日本看護科学会誌
Online ISSN : 2185-8888
Print ISSN : 0287-5330
ISSN-L : 0287-5330
原著
患者-看護師関係における看護師の専心のプロセス
牧野 耕次比嘉 勇人
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2021 年 41 巻 p. 37-44

詳細
Abstract

目的:患者-看護師関係における看護師の専心のプロセスを明らかにする.

方法:総合病院に勤務する看護師12名に半構成インタビューを実施し,M-GTAを用いて分析した.

結果:臨床の看護師は《生活者との関係構築》に集中し,《患者の思いへの配慮》に心を注ぎ,《患者の思いへの対応》に専念していた.その過程で《看護師の感情的反応》も経験していたが,《患者-看護師関係の維持》を行い《個別的なケア》に集中していた.以上のように,臨床の看護師は基本的に《患者を中心とすること》に専心しようとしていた.このプロセスを【流動的専心】としてとらえた.

結論:《看護師の感情的反応》をケアではないと個人の問題として抑圧したり,切り捨てたりするのではなく専心に内包し,患者-看護師関係のインボルブメントの概念枠組みでとらえることで,看護師は患者に起こっていることをアセスメントし,自身の感情の中で起こっていることと患者-看護師関係の中で起こっていることを振り返り,再度専心を患者に向け看護ケアを行うことが可能となると考える.

Translated Abstract

Objective: This study was conducted to clarify the process of nurse dedication in nurse-patient relationships.

Methods: Semi-structured interviews were conducted with 12 nurses working in a general hospital and the results of the interviews were analyzed using the modified grounded theory approach.

Results: Nurses concentrated on “building relationships with patients living in the community,” focused on “showing consideration for patients’ feelings,” and were devoted to “responding to patients’ feelings.” In this process, nurses also experienced “nurses’ own emotional response,” but concentrated on “personalized care” through “maintaining a nurse-patient relationship.” Accordingly, nurses tried to dedicate themselves to fundamentally “focusing on the patient.” This process was perceived as ‘fluid dedication.’

Conclusions: Nurses should be capable of assessing what is happening to patients, reflect on what is happening in their own emotional response and in the patient–nurse relationship, and rededicate themselves to patients by providing nursing care that incorporates the “nurse’s own emotional response” instead of suppressing or discarding it as a personal problem that is not related to care, and by perceiving the “nurse’s own emotional response” within the conceptual framework of involvement in the patient–nurse relationship.

Ⅰ. 緒言

患者-看護師関係において,かかわったり,巻き込まれたりすることであるインボルブメントの概念属性として,牧野・比嘉(2019)は「患者に専心する」をカテゴリーにあげている.専心とは,そのことだけに心を注ぐこと(新村,2018)であり,看護師が患者に専心することは,看護において基本となる重要な要素である.一方,臨床の現場では,高度に専門化された医療や医療事故防止対策,入院期間の短縮による重症患者のケアなどにより,患者-看護師関係における看護師の専心に多様で多重な負荷がかかる状況にある.

専心に関する先行文献をみると,看護以外の領域では体育心理学の分野でコミットメントの訳語として専心性が使用され,技能習得への影響が示唆されている(磯貝,1998).また,哲学者のMayeroff(1971/1989)は,専心(devotion)は「ケアにとって本質的なものである」と述べている.さらに,フェミニストで教育哲学者のNoddings(1984/1997)は専心没頭(engrossment)をケアリングにおける必要不可欠な意識状態の一つにあげている.

