日本看護科学会誌
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原著
地域高齢者における体脂肪率,筋肉量,たんぱく質量,ミネラル量の握力低下への影響
―1年間の縦断的観察研究―
藤田 倶子菱田 知代丸山 加寿子
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2020 年 40 巻 p. 422-429

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Abstract

目的:地域高齢者の体組成と体成分の握力低下への影響を明らかにした.

方法:縦断的観察研究を実施した.地域高齢者2,671人のうちベースライン209人,1年後155人に体成分,体組成,握力を測定し,Asian Working Group for Sarcopenia 2019の基準でベースライン値を低SMI(skeletal muscle mass index),高体脂肪率,たんぱく質量不足,ミネラル量不足,サルコペニア肥満の有無に分類した.1年後に対応のあるt検定,反復のある分散分析を行った.

結果:男性(n = 60)の握力低下(η2 = .011, p = .014),ミネラル量不足(η2 = .123, p = .003)とその交互作用(η2 = .011, p = .018)がみられた.

結論:男性では,ミネラル量不足が1年後の握力低下に影響し,ミネラル量増加のための支援を検討する必要性が示唆された.

Translated Abstract

Objective: The goal of this study was to determine the effect of chemical composition of the body and muscle mass on decreasing handgrip strength among community-dwelling older adults.

Methods: In this longitudinal study, we measured body chemical composition and muscle mass at baseline (n = 209) and 1 year later (n = 155) in 2,671 community-dwelling older adults. Participants were categorized into specific groups: those with low skeletal muscle mass index (SMI), low handgrip strength, high percent body fat, protein deficiency, mineral deficiency, and sarcopenic obesity. This grouping was done using baseline data and according to 2019 criteria of the Asian Working Group for Sarcopenia. Baseline data were compared with data collected 1 year later using the paired t-test and repeated measures ANOVA.

Results: The study findings demonstrated that in men (n = 60), repeated measures ANOVA showed decreasing hand grip(η2 = .011, p = .014), mineral deficiency(η2 = .123, p = .003) and interaction (η2 = .011, p = .018).

Conclusions: Our findings suggest that mineral deficiency may influence decreasing handgrip strength over 1 year and the need to consider support for increasing mineral abundance in men.

Ⅰ. 緒言

令和元年版高齢社会白書(内閣府,2019)によると高齢化率が28.1%,要介護率は26.2%を占め,我が国において介護予防は重大な課題である.高齢者の要介護状態にはフレイル(日本老年医学会,2014)やサルコペニア(Baumgartner et al., 1998)といった要因が取り上げられている.

地域高齢者を対象にした先行研究では,サルコペニアと認知機能低下(北村ら,2020),体脂肪率と低歩行速度(藤田,2015)やロコモティブシンドローム(Nakamura, 2008)(旭ら,2019),過剰な体脂肪量および低筋肉量と死亡率(Lee & Giovannucci, 2018)との関連が報告されている.栄養に関する先行研究では,BMI,アルブミン値,体重減少による低栄養者のスクリーニングが難しい(駒井ら,2016).栄養アセスメントツールの評価はSMIと関連し(酒元ら,2018),血中の栄養成分は体型による違いがなかった(池内ら,2016).人体組成は体脂肪量と除脂肪量,除脂肪量は水分,たんぱく質,ミネラルで構成される(戸部ら,1996).若年女性では全身筋肉量に対し体成分のたんぱく質量とミネラル量の正の相関があり(今井・久保,2019),地域男性高齢者の閉じこもり群は非閉じこもり群と比較して筋肉量,体水分量,たんぱく質量,ミネラル量が少なかった(白石ら,2020).本研究では筋肉量との関連がある体成分のたんぱく質量,ミネラル量に着目した.

筋力低下と筋肉量低下では筋力低下が予後悪化を予測する(Minini & Clark, 2012).高齢者の全身の筋力を代表する指標として握力を用いるのは適切であり,握力測定は簡便かつ再現性の高い筋力評価法である(杉本・楽木,2019).握力は地域女性高齢者の骨密度(奥見,2015)や園芸習慣(田崎ら,2018)との関連が報告されている.また,前期高齢者より後期高齢者が低く(上田ら,2015),介護予防事業対象者に歩行速度低下者はないが握力低下者が半数以上存在した(長澤ら,2015).以上より,早期から握力の変化に着目することで地域高齢者の要介護状態への移行について検討することができると考えた.

