日本看護科学会誌
Online ISSN : 2185-8888
Print ISSN : 0287-5330
ISSN-L : 0287-5330
原著
看護小規模多機能型居宅介護で活躍する看護師の行動特性
坂下 玲子撫養 真紀子小野 博史渡邊 里香芳賀 邦子粟村 健司真鍋 雅史新居 学中西 永子河野 孝典
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2021 年 41 巻 p. 665-673

詳細
Abstract

目的:看護小規模多機能型居宅介護(以下,看多機)で働く看護師の行動特性を明らかにする.

方法:看多機の施設長から推薦された看護師29名を対象に行動結果面接法を参考に半構造的面接を行い質的記述的に分析した.

結果:看多機で働く看護師の成果は,【利用者・家族の生活の質の向上】【利用者・家族に提供するケアの質の向上】の2カテゴリーと8サブカテゴリー抽出された.これら成果につながる行動特性として【その人の生活の中で歩み寄りを続ける】【その人や家族の強みを引き出し生活に取り入れる】【個々に合わせ臨機応変にケアを創造する】【命をまもる】【看取りを支える】【その人の居場所をつくる】【その人を支えるチームをつくる】の7カテゴリーと37サブカテゴリーが抽出された.

結論:今回抽出された看護師の行動特性によって,最期まで住み慣れた自宅や地域で暮らし続けていくという看多機の役割が促進されることが期待される.

Translated Abstract

Purpose: To identify the behavioral characteristics of nurses working in nursing multifunctional in-home long-term care service (Kantaki).

Methods: Semi-structured personal face-to-face interviews based on Behavioral Event Interview were conducted with 29 nurses who were rated as excellent job performers by the director of Kantaki, followed by qualitative descriptive analysis of the interview data.

Results: Two categories were extracted as desired care outcomes: “improvement of the quality of life of patients and their families” and “improvement of the quality of care provided to patients and their families.” Additionally, eight subcategories were extracted. Organizing the content that was thought to lead to these outcomes, the following seven categories and 37 subcategories were extracted as the caregiving practices of the nurses: 1) remain close to the care receiver, 2) draw out the strengths of the care receiver and their family and encourage them to use those strengths to improve life, 3) provide flexible care tailored to the individual’s needs, 4) protect life, 5) support end-of-life care, 6) create a comfortable space for the care receiver, and 7) mobilize a team to support the care receiver.

Conclusion: Nurses’ behavioral characteristics were expected to promote the role of Kantaki which enables the elderly to continue living in their own homes and communities until the end of their lives.

Ⅰ. 緒言

急速な高齢化に伴う疾病構造や社会構造の変化,国の財政上の問題への対応として,医療においては効率的かつ質の高い医療体制と地域包括ケアシステムの構築に向けた整備が進められている(厚生労働省,2016).このような状況に対応するため,2000年に介護保険法が成立し,2012年には,人々が在宅療養を継続できるようなシステムとして,訪問看護・訪問介護サービス,通所サービス,泊まりサービスなど多様なサービスを1つの事業者が提供する「複合型サービス」が創設され,2015年度から「看護小規模多機能型居宅介護(以下,看多機)」に名称変更された(厚生労働省,2015).看多機は29名以下の利用者を対象に「通い」を中心に「宿泊」「訪問介護」「訪問看護」を組み合わせたサービスである.開設事業所数は,年々増加し2021年3月25日時点で719施設(日本看護協会,2015)となっているものの全市町村の13%程度にしか存在していないことが報告されており(渡邊ら,2019),十分普及しているとは言い難い.

看多機の普及活動の一つとして,厚生労働省は,看多機の特性である住み慣れた地域で自分らしく暮している事例をホームページで紹介している.そこでは退院直後の在宅復帰支援,がん末期の在宅生活への援助と看取り,医療ニーズの高い認知症へのケア,清潔保持・食事の管理などの多様な支援が提供されており(厚生労働省,2015),看護師には,多様なサービス提供や多職種の協働が求められている(片平ら,2019).しかし,看多機は制度創設から10年もたっておらず,そこで成果をあげる看護師にはどのような能力が必要なのかは明確にされていない.