海外における看護では,専心に近似する語としてdedicationやdevotion,interest,concern,commitment,engrossmentなどが対応すると考えられる.dedicationとdevotionはともにラテン語の宗教的な語に由来し,意味の違いもほとんどみられない(Lea, 2008).dedicationとdevotionともに看護の文献で多様な品詞で使用され,おもに仕事や看護に対する専心(もしくは献身)として使用されている(Bonanni et al., 2009Middleton, 2013).患者-看護師関係におけるdedicationもしくはdevotionの概念に焦点当てた看護研究はみられない.interest(Nightingale, 1893/1974)とconcern(Benner & Wrubel, 1989/1999)は関心と訳されている.Nightingale(1893/1974)は,「症例に対する理性的な関心」「病人に対する心のこもった関心」「病人の世話と治療についての技術的な関心」という三重の関心(threefold interest)を提示している.また,Benner & Wrubel(1989/1999)は現象学的人間理解を背景に,人々への動機づけと方向づけを与えるのは関心(concern)であると述べている.commitmentは傾倒という意味もあるが,Benner & Wrubel(1989/1999)は,人が何かを大事に思っているということを記述するために社会学者が使う量的な用語と述べている.engrossmentについては,Noddings(1984/1997)のケアリングを引用する看護の文献(Crigger, 2001)がみられる.専心に近似し,専心以外の日本語にも訳されているこれらの英単語はいずれも対象とする人やものごと,行為などに対して,感情などの精神的な要素を集中的に向けることであり,ケアリングや看護と密接に関係している.専心と完全に対応する英単語を一つに同定することは難しい.例えば,西田(2018)は専心没頭と訳されているengrossmentを関心と言い換えている.これらの英単語は専心という現象を各文脈や理論的背景から近似する用語でとらえていると考えられる.

わが国では看護への専心(内田ら,2017)や患者への専心(山本・清水,2019)という使用がみられるが,専心をテーマとした研究はみられない.また,臨床現場で看護師は何に対してどのようなプロセスで専心しているのかという視点で,専心をテーマにした質的な研究も行われていない.理論的には患者-看護師関係を背景としたケアリングや看護の必要不可欠な要素として専心がかかわっていると考えられている.しかし,多様で多重な負荷がかかる状況にある臨床で看護師は「ケアにとって本質的なものである(Mayeroff, 1971/1989)」理論的な専心を一貫して行い続けることは難しく理論と実践において乖離があるのではないかと考える.乖離した部分の専心はどのように扱われるのであろうか.そこで本研究では,看護師が患者と出会い患者に応じた看護を行うまでの専心のプロセスを明らかにする.臨床看護における実際の専心のプロセスを明らかにすることで,その理論と実践に乖離があれば明確にし,患者-看護師関係における看護師の専心の新たな枠組みに関する示唆が得られると考える.

Ⅱ. 用語の定義

本研究における専心は,文脈や理論的背景の影響をできるだけ受けないよう,国語辞典(新村,2018)を参考に「そのことだけに心を注ぐこと」とする.

Ⅲ. 方法

1. 研究デザイン

本研究は,木下(2014)の修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(Modified Grounded Theory Approach以下,M-GTA)を用いた質的記述的研究である.M-GTAは,分析ワークシートを用いながら概念生成し,カテゴリーにまとめ,それらの関係性を図示することにより,理論構築を行う質的研究アプローチである.人間の相互行為を構造化することから,人間行動の実践理論生成に適しているといわれている.患者との相互作用である患者-看護師関係における看護師の専心に焦点を絞り,プロセスを明らかにすることが可能となるため,本研究ではM-GTAが適していると考えた.

2. 研究参加者

専心において個別に患者-看護師関係を構築する側面と,チームの一員である側面があるため総合病院に勤務する看護師を研究参加者とした.近畿圏内の400床以上の一総合病院の看護管理者に研究依頼文書を用いて説明し,許可を得たのち,研究参加者候補として各病棟に勤務する看護師の選出と研究依頼文書の配布を依頼した.のちに対象者の群分けで以下の方法をとるため,この時点では看護師の選出に関しては特別な条件は提示しなかった.

