日本看護科学会誌
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原著
産後1か月から4か月までの母親がもつ育児ストレスと対処行動
澤田 明菜鏡(関塚) 真美太田 良子毎田 佳子
著者情報
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2020 年 40 巻 p. 270-278

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Abstract

目的:核家族世帯の母親が産後1か月から4か月までの期間にどのような育児ストレスを抱き,それにどのように対処してきたかを明らかにする.

方法:健康福祉センターで児の4か月児健診を受診した,単胎かつ正期産で20~34歳の母親に半構成的面接を行い,得られたデータを質的記述的に分析した.

結果:研究参加者は11名であった.母親は【母乳育児に対する苦悩】,【子どものペースに合わせることへの負担】,【2人の子どもと関わる中で生じる戸惑い】,【1人で育児を抱え込む気負い】という育児ストレスに対し,【周囲の頼れる存在を認知し自ら関わり頼る】,【母親自身で対応し自己完結する】という対処行動をとっていた.

結論:本研究により,母親誰もが育児ストレスを持ち得るものであることを医療者は認識し,母親が適切な対処行動をとれているかに焦点をあて,必要時に専門職のサポートを受けられる方法を育児ストレスの内容と併せて具体的に情報提供することの重要性が示唆された.

Translated Abstract

Purpose: The aim of this study was to clarify mothers’ child-rearing stress and coping behaviors from one month to four months after childbirth.

Methods: We interviewed mothers who underwent a four-month checkup of their child at their health and welfare center. The mothers were between the ages of 20–34 years and had given birth to full-term infants. They also belonged to a nuclear family. The study method was based on semi-structured interviews. We analyzed the data using a qualitative descriptive research method.

Results: Eleven mothers participated in this study. Mothers faced child-rearing stress of “distress about breastfeeding,” “the burden of keeping up with my child’s pace,” “overwhelmed by rearing two children,” and “taking on child-rearing by myself and feeling under pressure.” When mothers had these stresses, they coped by “depending on people around” or “dealing and solving the stress alone.”

Conclusion: This study suggests that it is important for healthcare workers to focus on whether the mother takes appropriate coping behavior, recognizing that any mother will have child-rearing stress, and providing specific information on how to receive professional support when needed, along with the content of child-rearing stress.

Ⅰ. 緒言

日本では核家族化が進み,育児環境の孤立が問題となっている(厚生労働省,2019).特に核家族世帯では親,とりわけ母親と子が1対1の関係となる状況が予測される.そのような中,育児ストレスを感じる母親は少なくない(宮本ら,2000小川ら,2013).

堀田・山口(久野)(2005)は,6か月の乳児をもつ母親の育児ストレスは不安や抑うつと強く関連していることを報告している.また,育児に関するストレスは,母親の不安や抑うつの予測因子であることが明らかとなっており,不安や抑うつを予防する観点から育児ストレスを早期に軽減する重要性が指摘されている(Skipstein et al., 2012).さらに,母親の抑うつは児のネグレクトや虐待との関連(Daoud et al., 2019Lehnig et al., 2019)も指摘されている.

虐待防止の観点から,産後1か月以降も地域保健と連携して定期的にスクリーニングを実施することが推奨(日本周産期メンタルヘルス学会,2017)されており,Edinburgh Postnatal Depression Scale(以下EPDS)は産後1か月以降も活用されている(岡本ら,2013).産後うつ病の有病率は3か月時点が12.9%と最も高く,初産婦の19.2%が出産後から産後3か月までに産後うつ病になっていた(Gavin et al., 2005)ことが報告されている.日本では,分娩後から3か月以内の産後うつ病の罹患率は5%であった(Kitamura et al., 2006)と報告されている.また,生後3~4か月,1歳6か月,3歳の3時点の乳幼児健康診査をうけた母児のEPDS得点を縦断的に調査した研究では,3~4か月時点のEPDS得点が最も高値であり,3~4か月時点でのEPDS 9点以上の割合は1歳6か月,3歳に比べて高値であったとの先行研究がある(齊藤・村山,2008).すなわち産後3~4か月は抑うつ傾向が高くなる時期と言え,抑うつを予防する観点から育児ストレスを早期に軽減することが重要といえる.

