2021 年 41 巻 p. 296-304
目的:一般病棟に勤務する看護師の死生観に基づく死生観尺度を開発・検証し,死生観の構成要素を明らかにすること.
方法:システマティックレビューに基づく質的データを概念分析により得られたデータより,看護師の死生観尺度原案35項目から成る質問紙を作成した.看護師630名を対象に質問紙調査を実施し,尺度の信頼性と妥当性を検証した.
結果:有効回答率は54.4%であった.主因子解法による因子分析の結果,18項目5因子が抽出された.尺度の信頼性の検討では,Cronbach’s α係数.801,再テスト法による信頼性係数は.681であった.妥当性については,基準関連妥当性と構成概念妥当性で確認された.
結論:【家族が期待するQODD】【死に逝く人の教え】【死に対するネガティブな感情】【死は自然の摂理】【End-of-Lifeの生き方への示唆】などの5つの構成要素が抽出された.
Objectives: To develop and verify a scale of nurses’ views on death and dying based on the views of nurses working in a general hospital, and to clarify the constituent elements of nurses’ views on death and dying.
Methods: The scale of nurses’ views on death and dying was developed based on a systematic review of qualitative research into nurses’ views on death and dying and evolutionary concept analysis. A draft scale of 35 items was developed, and the questionnaire was distributed to 630 general ward nurses. Subsequently, the reliability and validity of the scale were examined.
Results: Of the distributed questionnaire forms, valid response rate was 54.4%. Principal factor analysis was conducted to identify constituent elements. The scale was ultimately composed of 18 items and five subscales. The reliability of the scale was confirmed with Cronbach’s alpha internal consistency reliability coefficient of .801 and test-retest reliability coefficient of .681. As for the validity of the scale, criterion-related validity and construct validity were confirmed.
Conclusion: The analysis identified five constituent elements: “The quality of death and dying by the family,” “The teachings of people who are dying,” “Negative feelings about death,” “Death is a law of nature,” and “Suggestions for spending the end-of-life stage.”
世界に類を見ない超高齢化社会に突入するわが国は,高齢化率28.4%(内閣府,2019)と上昇し,2025年には多死社会に突入するといわれている.そのため,自分らしい最期を迎えられるようなEnd-of-Life Care(以下EOLC)が看護師には期待されている.窪寺(2000)は,援助者が積極的死生観をもっていると,患者が否定的になり,自暴自棄になったときに,死後への希望や期待を失わずに生きることを促すことができると述べており,看護師の死生観が患者ケアに大きな役割を果たすことがうかがえる.それでは,看護師の死生観はどのような特徴を持っているのだろうか.
看護師の死生観に関する先行研究を概観すると学会報告が多く見られ,質的研究では,原著論文は良い看とりの視点(吉田,1999),終末期ケアの看護観(野戸ら,2002),死生観の形成過程(志田,2011)などが注目される.死生観の確立には,梅野(2004)は患者・家族との良好なコミュニケーションを図り生と死に向き合う重要性を述べており,大西(2006)は死にゆく患者に対する看護師の態度で「死から逃げない」態度を挙げ,積極的なケアが看護師自身もケアされると述べている.
一方量的研究では,死生観に対する影響要因から研究されているものが多い.ターミナルケアと死生観との関連では,死への態度とターミナルケア学習経験(Matsui & Braun, 2010),臨床経験や年齢(Lange et al., 2008;Gama et al., 2012;中西ら,2012)などが挙げられ,特に死生観との関連では,死生観と関連要因(阿部,2013),死生観と看取りとの関連(籏武ら,2018),看取り経験とターミナルケア態度の積極性(大町ら,2009)などが指摘されている.
