日本看護科学会誌
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原著
看護職が「嚥下障害」を臨床判断するための診断指標の内容妥当性に関する研究
西澤 和義大島 弓子
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2021 年 41 巻 p. 132-140

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Abstract

目的:看護職が嚥下障害を臨床判断するための内容妥当性のある診断指標を明らかにし,major指標とminor指標も明らかにする.

方法:本研究はFehringのDCVモデルを使った.嚥下障害の看護診断に精通した専門家672人に質問紙調査を行った.診断指標78項目が,どの程度嚥下障害を表すか,5段階のリッカート尺度で評価をうけた.各診断指標で,回答を点数化してDCV値(平均値)を算出した.DCV値でmajor指標,minor指標,除外する指標に分けた.

結果:有効回答数は327人だった.major指標は11項目(食事中のチアノーゼ,嚥下後の呼吸切迫,嚥下テスト時の咽頭相の異常,嚥下後の湿性の呼吸音,むせる,食事中や食後に濁った声にかわる,喉頭挙上の不良,嚥下の遅延,嚥下前にむせる,嚥下後の嗽音の呼吸音,鼻への逆流)だった.minor指標は52項目,除外する指標は15項目だった.

結論:嚥下障害の看護診断に精通した専門家の意見に基づく,内容妥当性のある嚥下障害の診断指標が明らかとなった.

Translated Abstract

Objectives: The purpose of this study is to clarify defining characteristics with content validity for nurses to make clinical judgment of impaired swallowing, as well as the major and minor characteristics.

Methods: Fehring’s DCV model was used in this study. We conducted a questionnaire survey on 672 experts of nursing diagnosis of impaired swallowing. The five-point Likert Scale was used to examine the extent to which 78 defining characteristics indicated impaired swallowing. For each defining characteristic, response was scored and DCV score (average) was calculated. Each defining characteristic was divided into major, minor, and exclusion characteristics according to DCV scores.

Results: Valid responses were obtained from 327 experts. There were 11 major characteristics (cyanosis during the meal, respiratory distress after swallowing, abnormal pharyngeal phase of swallow study, wet respiratory sounds after swallowing, choking, muddy sounds during or after a meal, inadequate laryngeal elevation, delayed swallowing, choking prior to swallowing, gargling breath sounds after swallowing, and nasal reflux). There were 52 minor characteristics and 15 exclusion characteristics.

Conclusions: We clarified defining characteristics of impaired swallowing with content validity based on opinions of experts familiar with nursing diagnosis of impaired swallowing.

Ⅰ. 緒言

口から食べることの意義については「栄養を摂り,乾いた喉を潤し,味を楽しみ,生きる意欲を高めるなど身体的・心理・社会的側面で意義深い生活行動である」と述べられている(小山,2015).口から食べることに必要となる嚥下について,在宅で生活し,認知に関する問題がない65歳以上の高齢者のうち,嚥下造影検査で嚥下障害リスクありと判定された者は24.0%であったと報告されている(深田ら,2006b).また,70歳以上の肺炎入院患者の80.1%が誤嚥性肺炎であったと報告されており(Teramoto et al., 2008),2017年度には誤嚥性肺炎だけでの死亡順位は7位であった(厚生労働省,2018).これらから,高齢者には嚥下障害が多く,口から食べる意義を満たせないだけでなく,生命にも関わる問題となっていると思われる.

厚生労働省(2014)は地域包括ケアシステムの構築を進めており,嚥下障害がある高齢者は在宅でも生活していることから,高齢者の嚥下機能を判断し,介入することは,今後,地域でも多く行われると推測される.看護職は療養上の世話として必要と判断できれば,摂食・嚥下の介入ができる.つまり,地域で療養上の世話を専門的に行う看護職は,いち早く嚥下障害に気づき,介入できる職である.地域では,看護職は患者の状況を単独で最初に判断すると考えられ,嚥下障害を正確に臨床判断し,適切な介入ができることが求められる.

