日本看護科学会誌
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ISSN-L : 0287-5330
原著
看護師が多職種のエラーを指摘する行動に影響を与える要因の検討
岡本 悦子白鳥 さつき大橋 渉
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2020 年 40 巻 p. 403-411

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Abstract

目的:看護師が多職種のエラーを指摘する行動に影響を与える要因を明らかにする.

方法:全国の特定機能病院に勤務する看護師1,834人に郵送法による質問紙調査を行った.問題指摘態度尺度,ノンテクニカルスキル等84項目を調査し,問題指摘態度尺度得点を目的変数,経験年数や職位などの個人属性とノンテクニカルスキル等の性格特性を分けて説明変数として重回帰分析を行った(強制投入法).

結果:質問紙の回収数は412部(回収率22.5%).重回帰分析の結果,看護師の問題指摘行動に影響を与える要因は,経験年数や職位よりも個人の性格特性であるノンテクニカルスキルの「アサーティブネス」(β = .34, p < .001)と「リーダーシップ」(β = .21, p < .001)でより強い影響が示された.

結論:看護師の問題指摘行動には,「アサーティブネス」,「リーダーシップ」などのノンテクニカルスキルが影響していた.

Translated Abstract

Objective: To identify factors affecting nurses’ attitudes in pointing out inter-professional errors.

Method: A mail-in questionnaire survey was conducted on 1,834 nurses who work for advanced treatment hospitals throughout Japan. The questionnaire consisted of 84 items, including a scale for measuring the nurses’ attitude toward pointing out problems and non-technical skills. Multiple regression analyses were conducted with the score on the scale for attitude toward pointing out problems as the objective variable, and personal attributes such as years of experience and job titles, and personality traits of individuals such as non-technical skills, as separate explanatory variables (simultaneous forced entry).

Result: The number of responses to the questionnaire was 412 (response rate: 22.5%). As a result of the multiple regression analyses, factors that affect nurses’ attitudes toward pointing out problems were affected more strongly by “assertiveness” (β = .34, p < .001) and “leadership” (β = .21, p < .001), which fell under non-technical skills that are personality traits of individuals, than by basic attributes including years of experience and job titles.

Conclusion: Nurses’ non-technical skills, such as “assertiveness” and “leadership” that are personality traits of individuals, had an effect on the attitudes in which they pointed out problems.

Ⅰ. 緒言

医療におけるリスクマネジメントとは,事故防止活動を通して,組織の損失を最小に抑え医療の質を保証することである(日本看護協会,2013).ひとたび医療事故が発生すると,患者・家族,来院者および職員に甚大な害を及ぼすことになり,病院の信頼の損失ならびに経済的損失にもつながる.日本医療機能評価機構が行っている医療事故情報の調査では,医療事故報告件数は年々増加しており(日本医療機能評価機構,2012),近年では 2015年5月に2つの病院が重大な医療事故を起こし,特定機能病院の認定を取り消された.

20世紀まで,医療事故は人為的ミスと捉えられ,その責任は個人に向けられていた.しかし,1999年,米国医学研究所(Institute of Medicine)により報告されたレポート「To Err is Human」は世界に衝撃を与え,これまでの考え方に一石を投じた.この発表以降,事故防止対策は,徹底してヒューマンエラーに対応した対策やシステムの整備に力が注がれた.近年,ヒューマンエラーを医療事故の主要な原因とするのではなく,チームのパフォーマンスに着目し,チームエラーが原因であるという考え方が主流となっている.これは,医療事故防止のためには職種や経験の壁を越え,コミュニケーションなどのノンテクニカルスキルを強化し,チームのパフォーマンスを高めることが重要であるという考え方である.チームのパフォーマンスを高めるツールとしては,2005年,米国医療研究品質局(Agency for Healthcare Research and Quality)の協力のもと開発された「Team STEPPS®: Team Strategies and Tools to Enhance Performance and Patient Safety」が諸外国で導入され,日本では2010年頃より東京慈恵会医科大学附属病院をはじめとして導入が進んだ.

チームのパフォーマンスを示す多職種間の相互作用では,先行研究で,看護師が多職種のエラーに気づき適切な対処が取られたことにより患者への有害事象を防ぐことができた(Rothschild et al., 2006Yang et al., 2012)ことが報告されている.これは,看護師はベッドサイドケアにおいて患者と最も近い位置にあるため,多職種と比較して患者の有害事象に繋がるエラーを容易に発見できる立場にあると考えられる.