3~4か月時点の母親を対象とした育児ストレスに関する先行研究として,母親の対処行動と特性,Sense of Coherence(以下SOC),育児に対する自己効力感との関係を明らかにした研究(佐藤・石田,2016)があり,SOCと育児に対する自己効力が高いことは問題解決・サポート希求,肯定的解釈と気そらしの対処行動を多く用い,問題回避の対処行動を少なく用いる可能性を示唆している.また,育児に関するストレス尺度を用いて,初産婦の生後6か月間における育児ストレス推移を明らかにしたもの(前原ら,2017)や育児関連ストレスへの対処行動と抑うつ傾向の関連を調査したもの(小林,2008)などがある.しかし,産後うつ傾向が高まりやすい3~4か月時点の母親を対象に,どのようなことに育児ストレスを感じ,どのように対処してきたのかを質的に明らかにしたものは見当たらなかった.

以上より,本研究は核家族世帯の母親が産後1か月から4か月までの期間にどのような育児ストレスを抱き,それにどのように対処してきたかを明らかにすることを目的とした.本研究結果から,育児ストレスへの対処行動が母児のウエルネス維持・向上の観点から望ましい行動であったかを考察することで,母児に対する今後の支援の方向性を提示することができると考える.ウエルネスの概念は社会情勢や時代,使用される分野によって異なるが,本研究では太田ら(2006)が示した「健康のみならず現時点より,より良い状態へ成長していくことであり,その間の成長過程」をウエルネスとする.

育児ストレスと同様の概念として,育児負担感(中嶋ら,1999),育児不安(間ら,2000川井ら,1994川井ら,1995川井ら,1996牧野,1982牧野,1988八木,1999吉田ら,1999),育児困難感(恒次ら,1999恒次ら,2000)などがあるが,内容的に混同して使用されていることが指摘されている(金岡,2011).本研究では,育児に伴うストレスマネジメントの概念分析(堀越・常盤,2018)を参考に,子どもとの関わりや周囲の人との関わりに対する困難感,育児や家事から生じる負担感や不安,戸惑いなどを育児ストレスと定義して使用する.

Ⅱ. 研究方法

1. 研究デザイン

質的記述的研究デザイン

2. 研究参加者

A市の健康福祉センターに4か月児健診のため来所した核家族世帯の母児の中で,単胎・正期産であった20~34歳の母親とした.本研究はウエルネス維持・向上の観点から虐待や抑うつのリスク因子の有無にかかわらず,不安や心配などの育児ストレスは誰でもが持ち得るものであるという観点から,精神疾患の現病やその既往がある者,児の出生体重が2,500 g未満であった者,研究を実施する施設においてEPDS高値等によりすでに保健師が継続的にフォローアップしている者は対象としなかった.また,日本語によるコミュニケーションが困難などの理由でインタビュー調査が困難な者は除外した.対象者の選定は母子保健担当者に依頼し,健診時に対象者の紹介を受けた.紹介を受けた後,研究実施者が研究内容の説明と研究協力の依頼を行い,署名による同意が得られた者を研究参加者とした.

3. 調査期間

2019年8月から10月であった.

4. データ収集方法

半構成的面接法を用いて行った.産後1か月から4か月までに,育児をする上で大変だったこと,心配や戸惑い,その時の母親の気持ち,対処行動について,研究参加者の語りを遮らず自由に語ってもらえるように努めた.面接内容は研究参加者の同意を得たうえでICレコーダーおよび手書きのメモにて記録した.

5. 分析方法

ICレコーダーに録音した面接内容を逐語録にし,データとした.逐語録を精読し,参加者ごとに研究目的について語られている部分を文脈に留意しながら抽出し,内容を示すコードを作成した.さらに,コードを繰り返し読み,意味内容の類似性や相違性を比較し,類似性に基づいてサブカテゴリ化し,さらにカテゴリ化した.分析過程において,質的研究に精通した複数の研究者のスーパーバイズを受け,分析の妥当性を確認した.

