日本看護科学会誌
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原著
乳幼児をもつがんサバイバーである母親ががん診断後に抱える困難
中山 貴美子鳩野 洋子合田 加代子草野 恵美子
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2020 年 40 巻 p. 279-289

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Abstract

目的:本研究では,乳幼児をもつがんサバイバーである母親ががん診断後に抱える困難を明らかにすることを目的とした.

方法:出産後にがんの診断を受け,乳幼児期の子どもを育てることを経験した母親5名を対象に半構成的面接を実施した.データは,質的に分析した.

結果:【子どもを残して死ぬ恐怖があり,生きる希望が持てない】【不確かで長い治療がつらい】【治療と子育ての両立にせっぱつまる】【無理をせざるをえず,その人にとってのあたりまえの生活ができない】【がんを受容しきれずにもどかしい】【がんにより子どもと家族を巻き込むことがつらい】【頼れる資源や情報が不足している】【経験者に出会えずにつらさを共有できない】【治療と生活が重なる経済的負担がある】という9つのカテゴリーが抽出された.

結論:母親は,子どもと共に生きる希望がもてず,治療と子育ての両立にせっぱつまる等の困難を抱えていた.母親には,治療と子育ての両立支援や母親同士の支え合いが重要と示唆された.

Translated Abstract

Purpose: The purpose of this study was to analyze the difficulties experienced bymothers with infants who survived cancer. In this study, mothers who survived cancer were diagnosed while raising infants and had completed the primary treatment.

Methods: The study was conducted with five mothers who were diagnosed with cancer after childbirth, and survived the disease after completing primary treatment and whilst raising their infants. Data were gathered through semi-structured interviews and analyzed qualitatively.

Results: The following nine categories were determined: (1) loss of hope caused by fear of dying and leaving their children, (2) uncertainty and long-term treatment is painful, (3) difficulty balancing treatment and parenting, (4) loss of a normal life for that person, (5) frustration and inability to accept cancer, (6) difficulty involving children and family due to cancer, (7) lack of reliable resources and information, (8) the inability to share their pain without meeting experienced person, and (9) the economic burden where treatment and life overlap.

Conclusion: Mothers, who survived cancer while raising infants, saw no hope of living to see their child grow up, and experienced difficulties such as coordinating treatment and parenting. Therefore, greater childcare support for these mothers is needed. The study suggested the importance of forming networks between mothers who survived cancer to enable mutual support and manage their situations better.

Ⅰ. はじめに

日本で1年間に新たに発生するがん患者は,年間約86万人であり(国立がんセンター,2015),そのうち,18歳未満の子どものいるがん患者の数は56,143人,またその子どもたちの数は87,017人と推計されている(国立がんセンター,2015).がん対策基本法(2007年)施行後の,第3期「がん対策推進基本計画」では,がんとの共生が施策化され,ライフステージに応じたがん対策の必要性が示されている(厚生労働省,2019).

がんサバイバーとは,がんが治癒した人だけを意味するのではなく,がんと診断された直後から,治療中の人,また,その家族,介護者を含めて定義されている(全米がんサバイバーシップ連合,1984).このようにがんサバイバーは,がん体験者であり,がんを抱えて生き抜く人を言う.がんと診断された人の5年相対生存率は,男女計で60%を超えている(国立がんセンター,2019).がん罹患者は,がん患者としてではなく,がんを抱えて生き抜く人,つまりがんサバイバーとして捉えることが重要になっている.

子どものいるがん患者の中でも,とりわけ乳幼児をもつがん患者は,育児負担の大きい時期の子育てとがん治療の両立において困難を抱えている.乳児の生存には,母親からの母性的世話がなければならず,母性への依存によって初めて,子どもは成長することができる(岡堂,1983).乳児期の母子関係は,共生的で相補的な依存関係であり,このような関係をとおしてのみ,子どもの成長と発達が促される(岡堂,1983).また,乳幼児をもつ親は,親子関係を形成し,親としての役割を自覚し,家族全体の生活行動を拡大させて対処していく時期(吉田ら,2012)となり,乳幼児をもつ親は様々な課題を抱える.がんの療養経過においては,病状の進行に伴ってさまざまな身体的変化を生じ,そのつど患者は遠からぬ死を意識し,精神的な危機状態に陥ることがある(難波,2016).このようにがんと診断された乳幼児をもつ親は,子育てやがん治療において,愛着や親役割等との葛藤を抱えることになる.

一方,親の苦悩は,子どもに対して負の影響を長く与えうる(Kenneth & Miller, 2010/2012).学童期の小児および青年では,親のがんによって情緒的問題やストレス反応症状が多い(Huizinga et al., 2011)ことが明らかになっている.