看護職の臨床判断について,NANDA-International(以下NANDA-I)では,看護診断を「個人・家族・地域社会(コミュニティ)の健康状態/生命過程に対する反応およびそのような反応への脆弱性についての臨床判断」と定義し,この看護診断が計画立案,実施,評価の指針として活用されるとしている(Herdman & Kamitsuru, 2014/2015).つまり,適切な介入を導くためには,臨床判断に含まれる看護診断を正確にする必要がある.看護における診断のプロセスでは,患者に実在する手がかりと,可能性のある看護診断の期待される手がかりを照合し,看護診断が検討される(Lunney, 2001/2002).この看護診断の期待される手がかりが診断指標であり,正確に看護診断をするためには,妥当性のある診断指標を用いることが必要である.これらから,嚥下障害を正確に臨床判断し,適切な介入をするためには,嚥下障害の妥当性のある診断指標が必要となる.

嚥下障害の診断指標については,国内外で質問紙やスクリーニングテストが開発され,看護職はこれらのツールの診断指標を臨床判断の際に活用していると考えられる.これらのツールについて,単一の診断指標のみ用いるのでなく,包括的に判断できる複数の診断指標を用いることが重要とされている(松尾ら,2016).また,複数のスクリーニングテストで自動的に判定した結果に比べ,摂食・嚥下障害看護認定看護師1名がスクリーニングテスト以外の所見や経験も加味して判断した結果の方が,嚥下回診時での結果との一致率が高かったという報告もある(西村ら,2015).これらから,看護職が正確に嚥下障害を臨床判断するためには,看護職が重要とする診断指標が組み合された妥当性のあるツールを用いることが必要と考える.

しかし,看護職が嚥下障害を,より正確に臨床判断するための診断指標の内容妥当性を検証した先行研究は国内では見当たらなかった.また,NANDA-Iで示される嚥下障害の診断指標も内容妥当性は検証されていない.さらに,海外の看護職が嚥下障害の臨床判断で用いる診断指標の内容妥当性検証を行った先行研究はあるが,脳卒中患者に限ったものであった(Jeng et al., 2001).これらから,国内外において看護職が嚥下障害を,より正確に臨床判断するための診断指標の内容妥当性は,十分に検証がされていない.

そこで,看護職が用いている嚥下障害の診断指標を統合し,その内容妥当性を検証することは,看護職が嚥下障害をより正確に臨床判断できることにつながると考える.特に日本では高齢化が顕著であることから,看護職が嚥下障害を正確に臨床判断することは必須であるため,臨床判断する際に重要となる診断指標を明らかにすることは必須と考える.

また,嚥下障害の診断指標の内容妥当性を検証することは,世界的に用いられている看護診断の嚥下障害のエビデンス構築にも寄与すると考える.

本研究では,看護職の臨床判断での診断指標に焦点を当てるため,看護診断の診断指標に関する研究手法の一つである,Fehring(1987)のDiagnostic Content Validation model(以下DCVモデル)を活用する.この手法は,NANDA-Iの診断指標に,文献レビューにより抽出した指標を追加して作成した診断指標リストに対して,調査する看護診断に精通した専門家により,各診断指標の妥当性について評価を受け,その結果から内容妥当性を検証する方法である.DCVモデルは現在も国内外で活用されているものである.

Ⅱ. 研究目的

本研究では,看護職が「嚥下障害」を臨床判断するための内容妥当性のある診断指標について明らかにすることを目的とする.また,診断指標の中でmajor指標とminor指標についても明らかにすることを目的とする.

Ⅲ. 用語の操作的定義

1. 嚥下障害(impaired swallowing)

嚥下メカニズムの機能異常で,口腔・咽頭・食道の構造や機能の欠損を伴う状態(Herdman & Kamitsuru, 2017/2018)とする.

2. 臨床判断(clinical judgment)

専門職が患者に起きている現象を,診断指標から推論することで判断し,その現象に対する介入を決定することとする.

3. 診断指標

診断を推論し,確定する際に必要となる手かがり(徴候,症状)をいう.

4. major指標

DCVモデルでDCV値が0.8以上の指標をいう.

5. minor指標

DCVモデルでDCV値が0.5より大きく0.8未満の指標をいう.

Ⅳ. 研究方法

1. 研究デザイン

本研究は,DCVモデルを活用した調査研究を研究デザインとした.

2. 研究対象者

DCVモデルでは,妥当性を確保する上で研究対象者の選定には「調査する看護診断の分野に精通した専門家(大学院修士課程修了相当以上が推奨)」が条件とされる.日本の嚥下障害の臨床判断に精通した専門家として,摂食・嚥下障害看護認定看護師(以下認定看護師)がいる.認定看護師は,嚥下障害に対する臨床判断を日々行い,摂食・嚥下領域で3年以上の臨床経験をもち,専門の教育課程を経て,日本看護協会の認定試験に合格して得た,有資格者である.この認定看護師が,DCVモデルの専門家の基準を満たしていると考えた.本研究では日本看護協会HP上で,氏名と所属施設が記載されている認定看護師669人(2017/12/20時点)を研究対象者とした.

