目的:本研究の目的は,心理的困難に直面している訪問看護師に対して,「継承的視点での捉え直し」と「ケアリングの相互性の実感」の意識化を促すことにより職務継続意向への効果を検討することである.
方法:対象は現職訪問看護師59名を無作為に介入群29名,対照群30名に振り分け,困難事例の想起を促した後に,介入群にのみ「継承的視点での捉え直し」と「その事例から得ているものの意識化」を促す介入を行った.介入評価は「職務継続意向」に関する尺度を使用し,介入時と2週間後の2期に測定した.
結果:困難事例の想起のみを求めた対照群では職務継続意向が低下したが,介入群では,職務継続意向が維持され,訪問看護経験全般におけるケアリングの相互性の実感が高まっていた.
結論:困難に直面している訪問看護師に対して「継承的視点での捉え直し」や「その事例から得ているものの意識化」を促すことの有用性が示唆された.
Purpose: The purpose of this study was to examine the effects of encouragement on the intention to continue work of visiting nurses who faced psychological difficulties to “reconsider the successive reevaluation” and “realize the mutuality of caring.”
Method: A total of 59 in visiting nurses were randomly assigned to two groups: 29 in the intervention group and 30 in the control group. Nurses were asked to recall difficult cases, only the intervention group underwent an intervention that encouraged them to “reconsider the successive reevaluation” and “become aware of what they had gained from the cases.” Intervention evaluation was conducted at the time of the intervention and two weeks later using a scale related to “intention to continue working.”
Results: In the control group, who were only asked to recall difficult cases, job continuity intention decreased, but in the intervention group, job continuity intention was maintained and the sense of mutuality of caring in the overall home health care experience increased.
Conclusion: It was suggested that it is useful to encourage visiting nurses who are facing difficulties in providing support to “reconsider the successive reevaluation” and “become aware of what is gained from the case.”
我が国の急激な高齢化に伴い,地域包括ケアシステムの基盤整理が急務とされるとともに,在宅医療や訪問看護を推進する流れが強まっている.しかし訪問看護師の離職率は15.0%と,病院勤務看護師の離職率(12.6%)と比較しても高く(日本看護協会,2011),訪問看護師における人材定着は喫緊の課題である.
人材が定着しない要因の1つに,訪問看護に求められるケア内容が複雑化し,利用者と関わること自体が職務満足感を低減させる可能性が示されてきた(Ellenbecker et al., 2008).元来訪問看護では,在宅で療養を希望する利用者に対し,治療のみならず利用者の人生や価値観を尊重しながら全人的な支援を優先し,生活の質(quality of life; QOL)の向上および実現に向け,本人・家族に対する柔軟的かつ自律的な看護が追求されるが(河原,2013),それゆえに訪問看護における支援には,多様な心理的困難が伴うことも示されてきた.例えば,利用者の医療依存度が高い場合における葛藤,信念と現実の間の乖離,ケアの適切さに関する不安,責任の重さ(仁科ら,2007)をはじめとして,ターミナル期の訪問看護における無力感(古瀬,2013),精神障がいを伴う利用者への訪問看護における訪問看護そのものへの考え方の揺らぎ(林,2009),夜間オンコール業務における精神的負担(菊地・石井,2016)などが挙げられてきた.
訪問看護における支援に伴う困難感を鑑み,本研究では,様々な心理的困難があっても訪問看護師が利用者への支援を続ける要因の一つとして,Mayeroff(1971/1987)におけるケアリングの相互性という概念に着目した.Mayeroff(1971/1987)は,一人の人間を支援(ケアリング)することは相互的な行為であり,支援される当人の人格や人生を尊重し成長を支えることを通して,支援する側もまた自己の生の意味に気づくことができ,自己存在を根底から支えられる機会となると論じている.同様の議論については,例えばNoddings(1984/1997)やBenner(2001/2005)など,看護学領域においてその後も蓄積されてきており,支援する側もまた,支援するという行為を通して自身の成長や専門性を確立させる機会を得ていることが主張されてきた.
