日本看護科学会誌
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ISSN-L : 0287-5330
原著
看護職の業務遂行における多重課題に関する研究
―卓越性,熟慮性,および自己効力感との関連―
小口 翔平山口 大輔松永 保子
著者情報
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2020 年 40 巻 p. 74-81

詳細
Abstract

目的:多重課題困難感の要因として看護実践能力,認知的熟慮性,自己効力感との関連を探索することを目的とした.

方法:看護職349名の基本的属性,多重課題困難感,看護実践の卓越性自己評価尺度(NESCP),認知的熟慮性-衝動性尺度,一般性セルフ・エフィカシー尺度(GSES)について,Mann-Whitney U検定と多重ロジスティック回帰分析を行った.

結果:多重課題困難感を感じない群でNESCP(p < 0.001)やGSES(p < 0.001)の得点が高く,GSESの得点の増加(aOR = 0.864, 95%CI: 0.803~0.930)や男性であること(aOR = 2.975, 95%CI: 1.333~6.639)が,多重課題困難感を低下させる要因であった.

結論:多重課題困難感の要因として自己効力感と性別が関連していた.自己効力感を高めるような教育を行うことで,多重課題困難感を軽減する可能性が示唆された.

Translated Abstract

Objective: The aim of this study was to investigate the relationships between nursing practice ability, cognitive reflectivity, and self-efficacy as factors affecting the sense of difficulty in multitasking.

Method: Using data from 349 nurses, the Mann-Whitney U test and multiple logistic regression were used to analyze fundamental attributes, the sense of difficulty in multitasking, Nursing Excellence Scale in Clinical Practice (NESCP) scores, cognitive reflectivity-impulsivity scale scores, and general self-efficacy scale (GSES) scores.

Results: In the group that did not experience the sense of difficulty in multitasking, NESCP (p < 0.001) and GSES (p < 0.001) scores were higher than those in the group that experienced the sense of difficulty in multitasking, and increased GSES scores (adjusted odds ratio = 0.864, 95% confidence interval: 0.803–0.930) and being male (adjusted odds ratio = 2.975, 95% confidence interval: 1.333–6.639) were factors that reduced the sense of difficulty in multitasking.

Conclusion: Self-efficacy and sex were related to multitasking difficulty. This suggests that conducting educational programs to increase self-efficacy could reduce the sense of difficulty in multitasking.

Ⅰ. 緒言

今日,看護職が身を置く臨床の場は,医療の高度化,入院患者の高齢化,在院日数の短縮化など多くのことが混在し(文部科学省,2011),多重課題による負担は増すばかりといえる.また,「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」の順次施行が2019年4月から開始され,医師の業務の一部を看護師へ移管することが議論されるなど(日本看護協会,2019),看護職の業務は今後もより繁雑になることが予測される.

多重課題に関する国内の研究では,新人看護職の9割が多重課題を困難と感じていると示した研究や(那須,2006),新人看護師が夜勤で直面する困難について,多重課題に対応することであると示した研究がある(坪田・大久保,2016).また,川西らは,新人看護師が困難とする多重課題場面として,患者の状態の変化等による「予定変更」,「複数の行為での優先度の判断」,「複数の人との関わりでの優先度の判断」,「報告・相談」の4つの場面を示している(川西ら,2010).有川らは,多重課題の紙上演習を用い,新人・中堅・ベテラン看護師における多重課題発生時の対応の違いを分析し,新人看護師では,急な事態の発生に優先度の判断が困難となる傾向があること,中堅看護師では,新人看護師に比べ,連携をとるという要素が得られ,効率よく動けるようになること,ベテラン看護師では,さらに患者の心理面にも目を向けるようになることを示している(有川ら,2014).