身体組成の筋肉量,体脂肪率,体成分のたんぱく質量,ミネラル量による1年後の握力低下への影響を明らかにすることができれば,要介護状態へ移行する可能性のある高齢者に対し体組成,体成分の側面から早期に対応するための支援を検討することができる.

以上より本研究は,体組成の筋肉量,体脂肪率,体成分のたんぱく質量,ミネラル量の1年後の握力低下への影響を明らかにすることを目的とした.

Ⅱ. 方法

1. 研究デザイン

本研究のデザインは縦断的観察研究である.

2. 対象者

65歳以上の地域在住高齢者として,A市老人クラブ会員を対象とした.A市老人クラブは60歳以上の地域の高齢者の自主的な団体として地域に根ざした様々な活動を行っている.本研究は継続的に測定を行うものであったため,同じ対象者に経年的に測定会を実施することができる対象として老人クラブに協力を依頼し,登録会員数が2,671人の6校区に協力を得た.地域の老人クラブの会員を対象に校区長からの説明と研究者が作成したチラシを用いて校区別に測定日時を周知し,参加を希望する独歩可能なクラブ会員216名(ベースライン)と1年後も測定した155名を対象とした.このうちベースラインで65歳未満の7名(0.03%)を除外した(図1).

図1 

対象者のフロー

A市は大阪府内南部に位置し,2018年7月の時点で総人口約186,000人,約78,000世帯,高齢化率約24%の都市である.老人クラブ会員は2018年7月には全市で約13,000人が在籍し60歳以上人口の約24%を占める.本研究では地域に在住する高齢者として代表的な対象者と考えた.

3. 調査方法

2018年12月から2019年2月のベースラインと2019年12月から2020年2月の1年後に縦断調査を実施した.生体電気インピーダンス分析法(bioelectrical impedance analysis: BIA)による体成分分析装置InBody270(InBody Japan社),歩行速度測定器(竹井機器工業),デジタル握力計(エヌフォース),ポータブル身長計seca213(アズワン)による測定を行った.Asian Working Group for Sarcopenia 2019(Chen et al., 2020)(AWGS2019)ではBIA法の基準値も示しており,地域高齢者を対象とした先行研究(白石ら,2020田崎ら,2018)での身体組成の測定ではBIA法が多く用いられている.InBody270は携帯でき複数の会場で使用しやすく,二重エネルギーX線吸収法(dual energy X-ray absorptiometry: DXA)よりも簡便に侵襲なく測定できる測定用具である.

InBody270の測定に必要な性別,年齢の情報は対象者からの申告,身長は測定値を用いた.BIA法は食事のタイミングや測定時間により誤差が生じる(森ら,2016)ため,食後2時間以上の間隔が測定には必要であり,チラシおよび校区長から測定開始時間より2時間前までに飲食を終わらせておいてもらうよう依頼した.測定時間による誤差をできるだけ少なくするため,可能な限り測定時間は午前中(朝井ら,2005)に行うようにし,1年後の測定はベースラインと同時間帯に実施した.

歩行速度測定器では5 mの距離を歩行する時間(秒)を測定した.歩き始めと歩き終わりに1 mの予備を設け,「いつもの速さで歩いてください」と依頼し通常の速さで合計7 mの距離を素足で歩行してもらった.

握力計では新体力テスト実施要項(文部科学省,2010)と同様に,左右の握力を立位で交互に2回ずつ測定した.

老人クラブで利用している校区内の老人集会所を会場とした.対象者にはID番号を付し,2か年の測定結果をID番号により連結した.1年後の測定では対象者にID番号と測定会場や日時,注意事項を知らせる案内はがきを測定日の1か月程度前に送付し,当日会場に持参してもらった.