卓越した成果を生むために,米国の心理学者McClelland et al.(1977)は,人間の深層部分にあり仕事を成功に導き,かつ現実に行動として確認できる能力としてコンピテンシーという概念を提唱し,それを「卓越した成果を生む基となる総合的な専門能力のことであり,単に知識,技術だけでなく,卓越した意識・姿勢・考え方・行動様式を伴う能力のことである」と定義した.コンピテンシーの研究をさらにすすめたSpencer & Spencer(1993/2011)は,コンピテンシーを「ある職務または状況に対し,基準に照らして効果的,あるいは卓越した業績を生む原因として関わっている個人の根源的特性,具体的には,動因,特性,自己概念,知識,スキルである」と定義した.この概念は看護分野でも広く用いられてきたが,松谷ら(2010)は,コンピテンスを「ある職務のできる人が有している潜在的な能力である」とした上で,看護のコンピテンシーとは,「潜在的なコンピテンスが前提となってコンピテントな(有能な)看護師によって実際の行為として示される行動特性である」と定義づけた.

本研究は,この定義に基づき,看多機の役割である,最期まで住み慣れた自宅や地域で暮らし続けていくことを実現していくために,そこで働く看護師の行動特性を明らかにすることを目的とした.

Ⅱ. 用語の定義

コンピテンシー:専門的判断を含む知識,技術,価値観及び態度,そしてそれらを統合する能力からなる潜在的なコンピテンスを前提として,実際の行為として意図的にケアに表現される行動特性.

行動特性:その人が役割を果たす上で意味をもつ行いや反応の様式.

Ⅲ. 方法

1. 研究デザイン

半構成的面接法による質的記述的研究デザインを用いた.

2. 研究参加者の選定

施設の選定:厚生労働省のホームページ「介護事業所・生活関連情報検索」では事業所の運営状況7項目が5段階評価で示されているが,そのうち各項目の平均が4以上の施設を選定基準とした.また北海道から九州・沖縄地方に至る全国の看多機の状況が反映されるように各地域より便宜的に選出した.

研究参加者の選定:看多機は歴史が浅く,高い業績を上げている者の選出基準は明確でないため,研究協力を承諾した施設長が活躍していると判断し研究協力を承諾した看護師を対象とした.

3. データ収集法

データ収集は,コンピテンシーの開発のための面接方法である行動結果面接法Behavioral Event Interview(以下BEIとする)(Spencer & Spencer, 1993/2011)を参考に作成したインタビューガイドを用い,看護実践での成功体験や失敗体験など心に残っている場面や事例について,看護実践の文脈の中で,「どのような行為を行い,それがどのような結果につながったのか」を語ってもらった.会話は許可を得てICレコーダに録音し,逐語録にしてデータとした.調査期間は2018年5月~2019年2月であった.

4. データ分析方法

BEIによって得られたデータからコンピテンシーを識別するために使われる「主題分析」(Spencer & Spencer, 1993/2011)を用い分析した.主題分析には2つの方法があり,コンピテンシー・ディクショナリーを使い,すでに判明しているコンピテンシーに基づき面接記録にコードをふる方法と,新しいコンピテンシー主題を面接のやり取りの中から質的記述的に分析し概念化する方法がある(Spencer & Spencer, 1993/2011).本研究においては,看多機で活躍する看護師という先例が少ない分野を探索的に検討するため,後者を用いた.コンピテンシーとは,卓越した成果を生む基となる総合的な専門能力のこと(McClelland et al., 1977)であるが,看多機は設立されて十分な年数が経過していないため,何が優れた成果か明らかになっていない.そこで,まず成果と考えられるものを抽出した上で,それにつながると考えられる行動を抽出した.作成された逐語録より,看多機に従事する看護師の成果とその成果につながっている行動分析に相当する部分を取り出して要約し,これをコードとした.次に,各コードの類似性と相違性を比較検討しそこに含まれるコードを代表しうるような名前をつけ,これをサブカテゴリーとした.さらにサブカテゴリーの類似性と相違性を比較検討してカテゴリー名をつけた.分析は,研究者全員で行った.まず,2人でペアを作り,各自が逐語録をよく読み抽出した部分とそれをコード化したものをもちより検討した.その後それを他のメンバー全員で再度チェックした後,全員が参加する会議を複数回もち,カテゴリーごとに生データを確認しながらコード,サブカテゴリー,カテゴリーの名称の妥当性を検討した.また,在宅看護および質的研究の実績のある研究者のスーパーバイズを受けた.