これまでがんと診断されたがんサバイバーである親の困難に関連する国内の研究は,未成年の子どもを持つ壮年期女性の抱く挫折感(近藤・佐藤,2011)や乳がん患者の子どもへの思い(橋爪ら,2016),がんになった親(18歳未満の子どもをもつ)の困難に関する文献検討(阿部ら,2017)などが報告されているが乳幼児をもつ母親に特化した研究はみられない.海外では,がんになった母親(Inhestern & Bergelt, 2018)や乳がんの母親(Stiffler et al., 2008),16歳未満の子どもをもつがんの母親(Semple & McCance, 2010a)の研究がなされ,母親が患者と母親としての二重の役割で引き裂かれ(Helseth & Ulfsaet, 2005),子どもたちに対する恐れと懸念を経験している(Muriel et al., 2012)こと等が明らかになっている.また,幼い子どもをもつがんの親の経験の文献研究では,良い親であることと自宅で日常を維持すること,子どもたちにがんを伝えることが親の懸念になっていた(Semple & McCance, 2010b).しかし,乳幼児をもつ母親に焦点を当て,実証的に明らかにした研究は少なく,乳幼児をもつがんサバイバーの母親の子育てやがん治療を継続するうえでの困難は十分に明らかになっているとは言えない.

そこで,乳幼児をもつがんサバイバーである母親の困難を明らかにすることは,特にパワーレスに陥りやすい乳幼児をもつ母親が,がんと診断された後に経験する子育てやがん治療,生活上の困難を具体化し,がん診断後の母親と家族への支援のあり方を検討する上で意義があると考え,本研究を行った.

Ⅱ. 目的

本研究の目的は,乳幼児をもつがんサバイバーである母親ががん診断後に抱える困難を明らかにすることである.

Ⅲ. 研究方法

1. 研究デザイン

本研究は,乳幼児をもつがんサバイバーである母親の経験を,母親の置かれた社会的,文化的,歴史的な文脈から明らかにするために(田垣,2008),質的記述的研究デザインとした.

2. 用語の定義

乳幼児をもつがんサバイバーである母親:乳幼児を育てる中で,がんと診断されて,初期治療を終えて生活している母親を指す.

困難:がんの治療をしながら子育てや生活をするうえで体験する困り事とした.

3. 研究対象

参加者の基本属性は,表1に示した.参加者は,乳幼児をもつがんサバイバーである母親5名であった.参加者は,子どもをもつがん患者のコミュニティサービスを運営する一般社団法人キャンサーペアレンツに研究協力ならびに参加の呼びかけを依頼し,研究への同意を得た応募者の紹介を22名受けた.協力依頼の際の対象者の条件は,現在がんの診断を受けて乳幼児期の子どもを育てている母親もしくは過去に,がんの診断を受けて乳幼児期の子どもを育てた経験のある母親とした.また,がんの種類は問わないが,がんの診断から6か月以上経過しており,日常生活を普通に過ごせる程度に体調や精神状態が安定している方とした.がんの診断直後(6か月未満)やがんターミナル期で在宅療養をされている方等は,負担が大きいと考え除外した.参加者は,医療・社会サービスの均一性の担保と,面接の効率性,研究実施期間の限界の観点から,関西圏域居住者5名に限定した.

表1  対象者の特徴
事例 年齢 職業 家族構成 がん種 ステージ 子どもの年齢(がん診断時) がん診断からの年月 受けた治療 転移・再発
A* 40代 会社員 配偶者と子供2人 甲状腺がん
乳がん
I
I→III
1カ月・6歳 6年8か月 手術・抗がん剤・放射線・ホルモン治療
B 40代 パート 配偶者と子供3人 乳がん IIIc 1歳10カ月・3歳・7歳 6年8カ月 手術・抗がん剤・放射線
C 30代 配偶者と子供2人 皮膚がん IIIb 3歳・10歳 1年10カ月 手術・インターフェロン
D 30代 配偶者と子供1人 乳がん IIb 2歳8か月 2年9か月 手術・抗がん剤・放射線・ホルモン療法
E 40代 会社員 配偶者と子供2人 乳がん IIa 4歳・8歳 9カ月 手術・抗がん剤・ホルモン治療

* 甲状腺がん治療後に,乳がんを診断された.乳がんが再発し,ステージがIからIIIになった.

がん種は,甲状腺がん・乳がん1名,乳がん3名,皮膚がん1名で,がんのステージは,IからIIIbまでであり,うち1名は再発されていた.年齢は,30歳代が2名,40歳代が3名で,子どもの数は,1人から3人であった.母親ががんと診断された時の乳幼児の子どもの年齢は,生後1か月から4歳で,4名は兄弟も育てていた.治療内容は,全員ががんの摘出手術を受け,そのうち4名は抗がん剤による化学療法を受けていた.4名は,現在も継続治療中であり,術後ホルモン治療とインターフェロン治療を受けていた.がんの診断から現在までの年数は,9か月から6年8か月であった.家族構成は,全員が配偶者と子どもであった.対象者は,職業の有無や子どもの年齢や数等異なる状況がみられたが,乳幼児をもつがんサバイバーである母親である点が共通していることから,すべて分析対象とした.

4. 研究方法

研究方法は,半構成的面接を実施した.面接は,参加者の希望に応じて,自宅や研究室等の個室において,各2回行った.平均時間は78.9分(50分~108分)であった.研究期間は,2018年4月から2019年3月であった.調査内容は,「がんを持ちながら子育てや生活をする上での困難は何か」であった.面接は,インタビューの質を担保するために,研究代表者がすべて実施した.2名の母親は,子供と同伴で面接を行った.面接では,出産や自覚症状の出現,がんの診断から現在までの生活における「がんに伴う当事者自身の困難」「がんを抱えて子育てする上での困難」「がんを抱えて家族と共に生活する上での困難」「周囲の環境や関係に伴う困難」と「属性」から構成されるインタビューガイドを用いた.面接内容は,対象者の了解を得てICレコーダーで録音した.