わが国の死生観に関する尺度では,1990年代から海外の尺度を翻訳したもの(隈部,2006;針金ら,2009),青年期における死に対する態度尺度(丹下,1999),死生観尺度(平井ら,2000),中高年者に適応可能な死に対する態度尺度(ATDS-A)(丹下ら,2013),簡易死生観尺度(安部,2019)などがあり,日本人独自の視点で死生観を捉えようとしているが,これらはいずれも学生や一般人を対象にしている.そのため,先行研究からは看護師の死生観の構成要素は十分に検討されているとは言い難い.それゆえ看護師の死生観は,どのような構造を持ち,死生観を持っている人はどのようにEOLCに関わっているのか,また死生観の影響により看護師にもたらされる心理面やケア行動などにおける変化とはどのようなものなのかについては,まだ明らかにされてはいない.死生観に関与する様々なケア項目や属性との関連性を比較分析するためには,尺度化が必須と考える.
そこで,本研究では看護師が死をどのように捉えているのかを明らかにするために,システマティックレビューとRodgersの革新的手法に基づく概念分析(永山ら,2020)から得られた属性に関する質的データから質問項目を精選して,看護師の死生観尺度を開発し,看護師の死生観の構成要素を明らかにすることを目的とした.
一般病棟に勤務する看護師の死生観尺度を開発し,看護師の死生観の構成要素を明らかにすることである.
本研究は,自記式質問紙調査に基づく因子探索的研究である.
2. 用語の定義本研究では,死生観を生や死に対するものの見方,考え方と捉え,個人それぞれによって違うものと捉えている.そのため,本研究における看護師の死生観を「その人の生や死に対する信念,あるいはものの見方・考え方」と定義する.
3. 看護師の死生観尺度原案作成のプロセス 1) アイテムプールの作成先ず,質的研究のシステマティックレビューについては,Greenhalgh(1997)の検索方法に基づいて,「EOLCに携わった経験のある看護師は,患者との関わりを通して生や死に対してどのようなものの見方や考え方を持っているのだろうか」という研究疑問から,PubMed,CINAHL,医中誌Web版などの電子データベースを使用し文献検索を行った.その結果116件が抽出され,その他引用文献などの追加的論文26件を加えた142件のうち,死生観に関連しないものなど118件を除外した.さらに24件の質評価から7件を除外し,レビューマトリックスを作成し文献の比較分析を行った結果,最終的に17件が抽出された.
次に,抽出された看護師の死生観に関する17件の文献について,Rodgers(2000)の概念分析を実施した(永山ら,2020).概念分析した際の「先行要件」「属性」「帰結」のうち,看護師の死生観を構成する要素を意味する「属性」データで抽出されたサブカテゴリー40項目をもとに質問項目を精選した.さらに文献検討から2項目を加え,アイテムプールを作成する際に妥当性の検討を実施し,これらをもとに死生観を表わす意味内容を吟味し繰り返し修正を重ね,42項目を質問項目として抽出した.
2) 妥当性の検討 (1) 表面妥当性アイテムプールで抽出された質問項目が看護師の死生観を表わしているかを,看護系大学の教員と大学院生で検討し,各文章の見直しと修正を行い,看護師の死生観には該当しないと判断した6項目を削除し,36項目とした.
(2) 内容妥当性の検討内容妥当性では,一般的にContent Validity Index(CVI)が広く使われている.そこで本研究においても尺度原案の適切性を問うために,看護のエキスパート19名に対して質問紙調査を用いて内容妥当性を検討し,Lynn(1986)の手法を用い,3点または4点をつけた者の割合が80%以上得られた場合を適切であるとした.また,尺度に対する自由記述による専門的立場からの助言も求めた.その結果,適切性が確保されなかった1項目を2文に分け37項目とした.
4. 本調査 1) 研究対象者予備調査では,A県内一般病棟勤務看護師80名に調査を依頼した.次に本調査では,B県内一般病棟勤務の看護師630名に調査を依頼した.再テストによる信頼性の検証においては,看護系大学の大学2年生58名を対象者とした.
2) 調査方法(1)予備調査は,令和元年6月25日~7月9日に実施した.(2)本調査は,令和元年8月7日~9月2日に実施した.調査は施設長の同意が得られた後に実施し,その後郵送回収した.なお,調査に際し,調査票の返送をもって同意とみなした.(3)再テストの1回目は令和元年12月11日に実施し,再テストは令和2年1月8日~9日に実施した.
