目的:2年以上の勤務経験を有する新卒訪問看護師における自律的判断の様相を明らかにすることを目的とした.
方法:2年以上の勤務経験を有する新卒訪問看護師7名に半構造化面接を行い,質的記述的に分析した.
結果:2年以上の勤務経験を有する新卒訪問看護師における自律的判断のコアは,【利用者が自分らしい人生を生きられるかどうかを基に考える】という対象者中心思考を基に,【利用者の望む生活のためにできることを共に試行錯誤して決める】【利用者の状態変化時は緊急度を見極める】という生活と生命を護るための判断をすること,加えてよりよい判断を導くために【同事業所の看護師に自分から相談し判断を共有する】ことであった.
結論:2年以上の勤務経験を有する新卒訪問看護師は,利用者の自分らしさを重視する対象者中心思考を基に,利用者の望む生活を利用者と共に試行錯誤しつつ,状態変化時は緊急度を見極めていた.また同事業所の看護師に主体的に相談し,よりよい判断を導いていた.
Objective: To clarify aspects of autonomous nursing judgement in newly graduated visiting nurses with 2 years or more of experience.
Methods: We conducted semi-structured interviews with seven newly graduated visiting nurses with 2 years or more of experience. Responses were analyzed descriptively and qualitatively.
Results: The core structure of autonomous nursing judgement was for the nurses to make judgements about helping to ensure a better life and livelihood for patients (“finding out with the patient through trial and error what a better life with medical care means” and “noticing changes and determining the degree of urgency”) through patient-centered thinking (“considering what could be done to help patients live a life that is uniquely their own”). The nurses also make better judgements because they “take initiative in consulting nurses in the same station to share decisions.”
Conclusion: Newly graduated visiting nurses with 2 years or more of experience use patient-centered thinking to work with patients to find out through trial and error how patients can lead a better life. They determine the degree of urgency when the patient’s condition changes and adjust decisions accordingly. They also take the initiative to consult senior nurses to guide better nursing judgement.
近年,我が国における訪問看護事業所数(稼働数11,931:全国訪問看護事業協会,2020),訪問看護師数(83,384人:厚生労働省,2019)は増加しているが,2025年の在宅看取りを見据えた目標訪問看護師数15万人(日本看護協会他,2014)を下回っている.また,医療保険や介護保険制度における訪問看護への報酬は,訪問した看護師の人数ではなく,時間や回数に対して定められている(ただし要件を満たした場合は複数名訪問が可能:社会保険研究所,2021).これらの理由から訪問看護師は通常一人で療養者宅を訪問し,その場で的確に判断しケアを提供して帰る.加えて訪問看護師は,遠隔にいる主治医や多職種と随時連絡をとり,療養者の在宅生活をチームで支えている.このように一人での行動が多い訪問看護師の行う判断は,病院等施設内での臨床判断とは異なると考えられるため,著者らは,日本の訪問看護師の行う訪問看護実践における判断(以下,訪問看護実践における判断とする)について概念分析により定義を明らかにした(仁科ら,2019).ただしこの定義は,訪問看護実践におけるあらゆる場面を想定しており,職務,状況等により判断の詳細は異なるのではないかという課題を残した.
