日本看護科学会誌
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原著
急性期内科系病棟に所属する勤務帯リーダーに必要とされるせん妄ケア実践能力
―臨床看護師への面接調査から―
松田 謙一, 綿貫 成明
著者情報
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2021 年 41 巻 p. 701-709

詳細
Abstract

目的:急性期内科系病棟に所属する勤務帯リーダーに必要とされるせん妄ケア実践能力を明らかにすること.

方法:急性期内科系病棟に勤務する勤務帯リーダーおよび看護管理者,急性期病院の専門看護師・認定看護師を対象に半構造化面接を行い,質的記述的に分析した.

結果:12名の研究対象者から,【せん妄の発症から今後の経過を見据えた包括的なアセスメント】,【せん妄ケアの担い手である勤務帯メンバーへの支援】,【せん妄の原因となる身体的変調の回避・緩和を目指した医師への交渉】,【せん妄の適切な薬物療法を目指した多職種のマネジメント】などの11の実践能力が抽出された.

結論:勤務帯リーダーに必要とされるせん妄ケア実践能力は,勤務帯において,高齢者に対する包括的かつ継続的なせん妄ケアを病棟で提供できるよう,勤務帯メンバーや看護管理者,多職種,家族との積極的な連携を通じて,せん妄ケアに最適な人的・物的環境を柔軟に創出していく行動と考えられた.

Translated Abstract

Purpose: To identify the delirium care competency of shift leader nurses at the acute medical wards.

Methods: Semi-structured interviews were conducted with nurses, shift leader nurses and nurse managers of the acute medical wards, and certified nurse specialists / certified nurses of acute care hospitals. Data were analyzed using a qualitative descriptive approach.

Results: As a result, 11 competencies were identified from 12 study participants: for example “Assessing patients comprehensively”; “Supporting working shift members”, “Consulting doctors to avoid and mitigate physical alterations”; “Managing toward proper medications.”

Conclusion: Delirium care competency of work shift leader nurses included providing comprehensive and continuous delirium care for the elderly. Such care can be provided in the ward during the work shift, through active collaboration with their member nurses, nursing managers, multiple disciplines, and families. Their competencies also included an action that flexibly creates the optimal human resource and physical environment toward delirium care.

Ⅰ. 緒言

昨今の急性期病院において,内科系疾患の急性増悪を来した高齢者の緊急入院を請け負う病棟(以下,急性期内科系病棟)は,内科系病棟に加えて内科系・外科系混合病棟であることも少なくない.このような病棟に緊急入院として収容された高齢者は,疾患によって生じる全身性の炎症反応や低酸素血症,脱水などの身体への負担に加えて,緊急入院という急激な環境の変化を余儀なくされることでせん妄を発症しやすい(Inouye et al., 1993;粟生田ら,2007;長谷川,2010;Inouye et al., 2014).また,高齢者のせん妄発症は,患者と家族に精神的な負担を与える(中村・綿貫,2011)とともに,入院期間の延長や施設入所者数の増加,死亡率の上昇をもたらす(Pompei et al., 1994;Inouye et al., 2014)ことが明らかとなっている.このことから,急性期内科系病棟におけるせん妄ケアは,術後せん妄と同様に喫緊の課題といえる.

急性期内科系病棟に所属する医療者は,患者の心身状態を十分に把握できていない状況下において,疾患に対する検査や治療と同時進行で,せん妄の発症予防,発症後の重症化予防ならびに,せん妄からの早期離脱に向けた医療・看護(以下,せん妄ケア)を提供することが求められる.そのため,急性期内科系病棟に所属する医療者は,患者の状態を見極めて意図的にせん妄ケアを提供する一定の能力,いわゆるせん妄ケア実践能力を備えている必要があるものと考えられる.

本研究では,急性期内科系病棟に所属する看護師のうち,その役割に応じた行動の質が病棟の看護の質に多大な影響を与える「勤務帯リーダー」のせん妄ケア実践能力に注目することとした.勤務帯リーダーは,特定の勤務帯の看護に責任をもち,患者の医療・看護上の目標が安全かつ効率的に達成されるように,勤務帯メンバーや看護管理者,医師をはじめとする多職種に働きかける役割を担う(Miner-Williams et al., 2000;Connelly et al., 2003;山品,2009;Sherman et al., 2011;Eggenberger, 2012;柳橋,2012).せん妄ケア場面において勤務帯リーダーは,主治医とともに治療方針を綿密に共有すること,主治医にせん妄治療の処方を依頼すること,看護管理者とともに病室の移動を検討すること,せん妄ケアに不慣れな勤務帯メンバーにケアの方法を示すこと,せん妄ケアに精通した専門看護師・認定看護師にケア方法を相談することなどの行動をおこしているものと推察され,このような行動の質が病棟のせん妄ケアの質に影響を与えている可能性が考えられる.しかし,これまでに勤務帯リーダーのせん妄ケア実践能力に注目した研究は見当たらない.

