日本看護科学会誌
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原著
新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動尺度の開発
卯川 久美細田 泰子
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2020 年 40 巻 p. 386-395

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Abstract

目的:新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動尺度の信頼性と妥当性を検討する.

方法:尺度原案を用いて,新人看護師1,377名を対象に質問紙調査を実施した.項目分析,探索的因子分析,確認的因子分析,外的基準との相関,Cronbach’s α係数,再テスト法により信頼性と妥当性を検討した.

結果:341名を分析対象とした.探索的因子分析の結果,【看護技術習熟行動】【人間関係構築行動】【積極的学習行動】【他者からのフィードバック探索行動】の4因子20項目が抽出された.確認的因子分析の適合度指標はGFI = .902,AGFI = .874,CFI = .908,RMSEA = .062であった.Cronbach’s α係数は.73~.82であった.プロアクティブ行動尺度との相関係数は.49,看護師の職務満足度尺度とは.38であった.再テスト法の相関係数は.60~.67であった.

結論:新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動尺度の信頼性と妥当性は検証された.

Translated Abstract

Aim: This study aimed to evaluate the reliability and validity of a Scale of Proactive Behaviors in Organizational Socialization of New Graduate Nurses.

Method: A questionnaire survey was conducted with 1,377 new graduate nurses using a draft scale. The validity and reliability of the scale was examined through analyses of items, exploratory factor analysis, confirmatory factor analysis, correlation with external criteria, Cronbach’s α coefficient, and the test-retest method.

Results: Data obtained from 341 participants were analyzed. An exploratory factor analysis revealed four factors and 20 items. The four factors were “behavior to master nursing skills,” “human relationship forming behavior,” “active learning behavior,” and “behavior exploring feedback from others.” A confirmatory factor analysis revealed that the fitness index was GFI = .902, AGFI = .874, CFI = .908, and RMSEA = .062. The Cronbach’s α coefficient for the subscales ranged from .73 to .82. The correlation coefficient of the Scale of Proactive Behaviors in Organizational Socialization of New Graduate Nurses with the Proactive Socialization Tactics was .49, and that with the Occupational Satisfaction of Hospital Nurses scale was .38. In the test-retest method, the correlation coefficient for the subscale ranged from .60 to .67.

Conclusion: The reliability and validity of the Scale of Proactive Behaviors in Organizational Socialization of New Graduate Nurses were verified.

Ⅰ. 緒言

新人看護師は新しい組織に入職し,その組織に必要な行動様式や職務遂行に必要な専門的知識を習得し,組織への社会化を図るためにさまざまな学習をしながら,リアリティショックなどの課題を克服して,組織に適応していくことが望まれる.そのような学習を支援する取り組みの一つとして,2010年より新人看護職員研修が努力義務化され,新人看護職員を全職員が協力して皆で育てるという組織文化の醸成が重要であるという理念のもとに(厚生労働省,2014),多くの施設で新人看護職員研修のプログラムが整備されてきている.組織における社会化,すなわち組織社会化の二次的成果としては,一般的満足(Feldman, 1976),相互受容,職務関与,動機づけ(Wanous, 1980),組織コミットメント,職務満足(Haueter et al., 2003),適応感(Ostroff & Kozlowski, 1992)などがあるとされている.離職は組織コミットメントの指標の一つであるが,2018年度の新卒看護職員の離職率は7.8%であり,ここ数年はほぼ横ばいの傾向が続いている(日本看護協会,2020).

組織社会化とは,新しく組織に参入した個人が「組織成員としての役割を果たすのに必要な社会的知識・技術を学習するプロセス」(Van Maanen & Schein,1979)であるといわれている.中原(2012)は,組織社会化は「個人の学習」を内包し,組織が期待する役割・職務・業務を実行できるようになることや,組織に適応することが可能になることを目的とする,「時系列的変化」を理論的射程に含むプロセス概念であることを指摘している.したがって,組織社会化とは職場適応に向けて,認識や行動を変化させる過程であるといえる.

