日本看護科学会誌
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原著
指導を守らない患者に対する怒りに起因した看護職の「思考の未統合感」と職場で受けた支援との関連
甲斐 貴雅市川 奈央子武村 雪絵國江 慶子木田 亮平松田 美智代竹下 保稔
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2020 年 40 巻 p. 360-368

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Abstract

目的:指導を守らない成人患者に対する怒りを経験した看護職について,思考の未統合感としてその怒りの影響が1週間以上続く状態が,怒りを経験した後に職場で受けた支援と関連するかを明らかにした.

方法:2018年7~10月に全国40施設の看護職2,475人に無記名自記式質問紙法で患者に対する怒りの経験の有無や時期,思考の未統合感,職場で受けた支援を尋ね,思考の未統合感スコアを従属変数とした重回帰分析を実施した.

結果:半数の看護職が指導を守らない患者に対する怒りを経験し,1年以上前の出来事の思考の未統合感を有する看護職もいることがわかった.上司の共感的態度での傾聴や同僚からの助言は思考の未統合感スコアと負の関連が,上司との振り返りは正の関連があった.

結論:指導を守らない患者に対する怒りを経験した看護職の中には思考の未統合感が長期に続く者も存在するが,職場で受けた支援により思考の未統合感を低減できる可能性が示された.

Translated Abstract

Purpose: We aimed to clarify whether nurses’ sense of unintegration of thoughts derived from anger toward adult patients who did not to adhere to guidance and lasted for more than one week was related to support received in the workplace after nurses experience this anger.

Method: A self-administered questionnaire survey was distributed to 2,475 nurses from 40 facilities. Date were collected from July to October 2018. The questionnaire evaluated experiences and timing of anger toward patients, sense of unintegration of thoughts, and support received at the workplace. A multiple regression analysis was conducted to reveal the relationship between the score of the sense of unintegration of thoughts and the support received.

Results: Fifty percent of the nurses experienced anger toward patients who did not adhere to their guidance. A few nurses had a high score on the sense of unintegration of thoughts resulting from anger experienced over a year ago. The nurses’ perception of an empathetic attitude as support from their superiors and colleague’s advice negatively correlated with the sense of unintegration of thoughts. Conversely, reflection with their superiors positively correlated with the sense of unintegration of thoughts.

Conclusion: Nurses may experience anger toward patients who do not adhere to their guidance, and for a few nurses, this could result in extended periods of unintegration of thoughts. However, support in the workplace can help lower nurses’ sense of unintegration of thoughts.

Ⅰ. 緒言

怒りは,「自己もしくは社会への,不当なもしくは故意による(と認知される)物理的もしくは心理的な侵害に対する,自己防衛もしくは社会維持のために喚起された心身の準備状態」と定義される(湯川,2008).近年の研究で,怒りの感情は1週間で鎮静される一時的なものだが(日比野・湯川,2004),「思考の未統合感」として影響が長期間残る場合があると報告されている(遠藤・湯川,2011).思考の未統合感は,「過去の出来事に対し目指すべき方向に解決されていない,受容できない,脅かされると感じること」と定義され(遠藤・湯川,2011),怒りの出来事やそれに付随する情報が自己や心的な概念枠組みと一致しない「認知的統合の欠如」(Davidson et al., 2002)や,状況が自身の意図する方向へ完了されない「未完了感」(Martin & Tesser, 1996)を含む概念である.思考の未統合感がある場合,怒りがおさまり,その出来事自体を日常的には忘れていても,突然,その怒りを再び経験する反すう思考や侵入思考が起きる(遠藤・湯川,2012).反すう思考や侵入思考は抑うつや不安障害と関連するため(遠藤・湯川,2012西川ら,2013Clark, 2005/2006),怒りそのものを回避できない場合も,思考の未統合感として影響が残ることを回避あるいは低減できれば,看護職の精神健康障害リスクを低減できる可能性がある.本研究は,怒りを経験した看護師がその経験を認知的に統合し,「思考の未統合感」として長期に影響が持続する状態を回避・低減するために,職場で提供できる方策を探索することを目指した.