そこで,本研究では,急性期内科系病棟におけるせん妄ケアの質向上に向けた取り組みの検討に役立つ基礎資料を得るために,急性期内科系病棟に所属する勤務帯リーダーに必要とされるせん妄ケア実践能力を明らかにすることを目的とした.

Ⅱ. 用語の定義

1. 急性期内科系病棟

内科系疾患の急性増悪を来した65歳以上の高齢者を緊急入院として日常的に請け負う病棟であり,本研究では,急性期病院の内科系病棟および内科系・外科系混合病棟とする.

2. せん妄ケア実践能力

せん妄の発症予防や発症後の重症化予防,せん妄からの早期離脱に向けた医療者の意図した行動であり,この行動には,患者に対する直接的な介入に加えて,医療者や家族と調整を図ることも含むものとする.

3. 勤務帯リーダー

特定の勤務帯の看護に責任をもち,患者の医療・看護上の目標が安全かつ効率的に達成されるように,勤務帯メンバーや看護管理者,医師をはじめとする多職種に働きかける役割を担う看護師を指すものとする.

Ⅲ. 研究方法

1. 研究デザイン

本研究は,せん妄ケア実践能力を明らかにするため,関心ある現象について包括的に要約して理解することに適しているとされる質的記述的研究デザインを用いることとした(谷津,2010).

2. 対象病院

対象病院は,せん妄ケアに関する施設レベルの取り組みを論文・学会等で発表している首都圏近郊の急性期病院13病院とした.これらの病院は,医学中央雑誌Web版を用いて選定した.

3. 研究対象者

研究対象者は,①急性期内科系病棟で3年以上勤務帯リーダーの役割を担う者,②急性期内科系病棟の看護管理者,③せん妄ケアに関して日常的にコンサルテーションを受けている老人看護専門看護師,認知症看護認定看護師,精神看護専門看護師のいずれかとした.

看護管理者や専門看護師・認定看護師を対象に含めた理由は,勤務帯リーダーからコンサルテーションを受ける立場にある者として,勤務帯リーダー自身が実際に発揮しているにも拘らず認識されていない能力や,勤務帯リーダーに期待する能力を,インタビューを通して見出すためであった.そのようなインタビュー対象者を加えることで,勤務帯リーダーに必要とされるせん妄ケア実践能力をより多様な観点から明らかにすることが可能と考えた.

4. データ収集方法

データ収集期間は,2018年4月~6月であった.対象病院の看護部長宛てに研究協力依頼文書を送付し,研究対象者の推薦を依頼した.その後,研究協力に同意を得た研究対象者に対して,個別に半構造化面接を行った.

勤務帯リーダーに対するインタビューガイドの内容は,急性期内科系病棟において自身が勤務帯リーダーの際に,1)せん妄ケアのために多職種とどのように関わっているのか,2)自身の判断や行動によってせん妄ケアがうまくいったと思った状況はどのようなものかなどを聴取した.看護管理者や専門看護師・認定看護師へは,急性期内科系病棟において,1)自身が勤務帯リーダーとの関わりを通してせん妄ケアがうまくいったと思った状況はどのようなものか,2)勤務帯リーダーにどのようなせん妄ケア実践能力が備わっていれば病棟のせん妄ケアの質が向上すると思うかなどを聴取した.

5. 分析方法

インタビューデータは,テキスト化し,勤務帯リーダーに必要とされるせん妄ケア実践能力に関わる部分を抽出し,1文1意味にしてコード化した.その際,勤務帯リーダーが実際に発揮しているせん妄ケア実践能力(以下,発揮能力)と,勤務帯リーダーに期待されるせん妄ケア実践能力(以下,期待能力)に分けて抽出した.