しかし,エラーを目撃していてもそれを指摘しなければ,医療事故を未然に防ぐことにはつながらない.Okuyama et al.(2014)は,医療従事者のエラーを指摘する行動には病院の方針,チーム関係,上司の態度等の組織要因のほかに,問題を指摘することに対する責任感,コミュニケーションスキル,教育背景等の個人的要因が影響することを報告している.また,看護師の問題指摘に対する態度には,専門職としての責任感や不安感の有無などが規定要因となるとして,奥山ら(2014)は問題指摘態度を把握するための尺度,看護師の問題指摘に対する態度測定尺度(日本語版)を開発した.また,Flin et al.(2008/2012)はノンテクニカルスキルについて,行動パターンの改善に関係するものであり,訓練によって獲得することができると報告している.これは,看護師がエラーを目撃した場合,それを指摘するために特別な能力を必要とするのではなく,訓練によって可能になることを示している.つまり,看護専門職としてその重要な役割を果たすためには,職位や経験年数,個人の性格特性に関わらず,目撃したエラーを指摘するためにはノンテクニカルのスキルを高めることが有用であるといえる.

本研究は,特定機能病院に勤務する看護師のノンテクニカルスキルの獲得状況を調査し,医療チームで看護師が多職種のエラーを指摘する行動に影響を与える要因について,コミュニケーションおよびリーダーシップなどのノンテクニカルスキルとの関連から明らかにする.

1. 研究目的

医療チームで看護師が多職種のエラーを指摘する行動に影響を与える要因を明らかにする.

2. 用語の定義

1) エラー

本人,または他人の安全を阻害する可能性のある行動であり,不安全行動を含む標準化されたルールからの逸脱行動,うっかりミス,安全について気がかりとなる出来事すべてと定義した.

2) 問題指摘行動

奥山ら(2014)は問題指摘に対する態度を「医療チーム内において,医療専門職らが患者の安全性を脅かす問題を他チーム員に指摘することに対する心のかまえ・考え方・行動傾向」としている.本研究では,看護師が多職種のエラーにつながる不安全行動を認識し,指摘するまでの行為や考え方で,上司への事故報告やインシデント報告も含め問題指摘行動と定義した.

3) チーム医療

患者を中心とした医療を提供する上で関わる医療専門職グループと定義した(奥山ら,2014).本研究では,多職種で構成され高度な医療を提供している特定機能病院で働く看護師を対象とした.

4) 多職種

所属する施設・病院で,チーム医療に関わっている看護師を含むすべての医療従事者とした.

5) ノンテクニカルスキル

テクニカルスキルを支える自己管理や社会性の技能であり,学習して向上させることができる技能(相馬,2014).本研究では,チームワークの要素別の可視化を目的としたTeam STEPPS Teamwork Attitudes Questionnaire(Team STEPPS Home, 2014)と落合・海渡(2013)のチームステップスの構成要素を参考に研究者が改変し,個人の「リーダーシップ能力」,「状況観察能力」,「相互支援能力」,「コミュニケーション能力」,「アサーティブネス能力」と定義した.

(1) 「リーダーシップ能力」

チーム活動を理解し,状況に応じて変化する情報をチームメンバーと共有し,必要な人的・物的資源を確実に供給することによりチームメンバーの活動を調整する能力.

(2) 「状況観察能力」

チーム内の出来事を継続的に把握・解析し,周囲のメンバーへ情報を発信する能力.

(3) 「相互支援能力」

メンバーの不適切な知識や行動を是正し,ミスの発生を抑制する能力.

(4) 「コミュニケーション能力」

対人的なやり取りにおいて,状況にあわせて適切な表現を使い分け,話の最後まで一貫性を保ち,お互いの意思疎通をスムーズにするための能力.

(5) 「アサーティブネス能力」

多職種とのかかわりの中で看護師が自己を主張しつつも相手を尊重し,意見の発信・受領をお互いが障害なく行うコミュニケーション能力である.本研究では,アサーティブネスをどの程度発揮しているか,(4)の「コミュニケ-ション能力」と区別して測定するために独立した変数として扱った.