怒りの出来事を肯定的に捉え直す認知的処理は,怒りを抑制する傾向が強いときに弱まることが報告されている(Martin & Dahlen, 2005).そこで,本研究では,抑制傾向が強い怒りとして,看護職が患者に対して抱く怒りに注目した.患者は看護ケアの対象であり顧客であることから,看護職は患者との関わりで否定的な感情を経験しても,職業上ふさわしくない感情として,自分の中で感情を管理し処理する傾向がある(武井,2001).実際に,7割弱の看護職が業務中に患者に対して怒りを経験し,うち約8割が怒りを表出できず抑制していたことが報告されている(畠山ら,2016).話を聞いてもらうことで認知的統合が促されるが(Lepore et al., 2000),患者に対する怒りの経験は表出を抑制される傾向があるため,その出来事を認知的に統合する機会を得にくく,結果的に思考の未統合感として残る可能性が危惧される.

本研究では,看護職が患者に対して行った療養上の指導や教育に反する行動を患者が行った場面で,看護職が患者に対して感じる怒りに着目した.看護職による教育的な関わりは患者の自己管理を促し,慢性疾患の改善につながることが報告されているが(Coster et al., 2018),一方で,教育的関わりで患者の習慣や信念を変えることは難しく(Khatib et al., 2014),看護職の立場からは自らの教育的な関わりが患者の行動変容につながらなかったときに失望する可能性がある.約束が守られない経験は心理的侵害として怒りを喚起することが知られており(阿部・高木,2006),治療や療養上の指導を守らない患者に対して怒りを感じる可能性も否定できない.しかし,治療や療養上の指導を守らない患者に対する怒りを経験した看護職がどの程度いるかや,その怒りが思考の未統合感として影響が残っている看護職がどの程度いるかはわかっていない.

思考の未統合感は,患者に対する怒りを経験した後,その出来事から回避的な行動をとった場合に生じやすく,出来事を意味づけられたときに低減することが報告されている(遠藤・湯川,20112013a).逆に言えば,患者に対する怒りを経験した看護職に対して,その出来事に向き合い,認知的統合を促す支援を職場で提供できれば,思考の未統合感として影響が長期に残ることを回避できる可能性がある.本研究では,職場で提供できる支援として,怒りの経験の共有,共感的態度での傾聴,見方の変容や出来事の意味付けを促す助言,及び,振り返りの支援に着目した.話を聞いてもらうことで認定的統合が促されたり(Lepore et al., 2000),心身への影響が軽減すること(Pennebaker, 1997/2000)や,話を聞く時の共感的態度が認知的統合に違いをもたらすこと(Lepore et al., 2000)が報告されている.さらに,他者の立場から考える「視点取得(Davis, 1994/1999)」は喚起した怒りの適切な制御にも関連することが報告されており(Mohr et al., 2007),他者からの助言や他者との振り返りが視点取得につながり,思考の未統合感を低減する可能性が考えられる.これらから,怒りの経験の共有,共感的態度での傾聴,助言,及び,振り返りを思考の未統合感の回避に役立つ可能性がある支援として取り上げることとした.

本研究は,治療や療養上の指導を守らない成人患者に対する怒りを経験した看護職について,思考の未統合感としてその怒りの影響が1週間以上続く状態が,怒りを経験した後に職場で受けた支援と関連するかを明らかにすることを目的とした.

本研究により,指導を守らない患者に対する怒りの長期的な影響の実態を明らかにして,怒りそのものを回避できない場合もその怒りが思考の未統合感として長期に影響が残ることを回避するために職場で提供できる方策を提案することができる.

Ⅱ. 方法

1. 研究デザイン

質問紙法による横断研究を実施した.