また,NPO法人で「口から食べる幸せを守る会」(以下KTSM)があり,ここで認定される,KTSM実技認定者についても,認定看護師と同様な教育背景をもっている.そのため,認定看護師と同様な嚥下障害の臨床判断ができると考え,KTSMのHP上で公開されているKTSM実技認定者で,認定看護師ではない看護師16名(2018/01/15時点)も研究対象者とした.

本研究では,これらの研究対象者は,DCVモデルにおける「調査する看護診断の分野に精通した専門家」であるとみなした.

3. 調査内容

1) 対象者の背景

対象者の背景を確認するため,「看護師経験年数」「認定後経験年数」「所属施設」「嚥下障害の患者と接した頻度」「嚥下障害の臨床判断に用いるツール」の質問項目を設定した.

2) 診断指標の抽出と分類

嚥下障害の診断指標に関する文献レビューから,『NANDA-I看護診断2018–2020』(Herdman & Kamitsuru, 2017/2018, p. 204–205)の嚥下障害の診断指標51項目に,他の文献の一部を参考にしてNANDA-Iにはない指標を研究者間で吟味し,深田ら(2006a)から8項目,高橋(2005)から6項目,Belafsky et al.(2008)から3項目,Jeng et al.(2001)から2項目を追加した.また,これに研究者自身の経験で頻度高くみられた「嚥下後の呼吸切迫」「咽頭残留がある」「体重減少」を追加し,計73項目抽出した.

抽出した診断指標は,嚥下モデルを基に分類した.嚥下モデルはMagendieによる3相分類(鈴木・柳下,2002),4期モデル(Logemann, 1998/2000),プロセスモデル(Palmer, 1997),5期モデル(Leopold & Kagel, 1997)等がある.本研究は嚥下に焦点をあてるため,摂食・嚥下全体を焦点とした5期モデルは用いず.また,4期モデルとプロセスモデルに合わせ,口腔相の内容を2つに分け指標を適切に分類することは困難と考え,3相分類を使用することとした.

また,「位相」と「期」の分類の表現は,動きの分類の「期」を用いる場合,診断指標がどの動きの時に起こるかを適切に分類することが困難であった.食塊の位置の分類の「位相」の場合は分類しやすく,NANDA-Iの和訳も「位相」であるため,「位相」を用いた.結果,診断指標は「口腔相」「咽頭相」「食道相」と,どの相にも当てはまらない指標を「3相以外」として,4つに分類した.

3) 調査紙の作成

(1) 調査紙(案)の作成

調査紙はDCVモデルに基づき,抽出した各診断指標について「まったく違う=1」「少しだけあらわしている=2」「幾分あらわしている=3」「かなりあらわしている=4」「非常にあらわしている=5」のリッカート尺度を用いた.

また,今回の診断指標以外にも必要な指標を自由記載で書く欄を設けた.

最後に,「対象者の背景」と「調査に対する意見」の質問項目を設けた.

(2) 調査内容の妥当性の確保

調査内容の妥当性確保のため,嚥下障害看護の教育・研究に従事し,その業績を有する専門家2人に,調査紙(案)の診断指標のクリティークを受けた.

(3) 調査紙(最終版)の作成

クリティーク内容を参考に,次の内容を修正した.追加の意見があった「舌の上に食物が残る」「口腔内に食べ物がちらばる」「食事中や食後のチアノーゼ」「睡眠時間の短縮」を追加した.食道相の「頭部の過伸展」は,咽頭相でも観察できると指摘があり,咽頭相にも追加した.「咽頭残留がある」は,指標として観察できないと指摘があり削除した.「長い嚥下音や弱い嚥下音」は内容が2つ含まれるため,「長い嚥下音」と「弱い嚥下音」に分けた.NANDA-Iの診断指標で,補足があるとわかりやすいと指摘があった4項目は,括弧書きで補足して表現した.

最終的な診断指標は,口腔相26項目,咽頭相27項目,食道相21項目,3相以外4項目の合計78項目として,調査紙の最終版を作成した.