多重課題に関する国外の研究では,看護師の疲労を伴う業務の一つとして多重課題があげられ(Steege et al., 2015),看護師の業務の34%が多重課題であとを示した研究(Kalisch & Aebersold, 2010)がある.また,外科手術中における多重課題の頻度や内容,およびそれらの原因を検討した研究(Camilla et al., 2018)や,2つの病院の救急部門において,情報交換が多重課題の内容としては最も多いと示した研究(Berg et al., 2012)があり,多重課題の頻度や内容に焦点を当てた研究が多いといえる.一方,Forsbergらは,救急部門の看護師の多重課題の捉え方として,魅力的であること,効率を意味すること,ストレスを伴わないことをあげている(Forsberg et al., 2015).

このように,国内外の多重課題に関する研究はまだ少なく,内容も限定されているが,看護職の多重課題は重要な問題である.日々の業務を効率よく遂行するには,多くの情報について,優先順位を付けるために深く考え,慎重に結論を導き出す必要がある.しかし,多重課題の遂行においては,ただ熟慮的であればいいということではなく,臨床の限られた時間の中でも思考し,素早く実行に移す必要がある.がん拠点病院の看護師を対象とした,認知的熟慮性や衝動性の調査では,熟慮性の高い看護師は,そうでない看護師に比べ,より患者・家族のケアを考えていることが明らかとなっている(渡邉・遠藤,2015).このように,認知的熟慮性や衝動性は,看護師個人のケアへの考え方に影響し,多重課題の捉え方に影響を与えると考えられる.

また,多重課題遂行時に必要な姿勢として,優先順位を瞬時に判断し,行動を起こせることが重要とされている(西野,2013).それを実行するには,専門的な知識や技術,効率的な情報収集やその活用といった看護実践能力が必要であり,このことも多重課題の捉え方に影響すると考えられる.

さらに,臨床における多重課題の処理には,看護実践能力はもちろんこと,心理的要因も影響することが推察され,その一つとして,Banduraが提唱した自己効力感(Bandura, 1977)があると考えられる.自己効力感が高い者はそうでない者に比べ,学業成績がよく(Aber & Arayhuzik, 1996),看護技術の得点が高いといった報告(遠藤ら,1999)や,自己効力感が高い者ほど課題遂行能力が高いことが明らかとなっている(東條・坂野,1987).それゆえ,心理的要因の中でも自己効力感は,個人や専門職としての知識,技術,仕事への取り組み方に影響を与え,個人の多重課題の捉え方や対処方法に影響すると考えられる.

したがって,本研究は,看護実践能力としての看護実践の卓越性,認知的熟慮性-衝動性,自己効力感と多重課題困難感の関連を探索することを目的とした.

Ⅱ. 用語の定義

1. 多重課題

「看護職の日常生活援助や診療の補助などの業務が,限られた時間の中で重なること」とする.

2. 多重課題困難感

「多重課題を遂行することを困難だと感じる主観的感覚」とする.

3. 看護実践の質

「患者や家族の健康の保持,回復のために個人ならびに集団を援助することを看護師の目標とし,看護師が科学的知識に基づいて人々に専門職者としてのサービスを提供することを看護実践とした上,この行動が看護の目標達成に向かっている程度(亀岡,2009)」とする.

4. 看護実践の卓越性

「看護実践の質の程度が平均的なレベルを超えている状態(亀岡,2009)」とする.

5. 認知的熟慮性-衝動性

「より多くの情報を収集した上で慎重に結論を下すか,ある程度の情報で早急に結論を下すかの,認知的判断傾向の違い(岩男・宮本,2001)」とする.

6. 自己効力感

「人間の行動に影響を及ぼす要因であり,ある行動を起こす前にその個人が感じる「遂行可能感」のこと(Bandura, 1977)」とする.

Ⅲ. 研究方法

1. 調査対象者

A大学病院の看護職739名.

2. 調査場所

中部地方にあるA大学病院.

3. データ収集期間

平成29年7月10日~7月31日.

4. 調査内容

1) 基本的属性

「性別」,「年代」,「看護職としての経験年数」について調査した.