2. 対象者

全国の傾向を反映した標本を得るため,全国地方厚生局の施設基準等の届出受理医療機関名簿(2018年6月8日時点)掲載病院から,本邦全体の比率と同等となるよう,200床以上の病院を3,199床以下の病院を7とする比率で層化無作為抽出し,看護部門責任者宛に依頼文書を送付した.本研究は,治療や療養上の指導が守られないことでの怒りの経験を尋ねるため,治療や療養上の指導を日常的に行っていると思われる,成人の一般病棟を対象とした.そのため,精神科病床が8割以上を占める病院及び小児専門病院は抽出対象から除外した.

対象者は,研究協力を承諾した病院の成人の一般病棟に所属する看護職(看護管理者を除く看護師,助産師,准看護師)全員とした.

3. 調査方法

2018年7月~10月に無記名自記式質問紙法による調査を実施した.研究協力施設に対象となる看護職数を確認した上で質問紙・研究説明文書・返送用封筒一式を送付した.対象者は回答後の質問紙を各自投函し,研究者に返送することとした.

4. 調査内容

1) 患者に対する怒りの経験の有無

「治療や療養上の指導が守られないこと」で患者に対する怒りを経験したことがあるかを尋ねた.その際は,続く設問で怒りが鎮静した後に残る思考の未統合感について尋ねるために,日比野・湯川(2004)遠藤・湯川(2012)の方法に従い,1週間以上前(上限はない)の出来事に限定した.また,怒りの経験割合を比較するために,患者に対する怒りの中で頻度が高いことが報告されている「暴力・暴言」や「頻回なナースコール」(藤谷,2009畠山ら,2016Lu et al., 2007)による怒りの経験の有無も同様の方法で尋ねた.

2) 怒りの強さ

「指導が守られないこと」「暴力・暴言」「頻回なナースコール」で怒りの経験があると回答した場合は,それぞれについて過去に最も強く怒りを感じた出来事を想起してもらい,Verduyn et al.(2009)が当日の想起法で用いた方法を参考に,その出来事が起きた直後の怒りの強さを「1:全く強くない」から「8:とても強い」の8件法で尋ねた.

3) 思考の未統合感

「指導が守られないこと」「暴力・暴言」「頻回なナースコール」で想起した出来事に起因する調査時点の思考の未統合感を測定するため,遠藤・湯川(2012)が開発した「思考の未統合感尺度」を原作者の許可を得て使用した.この尺度は「この出来事は,私をおびやかしている」「この出来事を受け入れられない」などの5項目で構成され,「1:全く当てはまらない」,「2:あまり当てはまらない」,「3:どちらともいえない」,「4:よく当てはまる」,「5:非常によく当てはまる」 の5件法で尋ね,5項目の平均点を思考の未統合感の程度を表す指標とする.

4) 指導を守らない患者に対する怒りの時期と表出の有無

指導を守らない患者に対する怒りを経験したことがある対象者には,想起した出来事について,過去の研究(遠藤・湯川,2012)での分布を参考に,怒りを経験した時期を「1~2週間前」「2~3週間前」「3週間前~1ヶ月前」「1ヶ月以上前」「1年以上前」の選択肢で尋ねた.また,同一患者が指導を守らない行動や態度を繰り返したことによる怒りかを尋ねるために,「この出来事において,この患者が同じような行動や態度を繰り返すことにより,怒りが引き起こされたか」を「はい」「いいえ」で尋ねた.その出来事が起きたときに患者に対して怒りを表出したかは,表出する,表出しない(Kitayama et al., 2015)に加えて,態度や言動に出ることも報告されているため(阿部・高木,2006冠崎ら,2009),「表出した」「我慢して態度や言葉に出さなかった(以下,我慢した)」「我慢しようとしたが態度や言動に出てしまった(以下,態度や言動に出てしまった)」の3つの選択肢を作成した.