4. 調査項目

1) 体組成

筋肉量としてSMI(Skeletal Muscle Mass Index)および体脂肪率の2項目とし,InBody270からの出力の値を用いた.SMIを男性7.0 kg/m2未満,女性5.7 kg/m2未満で低SMIと正常SMIの2群にした.体脂肪率を男性25.0%以上,女性30.0%以上(大野・池田,1998)で高体脂肪率と正常体脂肪率に2群にした.また,低SMIかつ高体脂肪率でサルコペニア肥満(Heber et al., 1996)と非サルコペニア肥満の2群とした.

2) 体成分

たんぱく質量,たんぱく質量下限値,ミネラル量,ミネラル量下限値の4項目としInbody270から出力された値を用いた.いずれの値も基準値はなく個人差が大きいため,群間の比較を行うためにたんぱく質量とたんぱく質量下限値の差が0未満をたんぱく質量不足,ミネラル量とミネラル量下限値の差が0未満をミネラル量不足としてそれぞれ2群にした.前後比較ではたんぱく質量,ミネラル量を出力された値のまま用いた.

3) 体格指数

BMI(Body Mass Index)の1項目とし,InBody270から出力された値を用いた.BMIは18.5 kg/m2未満をやせ,18.5 kg/m2から25.0 kg/m2未満を正常体重,25.0 kg/m2以上を肥満の3群とした.

4) 筋力

握力の1項目とし,握力は新体力テスト実施要項(文部科学省,2010)と同様に左右2回の測定結果のうち両方の高い方の値を合計しその平均値を用いた.握力が男性26.0 kg未満,女性18.0 kg未満にて低握力と正常握力の2群とした.

5) 身体機能

歩行速度の1項目とし,5 mの歩行にかかった時間(秒)で歩行した距離(5 m)を除した値を歩行速度(m/s)として用いた.歩行速度が1.0 m/s未満にて低歩行速度と正常歩行速度の2群とした.低SMIかつ低握力かつ低歩行速度である場合をサルコペニアとした.

SMI,握力,歩行速度の基準値,サルコペニア該当要件はAWGS2019の診断基準を参考にした.

5. 分析

分析は男女別に実施し,ベースラインの年齢を65歳から74歳までを前期高齢者,75歳以上を後期高齢者の2群とした.1年後測定実施群を1年後測定群,非実施群を脱落群とし,1年後測定群の特徴を確認するために群間比較を行った.ベースライン,1年後の測定結果の正規性を示した握力,歩行速度,BMI,たんぱく質量,ミネラル量,体脂肪率,SMIの群間の平均値の比較にはt検定,前後の平均値の比較には対応のあるt検定を用いた.ベースラインの要因の相関を見るためにSMI,体脂肪率,たんぱく質量,ミネラル量について2変量の相関分析を行った.名義尺度の割合の比較にはχ2検定,前後の比較にはマクネマー検定,要因別の握力変化への影響を見るために反復のある分散分析を行った.反復のある分散分析では水準には時間,要因にはベースラインの年齢区分,BMI区分,体脂肪率区分,SMI区分,タンパク質量区分,ミネラル量区分,サルコペニア肥満区分,従属変数には握力を投入した.欠損値は除外し,分析にはJASP0.13.1(JASP, 2020)を用い,有意水準を5%未満とした.

6. 倫理的配慮

研究の依頼には事前にA市社会福祉協議会老人クラブ担当者,老人クラブ連合会会長,各校区長に,測定会場では老人クラブ会員に研究の目的,意義,方法,研究参加は任意であり,協力しなくても何ら不利益を被らないこと,同意後にも撤回が可能であること,データは匿名にして分析され,発表に際して個人は特定されないことについて文書と口頭にて説明し,同意を得て実施した.老人クラブ会員には会場にて口頭と文書で説明後文書にて同意を得て測定を行った.本研究は千里金蘭大学疫学研究倫理審査会にて承認を得て実施した(承認番号K18-008).