ところで近年,新卒訪問看護師育成の取り組みが進んでいる.訪問看護事業所は新卒看護師を受け入れるための教育体制を整えるべく,2012年に千葉県で新卒訪問看護師育成プログラムによる育成が開始され(吉本ら,2015),以降,各事業所や団体が独自のプログラムを作成する等,新卒看護師を受け入れる体制整備が全国に広がりつつある.新卒訪問看護師の育成に関する研究では,プログラム(訪問看護師スタートアップ研修)の評価(森下ら,2019),事業所看護師による新卒訪問看護師への支援的関わり(小林ら,2019),就業上の困難(岡田,2020)等が明らかにされ,いずれもよりよい支援体制への示唆を得ている.新卒訪問看護師の実践能力の向上,そして仕事定着や継続のためには,新卒訪問看護師に関する研究を蓄積し,学修支援体制をブラッシュアップしていく必要がある.そこで本研究では,新卒訪問看護師の自律的判断に着目する.先に述べた通り訪問看護師は一人で行動することが多いが,一人で判断することへの不安があり(仁科ら,2009),看護経験が短いほどその負担を感じていた(小林・乗越,2005).よって看護経験のない新卒訪問看護師は,一人で判断することへの負担をより感じていることが推察される.そのため,新卒訪問看護師が,自律的に判断できる学修方法や支援を検討する必要がある.自律とは「自分の行為を主体的に規制すること.外部からの支配や制御から脱して,自身の立てた規範に従って行動すること」(新村,2018)である.看護師の自律性は,看護が専門職化する過程において論じられてきた.それには看護職集団の専門性や看護管理に焦点をあてた専門職的自律性と,患者への看護実践に焦点をあてた臨床的自律性の2つがあり,両者は相互依存的に関連していることから線引きは難しく(古地,2015),本研究でも両者を区別しない立場をとる.看護師の自律性に関する研究では,仕事満足(Blegen, 1993)や仕事継続(Tourangeau et al., 2013)の関連要因であることが明らかにされている.また自律性の概念分析(Wade, 1999;Keenan, 1999)や自律性の測定尺度開発(Pankratz & Pankratz, 1974;菊池・原田,1997)が行われており,これらの属性や構造には,看護師の主体的な決定や判断が含まれている.よって,看護師が主体的に判断することは,自律性の重要な要素であると考えられる.中期キャリアのジェネラリスト・ナース(以下,ジェネラリスト・ナースとする)の自律的な判断についての研究では,自律的な判断を「その職種の当事者が自ら立てた規律に基づき,他職種の支配や助力を受けずに下される判断」と定義している(朝倉・籠,2013).以上の自律性の概念や自律的な判断の定義,Tanner(2006)の臨床判断の定義を参考に,本研究における自律的判断は,自律性に内包される概念と捉え,「看護師が対象者の状態やケアに関して,他職種や他者の支配を受けず(後出の「言われて行う」のではなく),専門職として主体的に熟考し決定すること.また,決定に至るまでの思考と行動のプロセスを含む.」と定義する.
本研究では,新卒訪問看護師の自律的判断の様相を明らかにする.ただし就職直後の新卒看護師を対象とするのではなく,2年以上の勤務経験を有する新卒訪問看護師を対象とする.Benner(2001/2014)は,実践経験がない看護師を初心者レベル,繰り返し生じる状況要素に気づく看護師を新人レベル,似たような状況で2,3年働き状況を捉えはじめる看護師を一人前レベルとし,一人前レベルでは「言われて行う」レベルから計画をたてて看護をするようになる.よって,初心者・新人レベルではなく,2年以上の勤務経験を有する新卒訪問看護師の自律的判断の様相を明らかにすることにより,初心者・新人レベルも含めた新卒訪問看護師の自律的判断力向上や学修支援方略への示唆を得たいと考える.
以上より本研究の目的は,2年以上の勤務経験を有する新卒訪問看護師における自律的判断の様相を明らかにすることである.
研究参加者への半構造化面接による質的記述的研究デザイン(グレッグ,2020)を用いた.
2. 用語の定義利用者:訪問看護事業所からの訪問看護を利用している者.またその家族のうち,主介護者や同居者,利用者が頼りにしている者を‘家族’とした.
新卒訪問看護師:看護基礎教育機関を卒業し看護師免許を取得後すぐに訪問看護事業所に就職し看護師キャリアをスタートさせた者.
2年以上の勤務経験:訪問看護師として満2年以上の勤務経験.ただし,直観で状況把握ができる達人レベル(Benner, 2001/2014)の者が含まれないよう,勤務経験の上限を6年未満とした.以下,2年以上の勤務経験を有する新卒訪問看護師を,新卒ナースと記す.