5) 指導を守らない患者に対する怒りを感じた後に職場で受けた支援

本研究では思考の未統合感の回避に役立つ可能性がある支援として,怒りの経験の共有,共感的態度での傾聴,助言,振り返りの4つを取り上げた.設問は単項目の自作尺度とし,想起した出来事の後,同僚・上司それぞれについて,「すぐに話せたか(以下,共有)」,「共感的な態度で聞いてもらえたか(以下,共感的態度での傾聴)」,「この患者との関わりに対し,あなたが納得できるアドバイスをもらえたか(以下,助言)」,「この患者との関わりを後日,ともに振り返る機会はあったか(以下,振り返り)」を尋ねた.共有と振り返りは有無を尋ね,共感的態度での傾聴と助言は「1:全くない」から「4:非常に」の4件法で尋ねた.

6) 個人特性・施設特性

年齢,性別,現在の役職,経験年数,所属施設の病床数などを尋ねた.

5. 分析方法

指導を守らない患者に対する怒りの経験の有無,及び思考の未統合感スコアの分布を確認した後,職場で受けた支援の8変数を独立変数,指導を守らない患者に対する怒りに起因した思考の未統合感スコアを従属変数とした重回帰分析を行った.ただし,思考の未統合感スコアは,全項目「全く当てはまらない」と回答したことを示す1.0点が半数以上を占めるなど左に偏った分布であったため対数変換した.また,個人属性,組織特性,怒りの特性に関する各変数のうち,思考の未統合感との関連を否定できない変数は交絡要因となりうるため制御変数として投入した.Katz(2006/2008)は,交絡因子とみなす単純な基準はなく,抑制効果を念頭に広めに投入することが安全であり,多くの研究者がアウトカムとの関連のp値が0.2未満もしくは0.25未満で関連する変数をモデルに投入していると述べている.このことを参考に本研究では,思考の未統合感スコアと2変量解析(Spearmanの順位相関係数,Kruskal-Wallisの検定またはMann-WhitneyのU検定)でp値が0.2未満であった変数を選択した.ただし,独立変数間及び制御変数間の相関係数が0.6以上の場合は多重共線性を避けるため,思考の未統合感との関連を検証した際のp値が高い方を除外した.なお,多重共線性については分散拡大係数(Variance Inflation Factor: VIF)が2.0以下であることを確認した.解析にはIBM SPSS statistic Version 25 for Mac OSXを用い,制御変数を選択する際は前述の通りp値が0.2未満の場合とし,独立変数と従属変数の関連を検証する際はp値が0.05未満の場合を有意な関連があるとみなした.

6. 倫理的配慮

東京大学大学院医学系研究科・医学部倫理委員会の承認を受け(審査番号:12049),看護部門責任者に研究説明文書を用いて調査の目的と方法,調査への参加は任意であることを説明し,看護部門責任者が研究協力に承諾した施設において調査を実施した.全ての参加者には研究説明文書を用いて調査の目的と方法,調査への参加は任意であることを説明し,心理的な負担を除くため,調査票は直接研究者に返送することとした.また,質問紙の冒頭で研究参加に「同意する」と回答した者のみを分析対象とした.調査は施設名を含めて匿名で実施し,情報保護に努め,協力施設や参加者が特定されないよう配慮した.

Ⅲ. 結果

1. 対象者の概要

225施設に研究協力を依頼し,応諾した40施設2475人に質問紙を配布し,971人(回収率39.2%)より回答を得た.研究参加への同意が未記入または同意しないと回答した53人と対象外の5人を除外した913人(有効回答率36.9%)を分析対象とした.対象者は平均38.7 ± 11.2歳,経験年数は平均14.7 ± 10.8年であった.対象者の90.4%は看護師であった(表1).

