日本看護科学会誌
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原著
危機状況下における相互支援尺度の開発とその信頼性・妥当性の検討
平野 美樹子
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2020 年 40 巻 p. 123-132

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Abstract

研究目的:危機状況下における個人の相互支援に関する能力を測定する相互支援尺度(Mutual Support Scale,以下,相互支援尺度)を作成し,その信頼性,妥当性を検討する.

研究方法:先行研究および半構成的面接の分析結果から,32項目の仮項目作成.災害拠点病院に所属する看護職747人を対象に,質問紙調査を実施した.

結果:相互支援尺度について検討した結果,3因子28項目を選択し,因子名を《良い関係を築く》,《つながりを強める》,《緊張を緩める》とした.Cronbachのα係数は,尺度全体において.950であった.相互支援尺度は,外的基準(CA尺度,柔軟性尺度)との間に比較的強い有意な正の相関,基準グループ法では,派遣経験者等の得点が高く有意差が認められた.

結論:相互支援尺度は3つの因子から構成される尺度であり,検討結果から,信頼性,妥当性が確保された.

Translated Abstract

Objectives: The purpose of this study was to develop a mutual support (MS) scale in emergency settings for use during a disaster relief mission and to establish its reliability and validity.

Methods: The MS scale was developed from preceding studies and the qualitative analysis of data obtained from semi-structured interviews. Data were collected using a questionnaire with a sample of 747 nurses from hub medical institutions, following a disaster.

Results: A 28-item scale composed of three sub-scales was developed. The sub-scales were “promoting good relationship in a team”, “enhancing connectedness in a team”, “calming tension”. Statistical reliability was confirmed with Cronbach’s alpha at .95. The MS scale was significant positively correlated with the communication ability scale, flexibility scale, and supportive humor scale. The Score of the MS scale showed higher score among groups who had experienced disaster relief before.

Conclusions: The MS scale, comprising three sub-scales, was developed and its reliability and validity was verified in this study.

Ⅰ. 緒言

日本においては,大規模地震,津波,風水害,雪害,火山噴火など大規模災害が連続して発生し(内閣府,2019),また,世界各地でも,迫害や紛争などにより,7千万人以上が住居を奪われている(United Nations of High Commissioner of Refugees, 2019).現地の対応能力を超える,これら災害がもたらす広範な破壊と人的被害への対応には,国内,そして国際的なレベルにおける外部からの支援が不可欠となる(International Federation Reference Center for Psychosocial Support, 2009).その人道的支援を担う救援者は,専門的技術的,非専門的スタッフ,また,ボランティアから構成され,チームとして,共通の目標に向かって協働するという特徴をもつ(International Federation of Red Cross and Red Crescent Society & World Health Organization, 2017厚生労働省,2016).

救援者は,災害や紛争など,救援者自身にも生命の損失の可能性がある危機的状況(Latané & Darley, 1970/1997菊池,2014)における活動を余儀なくされる.東日本大震災に派遣された救援者においては,平時であれば可能な救命や処置ができなかったこと(Kawashima et al., 2016),悲惨な怪我やご遺体を目にすること,何もできない無力感などから,強いストレスを受けている(大規模災害時等に係る惨事ストレス対策研究会,2012平野,2018).危機的状況は,通常用いる方法によっては乗り越えられない,重大な事態に直面したとき引き起こされ(Caplan, 1961),それにより心理的均衡を失う可能性のある状況は,心理危機状況とされる(渡邉・窪田,2014).すなわち,救援者は危機状況下において,心理的な危機状況にも置かれる可能性がある.

こうした危機状況下における外傷後ストレス障害(Posttraumatic Stress Disorder,以下,PTSD)の予防因子の一つが,ソーシャルサポート(McGuire et al., 2018)とされ,知覚されたソーシャルサポートの向上は,複雑性PTSD の低減に効果があり(Simon et al., 2019),良好なソーシャルサポートは,精神的健康への低リスクと関連する(Tam et al., 2004).ソーシャルサポートとしての情緒的支援は,親密さ,愛着,安心,そして他者に秘密を打ち明け,信頼できることを含み,その人が愛され,気にかけてもらえているという感情に寄与する(Schaefer et al., 1981).人間の生来の心理的ニーズは,有能性,自律性,他者とのつながり(Ryan & Deci, 2000)とされ,危機状況下で悲惨な出来事を経験したスタッフ同士の心理社会的支援として推奨される心理的応急処置(Psychological First Aid)にもこれら要素が含まれる(Inter-Agency Standing Committee, 2007Hobfoll et al., 2007).したがって,危機状況下において有効なソーシャルサポートは,様々な感情の表出を可能にする雰囲気とともに,人の心理的ニーズを満たす方向性をもつものであることが示唆される.

