいと考える.

5. 研究の限界と今後の課題

項目分析にて天井効果と床効果が認められた項目があった.回答に偏りがあった項目は,語尾が「~しなければならない」など模範的な回答を求める表現であったことが影響していると考えられる.今後,「~と思う」など自分の考えを問うような表現を検討する必要がある.本研究では,尺度の安定性や基準関連妥当性など一部の信頼性や妥当性は検討できなかった.また33項目は高校生には負担が大きいことが推察される.今後,因子構造のモデル修正を行いながら,尺度の精度を高めていく必要がある.本尺度はA県内の高校生を対象に作成しており,中学生や他の地域の高校生への適用についても検証していく.

Ⅵ. 結論

青年期前期における「親世代になることに対する意識尺度」を作成し,信頼性と妥当性の検証を行った.その結果6下位尺度33項目で構成された.各下位尺度は,【子どもとの関わりに対する意識】【親子関係に対する意識】【親になることに対する意識】【夫婦や社会で子育てすることに対する意識】【子どもや子育てに対する関心・感情】【子育てに対する不安】であった.尺度の信頼性,および構成概念妥当性に関して概ね確保できた.

付記:本研究は公益財団法人いしかわ結婚・子育て支援財団からの受託研究として行われた.本論文の一部は,FOUR WINDS乳幼児精神保健学会第18回全国学術集会と,15th World Congress of the World Association for Infant Mental Healthにて発表した

謝辞:本研究のためにご協力くださいました対象者の皆様とプログラム検討会の皆様,公益財団法人いしかわ結婚・子育て支援財団の山本康人様に心から感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:YC,MNは研究の着想およびデザイン,データ収集,データ分析,分析解釈,原稿の作成までの研究プロセス全体に貢献;MN,MK,SD,TT,YHは研究の着想およびデザイン,分析解釈への助言に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
 
© 2019 公益社団法人日本看護科学学会
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