5. 分析方法

分析は,質的に行った.録音した面接内容を逐語録としデータとした.逐語録の内容を,できる限り語りの内容や言葉に忠実に,意味を読み取れる範囲で抽出し,そのうち「困難」を表している部分を抽出し,コードとした.次に,コードの内容を他のコードと比較検討し,意味の類似する内容をまとめてサブカテゴリーとした.さらに,サブカテゴリーの相違点や類似点を比較検討して,カテゴリーを生成した.分析にあたっては,明解性を確保するために,全過程において共同研究者と質的研究に精通した研究者と共に討議した.

6. 倫理的配慮

本研究は,神戸大学大学院保健学研究科保健学倫理委員会の承認(2018年11月14日承認番号779)を得て,その内容を遵守して実施した.

倫理的配慮として,参加者には,研究の目的や方法,研究参加による利益と不利益,参加の自由,同意撤回の自由,プライバシーの保護についての説明を口頭と文書で説明した.同意は,確認の上に,同意書にサインを得た.面接時は,参加者の体調や子どもの様子を確認し,無理のないように配慮した.

Ⅳ. 研究結果

乳幼児をもつがんサバイバーである母親ががん診断後に抱える困難を抽出した結果,9つのカテゴリーが抽出された(表2-1表2-2).以下に,サブカテゴリーは「 」,コードは『 』で説明する.インタビューの語りの内容は斜字体で示す.