3. 調査方法と調査内容研究参加者の募集は,便宜的サンプリングを行い,新卒訪問看護師を育成していることを公表している訪問看護事業所,都道府県看護協会,大学等の代表者に,候補者を紹介してもらえるよう依頼した.候補者へ直接連絡し,口頭で本研究への参加について内諾を得,面接日時とプライバシーの保てる面接場所を決定した.参加者へは事前に説明書,同意書,基本的背景の調査票等を郵送した.面接は2018年9月~2019年10月に実施し,参加者になるべく自由に語ってもらえるよう半構造化面接とした.面接は全て研究代表者が実施し,時間は一人あたり約50分~80分であった.面接に先立ちインタビューガイドを作成し,在宅看護実践経験のある者にプレインタビューを実施し,ガイドの適切性を確認した.ガイドの内容は,自律的に判断できたと思う場面を想起してもらい,どのような事例,状況でどのように考え,判断し,結果はどのようであったか,具体的に語ってもらった.面接は同意を得てICレコーダーに録音した.
4. 分析方法録音内容を逐語録におこしデータを作成した.データを精読し,新卒ナースが自律的判断をしていると思われる箇所をそのまま抜き出し,これをコードとした.コードの類似性,相違性に沿ってカテゴリ化し,抽象度をあげていった.分析過程において共同研究者間でカテゴリとネーミングについて討議を重ね,カテゴリに偏見や歪みがないことを確認し,確証性(グレッグ,2020)を確保した.また結果の内的妥当性(太田,2019)を確保するため,抽出した大カテゴリによってデータにおける複数の異なる判断場面が説明できるかどうかを確認し,説明しにくいカテゴリについては分析のやり直しを行った.最後に,Glaser(1978)が提唱したグラウンデッド・セオリーにおけるコーティング・ファミリーを参考に,大カテゴリどうしの関連性を検討し,構造モデルを作成した(図1).
2年以上の勤務経験を有する新卒訪問看護師における自律的判断の構造モデル
参加者に本研究の目的,方法,倫理的配慮等について文書と口頭で説明し,同意書への署名をもって参加意思を確認した.本研究は参加者の自由意思を尊重して行われ,同意撤回はいつでも行ってよく,その場合にも不利益は生じないこと,研究参加者の名前とIDの照合表は研究代表者だけが所持し,データは全て匿名化して扱われること,得られたデータは本研究のみに使用されることを説明した.なお本研究は,鳥取大学医学部倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号18A060).
参加者7名は全員女性であった.年齢は22~26歳,訪問看護師経験年数は3~5年目であった.参加者は全員,事業所内外で作成された新卒訪問看護師育成プログラムを用いて,または参考にして教育を受けていた(表1).
参加者 | 年齢 | 訪問看護経験年数 | 最終学歴 | 勤務地域 | 事業所の看護師数 |
---|---|---|---|---|---|
A | 20代 | 4年目 | 大学 | 関東 | 17 |
B | 20代 | 4年目 | 専門学校 | 中四国 | 12 |
C | 20代 | 3年目 | 高等学校専攻科 | 中四国 | 7 |
D | 20代 | 3年目 | 大学 | 中四国 | 7 |
E | 20代 | 3年目 | 大学 | 中四国 | 7 |
F | 20代 | 5年目 | 大学 | 関西 | 5 |
G | 20代 | 4年目 | 大学 | 中四国 | 9 |
59の小カテゴリ,23の中カテゴリ,8つの大カテリが抽出された.以下,大カテゴリは【 】,中カテゴリは[ ],小カテゴリは〈 〉,参加者の語りは「 」,語り中の補足は( )で示し,大カテゴリを順にとりあげて説明する(表2).
