日本看護科学会誌
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資料
ウェアラブルカメラで撮影された動画を使用した新人フライトナースの振り返りの有用性の検討
髙橋 誠一, 土屋 守克, 坂上 貴之
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2021 年 41 巻 p. 141-147

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Abstract

目的:ドクターヘリのプレホスピタル活動において,新人フライトナース(以下,新人とする)にウェアラブルカメラを装着した.ウェアラブルカメラによって撮影された動画を使用した振り返りの有用性を検討した.

方法:新人1名を対象として,ウェアラブルカメラで撮影された動画から,プレホスピタル活動の問題点の抽出させた.さらに,1名の認定指導者フライトナース(以下,認定指導者とする)が同じ動画を確認し,新人が認識していない問題点を指導した.独自に定めた13項目について,25事例における新人と認定指導者が認識する問題点の相違数や項目の実施状況を分析した.

結果:新人と認定指導者では,プレホスピタル活動において認識する問題点に相違を認め,新人が認識していない問題点が多くあった.実施率が低い項目は,フライト記録は28%,バイタルサインなどの患者状態とフライトドクターとの情報共有は44%であった.

結論:プレホスピタル活動中にウェアラブルカメラにより撮影された動画を使用した事例の振り返りは,新人の活動の客観的な評価を可能にする.

Translated Abstract

Objective: A wearable camera was attached to a novice flight nurse (“novice”) while being engaged in prehospital care of a doctor helicopter. The purpose of this study was to examine the usefulness of the video recorded by the camera during prehospital care in order to review the performance of a novice.

Method: One novice was asked to identify problems in prehospital care services through videos recorded by a wearable camera. In addition, one certified instructor flight nurse (“certified instructor”) checked the same videos and showed the novice the problems that she did not recognize. The number of differences in the problems recognized by the novice and the certified instructor were analyzed. The video review checked whether 13 key items (actions such as checking patient’s vital signs) were implemented by the novice during the prehospital care.

Results: There were differences in the problems recognized by the novice and the certified instructor in prehospital activities, and many problems were not recognized by the novice. The items with the lowest implementation rates were flight records (28%) and information sharing with the flight doctor regarding patient status such as vital signs (44%).

Conclusions: Review of cases using videos Recorded by a wearable camera during prehospital activities enables objective evaluation of a newcomer’s performance.

Ⅰ. はじめに

ドクターヘリは,救急医療に精通したフライトドクター及びフライトナースが同乗し,プレホスピタルから早期に治療を行い,救命率の向上や後遺症軽減を目的とする.ドクターヘリが着陸する災害時緊急離着陸場において,事故現場などから搬送してきた救急車内で治療することが一般的である.救急車内は狭小なためフライトドクターやフライトナースの活動が制限され,使用できる医療資器材や薬剤,人的資源も限られている.これらのプレホスピタルの特殊な環境における診察・治療は,患者の緊急度・重傷度が高いほど,状況の把握や全身観察に基づく迅速な判断,治療などの対応が求められる.そのため,フライトナースには患者状態を把握し,フライトドクターと共有しながら,必要な治療の予測と診療の補助,病態変化の観察と同時に,それらに関わる意思決定などの対応が求められる.

A施設では,ドクターヘリの運航開始から毎月すべてのフライトナースが参加する会議において,その月のフライト事例の振り返りを行なっていた.その方法は,フライトナースが経験した事例に関して,フライト記録や記憶をもとにして患者状態や治療,活動の問題点を報告するものであった.参加したフライトナースは,報告の内容から問題点の対応策を検討して,事例を担当したフライトナースにフィードバックした.しかし,事例の報告内容は主観や記憶能力に大きく左右され,とくにフライト経験1年未満の新人フライトナース(以下,新人とする)であれば,経験内容を漏れ無く報告することは困難であった.よって,報告された情報からでは患者状態や治療状況を把握できないため,新人の報告後に日本航空医療学会認定指導者フライトナース(日本航空医療学会,2006a,2006b)(以下,認定指導者とする)が事例の内容を確認することによって,新人が認識していない問題点が明らかとなっていた.しかしこの方法では,多くの時間が費やされるにも関わらず,プレホスピタル活動の問題点を十分に把握することはできないと考えられた.そこでA施設では,撮影された動画をプレホスピタル活動の振り返りに活用するために,201X年からフライトナースの胸部にウェアラブルカメラを装着した.