2) 多重課題困難感

「多重課題を遂行することを困難だと感じるか(以下,多重課題困難感)」について,「4:とても感じる」,「3:やや感じる」,「2:あまり感じない」,「1:全く感じない」で調査した.

3) 尺度について

(1) 看護実践の卓越性

亀岡(2009)が作成した35項目よりなる「看護実践の卓越性自己評価尺度―病棟看護師用―(Nursing Excellence Scale in Clinical Practice:NESCP,以下,NESCPとする)」を用いた.この尺度は,7つの下位尺度から構成されており,「連続的・効率的な情報収集と活用(以下,情報収集)」では,「わずかな情報から問題を察知し,必要な援助を行っている」や「多様な情報を組み合わせて問題の原因を見極める」などの5項目,「臨床の場の特徴を反映した専門的な知識・技術の活用(以下,専門性)」では,「治療・処置の進行を予測しながら必要な準備を整えている」や「治療・処置が円滑に進むよう起こりうる多様な状況を想定して準備している」などの5項目,「患者・家族との関係の維持・発展に繋がるコミュニケーション(以下,関係性)」では,「共感的態度でコミュニケーションをはかり患者の興奮をしずめている」や「自己の感情をコントロールしながら患者の問題行動を受け入れている」などの5項目,「職場環境・患者個々のもつ悪条件の克服(以下,悪条件克服)」では,「どれほど多くの仕事をかかえていても日常生活を誠実に援助している」や「どれほど多くの仕事をかかえていても患者の依頼に確実に応えている」などの5項目,「現状に潜む問題の明確化と解決に向けた創造性の発揮(以下,問題明確化)」では,「習慣化してしまった援助方法を見直し改善を図っている」や「単調な日常生活の中に患者が気分転換できる機会をつくり出している」などの5項目,「患者の人格尊重と尊厳の遵守(以下,尊重と遵守)」では,「患者自身の習慣を尊重しながら日常生活を援助している」や「患者自身の意向を確認しながら日常生活を援助している」などの5項目,「医療チームの一員としての複数役割発見と同時進行(以下,同時進行)」では,「患者に必要な援助を行いつつ家族の心情にも配慮している」や「他のメンバーの動きを見て自己の果たすべき役割を見いだしている」などの5項目から構成されている.質問の回答については,「5:かなり当てはまる」,「4:わりと当てはまる」,「3:少し当てはまる」,「2:あまり当てはまらない」,「1:全く当てはまらない」の5件法で調査する.

また,この尺度全体のα係数は0.96,各下位尺度のα係数は0.84から0.90の範囲にあって信頼性が確保されており,看護実践者で構成される専門家たちによる検討やパイロットスタディなどから内容的妥当性が確保されている.さらに,看護師799名への調査から構成概念妥当性が確保されており,同調査の総得点および下位尺度得点の平均値と標準偏差を用い,103点以下を低得点領域,104~140点を中得点領域,141点以上を高得点領域と設定している(亀岡,2009).

(2) 認知的熟慮性-衝動性

滝聞・坂元(1991)が作成した「認知的熟慮性-衝動性尺度」を用いた.この尺度は,一次元尺度であり,「何でもよく考えてみないと気がすまないほうだ」,「何事も時間をじっくりかけて考えたいほうだ」など,10項目の質問から構成されている.

また,データ収集した施設ごとにα係数を算出しており,0.767から0.842と高い信頼性を有している.妥当性については,認知的熟慮性-衝動性の研究の一つである同画探索検査との相関により検証されている(滝聞・坂元,1991).質問の回答については,「4:あてはまる」,「3:どちらかと言えばあてはまる」,「2:どちらかと言えばあてはまらない」,「1:あてはまらない」の4件法で調査するものであり,高得点の方が熟慮性が高い,といえる.