Ⅱ. 方法

1.  研究方法

1) 研究対象者

全国の特定機能病院に勤務する看護師で,看護部長,副看護部長を除く看護師.

2) 研究期間

2016年6月1日から8月31日.

3) 調査方法

郵送法による無記名自己記入式質問紙調査である.手順は,対象施設の看護部長または責任者に調査用紙および依頼書を同封し,研究協力の可能性を伺った.依頼文には,調査可能な場合,看護部責任者から対象者に質問紙を配布するよう明記してあり,質問紙の返送をもって同意が得られたと判断した.尚,匿名性と上司からの強制力を排除するため,質問紙は無記名で個別返送とした.

4) 質問紙による調査内容

(1) 基本属性

性別,年代,看護経験年数,所属部署,所有資格,職位,最終学歴等について計9項目で構成した.

(2) 個人要因

ストレス,疲労度とその対処について.インシデントレポート報告状況の3項目で構成した.また,ノンテクニカルスキルの研修受講の有無について回答を求めた.

(3) 組織要因

様々な場面での上司の態度(失敗した時に擁護してくれるか等3項目),医療安全に関する病院の方針(インシデント報告のフィードバックの有無等3項目),報告体制(匿名性等2項目),インシデントレポートの活用方法(スタッフ間の共有等2項目),職場の人間関係(スタッフや上司との人間関係)について計31項目で構成した.

(4) 看護師の問題指摘に対する行動の測定について

「看護師の問題指摘に対する態度測定尺度(日本語版:奥山ら,2014)」を採用した.この尺度は4因子15項目で「問題指摘することへの抵抗感」4項目,「問題指摘に対する重要性の認識」4項目,「医療チーム内で自分の意見を言うことに対する否定的意識」3項目,「問題指摘事項への対応」4項目で構成されている.「強くそう思う」~「まったくそう思わない」の5件法で,得点が高いほど問題指摘に対する態度が肯定的であることを示す.尺度の信頼性に関しては,先行研究により奥山らにより検証済みである.

(5) ノンテクニカルスキルについて

「リーダーシップ」,「状況観察」,「相互支援」,「コミュニケーション」は,落合・海渡(2013)のチームステップスの構成要素および米国医療研究品質局(AHRQ)の個人のチームワークに対する考え方を測定するための質問紙を参考にして作成した.コミュニケーションについては「チェックバック(再確認)」や「コールアウト(大声発信)」など技法の獲得状況を調査する内容とし,アサーティブネスについては,技法ではなくコミュニケーション能力を測定する目的で,日本語版 Rathus Assertiveness Schedule(清水ら,2003)やその他の関連文献を参考にした.内容は「リーダーシップ」7項目,「状況観察」6項目,「相互支援」5項目,「コミュニケーション」4項目,「アサーティブネス」は10項目,以上5領域32項目で構成した.これらについて「いつもそうだ(5点)」~「いつもそうではない(1点)」の5件法で回答を求めた.

(6) ノンテクニカルスキルの尺度構成の妥当性について

プレテストを20名に実施し,回答者に質問内容が伝わりやすい表現に修正し,医療安全管理に携わる専門家のスーパーバイズを受け内容的妥当性を確保した.次に尺度の内的信頼性について検討するため,Cronbach α係数を求めた.ノンテクニカルスキル尺度全体のCronbach α係数は0.90であった.各下位尺度では,「リーダーシップ」0.80,「状況観察」0.68,「相互支援」0.68,「コミュニケーション」0.77,「アサーティブネス」0.66であった.

5) 分析方法

属性,個人要因,組織要因に関しては基本統計量を算出し,調査対象の特徴を把握した.問題指摘行動への影響要因の探索に関しては,問題指摘態度のスコアを目的変数として重回帰分析を行った(有意水準5%未満).経験年数や職位に関係なく影響する要因を検出するために,説明変数として基本的属性(経験年数,職位,最終学歴)と個人の性格特性や環境要因(「リーダーシップ」,「状況認識」,「相互支援」,「コミュニケーション」,「アサーティブネス」の各ノンテクニカルスキル得点とインシデント報告数や報告体制,職場の人間関係,教育背景)を分けて投入した.