この概念を訪問看護の現場に適用すると,利用者の希望や意向,生活状況や人格を尊重しつつ,利用者との信頼関係の構築を重視する形でケアを行うことが訪問看護では優先されるために,Mayeroff(1971/1987)が示す関係性に近く,それゆえに看護師自身もケアリングの相互性を実感しやすい可能性が推察される.さらに御厩(2015)では,訪問看護師自身が,自身が行った仕事やケアを通して自分自身もまた成長しているという実感を得ており,かつ,そうした実感が訪問看護師としての職務継続意向に結びついていることが指摘されているが,この知見も踏まえると,訪問看護という支援を通してケアリングの相互性が実感されることで,職務継続意向にも影響をもたらす可能性も想定される.この可能性は,利用者への支援において困難を感じながらも訪問看護を継続している看護師の手記および半構造化面接の内容分析を行った平野・藤(2018)でも示されており,訪問看護師は様々な心理的困難を経験している一方で,看護師自身もまた「人生観・死生観・看護観の深まり」や「利用者との関わりの中で癒しや絆の深まり」を実感しており,ケアリングの相互性の実感を得ながら勤務を継続していることが示唆されている.
それでは,支援に伴う様々な心理的困難を経験しながらも,なおケアリングの相互性が実感され職務継続意向が維持されるまでには,どのような心理過程が介在するであろうか.この点に関して本研究では,心理学領域における認知的感情制御の知見も加味しつつ検討する.認知的感情制御(Garnefski et al., 2001;Gross & Thompson, 2007)に関する研究分野では,個人が経験したネガティブな状況や感情経験に対し,その心理的意味を認知的に変容させ,状況や感情経験の意味そのものを捉え直すことが,ポジティブな心理状態へと移行していく上で重要な役割を果たすことが示されてきた.この知見を病棟看護師に応用した調査もあり,患者との関わりにおいて生じた否定的な感情体験に対し,患者の良いところを探そうとするなどの肯定的再評価を行うことが,看護師の情緒的消耗感や転退職意図を低減させることが示されている(榊原,2015).
同様の知見は,利用者の支援に対する困難さを経験しつつも勤務を継続している訪問看護師への半構造化面接の結果からも示されており,訪問看護師自らが,利用者との間で経験した心理的困難に対して捉え直しを行い,新たな意味を見出すことで,ケアリングの相互性の実感へと至っていることが明らかにされている(平野・藤,2018).さらに平野・藤(2018)では,心理的困難に対する捉え直しの中でも,過去の支援経験から得られたことが現在の支援経験にも受け継がれていると捉え直す「過去を踏まえた継承的振り返り」や,現在の支援経験から得られたことが自分の未来の支援にも引き継がれると捉え直す「未来に向けた継承的捉え直し」が,訪問看護を通したケアリングの相互性を実感させる要因となっていることを示している.そして現在直面している心理的困難に対し,過去から現在,現在から未来という視点を含んだ「継承的な視点」から捉え直し,現在の事例からも何かを得ていると意識化することが,訪問看護という職務を通した支援経験全般に関するケアリングの相互性の実感をもたらし,職務を継続する上で重要な役割を果たす可能性を考察している.
つまり,訪問看護師が支援時に経験する心理的困難は職務継続に関する意向を低減させ得るものの,その困難を継承的視点から捉え直し,その困難からも何かを得ていると意識化することでケアリングの相互性が実感され,職務継続意向を維持できているという心理過程の存在が推察される.ゆえに,利用者への支援の中で心理的困難を感じている訪問看護師に対し,「継承的視点」からの捉え直しの過程を促し,ケアリングの相互性の実感を高める介入を行うことで,訪問看護師の職務継続意向の維持に寄与できる可能性も考えられる.
本研究の目的は,現職の訪問看護師に対し,現在直面している心理的困難に対する過去および未来への継承的視点での捉え直しを促しつつ,現在の事例からも何かを得ているという意識化を促す介入を行うことで,訪問看護という職務を通した支援経験全般に関するケアリングの相互性の実感を高め,職務継続意向にもポジティブな影響を及ぼすことができるかを検証することである.
1.ケアリングの相互性の実感(Mayeroff, 1971/1987):一人の人間を支援(ケアリング)することは相互的な行為であり,支援する側もまた受け取っているものがあると実感すること.
2.過去を踏まえた継承的振り返り(平野・藤,2018):現在支援している利用者との間での経験に対し,過去の支援経験から得られたことが現在の支援経験にも受け継がれているというように捉え直すこと.
3.未来に向けた継承的捉え直し(平野・藤,2018):現在支援している利用者との間での経験に対し,現在の支援経験から得られたことが自分の未来の支援にも引き継がれるというように捉え直すこと.