(3) 自己効力感

坂野・東條(1986)が作成した16項目よりなる「一般性セルフ・エフィカシー尺度(General Self-Efficacy Scale:GSES,以下,GSESとする)」を用いた.この尺度は,3因子構成であり,第1因子「行動の積極性」では,「何か仕事をするときは,自信をもってやるほうである」や「人と比べて心配性なほうである」などの7項目,第2因子「失敗に対する不安」では,「過去に犯した失敗や嫌な経験を思いだして,暗い気持ちになることがよくある」や「仕事を終えた後,失敗したと感じることのほうが多い」などの5項目,第3因子「能力の社会的位置づけ」では,「友人より優れた能力がある」や「人より記録力がよいほうである」などの4項目から構成されている.

また,この尺度は,信頼性・妥当性が検証されており(坂野・東條,1986),「はい」を1点,「いいえ」を0点で回答するものであり,高得点の方が自己効力感が高い,といえる.

5. データ収集方法

調査施設の看護部長に研究の協力を依頼し,許可後に,各部署の師長に研究の趣旨を説明し,調査対象者へ参加依頼文書と調査用紙の配布を依頼した.また,調査用紙は留め置き法で回収するために,回収箱を部外者の立ち入らない看護職員の休息場所等に自由に投函できるように設置させてもらった.回答は小袋に入れて厳封の上,回収箱に投函するよう説明し,回収箱の回答用紙を研究者が直接回収した.

6. 分析方法

分析には統計ソフトSPSS Statistics 25(IBM社(株))を使用した.

1)基本的属性,多重課題に関する質問,NESCP,認知的熟慮性-衝動性尺度,GSESの得点について集計した.

2)NESCP,認知的熟慮性-衝動性尺度,GSESについて,信頼性を示すCronbach’α係数の算出,Shapiro-Wilk検定による正規性の検定を行った.

3)多重課題困難感について,NESCPの総得点と下位尺度,認知的熟慮性-衝動性尺度,GSESの得点に有意差があるか,Mann-Whitney U検定を行った.また,多重課題困難感については,「とても感じる」と「やや感じる」を「感じる群」,「全く感じない」と「あまり感じない」を「感じない群」として分析した.

4)多重課題困難感を従属変数とし(「感じない群」を「0」,「感じる群」を「1」に変換),性別(男性を基準にダミー変数に変換),年代(50歳代を基準にダミー変数に変換),NESCPの総得点,認知的熟慮性-衝動性尺度の得点,GSESの得点を独立変数とし,強制投入法を用いて多重ロジスティック回帰分析を行い,モデルの有意性,適合度,判別的中率を算出した.

7. 倫理的配慮

本研究への参加は任意であり参加の有無によって不利益が生じることはないこと,調査用紙は個人が特定されないように無記名で回収し,回収後は研究参加を取り消すことができないこと,得られたデータは研究目的以外では使用しないこと等を調査対象者に文書で説明した.また,本研究は,信州大学医学部医倫理委員会(No. 3725)で審議の上,承認を得て行った.

Ⅳ. 結果

1. 回収について

739通を配布し,392通(回収率53.8%)が回収され,無回答記載があるもの等を除外した349通(有効回収率47.2%)を分析した.

2. 基本的属性について

女性315名(90.3%),男性34名(9.8%),20歳代174名(49.9%),30歳代95名(27.2%),40歳代51名(14.6%),50歳代29名(8.3%),看護職としての平均経験年数±標準偏差は9.8 ± 8.6年であった.

3. 各尺度の平均点,および信頼性と正規性

1) 看護実践の卓越性について

NESCPの総得点の平均点±標準偏差は120.4 ± 18.21点であり,信頼度係数α = 0.91であった.また,下位尺度の平均点±標準偏差は,「情報収集」が16.6 ± 3.31点,「専門性」が16.3 ± 3.31点,「関係性」が19.0 ± 3.15点,「悪条件克服」が16.7 ± 3.32点,「問題明確化」が15.6 ± 3.20点,「尊重と遵守」が18.2 ± 3.15点,「同時進行」が17.9 ± 3.49点であった.正規性については,Shapiro-Wilk検定の結果,p = 0.078で正規性が認められた.