専心はそのことだけに心を注ぐことである.そのため「自分自身および自分以外との非物質的な結びつきを志向する内発的つながり性」(比嘉,2017)である個人のspiritualityは対象とする人やものごと,行為などに感情など精神的なものを向けるという点において,患者とのつながりを志向する専心に類似した概念であると考えた.そこで,文章完成法によるspirituality評定尺度(以下,SRS-B)(比嘉,2006)を使用し,研究参加者の「内発的つながり性」を属性としてとらえた.SRS-Bの評点レンジが0~10であることから,本研究では評点5以上を「高群」,5未満を「低群」として分類し,患者-看護師関係における看護師の専心のプロセスを特異的・理論的にとらえられると考えた.

3. データ収集方法

研究参加者にはプライバシーの確保できる施設内の1室を借り,約1時間の半構成インタビューを実施した.インタビュー内容はICレコーダーで録音し,逐語録を作成した.患者-看護師関係における看護師の専心のプロセスをより理論的にとらえるため,半構成インタビューにおける質問内容は次のとおりとした.すなわち,専心で気をつけていること,印象に残っている事例,後輩に専心について指導するとなった時に思い浮かぶこと,他の看護師からの助言で印象に残っていること,看護を始めた時と現在との専心の違いなどである.

また,インタビューに先立ち,データ分析における群分けのため,研究参加者に対してSRS-Bを実施した.データ収集は,2019年12月に実施した.

4. データ分析方法

M-GTAでは,収集したデータのアウトラインや文脈をもとにした概念生成を行うために,研究テーマに沿った分析テーマを設定する.また,データ中の社会的相互作用において主体となる分析焦点者を設定する.本研究では分析テーマを研究テーマと同じ「患者-看護師関係における看護師の専心のプロセス」と設定し,分析焦点者は「総合病院に勤務する看護師」とした.

分析では,全インタビュー終了後に研究参加者をSRS-Bの評点5以上の6名を「高群」,評点5未満の6名を「低群」として分類した.さらに,それぞれの群に対して,M-GTAの手順にしたがって,逐語録をもとに,患者とのかかわりにおいて看護師が集中し,意識が向けられている部分を抜粋して分析ワークシートを作成した.次に分析ワークシートを用いて患者-看護師関係におけるプロセスの文脈を意識しながら,概念を生成し,複数の概念が生成された段階で概念間の関係を検討した.さらに,概念の取捨選択を繰り返し,カテゴリー生成も同時に検討した.最終的に,概念とカテゴリー,コアカテゴリーの関係を図式化し,ストーリーラインをまとめた.なお,インタビューで,概念とカテゴリーの生成が追加されないと判断し,生成した概念とカテゴリーを用いて,分析テーマの現象を説明できることを研究者間で確認した時点で分析を終了した.結果は,看護教育研究者とM-GTAによる研究および指導経験が豊富な研究者間の検討により確証性を確保し,研究参加者にメンバーチェッキングを実施することにより結果の信憑性を確保した.

5. 倫理的配慮

看護管理者より紹介された研究参加者候補に研究依頼文書を用いて研究内容を説明し,研究への参加は自由意思によること,不参加や同意の保証,同意を撤回しても不利益のないこと,個人情報の守秘,学術資料以外への不使用などについても説明した.研究参加者からは,以上に関する同意書への署名を得た.滋賀県立大学研究に関する倫理審査委員会の承認を得た(承認番号:第656号).

Ⅳ. 結果

1. 研究参加者の概要

本研究参加者である看護師は,12名であった.また,看護師経験年数は3年から22年で平均11.0年,年齢は26歳から49歳で平均35.2歳であった.さらに,病棟所属経験も含めて表1にまとめた.

