日本看護科学会誌
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原著
「知覚された多側面の個人-環境適合」を測定する日本語版適合感尺度の開発:看護職における妥当性と信頼性の検証
井上 真帆國江 慶子武村 雪絵市川 奈央子木田 亮平
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2021 年 41 巻 p. 692-700

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Abstract

目的:個人-環境適合の5側面の知覚を測定する日本語版適合感尺度を開発し,妥当性と信頼性を検証する.

方法:個人-環境適合の欲求-供給,需要-能力,個人-組織適合の3側面を測るPerceived Fit Scaleを許諾後翻訳し,個人-組織適合尺度の「組織」を「上司」「同僚」に置換し,個人-上司,個人-集団適合尺度を追加した.異なる時期・施設の看護職に調査を行い,その一部に再テストを実施した.209名,434名のデータを分析した.

結果:探索的因子分析で想定の5因子が抽出され,確証的因子分析でモデル適合度は良好だった.関連が想定された概念と各下位尺度との相関は仮説通りだった.クロンバックαは各下位尺度.87~.97であった.各調査の級内相関係数は.60~.78,.37~.54であった.

結論:開発した日本語版適合感尺度は時間的安定性に課題はあるが,看護職で一定の妥当性,信頼性を確認できた.

Translated Abstract

Aim: This study developed a Japanese version of the Perceived Fit Scale to measure five dimensions of perceived person–environment fit and tested its validity and reliability.

Method: The Perceived Fit Scale, which measures the three dimensions of person-environment fit (needs–supplies, demands–abilities, and person–organization fit) was translated with permission of the authors of the original scale. “Organization” in the person-organization fit scale was replaced with “supervisor” and “group members;” the person-supervisor and person-group fit scales were added. The two surveys were administered to different groups of nurses across different time periods, some of whom were retested. Data from 209 and 434 participants were analyzed.

Result: First, exploratory factor analysis identified the five expected factors; then, confirmatory factor analysis indicated a good model fit. The correlations between the concepts presumed relevant and the developed-scale subscales were as hypothesized. Cronbach’s alpha ranged from .87 to .97 for each subscale. The intraclass correlation coefficients for each survey ranged from .60 to .78 and from .37 to .54.

Conclusion: Despite some issues with test–retest reliability, certain levels of validity and reliability were confirmed for this Japanese version of the Perceived Fit Scale among nurses.

Ⅰ. 緒言

個人-環境適合(person-environment fit)は相互作用論を背景とし,一般に個人と職場環境の特性がよく調和するときに生ずる個人と職場環境の一致と定義されており(Kristof-Brown et al., 2005),個人と職場環境の両者が調和した程度に依拠し,個人もしくは環境の変化に直接的な影響を受ける概念である.

Kristof(1996)Kristof-Brown et al.(2005)は,個人-環境適合は個人-職業(person-vocation fit),個人-職務(person-job fit),個人-組織(person-organization fit),個人-上司(person-supervisor fit),個人-集団適合(person-group fit)という様々な側面があることを説明した.個人-環境適合研究のメタアナリシス(Kristof-Brown et al., 2005)では,個人-環境適合の重要な4領域として個人-職務,個人-組織,個人-上司,個人-集団適合が提示され,さらに個人-職務適合は,従業員のニーズ,欲求,好みが行う職務によって満たされるときに生じる欲求-供給適合(needs-supplies fit)と,従業員の知識,スキル,能力が,仕事で求められることに相応しいときに生じる需要-能力適合(demands-abilities fit)(Edwards, 1991)の2種類があると報告されている.

個人が環境と過度に適合していると成長の機会を失ったり,低い適合が必ずしも悪い意味を持たない場合がある(Edwards & Cable, 2009)ことに注意は必要だが,企業の従業員において個人-環境適合の各側面(欲求-供給,需要-能力適合,および,価値観の適合を評価した個人-組織,個人-上司,個人-集団適合)の適合感は,仕事関連アウトカム(仕事のパフォーマンスや職務満足や離職意思などの職務心理状態)に関連することが多数報告されており(Cable & DeRue, 2002Kristof-Brown et al., 2005Mitchell et al., 2012竹内・竹内,2010),環境への適合感が高いことは基本的には個人や職場にとって望ましいことだと言える.看護領域でも,個人-環境適合の各側面の適合感は仕事関連アウトカムを予測したり(Risman et al., 2016),職場要因と仕事関連アウトカムの関連を媒介あるいは調整することが報告されている(Shao et al., 2018Laschinger et al., 2006).そしてKristof-Brown et al.(2005)は,個人-環境適合の各側面は互いに関連するものの,側面によって仕事関連アウトカムとの関連は異なるため,多側面を区別することの重要性を述べている.