なお,組織において知覚されるサポートは,社会的交換と成員同士の相互関係によって説明され(Settoon et al., 1996),派遣中は,チームの救援者同士の支援のやりとりが,危機状況下において精神的健康を保つためのソーシャルサポートとなり得る.チームにおける相互支援は,相手のニーズを察し,コミュニケーションを基盤として良好な関係を築き,お互いを支えあうこと(Bridges et al., 2014)とされ,大規模災害発生時の救援活動においては,救援者同士がお互いの状況を察し,良好な関係を築く相互支援が,ストレス緩和や精神的健康に寄与している(平野,20132018).これらのことから,危機状況下において,良好な関係を基盤とする相互支援は,ソーシャルサポートの情緒的支援として,お互いのつながりを強め,安心感をもたらすことで,心理的ニーズを満たし,ストレス緩和や精神的健康の保持に役立つ可能性がある.

相互に支援すること(mutual support,peer support等)に関しては,教育的介入のチームワークへの効果の検討(Bridges et al., 2014),ピアサポートとバーンアウトとの関係の探索(Peterson et al., 2008)がなされているが,危機状況下にある救援者における相互支援がどのような機能をもつのか,その構成概念は明らかにされていない.そのため,本研究では,その構成概念を明確にした上で,危機状況下における救援者個人の相互支援に関する態度を測定する尺度を開発することとした.なお,本研究では,専門性や能力の異なる救援者相互の支援を想定するため,「互いに交換する」を原義(小西,1993)とする相互支援(mutual support)を用いる.

本研究で開発する尺度は,派遣前における心理教育の効果,また派遣中における相互支援のストレス緩和への有効性の検討等において,活用が期待される.

Ⅱ. 研究目的

本研究では,危機状況下における救援者の相互支援に関する態度を測定する相互支援尺度を開発し,その信頼性,妥当性を検討する.

Ⅲ. 用語の定義

危機状況下における相互支援:災害や紛争など,ストレスフルな状況において,救援者同士が相手のニーズを察し,コミュニケーションを基盤に良好な関係を築くことで,お互いのつながりを強め,情緒的に支えあうこと.

Ⅳ. 研究方法

1. 尺度原案作成

1) 尺度項目の作成

先行研究等(Schaefer et al., 1981Ryan & Deci, 2000Hobfoll et al., 2007)を参考に,派遣中のチーム内の相互支援に資する個人の態度を想定し,11項目の尺度項目を作成した.さらに,大規模災害直後からチームの一員として被災地に派遣された看護師6人への半構成的面接データから逐語録を作成し,派遣中のチーム内での相互支援について記述されているデータを質的帰納的に分析した上で,21項目を追加し,類似した1項目を除いた31項目の尺度原案を作成した.分析においては,大学院心理学研究科教員,修士以上の学位を持つ質的研究者の意見を求め,繰り返し検討し修正した.

2) 内容妥当性の検討

作成した尺度項目に対し,大規模災害への派遣経験のある看護管理者5人から構成された専門家会議に,内容妥当性の検討を依頼した.検討方法は,まず,危機状況下の相互支援の定義を示し,その定義に照らして各項目が関連しているかどうか,「4(関連している)」から「1(関連していない)」の4段階で評価を求め,次に,わかりにくい表現や,追加すべき項目について尋ねた.Lynn(1986)の方法に基づき,各項目の評価総点数を各項目の評価最大点数で割り,割合を求める評定者間一致度指数(content validity index,以下CVI)を算出した結果,すべての項目のCVIは.9から1となった.専門家会議にて検討した結果,1項目が追加され,表現を修正した上で,最終的に32項目の尺度原案が作成された.尺度原案は,〈緊張を緩める表現と態度〉(14項目),〈気兼ねない雰囲気〉(12項目),〈相互支援の基本的態度〉(6項目)にて構成されたことから,因子数は3と仮定した.

看護学生(3年生)47名(回収数43,回収率91.5%)を対象に,教示文を含んだ尺度項目(32項目)について,プレテストを実施し,表現を修正した.

2. 本調査

1) 研究対象

災害派遣チームを擁する災害拠点病院に所属する看護職員747名.Emergency Medical Information System(EMIS)に掲載された災害拠点病院および救命救急センターを擁するDisaster Medical Assistance Team(DMAT)指定医療機関に所属する看護職員を対象とした.