Ⅲ. 結果

1. 2年間測定した対象者の概要

老人クラブ会員2,671人のうちベースラインで測定した65歳以上の対象者は209人であった.そのうちの1年後の測定者は155人(74.2%)であった.男女別1年後測定者と脱落者のベースライン測定結果の比較を表1に示す.男性では歩行速度の平均値(SD)が1.2(0.2)m/s対1.0(0.3)m/s(t(73) = –2.0, r = .23, p = .046)と1年後測定群が高く,低歩行速度群の割合が21.7%対53.3%(ϕ = –.28, p = .023)と少なかった.女性では年齢の平均値(SD)が75.3(4.9)歳対78.5(5.4)歳(t(132) = 3.3, r = .28, p = .001)と1年後測定群が低かった.握力が21.6(3.8)kg対19.2(4.7)kg(t(132) = –3.1, r = .26, p = .002),歩行速度が1.2(0.2)m/s対1.1(0.3)m/s(t(132) = –3.4, r = .29, p = .001)と高かった.BMIが22.4(2.7)kg/m2対24.0(3.4)(t(132) = 2.8, r = .24, p = .006),体脂肪率が32.0(6.5)%対35.3(6.3)%(t(132) = 2.6, r = .23, p = .008)と1年後測定群が低かった.後期高齢者の割合が51.6%対76.9%(ϕ = –.23, p = .007),低握力群が20.0%対38.5%(ϕ = –.19, p = .031),低歩行速度群が15.8%対38.5%(ϕ = –.25, p = .006)と低かった.BMI区分では正常体重群73.7%および肥満群18.9%対正常体重群56.4%および肥満群41.0%(ClamerのV = .24, p = .025),高体脂肪率群が67.4%対87.2%(ϕ = –.20, p = .019),サルコペニア群が3.2%対15.4%(ϕ = –.22, p = .018)といずれも低かった.

表1  男女別1年後測定群と脱落群のベースライン測定結果の比較 N = 209
男性(n = 75) 女性(n = 134)
変数 1年後測定群
n = 60)
脱落群
n = 15)
効果量 p 1年後測定群
n = 95)
脱落群
n = 39)
効果量 p
年齢 (歳) 平均値 (SD) 75.9 (5.5) 78.1 (5.5) 0.16 0.169a 75.3 (4.9) 78.5 (5.4) 0.28 0.001a
握力 (kg) 平均値 (SD) 34.6 (5.5) 32.4 (6.9) 0.15 0.196a 21.6 (3.8) 19.2 (4.7) 0.26 0.002a
歩行速度 (m/s) 平均値 (SD) 1.2 (0.2) 1.0 (0.3) 0.23 0.046a 1.2 (0.2) 1.1 (0.3) 0.29 0.001a
BMI (kg/m2 平均値 (SD) 23.8 (2.6) 23.2 (2.7) 0.09 0.431a 22.4 (2.7) 24.0 (3.4) 0.24 0.006a
体脂肪率 (%) 平均値 (SD) 27.5 (5.0) 27.9 (5.0) 0.03 0.773a 32.0 (6.5) 35.3 (6.3) 0.23 0.008a
SMI (kg/m2 平均値 (SD) 7.2 (7.2) 6.8 (0.7) 0.22 0.056a 5.6 (0.6) 5.6 (0.7) 0.01 0.909a
後期高齢者 n (%) 37 (61.7) 11 (73.3) –0.10 0.551b 49 (51.6) 30 (76.9) –0.23 0.007b
低握力 n (%) 4 (6.7) 3 (20.0) –0.18 0.138b 19 (20.0) 15 (38.5) –0.19 0.031b
低歩行速度 n (%) 13 (21.7) 8 (53.3) –0.28 0.023b 15 (15.8) 15 (38.5) –0.25 0.006b
たんぱく質量不足 n (%) 25 (41.7) 6 (40.0) 0.01 1.000b 51 (53.7) 18 (46.2) 0.07 0.452b
ミネラル量不足 n (%) 28 (46.7) 7 (46.7) 0.00 1.000b 27 (28.4) 9 (23.1) 0.06 0.669b
正常体重 n (%) 41 (68.3) 10 (66.7) 0.13 0.624b 70 (73.7) 22 (56.4) 0.24 0.025b
肥満 n (%) 18 (30.0) 4 (26.7) 18 (18.9) 16 (41.0)
高体脂肪率 n (%) 41 (68.3) 11 (73.3) –0.04 1.000b 64 (67.4) 34 (87.2) –0.20 0.019b
低SMI n (%) 23 (38.3) 6 (40.0) –0.01 1.000b 58 (61.1) 21 (53.8) 0.07 0.447b
サルコペニア n (%) 1 (1.7) 2 (13.3) –0.24 1.000b 3 (3.2) 6 (15.4) –0.22 0.018b
サルコペニア肥満 n (%) 16 (26.7) 3 (20.0) 0.06 0.747b 36 (37.9) 19 (48.7) –0.10 0.254b