組織社会化研究の流れのなかで,主として新規参入者(newcomer)を対象に発展してきた概念としてプロアクティブ行動がある.小川(2012)は,プロアクティブ行動を「組織内の役割を引き受けるのに必要な社会的知識や技術を獲得しようとする個人の主体的な行動全般」と定義しているが,さまざまな方向からアプローチされており定まった定義はない(Crant, 2000).Ashford & Black(1996)は,Master of Business Administration(MBA)を修了した新規参入者への調査をもとに項目を作成し,さまざまな組織に勤務する新規参入者を対象に,個人がとるプロアクティブ行動を測定する尺度を開発し,情報探索行動,フィードバック探索行動,一般的社会化,ネットワーク構築,上司との関係構築,職務転換交渉,肯定的認知枠組みの7つに整理した.また,プロアクティブ行動は職務満足と理論的な関連が明らかにされており(Ashford & Black, 1996Wanberg & Kammeyer-Mueller, 2000),組織社会化過程における社会化学習に影響し,職場適応に至るというモデルが提唱されている(Ashforth et al., 2007).

学習の成立について,外的条件だけでなく,学習への学習者の積極的な参加という内的条件が重要であるといわれている(伏見,2010).したがって,新人看護師にとってより良い学習の成立を支援し,円滑な組織適応を促進するためには,新人看護職員研修などの組織側からの支援とともに,新人看護師自身がプロアクティブ行動をとることが大切であると考える.新人看護師が自己のプロアクティブ行動を具体的かつ客観的に把握するためには,自己のプロアクティブ行動を測定する尺度が必要である.新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動尺度を開発することは,組織にとっても新人看護師がプロアクティブ行動を十分に発揮できるような支援を検討することが可能になると考える.

新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動尺度の開発にあたり,まず,近畿圏にある病床数200床以上の4つの病院に勤務する新人看護師を対象にインタビュー調査を実施し,質的帰納的に分析した(卯川・細田,2019).その結果,[情報探索行動][関係確立行動][肯定的態度形成行動][習熟促進行動]の4つの大カテゴリーが抽出された.次に,新人看護師の教育経験があり,修士以上の学位をもつ看護教育学を専門とする研究者5名を対象に専門家会議を実施し,インタビュー調査で抽出されたサブカテゴリー68項目をもとに,尺度項目の表面妥当性と内容妥当性を検討した.その結果,尺度項目は68項目から60項目となった.次に,新人看護師の教育経験があり,修士以上の学位をもつ臨床経験5年以上の看護師3名および看護教育学を専門とする研究者3名の計6名を対象に,尺度の内容妥当性を検討する質問紙調査を実施し,内容妥当性指数(Item-level Content Validity Index: I-CVI)を算出した.その結果,I-CVIが.78以上(Polit et al., 2007)を示した44項目を尺度項目として採択した(Ukawa & Hosoda, 2019).そこで,本研究では作成した尺度(原案)の信頼性・妥当性の検討を行う.

Ⅱ. 用語の定義

1. 新人看護師

免許取得後に初めて就労する看護職員で,就職後1年以内のもの(厚生労働省,2014)とする.

2. 組織社会化

組織の成員が,組織成員としての役割を果たすのに必要な社会的知識・技術を学習するプロセス(Van Maanen & Schein, 1979)とする.

3. プロアクティブ行動

順向的に未知の情報を求め,主体的に他者との関係を構築し,自己の認知をコントロールして適応のための行動選択をすること(卯川,2018)とする.

Ⅲ. 研究方法

1. 対象者

全国病院一覧データから病床数200床以上の病院を無作為に抽出し,協力を得られた病院83施設に勤務する,就職後一部署にとどまっており,社会人経験がない新人看護師1,377名を対象とした.再テスト法は165名を対象とした.

2. 調査方法

選定基準に該当する施設の看護部長に研究協力の承諾を得て,新人看護師を対象に無記名自記式質問紙を配布した.再テスト法は,意向確認はがきで承諾が得られた対象者に,個人識別用パスワードで同一人物の確認を行い実施した.再テスト法は変化の激しい新人看護師の状況を考慮し,第1回調査の3週間後に第2回調査を実施した.すべての調査は郵送法にて無記名で個別に質問紙を回収した.調査期間は2016年11月~2017年3月であった.