2) 調査期間

2017年3月1日~4月30日.

3) 調査方法

研究実施について承諾を得られた33病院に,調査依頼書,質問紙および返信用封筒を入れたパッケージを送付し,災害派遣チームに登録,もしくは登録する可能性のある看護職員への配布を依頼した.質問紙の回収は,返信用封筒による個別投函とした.

4) 調査内容

(1) 危機状況下における相互支援尺度(Mutual support scale,以下,相互支援尺度)

危機状況下における個人の相互支援に関する態度を測定する32項目からなる尺度である.「6(非常にあてはまる)」,「5(あてはまる)」,「4(少しあてはまる)」,「3(あまりあてはまらない)」,「2(あてはまらない)」,「1(全くあてはまらない)」の6件法にて回答を求めた.本尺度は,得点が高いほど,相互支援の度合いが高いことを示す.

(2) コミュニケーション能力尺度(Communication ability scale,以下,CA尺度)

相川ら(2012)が開発した個人のチームワーク能力を測定する5つの尺度のうち,他者への気づきを含むコミュニケーション能力を測定する17項目の尺度を用い,「6(非常にあてはまる)」,「5(あてはまる)」,「4(少しあてはまる)」,「3(あまりあてはまらない)」,「2(あてはまらない)」,「1(全くあてはまらない)」の6件法にて評価を求めた.確認的因子分析により妥当性の検討がなされ,Cronbachのα係数は,各因子において.84~.71であった.本尺度は,得点が高いほど,コミュニケーション能力が高いことを示す.

(3) 柔軟性を測定する尺度(以下,柔軟性尺度)

林(1999)が開発した創造的態度の測定尺度のうち,柔軟性を測定する8項目の尺度を用い,「5(あてはまる)」,「4(まあまああてはまる)」,「3(どちらともいえない)」,「2(あまりあてはまらない),「1(あてはまらない)」の5件法にて評価を求めた.本尺度は,Y-G性格検査との関連にて,妥当性が検討されている.柔軟性尺度項目について因子分析をおこなった結果,一因子構造であることが確認され,Cronbachのα係数は.862であった.本尺度は,得点が高いほど,柔軟性が高いことを示す.

(4) 人口学的属性

年齢,性別,職種,職位,心理教育受講,災害派遣チームへの登録状況,派遣経験,派遣過程における心理社会的支援について尋ねた.

5) 分析方法

SPSS19.0J,Amos ver. 23を用いて,以下のように統計解析をおこなった.

(1) 探索的因子分析

相互支援尺度項目について,因子構造および共通性を確認した後,固有値が1.00を超え,かつ寄与率が5%以上の因子,また仮定した因子数から,抽出する因子数を決定した.因子間の相関を想定し,斜交解(主因子法,プロマックス回転)による因子回転を用いた.カットオフ値(.40)を基準として項目を削除し,繰り返し因子分析をおこなった.

(2) 妥当性の検討

基準関連妥当性の検討として,相互支援尺度得点とCA尺度得点,柔軟性尺度得点における相関係数を算出した.相互支援は,相互のコミュニケーションが基盤であること,コミュニケーション能力が高い場合,関係放棄という選択は減り,問題解決や前向きな対処をとる(町田,2009)ことから,相互支援と関連すると仮定されるコミュニケーション能力を外的基準とした.また,問題焦点型対処,情動焦点型対処などストレス対処の原動力には,ソーシャルスキルやソーシャルサポートを得ること(Lazarus & Folkman, 1991/2014)も含まれ,対処の柔軟性に富むものは抑うつ傾向が低く,精神的健康である(加藤,2001)ことから,柔軟性は,チームにおける相互支援に関連すると考え,柔軟性も外的基準として用いた.妥当性の基準は,比較的強い正の相関(.4 < r≦.7)以上とした.

弁別性の確認として,相互支援尺度得点の高い群において,各項目の得点平均値は高く,尺度得点の低い群において得点平均値は低くなるよう弁別されるか,G-P(Good-Poor)分析をおこなった.

態度の構成要素は,心的構え,行動の準備状態(中島ら,2016)とされることから,相互支援の程度に影響を与えると予測される,教育,意志,経験,職位を基準に,構成概念妥当性を検討した.心理教育受講の有無,災害派遣チーム等登録の有無,派遣経験の有無,看護管理者か否かを基準グループとし,相互支援尺度得点平均値において差の検定をおこなった.

(3) 信頼性の検討

項目分析として,IT(Item-Total)相関を求めた.内的一貫性を確認するため,折半法を用い,また,尺度全体および各因子のCronbachのα係数を算出した.