これまでのフライトナースのプレホスピタル活動の評価に関する報告によれば,フライト記録の改定によって観察に関する記録の質は向上したが,記録のみではフライトナースの質は評価できず,行動レベルでの評価が必要であるとされている(蛭間ら,2009).フライト記録からでは,フライトナースの行動の詳細を経時的に把握することは難しく,プレホスピタル活動の教育や評価には実施状況の把握が不可欠である.その点において,日本航空医療学会フライトナース委員会は,フライトナース教育実務評価表を作成し,活用を推奨している(猪口,2018;日本航空医療学会フライトナースハンドブック編集委員会,2017).しかし,この評価表も経験した事例を報告するフライトナースの記録や記憶をもとにした活用が前提となる点で問題がある.

そこで本研究では,プレホスピタル活動においてウェアラブルカメラにより撮影された動画による新人の事例の振り返りの有用性を検討した.

Ⅱ. 研究方法

1. 研究期間・対象

20XX年1月7日から20XX + 1年4月8日の期間に,ドクターヘリの業務に従事していたフライト経験1年未満(看護師経験6年)の看護師1名を対象とした.

2. 調査方法

A施設のフライトナースは5名で,6~8回/月,8時30分から日没30分前までのドクターヘリ待機時間にフライトナースとして従事した.それ以外は,救命救急センター初療室や集中治療室で勤務した.ドクターヘリ要請があると,ウェアラブルカメラを胸部に装着した上で,プレホスピタル活動に従事した.

本研究の対象である新人1名の総フライト回数は104回で,研究期間の半年前からフライトナースとして従事し,研究期間前までのフライト回数は26回,その中で11回目までは認定指導者の活動の見学であった.研究期間中のフライト回数は78回で,通常の医療活動が実施される救急車内での活動がない転院搬送,要請がキャンセルされた事例は除外した.新人がウェアラブルカメラ未装着,また機器トラブルや所持している資機材や上着などによって活動が目視にて評価ができない事例を除外した25事例を検討した.

研究期間中,新人にはフライト終了後に撮影した動画の中から患者接触から治療,病院選定,治療終了後の救急車やドクターヘリによる搬送開始までを確認させた.ヘリコプターの騒音によってドクターヘリ内での会話が聴取できない飛行中の活動は除外した.まず新人が動画を確認し,活動の問題点と判断した点を事例振り返りシートに記載させ,認定指導者に提出させた.次に,認定指導者が動画を確認し,問題点と判断した点を事例振り返りシートに追加記載して新人に返却した.日々のフライト事例の活動の振り返りをする認定指導者は,新人の活動の継続した評価やフィードバックによる偏りを考慮して,4名の認定指導者の中から任意の1名が担当した.事例振り返りシートおいて,認定指導者が認識し,新人は認識していない問題点は,実施すべき条件・必要性・タイミングなどについて教示した.必要な場合には,一緒に動画を確認しながら適切な行動をフィードバックした.新人は主体的にフィードバック内容などを事例振り返りシートに記載した.日々のフライト後に事例振り返りシートを活用した事例は,毎月すべてのフライトナースが参加するフライトナース会議で新人が報告した.

3. 調査内容

認定指導者1名は,日本航空医療学会フライトナース委員会で定めたフライトナース教育実務評価表をもとに,新たに作成した13項目で新人を評価した.プレホスピタル活動の中でも,超急性期治療を実施する救急車内での活動については詳細に評価する必要がある.しかし,既存の評価表では救急車内での活動を詳細に評価する項目が少ないことから,A施設の認定指導者4名で合議の上,救急車内において実施すべき活動を分類して評価項目とした.その項目は,「1.挨拶・自己紹介」,「2.受傷機転等の情報収集」,「3.既往・アレルギー等の情報収集」,「4.バイタルサインなどの患者状態」,「5.フライトドクターと患者状態に関する情報共有」,「6.診療補助」,「7.使用物品管理」,「8.緊急連絡先の把握と家族対応」,「9.保温」,「10.搬送先病院の選定・手段・時間」,「11.搬送準備・搬送前の患者状態の確認」,「12.患者に対する声かけ」,「13.プレホスピタル活動とフライト記録の整合性」の13項目とした.13項目の設定した評価内容を表1に示した.