3) 質問紙の構成質問紙は,(1)看護師の死生観尺度原案35項目,(2)看護師の死生観尺度(岡本・石井,2005)25項目,(3)死に対する態度尺度改訂版(Death Attitude Profile-Revised:以下DAP-R)(隈部,2006)27項目,(4)個人属性の項目には,性別,年齢,看護師経験年数,所属部署での勤務年数,勤務病棟,最終学歴,身近な人の看取り経験の有無,家族と死に関する会話経験の有無,終末期ケアに関する学習会参加経験の有無の9項目から構成した.なお,回答形式は「1:そう思わない」1点~「5:そう思う」5点の5段階リッカートスケールとした.
次に,本研究で基準関連妥当性の検証のために用いた2尺度について概略する.開発者それぞれに尺度の使用許可を得たのち使用した.
(1) 岡本・石井(2005)により作成された看護師の死生観尺度本尺度は,看護師の死生観を明らかにすることを目的に開発され,「死の準備教育」「死の不安」「身体と精神の死」「遺体への想い」「人生の終焉」「死後の世界」の6下位尺度から構成されている.尺度の信頼性は信頼性係数(Cronbach’s α)で確認され,各下位尺度は.70~.80である.既存尺度との妥当性の検証は確認されていない.
(2) 隈部(2006)により作成された死に対する態度尺度改訂版(DAP-R)DAP-R(Wong et al., 1994)は,死への態度の特徴を知ることを目的に隈部(2006)により邦訳された尺度である.本尺度は「接近型受容」「死の恐怖」「死の回避」「逃避型受容」の4下位尺度から構成されている.尺度の信頼性は信頼性係数(Cronbach’s α)で確認され,各下位尺度は.88~.92である.
5. 倫理的配慮本研究は,著者の所属する人間環境大学の研究倫理審査委員会の承認を得た(研究実施許可番号2018N-003).調査依頼の際には,施設長へ口頭および文書にて同意を得たのち実施した.質問紙は無記名とし,研究目的,研究の概要,意義,プライバシー保護対策,研究協力と中断の自由意思,データの取り扱いと破棄,研究成果の学会等での報告,研究者の連絡先と問い合わせ先などについて説明文の添付をし,質問紙の回答をもって研究参加への同意とみなした.
6. 分析方法データの分析には,SPSS 26.0 for Windowsを使用した.
1) 項目分析項目分析では,天井効果とフロア効果の確認をし,I-T相関,G-P分析を行い,項目間の相関を確認した.
2) 因子分析項目分析で整理された予備調査から導き出された項目を主成分分析した上で,主因子解法,プロマックス回転による因子分析を行った.その際の項目の選択では,因子負荷量0.400以上を条件とし,複数の因子にまたがる負荷の高い項目は削除した.
3) 信頼性の検討本研究の内的整合性を確認するために,尺度全体と各因子のCronbach’s α係数を求めた.そして,尺度の安定性を確認するために,折半法によるSpearman-BrownとGuttmanの係数を求めた.さらに,第1回目の調査から対象者に変化が生じないと思われる約4週間の期間を置いて,1回目と再テストの得点とのPearsonの相関係数を求め,信頼性を確認した.
4) 妥当性の検討 (1) 基準関連妥当性基準関連妥当性の検討として,本尺度と看護師の死生観尺度(岡本・石井,2005),死に対する態度尺度改訂版(DAP-R)(隈部,2006)とのPearsonの相関係数を求めた.
(2) 構成概念妥当性構成概念妥当性の検討として,クライテリオン群を看護学生に設定した既知グループ法を用い,尺度の正規性を確認した上でt検定を行った.
倫理委員会名称(承認番号):人間環境大学研究倫理審査委員会(2018N-003)
予備調査は,質問紙の回収数78名,回収率97.5%,有効回答数75名,有効回答率93.8%であった.対象者の平均年齢は35.35 ± 9.86(29~47)歳,看護師経験年数は15.5 ± 9.13年であった.男性が1名のため分析対象から除外した.