5. 倫理的配慮

本研究は,兵庫県立大学看護学部・地域ケア開発研究所研究倫理委員会の承諾(平成30年度 教員3)を得て実施した.施設長に,書面および電話にて研究依頼を行い,施設長が活躍していると考える看護師の内諾を得た上で紹介していただき,研究者が施設に出向いて,対象者に文書と口頭で研究の目的と方法,人格の尊重,プライバシーの保護と匿名性の確保,結果公表の予定等を説明し書面による同意を得て研究を実施した.

Ⅳ. 結果

1. 対象者の概要

対象者は,24施設で働く看護師29人(全員女性),平均年齢50.1 ± 9.5歳(30~71歳),看護師経験は平均26.2 ± 9.3年(9~48年),看多機勤務年数は平均3.1 ± 2.1年(1~7年)であった.すべてが総合病院で複数の科を経験しており,12人は訪問看護の経験があった.北海道3名,関東地方4名,中部地方2名,関西地方11名,四国地方2名,中国地方2名,九州・沖縄地方5名であった.

2. 分析結果

インタビュー時間は,44.5 ± 17.3分(20~76分)であった.以下,【 】はカテゴリー,〈 〉はサブカテゴリーを示す.[ ]は実際語られた内容を示す.

1) 看多機で働く看護師が認識している成果

得られたデータを分析した結果,看多機で働く看護師が認識している成果は,【利用者・家族の生活の質の向上】【利用者・家族に提供するケアの質の向上】の2カテゴリーと8サブカテゴリーが見出された.

(1) 【利用者・家族の生活の質の向上】

このカテゴリーは,〈利用者の安心〉〈希望の実現〉〈生活意欲の向上〉〈生活機能の維持・向上〉から構成されていた.〈利用者の安心〉では,[顔なじみになり継続して関わることで,利用者・家族がホッとできる時間を捻出した]こと等が示された.〈希望の実現〉では,[本人が望むような生活環境を整えて,自宅での生活を可能にした]ことや[必要なサポートを提供することで,その人らしい暮らしが実現した]ことが示された.また,〈生活意欲の向上〉では,[生活のなかで(利用者自身が)できることをしようとする]と意欲が向上したことが語られた.〈生活機能の維持・向上〉では,個人の好みを尊重してその人の生活にあったケアをすることで食事摂取が可能となった例が示された.

(2) 【利用者・家族に提供するケアの質の向上】

このカテゴリーは,〈利用者・家族の満足度〉〈利用の継続〉〈問題解決〉〈自律・自立〉から構成されていた.〈利用者・家族の満足度〉では,ケアによって[自宅では見せない表情をデイで見せてくれた]など,利用者や家族の満足度が高まったことが示された.〈利用の継続〉では,症状コントロールを重視し,自宅で健康に暮らしていける支援を提供したことが利用継続につながった例が語られた.〈問題解決〉では,デイと訪問を組み合わせることで,慢性疾患等病気のコントロールができたことが示された.〈自律・自立〉では,その人ができることを見極めながら関わることで自立につながった例が示された.