個人-環境適合を捉える測定方法は(a)個人が知覚した適合である適合感(perceived fit)を直接測定する方法,(b)個人が個人特性と環境特性の変数をそれぞれ主観的に評価し実際の適合を測定する方法,(c)個人特性の変数と環境特性の変数を独立して評価し実際の適合を測定する方法の3通りある(Kristof-Brown et al., 2005).(a)の方法は(b)(c)と異なり,個人と環境がどの水準で一致しているかは把握できないが,個人が認識している適合の度合いを捉えることが可能で,個人-環境適合の研究では主流となっている.また,(a)の方法で把握された適合感は,上司が評価した客観的なパフォーマンスを含む様々な仕事関連アウトカムとの関連が多く報告されており(Mitchell et al., 2012竹内・竹内,2010など),重要かつ有用性が高いと考えられる.

しかし,日本では信頼性と妥当性を検証した個人が知覚した個人-環境適合の測定尺度は見当たらない.そのため,個人-環境適合を適合感として測定できる日本語版尺度を開発し妥当性と信頼性を検証する必要がある.個人-環境適合の多側面を適合感として評価できると,各適合感の実態や関連要因,各適合感同士の相互関連性を調べることができ,看護領域の組織や人材管理研究にも有用である.また,臨床の管理者が自組織の看護職の適合感を評価し,環境の変容や個人の成長の支援に活かすこともできる.

適合感を測定する尺度にはThe Perceived Person–Environment Fit Scale(Chuang et al., 2016)もあるが,本研究では海外で多く用いられており(Tims et al., 2016Vleugels et al., 2019),欲求-供給,需要-能力適合および個人と組織の価値観の適合である個人-組織適合の3側面を区別して測定でき,妥当性が検証されているPerceived Fit Scale(Cable & DeRue, 2002)に着目した.この尺度は具体的に適合している要素(給与,部署での役割,公平性についての価値観など)は測定できないが,各側面の適合感を包括的に捉えられ,各適合の項目数は各3項目で利便性が高い.また,海外の文献では個人-組織適合尺度の「組織」という言葉を「上司」「チーム」に変えて個人-上司,個人-チーム適合を測定している研究(Chu, 2014)もあるため,用語を改変することで上司や集団(職場の同僚たち)との適合感も測定できると考えられた.

このように,Perceived Fit Scale(Cable & DeRue, 2002)を日本語翻訳し,さらに個人-上司,個人-集団適合の尺度を開発して追加することで,個人-環境適合の重要な領域である個人-職務適合(欲求-供給適合および需要-能力適合),個人-組織,個人-上司,個人-集団適合のそれぞれを区別して測定でき,国内外の研究との比較もできる有用な尺度が開発できると考えられる.

Ⅱ. 研究目的

欲求-供給,需要-能力,個人-組織適合を測定できるPerceived Fit Scale(Cable & DeRue, 2002)の日本語翻訳版尺度(3因子),および原版の個人-組織適合尺度の「組織」を「上司」「職場の同僚たち」に置き換えて作成した個人-上司,個人-集団適合を測定する尺度を加えた日本語版適合感尺度(5因子)を開発し,看護職を対象に妥当性と信頼性を検証する.