表1  対象者の基本属性及び怒りの経験
n 平均±標準偏差(%)
年齢 899 38.7 ± 11.2
経験年数 899 14.7 ± 10.8
性別
男性 67 (7.4)
女性 843 (92.6)
配偶者の有無
あり 503 (55.3)
なし 406 (44.7)
最終学歴
准看護師学校 48 (5.5)
看護学校・短期大学 645 (73.4)
4年制大学以上 186 (21.2)
職種
看護師 825 (91.4)
准看護師 57 (6.3)
助産師 21 (2.3)
職位
主任・副看護師長 146 (16.1)
職位なし 759 (83.9)
所属部署
内科 295 (32.9)
外科 191 (21.3)
混合科 167 (18.6)
回復期リハビリ 79 (8.8)
その他 166 (18.5)
精神科での勤務経験
あり 83 (9.1)
なし 827 (90.9)
所属施設の病床数
199床以下 307 (34.3)
200床~499床 336 (37.5)
500床以上 253 (28.2)
患者に対する怒りの経験あり
指導が守られないことでの怒り 491 (53.8)
暴言・暴力による怒り 739 (80.9)
頻回なナースコールによる怒り 717 (78.5)
怒りの強さ
指導が守られないことでの怒り 491 4.8 ± 1.7
暴言・暴力による怒り 739 5.7 ± 1.8
頻回なナースコールによる怒り 717 5.0 ± 1.7
思考の未統合感
スコア
n 1.0
(%)
2.0以下(%) 3.0以下(%) 4.0以下(%) 5.0以下(%)
指導が守られないことでの怒り 490 (58.2) (18.6) (17.1) (3.8) (2.2)
暴言・暴力による怒り 736 (51.4) (20.3) (18.2) (7.1) (3.1)
頻回なナースコールによる怒り 710 (59.2) (21.9) (13.1) (3.8) (1.7)

怒りの経験がある場合,想起した出来事の直後の怒りの強さを「1:全く強くない」から「8:とても強い」の8段階で尋ねた.

「思考の未統合感尺度(遠藤・湯川,2012)」5項目の平均得点[範囲:1.0~5.0]

2. 指導を守らない患者に対する怒りの経験と思考の未統合感

表1のとおり,指導が守られないことでの怒りを経験したことがある看護職は53.8%で,最も強く怒りを感じた出来事を想起してもらい,そのときの怒りの強さを1から8で回答してもらったところ,平均4.8 ± 1.7であった.暴力・暴言及び頻回なナースコールによる怒りを経験したのはそれぞれ8割で,怒りの強さは暴言・暴力が平均5.7 ± 1.8,頻回なナースコールが平均5.0 ± 1.7であった.

指導が守られないことで最も強く怒りを感じた出来事についての思考の未統合感スコアは,最小値1.0点が58.2%を占めた一方で,4.0点を超える者が2.2%存在した.暴力・暴言及び頻回なナースコールによる怒りについても最小値1.0点が5~6割を占めた一方で,4.0点を超える者が2~3%存在した.

表2のとおり,指導を守らない患者に対して最も強く怒りを感じた出来事は,1ヶ月未満が244人と半数以上を占めたが,1年以上前の出来事を想起した者も108人存在し,その中には思考の未統合感スコアが5.0点の者もいた.患者に怒りを表出せず我慢した者が265人と半数以上を占めた.その出来事をすぐに上司に話した者が278人(56.9%),同僚に話した者が422人(86.3%)であった.