4. 調査方法

調査方法は質問紙郵送法.2018年5月に研究対象者685人に質問紙を郵送した.送付直後,宛先人不明で返送があり,最終的に質問紙が配布できたのは672人であった.

5. データ集計・分析方法

1) 有効回答

診断指標に対して無回答の数が全項目の10%となる8項目より多い回答者は,妥当な評価が得られないとして除外し,残りの回答者分を有効回答とした.

2) 対象者の背景

対象者の背景は単純集計後,分析した.「嚥下障害の臨床判断に使用するツール」は,その他として自由記載された内容も確認し,集計,分析した.

3) 診断指標

診断指標はDCVモデルに基づき,各回答者の評価結果を「1 = 0点」「2 = 0.25点」「3 = 0.5点」「4 = 0.75点」「5 = 1点」に換算し,各診断指標の平均値と標準偏差を算出した.DCVモデルでは各診断指標の平均値がDCV値とされる.

次に,DCVモデルの基準で,DCV値が0.8以上の指標を「major指標」,0.5より大きく0.8未満の指標を「minor指標」,0.5以下の指標を「除外される指標」と分類し,診断指標リストの内容妥当性を分析した.

6. 調査期間

2018年5月~2018年6月.

7. 倫理的配慮

本研究は豊橋創造大学研究倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号H2017012).本研究への協力は,対象者の自由意思を尊重するため,研究協力依頼文と調査用紙を,HP上に表記されている機関の対象者を宛名として送付した.回答は無記名とし,対象者の自由意思により返送とした.

本研究の診断指標リストの作成にあたり,『NANDA-I看護診断2018–2020』(Herdman & Kamitsuru, 2017/2018, p. 204–205)と嚥下障害リスク評価尺度改訂版(深田ら,2006a)から指標の表現を直接引用したため,利用の許諾を書面で得た.

Ⅴ. 結果

今回,対象者332人から回収でき(回収率49.4%),診断指標に対する無回答数が全項目の10%より多かった5人を除外した327人を有効回答とした(有効回答率48.7%).この327人のうち,認定看護師は319人,KTSM実技認定看護師は8人であった.

1. 対象者の背景(表1

看護師経験年数と認定後経験年数の平均値と標準偏差はそれぞれ19.7 ± 6.8年と5.4 ± 2.9年であった.この経験年数から,対象者は,十分な摂食・嚥下障害看護を含む臨床経験のある集団といえる.

表1  対象者の背景 n = 327人
項目 内容
経験年数 看護師経験年数(mean ± SD) 19.7 ± 6.8
認定後経験年数(mean ± SD) 5.4 ± 2.9
現在の所属施設 病院 307(93.9)
訪問看護ステーション 8(2.4)
教育機関 2(0.6)
その他 10(3.1)
無回答 0(0) 人数(%)
過去半年~現在 過去半年以前
嚥下障害のある患者と接した頻度 いつも接している 276(84.4) 277(84.7)
時々接している 40(12.2) 42(12.8)
たまに接している 6(1.8) 6(1.8)
接していない 4(1.2) 0(0)
無回答 1(0.3) 2(0.6) 人数(%)
嚥下障害の臨床判断に用いるツールの数 0 1(0.3)
1 6(1.8)
2 43(13.1)
3 103(31.5)
4 119(36.4)
5 42(12.8)
6 8(2.4)
7 4(1.2)
8 0(0)
9 1(0.3) 人数(%)
嚥下障害の臨床判断に用いるツール内容(複数回答) 反復唾液嚥下テスト(RSST) 253(77.4)
改訂水飲みテスト(MWST) 309(94.5)
フードテスト 299(91.4)
聖隷式嚥下質問紙 48(14.7)
嚥下障害リスク評価尺度改訂版 34(10.4)
所属施設で作成されたスクリーニング方法 99(30.3)
NANDA-Iの看護診断の診断指標 26(8.0)
何も用いていない 1(0.3)
その他 78(23.9) 人数(%)

嚥下障害の患者と接した頻度については,過去半年から現在までと過去半年以前ともに「いつも接している」の回答が一番多く,過去半年から現在までで276人(84.4%),過去半年以前で277人(84.7%)であった.対象者の多くは現在も嚥下障害の患者に対する看護を行っているといえる.

嚥下障害の臨床判断に用いるツールの数は,4個が119人(36.4%)で一番多く,320人(97.9%)が2個以上のツールを用いていた.