本研究では「過去を踏まえた継承的振り返り」「未来に向けた継承的捉え直し」「当該事例から得られたものの意識化」の3点への介入を行う介入群と,介入を行わない対照群を設けたランダム化比較試験を行った.また,プライマリアウトカムとして設定した「訪問看護師としての職務継続意向」については,プレとポストにおいて測定した.なお,「訪問看護という職務を通した支援経験全般に関するケアリングの相互性の実感」についても従属変数として測定したが,こちらについては,プレ時点でも尋ね記述を求めた場合,その記述行為自体がケアリングの相互性を意識化する契機となり,対照群にも一定の心理的影響を及ぼすことが想定されたため,ポスト時点にのみ測定することとした.
2. 研究協力者本研究のサンプルサイズは,プライマリアウトカムに関する分析を想定し,効果量0.25(中程度),有意水準5%,検出力0.8,群数2,測定回数2,研究協力者間要因(介入群,対照群)と研究協力者内要因(プレ,ポスト)の交互作用項に関する分析を指定してG*Powerを用いて算出した結果,34名となったため,この数を目標として研究協力者の募集を行った.
2016年10月から11月に第一著者の機縁である関東圏内の20か所の訪問看護事業所の管理者に,研究に関する説明書類を郵送して研究への協力を依頼した.そして参加への承諾が得られた16か所事業所には,同封の用紙に参加希望者の連絡用メールアドレスを記載して返送してもらうという形を取り,無記名で研究協力者を募集した.その結果,59名からの参加希望が得られた.この59名を,Excelを用いて乱数表を作成したうえで無作為に2群(介入群,対照群)に分け,各群に対し2回のメールを送付した.このうち1回目のメールへの返信者は32名(回収率54.2%:介入群16名,対照群16名),2回目のメールへの返信者は28名(回収率47.5%:介入群14名,対照群14名)であり,2回とも返信した28名を対象とした.なお,実施期間は2016年11月から12月とし,期間中,群の割り振り方は研究協力者には提示されなかった.
研究協力者に対して,年齢・看護経験期間・訪問看護経験期間・勤務時間・性別・勤務形態・職位・24時間緊急対応の有無・保有資格について,1回目のメール送信の際に回答を依頼した.また,年齢が23歳以上65歳未満であり,訪問看護経験が6カ月以上であることを選定基準とした.
3. 倫理的配慮本研究は筆者の所属する筑波大学人間系の倫理審査委員会の承認を得た(承認番号:東28-70号).まず事前説明として,研究目的,方法,内容,自由意思の尊重と拒否する権利,プライバシーの保護とデータの管理等について倫理的配慮に関する説明を書面で行った.また本研究は無記名で行われ,教示文の意味などに質問がある場合には随時対応することについても説明した上で実施した.
4. 手続き本研究では,利用者との関わりにおいて生じた心理的困難に対して,その困難への継承的視点で捉え直し,および当該事例から得られたものの意識化を促す介入を実施した.その際,介入自体が負担にならないよう配慮する目的で,2回のメールの送受信のみによる介入とした(図1).そのため,実施場所や実施時間は指定せず,自由に選択できるようにして実施した.

本研究のフローチャート
期間初日に送信した1回目のメールは,以下に記す3部構成とし,質問紙の順番通りに回答するよう教示した.
(1) 困難事例の記述(介入群・対照群)現在,訪問看護師として接している利用者との関わりの中で困難に感じている事例について,「ここ数ヶ月の間に利用者の支援にあたり悩んだり,または大変さや困難さを感じたりした事例について差し支えない範囲でお答えください」と尋ね,その概要について支障のない範囲で記述するよう依頼した.
(2) 訪問看護師としての職務継続意向(介入群・対照群)山口・百瀬(2008)が開発した訪問看護師の職業的アイデンティティ尺度における,訪問看護師選択への自信における「私は訪問看護を生涯続けようと思っている」という項目に関して,介入期間として設定した2週間における変化を捉えられるようにする目的で,長期的および永続的なイメージを伴う「生涯」という表現を,「これからも」という表現に変更し,「私は訪問看護職をこれからも続けようと思っている」として用いた.そして7件法(1.まったくあてはまらない-7.非常にあてはまる)で尋ねた.なお,本研究では,同一の研究協力者に繰り返し測定を行うという研究デザインの性質上,測定項目数を最小限にするために,職務継続意向については上記の1項目で尋ねることとした.
