日本看護科学会誌
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資料
司法精神看護実践能力測定尺度の日本語翻訳版(FPNC-J)の開発
松浦 佳代高野 歩森 真喜子David Timmons
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2021 年 41 巻 p. 780-786

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Abstract

目的:英国およびアイルランドで開発された司法精神看護実践能力測定尺度(Forensic Psychiatric Nursing Competence scale: FPNC)日本語版(FPNC-J)の開発である.

方法:健康関連尺度の選択に関する合意に基づく指針COSMINの尺度翻訳に関する研究デザインに準じ,FPNC-J 40項目を作成した.医療観察法病棟での勤務経験を持つ看護師4名を対象にパイロット調査を行い,日本語訳の理解のしやすさ,妥当性,包括性を調査した.

結果:12項目において項目内容が理解しにくいとの指摘があり,5項目において日本の医療観察法病棟における司法精神看護実践に即していないとの意見があった.包括性に関する指摘はなかった.インタビュー結果に基づき,研究者間で協議を重ね,訳語を修正した.

結論:COSMINに準じた翻訳過程を経て,FPNC-Jの翻訳が確定した.

Translated Abstract

Objective: The aim of this study was to develop the Japanese version of the Forensic Psychiatric Nursing Competence (FPNC) scale.

Method: The original FPNC scale was developed in the UK and modified in Ireland. We translated the 40-item scale into Japanese following the procedure of the COnsensus-based Standards for the selection of health Measurement INstruments (COSMIN) guideline. We conducted a pilot test with four nurses with experience of working in the Medical Treatment and Supervision Act (MTSA) ward to assess the comprehensibility, relevance, and comprehensiveness of the items of the Japanese version of the FPNC scale.

Results: The participants pointed out difficulties of comprehensibility in 12 items and irrelevance of wording in five items. No items needed revision for comprehensiveness. Revisions to the items were discussed in accordance with the results of the focus group interview, and the Japanese version of the FPNC scale was finalized.

Conclusion: We carried out the translation process according to COSMIN, and developed the Japanese translation version of FPNC.

Ⅰ. はじめに

司法精神看護とは,犯罪被害者,触法精神障害者と家族を対象とした看護の総称である(日高ら,2003).日本の司法精神看護実践は,主に2005(平成17)年7月に施行された「心神喪失者等医療観察法(以下,医療観察法)」の下で実施されている(厚生労働省,2005a).この法律は,心神喪失または心神耗弱の状態で,殺人や放火,強盗など重大な他害行為を行った人に対して,適切な医療を提供し,社会復帰を促進することを目的とした制度である.医療観察法に基づいて設置された医療機関には指定入院医療機関と指定通院医療機関がある.指定入院医療機関(以下,医療観察法病棟)では高度なセキュリティに加え,アメニティも満たすように施設基準が定められている.一般の精神科病棟に比べて人員配置も手厚くなっている.

医療観察法の理念に基づく精神看護実践は,重大な他害行為を行った精神障害者の治療・ケアに,多職種チームの一員として取り組むことを特徴としており(厚生労働省,2005b),実践内容は「対象行為に関する話し合い・内省の深化における看護実践」や「リスクマネジメントに関する看護実践」などと多岐にわたる(松浦,2020).専門性が高い分野であるため看護人材の育成が重要であるが,これまでに医療観察法病棟の看護師の看護実践を評価するための測定尺度は作成されてこなかった.