次に,勤務帯リーダーの発揮能力と期待能力のそれぞれについてコードの意味内容の類似性と相違性に着目して,サブカテゴリー,カテゴリーへと抽象度を上げ,それぞれの段階でネーミングを行った.サブカテゴリーは,発揮能力と期待能力のそれぞれについて勤務帯リーダーの具体的行動を表現した.また,カテゴリーは,サブカテゴリーから抽象度を上げ,発揮能力と期待能力のそれぞれについて勤務帯リーダーの行動特性を読み取れるように具体性を残しながら表現した.

最後に,発揮能力と期待能力のそれぞれで抽出したカテゴリーを比較,統合し,コアカテゴリーを抽出した.本研究では,このコアカテゴリーを急性期内科系病棟に所属する勤務帯リーダーに必要とされるせん妄ケア実践能力とした.コアカテゴリーは,せん妄ケア実践能力に関わる勤務帯リーダーの意図の特徴を読み取れるように行動特性を表現した.

なお,この過程では,せん妄に精通した看護学研究者1名,質的研究者2名に加えて,急性期内科系病棟で5年以上の勤務経験を有し,かつ老年看護学を専攻し修士または博士の学位を有する看護師6名を含めた研究者間会議を複数回行い,真実性の確保に努めた.

Ⅳ. 倫理的配慮

本研究は,国立研究開発法人国立国際医療研究センター倫理審査委員会の承認を受けて実施した(承認番号NCGM-G-002375-00).研究対象者には,研究への協力は自由意思であること,研究協力の同意と撤回の保証,個人情報の保護,得られたデータは本研究以外に使用しないことを文書と口頭で説明し,文書で同意を得た.

Ⅴ. 結果

1. 研究対象者の概要(表1)

調査に協力の得られた施設は3病院で,研究対象者は12名であった.いずれも研究対象者としての条件を満たしていた.このうち11名は,せん妄ケアに関する研修会への参加経験を有していた.勤務帯リーダー4名の看護師としての臨床経験年数は5.1~22.1年,所属部署における勤務帯リーダーとしての経験年数は3.0~9.5年の範囲であった.看護管理者3名の所属部署における看護管理者としての経験年数は1.1~4.5年の範囲であった.専門看護師・認定看護師5名の看護師としての臨床経験年数は10.2~25.0年,専門看護師・認定看護師としての臨床経験年数は0.8~8.5年の範囲であった.一人当たりの面接時間は,30~72分の範囲であった.

表1  研究対象者の概要
ID 臨床経験年数 役割 所属部署における役割経験年数 専門看護師または認定看護師の資格取得後の経験年数 せん妄ケアに関する研修会への参加経験
A 5年2ヶ月 勤務帯リーダー看護師 3年1ヶ月 ― あり
B 14年2ヶ月 勤務帯リーダー看護師 9年6ヶ月 ― あり
C 15年2ヶ月 勤務帯リーダー看護師 8年9ヶ月 ― なし
D 22年2ヶ月 勤務帯リーダー看護師 4年4ヶ月 ― あり
E 19年2ヶ月 看護管理者 1年2ヶ月 ― あり
F 28年1ヶ月 看護管理者 2年1ヶ月 ― あり
G 30年2ヶ月 看護管理者 4年6ヶ月 ― あり
H 24年1ヶ月 老人看護専門看護師 4年10ヶ月 8年5ヶ月 あり
I 10年3ヶ月 認知症看護認定看護師 1年11ヶ月 1年11ヶ月 あり
J 20年1ヶ月 認知症看護認定看護師 10ヶ月 10ヶ月 あり
K 25年1ヶ月 認知症看護認定看護師 2年9ヶ月 2年9ヶ月 あり
L 20年2ヶ月 精神看護専門看護師 1年2ヶ月 8年6ヶ月 あり

2. 勤務帯リーダーのせん妄ケア実践能力

本研究では,発揮能力として,53サブカテゴリーと12カテゴリーを抽出した.また,期待能力として,20サブカテゴリーと8カテゴリーを抽出した.これらのカテゴリーを比較,統合した結果,11のコアカテゴリーを抽出した(表2).以下,生データは「 」,サブカテゴリーは〈 〉,カテゴリーは《 》,コアカテゴリーは【 】で表記した.