表2-1  乳幼児をもつがんサバイバーである母親ががん診断後に抱える困難カテゴリー
カテゴリー サブカテゴリー コード
子どもを残して死ぬ恐怖があり,生きる希望が持てない 転移と再発の恐怖がつきまとう 病気が治るかどうかわからない
転移が不安で病気につきまとわれて病気に人生を支配されているような感じ
がんの再発への不安がある
転移の宣告が怖いから,検査結果を聞きに行くのは怖い
がんの再発により死の恐怖を感じる
子どもを残して死ぬ恐怖がある がんであっても母親として子どもの成長を見守る使命がある
命の期限をつきつけられて生活する
近い将来に自分がこの世からいなくなるという不安がある
子どもの将来に母親がいないのはかわいそうに思う
子どもの成長を見届けられないことへの不安がある
子どもと共に生きる希望が持てない 子どもを育てながらがんを抱えて生きていく未来の想像がつかない
小さい子どもを残して死ぬことを考えて希望がない
がん診断時に,希望が一番欲しい
がん診断時に,希望を持てるような人が周りにいなかった
不確かで長い治療がつらい 長い治療と副作用がつらい 初期治療後も子育てと調整しながらの継続治療が長期間必要である
複数の初期治療が継続することにより大変になる
抗がん剤治療による身体面の不調がある
手術後に身体面のつらさがある
がんの継続治療によって日常生活で疲れやすい
治療による精神的な不調
副作用による身体状態の悪化
見通しがつかない中での治療の選択をせまられる 病状の判明や転院等治療に関する事が次々と起こる状況
がんの診断後すぐに治療の選択をせまられる
治療の選択の困難さがある
治療の流れが想像つかない
医療への不信感をもつ 主治医への不信感をもつ
がん治療の適切性への不安を持つ
治療と子育ての両立にせっぱつまる 入院準備と養育調整が待ったなしになる 入院までに早急に自己のがん治療の準備に加えて,子どもの世話の調整をせざるをえない
治療中に無理をして育児をする 手術をして退院した後の心身不調の中での家事と子育てが大きな負担になる
治療をしながら無理をして毎日子どもの世話をせざるをえない
自身の治療と体調管理に加えて,授乳をしなければならない
治療よりも子どもが優先になる 自分の治療よりも子どもとその世話が心配になる
子どものことを考えて自己の治療方針を決めざるをえない
子どもが一番大事である
治療と子育てのために自分の時間をとることができない
治療と子どもの世話が両立できない 入院により子どもの世話ができない
通院による抗がん剤治療中に子どもの世話ができない
抗がん剤治療中の子どもの保育園の送迎が負担になる
受診と子育ての調整が大変である 子どもと生活と仕事と調整して受診しなければならない
自身の通院時に,子どもの世話をしてくれる人とその調整が必要である
自身の通院時に子どもをつれて受診しなればならない
子どもをつれて,待ち時間をどうするかが課題
診察時間が長く保育園の迎えに間に合わない
がんに加えて育児が重なり精神的につらい がんの診断を受けたことによる絶望感がある
がんの診断直後もショックを押し隠して育児を行わなければならない
がん罹患と子育てにより精神的なつらさを感じる
子どもを思いつらさを吐き出せない 子どもがいるために日常生活で負の感情を出すことができない
がんの診断直後も子どもがいるためにつらさを吐き出せない
自分の気持ちに蓋をして無理をする
子どものことを考えて家で泣けない
自分の死を考えて子どもに残すものをせまられる 死を考えて子どもに残す言葉が必要になる
自分が死ぬことを考えたら,思い出しか残せない
表2-2  乳幼児をもつがんサバイバーである母親ががん診断後に抱える困難カテゴリー
カテゴリー サブカテゴリー コード
無理をせざるをえず,その人にとってのあたりまえの生活ができない 診断前のような生活ができずにつらい がん治療と家事と育児と仕事で大変である
病気と治療の為に日常生活に戻れない
初期治療後に普通の生活にもどれないことへのあせりがある
治療と子育てで生活に楽しみがない
がん治療により気持ちと生活に余裕がなくなる
子育て優先で体調管理が後回しになる 仕事と子育てで自己の体調管理ができない
生涯体調に気をつけなければならない辛さがある
術後に家事が十分できないことにより体調が悪化する
仕事に支障がでる 抗がん剤治療のために仕事をやめた
がん治療と仕事の調整が必要である
がんによる休職や離職への不安がある
がんになったことで再就職に支障がある
がんを受容しきれずにもどかしい 周囲からの疎外感を感じる 治療や副作用について周囲の人にわかってもらえない
がんに対する周囲の人々の反応に傷つく
がんを伝えることにより,周囲の人を心配させるのではないか
周囲の人に気を使われたくない
がん受容へのわだかまりをもつ がんがないのにがん患者であることのもどかしさ
自分ががんであることを公表することに抵抗がある
会社の中でがんであることを話せない
周囲の人にがんのことを話せない
女性としての不全感をもつ 手術をしているので,夫に見られたくない
リスクを考えて第2子をあきらめたことがつらい
性役割を果たす気持ちになれない
同病者との葛藤をもつ 同病者とのつきあいに葛藤を持つ
がんにより子どもと家族を巻き込むことがつらい 子どもをつらい気持ちにさせてしまう 母親のがん罹患による子どもへの悪影響を懸念する
がんの告知や母親の入院によって乳幼児の兄弟が心理的な負担をおう
母親の入院により子どもが寂しさを感じる
子どもが母親の病気に不安をもつ
母親の入院により子どもに精神的な反応がでる
がんにより子どもに愛情を注げずにつらい 病気によって子どもの世話が十分にできないことによる申し訳なさを持つ
がんの罹患により子どもにつらくあたる
がんの罹患により子どもを甘えさせられないつらさ
乳幼児の兄弟にかける愛情が後回しになる
家族が疲れる がん治療に伴い様々なことが生じることで,夫と父母が疲弊する
妻のがん罹患で夫に負担がかかる
妻のがん罹患で負担がかかる夫への気遣いが必要になる
がん治療に伴う夫の対応に不満がある
子どもを傷つけないがん告知に悩む 子どもに適したがんの告知について悩む
子どもの状況に応じたがん告知を考える余裕がない
がんを周囲の人々に告知することによって,子どもが傷つくことの不安がある
母親のがんの告知による子どもの動揺を心配する
頼れる資源や情報が不足している 治療と子育ての両立のために頼れる資源が足りない 治療時に子育てを支援する社会資源がない
治療時に,親や親族からのサポートが得られない
入院時に子どもに一人で授乳をしなければならない
適切な情報が不足する 治療に必要な情報が不足する
利用できる社会資源を知らない
あふれる情報にふりまわされる
経験者に出会えずにつらさを共有できない 自分に合う患者会がない 子育て中のがん患者に合う患者会がない
同じ病気をもつ集まりに行きたいが条件があわない
気持ちを出す場や機会がない がん診断後に気持ちを出す場や機会がない
子育て中のがんの人に話してわかってもらいたい
同じ経験のある人に出会えない 子育てしながらがん治療をしている人との出会いを渇望したが出会えなかった
同じがん種の人に出会えない
治療と生活が重なる経済的負担がある 生活費と養育費,治療費が招く経済的負担がある がんでも生活費を稼ぐ必要がある
子どもの養育費と将来の教育費が必要である
医療費が負担になる
自身の通院のために子どもの保育費用が負担になる

1. 子どもを残して死ぬ恐怖があり,生きる希望が持てない

母親は,『病気が治るかどうかわからない』『がんの再発により死の恐怖を感じる』など,「転移と再発の恐怖がつきまとう」を抱えていた.また,『命の期限をつきつけられて生活する』ようになり,『近い将来に自分がこの世からいなくなるという不安がある』など,「子どもを残して死ぬ恐怖がある」状況であった.

やっぱり子どもがいない自分ががんになるのと,子どもがいてのがんになるのは,たぶんすごく違うんですよね.大きく違う.心残りがすごく,全然違う.残す心配とか,子どもたちの成長をみられなかった心残りとか,見られなかったらどうしようっていうのがあるから,子どもたちを育てていくのに(E).

母親は,『小さい子どもを残して死ぬことを考えて希望がない』状態に追い込まれ,また,『がん診断時に,希望が一番欲しい』が,『がん診断時に,希望を持てるような人が周りにいなかった』ために,「子どもと共に生きる希望が持てない」ようになっていた.

小さい子どもがいる中で,(がんと診断されることは)打ちのめされるというか,足元をすくわれるっていいますかね.そういう感じがあった.(がん診断後は)家事援助も助かったけど,やっぱり精神的に希望とか,希望が一番欲しかったかな,わかったときは.悪い情報しか頭に入ってこないし,ほんとにこのまま死んじゃったらどうなるのかなとか思って(A).