2) 看多機で働く看護師の行動特性

これらの成果につながると考えられた内容を整理して,看多機で働く看護師の行動特性として,【その人の生活の中で歩み寄りを続ける】【その人や家族の強みを引き出し生活に取り入れる】【個々に合わせ臨機応変にケアを創造する】【命をまもる】【看取りを支える】【その人の居場所をつくる】【その人を支えるチームをつくる】の7カテゴリーと37のサブカテゴリーが抽出された(表1).

表1  看多機で働く看護師の行動特性
カテゴリー サブカテゴリー
その人の生活の中で歩み寄りを続ける 生活歴の中でのその人をとらえる
場により違う姿をみせるその人に気づく
時間をかけじっくり関わり続ける
家族の一員になるぐらいの近い距離を保つ
その人や家族の望みを確認し続ける
その人や家族の強みを引き出し生活に取り入れる その人の状況をわかりやすく伝え,共有する
その人がうまくできる方法を生活に取り入れる
その人の力が高まるように自己管理できることを調整する
その人の機能を維持回復するよう支援する
個々に合わせ臨機応変にケアを創造する その人の個別性を重視する
その人の生活を重視する
その人のケアニーズを把握する
経済状況に応じてケアを工夫する
その人・家族の思いを叶える
時間をかけて双方が納得する着地点を探す
変化に迅速に対応し,サービスを調整する
命をまもる 誤嚥リスクがあり食べられないその人が望む経口摂取の可能性を探る
安全を見極めながら口から食べるのを支援する
症状コントロールが難しいその人のケアができる
医療依存度の高いその人を看護する
感染を予防する
介護職員が対応できない緊急時の対応をする
看取りを支える 家族の看取り力をアセスメントしながら看取りの場を整える
家族の意思決定を支援する
その人が家族と過ごせる場を調整する
苦痛を緩和する
ターミナル期にあるその人や家族の望みを叶える
その人・家族に無理のない終焉へ導く
その人の居場所をつくる その人が安心できる環境を整える
家と変わらない生活リズムをつくる
その人を支えるチームをつくる 家族を支える
看護職間の連携を図る
介護職と協働する
医師との連携を図る
多職種との連携を図る
社会資源との連携を広げる
チームで目標を共有し学び合う

(1) 【その人の生活の中で歩み寄りを続ける】

このカテゴリーは,家族の一員のように接近し,これまでの生活の場の中からその人を捉え続ける行動を示し,〈生活歴の中でのその人をとらえる〉〈場により違う姿をみせるその人に気づく〉〈時間をかけじっくり関わり続ける〉〈家族の一員になるぐらいの近い距離を保つ〉〈その人や家族の望みを確認し続ける〉から構成されていた.

〈生活歴の中でのその人をとらえる〉では,その人を理解するために,これまでのその人の生活歴を情報収集して,その人をとらえていることが示された.〈場により違う姿をみせるその人に気づく〉では,デイや訪問など場によって,また周囲の人によって,反応が異なる利用者の表情変化に気づき,その人の多様な面を発見しながら,全人的な理解を進めていることが示された.〈家族の一員になるぐらいの近い距離を保つ〉では,仕事として関わってはいるが,家族の一員となるぐらいの近い距離感で対象者に接近していることが語られた.〈その人や家族の望みを確認し続ける〉では,[刻々と利用者さんや家族の状況は変化するので(中略)絶えず確認し続けなければ]のように,その人や家族の望みを尊重し確認し続けることが示された.

(2) 【その人や家族の強みを引き出し生活に取り入れる】

このカテゴリーは,その人や家族の状況を関係者で共有しながら,強みを引き出し,その人なりの自立に向けた方法を生活の中に取り入れていくという行動を示し,〈その人の状況をわかりやすく伝え,共有する〉〈その人がうまくできる方法を生活に取り入れる〉〈その人の力が高まるように自己管理できることを調整する〉〈その人の機能を維持回復するよう支援する〉で構成されていた.

