日本看護科学会誌
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認知症高齢者に対する効果的な口腔ケアに向けた文献検討
香山 真衣子中島 富有子原 やよい
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2020 年 40 巻 p. 587-593

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Abstract

目的:認知症高齢者の効果的な口腔ケアに向け,看護師が実践しているケアの現状と,それを踏まえた今後の課題について示唆を得るため,国内文献の知見を整理すること.

方法:医学中央雑誌Web版(Ver. 5)とJDream IIIをデータベースとして,「認知症」「口腔ケア」をキーワードとして検索し,22件の原著論文を分析対象とした.

結果:器質的口腔ケアに関するものが15件,機能的口腔ケアに関するものが7件であった.【器質的口腔ケア実践の問題点】【看護師による口腔ケアの工夫】【他職種による口腔ケアの工夫】【多職種連携による口腔ケアの効果】に分類された.

結論:本研究結果による認知症高齢者の口腔ケアの現状から,看護師の認知症高齢者の口腔ケアに関する知識・技術をさらに向上させるための教育,認知症高齢者の口腔ケア実践において常に多職種連携が行える環境の確立と,その環境を整備する能力を看護師が身に付けることが,今後の課題であると考えられた.

Translated Abstract

Purpose: The purpose of this study is to organize knowledge from the domestic literature for the effective oral health care of the elderly with dementia, and to get the suggestion about the actual state of the care that nurses are practicing and the forthcoming research problems in consideration of it.

Methods: A literature search was conducted in two databases, the Japan Medical Abstract Society (JAMAS) and JDream III, using the keywords “Dementia” and “Oral Health Care”. As a result of the search, we included 22 original papers for analysis.

Results: There were 15 papers about structural oral health care and 7 papers about functional oral health care. The result of the content analysis classified: “Problems of structural oral health care practice”, “Ingenuity of the oral health care by nurses”, “Ingenuity of the oral health care by other professionals” and “Ingenuity of the oral health care by multiple professionals”.

Conclusion: In the actual state of oral health care for the elderly with dementia by the result of this study, it was suggested that the following attempts are forthcoming research problems: the education of nurses to improve knowledge and a technique about the oral health care of elderly with dementia, the environmental establishment for multiple professionals cooperation always available in oral health care practice, and the acquisition of ability of nurses to coordinate it.

Ⅰ. 緒言

わが国の65歳以上の認知症高齢者は,2012年は462万人で65歳以上の高齢者全体の約7人に1人であったが,2025年には約5人に1人になると推計されている(内閣府,2017).増加傾向にある認知症高齢者のADL・QOLの維持・向上を目指すための看護が今後,より一層必要になると考える.

本研究では,認知症高齢者が認知機能低下により,口腔ケアが十分に行えないことに着目した.認知症高齢者は,加齢による唾液分泌の減少などに伴い口腔衛生が保ちにくく,嚥下機能が低下し口腔の健康問題が生じやすい(古屋,2016弘中,2009).さらに認知機能の低下により,口腔ケアの必要性が理解できず,何をされるかわからないなど不安が生じ,口腔ケアを拒否する場合がある(白部,2019大野,2017).Chen et al.(2015)は,認知症高齢者は齲歯が重症化する傾向があり,認知機能の低下と口腔セルフケア能力の低下,齲歯の重症化の間には相関関係があることを明らかにしている.高齢者の口腔の健康と全身の健康との関連については,これまでにも様々な研究があり,口腔ケアには,誤嚥性肺炎予防(Maarel-Wierink et al., 2013),認知症予防(Yamamoto et al., 2012),脳の活性化(森田ら,2012)などの効果があることが明らかになっている.これらの研究結果から見ても,認知症高齢者にとって,健康維持や認知機能の維持・改善につながる口腔ケアは重要である.

本研究では,認知症高齢者の効果的な口腔ケアに向け,看護師が実践しているケアの現状と,それを踏まえた今後の課題について示唆を得るため,まず国内文献の知見を整理することを研究目的とした.本研究において,国内における認知症高齢者の口腔ケアに関する認識や実践の現状と限界,今後必要と考えられる新たな知見の方向性を見出すことにより,次段階として国外文献の検討を行う際には,問題を焦点化し,より具体性・新規性のある視点を持って,課題の改善に向けた対策を検討することができると考えた.

Ⅱ. 用語の定義

厚生労働省の健康用語辞典(厚生労働省,2008)を参考に,「口腔ケアは,口腔の清潔を保つ器質的口腔ケアと,摂食・嚥下などの口腔機能を維持・回復させる機能的口腔ケアの双方を含んだ用語」とした.