6. 倫理的配慮

参加者には研究の趣旨とともに,研究参加は自由意思であり,断ったとしても一切不利益が生じないこと,途中で参加を中断する場合は参加者の自由意思を尊重し,一旦同意した後でも,いつでも同意の撤回が出来ることを説明した.面接はプライバシーが確保できる個室で行い,児の機嫌や体調,授乳時間に合わせてインタビューを中断することが出来るように配慮した.また,インタビュー前に,答えにくい質問や答えたくない質問があれば答えなくてもよいこと,インタビューはいつでも中止することが出来ること,中止しても参加者には不利益とならないことを伝えた.本研究は著者の所属する金沢大学医学倫理審査委員会の承認を得た.(承認日:2019年7月31日,承認番号:922-1)

Ⅲ. 結果

1. 研究参加者の概要(表1

4か月児健診を受診した11名の母親から研究協力の同意を得られた.研究参加者の概要として,全員が配偶者を有しており,平均年齢は27.5歳であった.出産歴の内訳は初産婦5名,経産婦6名であった.平均面接時間は約20分(8分~30分)であった.以下,カテゴリを【 】,サブカテゴリを《 》で表記した.

表1  研究参加者の概要(N = 11)
ID 年齢 配偶者の有無 健診対象児 上の子の年齢
A 20代前半 2人目 3歳
B 20代後半 1人目
C 20代後半 1人目
D 20代後半 2人目 2歳
E 20代後半 2人目 6歳
F 20代後半 1人目
G 20代後半 2人目 1歳
H 20代後半 1人目
I 20代後半 1人目
J 30代前半 2人目 2歳
K 30代前半 2人目 2歳

2. 産後1か月から4か月までに母親が抱く育児ストレス(表2

産後1か月から4か月までに母親が抱く育児ストレスは,4のカテゴリ,9のサブカテゴリに集約された(表2).

表2  産後1か月から4か月までに母親が抱く育児ストレス
カテゴリ サブカテゴリ コード(※)
母乳育児に対する苦悩 理想とは異なる母乳育児への戸惑い 母乳にこだわっていたが,乳首が傷だらけになっても搾乳などして頑張っていた時はこだわりも考えられないくらい疲れて寝不足でしんどくなっていった.(B)
混合でも母乳で頑張っていたので子どもの体重は増えてると思っていたが,増えてなかったショックが大きすぎて泣きそうになった.(I)
その後もおっぱいをあげてはミルクの足す量が分からず毎回悩んでいた.(I)
生まれた瞬間からおっぱいはバンバン出て意外とスムーズにいくかなと思っていたがすぐに出ず,思っていたよりスムーズではなかった.(J)
授乳による心身の負担 夜中も2~3時間おきに子どもが泣いて起きては母乳をあげていたので,自分も休みたい,寝る時間も確保したいという気持ちも大きかった.(B)
夜眠たい中おっぱいをあげなきゃいけないということがとてもしんどかった.(C)
母乳を飲んでもまとまって寝てくれなかったり,夜に1時間2時間起きては授乳っていう時期が上の子の時と比べて下の子は結構長かった.(D)
歯が生えて乳頭を噛むようになった.(H)
母乳だとくわえた瞬間(児が)寝てしまって,長くくわえさせるのは無理だしそんな時間使ってられないと思った.(H)
混合栄養は夜中も起きておっぱいをあげてミルクをつくって飲ませなきゃいけなくて眠たくなる.(J)
うまくいかない母乳育児に対する自責の念 母乳も出なくなりすんなりやめてしまって,子どもには申し訳ない.(B)
どれだけずつミルクを足していけばいいのか聞き忘れたり勉強してなかった自分が悪い.(I)
母乳だけで頑張ろうというのは親のエゴみたいなもので,母乳は出てないのに無理やりあげても,結局体重が増えてなかったら自己満足に近いと思った.(I)
ごめんねって思いながら,ミルクをスパルタのように結構あげていた.(I)
子どものペースに合わせることへの負担 子どもの泣きに対する不可解さ 夜中に何回も起きて,短い時は1時間くらいでまた泣き始めるので,さっき飲んだのになぜ泣くのかと思った.(B)
おっぱいが出るまでは,なんで泣いているのかが分からなかった.(J)
子どもの不規則なリズムに合わせた育児の負担や不安 泣いたときは,とりあえずおむつ確認してミルクを何時間前に飲んだか確認して,ちょっと早いなと思ったときはひたすら抱っこしていたので腰が痛くなった.(B)
夜中に何回も子どもが起きるのが何日も続いて自分も眠たくてしんどい中,いつまで続くんだろうというストレスと,いつまで続けないといけないんだろうという不安があった.(C)
下の子が全然寝ないことと上の子のイヤイヤ期が重なり,1人目の時とは違い自分がずっと寝れなくなった.(D)
下の子のリズムが付くまではバタバタしていて,自分にもイライラして旦那にあたることがあった.(E)
寝かしつけているときに泣いたり,全く寝なかったりもあって,いらっとしたときはあった.(F)
寝たと思って,置いて起きたら抱っこするのを何回も繰り返すのがしんどくて,寝かしつけを親に任せていた.(I)
2人の子どもと関わる中で生じる戸惑い 片方の子どもだけにしか関われなくなるもどかしさ 家で下の子が大変だったら上の子にテレビとか見させたり話しかけられても相槌を打つだけになり,上の子との時間は持ててないと思った.(A)
朝や夕方,土日はお姉ちゃん中心の遊びになってしまっているので,下の子はほっとかれがちになる.(D)
上の子に対応しているときに下の子が泣いた場合,旦那がいれば下の子を抱っこしてもらうが,旦那がいなければ上の子が待てない年頃なので優先になりがち.(D)
下の子が寝ている時は上の子と一緒に遊んだりするが,どうしても下の子優先になってしまうことはある.(G)
1人で2人を見ている時に,上の子の機嫌が悪くて下の子に手を出すことがあると,下の子をかばわないといけないけど上の子を邪険にすることは出来ないと思って,どっちについていいか分からなくなる.(K)
2児の育児に対する両立困難から生じる苛立ちと余裕のなさ 2人が一緒になるとすごいいらいらするし怒ってばかりで,寝不足も重なって全部に余裕がなくなる.(D)
下の子優先になっている間に上の子がかまってほしさで悪さするので,自分は怒ってしまう.(G)
下の子に母乳をあげている時に上の子がどかしてくると焦って,ちょっとイライラもしてしまう.(G)
2人がそろってきたら上の子にイラっとするときもあるので,余裕がなくなってしまうこともある.(K)
1人で育児を抱え込む気負い 誰にも頼れない状況になる育児の大変さ 旦那の不規則な勤務形態でいる時といない時があり,子どもと自分だけの夜はひとりで二人の子どもの世話をやらないといけないので基本的にバタバタになり,自分の時間がなくなることでイライラした.(E)
旦那の帰りが遅いので,それまでは上の子と下の子の2人を1人で見ないといけないので大変だった.(G)
自宅に戻ってから自分で寝かしつけないと自分が寝れないから,寝かしつけるタイミングを見計らうのがすごいしんどかった.(I)
ひとりが2人を見ることが大変.(J)
自分が全部1人でしなければならないという気負い 自宅に戻ったら旦那が仕事で家にいない時間のほうが長いし,全部自分ひとりでやらないといけなくてどれだけ大変なんだろうと思っていた.(B)
里帰りして自宅に戻って,育児だけでなく家事もしないといけないし,ミルクのこともあるから頑張んなきゃ頑張んなきゃって思いすぎて気負っていた.(I)