a)t検定,効果量r,有意水準p < 0.05未満,b)χ2検定,効果量φ,正常体重・肥満のみClamerのV,有意水準p < 0.05

2. 1年後の変化

ベースラインから1年後の男性(n = 60)と女性(n = 95)の変化を表2に示す.男性の平均値(SD)では握力が34.6(5.5)kgから33.3(7.0)kg(t(59) = 2.3, r = .28, p = .027),たんぱく質量が9.2(1.0)kgから8.9(1.3)kg(t(58) = 3.6, r = .42, p = .001),ミネラル量が3.14(0.35)kgから3.05(0.41)kg(t(58) = 3.0, r = .36, p = .005)と低下した.SMIが7.2(0.7)kg/m2から7.0(0.8)kg/m2(t(58) = 3.0, r = .37, p = .004)と低下し,体脂肪率が27.5(5.0)%から28.9(5.8%)(t(58) = –3.2, r = .39, p = .002)と増加した.女性では握力が21.6(3.8)kgから22.3(4.2)kg(t(94) = –2.3, r = .23, p = .026)に上昇した.男女とも歩行速度と割合の変化はみられなかった.

表2  男女別体組成,体成分,筋力,身体機能の変化 N = 155
男性(n = 60) 女性(n = 95)
変数 ベースライン 1年後 r p ベースライン 1年後 r p
握力 (kg) 平均値 (SD) 34.6 (5.5) 33.3 (7.0) .28 0.027a 21.6 (3.8) 22.3 (4.2) .23 0.026a
歩行速度 (m/s) 平均値 (SD) 1.2 (0.2) 1.2 (0.2) .03 0.827a 1.2 (0.2) 1.2 (0.2) .11 0.305a
たんぱく質量 (kg) 平均値 (SD) 9.2 (1.0) 8.9 (1.3) .42 0.001a 6.7 (0.8) 6.8 (0.9) .12 0.261a
ミネラル量 (kg) 平均値 (SD) 3.1 (0.4) 3.1 (0.4) .36 0.005a 2.4 (0.3) 2.5 (0.3) .11 0.270a
BMI (kg/m2 平均値 (SD) 23.7 (2.5) 23.7 (2.8) .02 0.906a 22.4 (2.7) 22.3 (2.8) .03 0.738a
体脂肪率 (%) 平均値 (SD) 27.5 (5.0) 28.9 (5.8) .39 0.002a 32.0 (6.5) 31.5 (7.0) .10 0.331a
SMI (kg/m2 平均値 (SD) 7.2 (0.7) 7.0 (0.8) .37 0.004a 5.6 (0.6) 5.6 (0.7) .09 0.363a
低握力 n (%) 4 (6.7) 5 (8.3) 1.000b 19 (20.0) 13 (13.7) 0.146b
低歩行速度 n (%) 13 (22.4) 15 (25.9) 0.791b 15 (16.1) 14 (15.1) 1.000b
たんぱく質量不足 n (%) 25 (42.4) 28 (47.5) 0.453b 51 (53.7) 48 (50.5) 0.581b
ミネラル量不足 n (%) 28 (47.5) 28 (47.5) 1.000b 27 (28.4) 28 (29.5) 1.000b
正常体重 n (%) 41 (69.5) 39 (66.1) 0.549b 70 (73.7) 69 (72.6) 0.601b
肥満 n (%) 18 (30.5) 18 (30.5) 18 (18.9) 19 (20.0)
高体脂肪率 n (%) 41 (69.5) 44 (74.6) 0.388b 64 (67.4) 64 (67.4) 1.000b
低SMI n (%) 23 (39.0) 27 (45.8) 0.219b 58 (61.1) 52 (54.7) 0.146b
サルコペニア n (%) 1 (1.7) 1 (1.7) 1.000b 3 (3.2) 1 (1.1) 0.500b
サルコペニア肥満 n (%) 16 (27.1) 21 (35.6) 0.180b 36 (37.9) 31 (32.6) 0.227b