Ⅲ. 研究方法

1. 日本語版適合感尺度項目の作成

尺度翻訳の手順は稲田(2015)を参考にした.欲求-供給,需要-能力,個人-組織適合の測定尺度を有するPerceived Fit Scale(Cable & DeRue, 2002)の日本語翻訳および下位尺度の個人-組織適合尺度の「組織」という単語を「上司」または「職場の同僚たち」置き換えて個人-上司,個人-集団適合尺度(以下,総称して「日本語版適合感尺度」とする)を開発することについて原作者の許可を得た.Perceived Fit Scaleを研究者と翻訳家がそれぞれ日本語翻訳をした.内容妥当性を確保するため,これらの翻訳を看護管理学分野の研究者複数名で確認し議論後,日本語版適合感尺度の仮尺度を作成した.表面妥当性確保のため,仮尺度を用いて臨床経験のある看護師および一般企業従業員計5名への認知デブリーフィングおよびプレテストにより,回答者の項目や概念の理解を確認し,適切になるよう表現を修正した.順翻訳とは別の翻訳家が逆翻訳を行い,原版と意味が異なると思われる部分は再度研究者間で議論し,臨床経験のある看護師2名への認知デブリーフィングおよびプレテストを行い日本語の最終案を作成し,再度逆翻訳を行った.最後に,逆翻訳した最終案を原作者に確認してもらい,等価性が確保された日本語版適合感尺度項目が作成された.

日本語版適合感尺度は,個人-環境適合の側面である「欲求-供給適合」,「需要-能力適合」,「個人-組織適合」,「個人-上司適合」,「個人-集団適合」の5下位尺度から構成され,各側面を適合感として測定できる.各下位尺度3項目で構成され,7件法(1:全く当てはまらない~7:完全に当てはまる)で回答する.尺度得点は下位尺度ごとに平均値を算出する.尺度得点が高いと,適合感が高いことを表す.

2. 調査1

1) 目的および研究デザイン

開発尺度の妥当性と信頼性を検証することを目的とし,横断研究デザインを用い,再テスト法を実施した.

2) 対象者

対象者は機縁法で選定した民間病院2施設(150~270床)に勤務する看護管理者を除く看護職(看護師,准看護師,助産師)326名とした.なお,因子分析には項目数の7倍かつ100人以上が推奨されており(Mokkink et al., 2018),日本語版適合感尺度は15項目であるためサンプルには105名必要である.再テストで評価する級内相関係数(intraclass correlation coefficient,以下ICC)を算出するにはサンプルは50名必要である(Terwee et al., 2007).有効回答率50%を見込み,再テストの配布数を100名以上と決めた.対象施設のうち1施設の看護部門責任者にその人数を確保できる部署を選定してもらい,166名が対象者となった.

3) データ収集期間

2019年2~3月に行った.

4) データ収集方法

無記名自記式質問紙を用いた.質問紙は看護師長によって対象者に配布され留め置き法で回収された.再テストは,時間的安定性を評価するために約10日後に該当部署のみ行われた.なお,再テストをする部署のみ,調査前に看護部管理者が対象者に個別IDを付与し,ID付き質問紙が配布された.

5) 調査項目

開発した日本語版適合感尺度は,看護職が回答しやすいよう個人-組織,個人-上司,個人-集団適合尺度項目の「組織」「上司」「職場の同僚たち」という言葉はそれぞれ現在働いている病院,直属の看護師長,所属部署の先輩・同期・後輩を指すことを注釈に示して尋ねた.先行研究や概念定義から関連が想定された概念を測定する尺度[職務への全般的な満足感を測定する全般的職務満足感尺度(6項目)(松本,2017),組織に対する愛着や同一化を測定する組織コミットメント尺度の下位尺度「情緒的」(3項目)(松本,2017),職務エンパワメント構造(支援,資源,機会,情報)へのアクセスの認識を測定する日本語版職務エンパワメント尺度(佐々木・菅田,2011)の短縮版(12項目),組織を同一視している程度を測定する組織同一視尺度(6項目)(小玉,2011),現在仕事で課せられている役割に対するアイデンティティを測定するキャリアアイデンティティの下位尺度「自己効力感」,「有意味感」,「患者影響感」,「把握感」,「一体感」(各3項目)(武村,2005)]を尺度作成者に許諾を得て使用した.キャリアアイデンティティの下位尺度のみ7件法で,その他の尺度は全て5件法で尋ねた.本研究でのクロンバックαは.81~.92だった.その他に年齢,性別を尋ねた.

再テスト時は再テスト実施までの間隔を尋ね,日本語版適合感尺度を用いた.