3. 調査内容

1) 新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動尺度(原案)

I-CVIにて採択した44項目を尺度項目として使用した.尺度項目の回答は,「1:まったく当てはまらない」「2:あまり当てはまらない」「3:どちらともいえない」「4:やや当てはまる」「5:とてもよく当てはまる」の5段階のリッカートスケールで回答を求めた.

2) プロアクティブ行動尺度

Ashford & Black(1996)が開発した7因子24項目からなるプロアクティブ行動を測定する尺度を小川(2012)が邦訳し,因子分析の結果により,[部門内コミュニケーション][意味形成][部門外とのコミュニケーション][社交行事への参加]の4因子19項目から構成されたものを使用した.尺度の構成概念妥当性,内的整合性は検証されている(小川,2012).各項目に対して5段階のリッカートスケールで測定する.

3) 看護師の職務満足度尺度

Stamps et al.(1978)の尺度をもとに,山下(1995)によって邦訳された看護師の職務満足度尺度を用いた.「専門職としての自律」「看護管理」「人間相互関係」「医師・看護師間の関係」「看護に対する熱意・真剣度」「自己発展」「仕事の保障」の7つの因子25項目からなる.構成概念妥当性,内的整合性は検証されている(Yamashita, 1995).各項目に対して5段階のリッカートスケールで測定する.

4) 個人属性

年齢,性別,配属部署

4. 分析方法

シーリング効果,フロア効果の確認,尖度・歪度,修正済み項目合計相関(Corrected Item-Total Correlation: CITC)により項目分析を行い回答の偏りの有無を確認した.平均値+標準偏差が5以上であればシーリング効果,平均値-標準偏差が1以下をフロア効果とした.また,正規分布の尖度・歪度は±1を超える項目,CITCは.30以下(Polit & Beck, 2017)の項目を除外の目安とした.

構成概念妥当性の検討では,因子を抽出する探索的因子分析と確認的因子分析を行った.探索的因子分析では,項目分析により抽出された項目を用いて,Kaiser-Meyer-Olkinの標本妥当性の測定とBartlettの球面性検定により因子分析に適合していることを確認した.因子数は因子のスクリープロットと回転前の累積寄与率により決定した.主因子法,プロマックス回転により因子分析を行い,因子負荷量.40以上を基準とした.

確認的因子分析では,抽出された因子を潜在変数,それに属する項目を観測変数としてモデルを作成し,共分散構造分析を行った.モデルの適合度指標は,Goodness of Fit Index(GFI),Adjusted Goodness of Fit Index(AGFI),Comparative Fit Index(CFI),Root Mean Square Error of Approximation(RMSEA)を用いた.また,内的整合性の確認のため,新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動尺度全体と各下位尺度のCronbach’s α係数を算出した.

基準関連妥当性の外的基準として,プロアクティブ行動尺度(小川,2012)と看護師の職務満足度尺度(山下,1995)の正規性をKolmogorov-Smirnovの検定で確認後,プロアクティブ行動尺度はPearsonの積率相関係数,看護師の職務満足度尺度はSpearmanの順位相関係数をそれぞれ求めた.

再テスト法により第1回調査と第2回調査(3週間後)の得点の正規性をKolmogorov-Smirnovの検定で確認後,Pearsonの積率相関係数によって安定性を確認した.個人属性は記述統計量を算出した.統計解析にはIBM SPSS Statistics Ver. 24,Amos Ver. 25を使用した.

5. 倫理的配慮

大阪府立大学大学院看護学研究科研究倫理委員会の承認を受け実施した(申請番号:28-47).対象者に書面にて研究の目的と方法,研究協力の自由意思,個人情報の保護とデータ管理などについて説明した.研究の同意は,調査票の返送をもって確認した.尺度の使用にあたり開発者,邦訳者に使用許可を得た.