本調査は,質問紙の回収数399名(回収率61.9%),有効回答数343名(有効回答率54.4%),対象者の平均年齢は30.97 ± 8.94(22~57)歳,看護師経験年数は8.32 ± 8.59年,性別は女性313(91.3%)名,男性30(8.7%)名,勤務部署では外科病棟156名(45.5%),内科病棟102名(29.7%),混合病棟69名(20.1%),ICU,GICU,NICU16名(4.7%),教育課程では,専門学校111名(32.4%),短期大学9名(2.6%),大学218名(63.6%),大学院4名(1.2%)であった.
再テストは,第1回目の質問紙の回収数57名,回収率98.3%,有効回答数57名,有効回答率98.3%,再テストは回収数58名,回収率100%,有効回答数47名,有効回答率81.0%であった.
2. 項目分析概念分析から抽出された質問項目37項目のうち,予備調査で項目分析を行った.天井効果(mean + SD > 5)を認めた「最期は安らかに穏やかに逝けるのが良い(5.04)」と,「自分の命もいつどうなるかわからない(5.03)」の2項目を,項目間の違いを捉えることができないことから削除した.フロア効果(mean – SD < 1)を認める項目はなかった.以上の結果から,最終的に35項目の看護師の死生観尺度原案を作成した.
3. 因子分析と因子の命名看護師の死生観尺度原案35項目を主成分分析した結果,固有値1以上,因子負荷量0.400以上を条件とし,第1主成分17項目,第2主成分6項目合計23項目を抽出した.その結果,固有値1以上,因子負荷量0.400以上の条件を満たさない12項目が削除された.
次に,主因子解法,プロマックス回転による探索的因子分析を行った.因子のスクリープロット,累積寄与率から,抽出する因子数を5~7因子に想定して因子分析を行った.Kaiser-Meyer-Olkin = 0.827を確認し,分析に耐え得るサンプルであることが確認された.固有値1以上,因子負荷量0.400以上を採択の条件とし,0.400未満の項目や,複数の因子にまたがる項目を除外した.さらに,共通性やCronbach’s α係数の変化を繰り返し確認しながら因子分析を実施した.ただし,0.400未満であっても,定義した死生観の内容から必要な項目と捉えた「私だったら愛する人のそばで逝きたい」と「死を受容することがこれからの生き方に関わると思う」の2項目は,因子を構成する項目に加えた.
その結果,18項目5因子を採用し尺度とした(表1).看護師の死生観尺度の正規性の検定をShapiro-Wilk検定で行った結果,正規分布していることが確認された(p = .134).
| 因子名・項目内容 | Cronbach’s α係数 | 因子負荷量 | 共通性 | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 第Ⅰ因子 | 第Ⅱ因子 | 第Ⅲ因子 | 第Ⅳ因子 | 第Ⅴ因子 | |||
| 第Ⅰ因子 家族が期待するQODD | α = .762 | ||||||
| 1.家族が後悔しないように死に目に会わせてあげたい | .840 | –.095 | –.048 | –.023 | –.066 | .583 | |
| 2.家族に見守られる自然な死が良い | .802 | .420 | –.060 | .015 | .056 | .667 | |
| 3.最期は自分の慣れ親しんだ温もりのある場所で迎えるべきである | .646 | –.116 | .127 | –.008 | .232 | .502 | |
| 4.独りで亡くなるのは寂しいと思うから独りでは逝かせたくない | .449 | .147 | –.010 | –.060 | –.157 | .276 | |
| 5.私だったら愛する人のそばで逝きたい | .399 | .153 | .057 | .084 | –.061 | .307 | |
| 第Ⅱ因子 死に逝く人の教え | α = .755 | ||||||
| 6.死に逝く患者を見て今を大切に生きようと思う | –.044 | .775 | –.006 | –.121 | .016 | .514 | |
| 7.亡くなった人との楽しい思い出は心の中に生き続ける | .070 | .678 | –.093 | .088 | .014 | .512 | |
| 8.人生を生き抜いた人の死は何よりも人間的な死である | .057 | .614 | –.115 | .064 | .139 | .436 | |