質的変数の「職位」および「最終学歴」については,それぞれ2群のカテゴリデータ(一般職員を0,看護主任,看護係長,副看護師長,看護師長を1,准看護師養成校,看護師養成3年課程,2年課程等を0,4年制大学,看護系大学院を1)として対応した.

「個人のインシデント報告」「組織背景,医療安全に関する病院の方針,報告体制,インシデントレポートの活用方法」「職場の人間関係」に関しては,全て「はい」に1点,「いいえ」および「わからない」には0点を付した.「ストレス対処」は,ストレスや疲労を感じることがあるかについて「大変ある」,「時々ある」に1点.「あまりない」,「全くない」に0点,「適切に解消できるか」について「常にできる」,「大体できる」に1点.「あまりできない」,「できない」には0点を付した.

統計解析にはIBM SPSS Statistics ver. 25を用いた.

6) 倫理的配慮

本研究は,愛知医科大学倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号104).対象者には研究計画書,質問紙に依頼文を同封し,研究への参加・不参加の自由意思,中断の自由,これらによる職務上の不利益を被らないこと,データは統計処理をするため個人が特定できないこと,関連する学会への研究成果の公表を明記した.質問紙は無記名,個別返送とし,返信を持って同意を得たと判断した.データは厳重に管理することとした.

Ⅲ. 結果

1,834部配布し,回収数は412部(回収率22.5%)であった.そのうち職位,年齢,性別に欠損のあるものを除いた400部を有効回答(有効回答率97.1%)とし,分析の対象とした.

1. 対象者の基本属性

対象者の性別は女性が356名(89.0%)で大半を占め,職位は主任以上の管理職が117名(29.3%),管理職以外の一般職員が283名(70.8%)であった.年代は30歳代が最も多く155名(38.8%),次いで20歳代が131名(32.8%)であった.看護経験年数の平均値±標準偏差は12.7 ± 8.7年であった.ノンテクニカルスキルに関する研修を受講した割合は全体の32.3%であった(表1).

表1  基本属性 N = 400
人数 %
性別 女性 356 89.0
男性 44 11.0
職位 一般職員 283 70.8
看護主任,看護係長,副看護師長 86 21.5
看護師長 31 7.8
年代 20歳代 131 32.8
30歳代 155 38.8
40歳代 81 20.3
50歳代以上 33 8.3
看護経験年数 平均(標準偏差) 12.7(8.7)年
所属部署 一般病棟 244 61.0
外来 38 9.5
集中治療部門(*ICU, **HCU, ***CCU),救急外来,手術室 92 23.1
最終学歴(看護) 看護師養成3年課程 202 50.5
4年制大学 144 36.0
看護系大学院 16 4.0
チーム医療活動の有無 なし 270 67.5
あり 128 32.0
ノンテクニカルスキル研修受講の有無 ノンテクニカルスキル研修受講あり 126 32.3
ノンテクニカルスキル研修受講なし 264 67.7
無回答 10 2.5

* ICU: Intensive Care Unit

** HCU: High Care Unit

*** CCU: Cardiac Care Unit

2. ノンテクニカルスキルの獲得状況について

ノンテクニカルスキルの獲得状況を表2に示す.全体の得点は,平均値±標準偏差は115.5 ± 11.6点,得点率72.1%であった.全32項目のCronbach α係数は0.9であった.各項目の得点率は69.0~73.6%であった.