(3) 想起された困難な事例への,「過去を踏まえた継承的振り返り」「未来に向けた継承的捉え直し」「当該事例から得られたものの意識化」の介入(介入群のみ)まず,想起された困難な事例に対し,「過去を踏まえた継承的振り返り」「未来に向けた継承的捉え直し」「当該事例から得られたものの意識化」の3点を促す目的で,「あなたが,訪問看護師として,いままでに関わってきた様々な利用者との経験の中で,ご記入頂いた事例に活かせることがあるとしたら,それはどのようなことでしょうか(過去を踏まえ得た継承的振り返り)」,「ご記入いただいた事例が,これからのあなたが関わる利用者に活かされていくとしたら,あるいはあなたの看護に受け継がれるものがあるとしたら,それはどのようなものでしょうか(未来に向けた継承的捉え直し)」,「ご記入頂いた利用者との関わりの中で,あなた自身が何かを受け取っていると感じることがあるとしたらそれはどのようなものでしょうか(当該事例から得られたものの意識化)」と教示し,自由記述形式での回答を求めた.つぎに,回答終了後も利用者との関わりの中で継続して意識化を促す目的で,「日々の利用者との関わりの中で,このような視点で捉え直してみていただけたら幸いです」と記述した.
2) 2回目の送信内容1回目のメールへの返信が確認されてから2週間後に,2回目のメールを送信した.2回目のメールは介入群,対照群ともに同じ内容とした.なお2週間という期間は,本研究と同様にネガティブな感情体験に対して新たな視点をもって捉え直すという介入を行った研究である遠藤・湯川(2018)において,介入による効果が2週間後に示されていることを参照して設定した.
(1) 困難事例の変化の確認「過去を踏まえた継承的振り返り」「未来に向けた継承的捉え直し」に関する介入操作の有効性の確認として,1回目で回答した困難な事例に対する捉え方や接し方への変化を確認する目的で,「お答えいただいた事例について,その後何か変化がありましたでしょうか」と尋ね,自由記述形式で回答を求めた.
(2) 訪問看護師としての職務継続意向1回目の送信内容と同様に,職務継続意向として「私は訪問看護職をこれからも続けようと思っている」という項目を用い,これを7件法(1.まったくあてはまらない-7.非常にあてはまる)で尋ねた.
(3) 「当該事例から得られたもの」の記述「当該事例から得られたものの意識化」に関する介入操作の有効性の確認として,同内容を尋ねている先行研究である平野・藤(2018)に基づき「ご記入いただいた事例における利用者への支援を通して,あなた自身が何かを受け取っているものがあるとしたら,それはどのようなものでしょうか」と尋ね,自由記述形式で回答を求めた.
(4) 「訪問看護職務を通した支援経験全般でのケアリングの相互性の実感」の記述「訪問看護という職務を通した支援経験全般に関するケアリングの相互性の実感」について測定する目的で,「訪問看護経験全般において,利用者への支援を通して,あなた自身が何かを受け取っているものがあるとしたら,それはどのようなものでしょうか」と尋ね,自由記述形式で回答を求めた.期間終了後にはデブリーフィングとして,研究協力者に本研究の目的や介入の内容と効果を提示した.また,謝礼を研究協力者のアドレスに送付した.
5. 介入効果の測定項目 1) 訪問看護師としての職務継続意向訪問看護師としての職務継続意向を測定する項目の信頼性・妥当性の観点から御厩(2015)において「今後も訪問看護の仕事を続けていきたいと思う」という1項目が用いられていたことを踏まえ,本研究でも同様に,山口・百瀬(2008)が開発した訪問看護師の職業的アイデンティティ尺度の,訪問看護師選択への自信における「私は訪問看護を生涯続けようと思っている」という項目に関して,「私は訪問看護職をこれからも続けようと思っている」と一部修正して用い,7件法(1.まったくあてはまらない-7.非常にあてはまる)で尋ねた.このスコアを訪問看護師としての職務継続意向として分析に用いた.