2. 不確かで長い治療がつらい

『複数の初期治療が継続することにより大変になる』状況であり,『初期治療後も子育てと調整しながらの継続治療が長期間必要である』.『抗がん剤治療による身体面の不調がある』や『治療による精神的な不調』など,「長い治療と副作用がつらい」状況であった.これらは,『がんの診断後すぐに治療の選択をせまられる』『病状の判明や転院等治療に関する事が次々と起こる状況』等,「見通しがつかない中での治療の選択をせまられる」ものであった.『主治医への不信感をもつ』と『がん治療の適切性への不安を持つ』など,「医療への不信感をもつ」ものであった.

抗がん剤治療最初の1週間はちょっと,どうしても体が痛くって.痛いし,だるいしで,ちょっと(子どもの)相手がしにくい時が多かったんで,最初の1週間の3日間くらいは託児所に預けてましたね.あとは,放射線を受けるのに,部屋に一緒に入れないじゃないですか.そういうときも,託児所に預けて(D).

3. 治療と子育ての両立のせっぱつまる

母親は,『入院までに早急に自己のがん治療の準備に加えて,子どもの世話の調整をせざるをえない』状況になり,「入院準備と養育調整が待ったなしになる」状況であった.母親は,抗がん剤治療中であっても『治療をしながら無理をして毎日子どもの世話をせざるを得ない』や『手術をして退院した後の心身不調の中での家事と子育てが大きな負担になる』など休めない状況であり,「治療中に無理をして育児をする」状況であった.

手術後は,手術したその日の夜には何とか動いて,搾乳を一人でするみたいな.それこそ,何のヘルプもなくて.その病院で相談したんですけど,「そんな何もできません」って.で,看護師やっている友達とかに聞いて,(入院前に)搾乳器借りといて,首も曲がらない状態で授乳してっていう.どうやってやったんやろうって,今思うと(A).

母親は,『子どもが一番大事である』『子どものことを考えて自己の治療方針を決めざるをえない』など「治療よりも子どもが優先になる」状況であった.母親は,『入院により子どもの世話ができない』『抗がん剤治療中の子どもの保育園の送迎が負担になる』など,「治療と子どもの世話が両立できない」状況であった.また,『子どもと生活と仕事と調整して受診しなければならない』や『自身の通院時に子どもをつれて受診しなければならない』など,「受診と子育ての調整が大変である」状況であった.

手術とか抗がん剤の導入で入院して,子どもをたった1人で実家に預けたという罪悪感がすごいあったんで,さらに副作用で子どもを預けて,かわいそうなことをしたなあっていう,すごい罪悪感でつらかったですね.体もすごいつらかったですけど,精神的にほんとうにあのときは,ほんまに泣きましたね(D).

母親は,『がんの診断を受けたことによる絶望感がある』にもかかわらず,『がんの診断直後もショックを押し隠して育児を行わなければならない』という,「がんに加えて育児が重なり精神的につらい」状況であった.しかも,『子どもがいるために日常生活で負の感情を出すことができない』『自分の気持ちに蓋をして無理をする』など,「子どもを思いつらさを吐き出せない」状況であった.さらに,『死を考えて子どもに残す言葉が必要になる』など,「自分の死を考えて子どもに残すものをせまられる」ようになっていた.

病院に,(がんの診断の)結果を聞きに行った日は,時間が遅かったので,母に来てもらって家で子どもをみてもらっていた.(がんの診断を受けて),歩いて帰る間にちょっと(気持ちを)落ち着かせて,帰って.母も帰らないといけないので.それでもやっぱり(子どもがいるので)家に帰って泣くわけにもいかなかった(A).

4. 無理をせざるをえず,その人にとってのあたりまえの生活ができない

母親は,『がん治療と家事と育児と仕事で大変である』,『病気と治療の為に日常生活に戻れない』『がん治療により気持ちと生活に余裕がなくなる』など,「診断前のような生活ができずにつらい」状況であった.また,『術後に家事が十分できないことにより体調が悪化する』や『仕事と子育てで自己の体調管理ができない』など,「子育て優先で体調管理が後回しになる」.さらに,『抗がん剤治療のために仕事をやめた』『がん治療と仕事の調整が必要である』など,がん治療によって「仕事に支障がでる」状況を抱えていた.

子育て中だと,子どもの時間に合わせないといけないし,働いていたら,仕事をしながら,自分の体調を見ながら,病院の時間やらっていうのは,大変さがすごい.全然違う.すごい大変だと思うんです.ほんとうにちっちゃい子どもがいて,がんになるって.子どもの心のケアもしなきゃいけないし(E).

5. がんを受容しきれずにもどかしい

母親は,『治療や副作用について周囲の人にわかってもらえない』『がんに対する周囲の人々の反応に傷つく』など,「周囲からの疎外感を感じる」状況であった.『自分ががんであることを公表することに抵抗がある』『会社の中でがんであることを話せない』など,「がん受容へのわだかまりをもつ」状況であった.

結局,会社に行っても,それで日常が取り戻せたんだけど,みんなとは違う自分みたいな.みんな普通に健康に過ごしている人と,病気抱えて,再発の不安とかもありながら,治療も決して終わったわけではなく,全然過去のことではない.周りの人にしたら,その話に触れない方がいいと思っているから触れないと思うんですけど,うっかり話したら,逆に傷つくみたいなこともあったりとかして(A).