表2  ノンテクニカルスキルの獲得状況 N = 400
中央値 平均値
(標準偏差)
得点率
(%)
ノンテクニカルスキル全体の得点 116.5 115.5(11.6) 72.1
リーダーシップ 26.0 25.3(3.1) 72.3
1 私は自分の業務内容を理解し,前向きに取り組むことができる. 3.9
2 私はチーム活動を活性化するために,気が付いたことを積極的に発言することができる. 3.6
3 私は患者の安全を第一に考えて,常に他のチーム員の規範となる態度を示すことができる. 3.5
4 私は患者や他のチーム員の気持ちに配慮して声をかけることができる. 3.7
5 私はチーム員同士で患者に応じたプランを話し合い,より良い結果を出せるように計画を立てることができる. 3.6
6 私は他のチーム員の業務量を考慮し,随時,必要に応じて互いに援助ができるように業務の分担,依頼をすることができる. 3.7
7 私はチームの成長を継続するために,業務終了時などに,何が良くて何が悪かったのか振り返りをして次に生かすことができる. 3.4
状況観察 21.0 20.7(2.9) 69.0
1 私は直接そのケアに参加していなくても,自分の指摘が患者を救う可能性があると自覚した場合,躊躇せずに発信することができる. 3.5
2 私は他のチーム員が気が付いたことを言いやすい環境を整え,他のチーム員の意見を肯定的に受け入れるように努めている. 3.6
3 私は他のチーム員の感情的状況(落ち込んでいる,怒っている等)や身体的状況(体調不良,寝不足,疲労の様子が伺える等)を観察することができる. 3.8
4 私は業務遂行上,体調不良やストレスを自覚する場合,ためらわずに他のチーム員に業務援助を依頼することができる. 3.1
5 私は自分の能力以上の業務を依頼されたら,「できない」ということができる. 3.1
6 私は他のチーム員の言動に注意し「おかしい」,「間違っている」と感じた時は,相手の立場を考えながら発信することができる. 3.5
相互支援 19.0 18.4(2.6) 73.6
1 私は患者にとって緊急対処が必要な危険を感じた場合,躊躇せずに他のチーム員に声をかけることができる 3.6
2 私は患者にとって緊急対処が必要な危険を感じた場合,自分の声かけが無視された場合に,もう一度発信することができる. 3.7
3 私は自分の意見が受け入れられない場合,「私は心配です」,「ちょっと待ってください」など,緊急避難対応としての声かけができる. 3.7
4 私は自分の意見が受け入れられない場合は,次のステップを想定して指導者に相談するなどのより強い行動を起こすことができる. 3.7
5 私は患者安全に悪影響を及ぼすため,チーム員間で個人的な感情(嫌い,苦手等)での論争はしない. 3.8
コミュニケ-ション 15.0 14.6(2.2) 73.0
1 私は患者にとって緊急対処が必要な危険を感じた場合,チーム員に情報を確実・効果的に伝達するため,何が起こっているのか・患者の臨床的背景・問題に対する自分の考え,提案に分けて伝達することができる. 3.6
2 私は申し送りの際,チェックリストや情報端末を使用し,重要事項を具体的に伝えることができる. 3.7
3 私は申し送りの際,相手に不明な点を明確にする機会を与え,重要事項の相互復唱などを行い情報伝達を確実に行うことができる. 3.7
4 私は非常に重要あるいは危険な状態に遭遇した場合は,その情報や状況を周辺にいるチーム員全員に大声で発信し伝えることができる. 3.7
アサーティブネス 36.0 36.4(3.7) 72.8
1 私は医師の指示が分かりづらい時は,指示を出しなおしてもらうよう要求する. 4.0
2 患者さんのケアをしようとしている時に医師から別の患者さんの処置介助を頼まれた.その処置が緊急を要することでないと判断したとき,私は都合の良い時間を交渉することができる. 3.8
3 私は人それぞれ違った価値観を持っているということを前提として意見を述べるようにしている. 3.9
4 私はカンファレンスでは自分の意見を主張しないように決めていても,指名されると発言し,後から後悔することがある. 3.4
5 私は夜間,当直医が仮眠をしている時,患者の報告をためらう. 3.1
6 私は請求した薬剤がなかなか届かない時,再度依頼するときは忙しいかもしれないなど相手の状況を念頭においた表現を心がけている. 3.9
7 私は仲の良い多職種の不安全行動を認識した時.私は患者の安全性に影響する不安を口に出していう. 3.6
8 私は自分より目上の多職種や同僚の不安全行動を認識した時.私は患者の安全性に影響する不安を口に出していう. 3.4
9 患者の状態をアセスメントして患者管理の問題点に気がついたら,私は誰に影響を与えるかによらず,口に出して言う. 3.4
10 わからないと感じた時,私はいつも質問をする. 3.9

各項目5点満点のうち平均値でみると,「リーダーシップ」では,「私は自分の業務内容を理解し,前向きに取り組むことができる」が3.9で最も高く,「私はチームの成長を継続するために,業務終了時などに,何が良くて何が悪かったのか振り返りをして次に生かすことができる」が3.4で最も低かった.「アサーティブネス」では,「私は医師の指示が分かりづらい時は,指示を出しなおしてもらうよう要求する」が4.0で最も高く,「私は夜間,当直医が仮眠をしている時,患者の報告をためらう」が3.1で最も低かった.