※( )内のアルファベット表記は参加者のIDを示す.

【母乳育児に対する苦悩】を抱いていた母親は,母乳育児が思っていたよりスムーズではなく,《理想とは異なる母乳育児への戸惑い》を感じ,試行錯誤を繰り返しながら母乳育児を継続または中断していた.また,母乳育児に伴う頻回授乳や児の成長に伴う変化により《授乳による心身の負担》を感じていた.母乳育児が上手くいかなかった原因は自分にあると捉えた母親は,《うまくいかない母乳育児に対する自責の念》を抱いていた.

また,育児をしながら生活する中で,母親は【子どものペースに合わせることへの負担】を感じていた.昼夜問わず起きて泣く子どもに対し,《子どもの泣きに対する不可解さ》を抱いていた.次第に母親は,泣きへの対処による負担や苛立ち,いつまで続くのかというような,《子どもの不規則なリズムに合わせた育児の負担や不安》を抱えていた.

【2人の子どもと関わる中で生じる戸惑い】は経産婦にみられた育児ストレスであった.下の子の育児をしているときに上の子との関わりがおざなりになることや,上の子と遊んでいる時に下の子を放置している状況に対して,《片方の子どもだけにしか関われなくなるもどかしさ》を感じていた.また,下の子に授乳しているところへ上の子が邪魔をしたり,2人の子どもが一緒になって泣いたりしている状況に,母親は《2児の育児に対する両立困難から生じる苛立ちと余裕のなさ》を感じていた.次第に母親は,【1人で育児を抱え込む気負い】を感じるようになっていった.核家族世帯であるため,夫がいない時や協力してくれる人がいない時に《誰にも頼れない状況になる育児の大変さ》を感じていた.また,里帰り先から自宅に戻ってくる時期などに,母親は《自分が全部1人でしなければならないという気負い》を感じるようになっていた.