表2  指導を守らない患者に対する怒りに起因した「思考の未統合感」と各変数の2変量解析
n 思考の未統合感スコアaとの相関分析 思考の未統合感スコアaの差の検定‡§
Spearmanのρ(ロー) p 平均±標準偏差 [最小~最大] p 多重比較
個人属性
年齢 481 .063 .17
経験年数 482 .064 .16
職種
看護師 452 1.6 ± 0.9 [1.0~5.0] .48
准看護師 19 1.5 ± 0.7 [1.0~3.0]
助産師 14 1.4 ± 0.8 [1.0~3.4]
最終学歴
准看護師学校 21 1.6 ± 0.9 [1.0~3.0] .02 大卒以上
>看護学校
看護学校・短期大学 333 1.7 ± 0.9 [1.0~5.0]
4年制大学以上 126 1.4 ± 0.8 [1.0~4.8]
職位
スタッフ 396 1.7 ± 0.9 [1.0~5.0] .04§
主任・副師長等 88 1.4 ± 0.8 [1.0~4.4]
精神科での勤務経験
あり 34 1.6 ± 1.1 [1.0~5.0] .30§
なし 455 1.6 ± 0.9 [1.0~5.0]
性別
男性 39 1.7 ± 1.1 [1.0~5.0] .81§
女性 450 1.6 ± 0.9 [1.0~5.0]
配偶者の有無
あり 205 1.6 ± 0.9 [1.0~4.8] .55§
なし 284 1.7 ± 1.0 [1.0~5.0]
組織特性
所属施設の病床数
199床以下 139 1.6 ± 0.9 [1.0~5.0] .01 200~499床
>500床
200~499床 177 1.8 ± 1.0 [1.0~5.0]
500床以上 167 1.5 ± 0.8 [1.0~5.0]
所属部署
内科 138 1.7 ± 1.0 [1.0~5.0] .91
外科 119 1.6 ± 0.9 [1.0~5.0]
混合科 88 1.6 ± 1.0 [1.0~5.0]
回復期リハビリ 49 1.5 ± 0.7 [1.0~3.0]
その他 88 1.6 ± 0.8 [1.0~4.0]
怒りの特性
怒りの強さb 474 .244 <.001
怒りを経験した時期
1週間前~2週間前 87 1.8 ± 1.0 [1.0~5.0] .14
2週間前~3週間前 52 1.7 ± 1.0 [1.0~5.0]
3週間前~1ヶ月前 105 1.7 ± 1.0 [1.0~5.0]
1ヶ月以上前~1年未満 90 1.6 ± 0.8 [1.0~4.2]
1年以上前 108 1.5 ± 0.8 [1.0~5.0]
同じ行動や態度の繰り返しによる怒り
いいえ 116 1.3 ± 0.6 [1.0~3.0] <.001§
はい 324 1.7 ± 1.0 [1.0~5.0]
患者への怒りの表出
表出した 30 1.4 ± 0.7 [1.0~3.0] .33
態度や言動に出てしまった 149 1.7 ± 0.9 [1.0~5.0]
我慢した 265 1.6 ± 0.9 [1.0~5.0]
職場で受けた支援
上司との共有
なし 188 1.7 ± 1.0 [1.0~5.0] .99§
あり 278 1.6 ± 0.9 [1.0~5.0]
同僚との共有
なし 48 1.8 ± 1.1 [1.0~4.2] .64§
あり 422 1.6 ± 0.9 [1.0~5.0]
上司の共感的態度での傾聴c 457 –.016 .74
同僚の共感的態度での傾聴c 468 –.009 .84
上司からの助言d 456 –.011 .81
同僚からの助言d 468 –.066 .15
上司との振り返り
なし 328 1.6 ± 1.0 [1.0~5.0] .46§
あり 138 1.6 ± 0.9 [1.0~4.4]
同僚との振り返り
なし 233 1.6 ± 0.9 [1.0~5.0] .99§
あり 237 1.6 ± 0.9 [1.0~5.0]

欠損値があるデータは分析ごとに除外した.

Spearmanの順位相関係数を算出した.

Kruskal-Wallisの検定を実施した.p < .05で有意差があった場合はDunn-Bonferroni法で多重比較した.

§ Mann-WhitneyのU検定を実施した.

a 「思考の未統合感尺度(遠藤・湯川,2012)」5項目の平均得点

b 怒りの強さは「1:全く強くない」から「8:とても強い」の8段階で尋ねた.

c 「この出来事を上司(同僚)に共感的な態度で聞いてもらえましたか」と尋ね,「全くない」=1,「多少」=2,「かなり」=3,「非常に」=4とした.上司は平均2.3 ± 1.0,同僚は平均3.1 ± 0.8であった.

d 「この患者とのかかわりに対し,あなたが納得できるアドバイスを上司(同僚)からもらえましたか」と尋ね,「全くない」=1,「多少」=2,「かなり」=3,「非常に」=4とした.上司は平均2.0 ± 0.9,同僚は平均2.3 ± 0.9であった.