6) 倫理的配慮

本研究は,東京福祉大学倫理・不正防止専門部会に審査を依頼し,承認を得た上,研究過程全般においてその計画に基づき実施した(承認番号なし).

本調査においては,研究計画について,施設の長に説明し,許可を得たうえで,研究対象者への調査依頼書,質問紙,返信用封筒を一人分ずつ封筒に入れ,施設に送付した.研究対象者への調査依頼書には,研究の目的,方法,参加の自由意志,研究途中での中断の自由,匿名性の保持とデータの取り扱いと処分における個人情報保護に関する事項を書面にて説明し,質問紙の回収をもって同意とみなした.尺度使用においては,尺度開発者の使用許可を得た.

Ⅴ. 結果

配布した質問紙747通のうち,回収数は265通(有効回答数264,有効回答率99.6%),回収率は35.3%であった.なお,すべての尺度項目に回答しているものを有効回答とした.

1. 対象者の属性(表1)

対象者の属性を表1に示す.派遣経験者(111人)において,派遣過程における心理社会的支援の内訳(複数回答)は,派遣前(40人,36.0%),派遣中(16人,14.4%),派遣後(92人,87.4%)となり,派遣前,派遣後に比べ,派遣中の心理社会的支援の割合は,2割未満と最も少なかった.

表1  対象者の属性 N = 264
項 目 n %
性別 27 10.2
236 89.4
無回答 1 .4
年齢 ~29才 26 9.8
30~39才 82 31.1
40~49才 99 37.5
50才~ 56 21.2
無回答 1 .4
職種 看護師 246 93.2
助産師 16 6.1
無回答 2 .8
職位 看護副部長・師長 57 21.6
係長(主任・主査含む) 58 22.0
スタッフ 145 54.9
その他 4 1.5
派遣過程における心理社会的支援の機会
あり 111 42.0
派遣前 40 (36.0)
派遣中 16 (14.4)
派遣後 97 (87.4)
その他 6 (5.4)
なし 51 19.3
わからない 99 37.5
無回答 3 1.1
ストレス緩和等に関する心理教育受講
あり 140 53.0
継続的にあり 15 5.7
なし 107 40.5
無回答 2 .8
災害派遣チーム登録 登録あり 189 71.6
※※ 赤十字救護班 154 (81.5)
DMAT 61 (32.3)
所属施設の派遣チーム 27 (14.3)
心のケアチーム 27 (14.3)
国際救援要員 1 (0.5)
その他 4 (2.1)
登録なし 73 27.7
無回答 2 .8
派遣経験 派遣あり 124 47.0
※※※ 1回 52 (41.9)
2回 45 (36.3)
3回 18 (14.5)
4回以上 9 (7.3)
派遣なし 138 52.3
無回答 2 .8

注1)※派遣過程における支援機会の内訳(複数回答).

注2)※※災害派遣チーム登録者の内訳(複数回答).

注3)※※※派遣経験者における派遣回数の内訳.

2. 天井効果,フロア効果の確認

相互支援尺度のすべての項目において,天井効果,フロア効果を確認した.平均値±標準偏差において,6段階評価の最大値(6)を超えるもの,最小値(1)を下回るものは認められなかった.

3. 探索的因子分析結果と潜在因子の推定(表2

因子構造および共通性を確認した後,基準に基づいて抽出する因子数を3とし,斜交解(主因子法,プロマックス回転)による因子回転をおこなった.カットオフ値(.40)を基準として,繰り返し因子分析を行い,重みの少ない4項目(No. 18,No. 20,No. 23,No. 25)を削除し,3因子,28項目を選択した.