a)対応のあるt検定,有意水準p < 0.05,b)マクネマー検定,有意水準p < 0.05

男性:1年後歩行速度,サルコペニア欠損値(n = 2),たんぱく質量・ミネラル量・BMI・体脂肪率・SMI・たんぱく質量不足・ミネラル量不足・正常体重・肥満・高体脂肪率・低SMI・サルコペニア肥満欠損値(n = 1)

女性:1年後歩行速度,サルコペニア欠損値(n = 2)

3. ベースライン時要因別の1年後の変化

要因間のPearsonの相関係数はSMIとたんぱく質量が男性ではr = .877,女性ではr = .894,SMIとミネラル量が男性ではr = .766,女性ではr = .740であった(p < .001).たんぱく質量とミネラル量が男性ではr = .945,女性ではr = .912といずれも高い正の相関を示した(p < .001).ベースライン時の要因別握力の平均値(SD)の変化を表3に示す.男性の握力低下に対し,時間変化(η2 = .011, p = .014),ミネラル量不足(η2 = .123, p = .003),交互作用(η2 = .011, p = .018)と有意差が見られた.ミネラル量不足にのみ交互作用がみられ,ミネラル量不足であることが握力低下と関連していた.

表3  男女別ベースライン時の状態別握力の変化 N = 155
ベースライン時状態要因 男性(n = 60) 女性(n = 95)
ベースライン時握力(kg) 1年後握力(kg) η2 p ベースライン時握力(kg) 1年後握力(kg) η2 p
n 平均
(SD) 平均
(SD) 時間 要因 交互作用 時間 要因 交互作用 n 平均
(SD) 平均
(SD) 時間 要因 交互作用 時間 要因 交互作用
BMIやせ  1 33.4 ( ) 32.7 ( ) .000 .015 .000 .519 .620 .804  7 22.8 (4.4) 22.4 (3.6) .001 .016 .001 .337 .435 .623
BMI正常体重 41 34.2 (5.1) 32.7 (6.7) 70 21.3 (3.9) 22.0 (4.1)
BMI肥満 18 35.5 (6.3) 34.8 (7.7) 18 22.4 (3.1) 23.3 (4.7)
正常体脂肪率 19 35.1 (5.9) 33.6 (6.0) .010 .002 .000 .030 .748 .733 31 22.1 (4.3) 22.4 (4.5) .005 .003 .000 .067 .590 .454
高体脂肪率 41 34.4 (5.3) 33.2 (7.4) 64 21.4 (3.6) 22.2 (4.1)
正常SMI 37 36.1 (5.3) 35.5 (6.6) .013 .138 .005 .011 .002 .109 37 23.6 (3.4) 24.4 (4.0) .007 .167 .000 .024 <.001 .689
低SMI 23 32.2 (5.0) 29.8 (6.1) 58 20.4 (3.5) 21.0 (3.8)
非サルコペニア肥満 44 35.6 (5.6) 34.6 (6.8) .011 .090 .001 .023 .012 .472 59 22.7 (3.8) 23.2 (4.3) .008 .089 .000 .021 .001 .514
サルコペニア肥満 16 31.8 (3.9) 29.9 (6.4) 36 20.0 (3.3) 20.9 (3.7)
たんぱく質量充足 35 36.2 (5.4) 35.9 (6.3) .013 .155 .007 .011 <.001 .059 44 23.2 (3.5) 23.9 (4.1) .007 .133 .000 .027 <.001 .991
たんぱく質量不足 25 32.3 (4.8) 29.8 (6.4) 51 20.3 (3.6) 21.0 (3.8)
ミネラル量充足 32 36.0 (5.6) 36.0 (5.8) .011 .123 .011 .014 .003 .018 68 22.0 (3.7) 22.5 (4.2) .007 .013 .000 .025 .236 .567
ミネラル量不足 28 32.9 (4.8) 30.3 (7.1) 27 20.8 (4.0) 21.7 (4.3)
前期高齢者 23 36.3 (5.7) 34.6 (7.5) .011 .034 .000 .021 .130 .493 46 22.3 (3.8) 22.8 (3.7) .007 .019 .000 .028 .151 .476
後期高齢者 37 33.5 (5.1) 32.6 (6.6) 49 21.0 (3.8) 21.9 (4.6)