表1  救急車内における活動の評価項目と内容
項目 評価内容
1 挨拶・自己紹介 救急車乗車時に救急隊と患者に対しての実施の有無.
2 受傷機転等の情報収集 救急隊もしくは患者から項目内容の聴取の有無.意識障害患者や救急隊が項目内容を把握していない場合は評価対象外.
3 既往・アレルギー等の情報収集
4 バイタルサインなどの患者状態 患者接触時に救急車内の車載生体情報モニタによって心拍数・血圧・呼吸数・経皮的動脈血酸素飽和度の測定値の確認の有無,フライトドクターと連携した患者の全身状態観察の実施の有無,体温測定や意識障害患者に対しては瞳孔測定・対光反射測定や血糖測定の実施の有無.
5 フライトドクターと患者状態の情報共有 接触後の全身状態観察後,また侵襲的治療前後や意識・血行動態の変化時に,「4.バイタルサインなどの患者状態」についてのフライトドクターとの会話の有無.
6 診療補助 指示された薬剤の準備・投与,気管挿管や胸腔ドーレンなどの処置の準備・介助,創部や出血部位の止血処置,骨折部(疑いも含む)の固定の実施の有無.
7 使用物品管理 侵襲的治療で使用した鋭利なものの確実な処理や使用物品の片づけの実施の有無.
8 緊急連絡先の把握と家族対応 キーパーソンの緊急連絡先の聴取と救急車に家族が同乗してきた場合は対応の有無を評価した.身元不明患者や救急隊が把握していない事例に関しては評価対象外.
9 保温 疾患・外気・患者体温に応じて適切な保温方法の選択及び実施の有無.
10 搬送先病院の選定・手段・時間 ドクターヘリを要請した消防の地域の医療状況,搬送時間を考慮した上でドクターヘリもしくは救急車搬送の選択について,救急隊やフライトドクターとの会話の有無.心肺停止状態を除く緊急度・重症度が高い事例はA施設に搬送するため対象外.
11 搬送準備・搬送前の状態確認 外因性の場合は確実な全身固定の有無,救急車からドクターヘリへの移動や救急車で病院に向けて出発する前に,バイタルサインや損傷部位の確認の有無.
12 患者に対する声かけ 患者に対する声かけの有無.緊急度・重症度が高く意識障害がある患者は対象外.
13 フライト記録との整合性 バイタルサインや損傷部位などの患者状態,侵襲的治療や薬剤投与に関しての記載の有無.

項目内容ついて認定指導者が実施していないことを確認し,新人が事例振り返りシートに記載していなければ,新人が認識してない(認定指導者が認識した)問題点とした.1項目に対して複数回実施した場合は,全て実施できていなければ実施できないと評価した.また,現場滞在時間,疾患については内因性・外因性,患者の重症度の指標としてRTS(Revised Trauma Score)を診療記録から抽出した.新人がフライト後の動画を使用した振り返りによって明確になったことや学びについては,事例振り返りシートやフライトナース会議議事録から抽出した.

4. 分析方法

評価した13項目の中で,実施できなかった項目については,新人が認識した,もしくは新人が認識していない(認定指導者が認識した)問題点の認識率を算出した.また,新人の活動に関わる項目を実施機会項目数として分母,実施状況(実施できた/実施できなかった)を分子として実施率を算出した.

5. 倫理的配慮

対象者には研究目的,協力の有無によって待遇等になんら影響しないこと,結果によって不利益を生じないことについて口頭で説明し同意を得た.研究の実施にあたっては,埼玉医科大学総合医療センター倫理委員会の承認を得た.(承認番号:1011)

Ⅲ. 結果

ウェアラブルカメラで得られた動画は25事例であった.その要請内容は,交通外傷6件・意識障害5件・転落外傷5件・高所からの墜落外傷3件・腹部刺創2件・脳血管障害2件などであった.