Ⅳ. 結果

1. 対象者の背景

新人看護師369名(回収率26.8%)から回答が得られた.欠損値のある28名を削除した341名(有効回答率24.8%)を分析対象とした.対象者は,女性が318名(93.3%),男性が23名(6.7%),年齢は平均22.6 ± SD2.8歳であった.勤務場所は病棟が313名(91.8%)で,手術室が16名(4.7%),外来が5名(1.5%),集中治療室や外来病棟兼務等が7名(2.1%)であった.

2. 項目分析

シーリング効果は4.12~5.21の範囲を示し,5以上の項目を除外した.除外した項目は「業務上で不安なことがあれば先輩看護師に聞く」「先輩看護師の看護実践を見る」などの8項目であった.フロア効果を示した項目はなかった.尖度は−.89~1.33,歪度は−.85~−.01であり,1項目のみ尖度が1.33と1以上の値を示したため除外した.CITCは.12~.66であったため.30以下(Polit & Beck, 2017)の1項目を除外した.項目間相関は.01~.91の範囲を示し,.80以上であった2項目を除外した.その結果,新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動尺度項目は44項目から32項目となった.

3. 探索的因子分析

項目分析により抽出された32項目を用いて探索的因子分析を実施した.Kaiser-Meyer-Olkinの標本妥当性の測度は.92であり,Bartlettの球面性検定は有意な差(χ2 = 4824.044, df = 496, p < .001)を認めた.因子数4を抽出の基準として,主因子法,プロマックス回転により因子分析を行った.複数の因子に高い負荷量をもつ項目を除外し,.40未満の項目を削除しながら分析を進め,20項目からなる4因子が抽出された.因子間相関は.51~.61の間であった(表1).

表1  新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動尺度の探索的因子分析結果 n = 341
第1因子 第2因子 第3因子 第4因子
第1因子 看護技術習熟行動
37 習熟していない看護技術が行えるように先輩看護師に働きかける .93 –.08 –.11 –.02
35 未経験の看護技術が行えるように先輩看護師に働きかける .83 .03 –.09 –.02
36 未経験の看護技術がいつでも行えるように準備しておく .61 –.03 .03 .15
38 自分自身の看護技術の習得状況を客観的に評価する .56 –.04 .26 –.09
41 自分でできる看護技術に積極的に取り組む .42 .16 .13 .01
第2因子 人間関係構築行動
22 指示されたことを守る –.13 .81 .13 –.15
21 どの先輩看護師にも好意的な行動をとる –.07 .75 –.06 .04
23 誰にでも進んでコミュニケーションをとる .14 .71 –.30 .15
24 職場では社会人としての自覚をもって行動する .06 .67 .05 –.02
第3因子 積極的学習行動
15 看護実践の前にマニュアルで知識の確認をする –.12 .05 .73 .04
13 個人用の業務マニュアルを作成する –.05 –.15 .59 –.00
12 本を用いて必要な情報を得る –.04 –.09 .56 .10
33 事前にわかっている業務の予習をする .21 .01 .52 .02
18 失敗したときは自分で振り返る .08 .19 .48 .02
17 わからないことはそのままにせず調べる .15 .15 .46 –.02
第4因子 他者からのフィードバック探索行動
3 自己学習した内容が臨床で適応可能かどうかを先輩看護師に聞く –.01 .00 –.02 .67
1 自分が行った看護実践についての評価を先輩看護師に求める –.03 –.04 .03 .57
5 学習方法を先輩看護師に聞く .06 –.02 .01 .57
2 失敗したときは先輩看護師と一緒に振り返る機会をもつ –.12 .05 .18 .53
6 自分の業務上の到達状況を先輩看護師に聞く .12 –.01 .05 .51
第1因子 .61 .52 .61
第2因子 .52 .51
第3因子 .54
第4因子

因子抽出法:主因子法 回転法:Kaiser の正規化を伴うプロマックス法

第1因子は「習熟していない看護技術が行えるように先輩看護師に働きかける」などの5項目で構成され,自ら看護技術の習熟を図ろうとする行動であるため【看護技術習熟行動】と命名した.第2因子は「指示されたことを守る」などの4項目から構成され,自ら人間関係を築くための行動であるため【人間関係構築行動】と命名した.第3因子は「看護実践の前にマニュアルで知識の確認をする」などの6項目から構成され,自ら学習を促進するための行動であるため【積極的学習行動】と命名した.第4因子は「自己学習した内容が臨床で適応可能かどうかを先輩看護師に聞く」などの5項目から構成され,自己の行動に対して他者からフィードバックを求める行動であるため【他者からのフィードバック探索行動】と命名した.