3. 問題指摘行動に影響を与える要因

重回帰分析の結果(表3-1)から,看護師の問題を指摘する行動は個人属性では職位(一般職と主任以上の管理職)および看護経験年数で有意な関連が認められ,調整済みR2値は.20であった.一方,ノンテクニカルスキルや環境要因(表3-2)の検討では,「アサーティブネス」「リーダーシップ」,および人間関係において有意な関連が認められ,調整済みR2値は.48であった.以上の結果より,看護師における問題指摘行動への影響は,経験年数や職位よりノンテクニカルスキルや環境要因の影響が,より強いものであることが示された.

表3-1  問題指摘行動に対する重回帰分析(看護経験年数,職位,最終学歴との関連)
標準化係数ベータ t値 有意確率 Bの95.0%信頼区間
下限 上限
(定数) 42.144 <.001 47.717 52.388
看護経験年数 .260 4.568 <.001 .472 1.185
*職位 .291 5.660 <.001 2.745 5.666
**最終学歴 .048 0.937 .349 –.708 1.996

* 一般職員を0,看護主任,看護係長,副看護師長,看護師長を1とした変数

** 准看護師養成校,看護師養成3年課程,2年課程等を0,4年制大学,看護系大学院:を1とした変数

重回帰分析:強制投入法 調整済みR2 = .20,分散分析:p < 0.001,Durbin-Watson = 1.97

表3-2  問題指摘行動に対する重回帰分析(ノンテクニカルスキル,環境要因等との関連)
標準化係数ベータ t値 有意確率 Bの95.0%信頼区間
下限 上限
(定数) 2.243 .025 1.341 20.411
ストレス –.038 –.962 .337 –6.569 2.253
ストレス対処 .057 1.454 .147 –.311 2.079
レポートの報告 .043 1.024 .307 –1.387 4.397
上司の態度 .013 .305 .761 –.647 .884
病院の方針 .024 .590 .555 –.748 1.390
報告体制 –.028 –.733 .464 –1.411 .645
レポートの活用 –.121 –2.980 .003 –3.096 –.634
人間関係 .149 3.523 <.001 .529 1.867
教育背景 .057 1.421 .156 –.511 3.173
リーダーシップ .205 3.579 <.001 .191 .656
状況観察 .074 1.436 .152 –.062 .397
相互支援 .086 1.694 .091 –.035 .474
コミュニケーション .063 1.174 .241 –.128 .507
アサーティブネス .340 6.487 <.001 .413 .773

重回帰分析:強制投入法 調整済みR2 = .48,分散分析:p < 0.001,Durbin-Watson = 1.97

Ⅳ. 考察

本研究は,看護師の経験年数や職位と個人の性格特性や環境等の要因が看護師の多職種のエラーを指摘する行動にどの程度影響しているのかを明らかにした最初の研究である.以下,特定機能病院に勤務する看護師のノンテクニカルスキルの獲得状況と,看護師が多職種のエラーを指摘する行動に影響する要因について考察する.

1. ノンテクニカルスキルの獲得状況について

本調査の対象者は主として30歳代,職位を持たない中堅に近い看護師集団であった.この年代の看護師は,リーダー的立場にあり,多職種とも様々な場面で関わりを持つ.ノンテクニカルスキルに関して,この集団の特徴は,「リーダーシップ」,「状況観察」,「相互支援」,「コミュニケーション」,「アサーティブネス」のいずれの項目においても得点率にばらつきはなく,70%程度であった.

ノンテクニカルスキルが日本に導入して10年余り経過するが,本調査では研修受講者が3割程度であり,ノンテクニカルスキルの認知度は低いと推察される.

相馬(2014)は,ノンテクニカルスキルには階層性があり,個人の技能全体を円錐状で表現している.テクニカルスキルは円錐の上部,ノンテクニカルスキルは下部に位置し,底面に自己管理や社会性の能力が位置している.つまり,「状況観察」や「意思決定」は高い専門性を必要とする位置にあるのに対して「アサーティブネス」と「リーダーシップ」は,一般社会人でも獲得しやすい社会的能力に近い下位階層のスキルであると説明している.これらのことから,本研究の対象者が中堅に近い看護師集団であり,専門的な研修は受講していないが,経年的に様々な多職種との連携や協働,OJT(実務訓練:On-the-Job-Training)によって,ノンテクニカルスキルを獲得してきたものと推察される.