海外では,司法精神看護実践能力を測定する尺度が開発されている(Dale, 2002Rask & Hallberg, 2000Tenkanen et al., 2011Timmons, 2010).Rask & Hallberg(2000)による尺度は,スウェーデンにおける精神科看護実践に司法精神看護に関する項目を追加し,全76項目で構成されるが,多職種チームによる治療プログラムの提供は含まれていない.Tenkanen et al.(2011)による尺度は,フィンランドのClinical Practice Guidelines on Schizophrenia(統合失調症における医療実践ガイドライン)と司法精神看護に関する文献に基づいて作成されているが,項目数が100項目以上と多い.英国のDale(2002)は,他害行為を行った精神障害者が入院する低度・中等度・高度保安病棟で働く看護師を対象としたインタビュー調査で得られた看護実践を質的に分析し45項目のnursing competence尺度を開発した.アイルランドのTimmons(2010)は,Dale(2002)の尺度を,より高度な司法精神看護実践能力が求められる高度保安病棟で働く看護師を対象とした内容に修正し,40項目版を作成した.Timmons(2010)の尺度には,日本の医療観察法の理念である「ノーマライゼーションの観点も踏まえた入院対象者の社会復帰の早期実現」「標準化された臨床データの蓄積に基づく多職種のチームによる医療提供」「プライバシー等の人権に配慮しつつ透明性の高い医療を提供」と共通する項目が多く含まれていた.医療観察法に基づく医療は,司法精神医療に早くから取り組んできた英国のシステムを主なモデルとして構築された経緯もあることから,Timmons(2010)が作成した尺度は医療観察法病棟で実施されている看護実践内容と共通点が多いと考えられた.以上の理由から,Dale(2002)が開発しTimmons(2010)が修正した司法精神看護におけるnursing competence 尺度は,日本の医療観察法病棟に勤務する看護師の司法精神看護実践能力を測定するのに適していると考えられる.

本研究においてTimmons(2010)が修正した尺度の日本語版を作成することにより,医療観察法病棟における専門性が高い看護実践の定量的な測定,司法精神看護実践能力の獲得や向上のための教育・介入の評価が可能になることが期待される.本研究の意義は,健康関連尺度の選択に関する合意に基づく指針COSMINの尺度翻訳に関する研究デザインに準じた翻訳過程の実施により尺度原版と日本語版との等価性を保ちながら,日本の司法制度や医療観察法病棟の実情を踏まえた日本語版尺度を作成することにある.

Ⅱ. 研究目的

本研究の目的は,英国で開発されアイルランドで修正された司法精神看護実践能力測定尺度(Forensic Psychiatric Nursing Competence: FPNC)の日本語版を作成することである.

Ⅲ. 研究方法

日本語版の作成に際し,原版開発者から日本語版開発の許諾を得た.日本語版の作成については,健康関連尺度の選択に関する合意に基づく指針COSMINの「COSMIN Study Design checklist for Patient-reported outcome measurement instruments Version July 2019」(Mokkink et al., 2019)に,健康関連尺度の翻訳を行う研究デザインにおける重要事項が挙げられているため,それらを満たすように研究デザインを作成した.COSMINの使用対象は健康関連の患者報告式アウトカム尺度であるが,患者以外が対象であってもCOSMINに記載された基準を踏まえることで,翻訳過程の適切な実施や尺度内容の等価性や妥当性の担保につながり,国際的な共同研究の遂行が可能となることから(稲田,2015),本研究ではCOSMINを採用した.翻訳過程の実施手順については患者報告式アウトカム尺度の翻訳のガイドラインであるISPOR(International Society for Pharmacoeconomics and Outcomes Research)タスクフォースによる報告書の尺度翻訳に関する基本指針(稲田,2015)や,COSMINの研究デザインチェックリスト日本語翻訳(加藤,2020)も参照した.

1. 日本語訳(暫定版)の作成

翻訳過程に関する研究デザインにおける重要事項(Design requirements)の1~10を参照した(Mokkink et al., 2019).実施手順は以下の3段階である.1)2名の研究者が原版を順翻訳し,翻訳内容の妥当性を協議した後,日本語版を統合した.2)逆翻訳担当者が日本語訳を英語に翻訳し,順翻訳を担当した研究者2名,原版開発者,逆翻訳担当者の3者で原版と逆翻訳の等価性を確認した.3)等価性が確認されなかった項目の訳語について研究者間で協議し,日本語訳を修正した(稲田,2015).

2. パイロット調査の実施

研究デザインにおける重要事項の11を参照しCognitive Interview(認知インタビュー)を実施した(Mokkink et al., 2019).FPNC日本語訳(暫定版)の各項目の適切性,網羅性,理解のしやすさについて確認した.