3. 指導を守らない患者に対する怒りを経験した看護職における,職場で受けた支援と思考の未統合感との関連

職場で受ける支援8変数間の相関を確認したところ,「上司との共有」「上司の共感的態度での傾聴」「上司からの助言」の3変数間,及び「上司からの助言」と「同僚からの助言」の相関係数が0.6を超えていた.思考の未統合感スコアとの2変量解析でp値が相対的に高かった「上司との共有」と「上司からの助言」を独立変数から除外した.個人属性,組織特性,怒りの特性の中で思考の未統合感スコアとの2変量解析でp値が0.2未満であった変数は,年齢,経験年数,最終学歴,職位,所属施設の病床数,怒りの強さ,怒りを経験した時期,同じ行動・態度の繰り返しによる怒りであった.年齢と経験年数の相関係数が0.6を超えたため,思考の未統合感スコアとの2変量解析でp値が相対的に高かった年齢を制御変数から除外した.

表3は,対数変換した思考の未統合感スコアを従属変数とし,職場で受けた支援6変数を独立変数,上記により選択した変数を制御変数として投入した重回帰分析の結果である.「上司の共感的態度での傾聴」と「同僚からの助言」は思考の未統合感と有意な負の関連が,「上司との振り返り」は正の関連があった.ただし,職場で受ける支援6変数の投入による決定係数変化量は3%とわずかであった.

表3  指導を守らない患者に対する怒りに起因した「思考の未統合感」を従属変数とした重回帰分析 (n = 391)
標準化
係数
p VIF
制御変数a
同僚との共有b .01 .90 1.27
上司の共感的態度での傾聴c –.12 .05 1.88
同僚の共感的態度での傾聴c .09 .18 1.82
同僚からの助言d –.17 <.01 1.62
上司との振り返りe .14 .03 1.78
同僚との振り返りe –.02 .78 1.60
調整済みR2 .15
職場で受ける支援投入によるR2変化量 .03 .03

分散拡大係数(Variance Inflation Factor)

「思考の未統合感尺度(遠藤・湯川,2012)」スコアは左に偏った分布であったため対数変換した.

a 制御変数として,経験年数,最終学歴(大卒=1,他=0),職位(副師長等=1,スタッフ=0),所属施設の病床数(200~499床=1,他=0),怒りの強さ(1~8),怒りの経験時期(1~5),同じ行動・態度の繰り返しによる怒り(はい=1,いいえ=0)を同時に投入した.

b 「この出来事をすぐに同僚に話せましたか」と尋ね,「はい」=1,「いいえ」=0とした.

c 「この出来事を上司(同僚)に共感的な態度で聞いてもらえましたか」と尋ね,「全くない」=1,「多少」=2,「かなり」=3,「非常に」=4とした.

d 「この患者との関わりに対し,あなたが納得できるアドバイスを同僚からもらえましたか」と尋ね,「全くない」=1,「多少」=2,「かなり」=3,「非常に」=4とした.

e 「この患者との関わりを後日,上司(同僚)と振り返る機会はありましたか」と尋ね,「はい」=1,「いいえ」=0とした.

Ⅳ. 考察

1. 指導を守らない患者に対する怒りと思考の未統合感

本研究により,暴力・暴言や頻回なナースコールと比べると割合は少ないが,半数以上の看護職が過去に指導を守らない患者に対して怒りを感じる経験していることが明らかになった.その出来事が思考の未統合感としてどの程度影響しているかを確認したところ,最低点(1.0点)の看護職が6割を占める一方で,4.0点を超える高いスコアの看護職も2%存在した.怒りを経験して時間が経過するほど思考の未統合感スコアが低い傾向があり,時間の経過により認知的統合が進むと考えられる.しかし,1年以上前の出来事の思考の未統合感スコアが最高点(5.0点)の者もおり,長期に強い影響が続く者も存在することがわかった.思考の未統合感による反すう思考や侵入思考は抑うつや不安障害と関連するため(遠藤・湯川,2012西川ら,2013Clark, 2005/2006),なんらかの対策が必要だと考えられる.