2) 訪問看護経験全般でのケアリングの相互性の実感2回目のメール内で尋ねた「訪問看護経験全般において,利用者への支援を通して,あなた自身が何かを受け取っているもの」という設問への回答内容を精査し,その記述の中に,平野・藤(2018)において示されているケアリングの相互性に関する各カテゴリと対応する記述がいくつあるかを計数した.その際,一名の協力者が複数のカテゴリに該当する記述を行っている場合は,それぞれを個別のものとして分けて計数した.また,複数の記述があったとしても,それが同じカテゴリに該当する場合には,それらを個別のものとして分けずに1記述として計数した.この処理により,値が大きいほどより多くの側面にわたってケアリングの相互性が実感されたことを示す指標として分析に用いた.
6. 分析方法プライマリアウトカム(訪問看護師としての職務継続意向)に関する分析は,群(介入群,対照群)を参加者間要因,回答時期(プレ,ポスト)を参加者内要因とする2要因混合計画分散分析を行い,交互作用が有意となるかを確認した.有意水準は5%と設定した.また有意であった場合には,Bonferroni法による単純主効果検定を行った.
また訪問看護経験全般でのケアリングの相互性の実感については,介入群においてより多くの側面にわたってケアリングの相互性が実感されるようになったかどうかを検証する目的で,先述の手続きを経て算出された値を従属変数として,介入群と対照群の間でWelchのt検定を行い比較した.
なお,これらの統計的解析にはSPSS Ver. 27を使用した.
研究協力者の基本属性を表1に示す.なお,各属性について群間比較を行ったが,有意差はなかった.
| 項目 | 介入群(n = 14) | 対照群(n = 14) | t値 | ϕ値 | p値 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 年齢(歳) | mean(SD) | 46.29(7.75) | 47.00(5.36) | 0.26 | .21 | |
| 看護師経験期間(ヶ月) | mean(SD) | 216.71(117.80) | 265.40(90.99) | 1.14 | .19 | |
| 訪問看護師経験期間(ヶ月) | mean(SD) | 90.93(79.33) | 125.0(77.77) | 0.85 | .99 | |
| 勤務時間(時間/週) | mean(SD) | 33.81(6.10) | 35.27(6.28) | 0.55 | .94 | |
| 性別(女性の数) | n(%) | 13(92.9) | 11(78.6) | 0.10 | .60 | |
| 勤務形態(常勤職員の数) | n(%) | 11(78.6) | 5(35.7) | 0.36 | .05 | |
| 職位(管理者の数) | n(%) | 5(35.7) | 5(35.7) | 0.08 | 1.00 | |
| 24時間緊急対応(担当者の数) | n(%) | 10(71.4) | 6(42.9) | 0.22 | .25 | |
| 訪問看護認定看護師資格(保持者の数) | n(%) | 9(64.3) | 7(50.0) | 0.07 | .70 |
脚注1:平均年齢,看護師経験年数,訪問看護師経験年数,勤務時間についてはt検定により群間比較を行い,性別,常勤職員者数,管理者数,24時間緊急対応担当者数,訪問看護認定看護師資格保持者数についてはFisher’s exact testにより比較を行った.
脚注2:%は各群ごとに算出した.
まず,プライマリアウトカムとしての職務継続意向に関する項目への評定値を従属変数とし,群ごとにプレおよびポストでの平均値(SD)を算出した結果,介入群のプレでは5.50(SD = 0.76),ポストでは5.79(SD = 0.98)であった一方,対照群のプレでは6.36(SD = 0.63),ポストでは5.79(SD = 1.05)であった(図2).次に,介入の有無を参加者間要因(介入群,対照群),回答時期(プレ,ポスト)を参加者内要因とする2要因混合計画分散分析の結果,交互作用が有意であった(F(1, 26) = 6.59, p < .05, ηp2 = .20).そこで単純主効果検定(Bonferroni法)を行った結果,対照群においてのみプレからポストにかけて得点が低下していることが示されたが(p < .05),介入群においてはそのような得点の有意な低下は見られなかった.またプレにおいてのみ,介入群と対照群の間に有意差が示された(p < .01).なお,この分析結果についてG*Powerを用いて事後の検定力分析を行った結果,検定力=.99となり,分析に際して十分なサンプルサイズが確保されていると判断された.さらに補足的分析として,介入群と対照群において,職務継続意向の得点が1回目から2回目にかけて向上した者(向上),同一であった者(変化なし),低減した者(低減)の数を計数した結果,介入群では向上が6,変化なしが5,低減が3であったのに対し,対照群では向上が0,変化なしが8,低減が6であった.そこでFisherの正確確率検定を行った結果,5%水準で有意となり,多重比較(ryan法)の結果,「向上」において介入群が含まれる割合は,「変化なし」および「低減」において介入群が含まれる割合よりも有意に高いことが示された(いずれもp < .05).