6) データ分析方法

分析対象は,調査に同意し,日本語版適合感尺度に欠損のない者とした.再テスト法での分析対象は,これらの条件に加えて適切な個別IDが付与されていて回答間隔に欠損がなく,調査期間中に部署異動しておらず,1回目調査の分析対象である者とした.

記述統計にて対象者の属性を確認した.日本語版適合感尺度は,各項目の度数分布,平均値,標準偏差を算出し天井効果と床効果がないかを検証した.因子数および因子構造を検証するために探索的因子分析(最尤法,プロマックス回転)と確証的因子分析を(a)Perceived Fit Scale翻訳版9項目(3因子指定),(b)日本語版適合感尺度15項目(5因子指定)の2通りで行った.なお確証的因子分析は,2通りそれぞれのモデル適合度をGFI(Goodness of fit index),AGFI(Adjusted goodness of fit index),CFI(Comparative fit index),RMSEA(Root mean square of approximation)により評価した.

ゴールドスタンダードとなる日本語版適合感尺度が存在しないため,関連が予想される別の概念と本尺度の各下位概念が仮説通りの相関関係にあるかを確認することで構成概念妥当性を検証した(Mokkink et al., 2018).想定した仮説は以下の(a)~(e)の通りである.個人-環境適合のメタアナリシス(Kristof-Brown et al., 2005)より,(a)職務満足は個人-環境適合の各側面と正の関連をし,特に欲求-供給,需要-能力,個人-組織適合と強い関連がある,(b)組織コミットメントは個人-環境適合の各側面と正の関連をし,特に個人-組織適合との強い関連がある.構造的エンパワメントは組織に対する認識を尋ねていること,および,Laschinger et al.(2006)の報告から(c)構造的エンパワメントは欲求-供給,需要-能力,個人-組織適合と正の関連がある.組織同一視が組織との一体感や帰属意識を表すことから(小玉,2011),(d)組織同一視と個人-組織適合と強い正の関連がある.キャリアアイデンティティは職業に関連する活動や役割への意味付けや自己との統合を表す概念であるため(武村,2005),(e)キャリアアイデンティティの下位尺度は,個人-組織,個人-上司,個人-集団適合に比べて欲求-供給,需要-能力適合との関連が強い.信頼性検証のため,クロンバックαおよびIT相関を算出し内的整合性を評価した.再テストを実施した者のみ,ICC[2, 1]を算出し時間的安定性を評価した.

統計解析はSPSS ver25, Amos ver26を使用し,有意水準は5%とした.

3. 調査2

1) 目的および研究デザイン

尺度が多様な施設で使用できることを確認するため,設置主体や組織規模の異なる集団で因子構造の検証および時間的安定性を評価することを目的に,横断研究デザインを用い,再テスト法を実施した.

2) 対象者

新たに機縁法で選定した公立病院(500~600床)1施設に勤務する看護管理者を除く看護職(看護師,准看護師,助産師)514名とした.再テスト法は105名が対象者となった.

3) データ収集

2019年11月に行った.

4) データ収集方法

調査1と同様に行った.

5) 調査項目

1回目調査では日本語版適合感尺度と個人属性を,再テストでは日本語版適合感尺度および1回目調査からの回答間隔を尋ねた.

6) データ分析方法

分析対象は,調査に同意し,使用変数に欠損のない者とした.記述統計にて対象者の属性を確認し,因子構造の確認のため確証的因子分析と,時間的安定性の確認のためICC[2, 1]を算出した.

4. 倫理的配慮

本研究は東京大学大学院医学系研究科倫理委員会の承認を受けて行った[承認番号2018140NI-(1)].

Ⅳ. 結果

1. 対象者の概要

調査1について,1回目調査では,232名から回収し分析対象者は209名だった(有効回答率64.1%).女性97.6%,平均年齢は37.7 ± 11.0歳だった.再テストでは,154名から回収し,分析対象者は116名だった(有効回答率69.9%).

調査2について,514名に配布し,501名から回収し,そのうち分析対象者は434名だった(有効回答率84.4%).女性92.6%,平均年齢は35.7 ± 10.5歳だった.再テストは105名に配布し,99名から回収し,そのうち分析対象者は73名だった(有効回答率69.5%).