| 9.死に逝く患者は自分にないものを教えてくれる | –.079 | .542 | .143 | –.092 | .015 | .322 | |
| 10.最期まで生きる希望を持っている患者は強いと思う | –.009 | .490 | .057 | .100 | –.032 | .306 | |
| 第Ⅲ因子 死に対するネガティブな感情 | α = .656 | ||||||
| 11.死に直面した人を見ると悲しく痛ましいと思う | –.099 | .015 | .739 | .084 | –.139 | .537 | |
| 12.良い看取りにならなかった場合は否定的感情を抱きやすい | .044 | –.067 | .582 | .051 | .019 | .325 | |
| 13.患者の苦悩をまのあたりにすると自分のことのように感じる | .003 | .073 | .542 | –.131 | .071 | .343 | |
| 第Ⅳ因子 死は自然の摂理 | α = .564 | ||||||
| 14.自然に枯れていくような死は自然な姿である | –.047 | –.022 | .011 | .585 | –.085 | .289 | |
| 15.老いていく中での死を誰も避けることはできない | .039 | .161 | –.042 | .582 | –.143 | .393 | |
| 16.死はごく自然の摂理である | –.002 | –.091 | .034 | .567 | .072 | .327 | |
| 第Ⅴ因子 End-of-Lifeの生き方への示唆 | α = .418 | ||||||
| 17.身近な人の死は乗り越えられる | –.023 | .080 | –.095 | –.127 | .632 | .370 | |
| 18.死を受容することがこれからの生き方に関わると思う | –.003 | .246 | .263 | .109 | .352 | .386 | |
| 回転後の負荷量平方和 | 3.388 | 3.553 | 2.542 | 1.895 | 1.173 | ||
| 寄与率(%) | 18.986 | 6.898 | 4.575 | 2.748 | 2.534 | ||
| 累積寄与率(%) | 18.986 | 25.884 | 30.459 | 33.207 | 35.741 | ||
| 因子間相関 第Ⅰ因子 | 1.000 | ||||||
| 第Ⅱ因子 | .421** | 1.000 | |||||
| 第Ⅲ因子 | .300** | .349** | 1.000 | ||||
| 第Ⅳ因子 | .195** | .250** | .330 | 1.000 | |||
| 第Ⅴ因子 | .160** | .239** | .077 | .191** | 1.000 | ||
** p < 0.01
5因子について,以下のように解釈した.
第I因子は5項目から構成され,「家族を死に目に会わせてあげたい」「独りでは逝かせたくない」,という家族が後悔しないような最期を願う内容であり,家族が期待する看取りへの想いの内容から構成されていることから,【家族が期待するQuality of Death and Dying:以下QODD】と命名した.
第II因子は5項目から構成され,死に逝く患者を見て「今を大切に生きようと思う」「患者は自分にないものを教えてくれる」というEOLCを通して死に逝く患者から自分にないものを教わる内容であり,看護師の死生観に強い影響をもたらすと解釈されたことから,【死に逝く人の教え】と命名した.
第III因子は3項目から構成され,「死に直面した人を見ると悲しく痛ましい」「否定的感情を抱きやすい」といった,死からもたらされる悲しい,痛ましいなどのネガティブな感情は,患者の苦悩を直視したことで感じる看護師の死に伴う感情を示していることから,【死に対するネガティブな感情】と命名した.
第IV因子は3項目で,「自然に枯れていく死は自然な姿」「死は誰も避けられない」「死はごく自然の摂理」などから構成された.これらは,人間にとって死は自然な姿で不可避なものであり,看護師は患者の死を自然な現象,そして自然の摂理と捉えられていることから,【死は自然の摂理】と命名した.
第V因子は2項目で構成され,「身近な人の死は乗り越えられる」と「死を受容することがこれからの生き方に関わると思う」は,死を乗り越え,その先の生き方に関わる内容であり,【End-of-Lifeの生き方への示唆】と命名した.