大カテゴリ | 中カテゴリ | 小カテゴリ |
---|---|---|
利用者固有の身体状態・生活状況をよく知る | 身体の観察を詳細丁寧に行う | 身体の観察を詳細丁寧に行う |
いつもの状態と比較する | 詳細な観察と会話からいつもとの違いに気づく | |
利用者の個別的な生活状況をよく知る | 個別的な生活状況をよく知る | |
症状の原因を生活状況の変化からみつける | ||
家族の介護状況を知る | 家族の見守り・介護状況を知る | |
家族の気持ちを察する | ||
利用者の生命と生活のために最大限のことをする覚悟をもつ | 自分の力で考えケアする覚悟をもつ | 自分一人の目で観察し状況把握する |
自分で考えるしかないため考える力がつく | ||
家にあるものを使って自分で考えてケアをする | ||
全く同じ状態・状況はないところが難しい | ||
利用者の命と生活を預かっていると自覚する | 命を預かっていると自覚する | |
利用者・家族をよく知ることができる立場にいる | ||
利用者の生活に合わせる力がある | ||
利用者が自分らしい人生を生きられるかどうかを基に考える | 利用者・家族の思い・希望を大切にする | 利用者・家族の思い・願いを大切にする |
家に居たい・家で死にたいという思いを大切にしたい | ||
利用者の好み・生きがいが継続できるように考える | 利用者の好きなこと・生きがいをできるようにする | |
利用者の信念・生き様を尊重する | ||
利用者のその人らしさを探究する | 利用者の性格・人柄を知る | |
利用者の人柄を見聞きして知る | ||
関係性ができるとその人らしさが分かってくる | ||
利用者の望む生活のためにできることを共に試行錯誤して決める | 利用者の医療面と生活面の両方をみる | 利用者の疾患と生活面の両方をみて考える |
医療・治療を生活に合わせて変更してもらう | ||
医療的ケアを再考し変更・調整する | ||
利用者がこれから安全に生活できるかを見通す | これから安全に生活できるかどうかを考える | |
訪問看護の回数を調整する | ||
他サービスの介入具合も含めて一週間を見通す | ||
よりよい生活を利用者と共に試行錯誤する | 生活の中でできることや変えられることを一緒に考える | |
利用者と一緒によりよい生活を試行錯誤する | ||
アセスメントを利用者に伝える | ||
必要とされるまで待つ | ||
利用者の希望とそれに反する現実との折り合いをつける | 利用者の希望と医療との折り合いをつける | |
利用者の思いと状態悪化時の折り合いが難しい | ||
利用者と家族との折り合いをつける | ||
利用者の状態変化時は緊急度を見極める | 生命の危険性を見極める | 危険な症状に気づく |
身体状態の悪化の原因を推測する | ||
生命の危険性を見極める | ||
緊急時対応の判断に悩む | 電話対応で正確な情報を得るのは難しい | |
緊急訪問の必要性を見極める | ||
様子をみるか病院に行くか悩む | ||
これまでの利用者の状態と対応を応用する | 利用者の過去の症状と対応を応用する | |
自分がこれまでに経験した似た状況を応用する | ||
同事業所の看護師に自分から相談し判断を共有する | 一人で判断する限界を了解する | 一人の判断では網羅できないと感じる |
一人で抱え込まないことが大切だと気づく | ||
先輩看護師への自分なりの相談方法をもつ | 管理者に電話で相談する | |
事業所の他の看護師に相談する | ||
自分なりに考えてから相談する | ||
自分の考えを言語化して他の看護師に伝える | ||
先輩看護師から見聴きして判断材料を増やす | 先輩看護師の判断やケアを教えてもらう機会がある | |
先輩看護師の経験を聴いて参考にする | ||
多職種への観察・判断結果の伝え方を工夫する | 多職種個々の特徴に合わせて情報共有する | ケアマネジャーに情報提供する |
介護職にケアを依頼する | ||
多職種個々の特徴を知る | ||
主治医にいつ,どのように連絡するかを考える | 主治医に電話で報告・相談する | |
利用者と主治医との関係を知る | ||
本人・家族を代弁して主治医に伝える | ||
リフレクションし判断を確認する | 自主的に判断・ケアを振り返る | 振り返る機会をつくる |
失敗経験を振り返り次に繋げる | ||
利用者にとって在宅生活のよさを改めて実感する | ||
先輩看護師と共にリフレクションし判断を確認する | 思考・アセスメント・ケアを先輩看護師に評価してもらい自信をもつ |
この大カテゴリは,利用者の状態や生活を詳細に知るための行動を表しており,[身体の観察を詳細丁寧に行う][いつもの状態と比較する][利用者の個別的な生活状況をよく知る][家族の介護状況を知る]で構成された.「1年目は身体のことをみるので精一杯で,(中略)だんだん身体が分かってくると他の部分も見えるようになって.」(G氏)のように,フィジカルアセスメント力を向上させることにより,身体面と生活面をバランスよく観察できるようになっていくことが語られた.