2. 項目分析

日本語版適合感尺度15項目のヒストグラムはおおむね単峰性で,天井効果および床効果はなかったため(表1),項目の削除はしなかった.

表1  日本語版適合感尺度項目記述時計,信頼性,探索的因子分析(調査1) (n = 209
M ± SD IT相関 因子負荷量
9項目a 15項目b
因子1:欲求-供給適合(Needs-Supplies fit)(α = .89, ICC = .78)
項目1「仕事が私に与えるものと,私が仕事に求めているものはよく一致している」 4.02 ± 1.20 .78 0.78 0.75
項目2「私が仕事に求める特性は,現在の仕事によって非常によく満たされる」 3.98 ± 1.28 .84 1.01 1.05
項目3「私が現在担っている仕事は,私が仕事から得たいと思うものをほぼすべて与えてくれる」 3.64 ± 1.19 .76 0.61 0.59
因子2:需要-能力適合(Demands-Abilities fit)(α = .87, ICC = .60)
項目4「私が仕事で求められることと,私個人のスキルはとてもよく合っている」 3.82 ± 1.14 .66 0.43 0.44
項目5「私の能力や受けてきた研修・トレーニングは,仕事の要件によく一致する」 4.08 ± 1.16 .82 1.00 1.03
項目6「私個人の能力や受けてきた教育は,仕事が私に課す要求とよく合っている」 4.01 ± 1.13 .79 0.82 0.82
因子3:個人-組織適合(Person-Organization fit)(α = .95, ICC = .75)
項目7「私が人生において価値を置いていることと,私の組織が価値を置いていることはよく似ている」 3.33 ± 1.28 .89 0.91 0.90
項目8「私の個人的な価値観は,私の組織の価値観や文化と合っている」 3.34 ± 1.25 .89 0.91 0.90
項目9「私の組織の価値観や文化は,私が人生において価値を置いていることによく一致している」 3.25 ± 1.24 .91 0.97 0.97
因子4:個人-上司適合(Person-Supervisor fit)(α = .97, ICC = .75)
項目10「私が人生において価値を置いていることと,私の上司が価値を置いていることはよく似ている」 3.61 ± 1.34 .94 0.93
項目11「私の個人的な価値観は,私の上司の価値観や考え方と合っている」 3.56 ± 1.36 .96 1.01
項目12「私の上司の価値観や考え方は,私が人生において価値を置いていることによく一致している」 3.47 ± 1.31 .94 0.92
因子5:個人-集団適合(Person-Group fit)(α = .97, ICC = .69)
項目13「私が人生において価値を置いていることと,私の職場の同僚たちが価値を置いていることはよく似ている」 3.68 ± 1.16 .92 0.96
項目14「私の個人的な価値観は,私の職場の同僚たちの価値観や文化と合っている」 3.71 ± 1.10 .95 0.95
項目15「私の職場の同僚たちの価値観や文化は,私が人生において価値を置いていることによく一致している」 3.65 ± 1.10 .93 0.96
因子寄与率(%) 78.73 84.30
因子間相関 .52~.71 .33~.72

探索的因子分析(最尤法,プロマックス回転)はPerceived Fit Scale翻訳版9項目は3因子指定,日本語版適合感尺度15項目は5因子指定で行った.

,ICCの算出のみn = 166;a,Perceived Fit Scale翻訳版9項目;b,日本語版適合感尺度15項目

M,平均値;SD,標準偏差;α,クロンバックα;ICC,級内相関係数

3. 妥当性

1) 因子構造妥当性

探索的因子分析の結果を表1に示す.Perceived Fit Scaleの日本語翻訳版9項目は原版通り欲求-供給,需要-能力,個人-組織適合の3項目ずつに,日本語版適合感尺度15項目は想定通り欲求-供給,需要-能力,個人-組織,個人-上司,個人-集団適合の3項目ずつに分かれた.

確証的因子分析の結果を図1に示す(調査1のみ).Perceived Fit Scaleの翻訳版9項目のモデル適合度指標は,Χ2 = 56.065,自由度=24,p < .001,GFI = .945,AGFI = .896,CFI = .980,RMSEA = .080だった.日本語版適合感尺度15項目のモデル適合度指標は,調査1でΧ2 = 149.694,自由度=80,p < .001,GFI = .917,AGFI = .876,CFI = .980,RMSEA = .065であり,調査2でΧ2 = 205.434,自由度=80,p < .001,GFI = .942,AGFI = .913,CFI = .984,RMSEA = .060だった.