4. 構成要素に関与する属性との関連看護師の死生観尺度に関与する要因を特定するために,看護師の死生観尺度を従属変数とし,年齢,看護師経験,最終学歴などの属性を独立変数として重回帰分析を行った.その結果,尺度に関与する要因として属性との関係では最終学歴が示唆されたが,決定係数R2が低く特定することができなかった.
5. 信頼性の検討看護師の死生観尺度全体のCronbach’s α係数は.801,各因子では.418~.762であった.また,折半法によるSpearman-Brownの係数は,ρ = .687であり,Guttmanの折半法においてもρ = .687であった.再テスト法による信頼性係数は,尺度全体ではr = .681(p < 0.01),各因子ではr = .414~.746(p < 0.01)であり,尺度の信頼性が概ね確認された.
6. 妥当性の検討 1) 基準関連妥当性本尺度と岡本・石井(2005)の看護師の死生観尺度との関連では,尺度全体とはr = .539(p < 0.01)と有意な相関を示した.しかし,両尺度の各因子間の相関係数は,r = .112~.531(p < 0.05, p < 0.01)と低かった.中でも第I因子【家族が期待するQODD】と「死の準備教育」r = .339(p < 0.01)と,第II因子【死に逝く人の教え】と「死の準備教育」r = .531(p < 0.01)は,中程度の相関が認められた.
本尺度と死に対する態度尺度改訂版DAP-R(隈部,2006)との関連では,尺度全体とはr = .251(p < 0.01)と相関係数は低いが有意な相関を示した.両尺度の各因子間の相関係数はr = .017~.302(p < 0.05, p < 0.01)と低かったが,最も相関係数が高かったのは,第III因子【死に対するネガティブな感情】と「死の恐怖」r = .302(p < 0.01)であった.(表2).
| 本尺度の5因子 | |||||
|---|---|---|---|---|---|
| 第Ⅰ因子 家族が期待するQODD |
第Ⅱ因子 死に逝く人の教え |
第Ⅲ因子 死に対するネガティブな感情 |
第Ⅳ因子 死は自然の摂理 |
第Ⅴ因子 End-of-Lifeの生き方への示唆 |
|
| 岡本ら(2005)の看護師の死生観尺度 | |||||
| 第Ⅰ因子 死の準備教育 | .339** | .531** | .311** | .294** | .267** |
| 第Ⅱ因子 死の不安 | .261** | .261** | .268** | –.063 | .063 |
| 第Ⅲ因子 身体と精神の死 | .037 | .276** | .276** | –.225** | .044 |
| 第Ⅳ因子 遺体への想い | .142* | .079 | .103 | .337** | .112* |
| 第Ⅴ因子 人生の終焉 | .142* | .079 | .103 | .337** | .112* |
| 第Ⅵ因子 死後の世界 | .306** | .315** | .253** | .031 | .067 |
| 死に対する態度尺度改訂版(DAP-R) | |||||
| 第Ⅰ因子 接近型受容 | .105 | .255** | .192** | .034 | .062 |
| 第Ⅱ因子 死の恐怖 | .265** | .193** | .302** | –.063 | –.064 |
| 第Ⅲ因子 死の回避 | .017** | –.089 | .124* | –.176** | –.152** |
| 第Ⅳ因子 逃避型受容 | .149** | .164** | .153** | .202** | .177** |
Note:pearsonの相関係数 * p < 0.05 ** p < 0.01
クライテリオン群として,看護大学の第2学年の学生を設定した既知グループ法を用いた.配布数は58名,回収数57名,回収率98.3%,有効回答数57名,有効回答率98.3%であった.対象者群とクライテリオン群の看護師の死生観尺度の各因子得点を比較したところ,第I因子【家族が期待するQODD】(3.95 ± 0.55,4.19 ± 0.61),第II因子【死に逝く人の教え】(3.84 ± 0.55,4.15 ± 0.49),第III因子【死に対するネガティブな感情】(3.64 ± 0.63,3.97 ± 0.67),第IV因子 【死は自然の摂理】(3.88 ± 0.53,4.32 ± 0.50),第V因子【End-of-Lifeの生き方への示唆】(3.32 ± 0.66,3.29 ± 0.74)であった.4因子の得点が,クライテリオン群の方が有意に高かった(p < 0.01).