表2  相互支援尺度の探索的因子分析結果 N = 264
項 目 因子 h2 Mean SD
1 2 3
第1因子《良い関係を築く》Cronbach’s α = .913
6 チームメンバーが気持ちを素直に表現できるような雰囲気をつくる .844 –.115 .082 .704 4.58 .82
4 安心して相談したり,話せたりする気兼ねのない雰囲気をつくる .843 –.113 .107 .739 4.66 .83
1 チームメンバーの様子や体調を気遣って,さりげなく声をかける .724 .090 –.033 .617 4.91 .76
2 チームメンバーが緊張している様子に気づき,ほっとするような言葉をかける .694 –.084 .183 .673 4.64 .83
12 切迫した状況でも,チーム全体が緊張しすぎないような良い雰囲気をつくる .678 .027 .123 .620 4.30 .82
5 チームメンバーが良い仕事をしたときは,それを認めて伝える .675 .165 –.102 .574 4.86 .77
9 チームメンバーが失敗しても,責めずに,仕事をフォローする .603 .163 –.222 .439 4.62 .77
7 前向きで肯定的な表現をもちいる .481 .126 .037 .391 4.59 .88
27 どのようなメンバー構成でも,一緒のチームになったことに意味を見出す .463 .355 –.073 .577 4.41 .84
13 すべてのメンバーが話に参加できる共通の話題で,皆が話せるようにする .442 .108 .235 .561 4.28 .84
14 チームだけで過ごせる気兼ねのない時間,空間を確保する .429 .002 .276 .516 4.20 .95
第2因子《つながりを強める》Cronbach’s α = .911
8 チームメンバーのさりげない配慮に気づくと,嬉しい気持ちになる –.152 .855 .096 .709 5.20 .63
32 チームの中の良い雰囲気を作ることで,自分も癒される –.144 .813 .126 .719 5.05 .66
31 チームメンバーが率直に相談したり,話してくれたりすることに,素直に喜ぶ –.059 .787 .154 .746 5.03 .67
10 チームメンバーの立場や状況に配慮した表現を用いる .159 .678 –.086 .636 4.83 .64
11 チームメンバーを緊張させないような声のトーンや口調を用いる .136 .633 –.041 .570 4.68 .74
30 共通の目標に向かって協働する良いチームであろうと思う .278 .528 –.075 .620 4.93 .72
24 自分のできることを精一杯やって,チームに貢献しようと努力する .109 .510 .031 .458 4.87 .66
29 チームメンバーが笑うのをみて,ほっとした気持ちになる –.032 .458 .395 .526 4.84 .80
26 少数意見や異なる意見があったときは,耳を傾け,その理由を聞くようにする .340 .435 –.135 .443 4.61 .71
28 チームとして,「今ここにいる」ということに意味を見出す .382 .422 –.041 .594 4.44 .91
22 チームメンバーの気持ちに配慮した表現を用いる .346 .417 –.003 .572 4.61 .68
第3因子《緊張を緩める》Cronbach’s α = .878
16 たわいない話で,チームの皆が一緒に笑い楽しめるようにする .007 –.019 .859 .716 4.32 .92
17 面白いこと,楽しいことをみつけ,チームの皆で一緒に笑い楽しむようにする –.008 .013 .823 .708 4.19 .94
15 チームメンバーの緊張を和らげる,ちょっと笑えるような反応を返すようにする .088 .018 .755 .661 4.24 .92
19 チームメンバー間の面白いやり取りを,皆で一緒に楽しむようにする –.136 .103 .720 .526 4.18 .89
3 チームメンバーの笑いを誘うようなことを言って,緊張を緩める雰囲気をつくる .294 –.166 .641 .630 4.25 1.06
21 自分の失敗した体験を話して,メンバーの気持ちを和らげるようにする –.055 .163 .491 .327 4.20 .93
1 2 3
因子間相関 第1因子 .746** .630**
第2因子 .575**
第3因子

注1)主因子法,プロマックス回転後.

注2)尺度全体のCronbach’s α = .950.

探索的因子分析の結果,因子に対して大きな因子負荷量を持つ3つの変数のまとまりから,変数間の関係を作り出している潜在的な要因を推定した.

第1因子(11項目)には,「良い仕事を認めて伝える」,「肯定的な表現を用いる」など,良い関係を築く項目が含まれることから,因子名を《良い関係を築く》とした.第2因子には,「協働する良いチームであろうと思う」,「チームとして『今ここにいる』ことに意味を見出す」など,お互いの結びつきを強め,目標に向かって協働しようとする項目が含まれることから,因子名を《つながりを強める》とした.第3因子は,「笑えるような反応を返す」,「緊張を緩める雰囲気をつくる」などの項目で構成されることから,因子名を《緊張を緩める》とした.

4. 相互支援尺度の信頼性,妥当性の検討

1) 各尺度の記述統計量(最大値,最小値,平均値および標準偏差)

相互支援尺度得点の最大値は167,最小値は84,平均値は,128.55(SD = 14.92)であった.CA尺度得点の最大値は95,最小値は42,平均値は65.10(SD = 8.08),柔軟性尺度得点の最大値は40,最小値は12,平均値は27.57(SD = 4.36)であった.