2) 【利用者の生命と生活のために最大限のことをする覚悟をもつ】この大カテゴリは,自律的判断をしようとする新卒ナースの覚悟を表しており,2つの中カテゴリで構成された.[自分の力で考えケアする覚悟をもつ]には「自分で考える,考えざるを得ない,そういう環境があるからこそ考える力がつくのかな」(C氏)のような〈自分で考えるしかないため考える力がつく〉等の内容が含まれていた.[利用者の命と生活を預かっていると自覚する]には,「(緊急電話待機の)携帯当番も始まって,(中略)より命の重さというか,それを預かっている,それを救うか救わないかっていう線の中に私らはいるという意識がだいぶ芽生えてきた.」(E氏)のような〈命を預かっていると自覚する〉,「利用者さんや家族の声が直接聴ける立場にあって.」(E氏)のような〈利用者・家族をよく知ることができる立場にいる〉,「新卒から入って真っ白だから,在宅の生活をみることができる視点をちゃんともっているところがすごくいいと(主治医が認めてくれた).」(F氏)のような〈利用者の生活に合わせる力がある〉という内容が含まれていた.
3) 【利用者が自分らしい人生を生きられるかどうかを基に考える】この大カテゴリは,新卒ナースが,利用者の思いや希望等を知り,それらを基にケアの方向性を判断するという,対象者中心思考を表していた.「利用者さんが大事にしたい,一番の思いって,私たちもそこに寄り添えなければ,訪問看護の意味がないのかなって.」(F氏)のような[利用者・家族の思い・希望を大切にする],「この人にとってシニアカーはすごく生きがいなんです,(中略)酸素をしてシニアカーで出るのがすごく好きな方だったんです.」(C氏)のような[利用者の好み・生きがいが継続できるように考える],「信頼関係がだいぶできてきたころ,すごく我慢強い方が,今日はちょっとしんどいと(初めて本心をうちあけてくれた).」(C氏)のような[利用者のその人らしさを探究する]で構成された.
4) 【利用者の望む生活のためにできることを共に試行錯誤して決める】この大カテゴリは,新卒ナースが,医療を含めた利用者の生活がよりよくなるように,利用者には何ができて看護師はどうケアするのかを,利用者と共に試行錯誤している様子を表していた.新卒ナースは[利用者の医療面と生活面の両方をみる]視点をもち,「訪問看護以外に誰かの目が入るのか,次の訪問(看護の日)まで何日空いてるのか,先を見越して,周りのサービスの介入具合もみて.」(B氏)のような[利用者がこれから安全に生活できるかを見通す],「利用者さんの生活スタイルに合わせて,その中で何か変えられる所とか,できる範囲でできることないのかなって一緒に探していったり.」(A氏)のような[よりよい生活を利用者と共に試行錯誤する],〈利用者の希望と医療との折り合いをつける〉などの[利用者の希望とそれに反する現実との折り合いをつける]で構成された.利用者と一緒に考える,共に試行錯誤する等,利用者と共に悩みながら判断している様子が語られた.