〈その人がうまくできる方法を生活に取り入れる〉では,[こうしなければいけないということに囚われずに]その人のできることを探し生活に取り入れるよう働きかけていることが示された.〈その人の力が高まるように自己管理できることを調整する〉では,[手を出すところを徐々に薄くし自立につなげていく]のように,柔軟に支援を調整しながら,その人の力を高めようとする行動が示された.〈その人の機能を維持回復するよう支援する〉では,[どんな方も座って,自分で保持できない方は最初は抱きかかえるようにしてテレビを見たりゲームをしたりする]のように,その人の機能が維持回復するよう支援していることが示された.

(3) 【個々に合わせ臨機応変にケアを創造する】

このカテゴリーは,その人の個別性や想いを尊重し,状況変化に臨機応変に対応してケアを工夫,創造するという行動を示し,〈その人の個別性を重視する〉〈その人の生活を重視する〉〈その人のケアニーズを把握する〉〈経済状況に応じてケアを工夫する〉〈その人・家族の思いを叶える〉〈時間をかけて双方が納得する着地点を探す〉〈変化に迅速に対応し,サービスを調整する〉で構成されていた.

〈その人の生活を重視する〉では,例えばその人と家族の生活リズムを崩さないような時間に訪問するなど生活に摺り合わせて医療支援を行っていた.〈その人のケアニーズを把握する〉では,例えばペルー人の利用者の事例では,文化背景から食事などの生活のケアニーズが異なり,どのようなニーズがあるかを根気よく調べケアを提供していることが示された.〈経済状況に応じてケアを工夫する〉では,限られた経済状況の中であってもケアの質が下がらないよう工夫していることが示された.〈時間をかけて双方が納得する着地点を探す〉では,[指示優先ではなく時間をかけ利用者と看護師双方が納得いくようにケアの内容を検討している]ことが示された.〈変化に迅速に対応し,サービスを調整する〉では,[利用者さんの容態は急変することも多いので,訪問と泊まりを臨機応変に組み合わせています]のように,その人や家族の変化に迅速に対応しサービスを調整していることが示された.

(4) 【命をまもる】

このカテゴリーは,医療ニーズに対応しながら,その人らしく生きることを守るという行動を示し,〈誤嚥のリスクがあり食べられないその人が望む経口摂取の可能性を探る〉〈安全を見極めながら口から食べることを支援する〉〈症状コントロールが難しいその人のケアができる〉〈医療依存度の高いその人を看護する〉〈感染を予防する〉〈介護職員が対応できない緊急時の対応をする〉で構成されていた.

〈誤嚥リスクがあり食べられないその人に経口摂取を進める〉では,脳血管障害や廃用性委縮により経口摂取が難しくなった利用者に対して,歯科医師や言語療法士と連携し機能評価を行いながら,[口腔ケアや含嗽,マッサージは継続し,トロミ水やゼリー,ミキサー食やキザミ食へと段階的に食形態を上げた]のように根気強く経口摂取を進めることが示された.〈症状コントロールが難しいその人のケアができる〉では,脳血管障害,癌など多様な複数の疾患をもち症状コントロールが難しい人に,些細な症状の変化を見逃さず,点滴の頻度や服薬を調整し,緊急時には泊まりに切り替え対応していることが示された.〈医療依存度の高いその人を看護する〉では,人工呼吸器の使用,透析,難病など医療依存度が高い人に看護を提供していることが示された.〈感染を予防する〉では,尿路感染症,腎盂腎炎,誤嚥性肺炎などを予防するため,手洗いなどの習慣づけ,消毒などの環境整備,陰部洗浄などの手技の徹底を行っていることが示された.

(5) 【看取りを支える】

このカテゴリーは,家族や重要他者の看取り力をアセスメントし,その人が納得できる看取りの場を整えるという行動を示し,〈家族の看取り力をアセスメントしながら看取りの場を整える〉〈家族の意志決定を支援する〉〈その人が家族と過ごせる場を調整する〉〈苦痛を緩和する〉〈ターミナル期にあるその人や家族の望みを叶える〉〈その人・家族に無理のない終焉へ導く〉で構成されていた.