概念分析に基づき看護師の死生観尺度を構成する要素として,抽出された5因子それぞれの特徴について考察する.
第I因子【家族が期待するQODD】の項目内容から,看護師は家族が患者の死に目に会うことが遺された家族にとって後悔しないという願いを叶える役割を担う,と捉えていたと考える.野戸ら(2002)は,終末期ケアにおける臨床看護師のケア行動として「ニードを知る」「家族を支える」を抽出し,吉田(1999)は,“良い看とり”の構成要素として「家族が納得する死」「臨終時に家族に見守られた死」を抽出している.これらは,本研究の第I因子の意味内容と類似していると考える.End-of-Life Careに際して,看護師は患者のみならず家族の想いを重視していることが示唆された.
また,日本人の死の捉え方の背景には「家族中心主義」があり,核家族化している現在においても「家族は第二の患者」と言い換えられて継承されており,EOLCにおいては家族支援やサポートの重要性が示唆され(比嘉,2018),本研究結果は日本人特有のものが反映されたものであると考える.
第II因子【死に逝く人の教え】に関して,柏木(2007)は,死を自覚した人は人生を振り返り,そこから得た知恵や教訓をまわりの人々に伝え,死に逝く人は人生の教師であったと述べている.つまり,周囲の人は病人を最期まで看取る中で多くの教訓を得ており(柏木,2007),本研究結果の,患者から多くの教えを得た内容を支持している.このことから,看護師はケアを通して患者から,あるいは患者を思い返すことで,その最期の教えが自分自身の中に教訓として生きており,その教えを自分のものとして学び取ることで看護師は死生観を醸成していくのではないかと考える.
第III因子【死に対するネガティブな感情】に対しては,加藤(2014)は,生きていく上で適切で健康的な反応の可能性を指摘し,また大賀(2017)は,死などの喪失体験に伴い悲しいという感情を持つと述べている.これらの示唆は,第III因子の構成項目の意味内容と類似していると考える.また構成項目には,看取りに伴う感情が含まれていた.看護師の理想とする看取りに近づけたいという想いから,良い看取りにならなかった場合は悲しむよりも後悔や無力感などが看護師にもたらされるため,より複雑な感情になることが推察される.
第IV因子【死は自然の摂理】に関しては,志田・渡邊(2009)は緩和ケア病棟の看護師は,死は特別なものではなく自然の摂理であり,人智を超えた力によって定められている,と死の不可避性を述べている.このことから,誰もが死を生の先に存在する必然的なものと捉え,どれだけ自然な形で死を迎えられるようにすることができるのか,看護師はケアを通して見出していることが示唆されたと考える.
第V因子【End-of-Lifeの生き方への示唆】に関しては,2項目から構成されていた.「身近な人の死は乗り越えられる」という死を恐れず生を見つめる内容と,「死を受容することがこれからの生き方に関わると思う」という死を受け入れることが生き方に影響を与える内容で構成されたと考える.
志田(2011)は,人は人の死の体験から死を知り,その死の体験を通して生に気づき,生と死は共に存在すると述べ,また細見(2013)も,死を考えることと生を考えることが深い所でつながっているとしている.両文献は,本研究で示唆された第V因子の項目に類似している.このことから,遺された者にとっては,死はこれからの生き方を示唆されたものと考える.
以上,第I因子から第V因子の構成要素は,Rodgersの概念分析を元に質問紙を作成し因子分析をした結果,看護師の死生観の構成要素として抽出されたものである.しかしながらこれらは,看護師の体験に基づくものであり,同じような体験をしても死に対する認識には個人差が反映することに留意する必要がある.浅見(2006)は,看護師の終末期ケアに関する捉え方,死や生への関心によって,看護師の言語表出の有無と内容は影響を受ける,と述べている.そのため,看護師は患者へのケアリングを通して,またケアリングの中で看護師独自の死生観を育むものと考える.こうして形成された看護師の死生観は,患者の安らかな死を導くものとなるだろう.