5) 【利用者の状態変化時は緊急度を見極める】この大カテゴリは,新卒ナースが,利用者の状態変化に気づき,緊急度を見極め,医療に繋ぐかどうかを判断するという,利用者の生命を護るための判断を表していた.新卒ナースは「いつもと違うなっていう時,それが緊急なのか,ちょっと様子をみられるのか.」(B氏)のような[生命の危険性を見極める]必要があるが,〈様子をみるか病院に行くか悩む〉などの[緊急時対応の判断に悩む].これを補うために[これまでの利用者の状態と対応を応用する],後出の[先輩看護師から見聴きして判断材料を増やす]努力をしていた.
6) 【同事業所の看護師に自分から相談し判断を共有する】この大カテゴリは,新卒ナースが,判断に困った時や自信がもてない時に,まずは同事業所の管理者や看護師に相談内容を具体的に考えてから提案し,判断を共有している様子を表していた.〈一人の判断では網羅できないと感じる〉〈一人で抱え込まないことが大切だと気づく〉といった[一人で判断する限界を了解する],〈自分なりに考えてから相談する〉〈自分の考えを言語化して他の看護師に伝える〉などの[先輩看護師への自分なりの相談方法をもつ],〈先輩看護師の経験を聴いて参考にする〉などの[先輩看護師から見聴きして判断材料を増やす]で構成された.
7) 【多職種への観察・判断結果の伝え方を工夫する】この大カテゴリは,新卒ナースが,主治医やケアマネジャー等と徐々に繋がりをつくり,自分の観察・判断結果を相手に理解してもらい,利用者がより適切なケアを受けられるように,伝え方を工夫している様子を表していた.[多職種個々の特徴に合わせて情報共有する][主治医にいつ,どのように連絡するかを考える]で構成された.
8) 【リフレクションし判断を確認する】この大カテゴリは,新卒ナースが,自分の判断やケアを自分一人で,あるいは先輩看護師の力を借りて振り返り,自分の判断がどうであったかを評価し確かめ,次に繋げようとしている様子を表していた.[自主的に判断・ケアを振り返る][先輩看護師と共にリフレクションし判断を確認する]で構成された.
3. 大カテゴリ間の関連性新卒ナースにおける自律的判断の大カテゴリ間の関連性を図式化し,構造モデルを作成した(図1).
新卒ナースは,自律的判断のコアとして,【利用者が自分らしい人生を生きられるかどうかを基に考える】という対象者中心思考を基に,【利用者の望む生活のためにできることを共に試行錯誤して決める】という生活に関する判断と【利用者の状態変化時は緊急度を見極める】という生命を護る判断をしていた.また一人で判断する限界を了解しているため【同事業所の看護師に自分から相談し判断を共有する】ことで,よりよい判断を導いていた.自律的判断のコアの前提には,【利用者固有の身体状態・生活状況をよく知る】【利用者の生命と生活のために最大限のことをする覚悟をもつ】があった.新卒ナースが利用者をどの程度知っているか,どの程度覚悟をもっているかが,自律的判断のコアに影響していた.自律的判断を言語化し多職種へ報告する時には,【多職種への観察・判断結果の伝え方を工夫し】,利用者が多職種から適切なケアをうけられるように考えていた.また【リフレクションし判断を確認する】ことは,自律的判断の前提やコアへと還元され,次の自律的判断に活かされていた.