表2  急性期内科系病棟に所属する勤務帯リーダーに必要とされるせん妄ケア実践能力
コアカテゴリー カテゴリー サブカテゴリー
せん妄の発症から今後の経過を見据えた包括的なアセスメント せん妄ケアが必要な患者を発症予測に基づいて選定する〔発揮〕* せん妄の発症要因を多角的に分析する
身体状態からせん妄の発症を予測する
精神的苦痛の程度からせん妄発症を予測する
環境の変化に注目する
環境適応能力からせん妄発症を予測する
せん妄の発症要因を心身の状態から十分に見出す〔期待〕** 発症要因を多角的に分析する
身体状態を把握する
環境適応能力を査定する
退院を視野に入れたせん妄ケアを展開する〔発揮〕 せん妄患者の退院調整状況を把握する
せん妄ケアが必要な患者の今後の経過を把握する〔期待〕 せん妄患者の治療方針や今後の経過を把握する
せん妄ケアの担い手である勤務帯メンバーへの支援 勤務帯メンバーのせん妄ケア実践を支える〔発揮〕 身体的苦痛を緩和させるよう促す
頓用向精神薬の投与を促す
興奮を助長しない関わり方について助言する
離床が進まない理由を明らかにする
昼夜の区別を認識できる環境づくりを促す
せん妄からの回復を意識したケアを推進する〔期待〕 離床を進める
日中の覚醒を促す
発症要因にアプローチする
安楽を促進する
せん妄の原因となる身体的変調の回避・緩和を目指した医師への交渉 せん妄の発症や増悪を招きうる身体的変調の回避や緩和策を医師に相談する〔発揮〕 症状が出る前に医師に相談する
苦痛緩和に必要な指示を予め医師に依頼する
薬剤変更の可否を医師に相談する
せん妄の適切な薬物療法を目指した多職種のマネジメント せん妄の薬物療法を適切に実施できるようマネジメントする〔発揮〕 頓用向精神薬の処方を予め医師に依頼する
薬剤の調整は日勤帯で済ませておく
処方内容について精神科医に直接相談する
勤務帯メンバーと一緒に効果を判断する
効果の判断に有用な情報を医師に報告する
薬剤の特徴を踏まえて効果を判断する
専門・認定看護師に意見を求める
医師の見解を把握する
投与量や投与経路について医師に相談する
効果に関する看護記録の記載を勤務帯メンバーに求める
薬物療法の適切性を判断する〔期待〕 指示量の適切性を判断する
投与経路の適切性を判断する
処方薬によるせん妄への影響を判断する
効果を判断する
せん妄患者のニーズに適した療養環境の整備 せん妄患者のニーズに応じた安全対策を練る〔発揮〕 病室の移動を推進する
常にカーテンを開けておくよう勤務帯メンバーに促す
点滴投与時間の変更を医師に相談する
勤務帯メンバーと一緒に安全対策を検討する
自身の目で安全対策の実施状況を確認する
柔軟にせん妄患者の安全対策を講じられるよう勤務帯メンバーに関わる〔期待〕 身体拘束の必要性に関する勤務帯メンバーの判断を確認する
点滴ルートの管理方法を勤務帯メンバーと一緒に検討する
せん妄の発症予防のために患者の環境適応能力を考慮した病床環境を提供する〔期待〕 必要と判断した時点で病室を移動する
見当識を維持できる療養環境をつくる
せん妄ケアに関わる看護師に対する安全上の配慮 せん妄ケアに関わる看護師の心身の安全に配慮する〔発揮〕 患者からの暴力を看護管理者に報告する
侵襲的処置を単独で実施しないよう勤務帯メンバーに伝える
せん妄ケアに適した看護人員の配置 せん妄ケアに適した看護人員を配置する〔発揮〕 せん妄患者を担当する勤務帯メンバーの総担当患者数を減らす
せん妄患者を担当する勤務帯メンバーの動線を考慮して担当患者を決める
せん妄患者以外の担当患者は看護師のペースで訪室できる患者とする
せん妄患者とトラブルになった勤務帯メンバーを担当から外す
せん妄患者に目が行き届くように勤務帯メンバーを割り当てる
勤務帯メンバー同士が交代で患者に付き添う体制をつくる
勤務帯メンバー全員に担当患者の割り当ての意図を説明する
リリーフを要請する
せん妄ケアに時間を割けるよう担当看護師を決める〔期待〕 せん妄患者に綿密に関わることができるように勤務帯メンバーを割り当てる
病棟全体の業務とせん妄ケアの均衡化 せん妄患者以外の看護も滞らないように人的・物的環境を調整する〔発揮〕 勤務帯リーダー経験のある看護師にせん妄患者を担当してもらう
せん妄以外の患者の病室移動について看護管理者に相談する
せん妄患者担当の勤務帯メンバーの業務を他看護師に割り振る
多職種連携によるせん妄ケア体制の具現化 多職種連携によるせん妄ケア体制を率先して具現化する〔発揮〕 リエゾンチームの介入について主治医に働きかける
看護管理者から医師に働きかけてもらう
入院時点で多職種に相談する
リハビリスタッフとリハビリのタイミングや場所を検討する
看護補助者に協力を要請する
的確にせん妄を判断したうえで多職種に相談する
せん妄ケアに多職種を巻き込むタイミングを見極める〔期待〕 多職種の介入の必要性を判断する
せん妄予防について早期に相談する
多職種の介入効果を判断する
せん妄ケアへの家族参画のきっかけ作り 家族がせん妄ケアに参加できるように調整する〔発揮〕 家族の要望をケアに反映させる
家族に協力を要請する
せん妄ケア方針の検討と周知 病棟看護師全員とせん妄ケアの方針を一致させる機会をつくる〔発揮〕 カンファレンスでケア方針を検討する
多職種からの助言内容を周知する
せん妄患者の状態を共有する