表1  研究参加者の概要
ID 年齢 看護師経験年数 SRS-B得点 所属経験
A 40歳代後半 15 3 精神科,混合
B 40歳代前半 22 4 消化器内科,呼吸器科,婦人科
C 30歳代前半 8 6 精神科,内科
D 20歳代後半 4 8 消化器外科,心臓血管外科
E 30歳代後半 15 7 産婦人科,外科,消化器内科,脳外科,整形外科
F 30歳代後半 10 1 救急,婦人科
G 30歳代後半 11 4 呼吸器科,循環器内科,泌尿器科,整形外科
H 40歳代後半 22 3 精神科,特別養護老人ホーム
I 20歳代後半 8 3 地域包括ケア病棟,消化器内科,脳外科
J 20歳代後半 7 6 脳外科,神経内科,消化器内科,血液内科
K 30歳代前半 7 6 小児科,NICU
L 20歳代後半 3 5 婦人科,内分泌内科

2. 患者-看護師関係における看護師の専心のカテゴリーと概念

分析の結果,患者-看護師関係における看護師の専心として,1個の【コアカテゴリー】,7個の《カテゴリー》,34個の〔概念〕が生成された.以下に,患者-看護師関係における看護師の専心の《カテゴリー》の内容について,自分自身および他者とのつながり性が増進・調和傾向にある高群と,自分自身および他者とのつながり性が減退・不全傾向にある低群との違いを含めて記述した.概念の定義と逐語録から抜粋した具体例を表2に示した.

表2 

患者-看護師関係における専心の概念とカテゴリー

1) 《生活者との関係構築》

《生活者との関係構築》において,看護師は患者を生活者としてとらえるために,話すための環境調整や接し方への配慮,治療以外の話をすること,生活者である患者の背景を知ることに集中していた.さらに,高群の看護師は,患者との共通点を意識し,自己開示をして,関係づくりに心を配っていた.また,低群の看護師は,かかわっても反応されないかその日の調子を気にかけていた.

2) 《患者の思いへの配慮》

《患者の思いへの配慮》において,高群の看護師は患者や家族がどのようにしたいと思っているのか,患者の本音,治療状況における困りごとや受け止め方に焦点を具体的に当て配慮していた.また,低群の看護師は,全体として治療状況において,患者がどのように思っているのかに焦点を当てていた.

3) 《患者の思いへの対応》

《患者の思いへの対応》において,看護師は患者の苦痛や思いについて共感することに集中していた.また,低群の看護師は特に,先入観を持たずに気持ちを引き出すために無になったり,表出を促したり,傾聴したりするなど患者の思いを引き出す自身の工夫に心を注いでいた.

4) 《看護師の感情的反応》

《看護師の感情的反応》において看護師は,患者の状況に対してどのようにしたらよいのかわからなくなったり,特定の患者のことだけに集中しすぎて周りが見えなくなったりしていた.高群の看護師は患者の状況を何とか自分が良い方向にもっていこうと気持ちを前面に出すことで,結果的に抱え込むことになっていた.本カテゴリーにおいて,看護師は自身の感情にとらわれ,結果的に自身の感情に集中することになっていた.

5) 《患者-看護師関係の維持》

《患者-看護師関係の維持》において,低群の看護師は,患者の思いに取り込まれないようにしたり,一方で治療状況において可能な範囲で巻き込まれたり,言いたいことをおさえたり,患者との距離を保ったりしながら,患者-看護師関係を維持することに心を注いでいた.

6) 《個別的なケア》

《個別的なケア》において,看護師は治療状況において,肯定的な側面をフィードバックしたり,忙しい中でも細かな患者のニーズに合わせたり,面会に来る家族に対しても不在時の患者の様子を伝えたり,話をきいたりすることに集中していた.さらに,高群の看護師は固定的にとらえずに具体的な患者の到達可能レベルをイメージしたり,自身の思いにこだわらずに患者に合わせたり,患者の思いを尊重したりしていた.また,低群の看護師は治療状況の展開を自分は予測できると考え,現実とのすり合わせをしたりしていた.

7) 《患者を中心とすること》

《患者を中心とすること》において,高群の看護師は,基本的に患者中心にかかわることを意識し心を注いでいた.