用いるツールは,改訂水飲みテスト(以下MWST)が309人(94.5%)と一番多く,本研究の診断指標リストに多く使用したNANDA-Iの診断指標については26人(8.0%)であった.対象者のほとんどは嚥下障害の臨床判断にツールを用いており,数値で判断基準が示されるツールがよく用いられていた.

2. 嚥下障害の各診断指標のDCV値(表2

1) 全てのmajor指標

DCV値が0.8以上のmajor指標となったのは全78項目中11項目(14.1%)であり,「食事中や食後のチアノーゼ」が0.92と一番高く,「鼻への逆流」が0.81と一番低かった.また,相で分類すると,咽頭相10項目,口腔相1項目で,咽頭相が一番多かった.

表2  嚥下障害の診断指標のDCV値
序列 相分類 診断指標 DCV値 ±SD n 序列 相分類 診断指標 DCV値 ±SD n
major指標 DCV値0.7未満のminor指標
1 咽頭 食事中や食後のチアノーゼ .92 .16 326 41 食道 逆流** .69 .25 326
2 咽頭 嚥下後の呼吸切迫 .91 .15 327 42 咽頭 食べ物をいつまでも飲み込まず噛んでいる* .69 .23 326
3 咽頭 嚥下テスト時の咽頭相の異常 .90 .15 321 43 食道 何度も嚥下する* .69 .24 324
4 咽頭 嚥下後の湿性の呼吸音 .88 .16 323 44 食道 食べ物や酸っぱい液が胃からのどに戻ってくる** .69 .25 327
5 咽頭 むせる .87 .17 327 45 口腔 嚥下前の咳嗽** .69 .26 326
6 咽頭 食事中や食後に濁った声に変わる .87 .16 327 46 3相以外 食事の楽しみの減少** .68 .24 325
7 咽頭 喉頭挙上の不良 .86 .18 324 47 食道 (のどの)つかえ感を訴える* .68 .24 323
8 咽頭 嚥下の遅延 .84 .18 327 48 食道 夜間の咳込み** .66 .26 326
9 口腔 嚥下前にむせる .83 .20 325 49 口腔 ことばが明瞭でない** .66 .24 325
10 咽頭 嚥下後の嗽音の呼吸音 .82 .20 322 50 口腔 パサパサ,モサモサした食べ物は飲み込みにくい* .65 .23 327
11 咽頭 鼻への逆流 .81 .20 325 51 口腔 段階的な嚥下* .63 .24 311
DCV値0.7以上のminor指標 52 咽頭 のどを鳴らすような声** .63 .25 321
12 咽頭 泡立つような嚥下音* .79 .22 319 53 口腔 よだれ** .63 .25 326
13 口腔 舌の上に食物が残る* .79 .20 327 54 咽頭 原因不明の発熱** .62 .23 325
14 咽頭 むせなどの喀出音 .79 .22 327 55 口腔 食物を口から押し出す* .61 .28 325
15 咽頭 頭部の過伸展* .78 .22 323 56 食道 酸っぱい臭いの呼吸** .60 .25 324
16 口腔 舌で食塊を形成できない* .78 .22 325 57 食道 頭部の過伸展* .60 .33 324
17 口腔 口腔内に食物が残る* .77 .20 326 58 口腔 口がパサパサしていると感じる** .58 .23 327
18 咽頭 食べ物がのどに残る感じがする* .77 .21 327 59 口腔 硬い食べ物避け,軟らかい食べ物ばかり食べる** .58 .23 325
19 口腔 鼻への逆流* .77 .23 325 60 食道 嚥下痛** .57 .26 325
20 口腔 嚥下テスト時の口腔相の異常 .77 .20 316 61 口腔 嚥下前の絞扼反射** .53 .28 317
21 口腔 唇を閉じることができない** .77 .24 324 62 咽頭 嚥下時の喉の痛み** .51 .25 326
22 口腔 口腔から咽頭への食塊の侵入が早すぎる* .76 .24 324 63 咽頭 のどの絞扼感(しめつけられる感覚)** .51 .25 326
23 食道 嚥下困難* .75 .26 323 除外される指標
24 咽頭 弱い嚥下音 .75 .23 327 64 食道 胸やけ .50 .26 325
25 咽頭 繰り返しの嚥下音* .75 .21 326 65 3相以外 制限された社会生活 .50 .27 322
26 咽頭 咳嗽** .75 .23 327 66 口腔 効果のない吸啜 .50 .28 308
27 口腔 口腔内に食べ物がちらばる* .74 .21 326 67 咽頭 食物の拒絶 .48 .24 326
28 咽頭 長い嚥下音* .74 .22 325 68 食道 嘔吐 .47 .28 327
29 咽頭 何度も嚥下する* .74 .20 324 69 食道 吐物で汚れた枕 .47 .28 327
30 3相以外 体重減少** .74 .20 326 70 食道 (食べる)量の限界 .47 .26 325
31 咽頭 再発性呼吸器感染症** .74 .23 322 71 口腔 効果のないおしゃぶり .43 .27 309
32 3相以外 嚥下することがストレスという訴え .74 .23 324 72 食道 食物の拒絶 .42 .26 326
33 口腔 咀嚼が不十分 .72 .23 324 73 食道 食事前後に起こる原因不明の易刺激性(いら立ち) .35 .25 324
34 口腔 食べ物を溜め込む* .72 .24 327 74 食道 夜間覚醒 .34 .27 322
35 口腔 食物が口からこぼれる* .71 .24 326 75 食道 上腹部痛 .31 .25 326
36 口腔 頬の内側に食物が貯まる* .71 .23 325 76 食道 睡眠時間の短縮 .30 .25 327
37 咽頭 (嚥下時の)頭の位置の変化* .71 .24 319 77 食道 吐血 .25 .28 322
38 口腔 長い食事時間に対し摂取量が少ない .70 .23 327 78 食道 歯ぎしり .23 .25 325
39 食道 嚥下テスト時の食道相の障害 .70 .24 316
40 口腔 食塊形成に時間がかかる* .70 .23 324