* 勤務帯リーダーが実際に発揮しているせん妄ケア実践能力として抽出されたカテゴリーであることを指す.

** 勤務帯リーダーに期待されるせん妄ケア実践能力として抽出されたカテゴリーであることを指す.

1) 【せん妄の発症から今後の経過を見据えた包括的なアセスメント】

この能力は,発揮能力の〈せん妄の発症要因を多角的に分析する〉などから導かれた《せん妄ケアが必要な患者を発症予測に基づいて選定する》や《退院を視野に入れたせん妄ケアを展開する》ならびに,期待能力の〈発症要因を多角的に分析する〉〈せん妄患者の治療方針や今後の経過を把握する〉などから導かれた《せん妄の発症要因を心身の状態から十分に見出す》や《せん妄ケアが必要な患者の今後の経過を把握する》をもとに生成された.これは,勤務帯における効果的なせん妄ケアの提供にむけて,せん妄の発症要因から今後の経過まで包括的にアセスメントする行動を表す.

「自分がリーダーの時には,認知機能がどのレベルかっていうことと,あとは,その方にとって,例えば今,行われている治療とかが,どれぐらいせん妄の発症に関わるかっていう,直接因子はどうかとか,誘発因子はどうかっていう,それぞれのアセスメントをしますかね.」「せん妄の発症要因の検討には(リーダーの場合),採血データをみてほしいですね.炎症,貧血,電解質,ナトリウム,カリウム,クロール,で,脱水,高血糖,低血糖.」

2) 【せん妄ケアの担い手である勤務帯メンバーへの支援】

この能力は,発揮能力の〈身体的苦痛を緩和させるよう促す〉などから導かれた《勤務帯メンバーのせん妄ケア実践を支える》ならびに,期待能力の〈離床を進める〉などから導かれた《せん妄からの回復を意識したケアを推進する》をもとに生成された.これは,せん妄の発症予防およびせん妄からの回復促進につながる具体的なせん妄ケア実践内容について,ケアの直接の担い手である勤務帯メンバーに働きかける行動を表す.

「結構その排泄が,せん妄の悪化のきっかけで.不快感だったりで.排泄コントロール,例えば尿もちょっと早めに排尿誘導してあげて,本人がそわそわする前に済ませてあげることとかをメンバーに言っています.」「患者さんが安楽かっていう視点ももってリーダーはみてほしい.安楽は,発症後は特に.」

3) 【せん妄の原因となる身体的変調の回避・緩和を目指した医師への交渉】

この能力は,発揮能力の〈苦痛緩和に必要な指示を予め医師に依頼する〉などから導かれた《せん妄の発症や増悪を招きうる身体的変調の回避や緩和策を医師に相談する》をもとに生成された.これは,せん妄の発症や増悪の引き金となりうる身体の変調を回避するために,治療方針や治療内容について医師に交渉する行動を表す.