3. ストーリーライン

看護師は患者と話すための環境を整え,接し方に気を配り,治療以外の話などをしながら生活者としての患者の背景を知ろうとしていた.また,患者との共通点を意識し,自己開示したり,患者の調子を気にかけたりしながら《生活者との関係構築》に集中していた.さらに,患者の目標や困りごとや,治療の受け止め方など《患者の思いへの配慮》に心を注ぎ,共感したり,無になったりして,思いの表出を促し傾聴したりするなど《患者の思いへの対応》に専念していた.患者の思いを受け止め対応する中で,ときに困難感でいっぱいになったり,その患者のことばかりになったり,抱え込んだり,頑張ったりするなど《看護師の感情的反応》を経験していた.やがて,患者-看護師関係が構築されはじめると,患者に取り込まれないようにしたり,ルールの範囲内で患者に巻き込まれたり,言いたいことおさえたりしながら,患者との距離を保ち《患者-看護師関係の維持》にも集中していた.患者-看護師関係が構築され,その関係を維持しながら,看護師は肯定的な側面にかかわり,家族も含めて細やかなケアを行っていた.また,患者の目標をイメージし,患者に合わせて尊重しながら,展開を予測し現実とすり合わせ,《個別的なケア》に集中していた.以上のように,看護師は基本的に《患者を中心とすることに》専心しようとしていた.

多様で多重な負荷がかかる実際の臨床現場では,患者-看護師関係における看護師の専心の対象は,その状況に応じて基本的には患者に向かっていた.最終的には,個別的なケアに向かっているが,専心の対象は意図的なものから無意識的なものとなったり,患者の思いから看護師自身の行為や感情になったりしていた.ときに,集中しすぎて周りが見えなくなったり,どうしていいかわからなくなったりするなど,専心の対象は変化していた.このような患者との出会いから個別的なケアを行うまでに至る専心の変化のありようである「患者-看護師関係における看護師の専心のプロセス」をコアカテゴリー【流動的専心】とした.

Ⅴ. 考察

1. 患者-看護師関係における看護師の専心のプロセス(図1

患者-看護師関係における看護師の専心のカテゴリーはプロセスとして連関していた.患者との出会いから個別的なケアを行うまでのプロセスを理論的全体構造として図のようにとらえた.臨床の看護師においては,「つながり性の増進・調和(相互主体性の関係)」が早期に実現する専心のプロセスもあれば,「つながり性の減退・不全(主体性の不在)」が続く専心のプロセスもありえる.つまり,専心のカテゴリー《患者の思いへの配慮》と《患者の思いへの対応》のようにspiritualityの高群と低群に明確に分かれているわけではなく,実際は両群共通のカテゴリーと明確な区別はなく共存していると考えられる.また,spiritualityの高群の看護師と低群の看護師における《患者の思いへの配慮》(患者の目標や本音,治療の受け止め方など)と《患者の思いへの対応》(無になったり,表出を促したり,傾聴したりするなど)には具体性という点において相違がみられたため,相違の比重を相対化して図示した.その中でときに起こる《看護師の感情的反応》と他のカテゴリーと接する部分を点線とすることで必ず起こるわけではないことを示した.

図1 

患者-看護師関係における看護師の【流動的専心】のプロセス

患者-看護師関係における看護師の専心のプロセスが図示されたことで,臨床の看護師は自身の関心や集中がどのようになっていてどこに向いているのかなど,専心を振り返る指標とすることが可能となる.