Ⅲ. 研究方法

医学中央雑誌Web版(Ver. 5)とJDream IIIをデータベースとして用い,((認知症/TH or認知症/AL)and(口腔ケア/TH or口腔ケア/AL))をキーワードとして検索した(2019年9月実施).研究の動向とタイムリーな課題を把握するため,過去10年間の文献とした.検索の結果,医学中央雑誌Web版(Ver. 5)が163件,JDream IIIが19件であった.その中から解説・特集など,認知症高齢者に対する口腔ケアの方法や効果について一般化・簡略化した内容の文献は除外した.原著論文として,①認知症高齢者の口腔ケアに関して調査し,問題を明らかにした上で,改善に向けた対策を検討しているもの(調査研究),②口腔ケアに関連する具体的な問題を抱えた認知症高齢者の事例を取り上げ,対象者に合わせたケアを実践し,何らかの結果が得られたと報告されているもの(事例研究)を選定した.①については,認知症高齢者の口腔ケアに関連する調査結果に基づいて考察し,今後の課題について言及していること,②については,認知症の進行度合いを具体的に把握した上で,認知症高齢者が個別に抱える問題に関し,個別性のある手技を用いて改善を試みていることを条件とした.これにより,認知症高齢者の口腔ケアの現状に関して,より詳細な知見が得られると考えた.さらに文献を読み込み,認知症高齢者の効果的な口腔ケアに関連する結果について抽出した.各文献で明らかになった知見を検討し,最終的に,22件の原著論文を分析対象とした.分析は,まず,各論文で明らかになった効果的な口腔ケアに関する知見を要約した.要約した内容の類似性に着目して分類し,カテゴリ化した.カテゴリには,その内容を示す命名を行った.

Ⅳ. 結果

22件の文献を分析した結果,器質的口腔ケアに関するものが15件,機能的口腔ケアに関するものが7件であった.看護師が認知症高齢者の器質的口腔ケア実践において,技術的・心理的に充足していない現状があるという「器質的口腔ケア実践の問題点」,看護師が自身の持てる知識や技術を実践し,認知症高齢者の口腔の器質的・機能的健康の維持・向上を目指した「看護師による口腔ケアの工夫」,同様の目的を持ち,主に歯科医療者が,より専門的な知識と技術を用いて行った「他職種による口腔ケアの工夫」,看護師と他の専門職者が協働することで,認知症高齢者の口腔ケア実践がより個別性を深め,ADL・QOLの維持・向上に寄与する結果となった「多職種連携による口腔ケアの効果」の4つのカテゴリに分類できた.以下,カテゴリ毎に説明する.

1. 器質的口腔ケア実践の問題点

口腔ケア実践の問題点として,器質的口腔ケアについて分析した文献が4件であり,機能的口腔ケアについて分析した文献はなかった.器質的口腔ケア実践の問題点は,認知症高齢者の問題点2件と看護師の問題点2件があった.

認知症高齢者の問題点として,倉重・村重(2019)は,歯牙本数の減少,歯磨き行動における自立度の低下,食事や水分飲用の拒否が,認知症高齢者の歯磨き行動を困難にすることを明らかにしていた.福田ら(2018)の,口腔ケア行動の自立度と認知症の重症度の比較によれば,「歯磨き」と「義歯着脱」の自立度は認知症の重症化に従って低下するが,「うがい」の自立度は中等度までは,比較的保たれることを明らかにしていた.

看護師の問題点として,小園ら(2018)は,口腔ケアを拒否する認知症高齢者の,身体を押さえることの申し訳なさなどの負の感情,新人看護師の技術不足などを明らかにし,認知症高齢者に対して適切な口腔ケアを行うための経験と判断力の必要性を指摘していた.また小園ら(2017)は,指導的立場にある看護師へのインタビューデータと書籍を比較検討した結果から,多岐にわたる口腔ケア方法がある中で,認知症高齢者に適した口腔ケアを選択することには困難があることを明らかにしていた.

2. 看護師による口腔ケアの工夫

看護師による口腔ケアの工夫を分析した文献が9件であった.