母親は,『(夫に対して)性役割を果たす気持ちになれない』『リスクを考えて第2子をあきらめたことがつらい』と,「女性としての不全感をもつ」状況であった.また,同じがんであっても抗がん剤治療をした人としていない人との違いを感じるなど『同病者とのつきあいに葛藤を持つ』と,「同病者との葛藤をもつ」状況であった.

(抗がん剤治療が終わって)最近(月経が)再開して,選択を迫られて,でも,やっぱり家族単位で考えたときのリスクを考えると,やめとこうかってことになりまして,第2子はもうけずにって.それがすごく自分の中でつらかったんですよね.つらい気持ちをしてる人の話を聞きたかったけど,どこにも聞けなかった(D).

6. がんにより子どもと家族を巻き込むことがつらい

『母親のがん罹患による子どもへの悪影響を懸念する』一方で『子どもが母親の病気に不安をもつ』など,「子どもをつらい気持ちにさせてしまう」状況であった.母親は,『がんの罹患により子どもを甘えさせられないつらさ』や『病気によって子どもの世話が十分にできないことによる申し訳なさを持つ』など,「がんにより子どもに愛情を注げずにつらい」状況であった.『がん治療に伴い様々なことが生じることで,家族が疲弊する』『妻のがん罹患で夫に負担がかかる』など,「家族が疲れる」状況であった.

母親は,『子どもに適したがんの告知について悩む』『母親のがんの告知による子どもの動揺を心配する』など「子どもを傷つけないがん告知に悩む」状況であった.

(がん診断後)上の子に,何かつらくあたって,申し訳なかった.下の子は,あまり甘えさせることができなかった.真ん中の子は,「ママ死んじゃうの」って,言うし.すごいつらかった.習い事の送迎がすごいしんどかった.できないことも多くて,(子どもには)ごめんねって感じ(B).

7. 頼れる資源や情報が不足している

『治療時に子育てを支援する社会資源がない』『がん診断後に気持ちを出す場や機会がない』など,「治療と子育ての両立のために頼れる資源が足りない」状況がみられた.『治療に必要な情報が不足する』『あふれる情報にふりまわされる』等,「適切な情報が不足する」状況であった.

例えば放射線で,病院の中で子どもを預かってもらうんだったら30分ぐらいですむんだけど,外の託児所に預けようと思ったら,1時間半で,お金が結構かかる.MRIとかCT撮るときとかは,やっぱり一緒に入れないから預けるっていうのがすごく,経済的にも,預けにいく手間もあって,病院の中に託児所があればいいのになって,ほんまに思いました.あとは,「治療と子育てと両立するにはこういう知恵があります」みたいなのを,教えてもらえたらよかった(D).

8. 経験者に出会えずにつらさを共有できない

母親は,『子育て中のがん患者に合う患者会がない』『同じ病気をもつ集まりに行きたいが条件があわない』と,「自分に合う患者会がない」状況であった.また,『がん診断後に気持ちを出す場や機会がない』『子育て中のがんの人に話してわかってもらいたい』と,「気持ちを出す場や機会がない」状況であった.さらに,母親は,『子育てしながらがん治療をしている人との出会いを渇望したが出会えなかった』『同じがん種の人に出会えない』など,「同じ経験のある人に出会えない」状況があった.

子どもを育てながらがんの治療をしている人にあまり出会わなかった.自分が,子育てしながらがんの治療をしている人の情報を渇望していたけれども得られなかった,探せばあったのかもしれないけど,治療中はとても気力がなくって,自分では探そうという気にもならなかった.もし身近に,目に入るところにそんな情報があったらよかったのになとは思います(D).

9. 治療と生活が重なる経済的負担がある

母親は,『がんでも生活費を稼ぐ必要がある』『子どもの養育費と将来の教育費が必要である』『医療費が負担になる』など,「生活費と養育費,治療費が招く経済的負担がある」状況であった.

私も生活費を稼がないとだめなんで,体がほんとうに無理ってなるまでは働こうと思ってます.もし転移とかしたら,これからお金もどんどんかかっていく.子どもの教育費もかかる(E).

Ⅴ. 考察

1. 乳幼児をもつがんサバイバーである母親ががん診断後に抱える困難

乳幼児をもつがんサバイバーである母親は,『治療をしながら無理をして毎日子どもの世話をせざるをえない』状況で,【治療と子育ての両立にせっぱつまる】状況になっていた.乳幼児をもつ母親の場合,特に,『入院までに早急に自己のがん治療の準備に加えて,子どもの世話の調整をせざるをえない』という状況になり,患者としての役割と乳幼児の母親としての役割が過重に,しかもがん診断後突然に,入院までの短期間のうちに求められることで,せっぱつまるほどの過酷な状況に置かれていると考える.がんサバイバーである母親は,“普通ではない”経験に遭遇し,すぐに“2つの世界の間にいる”ことに苦労し始めたのは,病気が発症する前に普通だったものを維持することであり,もう一つは病気に直面していたこと(Ohlen & Holm, 2006)といわれている.つまり,がん診断直後の乳幼児をもつがんサバイバーである母親は,急激にその人にとってのあたりまえではない状況に放り込まれ,患者としての役割と,乳幼児の生命や日常生活を維持する母親としての役割という二つの世界のことを短期間に果たさなくてはならないという困難に直面していたと考える.二つの世界の間にいる苦労は,退院後や通院での抗がん剤治療中も続く.母親は,『手術をして退院した後の心身不調の中での家事と子育てが大きな負担になる』『通院による抗がん剤治療中に子どもの世話ができない』と語っている.子どもの世話をしている人々にとって,疼痛,疲労,全身倦怠感などのがんの身体的影響は,親としての役割を果たすことを制限する(Fisher & O’Connor, 2012)といわれている.このように,乳幼児をもつがんサバイバーである母親は,退院後や抗がん剤治療中は,特に心身の不調によって,家事や乳幼児の世話ができないという困難を抱えると考える.