* minor指標で,食物が口腔・咽頭・食道のどこかで残留していることや流れが悪いことを表すと考える指標

** minor指標で,嚥下障害以外のことによっても起こりえると考える指標

注:診断指標は,『NANDA-I看護診断2018–2020』(Herdman & Kamitsuru, 2017/2018, p. 204–205),深田ら(2006a)高橋(2005)Belafsky et al.(2008)Jeng et al.(2001)の文献を参考に作成.

2) 全てのminor指標

DCV値が0.5より大きく0.8未満のminor指標となったのは,全78項目中52項目(66.7%)であり,「泡立つような嚥下音」が0.79と一番高く,「嚥下時の喉の痛み」と「のどの絞扼感(しめつけられる感覚)」が0.51と一番低かった.minor指標52項目中29項目(55.8%)はDCV値が0.7以上であった.また,相で分類すると,口腔相23項目,咽頭相16項目,食道相10項目,3相以外3項目で,口腔相が一番多かった.

3) 全ての除外する指標

DCV値が0.5以下の除外する指標となったのは全78項目中15項目(19.2%)であり,「歯ぎしり」が0.23と一番低かった.また,相で分類すると,食道相11項目,口腔相2項目,咽頭相1項目,3相以外1項目で,食道相が一番多かった.

Ⅵ. 考察

1. 嚥下障害の臨床判断に用いるツール

複数のツールを用いて判断している対象者は320名(97.9%)であり,より正確に嚥下障害の臨床判断ができるよう複数用いていると考えられる.また,1つのツールだけでは嚥下障害を臨床判断することができない多様な状況があるため,必然的に複数のツールを用いて判断していると考えることもできる.

ツールでは,咽頭相をみるスクリーニングテストを用いる割合が高かった.嚥下障害診療ガイドライン(一般社団法人日本耳鼻咽喉科学会,2018)では,水飲みテストなどの簡易検査を,嚥下内視鏡検査や嚥下造影検査が行えない場合やこれらに先立って嚥下機能の概略を把握する評価方法として推奨している.これらの考え方も対象者は活用していると考えられるため,嚥下障害を臨床判断する際に咽頭相をみるスクリーニングテストを1つは用いることが必要と捉えているのではないかと推察される.