2. チーム医療における看護師の役割

本研究の結果より,看護師の問題指摘行動に影響を与える要因は,職位や経験年数よりもノンテクニカルスキルの「アサーティブネス」,「リーダーシップ」と「人間関係」がより影響していることが分かった.

奥山ら(2014)は,アサーティブネス訓練経験がある看護師は,ない看護師と比較して問題指摘態度尺度の得点が高かったと述べており,アサーティブ・コミュニケーションの重要性がわかる.しかし,平木ら(2000)は,看護師は全般的にアサーティブに自己表現するのが苦手な職種であることを指摘している.また,横野ら(2015)は,コミュニケーション・エラーに関する調査で,背景に権威勾配があることを指摘し,医師の83.3%,その他の職種では90%以上が上級者に口出ししてはいけないと思っていたと述べている.

本調査でも「アサーティブネス」に関する設問のうち,仮眠中の医師への報告(平均値3.1)や多職種を含む目上の人や同僚の不安全行動を認識した場合の指摘行動(平均値3.4)についての値が低かったことから,特に職位や年齢が上の職員には指摘しにくい状況があることが推察される.一方で,アサーティブ・コミュニケーションに関する研修は2000年ごろより普及しており,看護師個人の要因だけでなく,個人の気づきをチームの認識や行動に結びつけることが重要である.職種や経験の垣根を取り払い,必要なことを伝えることができる環境を作るために,医療チーム全体で取り組む教育が必要である.

「リーダーシップ」について相馬(2014)は,チーム医療の中で重要な要素の一つであり,各メンバーにもリーダーシップの技能を発揮することが求められていると述べている.また,ノンテクニカルスキルの本質はメタ認知であり,メタ認知は事故防止の最も重要な要素で,経験から学ぶことができ,自分の考え方を客観的に振り返ることで発達できるとも述べている.本調査の結果では,「リーダーシップ」の業務終了後の振り返りについての平均値が3.4と最も低かった.意識的に日々の業務を振り返り,自己の役割を認識することでメタ認知が発達し,リーダーシップを強化することが期待できる.

看護師が多職種への不安全行動に対する抑止力となるには,今後,エラーを目撃した時に問題を指摘することへの重要性を認識し,抵抗感が減少するような意図的な訓練を受ける必要がある.効果的に「アサーティブネス」と「リーダーシップ」を高めることができれば,経験の少ない看護師においても問題指摘行動を高めることができる可能性が示唆された.

3. 本研究の限界

本研究の限界は,看護師が多職種のエラーを指摘する行動に影響を与える要因としてノンテクニカルスキルを測定したが,先行研究ではシナリオベースでのトレーニングと振り返り,観察を行う手法が多く用いられる(小舘ら,2012)ため,質問紙による自己の回答と実際にできているかどうかには隔たりがあることが推測される点である.

Ⅴ. 結論

看護師が多職種のエラーを指摘する行動に影響を与える要因は,経験年数や職位よりも個人の性格特性であるノンテクニカルスキルの「アサーティブネス」,「リーダーシップ」が強く影響していた.

付記:本研究は,愛知医科大学大学院看護学研究科に提出した修士論文の一部を加筆・修正したものである.また,本論文の一部は,平成29年度愛知県看護研究学会において発表した.

謝辞:本研究に快くご協力くださいました看護師の皆様,病院関係者の皆様に厚く御礼申し上げます.また,熱心にご指導いただきました一宮研伸大学看護学部の白鳥さつき教授,愛知医科大学臨床研究支援センター大橋渉准教授に深く感謝申し上げます.尚,本研究は平成28年度愛知県看護協会助成金を受けて実施した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:EOは研究の着想,研究デザイン,データの入手,分析,解釈,原稿の作成に貢献した.SSは研究デザイン,分析,解釈,原稿・研究プロセス全体への助言を行った.WOは分析,解釈,原稿修正への助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
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