本研究で得られた新卒ナースの自律的判断の大カテゴリと,訪問看護実践における判断の属性(仁科ら,2019)を比較すると,類似点が多かった.よって訪問看護師の行う判断は経験年数に関わらずその構造は類似しているが,各カテゴリにおける自律性の程度や熟練度は経験年数によって異なるのではないかと考えられた.また,訪問看護実践における判断(仁科ら,2019)やジェネラリスト・ナースの自律的な判断(朝倉・籠,2013)と比較すると,新卒ナースの自律的判断の特徴と課題が見出された.そこで考察では,まず,新卒ナースの自律的判断の特徴について述べ,次に,自律的判断の課題と判断力向上への示唆に言及する.なお,考察における引用箇所のカテゴリ表記は,本研究結果のカテゴリ表記と区別するため,全て『 』で示す.
1. 新卒ナースの自律的判断の特徴1点目の特徴として新卒ナースは,【利用者が自分らしい人生を生きられるかどうかを基に考える】という対象者中心思考を‘基盤’に自律的判断をしていることが挙げられる.ジェネラリスト・ナースは『その人らしさを引き出し,その希望や意思をつなぐ』ことを自律的な判断の‘目標’に位置付けていた(朝倉・籠,2013).すなわち両者の違いは,自律的判断における対象者中心思考の位置づけであった.この違いには,在宅は疾病や健康障害があっても,自分らしく暮らす(河野,2017)場であり,病院は医療を受ける場であるという,場の違いが関係していると考えられる.また病院看護師の臨床判断に関する研究において『(洞察力のある)患者中心の判断プロセス』は,臨床経験が6~7年目の看護師に多くみられていた(吉田ら,2002).本研究では経験年数が2年以上の新卒ナースにおいて対象者中心思考を基に判断していた.よって新卒ナースは,病院看護師よりも早い時期に対象者中心思考を獲得している可能性があると考えられた.
2点目として生活に関する自律的判断に特徴があった.新卒ナースは,【利用者の望む生活のためにできることを共に試行錯誤して決めて】おり,ジェネラリスト・ナースは,『患者の生活に関わる介入を主導する』(朝倉・籠,2013)ことをしていた.両者の相違点は,ジェネラリスト・ナースは,生活に関する判断を‘医師等に主導して’行い,新卒ナースは,‘利用者と共に’試行錯誤していることであった.新卒ナースが利用者と共に試行錯誤している背景には,療養者主体の看護を行う訪問看護師は,『療養者・家族が願う生活ができるように看護を使って支援する』ために,その人が望む生活とは何か,その人らしい生活とは何かを療養者・家族と共に考えて看護を展開する必要がある(中村,2013)ことがあげられる.本研究結果から新卒ナースは,利用者と共に試行錯誤し判断していることが示されたが,〈利用者の思いと状態悪化時の折り合いが難しい〉という困難さもあった.これは利用者の思いをよく知っているがゆえに生じる困難だと考えられる.10年以上の経験をもつ訪問看護師は,『利用者の希望に合わせて一緒に考えて決めることができる』ことにやりがいを感じていた(森下ら,2020).よって利用者と共に試行錯誤することは困難もあるがやりがいに繋がる重要な判断プロセスといえる.新卒ナースがこの困難をどのように乗り越えよりよい判断に至るのか,更に探究する必要がある.
3点目として新卒ナースの自律的判断は,【同事業所の看護師に自分から相談し判断を共有する】という,先輩看護師への主体的な相談を含むことがあげられる.ジェネラリスト・ナースは『看護師同士で補い合い,より難しい判断をする』において『若い看護師の判断を代行する』ことをしていた.一方新卒ナースは,[先輩看護師への自分なりの相談方法をもつ]という主体性のある相談をしていた.すなわち新卒ナースは【利用者の生命と生活のために最大限のことをする覚悟をもち】つつ,[一人で判断する限界を了解し],相談内容や方法を考えた上で先輩看護師に相談しよりよい判断を導くという特徴があった.