2) 信頼性の検討

I-T相関では,相互支援尺度得点と各項目得点における相関係数を求め,すべての項目において,強い,もしくは比較的強い有意な正の相関(r = .516 ~.740, p < .01)が認められた.折半法では,偶数項目総得点と奇数項目総得点における相関係数を求めた結果,強い有意な正の相関(r = .909, p < .01)が認められた.Cronbachのα係数は,尺度全体で.950,第1因子《良い関係を築く》では.913,第2因子《つながりを強める》では.911,第3因子《緊張を緩める》では.878となった.

3) 妥当性の検討

(1) 基準関連妥当性の検討(表3

相互支援尺度得点は,CA尺度得点(r = .460, p < .01),柔軟性尺度得点(r = .525, p < .01)との間に,比較的強い有意な正の相関が認められた.

表3  各尺度間の相関係数の結果 N = 264
コミュニケーション能力尺度 柔軟性尺度
尺度全体 解読 記号化 主張
相互支援尺度 尺度全体 .460** .346** .472** .099 .525**
良い関係を築く .421** .323** .423** .099 .525**
つながりを強める .417** .344** .401** .093 .444**
緊張を緩める .364** .229** .427** .056 .401**

注1)Pearsonの積率相関係数.

注2)*** p < .001,** p < .01,* p < .05

(2) 弁別性の確認(表4

GP分析では,相互支援尺度得点の上位群(上位25%,139点以上,68人),下位群(下位25%,117点以下,67人)における各項目平均値の差の検定をおこない,すべての項目において上位群の得点平均値が高く,有意差が認められた.

表4  尺度各項目の上位群・下位群における差の検定結果
n Mean SD t p
MS1 上位群 68 5.59 .53 13.936 ***
下位群 67 4.25 .59
MS2 上位群 68 5.38 .69 13.370 ***
下位群 67 3.87 .63
MS3 上位群 68 5.24 .92 12.874 ***
下位群 67 3.37 .76
MS4 上位群 68 5.47 .56 15.786 ***
下位群 67 3.84 .64
MS5 上位群 68 5.47 .59 12.649 ***
下位群 67 4.18 .60
MS6 上位群 68 5.38 .60 15.409 ***
下位群 67 3.84 .57
MS7 上位群 68 5.34 .80 10.448 ***
下位群 67 4.01 .66
MS8 上位群 68 5.71 .46 11.110 ***
下位群 67 4.67 .61
MS9 上位群 68 5.12 .61 9.295 ***
下位群 67 4.10 .65
MS10 上位群 68 5.32 .50 10.899 ***
下位群 67 4.27 .62
MS11 上位群 68 5.29 .49 11.468 ***
下位群 67 4.13 .67
MS12 上位群 68 5.10 .63 14.100 ***
下位群 67 3.61 .60
MS13 上位群 68 5.01 .76 11.939 ***
下位群 67 3.63 .57
MS14 上位群 68 4.87 .85 9.681 ***
下位群 67 3.49 .81
MS15 上位群 68 5.18 .60 14.713 ***
下位群 67 3.49 .73
MS16 上位群 68 5.15 .74 12.019 ***
下位群 67 3.60 .76
MS17 上位群 68 5.06 .64 12.598 ***
下位群 67 3.48 .80
MS19 上位群 68 4.85 .85 8.194 ***
下位群 67 3.69 .80
MS21 上位群 68 4.78 .81 8.753 ***
下位群 67 3.58 .78
MS22 上位群 68 5.17 .58 10.996 ***
下位群 67 4.04 .61
MS24 上位群 68 5.32 .61 10.546 ***
下位群 67 4.31 .50
MS26 上位群 68 5.09 .54 10.226 ***
下位群 67 4.07 .61
MS27 上位群 68 5.09 .69 12.751 ***
下位群 67 3.66 .62
MS28 上位群 68 5.15 .70 12.966 ***
下位群 67 3.54 .75
MS29 上位群 68 5.51 .61 12.495 ***
下位群 67 4.13 .67
MS30 上位群 68 5.44 .56 10.213 ***
下位群 67 4.34 .69
MS31 上位群 68 5.68 .47 13.272 ***
下位群 67 4.49 .56
MS32 上位群 68 5.62 .49 11.325 ***
下位群 67 4.54 .61

注1)対応のないt検定.

注2)*** p < .001,** p < .01,* p < .05

(3) 構成概念妥当性の検討(表5

基準グループ間の比較では,心理教育未受講群に比べ心理教育受講群(t = 4.053, p < .001),災害派遣チーム等未登録群に比べ登録群(t = 5.087, p < .001),未派遣群に比べ派遣経験群(t = 4.823, p < .001),非管理者群に比べ管理者群(t = 4.860, p < .001)において,相互支援尺度得点平均値は高く,有意差が認められた.