反復のある分散分析,有意水準p < 0.05

Ⅳ. 考察

1. 対象者のベースラインの特徴

男性ではベースラインの80%,女性では70.9%の対象者が1年後の測定も行っており,その特徴は脱落群と比較して男女ともに良好な状態であった.しかし,歩行速度は藤田(2015)や握力共に古瀬ら(2020)駒井ら(2016)の結果よりわずかに低かった.また,SMIと体脂肪率はSeino et al.(2005)の75~84歳の値を示し,サルコペニア肥満である者の割合は先行研究(藤田,2019Takayama et al., 2018)よりも高かった.これらのことから,本研究の対象者は一般的な高齢者よりも比較的虚弱な状態の対象者であったことが考えられた.これは,本研究の対象者は老人クラブに所属する地域住民であり,老人クラブが通常使用している会場で測定していることから,日常の生活において老人クラブの活動にのみ参加する生活範囲の狭くあまり活動的でない対象者が含まれていた可能性が考えられた.

2. 1年後の変化

ベースラインから1年後の変化では,男性ではたんぱく質量,ミネラル量,握力が低下していることが明らかとなった.握力の低下がみられた一方で歩行速度の変化がみられなかった結果は,先行研究(藤原ら,2006)の9か月後の時間による握力低下と通常歩行速度の上昇や前述した先行研究(長澤ら,2015)が示す通り,1年の変化において要介護状態への移行は握力が先行する可能性が考えられた.

女性と男性は異なる様相を示し,Kozakai et al.(2016)でも加齢による握力低下は女性が緩やかであり,性別による影響は否定できない.

3. 握力低下に関連する要因

男性ではミネラル量不足であることが握力低下に関連していた.ビタミンDは骨・カルシウム代謝調節に重要な役割を果たし(竹内,2013),ビタミンDのレベルと握力(Houston et al., 2007),骨密度(奥見,2015)や血中ビタミンD濃度(矢野ら,2018)と女性の握力が関連した.これらから,本研究では男性のみであるがミネラル量不足であることが1年後の握力低下に関連する要因となる可能性が示唆された.

以上より,男性では1年の時間経過で握力低下が生じる可能性があり,早期からの介護予防にはたんぱく質の摂取(長寿ねっと,2020)だけでなく,体成分のミネラル量が増加できるような支援を検討する必要性が示唆された.

4. 研究の限界と今後の課題

本研究は任意性に基づいた参加による結果であるため,2か年の研究参加が可能であった高齢者を対象とした分析となった.それにより一部の特性のある対象者の結果の報告となっており,一般化は難しい.食事摂取について調査をしていないため,食事と体成分の因果関係についての検討はできない.今回,1年後の変化を追跡することで早期に生じる変化を観察することができた.北村ら(2017)により追跡3年後にはプレフレイル群の15から20%の要介護発生率が報告されている.今後は食事に関する調査や要介護発生状況も含めて3年後,4年後まで追跡することで地域在住高齢者の体成分,体組成と筋力,身体機能の関連を明らかにしていくことが課題である.

付記:本論文の一部は第23回日本地域看護学会学術集会において発表したものである.

謝辞:本研究を実施するにあたりフィールドとの調整にご協力いただきましたA市生きがい健康部高齢介護室高齢支援担当福島奈緒美様,測定にご協力いただきましたビオラ和泉地域包括支援センターの皆様,研究にご協力いただきましたA市社会福祉協議会,A市老人クラブ連合会会長,老人クラブ会員の皆様に深謝いたします.本研究はJSPS科研費JP18K17661の助成を受けたものです.

著者資格:FTは研究の着想,デザイン,助成金の獲得,実施,分析,草稿の作成;HTは研究の実施,分析,草稿の確認;MKは文献レビュー,分析,草稿の確認.全ての著者は最終原稿を読み,承認した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

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