新人が認識していない(認定指導者が認識した)問題点の割合の推移を図1に示した.新人・指導者それぞれが認識した問題点に相違を認め,新人が認識していない(認定指導者が認識した)問題点が多くあることが明らかになった.

図1 

事例における新人の実施率と問題点の認識率の推移

フライト経験によるプレホスピタル活動の変化を詳細に把握するため,プレホスピタル活動における13項目別の実施状況の推移と実施率を図2に示した.「13.プレホスピタル活動とフライト記録の整合性」は28%で,37,38,62,73,97回目は転落外傷で骨盤骨折疑いの事例であったが,両下肢の動き・知覚・痺れや足背動脈の触知有無を観察しているものの,記載漏れおよび内容の不備があった.27回目は痙攣で投与した薬剤投与量の誤記載,28回目は気管挿管後の呼気終末二酸化炭素分圧,98回目は損傷部位の記載漏れがあった.「4.バイタルサインなどの患者状態」は44%で,71回目は接触時心肺停止状態から心拍再開,102回目は血行動態が悪化しショック状態後,継続して患者状態の観察や血圧測定を実施していなかった.27回目の幼児や86回目の意識障害患者においての血糖測定,また55,73回目の体温測定が未実施であった.「5.フライトドクターと患者状態に関する情報共有」は44%で,27,36,55,96,103回目は外傷部位などの全身観察について新人が下半身,フライトドクターが上半身と分担して観察した結果を共有せずに治療が行われていた.35,56回目は新人が腰部観察を実施した結果,疼痛を訴え骨盤骨折疑いに対する骨盤固定具の必要性,86回目は気管挿管後の評価を共有していなかった.「6.診療補助」は52%で,27回目は小児の末梢静脈ライン,102回目は経空ドレーンの固定が不十分であった.35,73回目は骨盤骨折疑いに伴う骨盤固定具の装着が不十分であった.

図2 

プレホスピタル活動における新人フライトナースの項目別による実施状況の推移

動画を使用したフライト事例の振り返りによって明確になったことや学びについては,事例振り返りシートやフライトナース会議の議事録から抽出した.動画使用前はフライト事例を振り返る度に,指導者からの指摘に関して具体的な改善方法がイメージできなかった,との記載がある一方で,動画使用後は指導者に認められる部分があることや漠然としていた課題がはっきりした,との記載があった.

フライト60回以降は,指導者から指摘された項目ついて,指導者から場面毎に実施すべき理由や行動,コミュニケーションのタイミングや内容など,具体的な指導を理解できていることを示す記載があったが,実践は伴っていない状況であった.

フライト90回以降は,指導者に指摘されている項目について,自ら意識して取り組んでいる事実を示す記載や,動画によって他職種連携やコミュニケーションなどをはじめ,自分の活動を客観的に振り返ることができている事実を示す記載があった.

Ⅳ. 考察

本研究においては,フライト後の新人と認定指導者のフライト事例の振り返りに,新人が装着したウエアラブルカメラで撮影された動画を使用した.その結果,新人が認識していない(認定指導者が認識した)問題点が多い事実とともに,評価した13項目の中で「13.プレホスピタル活動とフライト記録の整合性」,「4.バイタルサインなどの患者状態」,「5.フライトドクターと患者状態に関する情報共有」,「6.診療補助」は実施率が低いことが明らかとなった.

フライトナースの看護実践については,人員が限られ同僚から直接的なフィードバックを得ることが難しいことから,自ら省察を通して実践知を獲得するとされている(船木・深谷,2015).しかし,本研究で明らかとなったような,新人が認識していない(認定指導者が認識した)問題点や実施率が低い他職種連携やコミュニケーションに関連する項目については,船木・深谷(2015)が指摘するような,省察による実践知の獲得は期待できない.さらにドクターヘリを運用する施設によっては,新人がフライト記録や記憶をもとにした振り返りシートを作成し,指導者がプレホスピタル活動の評価や教育の手段としている.しかし,フライト事例毎のチェックリストやアセスメントシートでは,実施できなかったことや行動変容等の質的評価を可視化することができず不十分であるとしている(山根ら,2016).このように,人的資源が限られている中で,重症度・緊急度が高く治療が優先されている状況下や,フライト後に記憶に基づいて作成するフライト記録では,フライトナースの行動の詳細を経時的に把握することは難しい.