〈家族の意志決定を支援する〉では,終末期をどのように過ごし終焉を迎えるかについて,必要があれば主治医やケアマネージャーなどと情報交換し,家族が話し合える機会を作り,意思決定を支援していることが示された.〈その人が家族と過ごせる場を調整する〉では,終末期を迎えた利用者が家族と充実した時間がもてるように訪問や宿泊の頻度を調整したり,家族や親戚も泊まれるような配慮をしたり,逆に家族に疲労がみられる場合には無理に付き添わなくてよいことを伝え,その人が家族と過ごせる場を調整していることが示された.〈苦痛を緩和する〉では,癌性疼痛や呼吸状態の悪化による苦痛に対して,薬物療法や体位変換などの処置と合わせ,[痛いところをこうさするだけでも,利用者さんには和らぐって言ってもらえる]のように身体的苦痛を緩和する行動が示された.〈ターミナル期にあるその人や家族の望みを叶える〉では,[家に帰りたいという希望があれば,私たち(看護師)が付き添い短時間でも家で過ごすことができるようにする]のようにその人や家族の望みを叶える行動が示された.〈その人・家族に無理のない終焉へ導く〉では,その人の身体状況と家族の身体的経済的状況を考慮すると望みを叶えるのは難しいことも多いので,現実を認識していただきながら,無理のない終焉へと導くことが示された.

(6) 【その人の居場所をつくる】

このカテゴリーは,その人が,気兼ねなく安心して過ごせる場を整えるという行動を示し,〈その人が安心できる環境を整える〉〈家と変わらない生活リズムをつくる〉で構成された.

〈その人が安心できる環境を整える〉では[部屋の中に畳を敷き,利用者と家族が安心して過ごせるような環境を整えた]のようにその人が安心できる環境を整えていることが示された.〈家と変わらない生活リズムをつくる〉では,看護師が施設の業務スケジュールに囚われることなく,[利用者が家と同じような生活リズムで過ごせるように配慮する]のように,利用者ひとり一人の自宅での生活リズムを把握して,通いの場でも利用者が落ち着いて過ごせるように環境を調整していることが示された.

(7) 【その人を支えるチームをつくる】

このカテゴリーは,その人らしく生きていくことを支えるために,家族とともに,多職種は職域を超えて役割を補完しながら,社会資源との連携をはかるという行動を示し,〈家族を支える〉〈看護職間の連携を図る〉〈介護職と協働する〉〈医師との連携を図る〉〈多職種との連携を図る〉地域などの〈社会資源との連携を広げる〉〈チームで目標を共有し学び合う〉で構成されていた.

〈家族を支える〉では,家族の関係性を調節し,家族の介護力を高められるよう知識技術を提供し,生活の中でその人が楽しめるような工夫を一緒に考え家族を支えていた.〈看護職間の連携を図る〉では,交代勤務のある看護師間で情報共有をするため申し送りの方法や記録用紙を工夫していた.〈介護職と協働する〉では,切れ目のないケアを継続するため,介護職と看護職が情報を共有しながら,意見を出し合い,皆がわかりやすい計画を立て協働していた.〈多職種との連携を図る〉では,ケアマネージャー,薬剤師,理学療法士などの専門職と連携を行い,必要に応じて役割を補完していることが示された.また,病院と連携し在宅移行支援や入院支援を行っていた.〈社会資源との連携を広げる〉では,専門職だけではなく,地域のボランティアや自治組織と日頃から協力しあう関係を築き地域資源を活用していた.〈チームで目標を共有し学び合う〉では,その人をささえる協力体制をとり,定期的にカンファレンスを開催し目標を共有し,勉強会の開催など学び合っていることが示された.