表5  基準グループ間における差の検定結果
n 相互支援尺度
尺度全体 SD t p 良い関係を築く SD t p つながりを強める SD t p 緊張を緩める SD t p
心理教育受講
あり/継続的にあり 155 131.56 14.04 4.053 *** 51.63 6.22 4.759 *** 54.02 5.37 3.374 ** 25.92 4.36 2.263 *
なし 107 124.15 15.27 47.79 6.74 51.64 5.95 24.65 4.55
災害派遣チーム登録
あり 189 131.30 14.18 5.087 *** 51.41 6.47 5.654 *** 54.12 5.32 5.044 *** 25.72 4.40 1.989 *
なし  73 121.27 14.62 46.48 5.97 50.31 5.87 24.51 4.55
派遣経験
あり 124 133.12 14.06 4.823 *** 51.31 6.14 5.226 *** 54.38 5.25 3.760 *** 26.59 4.54 3.425 **
なし 138 124.41 14.62 48.04 6.54 51.84 5.64 24.51 4.23
看護管理者/非管理者
管理者 115 133.53 14.50 4.860 *** 52.62 6.52 5.745 *** 54.25 5.33 2.898 ** 26.65 4.55 4.045 ***
非管理者 145 124.82 14.24 48.10 6.10 52.20 5.89 24.48 4.18

注1)対応のないt検定.

注2)*** p < .001,** p < .01,* p < .05

Ⅵ. 考察

1. 尺度の構成概念

探索的因子分析では,仮定した構成概念とは異なる3つの因子が得られた.観測変数の背後にどのような因子構造があるかを探っていく分析手法である探索的因子分析(豊田,2016)で得られた結果が,「危機状況下における相互支援」の構成概念として解釈が可能であるかについて検討する.

第1因子《良い関係を築く》は11項目から構成され,メンバーが安心して話せる雰囲気を作るとともに,良いところを認めて伝える,肯定的な表現を用いるなど,積極的に相手に働きかけ,良い関係を築く行動が含まれている.コントロール不能な状況では,情動焦点型対処が有効である(Folkman et al., 1979)とされる.曖昧で予測困難な危機状況下で活動する救援者において,良い関係の構築は,安心や信頼をもたらす情緒的支援の基盤として機能すると考えられる.したがって,良い関係を築くことは,相互支援の構成概念として適切であると解釈された.

第2因子《つながりを強める》は11項目から構成され,チームとしてそこにいる意味を見出し,お互いを気遣い合いながら,目標に向かって協働していく行動や態度が含まれている.チームの凝集性(cohesion)は,チームにおける任務の遂行,効力感と正の相関を示している(Evans & Dion, 1991Gibson, 1999).救援者に無力感を生じさせるような危機状況下においても,つながりを強めることは,チームにおける任務の遂行を助け,有能感など人間の心理的ニーズ(Ryan & Deci, 2000)を満たすことで,救援者のストレスが緩和されることが示唆される.したがって,つながりを強めることは,相互支援の一側面として適切であると解釈された.

第3因子《緊張を緩める》は,6項目から構成され,お互いが緊張を緩められる雰囲気づくりや気持ちを和らげる行動が含まれている.生命を脅かされる状況における活動や休息がとれないなど,昼夜を問わず常にストレスに晒される救援者において,ユーモアがストレス緩和に効果を示したこと(平野,2018)は,この結果を支持している.危機状況下において,お互いに緊張を緩め安心して話せる関係や雰囲気は,ソーシャルサポートとしての情緒的支援を促進する.したがって,緊張を緩めることは,相互支援の一側面として妥当であると解釈された.

以上より,探索的因子分析で得られた第1因子《良い関係を築く》,第2因子《つながりを強める》,第3因子《緊張を緩める》は,いずれも危機状況下における相互支援に関する態度として解釈可能であり,構成概念として適切であると考えられた.

2. 尺度の信頼性

I-T相関では,相互支援尺度得点とすべての項目得点において,強い,もしくは比較的強い有意な正の相関(r = .516~.740, p < .01)が認められたことから,項目の適切性が判断された.折半法では,偶数項目総得点と奇数項目総得点において,強い有意な正の相関(r = .909, p < .01)がみられ,項目に共通した反応が得られたことから,内部一貫性が確認された.Cronbachのα係数は,尺度全体において.950,各因子においても,.913~.878の値を示し,一般的に求められる0.7以上という基準を満たした.