器質的口腔ケアの工夫として,昆布茶(滝澤ら,2015),デンタルリンス(井東・宇山,2012),フレーバー付歯磨き粉(田島・谷本,2009)などを活用することにより,認知症高齢者の口腔衛生状態が改善されていた.機能的口腔ケアの工夫として,唾液腺マッサージ(滝澤ら,2015井東・宇山,2012),K-point刺激法(大村,2009)の実施により,嚥下機能の改善がみられた.認知症高齢者の心理面へのアプローチとしては,器質的口腔ケアの工夫として,安全安楽なかかわりで,ケアの受け入れにつなげる(藤原,2017),機能的口腔ケアの工夫として,警戒心を抱かせない接し方で歯肉マッサージを実施し,脳の活性化を図る(西村・竹田,2017),信頼関係を深め,経口摂取への意欲を引き出す(河野,2015),笑顔を意識した口腔ケアにより,自立した経口摂取へとつなげる(増谷・堂元,2009)などが示されていた.口腔ケアの教育に関するものとしては,カンファレンスや学習会の開催によるケアの質の向上(石原・梅津,2015),チェック表の使用(新垣ら,2015)や院内研修(高松・望月,2011)による口腔ケア方法の統一があった.

3. 他職種による口腔ケアの工夫

他職種による器質的口腔ケアの工夫を分析した文献が4件であった.

山本ら(2019)は,歯科医師および歯科衛生士が行う定期的な口腔ケアにより,現在の歯数や嚥下機能を維持できたことを明らかにしていた.西谷・坂下(2014)は,歯科衛生士が行う心地よい口腔ケアにより,認知症高齢者が拒否することなくケアを受け入れたことを明らかにしていた.柴田ら(2014)は,看護師と歯科衛生士が連携することで,看護師による口腔ケアの質が向上することを明らかにしていた.齊藤ら(2017)は,歯科医師が口腔ケアを行うことによって,口腔内細菌の数と種類が減少したことを明らかにしていた.

4. 多職種連携による口腔ケアの効果

多職種連携による口腔ケアの効果を分析した文献が3件であった.

米井・浦田(2018)添島ら(2014)は,経管栄養中の認知症高齢者に対して,看護師が医師,歯科衛生士,管理栄養士,作業療法士などの多職種と連携して口腔ケアを行うことにより,経口摂取が可能になった症例を報告していた.那須ら(2012)は,看護師が歯科医師・歯科衛生士と連携することにより,認知症高齢者の口臭や舌苔の改善が見られたことを明らかにしていた.