2. 新卒ナースの自律的判断の課題と自律的判断力向上への示唆訪問看護実践における判断のサブカテゴリや内容の『多職種と一緒に考える』『療養者・家族の心身の変化を予測する』(仁科ら,2019)は,本研究では得られなかったことは注目すべきである.すなわち新卒ナースは,多職種と共に判断することや,変化を予測して判断することに課題があると考えられた.新卒訪問看護師は初年度に『他職種に自分の報告したいことを端的に伝えること』を困難と感じていた(岡田,2020).本研究において新卒ナースは,【多職種への観察・判断結果の伝え方を工夫して】いた.よって新卒ナースは,異なる組織や立場にいる多職種への報告を工夫していることは示されたが,次の段階として多職種と共に判断することに積極的に関与していく必要があると考えられた.保健・医療・福祉領域における連携の進展プロセスは,一人で援助する限界を感じ他者に援助要請し目標を共有することを前提に,情報や判断の単発的な交換,情報や判断の交換の定着化,そして相互性の深化へ発展すると論じられている(山中,2003).すなわち多職種との相互性の低い情報交換ではなく,相互的な利益があり影響を与え合うような情報共有の在り方が求められるといえる.新卒ナースが主体的に多職種と協力関係をつくり情報共有することは,新しい役割・思考の発見(山中,2003)となり,より多角的な視点のある判断に繋がると考える.
次に,予測して判断することへの課題について述べる.新卒ナースは【利用者の状態変化時は緊急度を見極める】において[これまでの利用者の状態と対応を応用して]いたが,心身の変化を予測するカテゴリは抽出されなかった.また変化を予測できないため[緊急時対応の判断に悩む]と考えられた.救命救急対応では『得られた情報から直観的に患者の成り行きを予測する』といった直観や予測が重要となり,これには経験が必要不可欠である(森島・當目,2016)が,新卒ナースは急変対応を経験できる機会が少ない(岡田,2020)と報告されている.『平時からリスク管理を行う』(中野・川村,2018)ことで急変を予防すること,利用者の状態変化時はその状況と対応を詳細に共有し,急変事例を蓄積すること,利用者の生命と安全を護りつつ新卒ナースが経験を積めるような支援体制の工夫(ICTの活用等)も必要だと考える.
リフレクションは,Tanner(2006)の臨床判断モデルにおいて,行為を省察し学びを得るために必要な判断プロセスの一部として示されている.他者との継続的なリフレクションの効果が報告されている(武藤・前田,2016)ため,自己リフレクションに加え,先輩看護師等と共に【リフレクションし判断を確認する】ことは,自律的判断力の向上に不可欠である.
3. 本研究の限界と今後の課題本研究の参加者は7名であり勤務地域は限られていたため,データは地域性の影響を受けた可能性がある.今後は対象人数を増やし,地域や経験年数の異なる訪問看護師の自律的判断の様相を明らかにすることで,新卒ナースが段階的・多角的に自律的判断力を獲得できる指標の開発が課題である.
新卒ナースの自律的判断は,利用者の自分らしさを重視する対象者中心思考を基に,利用者の望む生活を利用者と共に試行錯誤し,状態変化時は緊急度を見極めつつ,同事業所の看護師に主体的に相談し,よりよい判断を導くことであった.
付記:本研究の一部を第40回日本看護科学学会学術集会で発表した.
謝辞:本研究のインタビューを快くお引き受けくださいました訪問看護師の皆様に,心より感謝を申し上げます.また,研究対象者の皆様をご紹介くださった関係者の皆様には,本研究へのご理解と多大なご配慮を賜り,深謝いたします.最後に本研究にご協力・ご指導いただきました全ての皆様に感謝いたします.
本研究はJSPS科研費JP25463550,JP20H04015の助成を受けて行った研究の一部である.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:NYは研究の着想,デザイン,データ収集,分析と考察,論文執筆の全てを実施;TS,NH,OMは研究プロセスへの助言,分析と考察,論文作成に貢献.全ての著者は最終原稿を読み,承認した.