以上より,相互支援尺度の信頼性は確保されたと考える.

3. 尺度の妥当性

1) 内容妥当性

CVI 得点は,0.8以上であれば適切な内容妥当性を示す(Polit & Beck, 2004/2010)とされる.専門家会議のCVIの比率は,すべての項目において.9から1を示しており,内容的妥当性は確保されたと考える.

2) 基準関連妥当性

相互支援尺度得点は,外的基準であるCA尺度得点,柔軟性尺度得点とそれぞれ比較的強い有意な正の相関を示し,本研究で設定した妥当性の基準を満たした.良好な関係の中でお互いを支えあう相互支援は,他者のニーズを予測するとともに,自分のニーズをも伝える能力を必要とする.そのため,相互支援尺度得点は,他者の感情を読みとるのみでなく,自分の気持ちも表現する下位尺度を含むCA尺度得点と関連をみせたと考える.

対処の柔軟性は,精神的健康と情動表出の制御,適応的な対処方略,自尊心と関連(Zimmer-Gembeck et al., 2018)をみせている.危機状況下において,柔軟な対処をおこなう個人は,より状況に適応し精神的健康を保つことにより,相手のニーズを察し支援できることが示唆される.そのため,相互支援尺度得点は,柔軟性尺度得点と関連をみせたと考える.

以上より,相互支援尺度の基準関連妥当性は確保されたと考える.

3) 弁別性

G-P分析では,高い弁別性が確認されことから,すべての項目は,危機状況下における相互支援に関する態度を適切に表す質問項目であると考えられた.

4) 構成概念妥当性

基準グループ間の比較では,相互支援に関する態度を形成する心的構え等をもつと予測した心理教育受講者,災害派遣チーム登録者,派遣経験者,看護管理者において,相互支援尺度の得点平均値は有意に高く,妥当性が確認された.なお,派遣経験者が未派遣者に比べ,尺度得点平均値が有意に高いという結果は,相互支援が派遣中の救援者のストレス緩和に有効である可能性を示唆するものである.

以上より,相互支援尺度の構成概念妥当性は確保されたと考える.

Ⅶ. 尺度の活用可能性と今後の課題

派遣中,日常得られるソーシャルサポートから離れ,様々なストレスに晒される救援者にとって,危機状況下における相互支援は,精神的健康維持の観点から極めて重要となる.将来救援を志望する人々が,相互支援の重要性を認識し,平時,派遣時にかかわらず実践できるよう,心理教育を含めた派遣前教育プログラムの構成及び教育方法の検討は必須であり,本尺度は,プログラム評価とその改善に寄与すると考える.また,派遣前後において,本尺度と精神的健康に関連する尺度を用いることにより,派遣中における相互支援の有効性に関する検討も可能となる.

一方,危機状況下の救援者相互の支援は,所属する組織の救援者への心理社会的支援に関する方針とともに,救援者個人のセルフケアと精神的健康度により強く影響を受けることが示唆される.今後の課題は,相互支援と精神的健康との関連をさらに探求するとともに,研究を基礎として,派遣プロセス全般における『救援者の心理社会的支援モデル(組織的支援-相互支援-セルフケア)』を構築し,その有効性を検証することである.

Ⅷ. 結論

1.探索的因子分析の結果,第1因子《良い関係を築く》,第2因子《つながりを強める》,第3因子《緊張を緩める》が抽出され,検討の結果,危機状況下における相互支援に関する態度を表す構成概念として適切であると判断された.

2.Cronbachのα係数は,尺度全体において.950,各因子においても.911~.878であり,また,折半法,IT相関の結果から,相互支援尺度の信頼性は確保された.

3.基準関連妥当性の検討において,相互支援尺度得点は,CA尺度得点と柔軟性尺度得点との間に比較的強い有意な正の相関をみせたこと,弁別性の確認とともに,構成概念妥当性の検討として,基準グループ間において有意な差が認められたことから,相互支援尺度の妥当性は確保された.

以上より,危機状況下における相互支援尺度の信頼性,妥当性は確保された.

付記:本研究は,東京福祉大学大学院心理学研究科に提出した修士論文に,加筆・修正を加えたものである.なお,本論文の内容は,第39回日本看護科学学会学術集会において発表した.

謝辞:調査にご協力いただいた災害拠点病院の看護部の皆様,質的分析においてご指導いただいた東京福祉大学大学院石川清子先生,統計解析において貴重なご助言をいただいた久保貴先生,研究過程全般においてご指導いただいた鈴木康明先生に心より感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

文献
 
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