3. 育児ストレスを抱いた母親の対処行動(表3

育児ストレスを抱いた母親の対処行動は,2のカテゴリ,9のサブカテゴリに集約された(表3).

表3  育児ストレスを抱いた母親の対処行動
カテゴリ サブカテゴリ コード(※)
周囲の頼れる存在を認知し自ら関わり頼る 地域のサービスを知り助産師と関わる 下の子ばかりになっていたが,助産師から上の子のほうもかまったほうがいいことを聞いて,上の子を見るようにした.(A)
里帰り先から自宅に戻って初めて行った市の相談室で,助産師と面談したときにかけてくれた「頑張ってるよ,大丈夫だよ」という優しい言葉にすごい救われた.(I)
親の知り合いからおすすめされて1人目の時に行った助産院で今回もおっぱいマッサージを受けてから,ちゃんとおっぱいが出るようになり,おっぱいの間隔が良くなった.(J)
周囲にいる保育士と関わる いいところだなと思って行くようになった子育て支援センターの保育士に,日中外に遊びに行ったりお散歩いっぱいしたほうがいいと言われて,よく寝てもらうためお散歩をしてみたりした.(C)
保育士に上の子にママとの時間をもうちょっとあげたらいいかなと言われてから,同じことを周りから聞き,結構気にしているので,下の子が寝た時や旦那がいる時は私が上の子と遊ぶ.(G)
子育てをしている周囲の母親の存在を認知し頼る 一緒に子育てする母親から聞いた「3か月になれば夜しっかり寝るよ」の言葉を目安に頑張っていた.(C)
職場の先輩ママや子どものいる友達に,自分が気になったことを夜中に聞いたりSNSで教えてもらったりした.(F)
一緒だよと共感したりしてほっとすることが出来る友達には子どもと同い年の子を持つ子が多く,同じように成長するので,どう?って相談する.(G)
友達やいとこに,ミルクの量を相談した.(I)
子どもが2人いる友達に話したり相談する.(K)
身近な家族に頼りたいときに頼る 子どもは重いし腰も痛いってなった時に,お母さんが買ってくれたバウンサーを使うようになった.(B)
実家で自分が寝ていて母乳をあげられない時は,家族にミルクあげといてとお願いしていた.(B)
自分の母親が保育士なので,いろんなことを聞いたり,同じ市内にいるので頼りたいときにすぐ頼った.(C)
旦那は,土日は面倒みてくれたり,仕事から帰ってきてからお風呂やおむつもして,相談も聞いてくれて,一緒にしようと頑張ってくれる.(C)
旦那に家事をお願いする.(D)
すぐ頼れる距離にいるばあちゃんに,上の子を少しの時間預けたり泊まらせたりして,息抜きする.(D)
夫を頼りにしないと子育てできないのでかなり頼って,我慢せずに何でも言って手伝ってもらう.(E)
土日とかは実家に行っているので,家族も結構手伝ってくれる.(F)
寝ないときはひたすら抱っこしたりミルクをあげたりして,夜遅くまで旦那と二人で寝かしていた.(F)
旦那がいるときは下の子を抱っこしてもらって,私は上の子と一緒に遊んであげる時間をつくる.(G)
旦那のお母さんに上の子を見てもらい下の子をみる.(G)
自分の母親に話を聞いたり,聞いてもらったりした.(I)
旦那がいるときは下の子を任せて,私は上の子を見る.(J)
母親自身で対応し自己完結する 自分で模索し打開策を見出す 泣きやまないと思ったら,母乳かな,おむつかな,暑いのかなって思って,全部とりあえずしてみる.(G)
スケールあるところに行っては洋服着たまま体重を測って不安をとっていたが,結局自分でスケールを買った.(I)
上の子が悶々としているとこっちも嫌になってくるので,負の循環にならないように上の子の欲求を満たす.(J)
上の子はたぶん何かが気に食わなくて下の子に手を出したりすると思うので,上の子から見るようにしている.(K)
自分が辛くならないよう心の余裕が持てる時間を作る 上の子は外に出たがるし自分も家の中だけだとしんどいので,外に出るだけでも心に余裕が持てるし,上の子とも関われているかなと思う.(A)
上の子が保育園に行っている昼間に下の子と昼寝をする.(D)
旦那のお母さんが上の子を見てくれる時間は下の子だけに注げる時間でもあり,自分の時間も作ることで,自分の気持ちがおだやかになりゆっくりできる.(G)
自分の気持ちをコントロールする 私がイライラしているよりも,楽しそうにしているほうが家族は明るい気がするので,最近は割り切っている.(D)
そういうものなのかと思えると落ち着くことが出来る.(K)
育児状況を見越して里帰り期間を調整する 旦那だけに上の子を任せることが心配だったので,1か月は里帰りしていた.(E)
1か月で帰ろうと思っていたが,夜もしっかり寝れないしお母さんがいればみてもらったりできるので,もうちょっといようと思った.(F)
母乳哺育継続を断念し人工乳に切り替える 電動搾乳機で母乳をあげつつミルクもあげていたが,次第にもうミルクでいいよと思うようになり,2か月終わりには完全ミルクになった.(B)
乳首を噛んだりくわえた瞬間寝てしまうので,もうミルクにしようと思ってミルクに切り替えた.(H)