2. 指導を守らない患者に対する怒りを経験した後で職場で受けた支援と思考の未統合感の関連

本研究により,怒りを経験した後に上司に共感的な態度で話を聞いてもらうことと思考の未統合感に有意な関連が示された.ストレスを感じた事象について共感的に他者に話を聞いてもらった場合,認知的な統合が促され,侵入思考が有意に少なくなることが報告されており(Lepore et al., 2000),上司が共感的態度で話を聞くことが怒りを感じた看護職の認知的統合を促し,思考の未統合感の回避や低減につながったと考えられる.また,同僚から納得できる助言を得た場合も思考の未統合感と有意な負の関連が示された.出来事を意味付けることで思考の未統合感が低減することが報告されており(遠藤・湯川,2013a),同僚からの助言が出来事の意味付けを促す支援として機能した可能性が考えられる.一方で,上司と患者との関わりを振り返った経験は思考の未統合感と正の関連があった.三木ら(2011)は患者から暴力を受けた看護職への看護管理者の対応には二次被害を生むものがあると指摘している.聞き手の拒絶的反応を感じると話し手は思考が未整理な混沌状態になることがわかっており(遠藤・湯川,2013b),看護管理者が支援として振り返りを行っても,看護職は自身の感情や経験を否定されたように感じ,それが思考の未統合感を高めることなった可能性もある.しかしながら,本研究で扱った職場で受けた支援が思考の未統合感に与える影響は限定的であり,思考の未統合の回避や低減に有効な方策がないか,引き続き探索する必要がある.

3. 本研究の限界

第一に,本研究のテーマに関心がある看護職が調査に多く参加した可能性があり,怒りを経験した者や思考の未統合感を有する者が多く含まれた可能性がある.第二に,本研究では本人の認識を尋ねており,実際の支援を調査したものではない.過去の出来事やその時の怒りの強さ,職場で受けた支援は記憶が不正確で,正しく測定できていない可能性がある.また,職場で受けた支援は自作の単項目尺度であり,支援の程度を正しく測定できていない可能性がある.第三に,暴言・暴力や頻回なナースコールによる患者に対する怒りを経験した後に職場で受けた支援は調査しておらず,これらに起因した思考の未統合感の回避や低減に本研究の結果を適用できるかはわからない.第四に,横断研究であるため因果関係については言及できない.

4. 実践への示唆

前述の限界はあるが,本研究は一般病棟に所属する看護職の半数が治療や療養上の指導を守らない患者に対する怒りを経験していること,また,職場で受ける支援によって,その怒りによる思考の未統合感を低減できる可能性を示した.看護管理者は,指導を守らない患者がいる場合,看護職がそのことで怒りの感情を経験することも少なくないことを念頭に,振り返りとしてではなく,共感的態度で看護職の話を聞くことが望まれる.また,思考の未統合感が長期に残る看護職が存在することに留意して,精神健康状態を観察することが望まれる.

Ⅴ. 結論

本研究の結果,一般病棟で働く看護職の半数が治療や療養上の指導を守らない患者に対する怒りを過去に経験し,思考の未統合感としてその影響が長期に続く看護職も存在するが,職場で受けた支援により思考の未統合感を低減できる可能性が示された.

謝辞:本研究にご協力くださいました調査参加者の皆様,研究協力施設関係者の皆様に深く御礼申し上げます.また,温かいご助言を賜りました,東京大学 真田弘美教授に心より感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:TK,NI,YTakem,MM,YTakesが研究を着想;TK,NI,YTakem,KKがデザインを設計;TKがデータの入手;TK,NI,YTakemが統計解析の実施;TK,NI,YTakem,KK,RK,MM,YTakesが分析結果の解釈;TK,NI,YTakemが原稿を作成.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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