図1 

Perceived Fit Scale翻訳版および日本語版適合感尺度の確証的因子分析(調査1)

NS fit,欲求―供給適合(needs-supplies fit);DA fit,需要―能力適合(demands-abilities fit);PO fit,個人―組織適合(person-organization fit);PS fit,個人―上司適合(person-supervisor fit);PG fit,個人―集団適合(person-group fit)

2) 構成概念妥当性

相関分析の結果を表2に示す.職務満足と各適合の相関係数(ρ)は,欲求-供給適合(.63),需要-能力適合(.47),個人-組織適合(.51),個人-上司適合(.44),個人-集団適合(.39)であり,すべて有意だった.情緒的組織コミットメントおよび組織同一視は個人-組織適合が他の適合よりも相関係数が大きかった(.57, .61).構造的エンパワメントは,欲求-供給適合(.50)と需要-能力適合(.42)と中程度の相関があった.キャリアアイデンティの下位尺度は欲求-供給,需要-能力適合と中程度の正の相関があり,他の適合に比べて相関係数が大きかった.

表2  構成概念妥当性検証のための相関係数(調査1)
職務満足 AOC SE 組織同一視 キャリアアイデンティティ
自己効力感 一体感 有意味感 患者影響感 把握感
NS fit .63** .54** .50** .50** .23** .57** .52** .32** .42**
DA fit .47** .43** .42** .34** .37** .49** .47** .36** .42**
PO fit .51** .57** .48** .61** .15* .42** .30** .28** .28**
PS fit .44** .46** .48** .47** .04 .40** .29** .19** .29**
PG fit .39** .33** .31** .38** .14 .32** .22** .19** .21**

スピアマンの相関係数ρ(ペアワイズ法);** p < .01,* p < .05

NS fit,欲求-供給適合(needs-supplies fit);DA fit,需要-能力適合(demands-abilities fit);PO fit,個人-組織適合(person-organization fit);PS fit,個人-上司適合(person-supervisor fit);PG fit,個人-集団適合(person-group fit);AOC,情緒的組織コミットメント;SE,構造的エンパワメント

4. 信頼性

1) 内的整合性

クロンバックαは各下位尺度.87~.97で,各項目のIT相関は.66~.96だった.

2) 時間的安定性

各下位尺度のICCは,調査1で需要-能力適合が.60,個人-集団適合が.69,欲求-供給,個人-組織,個人-上司適合は.75~.78であり(表1),調査2で欲求-供給,需要-能力,個人-組織,個人-上司,個人-集団適合はそれぞれ.48,.54,.37,.48,.52だった.

Ⅴ. 考察

本研究では,日本語版適合感尺度として欲求-供給,需要-能力,個人-組織適合を測定するPerceived Fit Scale(Cable & DeRue, 2002)を日本語翻訳し,下位尺度の個人-組織適合尺度の言葉を変え個人-上司,個人-集団適合を測定する尺度を開発し,妥当性と信頼性を検証した.それにより,日本でも個人-環境適合の側面である欲求-供給,需要-能力適合および価値観の適合である個人-組織,個人-上司,個人-集団適合を測定できるようになった.

1. 妥当性

1) 内容妥当性および表面妥当性

尺度開発時に,看護管理学分野の研究者による議論や認知デブリーフィングにより内容妥当性および表面妥当性を確保することができた.

2) 因子構造妥当性

探索的因子分析を行い,Perceived Fit Scaleの翻訳9項目は原版通りの欲求-供給,需要-能力,個人-組織適合の項目で分かれ,日本語版適合感尺度15項目も想定通り欲求-供給,需要-能力,個人-組織,個人-上司,個人-集団適合に分かれた.さらに調査1,2で行った確証的因子分析について,小塩(2018)の示すモデル適合度指標の基準より,Perceived Fit Scaleの翻訳9項目3因子,日本語版適合感尺度15項目5因子それぞれのモデル適合度は比較的良いと評価できた.以上より,異なる設置主体や組織規模でも日本語版適合感尺度の因子構造は妥当であると考えられた.