2) 認知的熟慮性-衝動性について

認知的熟慮性-衝動性尺度の平均点±標準偏差は26.6 ± 5.02点であり,信頼度係数α = 0.86であった.正規性については,Shapiro-Wilk検定の結果,p = 0.004で正規性が認められなかった.

3) 自己効力感について

GSESの平均点±標準偏差は6.4 ± 4.16点であり,信頼度係数α = 0.84であった.正規性については,Shapiro-Wilk検定の結果,p < 0.001で正規性が認められなかった.

4. 多重課題に関する質問について

多重課題困難感について,各尺度の得点を「感じる群」と「感じない群」でMann-Whitney U検定した結果,NESCPでは「感じない群」が有意に高く(p < 0.001),認知的熟慮性-衝動性尺度では「感じる群」が有意に高く(p = 0.002),GSESでは「感じない群」が有意に高かった(p < 0.001)(表1).

表1  多重課題困難感の違いによる各尺度の得点の比較
尺度 多重課題困難感の違い 平均点±標準偏差 p
看護実践の卓越性自己評価尺度(NESCP) 感じる群(n = 258) 118.5 ± 17.71 <0.001**
感じない群(n = 91) 125.8 ± 18.62
認知的熟慮性-衝動性尺度 感じる群(n = 258) 27.0 ± 5.08 0.002**
感じない群(n = 91) 25.2 ± 4.60
一般性セルフ・エフィカシー尺度(GSES) 感じる群(n = 258) 5.7 ± 4.00 <0.001**
感じない群(n = 91) 8.5 ± 3.88

検定方法:Mann-Whitney U検定 ** p < .01

また,NESCPの下位尺度の得点についてもMann-Whitney U検定を行った結果,「情報収集」(p < 0.001),「専門性」(p < 0.001),「悪条件克服」(p = 0.035),「問題明確化」(p = 0.004),「同時進行」(p < 0.001)で「感じない群」がそれぞれ有意に高かった(表2).

表2  多重課題困難感の違いによる看護実践の卓越性自己評価尺度の下位尺度得点の比較
下位尺度項目 多重課題困難感の違い 平均点±標準偏差 p
情報収集 感じる群(n = 258) 16.2 ± 3.01 <0.001**
感じない群(n = 91) 17.9 ± 2.78
専門性 感じる群(n = 258) 15.8 ± 3.23 <0.001**
感じない群(n = 91) 17.6 ± 3.20
関係性 感じる群(n = 258) 18.9 ± 3.10 0.223
感じない群(n = 91) 19.4 ± 3.28
悪条件克服 感じる群(n = 258) 16.5 ± 3.29 0.035*
感じない群(n = 91) 17.1 ± 3.40
問題明確化 感じる群(n = 258) 15.3 ± 3.20 0.004**
感じない群(n = 91) 16.4 ± 3.14
尊重と遵守 感じる群(n = 258) 18.3 ± 3.13 0.374
感じない群(n = 91) 18.5 ± 3.24
同時進行 感じる群(n = 258) 17.5 ± 3.54 <0.001**
感じない群(n = 91) 19.0 ± 3.13

検定方法:Mann-Whitney U検定 ** p < .01,* p < .05

5. 多重課題困難感に関連する要因について

多重ロジスティック回帰分析の結果,モデルχ2検定はp < 0.001で有意であり,Hosmer-Lemeshowの検定結果は,p = 0.259で良好で,判別的中率は77.7%であった.

多重課題困難感の有無に関連する要因としては,男性であること(調整済みオッズ比2.975,95%信頼区間1.333~6.639),とGSESの得点の増加(調整済みオッズ比0.864,95%信頼区間0.803~0.930)が,多重課題困難感を低下させる要因であった(表3).