2. 嚥下障害の診断指標の妥当性

1) major指標となった診断指標の特徴

一番DCV値が高かった診断指標は「食事中や食後のチアノーゼ」であり,次に「嚥下後の呼吸切迫」が高かった.この2つは,誤嚥により,血中酸素飽和度が低下していることを表し,嚥下障害があることを顕著に表している.対象者の約90%が用いていたMWSTとフードテストの評価基準には,嚥下後の『呼吸切迫:有無』が含まれ,有りの場合には評価は最低の1点又は2点となる.このことから,対象者は嚥下後の呼吸状態の悪化を,嚥下障害を非常に表すと捉え,注目して確認していると考えられる.さらに,脳卒中患者の嚥下障害の診断指標をDCVモデルで検証した結果では,『急性の誤嚥の徴候(Signs of acute aspiration)』のDCV値は0.81で唯一のmajor指標であったと報告している(Jeng et al., 2001).日本と海外において,誤嚥を端的に表す徴候が一番注目して確認されていると考えられる.

「嚥下テスト時の咽頭相の異常」は,対象者の約90%が咽頭相に注目したMWSTやフードテストを用いており,咽頭相のテストを用いる機会が多いため,重要な指標とされたと考えられる.

「嚥下後の湿性の呼吸音」,「食事中や食後に濁った声に変わる」,「嚥下後の嗽音の呼吸音」は,音の指標であり,対象者は聴覚で捉える徴候も重要としている.嚥下直後の呼吸音(呼気音)について,『濁った』湿性音,嗽音,あるいは液体の振動音が聴取される場合は,誤嚥や喉頭侵入あるいは咽頭部における液体の貯留が疑われるとされている(高橋,2016).また,『液体振動音,嗽音』は不顕性誤嚥においても聴覚的所見として明瞭に聴取されることが明らかとなっている(平野ら,2001).これらのことから,音の指標の中でも,この3つの指標が嚥下障害を顕著に表すため,major指標となったと考えられる.

「嚥下前にむせる」については,嚥下動作前に食塊が咽頭流入するときに,舌の協調運動の低下や咽頭期誘発が遅れ,咽頭期誘発前に食塊が気管に入った場合を,嚥下開始前の誤嚥としている(Logemann, 1998/2000).前述したように対象者は,誤嚥を表す指標に注意して観察しているため,口腔相の指標で唯一誤嚥を表す「嚥下前にむせる」が,major指標となったと考えられる.

「喉頭挙上の不良」,「嚥下の遅延」は咽頭反射が誘起された際に咽頭部での各器官の動きが十分できていないことを表す.対象者は,患者から確認しやすく,かつ咽頭部での各器官の動きを表す徴候を必ず確認していると考えられる.認定看護師と認定資格のない看護師で摂食・嚥下障害の観察・評価項目の実施率を比較した研究では,『甲状軟骨挙上距離,時間,ピッチ』『嚥下時間』の項目は,認定看護師の方が実施率は有意に高かったと報告している(千葉・市村,2008).このことから,対象者は反射的で一瞬である咽頭部の動きを,確実に確認しているため,「喉頭挙上の不良」と「嚥下の遅延」の指標がmajor指標となったと考えられる.

major指標の標準偏差は,全て±0.20以下であり,major指標以外は全て±0.20以上であった.これは,major指標がmajor指標以外の指標に比べ,嚥下障害を非常に表す指標であるという意見に,ばらつきが小さいことを示すと考える.したがって,major指標の妥当性は高いと考える.

2) minor指標となった診断指標の特徴

minor指標は52項目で,このうち29項目(55.8%)はDCV値が0.7以上であり,ほぼ半数にあたるため,便宜的にDCV値0.7以上の上位群と0.7未満の下位群に分けてminor指標の分析をして考察をした.

(1) DCV値0.7以上の上位群診断指標

minor指標のなかでDCV値0.7以上となった診断指標の29項目をみると,食物が口腔・咽頭・食道のどこかで残留していることや流れが悪いことを表すと考える指標が17項目ある.例えば,「舌の上に食物が残る」や「舌で食塊を形成できない」等の口腔内に食物が残留していることを表す指標や,「繰り返しの嚥下音」「嚥下困難」等の食塊が咽頭から食道に流れにくいことを表す指標である.つまり,対象者は,咀嚼中や嚥下時の口腔内及び咽頭部の各器官の動きは,甲状軟骨の動き以外では直接観察できない代わりに,食物の残留や流れから,各器官の動きが正常に行われているか判断していると考えられる.進(1994)は,食塊の移動の状態を「位相phase」,嚥下運動のパターン出力の推移を「期stage」とし,嚥下障害は「位相」と「期」が一定の許容範囲を超えてずれを生じたものと述べている.これらから,食物の残留や流れを表す指標は,嚥下障害を判断する際に重要と考える.これらの指標はmajor指標ではないが,嚥下障害があると特定するのに活用できる指標と考える.