Ⅴ. 考察

1. 看多機で活躍する看護師の行動特性の特徴

一般看護師を対象としたコンピテンシーについて,International Council of Nurses(2008)は,「専門的,倫理的,法的な実践」「ケア提供とマネジメント」「専門性,自己,質の開発」の3領域を提示している.松谷ら(2010)は文献検討を行い,看護実践能力を[人々・状況を理解する力][人々中心のケアを実践する力][看護の質を改善する力]と整理した.その他,病院で働く看護師を対象としたコンピテンシー結果(細田ら,2011林ら,2017)と比較すると,看多機で働く看護師の行動特性の特徴としては,生活という文脈の重視,利用者や家族との関係の近さ,型にはまらない臨機応変なケアの創造,人生の終焉までの包括的連続的な支援,コミュニティまで広がるリソースとの協働が明らかになった.これは,傷病者が診療を受けることを目的とする病院という機関ではなく,住み慣れた自宅での療養を支える介護保険サービスの場としての看多機の役割を反映していると考えられた.

鎌田・片山(2020)は高齢者施設で働く看護師のコンピテンシーとして,[高齢者の価値観を尊重して生活を支援する][高齢者の心身の状態を熟知してケアにつなげる][家族の心情を理解して支える][入居者・家族が満足できる看取りケアをする][介護職と共に成長する][施設の内外でリーダーシップを発揮する]の6カテゴリーを抽出している.また,地域包括ケアシステムにおいて看護師に求められる能力の文献検討では,[生活者としてとらえる][対象と家族の思いに寄り添う][対象を尊重した意思決定を支える][対象の生活の場で必要な看護をする][多職種と協働する][地域を看護職として包括的にとらえる]が挙げられた(海野ら,2020).これらは本研究で抽出された 【個々に合わせ臨機応変にケアを創造する】【命をまもる】【看取りを支える】【その人の生活の中で歩み寄りを続ける】と共通する点がみられている.一方,【その人や家族の強みを引き出し生活に取り入れる】【その人の居場所をつくる】は本研究に特徴的であった.また,多職種連携についてはこれまでも示されてきたが,専門職間だけでなく,家族や地域ボランティアなど利用者を取り巻く多様な人々を「チーム」として捉えている点は本研究に特徴的であると考えられた.

2. 利用者および家族への密接な接近

本研究で見出された【その人の生活の中で歩み寄りを続ける】では,その人の生活の中で家族の一員という気持ちで密接に接近し,利用者を理解し続けようとする行動が特徴的であった.対象者への接近は,重要な看護技術の一つである.Travelbee(1971/1974)は看護の本質を人間関係の立場から捉え,この関係が成立した上で,治療的側面を担う実践活動が行えると述べている.本研究において,複数の看護師らが語った「家族のように」という言葉は,対象者を,「利用者」という枠組みを外し「大切な一人の人間」として捉えていることを示していると考えた.そのため,カテゴリー名には利用者を用いず,「その人」と表した.一方で,Davis(1984)は「対人距離は単に近すぎても,また遠すぎてもコミュニケーションの障害を起こしかねないので,援助関係においてはクライエントの対人距離欲求をよく評価し,その援助をおこなわなければならない」と述べている.適切な距離は個人によっても変わるが,訪問看護(冨安・山村,2009),認知症ケア(森河ら,2020),終末期ケア(長尾,2019)においては,患者との信頼関係を築き,密接な関係性を築く重要性が示唆されている.特に脳血管疾患や認知症等により意思伝達能力の低下した高齢者の援助を展開するために,看護師は[研ぎ澄まされた感覚]により[生体からのサインの感知]を行うが,そのためには責任と愛情を持ち,時間をかけて親密な人間関係を構築することが重要である(礒村ら,2020).看多機の利用者も,意思伝達能力が低下した高齢者が多いことから,家族の一員のように深く利用者と家族に関わり続けながら,変化する〈その人や家族の望みを確認し続ける〉という行動特性が必要と考えられた.