4. 確認的因子分析

新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動を二次因子,抽出された4因子を一次因子とする高次因子モデルを作成し,確認的因子分析を実施した.結果に基づき,適合度と修正指数を参考に【積極的学習行動】の項目である「看護実践の前にマニュアルで知識の確認をする」と「個人用の業務マニュアルを作成する」の誤差変数e10とe11の間,「失敗したときは自分で振り返る」と「わからないことはそのままにせず調べる」の誤差変数e14とe15の間にそれぞれ共分散を設定した.結果,適合度指標は,GFI = .902,AGFI = .874,CFI = .908,RMSEA = .062であった(図1).

図1 

新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動尺度の確認的因子分析結果

5. 内的整合性の検討

Cronbach’s α係数は,第1因子が.82,第2因子が.80,第3因子が.76,第4因子が.73で,尺度全体では.88であった.

6. 基準関連妥当性の検討

本尺度とプロアクティブ行動尺度全体のPearsonの積率相関係数は.49(p < .001)を示した.本尺度の【他者からのフィードバック探索行動】とプロアクティブ行動尺度の[部門内コミュニケーション]はr = .55(p < .001)であった.【看護技術習熟行動】とプロアクティブ行動尺度の[部門内コミュニケーション]はr = .51(p < .001)であった(表2).

表2  基準関連妥当性の結果(プロアクティブ行動尺度) n = 341
プロアクティブ行動尺度
尺度全体 部門内
コミュニ
ケーション
意味形成 部門外との
コミュニ
ケーション
社交行事への
参加
新人看護師の組織社会化における
プロアクティブ行動尺度
尺度全体 .49*** .55*** .27*** .27*** .19***
看護技術習熟行動 .46*** .51*** .27*** .26*** .13*
積極的学習行動 .26*** .31*** .17** .09 .09
人間関係構築行動 .33*** .33*** .13* .20*** .26***
他者からのフィードバック探索行動 .49*** .55*** .26*** .30*** .15**

Pearsonの積率相関係数 *** p < .001,** p < .01,* p < .05(両側)

本尺度と看護師の職務満足度尺度全体とのSpearmanの順位相関係数は.38(p < .001)を示し,有意な正の相関を認めた.新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動尺度の【人間関係構築行動】と看護師の職務満足度尺度の[人間相互関係]はr = .38(p < .001)であった.【看護技術習熟行動】と看護師の職務満足度尺度の[専門職としての自律]はr = .32(p < .001)であった(表3).

表3  基準関連妥当性の結果(看護師の職務満足度尺度) n = 341
看護師の職務満足度尺度
尺度全体 専門職としての自律 看護管理 人間相互関係 医師・
看護師間の関係
看護に
対する
熱意・真剣度
自己発展 仕事の保障
新人看護師の
組織社会化における
プロアクティブ
行動尺度
尺度全体 .38*** .32*** .31*** .36*** .25*** .34*** .17** .11*
看護技術習熟行動 .33*** .32*** .27*** .28*** .24*** .27*** .09 .10
積極的学習行動 .32*** .24*** .24*** .29*** .16** .31*** .24*** .11*
人間関係構築行動 .37*** .27*** .30*** .38*** .25*** .28*** .08 .12*
他者からのフィードバック探索行動 .24*** .20*** .20*** .23*** .19*** .21*** .12* .05

Spearmanの順位相関係数 *** p < .001,** p < .01,* p < .05(両側)

7. 安定性の検討

73名(回収率44.2%)から回収し 59名(有効回答率35.8%)を分析対象とした.本尺度の第1回調査と第2回調査のPearsonの積率相関係数は,尺度全体では.85(p < .001)を示し,下位尺度では【看護技術習熟行動】は.66(p < .001),【積極的学習行動】は.67(p < .001),【人間関係構築行動】は.60(p < .001),【他者からのフィードバック探索行動】は.66(p < .001)でいずれも有意な正の相関を認めた(表4).