「前回エバミール®でせん妄を起こした経緯があるから,エバミール®じゃない薬剤を処方してもらいたいですっていうのをちょっと予防線を張って言っといたりとかは(しています).」

4) 【せん妄の適切な薬物療法を目指した多職種のマネジメント】

この能力は,発揮能力の〈頓用向精神薬の処方を予め医師に依頼する〉などから導かれた《せん妄の薬物療法を適切に実施できるようマネジメントする》ならびに,期待能力の〈指示量の適切性を判断する〉などから導かれた《薬物療法の適切性を判断する》をもとに生成された.これは,せん妄の薬物療法が患者にとって効果的なものとなるよう,多職種および勤務帯メンバーを交えて,処方から実際の投与,投与後の評価の全ての過程をマネジメントする行動を表す.

「リーダーのときは,やっぱりメンタルの先生の処方の意図などは確認します.どうしてこの薬なんですかっていうのは,話したりとかはしますね.」「不穏時の指示とか不眠時の指示?あれをその…体が小さい90代の20 kgしかないような人に,結構,一本,2.5 mg…量が多いのに,そのまま飲ませたりするんです.なので,(リーダーには)この人は高齢だし,体重もこのくらいだから,半分の量とか,1/4くらいから始めませんかとか先生に指示を変更してもらえたらいいなと(思っています).」

5) 【せん妄患者のニーズに適した療養環境の整備】

この能力は,発揮能力の〈病室の移動を推進する〉などから導かれた《せん妄患者のニーズに応じた安全対策を練る》ならびに,期待能力の〈身体拘束の必要性に関する勤務帯メンバーの判断を確認する〉〈見当識を維持できる療養環境をつくる〉などから導かれた《柔軟にせん妄患者の安全対策を講じられるよう勤務帯メンバーに関わる》《せん妄の発症予防のために患者の環境適応能力を考慮した病床環境を提供する》をもとに生成された.これは,せん妄ケアが必要な患者にとって安全かつ安心につながる療養環境を整える行動を表す.

「(せん妄発症の)リスクが高いと思ったら,ベッドの調整とか.ベッドの調整は,リーダーのときは,もうメンバーと話し合って,夜勤に入る前とか,次の勤務者に迷惑が掛からないように.例えば,ナースステーションの前の部屋とか.あと観察室とか.看護師の目が届くお部屋を(用意します).」

6) 【せん妄ケアに関わる看護師に対する安全上の配慮】

この能力は,発揮能力の〈患者からの暴力を看護管理者に報告する〉などから導かれた《せん妄ケアに関わる看護師の心身の安全に配慮する》をもとに生成された.これは,勤務帯メンバーがせん妄患者からうける暴力を未然に防ぎ,事態が発生した場合には,勤務帯メンバーを支援するために看護管理者と情報を共有する行動を表す.

「やっぱり暴力とかのインシデントとか,ナースの安全を確保するのに必要なこととか.そういう情報共有,あとは毎日,あの師長さんが朝,来たときとかにこういう状況でしたっていうのを報告は必ずするようには(しています).」

7) 【せん妄ケアに適した看護人員の配置】

この能力は,発揮能力の〈せん妄患者を担当する勤務帯メンバーの総担当患者数を減らす〉などから導かれた《せん妄ケアに適した看護人員を配置する》ならびに,〈せん妄患者に綿密に関わることができるように勤務帯メンバーを割り当てる〉から導かれた期待能力の《せん妄ケアに時間を割けるよう担当看護師を決める》をもとに生成された.これは,せん妄患者に必要な看護を提供するために勤務帯メンバーを割り当てる行動を表す.

「せん妄患者のケアに時間を割けるように,(せん妄患者を受け持つ勤務帯メンバーの)受け持ち患者数を減らすようなことはやってるかな.」

8) 【病棟全体の業務とせん妄ケアの均衡化】

この能力は,発揮能力の〈せん妄患者担当の勤務帯メンバーの業務を他看護師に割り振る〉などから導かれた《せん妄患者以外の看護も滞らないように人的・物的環境を調整する》をもとに生成された.これは,勤務帯における病棟全体の看護の提供状況を見渡し,病棟の看護が行き渡るように看護人員や病床を調整する行動を表す.