表1  認知症高齢者の口腔ケアに関する文献
分類 掲載年 タイトル 対象 研究の概要
器質的口腔ケア実践の問題点 2019 精神科病院入院中の認知症患者の歯磨き行動のむらに関連する要因 精神科病院に入院している認知症患者21名 患者の歯磨き行動のむらは,食事拒否の有無,歯磨き行動動作自立度,歯牙の有無,水分引用拒否の有無,認知症行動障害尺度(DBD)で「常にある」が1つ以上ある,との間に強い関連性がみられた.
2018 自宅で生活する認知症高齢者の認知機能重症度別にみた口腔清掃自立度の特徴~IADL,ADLとの比較~ 在宅認知症高齢者49名 「歯磨き」の自立度は,軽度100%,中等度75%,重度66.7%であった.「義歯着脱」の自立度は,軽度100%,中等度71.4%,重度57.1%であった.「うがい」の自立度は,軽度100%,中等度100%,重度60%であった.
看護師による口腔ケアの工夫 2018 指導的立場にある看護師の重度認知症高齢者に対する口腔ケア実践における思いの構造 認知症治療病棟に勤務する指導的立場にある看護師8人 看護師の口腔ケア時には,口腔ケアを拒否する認知症高齢者の身体を押さえることの申し訳なさなど負の感情,新人看護師の技術不足などがあり,認知症高齢者に対して適切な口腔ケアを行うための経験と判断力や,システム化された丁寧な口腔ケアが必要であった.
2017 重度認知症高齢者に対する口腔ケア方法の明確化 重度認知症高齢者に対する口腔ケアガイドラインの作成に向けて 重度認知症高齢者への口腔ケアを実践している看護師8名 口腔ケア介入が必要とされる状態20項目,実践している口腔ケア方法89コードが抽出された.中でも,『実行機能障害・記憶障害・失認失行』『拒否』という状態は,口腔ケアを困難にする要因であり,それらに対するケア実践方法へのニードが高かった.
2017 口腔ケアからの認知機能改善を試みて 食行動の改善といきいきとした表情へ向けて アルツハイマー型認知症・統合失調症の70代女性 ①拒否率⇒1期で29%,3期に7%,5期に0%,②FCR⇒最低で1.25(2期),最高で2.00(4・6期)③フェイススケール⇒最低で1.79(4期夕),最高で2.90(2期昼)であった.日々の表情も次第に柔らかさが見られるようになった.
2017 口腔ケアの受け入れが困難な認知症高齢者への看護師によるアプローチ 認知症病棟あるいは療養型病棟看護師3人,認知症高齢者8人 ①安全安楽を基盤にして展開されるその人を中心とした口腔ケア,②その人の自律を促すケア,③その人らしい生活を支える口腔ケア,が口腔ケアの受け入れにつながると考えられた.
2015 重度認知症患者に対して積極的に口腔ケアを実施することで経口摂取機能を改善できた取り組みの一考察 重度認知症により長期にわたり経口摂取が困難な80代男性 1日3回各食後に,看護計画に基づいて口腔ケアを実施した結果,食事を自力で摂取するようになり,58日目に濃厚流動食から嚥下食に変更した.言語による意思の伝達が大幅に改善し,自発的な発言も聞かれるようになった.
2015 認知症病棟における口腔ケアの取り組み 肺炎予防に着目して 認知症治療病棟入院患者 病棟での口腔ケアを,チェック表を用いて実施した結果,病棟での発熱回数が1年間で180回から50回まで減少した.頻回な発熱者2名を比較すると,わずかな発熱回数の減少や,蓄痰が悪化しないなどの効果が見られた.
2015 昆布茶と唾液腺マッサージを用いた口腔ケアの効果 経管栄養を行っており口腔乾燥がある認知症・精神疾患患者4名 昆布茶と唾液腺マッサージを用いた口腔ケアを実施した結果,唾液分泌は3名が乾燥状態から境界/軽度低下状態へと変化した.口腔内状態は,出血・口臭の改善,舌苔の軽減につながった.
2015 高齢者ケア施設におけるケアの質向上に向けた取り組み 老健施設入所者およびそのフロアに勤務する看護職7名・介護職20名 ケアプランの検討とケアカンファレンスの開催,学習会を実施した.ケアカンファレンスを推進する看護職の育成,話しやすい職場風土創りが,高齢者ケア施設において倫理に適った質の高いケアを確実に行うことに繋がると考えられた.
2012 拒否のある認知症患者への口腔ケアを通したかかわり デンタルリンスや唾液腺マッサージを取り入れて 口腔内の乾燥が強く,口腔ケアに対し拒否が強い認知症患者2名 唾液腺マッサージや保湿ジェルに加え,デンタルリンスを併用しケアを行った.6週間の介入後,時折乾燥はみられたが舌苔は消失し,口腔ケアの要望や感謝の言葉が聞かれるなど,コミュニケーション能力の向上につながった.
2011 認知症治療病棟における口腔ケアの定着に向けて 病棟スタッフ全員(看護師5名,准看護師7名,看護助手7名) 「決められた時間に口腔ケアを実施する」という方針のもと,患者の口腔内の状態にあった歯ブラシを選択した.2か月後には,実施時間帯や必要物品に関して良い評価が得られ,また口腔ケアに関連した患者の行動・状態に良い変化が見られた.
2009 開口しない重度認知症患者への援助 K-point刺激法を活用して 開口・口腔ケアの実施が難しい認知症患者2名 K-pointを刺激することで開口を促し,スポンジブラシを用いる口腔ケアを実践した結果,口臭の軽減,唾液分泌の促進,発熱・肺炎発生予防の効果が見られた.ゼリーや食事の摂食量の増加や,食事時間の短縮が見られた.
2009 胃瘻栄養中の患者に対する経口摂取へのかかわり 高齢認知症患者への口腔ケアを通して 口腔ケアへの拒否の強い90代の認知症患者 コミュニケーションをとりながら,少しずつ自己での歯磨きを促すことで,口腔内環境の改善がみられた.昼食をおむすびと味噌汁に変更したところ,すすんで摂取するようになり,会話や笑顔が多くみられるようになった.
2009 脳血管障害における認知症患者への口腔ケアを通して ―種々のフレーバーを用いた事で変化が現れた2事例― 口腔ケアの必要性を理解できず,自分で行おうとしない認知症患者2名 5種類のフレーバーの歯磨き粉を用いて口腔ケアを実施したところ,1つのフレーバーに興味を示す,口腔ケア後に新聞を読む習慣が戻るなど,味覚刺激によって脳の活性化を図り,意欲の向上につなげることができた.
他職種による口腔ケアの工夫 2019 口腔ケアが認知症患者にもたらす影響 グループホーム入居中の60歳以上の認知症患者760名 歯科医師および歯科衛生士による口腔ケアを週1回行い,口腔内の状態を週1回,要介護度を年1回評価した.定期的な口腔ケアは,現在歯数,要介護度および口腔機能を維持し,認知症患者のQOL維持に寄与することが示唆された.
2017 認知症患者における口腔ケア前後の口腔内細菌数と種類の変化について アルツハイマー型認知症と診断された86歳の女性 口腔ケア前後での口腔内細菌数と種類を,培養により調査・検討した.ケア前ではレンサ球菌が大部分を占めており,続いてグラム桿菌,真菌群,グラム球菌が認められた.ケア後では真菌群とグラム桿菌は確認されなかった.
2017 歯科衛生士介入による病棟看護師の口腔ケアに対する認識変化 認知症病棟を含む5病棟に勤務する看護師 口腔ケアの回数は,歯科衛生士が介入することで全ての時間帯(朝・昼・夜)で増加した.看護師が口腔ケアを行うことが困難な症例であっても,歯科衛生士が看護師に実践できる方法を指導することで,看護師の口腔ケアに対する認識が変化した.
2014 口腔ケアを受け入れない認知症高齢者の心地よさに繋がる口腔ケアの探究 ―歯科衛生士が用いている口腔ケア技術の抽出― 介護老人保健施設勤務の歯科衛生士3名と,担当認知症入居者4名 歯科衛生士はケア導入時に丁寧に時間をかけ,対象を理解・尊重し,反応を見ながら不快感や不安を与えないようにケアを進めていた.快の刺激を与え,心地よさを引き出すため疼痛を減らす,不快な場所の刺激は最小限にするなどの配慮をしていた.
多職種連携による口腔ケアの効果 2018 拒食状態が続く,高齢患者に対する経口摂取への取り組み 多職種と連携した摂食訓練 寝たきりで閉眼・無言状態下での拒食状態が続く80代女性認知症患者 歯科衛生士の指導のもと,唾液腺マッサージや口腔内K-point刺激を開始した.介入12週目には発語や笑顔が増え,コミュニケーションが可能となり,食事形態も全粥・極キザミ食へ変更し摂取できるようになった.
2014 胃ろうから経口摂取へ 「食べたい!」その思いに応えて アルツハイマー型認知症を持つ胃ろう造設患者 歯科衛生士に定期的な訪問を依頼し,口腔ケアの指導を受け,栄養士による嚥下食の試作品を,内科医・看護部・栄養部で試食しながら検討した.訓練食は段階的に変更され,口腔リハビリにも意欲が見られ,言動は穏やかになっていった.
2012 個別的な口腔ケアによる口腔内状態とストレスの変化 認知症・精神疾患患者5名 個別的なケア方法を,歯科医・歯科衛生士の協力を得てカンファレンスで検討し,各対象者に応じた口腔内ケア方法を10日間実施した.口臭,舌苔の蓄積が減少し,湿潤状態が維持できた.3名のストレス度合いは減少したが,2名は増加した.