一方,新人の胸部に装着しているウェアラブルカメラは,固定カメラと異なり,体幹の動きに合わせた画像から患者の全身観察,薬剤投与,処置などの行動が把握できる.また救急隊,患者との会話から情報収集のタイミングや内容,フライトドクターとの会話から患者情報や治療方針の共有,連携など活動を経時的に把握することが可能である.そのため,フライト後の動画を使用した事例振り返りは,新人の記憶や記録では「4.バイタルサインなどの患者状態」,「5.フライトドクターと患者状態に関する情報共有」,「13.プレホスピタル活動とフライト記録の整合性」など,それまでの方法では把握できなかった内容が評価できる点や,新人が認識していない(認定指導者が認識した)多くの問題を把握できる点で,ウェアラブルカメラによって撮影された動画の振り返りへの活用は有用と考えられる.

実施率が低かった各項目の要因は以下のように考えられる.「13.プレホスピタル活動とフライト記録の整合性」について,多発外傷では全身観察によって認めた複数の損傷部位に対して創部状態・神経症状・循環など,多くの観察内容の記載が必要になる.また,重症事例では昏睡状態や血行動態が不安定のため,複数薬剤の投与や侵襲的治療により生態情報モニタが追加され,現場滞在時間が長くなるので記載内容が増加する.このような患者状態の場合,治療と同時にフライト記録を記載することはできず,装着している手袋や輸液バックをメモ代わりに記載している.そのため,リアルタイムでのフライト記録の記載はできず,フライト後にメモや記憶をもとにフライト記録を記載している.このように,フライト記録の記載において多大な困難を伴うことによって,時系列の正確さや詳細さなどの内容に齟齬が生じることが,実施率の低い要因と考えられる.「4.バイタルサインなどの患者状態」について,血行動態の悪化は緊急性・重症度が高く侵襲的治療が優先される状態である.治療後は早期にドクターヘリで搬送することになるため,救急車内の医療資機材などの片付けや救急隊から情報収集を優先して実施することから「2.受傷機転等の情報収集」,「3.既往・アレルギー等の情報収集」,「「7.使用物品管理」の実施率が高い結果となっている.一方で,それらによって血行動態悪化後の継続的な観察や血圧測定を実施していないことが,「4.バイタルサインなどの患者状態」の実施率が低い要因であると考えられる.「6.診療補助」について,静脈ラインやドレーン,骨盤固定具の装着が不十分になる要因は,治療や搬送が優先されることと推察される.また,体温測定は接触後から全身観察までの時間に,血糖測定は採血時に未実施であると実施機会が無くなることが実施率の低い要因と考えられる.「5.フライトドクターと患者状態に関する情報共有」については,患者状態を把握できていないことに加え,事例振り返りシートの記載内容を踏まえると,患者の状態によってコミュニケーションのタイミングや共有内容が異なることが実施率の低い要因であると推察される.

本研究においては,新人に対してウェアラブルカメラで撮影された動画を使用した振り返りによって新人が認識していない(認定指導者が認識した)問題点が多い事実が明らかとなった.ウェアラブルカメラの活用は,医学分野の手技などの教育においても,学生が教員目線と同様の視野を得られるため学修効果の向上が期待できること(井上ら,2016),また農業分野で熟練の技を映像と実体験の両方で会得できる(後藤,2014)とされ,さまざまな分野での活用の有用性が示されている.本研究の対象施設においても,ウェアラブルカメラは指導者も装着しており,新人がその動画を確認することができる.今後の事例振り返り教育の方法として,新人に認定指導者の動画を確認させることで,追体験や自らの動画との比較によって,新人が認識していない(認定指導者が認識した)問題点数を減らすことにつながる可能性がある.