「機転が利くリーダーは,例えば多重業務になった場合に,せん妄の患者さんを受け持っているメンバーがいる場合,どうしてもやらなきゃいけない業務も絶対あるはずなので,それをキャッチして,別のスタッフに割り振ったりとかしてますね.」

9) 【多職種連携によるせん妄ケア体制の具現化】

この能力は,発揮能力の〈リエゾンチームの介入について主治医に働きかける〉などから導かれた《多職種連携によるせん妄ケア体制を率先して具現化する》ならびに,期待能力の〈多職種の介入の必要性を判断する〉などから導かれた《せん妄ケアに多職種を巻き込むタイミングを見極める》をもとに生成された.これは,せん妄ケアに有用な多職種連携のあり方を自部署で実現できるよう,その必要性を判断したうえで,タイミングよくせん妄ケアに多職種を巻き込む行動を表す.

「医師によっては,やっぱりこう理解,自分が納得しないとこう動いてくれないところがあるので,(せん妄患者に)どういう行動があって,どういうところが危険で,これじゃあ治療もできないし,先生がこう望んでいるこう,こうしたいとかっていうところまであのいけないかもしれませんと,点滴を抜いたら絶対点滴もいけないし,お薬も飲まないと言ったら,このままずっと飲み続けない可能性があるから,だからこういうところが危険だから,リエゾンチームに介入を依頼してほしいんですっていう,こう先生が納得するように言ってますね.」

10) 【せん妄ケアへの家族参画のきっかけ作り】

この能力は,発揮能力の〈家族の要望をケアに反映させる〉などから導かれた《家族がせん妄ケアに参加できるように調整する》をもとに生成された.これは,せん妄ケアについて家族の協力を得るために,その必要性を判断した時点から積極的に家族に関わる行動を表す.

「せん妄になりそうだなっていう人には,先手を打って,家族に「呼ぶかもしれません」っていうお話しをしたりとか,最悪,抑制の話をさせてもらったりとかっていうことをしてはいますね.リーダーのときに,自分が言いに行ってしまうっていうことのほうが多いです.」

11) 【せん妄ケア方針の検討と周知】

この能力は,発揮能力の〈カンファレンスでケア方針を検討する〉などから導かれた《病棟看護師全員とせん妄ケアの方針を一致させる機会をつくる》をもとに生成された.これは,せん妄患者の状態や具体的なケア方針について,病棟看護師の認識を一致させる機会を設ける行動を表す.

「例えばそれが日勤帯,まあ日勤帯ですけど,(専門看護師に)指示をもらったら,そのときのメンバーにそれを伝える.あとは夜勤帯の看護師にも伝える.取りあえず,その日の勤務帯の人にはすぐに伝えるようにしています.」

Ⅵ. 考察

1. 勤務帯リーダーのせん妄ケア実践能力

本研究では,急性期内科系病棟に所属する勤務帯リーダーに必要とされるせん妄ケア実践能力について11の実践能力を見出した.ここでは,先行研究に示された勤務帯リーダーの役割と照らし合わせながら勤務帯リーダーに必要とされるせん妄ケア実践能力について考察する.

【せん妄の発症から今後の経過を見据えた包括的なアセスメント】について,勤務帯リーダーは包括的なアセスメントを通じ,せん妄ケアが必要な患者の選定や勤務帯メンバーの配置,病床管理,多職種連携のあり方などをより具体的に検討することが可能になるものと考えられる.この行動は,患者個々の状態を含め病棟全体の状況を把握したうえで,優先順位をつけながら業務を調整する(Miner-Williams et al., 2000;Connelly et al., 2003;山品,2009;Eggenberger, 2012;柳橋,2012)という勤務帯リーダーの役割に関連するものと考えられる.また,【せん妄ケアの担い手である勤務帯メンバーへの支援】は,看護実践のロールモデルとして,勤務帯メンバーの実践を支援する(Miner-Williams et al., 2000;Connelly et al., 2003;山品,2009;Eggenberger, 2012)という勤務帯リーダーの役割と関連が深いものと考えられる.

【せん妄の原因となる身体的変調の回避・緩和を目指した医師への交渉】および【せん妄の適切な薬物療法を目指した多職種のマネジメント】は,多職種連携のうち,特に医師とのコミュニケーションを通じて,患者のニーズが満たされるよう治療方針について調整を図る(Miner-Williams et al., 2000;Connelly et al., 2003;山品,2009;Eggenberger, 2012;柳橋,2012)という勤務帯リーダーの役割に関連するものと考えられる.また,【せん妄患者のニーズに適した療養環境の整備】および【せん妄ケアに関わる看護師に対する安全上の配慮】は,患者,看護師の両者にとって安全な療養環境を創り出す(Connelly et al., 2003;山品,2009;Eggenberger, 2012)という勤務帯リーダーの役割に一致するものと考えられる.