2. 患者-看護師関係における看護師の専心に関する新たな枠組みの提示

理論的に専心は,ケアにとって本質的なものといわれている(Mayeroff, 1971/1989).本研究結果における専心のカテゴリー《生活者との関係構築》《患者の思いへの配慮》《患者の思いへの対応》《患者-看護師関係の維持》《個別的なケア》《患者を中心とすること》はケアにとってどれも本質的なものといえる.一方で,本研究結果では《看護師の感情的反応》が生成されている.《看護師の感情的反応》は下位概念に〔困難感があふれること〕〔その患者のことだけになる〕などを有し,結果的に自身の感情が強く意識され,看護師の感情が専心の対象となっている.《看護師の感情的反応》は専心の対象が患者や看護に関連する行為ではなく,他のカテゴリーとは異質であり,ケアにとって本質的であるとはいいがたい.それは一般的に献身的な看護という表現があるように,看護では「自身のことよりも相手に関心を向けるもの」であるという暗黙の前提によると考えられる.すなわち,理論的に専心はケアにとって本質的なものといわれているが,実際の専心のプロセスではときに《看護師の感情的反応》がみられ,ケアにとって本質的である理論的な専心を一貫して行うことは難しく理論と実践において乖離がみられた.牧野・比嘉(2019)は,「巻き込まれ」を否定的なものとしてとらえた場合,看護の枠組みの中で行われたことが個人の資質や性格の問題として看護から切り離されて認識される危険性があると述べている.同様に,《看護師の感情的反応》に専心が移った場合,看護の枠組みの中で行われたことが個人の資質や性格の問題として看護から切り離されて認識される危険性がある.なぜなら,専心はケアにとって本質的なものであり,ケア(ケアリング)は看護の中心概念といわれているからである.

前段のとおり,臨床において《看護師の感情的反応》へと専心が移った場合,本質的なものとするケアリング(看護)の理論的な枠組みに収まらず,看護師が個人的な問題として抱え込む可能性が示唆された.牧野・比嘉(2019)は,「患者に専心する」をインボルブメントの属性の一つとしてあげ,インボルブメントの帰結にカテゴリー「否定的な変化」のサブカテゴリーとして「看護師の感情的な問題」を抽出している.その考察で,「巻き込まれ」をケアリングによる看護の理論的枠組みであつかうことの限界に対して,インボルブメントの概念枠組みであつかうことで看護としてとらえることが可能であることを示唆している(牧野・比嘉,2019).同様に,臨床において《看護師の感情的反応》に専心が移った場合についても,ケアリングではなく,インボルブメントの概念枠組みを用いることで,看護の枠組みの中で振り返り肯定的な変化を引き起こすことが可能となる.具体的には,患者にどのようにかかわっていいのかわからなくなるなど〔困難感があふれること〕や,周りが見えなくなってしまうほど〔その患者のことだけになる〕ことで患者に専心できなくなる状況はよくあることである.それをケアではないと個人の問題として抑圧したり,切り捨てたりするのではなく,患者-看護師関係のインボルブメントの概念枠組みでとらえることで,患者に起こっていることをアセスメントし,自身の感情の中で起こっていることと患者-看護師関係の中で起こっていることを振り返り,再度専心を患者に向け看護ケアを行うことが可能になると考える.

以上のように《看護師の感情的反応》を内包した患者-看護師関係における専心の新たな枠組みをインボルブメントの概念枠組みでとらえることが提案された.この提案を実践することで臨床の看護師は専門職として《看護師の感情的反応》を切り捨てることなくあつかえるようになり,ケアリングに関する看護の中心的な領域において,振り返りにより実践の中でその専門性を高めることが可能となると考える.

謝辞:本研究に参加してくださった看護師の皆様に心より感謝申し上げます.本研究は,2017~2021年度科学研究費助成事業(学術研究助成金)基盤研究(C)(17K12169)の助成を受けたものである.

利益相反:本研究において,利益相反は存在しない.

著者資格:MKは本研究を着想し,デザインした.また,データの収集,分析,結果,考察,論文作成を担当した.HHは,結果と考察に助言し,論文に加筆・修正を加えた.本論文の最終版は両著者により承認されている.

文献
 
© 2021 公益社団法人日本看護科学学会
feedback
Top