Ⅴ. 考察

22件の文献を分析した結果,器質的口腔ケアに関するものが15件,機能的口腔ケアに関するものが7件で,機能的口腔ケアに関する研究が少なかった.機能的口腔ケアに関する研究は,嚥下機能や嚥下訓練などのキーワードで研究が行われているため(正畑ら,2015藤田ら,2015),今後は,そのような文献の分析も加えていく必要があると考えられた.

本研究では,認知症高齢者の口腔ケアに関する文献を検討し,「器質的口腔ケア実践の問題点」「看護師による口腔ケアの工夫」「他職種による口腔ケアの工夫」「多職種連携による口腔ケアの効果」の4つのカテゴリに分類できた.これらの結果を踏まえ,以下のように考察した.

1. 器質的口腔ケア実践の問題点

論文の知見として,器質的口腔ケア実践の問題点については,認知症高齢者の問題点を踏まえながら,看護師の問題点を改善する必要性が示唆された.

倉重・村重(2019)は,歯牙本数の減少が認知症高齢者の歯磨き行動を困難にすることを示した.Kyeong & Yoon(2019)は,歯牙のある者は歯周炎等の口腔問題があっても,歯牙がない者に比べて認知症になりにくい傾向があることを明らかにしており,道川(2017)は,歯周病による慢性炎症や歯牙欠損による咀嚼機能低下が,認知機能障害をもたらすことを明らかにしていることから,口腔ケアにおいては,歯牙の本数を減少させないことが重要であると考えられた.