※( )内のアルファベット表記は参加者のIDを示す.

育児ストレスを抱いた母親は,市町村の相談室や病院・助産院など《地域のサービスを知り助産師と関わる》ようになっていた.また,子育て支援センターや上の子の保育園で働く保育士などを認知し,《周囲にいる保育士と関わる》機会を持つ母親もいた.さらに,母親は,自分の周りにいる人の中から《子育てをしている周囲の母親の存在を認知し頼る》ようになっていた.また,母親は,一番身近にいる夫や,近くに住む実父母などの《身近な家族に頼りたいときに頼る》行動をとっていた.この行動は,1人で出来ないことに対してサポートを頼む場合と子どもと離れる時間を作るために頼む場合があった.このように母親は【周囲の頼れる存在を認知し自ら関わり頼る】行動をとっていた.

一方で,育児ストレスに対し【母親自身で対応し自己完結する】母親がおり,育児ストレスを抱いたときに,子どもの様子を見ながら《自分で模索し打開策を見出す》行動をとっていた.また,《自分が辛くならないよう心の余裕が持てる時間を作る》,《自分の気持ちをコントロールする》という対処行動をとりながら育児をしていた母親も存在した.里帰りをしている母親では,母児の状況から《育児状況を見越して里帰り期間を調整する》ことで,自分や家族が追い込まれないようにしていた.母乳育児に関する対処行動では,母親が自分自身で試行錯誤を繰り返しながらも,専門職の支援を受けずに次第に人工乳を選択し,《母乳哺育継続を断念し人工乳に切り替える》行動があった.

Ⅳ. 考察

母親が抱く育児ストレスとその対処行動について考察し,今後必要とされる支援を以下に提言する.

1. 産後1か月から4か月までに母親が抱く育児ストレスについて

母親が抱く育児ストレスは4カテゴリに集約された.【母乳育児に対する苦悩】を抱いていた母親は,試行錯誤を繰り返しながら母乳育児を継続または途中で人工栄養に切り替えていた.先行研究では,母親が自分なりの母乳育児が出来るようになったと感じるまでに,乳房・乳頭に発生する苦痛,定まらない哺乳パターンを困難と思っていたことが報告されている(橋爪ら,2018).また,母乳を推奨してくれる専門職の見守りや,出生直前から生後4か月までの母乳育児の後押しがあることが,母乳育児継続に影響していると言われている(神谷・志村,2018).自分なりの母乳育児ができるようになったと感じるまでには個人差があるため,入院中や産後1か月間だけでなく,産後1か月以降も【母乳育児に対する苦悩】という育児ストレスを抱きやすいことが窺える.

【子どものペースに合わせることへの負担】は乳児の昼夜逆転により引き起こされる育児ストレスといえる.概日リズムが完成する睡眠発達の臨界期は生後4か月である(神山,2009Armstrong et al., 1994)が,母親が生後1か月から4か月の乳児の睡眠発達の知識をもっているか否かは【子どものペースに合わせることへの負担】の認識に関連するかもしれない.欧米では,半世紀にわたる睡眠研究から,寝渋りや頻回の夜泣きなどの乳幼児の睡眠問題には行動療法が有効で,予防的な親教育の効果が検証されている(Mindell, 1999).さらに,母児ともに睡眠が改善することは心身の健康に直結するため,妊娠期からの正しい知識普及を強く期待されている(足達,2011)ことから,【子どものペースに合わせることへの負担】のストレス軽減には,母親に対して妊娠期あるいは新生児期から乳児の睡眠発達に関して,早期に知識提供を行うことが求められる.