介入群と対照群における職務継続意向の推移
注:エラーバーは標準誤差を示す
続いて,介入により,訪問看護という職務を通した支援経験全般に関するケアリングの相互性の実感が促されているかを確認する目的で次の手順での分析を行った.2回目のメール内で尋ねた,これまでの訪問看護の経験を総括して,自分が,利用者から受け取ってきたものについての質問に対し,何らかの記述をしていた者の数を計数した.次にこれらの記述について,心理学を専門とする大学教員1名と,心理学を専攻しつつ訪問看護師としての勤務経験を持つ大学院生2名の合議の下で,平野・藤(2018)における「支援を通して受け取っているもの」の分類結果を参照枠として,記述された内容の抽出と分類を行った.複数の内容を記述した研究協力者もいたため,介入群では39件,対照群では17件の記述が得られた(表2).そのうえで,記述数の平均を群ごとに算出した結果,介入群は2.79(SD = 2.23),対照群は1.21(SD = 0.97)であり,Welchのt検定を行った結果,有意差が示されたとともに,Cohen(1988)における大程度の効果量が示された(t(18) = 2.42,p < .05,d = 0.92).
| カテゴリー | 実際の記述内容 | 記述数 | |
|---|---|---|---|
| 介入群 | 対照群 | ||
| 生の尊さと死の意味 | 人生の最期に家族や故郷との関係に思いを馳せる人が多く,命は繋がっていること,人はどんな苦しみの中にも希望を見出せる力のあることを利用者さんを通じて教えられている.人は自分の人生の危機において,生きる意味を問わずにはいられない存在である. | 13 | 10 |
| 人としての強さ・魅力 | 特に訪問時間が長いわけでもなく,長年訪問しているわけでもないのに,すごく魅力を感じる方がいます.たぶんその方の生き様だったり人間性だったりから来るものだと思います.そういう方とご縁を持てたこと自体,わたしの人生を豊かにしてもらっていると感じます. | 6 | 0 |
| 看護師としての感動・喜び | その時は辛い経験であっても後で役立つことがあり,関係も変化することもある.ちょっとでも笑顔を見せてくれれば嬉しくなる. | 5 | 3 |
| 看護観の新たな気づき | ターミナル期の過ごし方について,それまで「いつか生きることをあきらめる時期が必要なのかな」と思っていましたが,「最後まで前向き」というのもとても素敵だなぁと思いました | 5 | 4 |
| 周囲の温かさ | 家族との関わりの中で,互いに思いやる気持ちや家族から利用者を思う気持ちなど,直接的な言葉は聞かれなくても,感じたり慮ったりすることで何かを受け取っているように思います. | 4 | 0 |
| 今に至る人生の軌跡 | 会話やその時々の何気ない一言などから,生い立ちや生き様そのものが浮き彫りになり,それが肯定的であっても否定的であっても,その人が懸命に生きていると感じられると,何かを受け取ったような気持ちになります. | 3 | 0 |
| 利用者からの受容 | 私の母の介護や看取り体験を話して,「役に立った」と言ってもらえると,介護中は大変な思いでいっぱいでしたが,その経験を肯定できます. | 2 | 0 |
| 託された最期の思い | 看取りでエンゼルケアを行った利用者様から最期まで生き切って命のバトンを受け取った気持ちを感じました.この気持ちが次の利用者様への看取りを支える原動力になっていると実感します. | 1 | 0 |
| 合計 | 39 | 17 | |
注)一人の回答者が複数のカテゴリに該当する記述を行っている場合は,それぞれを個別のものとして分けて計数した.
本研究は,利用者への支援において,様々な困難さに直面している訪問看護師に対して「過去を踏まえた継承的振り返り」「未来に向けた継承的捉え直し」「当該事例から得られたものの意識化」の3点を促すことで,訪問看護における職務継続意向への効果について検証した.またこの介入により,訪問看護という職務を通した支援経験全般に関するケアリングの相互性の実感が促進されているかについても確認した.