3. その人の居場所づくり

居場所づくりは,高齢者が地域で生活していくために注目されている概念であり(濱田・沖中,2020),人が集まる物理的環境だけでなく,人とのつながりを持てる社会的居場所,居心地や心のよりどころである心理的居場所も意味する(上野ら,2017).安心できる「居場所」の確保は,生活を安定させ自分らしい活動を広げる基盤であり(青木,1997)居場所を持たない人は会話頻度,外出頻度が低く,気分障害や要介護のリスクが高い傾向にある(坂本ら,2019).今回の調査では,居宅の延長線上のような施設環境での演出が重視され,看多機に従事する看護師が居宅と施設での環境の変化を最小限とすることで利用者の心理的な居場所を整え,その人の居場所を意図的につくるという行動特性が抽出された.安心できる居場所を意図的に確保することは,利用者が新しい場所での自分を安定させ,自分らしさを発揮させながら他の利用者と交流し,人とのつながりで構築される社会的居場所へと発展させることにもつながるものと考えられる.

4. その人を支えるチームづくり

地域包括ケアシステムにおいて看護師に求められる能力においても[多職種連携]があげられている.鎌田・片山(2020)は高齢者を支えるために「介護職と共に成長する」「施設内外でリーダーシップを発揮する」というコンピテンシーを示している.本研究では【その人を支えるチームをつくる】が抽出されたが,ここでは医療や介護のサービス提供者を超え,ボランティアや地域住民を含んだ〈社会資源との連携を広げる〉行動が明らかにされた.そのようなマルチステークホルダーとの連携は継続的かつ包括的にサービスを提供するために不可欠であるが,連携は常に変化する不安定な人間関係の上に成り立ち,それを継続するのは難しいことが指摘されている(竹端ら,2015).それを維持させる要因の一つに,チームワークの推進が挙げられる(河野,2019).チームワークを推進するためには,インタープロフェッショナルワーク(以下,IPW)が有効であるという(河野,2019).IPWは,過度に専門分化した保健医療福祉サービスへの反省から生まれた専門職の連携と統合の方法で,①複数の領域の専門職が共通目標を持つ,②専門職間で学び合う,③複数の領域の専門職が協働する,④利用者がケアに参加・協働する,⑤組織的な役割と機能を分担するという特徴を持つ(西梅ら,2011).今回の結果においては,〈チームで目標を共有し学び合う〉というサブカテゴリーが得られており,このことより,IPWが推進されていることが示唆された.

5. 本研究の限界と課題

コンピテンシーを検討するときは,優れた成果を示すエキスパートの実践を検討するべきであるが,看多機は設立されて十分な年数が経過していないため,何が優れた成果か明らかになっていない.この点を補うため,今回は施設管理者が活躍していると考える看護師を研究協力者とし,また,事例を語っていただく中で成果をたずね,成果を生むと考えられた行動特性を抽出した.これらの結果は,あくまで看護師の認識に基づくものであるため,今後は,現場での参加観察やエキスパートパネル等を実施し,今回抽出された行動特性が成果を実際に導くのかを精錬する必要がある.今後は,より質の高い看護を展開できるように行動特性を評価できるような行動指標を明確にする必要があると考えられた.

Ⅵ. 結論

本研究により,看多機で活躍する看護師の行動特性として,【その人の生活の中で歩み寄りを続ける】【その人や家族の強みを引き出し生活に取り入れる】【個々に合わせ臨機応変にケアを創造する】【命をまもる】【看取りを支える】【その人の居場所をつくる】【その人を支えるチームをつくる】の7つカテゴリーが抽出された.

謝辞:本研究の実施にあたり,ご協力いただいた看護師の皆様に深く感謝申し上げます.本研究は2018~2021年度科学研究費補助金(基盤研究 B)18H03076(代表者 坂下玲子)の助成を受け実施した研究の一部である.

利益相反:本研究における利益相反はない.

著者資格:RS,MMおよびHOは研究の着想およびデザインに貢献;RS,MM,HO,RW,KH,KA,MM,MN,ENはデータ収集への貢献,RS,MM,HO,RW,KH,KA,MM,MN,EN,KTはデータ分析,原稿作成へ貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

文献
 
© 2021 公益社団法人日本看護科学学会
feedback
Top