表4  再テスト法の結果 n = 59
第2回調査
尺度全体 看護技術
習熟行動
積極的
学習行動
人間関係
構築行動
他者からのフィード
バック探索行動
第1回
調査
尺度全体 .85***
看護技術習熟行動 .66***
積極的学習行動 .67***
人間関係構築行動 .60***
他者からのフィードバック探索行動 .66***

Pearsonの積率相関係数 *** p < .001(両側)

Ⅴ. 考察

1. データの適切性

本調査は全国の200床以上の施設を無作為に抽出し,協力が得られた83施設に勤務する新人看護師を対象としていること,および本尺度の得点分布が正規分布に従っていることが確認されたことより,信頼性・妥当性を検討するにあたり,偏りのない適切なデータであると考える.

2. 本尺度の信頼性と妥当性の検討

1) 信頼性の検討

本尺度のCronbach’s α係数は尺度全体では.88,下位尺度が.73から.82であり,内的整合性の判断基準である値(DeVellis, 2017)を上回っているため,内的整合性が確保できたと考える.再テスト法の結果,Pearsonの積率相関係数は下位尺度で.60から.67,尺度全体は.85を示し,有意な正の相関を認めた.一般的に,.40~.70は比較的強い相関があり,.70~1.00は強い相関があるとされている(小塩,2004).したがって,本尺度の安定性は確保されたと考える.下位尺度間の相関係数は比較的強い相関であった.原因として,再テスト法は同じテストを時間をおいて2回実施するので,その間に被検者の特性が変化しないことが前提であるが(村上,2006),新人看護師は夜勤業務に入ったり,日勤業務を一人で行うようになる時期であり,業務に変化があることが原因ではないかと推察された.

2) 妥当性の検討

(1) 構成概念妥当性について

項目分析により12項目を削除した.そのうち最も多かったのはシーリング効果を認めた8項目であった.これらの項目は,新人看護師の多くが該当する項目で,教育システムのなかに組み込まれている行動が含まれていたため,シーリング効果を示した可能性があり,新人看護師が主体的に行動選択しているのではないと考え,削除した.

探索的因子分析では,【看護技術習熟行動】【人間関係構築行動】【積極的学習行動】【他者からのフィードバック探索行動】の4つの因子が抽出された.質的検討を行い,内容妥当性を検討した4つのカテゴリーと同様の因子を抽出することができた.第1因子の【看護技術習熟行動】は,新人看護師が積極的に看護技術を習得しようとするプロアクティブ行動を示していると考えられる.組織社会化の属性として,「組織の規範・価値・行動様式を受け入れる」「職務遂行に必要な技能を習得する」「組織に適応していく過程にある」の3つが示されている(卯川,2016).看護職においては,職務遂行に必要な技能を習得することが重要であり,最もプロアクティビティが発揮されるために第1因子として抽出されたのではないかと推察された.第2因子は【人間関係構築行動】が抽出され,ここで言う人間関係とは主に上司であった.Ashford & Black(1996)が,新規参入者を対象に開発したプロアクティブ行動を測定する尺度に含まれる上司との関係構築に相当すると考えられる.第3因子は【積極的学習行動】で,小川(2012)の[意味形成]に相当する.しかし,日本における組織社会化は初めの集団レベル(すなわち職場)での社会化が,次の組織での社会化につながる(高橋,1994)ため,組織ではなく,配属された部署で必要とされる知識,技術の習得をめざすために必要とされる学習を意味していると考えられた.第4因子の【他者からのフィードバック探索行動】は,Ashford & Black(1996)のフィードバック探索行動の因子に該当する.フィードバック探索行動は,主として上司から仕事に関するフィードバックを探索しているのに比べて,本尺度の【他者からのフィードバック探索行動】は,先輩看護師から学習に関するフィードバックを探索している点において相違があり,新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動尺度の新奇性ともいえるのではないかと考える.