また本研究において,【1人で育児を抱え込む気負い】というカテゴリが抽出された.これは,核家族における育児ストレスの実態を代表するカテゴリであると言える.さらに,1人で育児を行う状況は【2人の子どもと関わる中で生じる戸惑い】にも関連していると考える.3か月児健康診査での母親の育児に関する相談事では対象児以外の上の子どもの世話に関する相談内容があったことが報告されている(村井ら,2014).また,3~4か月児をもつ母親の乳児健診における主訴を分析した調査報告では,「子どもを2人以上育てることへの困難感がある」や「育児支援者の不在」などが主訴として報告されている(浜崎ら,2010).つまり,核家族世帯の母親が孤立して育児をする状況や身近に相談相手や仲間がいない状態では,【1人で育児を抱え込む気負い】という育児ストレスにつながる可能性があり,【2人の子どもと関わる中で生じる戸惑い】をもつ母親も少なくないことが予想される.核家族世帯の母親を対象にした先行研究で,育児負担軽減のために「育児負担を分かってもらえる,あるいは分かり合える身近な相談相手や仲間が欲しい」という望みを抱いている(小路・松原,2006)ことが明らかになっている.そのため,母親にとって身近に支援者がいることは,母親の育児ストレスを軽減させるために重要と考える.したがって,産後1か月以降,母親と専門職の関わる機会が少なくなることからも,産科施設で母子と関わる医療従事者が母親のおかれている心理社会的状況を妊娠中や産後早期にアセスメントし,適切な支援を受けられるよう情報提供することが必要である.

育児は就業形態や年齢に関わらず母親にとって負担であり(毛利ら,2005),経産婦であってもきょうだいへの対応に困難を感じている場合,母親の対象児に対する育児困難感が高かったという報告もある(坂田ら,2014).すなわち産後うつのリスク因子の有無にかかわらず,不安や心配などの育児ストレスは誰でもが持ち得るものであるということを看護者は認識し,母親の生活や育児の状況,育児ストレスを把握するとともに,母親自身が育児に伴うストレスをどのように捉えているのかに焦点をあてることが必要と考える.

2. 母親の育児ストレスへの対処行動からみた臨床への提言

育児に伴うストレスマネジメントの概念分析では,ストレスマネジメント(ストレスを自覚し,上手く対処してストレス反応を緩和すること)は乳幼児をもつ母親が,子育ての中で感じるストレスの存在に気づき,個々のストレス状況に適した対処行動を選択し実行するために必要な能力である(堀越・常盤,2018)と述べられている.また,ストレスマネジメントによる帰結として育児に伴うストレスが軽減し,母親の心理的健康の維持・向上が図られ,育児に関する自己効力感の向上に至ることが示されている(堀越・常盤,2018).育児に関する自己効力感に関して,産後4か月の母親を対象に,対処行動Tri-Axial Coping Scale24(以下TAC-24),SOC,育児に対する自己効力感の関係を明らかにした研究(佐藤・石田,2016)がある.TAC-24は3下位尺度(問題焦点型コーピングに該当する「問題解決・サポート希求」,情動焦点型コーピングに該当する「肯定的解釈と気そらし」,回避型コーピングに該当する「問題回避」)から構成され,信頼性と妥当性が検証されている(神村ら,1995森本ら,2011).母親の自己効力感はストレス対処行動のうち「問題解決・サポート希求」や「肯定的解釈と気そらし」とは正の相関があり,「問題回避」とは負の相関があったとの先行研究がある(佐藤・石田,2016).すなわち母親の自己効力感はどのようなストレス対処行動をとるかが関係するといえる.対処行動は段階的に変化するものであり,複合的である(Lazarus & Folkman, 1984/1991)が,TAC-24の3下位尺度を参考に,本研究で明らかになった対処行動を考察すると,《地域のサービスを知り助産師と関わる》,《周囲にいる保育士と関わる》,《子育てをしている周囲の母親の存在を認知し頼る》,《身近な家族に頼りたいときに頼る》,《自分で模索し打開策を見出す》,《育児状況を見越して里帰り期間を調整する》という対処行動は「問題解決・サポート希求」に,《自分が辛くならないよう心の余裕が持てる時間を作る》,《自分の気持ちをコントロールする》は「肯定的解釈と気そらし」に相当すると考える.産後4か月の母親は,周囲からの支援を受け,育児に関する情報収集をしたり,経験のある人のやり方を模倣したり,医療者の助言を参考に試行錯誤しながら自分なりの育児方法を確立していくプロセスをたどることやそのプロセスの中で母親としての自信を得ていくことが明らかとなっている(鈴木・小林,2009).本研究で明らかになった対処行動のうち,「問題解決・サポート希求」や「肯定的解釈と気そらし」に相当する対処行動は母親としての自信を得ていくプロセスに類似しており,母親のウエルネス維持・向上の観点から望ましいストレス対処行動であると考える.また,これらのストレス対処行動により母親の心理的健康の維持・向上が図られ,育児に関する自己効力感の向上につながり,自己効力感の向上により,母親が育児ストレスに直面した際に「問題解決・サポート希求」や「肯定的解釈と気そらし」といった対処行動をとるという好循環を生む可能性がある.