2. 看護師の死生観尺度の信頼性と妥当性信頼性の検討においては,基準値以上の信頼性係数が得られ,内的整合性は確認された.折半法による尺度の均一性および再テスト法による再現性から,測定尺度の安定性は確認されたと考える.
妥当性の検討においては,本尺度と岡本・石井(2005)の尺度では,尺度全体では有意な相関を示したが,本尺度の5因子との間には相関係数が低かったことや,本尺度は家族の視点が含まれることから,看護師の死生観を測定している本尺度の5つの因子が岡本・石井(2005)の尺度とは差異がみられたと考える.また本尺度と隈部(2006)との尺度では,下位尺度の第III因子【死に対するネガティブな感情】と「死の恐怖」の間に有意な相関が認められている.死の恐怖が死に対するネガティブな感情を引き起こすきっかけになることが考えられ,本尺度が死に対する態度の側面を重視していることが示唆された.
構成要素に関与する属性との関連では,先行研究から年齢や臨床経験等が挙がると推測されたが,特定はできなかった.丹下(1995)は,個人の人格や自我の様相は必ずしも年齢と比例するものとは言えないため,死生観の展開に至っては年齢が発達の代替的指標とはなり得ない,と述べている.死生観は,年齢と経験を重ねることで形成されるというのではなく,むしろ看護師の死の受け留め方,その積み重ねに関わる個人差によるものが影響するのではないかと考える.
構成概念妥当性の検証では,本尺度の得点が看護師と看護学生では有意な差が認められたが,看護学生の得点のほうが高い結果であった.クライテリオン群である看護学生の人数が少なかったことから,十分な調査対象者であったとは言い難い.今後は,死や看取りの経験が豊富であるホスピス・緩和ケア病棟の看護師や専門性の高い精神科領域の看護師などをクライテリオン群とした妥当性の検証が必要であると考える.
以上から,18項目5因子から構成された看護師の死生観尺度は,一定の信頼性と妥当性が確認されたと考える.
一般病棟の看護師の死生観の構成要素を抽出するため,Rodgersの概念分析をもとに看護師の死生観を抽出したが,死生観が抽出される背景にある関連要因はつかみ取れていない.死生観が形成されるために何が関与し,死生観はどのように発達し,死生観を持っている人とそうでない人とでは何が異なるのか,患者に対してどういう態度で接するのかなどを明らかにしていく必要がある.そのためには,概念分析で抽出された「先行要件」と「帰結」との関連性の中で,看護師の死生観の特徴を明らかにする必要がある.
また,本尺度の妥当性については,基準関連妥当性と構成概念妥当性で検証を行った.しかし後者に関しては十分とは言い難い.さらにクライテリオン群を専門性の高い看護師に設定し,再度検証することが残されており,今後の課題と考える.
看護師の死生観尺度は18項目5因子が抽出され,【家族が期待するQODD】【死に逝く人の教え】【死に対するネガティブな感情】【死は自然の摂理】【End-of-Lifeの生き方への示唆】と5つの構成要素が明らかになった.また本尺度は,一定の信頼性と妥当性が確認された.
付記:本研究は,人間環境大学大学院看護学研究科に提出した博士論文に加筆・修正を加えたものである.なお,本論文の一部は第40回日本看護科学学会学術集会において発表した.
謝辞:本研究のためにご承諾頂き,また質問紙にご協力くださいました対象者の皆様に,心から感謝申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:HNは研究の着想,デザイン,データ収集,統計分析,解釈,論文執筆の全研究プロセスを実施;COは研究の着想,デザイン,結果,考察に助言,加筆修正し,全研究プロセスに貢献;YTは研究デザイン,統計分析および原稿への示唆を実施.HNおよびCO,YTは豊富な意見交換に基づき研究分析を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.