以上より,フライト後のウェアラブルカメラで撮影された動画を使用した事例の振り返りは,新人の活動が客観的に評価できる点で有用と考えられる.

Ⅴ. 本研究の限界と今後の課題

本研究の問題点としては,対象者が1名と限られているとともに,対照群を設けていない点,動画を使用した教育以外の教育方法と比較していない点,フライト事例の緊急度・重症度など条件統制をしていない点,分析方法の妥当性が検討されていない点などがあげられ,新人の動画を使用した教育の効果を示すには限界がある.今後は,さらに対象者を増やすとともに,教育の効果を検証可能な研究デザインの選択や分析方法等を検討するだけでなく,動画を使用したプレホスピタル活動の評価基準,事例振り返り方法などを検討し,フライトナースの看護実践能力の向上に取り組んでいく必要がある.

Ⅵ. 結論

ドクターヘリのプレホスピタル活動活動において,1名の新人を対象としてフライト後に新人・認定指導者がウェアラブルカメラで撮影された動画を確認した.25事例において,独自に作成した13項目の実施状況の結果,新人と指導者フライトナースでは,認識した問題点数に相違があった.13項目の中で,「プレホスピタル活動とフライト記録の整合性」,「バイタルサインなどの患者状態」,「フライトドクターと患者状態に関する情報共有」,「診療補助」の実施率が低値であった.新人の活動が客観的に評価できることから,ウェアラブルカメラで撮影された動画を使用した新人の事例の振り返りは有用である.

謝辞:本研究をまとめるにあたり,適切なご助言をいただきました,池谷のぞみ先生(慶應義塾大学文学部),松永伸太朗先生(長野大学企業情報学部企業情報学科),阿久津達矢様(慶應義塾大学大学院文学研究科図書館・情報学専攻博士課程),猿谷倫史様(埼玉医科大学総合医療センター看護部),中澤弘子様(社会医療法人緑泉会米盛病院看護部),安齋勝人様(埼玉医科大学総合医療センター救急科)に心より御礼申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:STは研究の着想から原稿作成までの研究プロセス全般を遂行し,MTは研究プロセス全体への助言及び分析・解釈・原稿作成に貢献した.TSは結果の解釈および原稿への示唆に貢献した.そしてすべての著者は最終原稿を読み承認した.

文献
  •  船木 淳, 深谷 智惠子(2015):フライトナースの看護実践の構造,日救急看会誌,17(2), 1–11.
  •  蛭間 梨都子, 千田 梢, 山崎 早苗(2009):フライトナースの質を記憶用紙から検証する―東海大学医学部付属病院高度救命救急センターにおける外傷記録の改訂前後での内容比較―,日航空医療会誌,10(1), 21–24.
  •  井上 広一, 黒江 裕子, 関川 佑介(2016):医学分野におけるウェアラブルカメラ活用方法の検討,日大医総合医研紀,4, 72–76.
  • 猪口貞樹(2018):ドクターヘリの安全な運用・運航のための基準,5–11,Retrieved from: https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000209534.pdf.(検索日:2020年4月12日)
  •  後藤 一寿(2014):ウェアラブルカメラを活用した篤農技術の映像化による技術継承研究の提案,生物工会誌,92(7), 347–349.
  • 日本航空医療学会(2006a):日本航空医療学会認定制度施行細則,Retrieved from: https://square.umin.ac.jp/jsas/attachment/s_saisoku01-4.pdf.(検索日:2020年12月25日)
  • 日本航空医療学会(2006b):日本航空医療学会認定制度規則,Retrieved from: https://square.umin.ac.jp/jsas/attachment/s_ninteikisoku01-2.pdf.(検索日:2020年12月25日)
  • 日本航空医療学会フライトナースハンドブック編集委員会(2017):フライトナースハンドブック 救急現場での活動と搬送のために,へるす出版,東京.
  •  山根 裕子, 清水 ゆかり, 三島 美幸(2016):島根県ドクターヘリにおけるフライトナース養成教育とフライトナース教育の現状と今後の課題,日航空医療会誌,16(3), 24–29.
 
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