新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動から4つの下位尺度へのすべてのパス係数は.70以上を示し,.1%水準で有意であったことから一定の説明力を有することが示唆された.また,確認的因子分析のモデルの適合度指標は許容範囲内(Schermelleh-Engel et al., 2003)であり,探索的因子分析で抽出された4因子構造が支持されたと考える.

(2) 基準関連妥当性について

2つの外的基準をもとに,仮説を設定し,基準関連妥当性(併存的妥当性)を検討した.本尺度とプロアクティブ行動尺度は有意な正の相関があった.プロアクティブ行動尺度はさまざまな組織に勤務する新規参入者のプロアクティブ行動を測定していることから,新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動尺度においても,組織への新規参入者がとるプロアクティブ行動を測定していることが確認され,仮説は支持されたと考える.

また,看護師の職務満足度尺度を外的基準とした結果においても,有意な正の相関があった.プロアクティブ行動は社会化学習に影響し,その結果,適応の指標である職務満足に影響することが明らかになっている(Ashforth et al., 2007).したがって,仮説は支持されたと考える.

3. 本尺度の活用可能性

新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動尺度は,4因子20項目からなり,簡便で使用しやすい尺度であるといえる.本尺度は,新人看護師のプロアクティビティを発揮するための組織側の支援策の検討や評価に活用できる.たとえば,新人看護師が自己評価を行い,結果を指導者と共有することで,具体的な課題が明らかになり,達成するべき課題をお互いに認識し,目標設定をすることが可能になる.そのうえ,部署や組織全体の新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動の傾向性を把握し教育に活用することで,実態に即した教育計画を立案することが可能になると考える.

また,Ashford & Black(1996)の因子にはなかった【看護技術習熟行動】が抽出されたことにより,看護師の組織社会化の課題として看護技術の習熟が重要となってくることが明らかになった.日本における新人看護職の職場適応に関する研究のレビューをした文献(高橋・米山,2011)では,入職前後の新人看護職の悩みは看護実践力に関するものであり,その中でも特に看護技術が中心となっていることが示されている.また,就業3年目までを対象とした縦断的研究でも,1年目看護師が自己の看護能力不足を強く感じていることが明らかになっている(眞鍋ら,2014).新人看護師にとって配属された部署で求められる看護技術を習得することが,リアリティショックからの回復に影響する要因の一つとなるため(水田,2004),新人看護師が早期に配属された部署で必要とされる看護技術を習得することができるように,集合教育と部署での教育を連携させて,個別に習得状況を評価しながら取り組んでいくことが重要であると考える.その際にも新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動尺度を使用して,新人看護師の【看護技術習熟行動】を評価することで,効果的な学習を促進することができるのではないかと考える.

4. 本研究の限界と今後の課題

本研究は,質問紙調査であり,新人看護師の適応に向けた行動や,職場適応に対し元来協力的である方々が研究対象者となったことが推測される.また,組織文化や教育体制などの外的要因の影響を受けている可能性が否定できない.今後は,新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動に影響する要因や個人的要因,先行要件などを調査していく必要がある.また,縦断的にも調査を行い,新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動の経時的変化を明らかにし,教育支援の適時性についても検討していく必要がある.

Ⅵ. 結論

本研究において,新人看護師の組織社会化におけるプロアクティブ行動尺度の開発を行った.本尺度は【看護技術習熟行動】【人間関係構築行動】【積極的学習行動】【他者からのフィードバック探索行動】の4つの下位尺度20項目で構成されている.表面妥当性,内容妥当性は検討されており,本研究にて構成概念妥当性,基準関連妥当性,内的整合性,安定性を検討し,信頼性と妥当性が確認された.

付記:本研究は,大阪府立大学大学院看護学研究科に提出した博士論文の一部を加筆・修正したものである.

謝辞:本研究にご協力くださいました新人看護師の皆様および病院関係者の方々に厚く御礼申し上げます.また,熱心にご指導いただきました大阪府立大学大学院の志田京子教授,中山美由紀教授に深く感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:HUおよびYHは研究の着想およびデザインに貢献;HUはデータ収集,統計解析の実施および草稿の作成;YHは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
 
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