一方で,《母乳哺育継続を断念し人工乳に切り替える》対処行動は,試行錯誤しながら母乳哺育を継続しようと母親自身で「問題解決」の対処行動をとったが,ストレス軽減に至らず,最終的には「問題回避」となった対処行動に相当すると考える.生後6か月間は完全母乳を行い,2歳またはそれ以上まで母乳を与え続けることが推進されている(Unicef, 2005)ことから,この行動は,母児にとってウエルネス維持・向上の観点では望ましい行動とはいえない.もし母親が必要なタイミングでサポートを求め,適切な支援を受けることができていたら,母乳哺育を継続できた可能性はある.母親自身が自らサポートを求める行動をとれるためには,前述したように,母親の問題解決・サポート希求は,自己効力感と正の相関がある(佐藤・石田,2016)ことから,母親自身の自己効力感を高める支援が重要といえる.自己効力感を高める情報源として,「遂行経験」,「代理経験」,「言語的説得」,「身体的・情動的反応」があるが,最も重要な源泉は遂行経験である(Bandura, 1977).従って,出産後の母親の育児行動を通して,看護者が育児行動を認め,母親の自己効力感を高める支援が重要だと考える.さらに,母子と関わる医療者には,産後1か月以降に母親自身が育児ストレスを抱いた際に,支援を受けることができる方法を育児ストレスの内容と併せて具体的に情報提供することが求められる.

Ⅴ. 本研究の限界と今後の課題

研究参加者の選定は一地域の健康福祉センターから便宜的に選定しており,地域性が結果に影響していることは否定できない.また,産後4か月時点で,産後1か月以降から産後4か月に至るまでの育児ストレスを参加者に振り返ってもらいインタビューを行っているため,想起による記憶の曖昧さを含んでいる可能性はある.また,対象は虐待や抑うつのリスク因子を持つ母親を含んでいないため,リスクを持つ母親にあてはまる結果とはいえない.今後の課題として,参加者の特性や家族関係,サポート状況等を含め,育児ストレスに関連する要因を含めた分析を行うことが必要となる.

Ⅵ. 結論

核家族世帯の母親は産後1か月から4か月までの期間に【母乳育児に対する苦悩】,【子どものペースに合わせることへの負担】,【2人の子どもと関わる中で生じる戸惑い】,【1人で育児を抱え込む気負い】という育児ストレスを抱いていた.これらの育児ストレスに対し,母親は【周囲の頼れる存在を認知し自ら関わり頼る】,【母親自身で対応し自己完結する】という対処行動をとっていた.

付記:本稿は,金沢大学大学院医薬保健学総合研究科に提出した修士論文に加筆・修正を加えたものである.

謝辞:研究にご協力いただきましたお母様方および健康福祉センターのスタッフの皆様に心より感謝申し上げます.本研究はJSPS科研費(課題番号:18K10460,研究代表者:鏡真美)の助成を得て遂行した研究の一部である.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:HSは研究の構想およびデータ収集・分析および解釈,草稿の作成を行った.NKは研究の構想およびデザインの決定,データ分析および解釈,論文作成まで,研究全体のプロセスに責任者として貢献した.YOおよびYMは研究のデータ分析および解釈,原稿への示唆および作成に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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