3) 構成概念妥当性

各下位尺度と関連が想定された概念と想定通りの相関となった.つまり,下位尺度(個人-環境適合の側面)ごとに仕事関連アウトカムに関連し,かつ関連の強さが異なることが示され,概念を適切に測定できると判断した.

2. 信頼性

1) 内的整合性

クロンバックαは下位尺度.87以上.97以下であり,IT相関が.66以上.96以下であった.クロンバックαの基準は.70以上.95以下とされていることから(Terwee et al., 2007),各下位尺度内に同じ内容を尋ねる項目が含まれていると解釈できるが,内的整合性は保たれていると判断した.よって,Perceived Fit Scaleに倣い各下位尺度3項目で使用できると判断した.

2) 時間的安定性

ICCの値は.50未満は不良,.50以上.75未満は中程度,.75以上.90未満は良好である(Koo & Li, 2016).調査1では需要-能力,個人-集団適合尺度がそれぞれ.60台と中程度だった.調査2では欲求-供給,需要-能力,個人-組織,個人-上司,個人-集団適合は.37~.54と全体的に不良もしくは中程度だった.適合感は動的な概念であり変化する可能性があることが指摘されている(Vleugels et al., 2019).調査時期が,調査1は2~3月と年度末で次年度の動向が決まった時期であり,調査2は11月と次年度以降の動向を検討可能な時期のため,個人と仕事や組織との関係性を見直すこともあり,その時々の仕事や職場の影響を受け適合感も変化しやすいと考えられた.つまり,尺度の得点は適合感という概念上の動的性質や時期により多少変化した可能性がある.

3. まとめ(尺度の活用可能性)

開発した日本語版適合感尺度は,看護職を対象に妥当性と信頼性を確認できた.時間的安定性が低い可能性も示されたが,適合感は変動しうる概念であることを留意すれば,組織に所属して働く看護職管理の研究や臨床での組織評価の際に活用可能であると考える.また,尺度のもとになったPerceived Fit Scale(Cable & DeRue, 2002)は組織従業員を対象に開発されたものであり,看護職のほか様々な職業の従業員に使用されている.そのため日本語版適合感尺度は看護職以外の職業でも使用できると考えており,多様な職種での妥当性と信頼性の検証が必要である.

4. 研究の限界と今後の課題

本研究は尺度が多様な施設で使用できるか確認するため2つのサンプルで調査をした.しかし,機縁法で選定した合計3施設の病院の看護職のみを対象にしており,小規模の病院や病院以外に所属する看護職は対象に含まれていないため,必ずしも看護職全員に本研究の結果が適用されるとは言い切れない.

さらに,看護職以外の職種でも尺度の妥当性と信頼性を検証することにより,尺度の活用可能性が拡大すると考える.

尺度の時間的安定性にも課題が残った.特に調査2のサンプルでは各下位尺度のICCが基準より低値だった.先行研究で指摘されている適合感の動的性質の影響もあるが,今後サンプルを拡大し様々な時期で検証することで尺度の改善点についても検討することができる.

Ⅵ. 結論

日本語版適合感尺度として個人-環境適合の側面である欲求-供給,需要-能力,個人-組織適合を適合感として評価するPerceived Fit Scaleを日本語翻訳し,個人-組織適合尺度の言葉を変え,個人-上司,個人-集団適合の測定尺度を開発した.時間的安定性には課題が残るものの,看護職を対象に一定の妥当性と信頼性があることが確認され,尺度として活用できることを示した.

付記:本論文の一部は,第57回日本医療・病院管理学会学術総会において発表した.

謝辞:本研究は公益財団法人政策医療振興財団の助成を受けて行われた.本研究実施にあたり調査にご協力いただきました施設および対象者の皆様,研究を進める際に助言や支援をしてくださった研究室の皆様,そしてPerceived fit scaleの使用許可をくださいましたCable教授(London Business School)にも厚く感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない

著者資格:MI,KK,YTはデザイン,データ収集,分析,分析解釈,原稿作成までの研究全体のプロセスに貢献;NI,RKはデザイン,分析解釈の助言をした.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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