表3  多重課題困難感に関連する要因(n = 349)
独立変数 偏回帰係数 調整済みオッズ比 95%信頼区間
性別(基準:男性) 女性ダミー 1.090 2.975 1.333~6.639
年代(基準:50歳代) 20歳代ダミー –0.065 0.937 0.337~2.601
30歳代ダミー –0.867 0.420 0.153~1.154
40歳代ダミー –0.309 0.734 0.247~2.184
看護実践の卓越性自己評価尺度 –0.008 0.992 0.975~1.008
認知的熟慮性-衝動性尺度 0.040 1.040 0.982~1.102
一般性セルフ・エフィカシー尺度 –0.146 0.864 0.803~0.930
Nagelkerke決定係数 0.201
モデル適合度 p = 0.259
判別的中率 77.7%

検定方法:多重ロジスティック回帰分析(強制投入法)

Ⅴ. 考察

1. 看護実践の卓越性について

NESCPは看護実践能力を卓越性の視点から自己評価するものであり,自己評価が高くても,実際の看護実践能力が高いとは限らないが,実践や研修を通し,NESCPの得点が上がったという先行研究(亀岡ら,2014)があることから,本研究ではNESCPが看護実践能力を代替的に表す指標になると考えた.

まず,NESCPの調査対象者全体の平均点±標準偏差は120.4 ± 18.21点と先行研究(亀岡,2009)で設けられた基準では中得点領域であった.また,多重課題困難感については,「感じない群」の得点が有意に高く,看護実践能力の高い看護職の方が多重課題を困難と感じていないことが考えられた.下位尺度の結果からは,効率的な情報収集や活用を行うことが,多重課題困難感の軽減に繋がると推察された.また,患者や家族への看護や他の業務を同時に行う能力の指標となる「同時進行」の得点が高い看護職は,時間を適切に管理し,時間を有効に活用することができ,多重課題困難感を軽減すると推察された.「専門性」とは,専門的な知識や技術を有していることであり,専門性があることで一つひとつの業務にかかる時間も短縮することができ,多重課題困難感が軽減すると考えられた.また,「悪条件克服」は,多くの業務を担いながらも確実に日常生活を援助し,患者の訴えや拒否的な態度にも粘り強く対応する能力である.この能力の高い看護職は,困難な状況にも粘り強く対応できるとともに,患者に関わる多重課題にも前向きに取り組み,患者の多くのニードにも十分に対応できるため,困難感をあまり感じないのではないかと推察された.さらに,「問題明確化」は,習慣化した援助の問題点を明らかにして改善を行う能力である.この得点の高い看護職は,日々,より効率的な援助方法を模索していると思われ,多重課題困難感が軽減すると考えられた.

したがって,現在,多重課題に対する教育・研修として用いられている多重課題演習は,看護実践能力を高め,多重課題困難感を軽減するために効果的であると考えられた.実際に,多重課題演習を行うことで,安全な優先順位の選択や安全を意識したケアを行えるようになったとする先行研究(橋添ら,2012)や新人看護師に対して実施された多重課題演習の効果に関する研究(川島・小野寺,2014松波・近藤,2013)がある.

また,看護実践能力は,臨床での指導や研修に加え,例えば,情報収集する上で,自分にはどのような視点が欠けていたのかなど,日々,自身の看護を振り返る中で少しずつ向上していく能力であると考えられ,看護職一人ひとりの意識を高めていくことが重要である.したがって,多重課題による困難感を軽減するには,看護実践能力を高めるような支援や自身の看護の振り返り,多重課題演習といったシミュレーション研修の導入が有用であると考えられた.