二つの世界の間にいる苦労は,初期治療の終了後も長く継続する.がん患者は治療を継続しながらも仕事や日常生活を送らなければならず,これまで担ってきた母親役割を思うように遂行できなくなったことに悩む(牧野ら,2017)ことが明らかになっている.この悩みの存在は,本研究において母親が「診断前のような生活ができずにつらい」状況を抱えて,【無理をせざるをえず,その人にとってのあたりまえの生活ができない】原因の一つと考えられる.しかも,母親は,『初期治療後も子育てと調整しながらの継続治療が長期間必要である』ことから,【不確かで長い治療がつらい】と語っていたように,その人にとってのあたりまえの生活を送れない母親役割の葛藤と,不確かで長い治療がつらいという患者としての苦労の両方を,長期間に渡って抱えていたと考える.

乳幼児をもつ母親は,「子どもを残して死ぬ恐怖がある」ために,「子どもと共に生きる希望がもてない」という乳幼児を持つ母親に特有の困難な状況を抱えていた.がんの診断は,子どものいない若い乳がんサバイバーと比較して,子どものいるサバイバーの方がより心理的苦痛を引き起こす(Wan et al., 2018).ましてや,乳幼児は,生命と人間として存在する基盤を親の育児に委ねている(渡辺,2016)ことを考えると,母親の衝撃は大きい.がんサバイバーの多くの人はがんが再発するのではないかという懸念を抱き続け,将来が全く確かでないと思い続ける(Lee-Jones et al., 1997).本研究においても,母親は「転移と再発の恐怖がつきまとう」との語りがみられた.また,『がん診断時に,希望が一番ほしい』と言うように,乳幼児を育てながら生きていけるという希望を渇望していたと考える.つまり,母親は,がんの診断のショックに加えて,自分ががんと診断され再発して死ぬことで,【子どもを残して死ぬ恐怖があり,生きる希望が持てない】という現実にうちのめされていると考える.

乳幼児をもつ母親は,がんサバイバーとして【がんを受容しきれずにもどかしい】思いを抱えていた.病気になること,それも生命に関わる状態になることは,人にさまざまなネガティブな感情を呼び起こし,その思いは,自らの存在や生き続ける意味さえ否定してしまうような,いわゆるスピリチュアルペインとして,がんサバイバー自身をいっそう苦しめることになる(近藤,2015)といわれている.母親は,がんに罹患したことによって「周囲からの疎外感」や「がん受容へのわだかまり」「同病者との葛藤」など,がんサバイバーとしての苦しみを抱えていると考える.また,乳幼児をもつ母親は,【がんにより子どもと家族を巻き込むことがつらい】と感じていた.母親である自分ががんに罹患したことによって,「子どもをつらい気持ちにさせてしまう」「がんにより子どもに愛情を注げずにつらい」と,子どもに負担をかけてしまうことと母親役割を果たせない葛藤を抱えていると考える.さらに,「子どもを傷つけないがん告知に悩む」状況は,先行研究における子どもたちにがんを伝えることが親の懸念になっていた(Semple & McCance, 2010b)こととも一致するように,親ががんに罹患したことで生じる困難と考える.

先行研究では,子どもをもつという共通の環境にあるがん患者同士が語り合う機会をもったことで,母親としての悩みを互いに共有し,情緒的・情報的サポートの場として活かされた(牧野ら,2017)ことが明らかになっている.しかし,本研究では,母親が「気持ちを出す場や機会がない」「同じ経験のある人に出会えない」と語るように,【経験者に出会えずにつらさを共有できない】ことにより,母親と患者としての苦労が重なるつらさを共有できないという困難を抱えていたと考える.しかも,母親が,『子育てしながらがん治療をしている人との出会いを渇望したが出会えなかった』と語るように,母親はつらい精神状態のまま放置され,がんをもつ母親として孤独な状況を増長させていたと考える.