1) 研究参加者

研究参加者は,医療観察法病棟および精神科病棟で看護師として3年以上の勤務経験を持つ者で,以下のいずれかの基準に該当する者とした:①医療観察法病棟において看護管理者としての勤務経験がある者,②医療観察法病棟において精神看護専門看護師あるいは精神科認定看護師として勤務経験がある者,③司法精神看護学分野の教育あるいは研究に携わる者.研究参加者のリクルートには機縁法を採用した.研究参加者数は4~6名で「十分」であることから(Mokkink et al., 2019),リクルートする人数は4~6名以内とした.

2) 調査内容および方法

(1) 調査実施時期

2020年9月

(2) 調査方法

オンライン会議ツールを用いてフォーカスグループインタビューを約100分実施した.実施前に研究参加者には各項目の適切性,指示・項目,回答の選択肢,想起期間が理解できるかどうか(以下,理解のしやすさ)に関する評価表への記載を依頼した.評価表はCOSMIN methodology for assessing the content validity of PROMs User manual version1.0(Terwee et al., 2018)のTen criteria for good content validity(良い内容的妥当性のための基準10)に記載された項目を用いて研究者が作成した.インタビューではFPNC日本語訳(暫定版)の各項目の適切性,網羅性,理解のしやすさについて尋ねた.インタビュアーは豊富なインタビュー経験を有する研究者2名が担当した.

(3) データ分析方法

インタビュー内容の逐語録を作成後,FPNC日本語訳(暫定版)の分かりにくい点や修正の提案について述べた箇所を内容別にまとめた.

(4) 倫理的配慮

研究参加候補者に研究の主旨,参加の任意性,個人情報の保護などについて文書で説明を行った.同意書の提出をもって研究参加に同意したと判断した.本研究は国立研究開発法人国立国際医療研究センター倫理審査委員会において承認を受けた(承認番号:NCGM-G-003522-00)

3. 日本語訳(確定版)の作成

パイロット調査結果をもとに日本語訳(暫定版)を検討し日本語訳を確定した.

Ⅳ. 結果

1. 日本語訳(暫定版)の作成

順翻訳,逆翻訳の過程で協議された主な点は,3つあった.1点目が医療観察法に基づく医療で使われる用語を用いるべきかどうかであった.項目12の「risk to themselves and others」を「自分自身や他者へのリスクがある」ではなく「自傷他害」に,「to manage their offending」を「自分の触法行為に対処する」ではなく「触法行為についての振り返り」や「内省」と翻訳するかどうか等が協議された.2点目は複数の項目(12, 13, 17)に含まれる「manage」の翻訳をどう使い分けるかであった.「管理する」と翻訳すると保安処分のニュアンスが含まれるため日本の実情にそぐわないとの意見が出た.これらの意見について原版開発者に報告し,日本の実情に沿って翻訳してよいとの了承を得た.3点目は項目31「Contribute to the protection of individuals from abuse」の「abuse」にの翻訳についてであった.「abuse」には「虐待」という意味があるが,病棟内で虐待が生じるとは考えにくいため「虐待」と翻訳するのは妥当なのか疑問が生じた.原版開発者から被虐待経験や機能不全な人間関係がもたらす脆弱性を有する対象者の入院施設では潜在的に虐待のリスクがあるという説明を受け,項目31の「abuse」は「虐待」のままとした.

2. パイロット調査

1) 研究参加者の属性

研究参加者の属性を表1に示す.4名中2名は同施設からの参加であった.

表1  研究参加者の概要
ID 1 2 3 4
年齢 40代後半 30代前半 40代後半 40代前半
性別 女性 女性 男性 男性
看護教育歴 大学院 大学 大学院 専門学校
看護師経験年数 19年 10年6か月 13年6か月 18年5か月
精神科病棟勤務年数(医療観察法病棟を除く) 5年 5年 6年 9年
医療観察法病棟勤務年数 5年 3年 7年6か月 6年
医療観察法病棟勤務時の職位 スタッフ 副看護師長 看護師長 看護師長
専門資格の有無と内容 精神看護専門看護師 なし なし なし

2) フォーカスグループインタビューの結果

研究参加者から指摘があった主な項目と発言内容を表2に示す.