その結果,上記の3点を促した介入群では職務継続意向が維持されていることが示されたが,それらを行わなかった対照群においては職務継続意向が有意に低減していたことも明らかとなった.この結果は,平野・藤(2018)において示唆された,訪問看護師が経験する心理的困難について,継承的視点からの捉え直しを行うことでケアリングの相互性が実感されるという知見と対応するものであるとともに,そうしたプロセスにより最終的に職務継続意向の維持にもつながることを新たに示したものと位置づけられる.
また,対照群における得点の推移に着目し,訪問看護領域において事例の振り返りは習慣的に行われていることも踏まえると(柴田,2014),困難な事例についてその想起のみを促し報告を求めることは,むしろ職務継続意向を低下させる可能性も示唆されたといえよう.平野・藤(2018)において,訪問看護師が利用者への支援の中で困難を感じた際には,自分の支援の仕方に対する考え方の揺らぎや,支援の結果に対する自責の念を抱きやすいことが示されている.この知見も踏まえると本研究の結果は,困難な事例をただ振り返るだけでは,むしろ考え方の揺らぎや自責の念を強めてしまう恐れがあることを示しているとも考えられる.またその可能性に基づけば,事例の振り返りを行う際には,意識的に継承的な視点からの振り返りやケアリングの相互性の実感を盛り込むことで,人材定着への一定の効果をもたらすことが本研究より示唆された.
つぎに,訪問看護において一人でケアする責任の重さ,時間的切迫感,上司からのフィードバックを受けられない・思いを伝えられない(森ら,2016),などの訪問看護の業務の特徴上,直接顔を合わせたコミュニケーションの時間が十分に取りづらいことがゆえに生じる困難さが示されている.しかし,本研究においてメールという簡便な方法でも一定の効果を得られたことは,多忙であり,直接職員同士が顔を合わせる機会が少ない訪問看護の現場においても,本研究で用いた介入が機能する可能性を示したと考えられる.
さらに,介入群では,訪問看護という職務を通した支援経験全般に関して,ケアリングの相互性がより多くの側面にわたって実感されていたことも示された.この結果をふまえれば,現在直面している困難な事例について,過去から現在,現在から未来への継承的な視点を踏まえて捉え直しつつ,その事例から得たものを意識化することで,その視点が訪問看護師としての経験全般を捉え直す際にも波及し,自身の訪問看護師としての軌跡をより多様な観点から肯定的に捉え直すことにも寄与する可能性が推察される.今後の訪問看護に関わる人材の確保・育成・定着に向けた施策を展開していく際には,ケアリングの相互性とそれを支える継承性という観点を踏まえていくことも必要と考えられる.
第一に,本研究での継承的視点での捉え直しや,ケアリングの相互性の実感を促す教示文が,妥当なものであるかを詳細に検討していく必要がある.本研究では先述した3点について介入を試みたが,回答および記述時の負担が大きかった可能性も考えられる.また,介入群の職務継続意向に関して有意な向上が示されなかった点を踏まえると,その効果をより強めていくために,一連の手続きを縮約するなどの改善も望まれる.第二に本研究では,プレ時点の職務継続意向測定において,介入群と対照群に差が生じていたが,このことも結果に影響していた可能性は否定できない.研究協力者の属性という点では両群間に顕著な違いは見られなかったが,今後もさらに検証を重ねていく必要がある.
本研究は,訪問看護師の職務継続意向を維持するために,困難な事例に直面している訪問看護師に,その困難に対して「過去を踏まえた継承的振り返り」「未来に向けた継承的捉え直し」「当該事例から得られたものの意識化」の3点を促した.結果,これらを促した介入群では,訪問看護という職務を通した支援経験全般に関するケアリングの相互性の実感がより生じ,訪問看護師としての職務継続意向が維持していることが示された.以上から,本研究で用いた介入は,訪問看護師の人材定着にも一定の寄与をもたらす可能性が示された.
付記:本研究は筆者の所属する筑波大学大学院人間総合科学研究科に提出した修士論文に加筆・修正を加えたものであり,内容の一部は第24回日本在宅ケア学会学術集会にて発表した.
謝辞:本研究にご協力くださった訪問看護師の皆様に深く感謝申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:SHは研究の着想・デザイン,データの収集・分析・解釈,原稿の作成に貢献,KFは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.