【せん妄ケアに適した看護人員の配置】および【病棟全体の業務とせん妄ケアの均衡化】は,患者の医療・看護上の目標の達成にむけて,勤務帯リーダーは病棟全体を見渡し必要なケアが患者に行き届いているかを直接確認できる立場にあり,看護管理者や勤務帯メンバーとも連携しながら業務を調整する(Connelly et al., 2003;山品,2009;Eggenberger, 2012)という勤務帯リーダーの役割と関連が深いものと考えられる.また,【多職種連携によるせん妄ケア体制の具現化】は,看護のリーダーとして多職種と調整を行い,場合によっては多職種と連携をとる中でもリーダーシップを担うことがある(柳橋,2012)という勤務帯リーダーの役割と関連しているものと考えられる.

【せん妄ケアへの家族参画のきっかけ作り】は,家族とコミュニケーションを図り,家族のニードに応える(Connelly et al., 2003;Eggenberger, 2012)という勤務帯リーダーの役割と考えられる.また,【せん妄ケア方針の検討と周知】は,病棟内の情報の均衡化を図る(Connelly et al., 2003;山品,2009)という勤務帯リーダーの役割と一致しているものと考えられる.

これら11の実践能力より,急性期内科系病棟に所属する勤務帯リーダーに必要とされるせん妄ケア実践能力は,「勤務帯において,高齢者に対する包括的かつ継続的なせん妄ケアを病棟で提供できるよう,勤務帯メンバーや看護管理者,多職種,家族との積極的な連携を通じて,せん妄ケアに最適な人的・物的環境を柔軟に創出していく行動」と定義できるものと考えられる.この定義より,急性期内科系病棟に所属する勤務帯リーダーは,人的・物的環境や資源を繋ぐ要としてのハブ役となり,病棟のせん妄ケアをマネジメントしている存在といえる.勤務帯リーダーのせん妄ケア実践能力は,急性期内科系病棟におけるスタッフの臨床実践をマネジメントすることで,せん妄ケアの質向上に多大な影響を与えている可能性が示唆される.このことは,急性期内科系病棟におけるせん妄ケアの質向上に向けた取り組みにおいて,勤務帯リーダーに焦点を当てることの活用可能性を裏付けているといえよう.

2. 本研究の限界と今後の課題

本研究の対象者は,せん妄ケアに積極的に取り組んでいる首都圏近郊の急性期病院に所属している者であるため,本成果の転移可能性を検討する際には考慮する必要がある.したがって,今後は,本研究の成果を一般化できるよう抽出された11のせん妄ケア実践能力の妥当性について検証する必要がある.

急性期内科系病棟におけるせん妄ケアの質向上に向けた取り組みでは,本研究の成果を活用し,急性期内科系病棟に所属する勤務帯リーダーを対象としたせん妄ケア実践能力の自己評価尺度の開発や教育プログラムの開発が期待される.自己評価尺度の開発では,自身のせん妄ケア実践能力の現状を数値として客観的に認識できることに加えて,せん妄ケアにおける課題を検討するためのツールになるものと考えられる.さらに,教育プログラムの開発では,対象者へのせん妄ケアの原理原則を知識として提供する従来の教育内容とは異なり,病棟における役割に沿ったマネジメントの要素を含むせん妄ケアの実践内容を行動レベルで示すことが可能になるものと考えられる.このような教育プログラムの実施は,従来の教育内容以上にせん妄ケア実践能力の向上に寄与できるものと考える.

付記:本研究の一部は,日本老年看護学会第24回学術集会において発表した.また,本研究は,国立看護大学校研究課程部看護学研究科に提出した特別研究論文(博士論文)の一部を加筆・修正したものである.

謝辞:本研究にご協力いただきました研究対象者の皆様に深く感謝申し上げます.また,本研究は,平成30年度公益財団法人政策医療振興財団研究助成事業の助成を得て実施し,成果の一部概要を「医療の広場」で報告した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:KMは,研究の着想,研究デザインと実施,分析,執筆の全てを行った.SWは,原稿への示唆及び研究プロセス全体への助言を行った.全ての著者は最終原稿を読み,承認した.

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