表2  理解のしやすさ,妥当性に関して研究参加者から指摘があったおもな項目と発言内容
評価基準 項目(日本語訳暫定版) 発言内容(一部抜粋)
理解のしやすさ 4.他者が対策を講じられるように対象者のニーズに関する専門家のアセスメントを提供する 他者とはどういうことか(ID1),他者を「他の職種」と変えてはどうか(ID3)
5.対象者のための看護ケアのアセスメント,計画と評価を手助けする 行為を実施する主体が不明確(項目9については「特定の治療的介入」が指す内容も不明確)(全員)
9.特定の治療的介入の実施を手助けする
12.自傷他害のリスクがある対象者が行動の境界を認識し対処できるようにする 対象者が何を認識するのかが分かりづらい(ID1)
6.社会的に容認されない行動を対象者が認識し対処できるように,特定の治療的介入を計画する 「特定の治療的介入」の内容が疾患や心理教育に関連して対処行動を学ぶことなのか分かりづらい(ID1),看護師による個別的なアプローチのことなのか(ID4)
8.対象者が自分の行動を管理することができるように特定の治療的介入を実施する
13.対象者が自分の触法行為と向き合うことができるように特定の治療的介入を実施する
17.対象者を管理するための退院支援計画を作成し,見直す 処遇実施計画書を指しているならば作成者は社会復帰調整官なので齟齬が生じるかもしれない(ID1)
19.対象者の就労のための交渉と就労支援を行う 精神保健福祉士が担うことが多いが看護師も実施していないわけではない.交渉の内容の説明があると良いかもしれない(ID2)
20.集団療法に効果的な身体的,社会的,情緒的環境を提供することに貢献する 集団療法を急にここだけで用いると,何か違うことを言ってるのかという感じがする(ID4)
25.対象者が自分の喪失に順応し,対処できるようにする 逮捕されてから対象者にはいろいろな事が起こるので,広く捉えられるよう「あらゆる」と入れてはどうか(ID4)
26.対象者のパートナー,親類,友人が対象者の喪失に順応し,対処できるようにする 「対象者の喪失」との言葉が読み取りづらくしている.「対象行為に伴う喪失」と書いたほうが分かりやすい(ID1)
31.虐待から対象者を保護することに貢献する 誰からの虐待か(ID3),対象者のトラウマ体験とか,あらゆることを配慮してケアをする意味と受け取った(ID1),地域調整をするに当たって,その家族など環境要因という意味合いで捉えていた(ID4)
妥当性 15.対象者向けの基本的な(身体的)健康管理プログラムの開発と評価を行う プログラムの開発は看護師1人ではなかなかできない,やりにくい(ID2),評価するためには開発だけじゃなく,自分でも実践できることが必要なので『実践』という言葉が入るといい(ID4)
17.対象者を管理するための退院支援計画を作成し,見直す 対象者を管理するための,というのが引っかかった(ID1),法律の違いがあるかと思うので,表現は直したほうがいい(ID4)
24.隔離環境下でも対象者が関わりを維持できるようにする 隔離だけではなく「行動制限下」とした方がいいのではないか(ID4)
28.ピアサポートネットワークの設立と運営に貢献する ピアサポートネットワークは個人的にはすごく必要だと思っているが,日本ではまだあまり行われていないんじゃないか(ID1),これは大き過ぎて私たちの役割ではないと思われない形で表現できないか(ID4)
29.保安状態にある対象者とコミュニティとの間に境界(保安)を設けて維持する 保安状態という表現は「入院中」のほうが良いのではないか(全員)

(1) 理解のしやすさ

研究参加者に「各項目を読んで,文章の意味が理解しにくかった点」を尋ねたところ12項目について指摘や提案がなされた.「他者」が示す対象が不明確(項目4),行為を実施する主体が不明確(項目5,9),対象者が何を認識するのかが分かりづらい(項目12)のほか,「特定の治療的介入」(項目6,8,9,13)については「疾患や心理教育に関連して対処行動を学ぶことなのか分かりづらい(ID1)」,「看護師による個別的なアプローチを取っているのか」(ID4)との疑問が挙がった.項目31の「虐待」という表現については「対象者のトラウマ体験とか,あらゆることを配慮してケアをする意味と受け取った」(ID1),「地域調整をするに当たって,その家族など環境要因という意味合いで捉えていた」(ID4)と,参加者によって理解内容に違いがあった.