また,福田ら(2018)により,「うがい」の自立度は,中等度まで認知症が進行しても比較的保たれる傾向があることが示され,認知症の重症度によって口腔ケアの自立度が異なることを踏まえた介入が必要であると考えられた.

看護師の問題点が分析されていた文献では,小園ら(2018)が,口腔ケアを拒否する認知症高齢者の身体を押さえることの申し訳なさなど,負の感情を明らかにしていた.西谷・坂下(2014)の研究では,歯科衛生士が行う心地よい口腔ケアの方法が詳細に示されており,このような口腔ケア技術を身に付けることで,看護師が抱く負の感情も改善される可能性が示唆された.また,新人看護師の技術不足や,認知症高齢者に応じた口腔ケアを行う判断能力については,横塚ら(2012)による研究の結果を踏まえると,看護師に対する適切な教育が有効ではないかと考えられた.小園ら(2017)が示した,多岐にわたる口腔ケア方法の中から対象者に適したものを選択する困難さは,伊東ら(2018)による高齢者の誤嚥性肺炎予防,宮崎(2017)による周術期における有効な口腔ケア方法の研究でも指摘されており,看護師が認知症高齢者の状況に応じた適切な口腔ケア方法を選択するための,専門的な教育が必要であると考えられた.

2. 看護師による口腔ケアの工夫

看護師による様々な物品や手技を活用した口腔ケアの工夫が明らかになり,看護師の知識や技術が,認知症高齢者の口腔内の健康の維持・向上につながることが示された.しかし,認知症高齢者に対する口腔ケアマニュアルや,認知症高齢者の状態に合わせた口腔ケアの教育プログラムは見当たらなかった.山本ら(2016)の研究から推察できるように,効果的な方法であっても,適切な教育によって普及されなければ,多くの場で有効に活用されるのは難しいと考えられた.しかし,口腔ケアの教育(石原・梅津,2015高松・望月,2011)に関する文献数は少なく,今後さらなる教育研究が必要であると考えられた.

また,認知症高齢者に対する口腔ケアは,心理面へのアプローチも重要であることが示唆され,看護師がそのようなスキルを身に付けることも課題であると考えられた.

3. 他職種による口腔ケアの工夫

他職種による口腔ケアの工夫について,遠藤ら(2015)は,看護師は口腔内の異常の早期発見ができる立場であるため,認知症高齢者の口腔内の状態が悪化した場合には,早期に歯科衛生士と連携することの重要性を述べていた.安本・平田(2019)は,看護師が認知症高齢者への適切な口腔ケア方法について悩んでいる現状から,口腔ケアのエキスパートである歯科衛生士や歯科医師と連携する必要性を示していた.認知症高齢者の口腔の状態を判断し,必要時は歯科関連職種との連携を進められる看護師の能力の向上が重要と考えられた.

4. 多職種連携による口腔ケアの効果

米井・浦田(2018)那須ら(2012)の研究結果から,多職種が連携することにより,認知症高齢者に対して効果的な口腔ケアが実施できることが明らかになった.そのためには,安本・平田(2019)遠藤ら(2015)が示唆しているように,看護師が多職種との適切な連携体制を整える力を身に付けることと,それを可能にする環境の整備が今後の課題であると考えられた.認知症高齢者の口腔ケアにおいて,常に多職種連携ができる環境を整えることによって,認知症高齢者の口腔の健康の維持・向上が,より一層期待できると考えられた.

Ⅵ. 結論

本研究では,認知症高齢者の口腔ケアに関する文献を分析し,「器質的口腔ケア実践の問題点」「看護師による口腔ケアの工夫」「他職種による口腔ケアの工夫」「多職種連携による口腔ケアの効果」の4つのカテゴリに分類できた.認知症高齢者の口腔ケアの現状には,認知症高齢者・看護師相互が抱える問題があり,効果的なケア実践のためには,看護師に対する適切な教育を基盤とした上で,ケア方法の工夫や,多職種との連携を積極的に行うことが重要であった.本研究結果を踏まえ,看護師の認知症高齢者の口腔ケアに関する知識・技術をさらに向上させるための教育,認知症高齢者の口腔ケア実践において常に多職種連携が行える環境の確立と,その環境を整備する能力を看護師が身に付けることが,今後の課題であると考えられた.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:MKは原稿作成の全過程を実施;FNは文献選択および分析と解釈への助言,原稿への示唆;YHは原稿への示唆,助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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