さらに,乳幼児をもつ母親は,「治療と子育ての両立のために頼れる資源が足りない」など,【頼れる資源や情報が不足している】にも関わらず,自分と家族で孤軍奮闘せざるをえないと考えられた.がんサバイバーの研究では,仲間に支えられていないこと(Wan et al., 2018)や子育てに関連した事項についての医療提供者からの支援が満たされていない(Semple & McCance, 2010a)との報告があり,本研究と一致する.母親は,入院時に乳児に授乳をすることのサポート等,医療従事者から子育てに関連する支援が得られずに困難を抱えていた.本研究の対象者は,全員が配偶者と子どものみであり,協力者が少ない現状があり,治療と子育てを両立するための一時保育などの子育て支援サービスを受けられないという課題を抱えていたと考える.本研究の対象者の居住地は比較的都市部であり,医療体制は充実していると思われるが,乳幼児をもつがんサバイバーである母親に合う資源は不足している現状があると考える.また,母親には「生活費と養育費,治療費が招く経済的負担がある」.これは,母親が乳幼児をもつことから,受診時の乳幼児の一時保育等の費用負担があることも要因であり,【治療と生活が重なる経済的負担がある】ことにより,経済的な困難を抱えていると考える.

2. 乳幼児をもつがんサバイバーである母親への支援の示唆

乳幼児をもつがんサバイバーである母親は,【不確かで長い治療がつらい】と感じ,【子どもを残して死ぬ恐怖があり,生きる希望が持てない】状況に置かれていた.子どもをもつがんサバイバーである母親は,母性に伴うストレス要因が生活上で経験する困難を悪化させる可能性があるため,特に脆弱な集団と考えられている(Connell et al., 2006).看護職は,子どもをもつがんサバイバーである母親,その中でも,乳幼児をもつ母親は,乳幼児の子育てと治療の両立や生きる希望がもてない精神的な危機状況に陥ることから,支援が必要な対象であることを意識して関わることが重要と考える.

乳幼児をもつがんサバイバーである母親は,がん診断後に,【治療と子育ての両立にせっぱつまる】状況がみられた.特に,受診・診断・入院・初期治療までの子どもを持つ母親の入院準備期間と抗がん剤治療などの初期治療時における治療と子育て・生活の両立の過酷さが顕著であった.今後,病院と行政,関係機関が連携し,早急に子どもを持つがんサバイバーへの診断後から初期治療時の子育て支援を含めたサポート体制の充実が必要と考える.本研究において母親は,がん患者と母親という二重の役割をもつことによる困難を抱えていた.がんサバイバーは,医療従事者に対して,がん患者と同じように母親として認識されていないと感じており,子どもたちの幸福と家庭生活の安定に対する責任は軽視されている(Fisher & O’Connor, 2012).医療従事者は,がん診断時から,がんサバイバーに,子どもがいるかどうかやがん患者としてのみならず,母親としての心配事についても確認して,具体的にサポートをしていくことが必要と考える.

また,【治療と生活が重なる経済的負担がある】ことも語られており,乳幼児をもつがんサバイバーへの経済的な支援も必要と考える.母親は,「子どもを傷つけないがん告知に悩む」状況がみられた.母親には,子どもに自分のがんについて何を,いつ,どのように伝えるべきかについて援助を提供されること,医療従事者はこのコミュニケーションを母親としての役割に組み込むことを助けるべき(Fisher & O’Connor, 2012)といわれている.乳幼児をもつがんサバイバーである母親には,子どもへのがん告知に対する支援も重要と考える.

さらに,仲間からの支援は重要(Ni et al., 2011)との報告にあるように,医療従事者から母親への直接的な支援のみでなく,乳幼児をもつがんサバイバーである母親同士で支え合える仕組みを医療従事者等が構築することも必要と考えた.子育て世代のがんサバイバーが,同じ境遇の人と出会い,支え合える関係性を構築していけるようなしくみや場を,身近な場所につくることが必要と考える.子育て世代のがんサバイバーは,様々な体験的知識(久保・石川,1998)と同病者への深い共感を持っていることから,経験者同士で支え合い,また乳幼児の子どもを育てながら生きているがんサバイバーである母親と診断直後の新しいがんサバイバーが出会い,双方の支援につながるような,ピアサポーター育成や子育て世代のがんサバイバーのネットワークづくりも重要と考える.

3. 本研究の限界と課題

本研究は,乳幼児をもつがんサバイバーである母親のがん診断後に抱える困難を明らかにし,がん診断後における支援のあり方について実践への示唆を得た点で意義がある.

本研究は,対象が一地域に限定された5名の母親の語りをデータにしており,データがその地域の医療や母子保健サービスの影響を受けたことは否めないため,一般化には限界がある.今後は,対象地域や対象数を増やすことで,検討していく必要がある.また,今回の対象者は乳がん経験者が多く,さらにがん診断からの年月が幅広いこと,再発患者が1名含まれていること,がんの種類や子どもの年齢や数,職業の有無等状況が異なる対象者をすべて分析していることの限界がある.今後は,研究対象者の特徴を含めた検討が必要と考える.

謝辞:最後に本研究にご参加いただいた皆様・ご家族様,一般社団法人キャンサーペアレンツの皆様に心より感謝申し上げます.また,ご指導をいただきました大阪府立大学田垣正晋先生に感謝申し上げます.なお,本研究は,公益法人がん研究振興財団第50回がん研究助成により実施しました.本研究で開示すべきCOI状態はございません.

利益相反:本研究における利益相反は存在しません.

著者資格:KNは研究の構想およびデザイン,データ収集・分析,原稿の作成.YH,KG,EKは研究のデザインおよびデータ分析,原稿への示唆および作成.すべての著者は最終原稿を読み,承諾した.

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