(2) DCV値0.7未満の下位群診断指標

minor指標の中でDCV値が0.7未満であった23項目には,嚥下障害を表す指標であるが,嚥下障害以外のことによっても起こりえる指標が16項目ある.例えば,「嚥下前の咳嗽」は,嚥下障害以外のことによっても起こりえると考えられる.このような指標は,対象者の意見も分かれやすいため,minor指標の中でもDCV値が0.7未満となったと考えられる.つまり,これらの指標は,嚥下障害があると特定できるとは必ずしもいえない指標と考える.

3) 除外される指標となった診断指標の特徴

DCV値が0.5以下で除外される指標となったのは78項目中15項目(19.2%)であった.対象者が,これらを選ばなかった理由として,嚥下障害を表す指標といえないからであると考えられる.例えば「胸やけ」「嘔吐」「食物の拒絶」は,引き起こす要因が多岐にわたり,嚥下障害を表していると捉えられないため,DCV値が0.5以下となったと考えられる.

「効果のない吸啜」と「効果のないおしゃぶり」は無回答数が多かった指標である.その要因として,この2つのみが乳児特有の指標であり,日頃,高齢者を中心として看護ケアをしていると思われる対象者は,内容がイメージしにくく回答できないと捉えられたと考えられる.

3. major指標及びminor指標の臨床判断への活用

1) major指標の活用

今回のmajor指標は,嚥下障害の看護診断に精通した専門家である対象者の意見に基づいたものであるため,妥当性がある内容と考えられ,嚥下障害を臨床判断する際には,確認することが必須と考える.嚥下障害の看護に精通していない看護職には,major指標により,嚥下障害の数多くある診断指標の中で,臨床判断する際に用いるべき指標が明確になるため,正確に臨床判断できることに繋がると考える.また,このmajor指標は患者の嚥下状態を観察する際に,どこに注目する必要があるかという,アセスメントの視点としても活用できると考える.

2) minor指標の活用

minor指標は,嚥下障害の看護診断に精通した専門家である対象者でも,嚥下障害を表すか意見が分かれる指標であるため,major指標なしで,minor指標のみで判断することは必ずしも確実とはいえないと考える.minor指標の活用方法として,先にmajor指標を用いて臨床判断を行い,その判断の確実性を補足する指標として,minor指標を活用することが適切と考える.また,minor指標が数多くみられた場合には,嚥下障害を疑い,誤嚥がないように介入を始めることが必要である.

Ⅶ. 研究の限界と今後の課題

調査紙の診断指標リストは,文献検討を十分行い,スーパーバイズを受けて作成し,全78項目中,除外される指標は15項目であったことから,調査内容の妥当性は確保できていたと考えられる.しかし,診断指標リストにはないが,対象者が必要と捉えている指標がある可能性もある.今後,自由記載内容もふまえて調査内容を再検討し,繰り返し調査することで,項目の厳密性を確定していくことができると考える.また,実際の嚥下障害がある人々に,今回の結果がどれだけ確認できるかについても検証していく必要がある.

Ⅷ. 結論

1.嚥下障害の看護診断に精通した専門家である認定看護師とKTSM実技認定看護師に行ったDCVモデルの調査により,嚥下障害の診断指標として,major指標11項目,minor指標52項目が抽出された.

2.NANDA-Iの嚥下障害の診断指標に他の文献を参考に作成した診断指標78項目のうち,除外される指標として15項目が精選された.

付記:本研究は,豊橋創造大学大学院健康科学研究科に提出した修士論文に加筆・修正を加えたものである.

謝辞:本研究に,ご協力くださった摂食・嚥下障害看護認定看護師の皆様,ならびに「口から食べる幸せを守る会」実技認定看護師の皆様に,深く御礼申し上げます.また,診断指標リストの妥当性,質問紙の検討に,ご意見下さいました浅田美江先生,河合桃代先生に心より感謝いたします.

利益相反:本研究における利益相反はない.

著者資格:KNは本研究の,研究の着想,研究デザイン,データ収集,分析解釈,論文執筆までの研究全体に貢献:YOは本研究の,研究の着想,研究デザイン,データ収集,分析解釈までの研究全体への助言と論文執筆に貢献.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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