2. 熟慮性について

熟慮性については,「多重課題困難感」を「感じる群」の熟慮性が有意に高かった.熟慮性とは,速さよりも正確さを重視し,深く時間をかけて物事を判断する認知的判断傾向である(岩男・宮本,2001).一度に多くの業務が重なった状態は物事をゆっくり判断する時間がない状態であり,物事を素早く判断する傾向にある看護職に比べて,熟慮性の高い看護職は,判断に時間がかかってしまい,それゆえ困難感も強く感じると考えられた.また,先行研究では,熟慮的な看護師の方が患者・家族のケアをより考えていると示されていること(渡邉・遠藤,2015)や,熟慮性の乏しい看護師は失敗傾向が高いという指摘(中三川,2006)もあることから,熟慮性の有無は,メリットとデメリットが混在するものと考えられる.また,成人してからは性格が変え難いものであるように,認知的判断傾向の一つである熟慮性や衝動性も,それ自体は是正が難しいものであると考えられる.しかし,多重課題困難感を軽減するためには,熟慮性のある看護職とそうでない看護職の優先順位の決め方などを比較し,具体的な教育方法を検討することや,業務が重ならない調整をするなど,ある程度時間をかけて物事を思慮できるような環境を調整する必要があると考えられた.

3. 自己効力感について

自己効力感については,調査対象者全体における平均点±標準偏差が6.4 ± 4.16であり,先行研究(坂野,1989)で設けられた基準からすると,自己効力感が低い傾向にあると考えられた.看護職として勤務する中で,うまく実践できないと感じる業務などが日常的にあることから,自己効力感が下がったのではないかと推察された.また,多重ロジスティック回帰分析の結果からは,自己効力感を高めるような援助を行うことで,多重課題困難感が軽減されることや,性差による多重課題困難感の違いが示唆された.

遠藤らは,自己効力感を高めるには,言語的説得や成功体験,代理体験などが必要であり,その中でも看護学生に対しては言語的説得より自身の成功体験の方がより自己効力感を高めるとしている(遠藤ら,1999).

したがって,自己効力感の低い看護職に対しては,日々の看護実践を上手く遂行できるように周囲が支援し,また,シミュレーション研修の実施や,成功体験を得ることができるような機会を作ることで,自己効力感が高まると考えられ,多重課題による困難感の軽減に繋がると推察できた.

Ⅵ. 結論

本研究では,看護実践能力や自己効力感が高い看護職は,そうでない看護職に比べ多重課題困難感が低いことが示され,看護実践能力や自己効力感を高めるような支援を行うことで,看護職の多重課題困難感が軽減すると推察された.また,熟慮性の高い看護職は,そうでない看護職に比べ多重課題困難感が高いことが示され,ある程度時間をかけて物事を思考できるような環境を作ることが必要であり,さらに,熟慮性の高い看護職とそうでない看護職の優先順位の決め方や計画の立て方などを比較することで,看護職の多重課題に対する具体的な教育方法や支援方法を検討できると考えられた.

以上のように,多重課題困難感と看護実践能力,熟慮性,および自己効力感との関連が示唆され,今後の臨床における効率がよい看護ケアの方法や,看護職への教育や支援体制を確立するための一助になると考えられた.

Ⅶ. 研究の限界と今後の課題

本研究は横断的研究であり,一施設の調査のため,一般化することには限界があると思われる.さらに調査施設を増やして検討することが望ましいと考えられた.

また,本研究における多重課題困難感は単項目の質問による主観的感覚である.今後,多重課題困難感をより正確に捉えるために質問の方法を工夫する必要があると考えられた.

付記:本研究は,信州大学大学院医学系研究科に提出した修士論文の一部に加筆・修正を加えたものである.

謝辞:本研究にご理解いただき,ご協力いただきました看護師の皆様に深く感謝申し上げます.本研究に多大なご指導とご助言を下さいました諸先生方に,心から感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:SOは研究の着想,研究デザイン,データの入手,分析,解釈,原稿の作成に貢献した.DYは研究デザイン,分析,解釈に貢献した.YMは研究デザイン,分析,解釈,原稿・研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
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