(2) 適切性

研究参加者には「医療観察法病棟における看護実践には当てはまらない点」を尋ね,主に5項目について検討した.日本の医療観察法は保安処分ではないことから,項目17の「管理する」を別の表現に変えてはどうか,項目29の「保安状態」は「入院中」に修正してはどうかとの提案があった.

(3) 網羅性

研究参加者に「医療観察法病棟における看護実践のうち,項目に含まれていなかった内容」を尋ねたところ,網羅性に関する指摘はなかった.

3. 日本語訳(確定版)の作成

パイロット調査結果をもとに研究者間で協議し,日本語訳(暫定版)を修正した.原版開発者の意図を損なわないこと,本尺度の使用を想定する医療観察法病棟に勤務する看護師の想起や判断を阻害しないことを念頭に置いて修正した.理解のしやすさに関しては,項目4,5,6,9に「病棟スタッフが」や「病棟スタッフによる」と行為の主体を追加したほか,項目12の「行動の境界」を「リスクが高まる行動」,項目17の「退院支援計画」を「退院に関する計画」,項目20の「集団療法」を「対象者集団への治療的アプローチ」,項目25と26の「喪失」を「対象行為に伴って生じた喪失」,項目31の「虐待」を「虐待的な環境」のように修正した.項目6,8,13の「特定の治療的介入」には修正を加えず,回答者の想起や判断に委ねることとした.適切性に関しては,項目17の「管理」を「サポート」,項目29「保安状態にある」を「入院中の」に修正した.最後に簡潔で日常的な表現に近づくように微修正を行った.修正後,原版開発者に日本の司法精神医療の実情に照らし,項目を部分的に修正したことを説明し,原版と日本語訳(暫定版)との等価性の確認を依頼した.原版開発者から等価であるとの確認が得られたため日本語版を確定した.表3にFPNC日本語訳確定版を示す.

表3  FPNC日本語訳確定版
番号 項目(FPNC日本語訳確定版)
1. 人々が公平であること,多様であること,人間として当然持っている権利を推進させる
2. 効果的なコミュニケーションや人間関係を促進させる
3. 対象者の全体的なニーズやリスクを見極めるために,対象者をアセスメントする
4. 病棟スタッフが対策を講じられるように,対象者のニーズに関する,専門家としてのアセスメントを提供する
5. 病棟スタッフによる対象者のアセスメント,看護ケアの計画や評価をサポートする
6. 対象者が社会的に容認されない行動を認識し対処できるような,特定の治療的介入を計画する
7. 対象者向けの多職種チームによる治療プログラムに貢献する
8. 対象者が自分の行動を管理できるようになるための,特定の治療的介入を実施する
9. 病棟スタッフによる,特定の治療的介入の実施を手助けする
10. 対象者が自立して生活するためのスキルを身につけ,維持することを可能にする
11. 対象者が他者と有意義な関係を築くことを可能にする
12. 自傷他害のリスクがある対象者が,リスクが高まる行動の境界を認識し,対処できるようにする
13. 対象者が自分の対象行為と向き合うことができるようになるための,特定の治療的介入を実施する
14. 身体面の健康管理に対する対象者のニーズをアセスメントする
15. 対象者の身体面の健康管理に関するプログラムの開発や実践,評価を行う
16. 対象者自身が自分の健康や健康増進に影響する問題に対処できるように関わる
17. 対象者をサポートするための退院支援に関する計画を作成し,見直す
18. コミュニティでの生活全般に関する対象者のニーズに働きかける
19. 対象者の就労のための交渉と就労支援を行う
20. 対象者集団への治療的アプローチに効果的な身体的,社会的,情緒的環境の提供に貢献する
21. 治療目標を強固なものにするために,対象者との関係を構築し,維持する
22. 対象者とのコミュニケーションや関係性が破綻している状況において,関係者に及ぶリスクを下げるために身体的な介入を行う
23. 人との関わりが困難,または困難な可能性がある対象者をサポートする
24. 隔離された環境下でも,対象者が関わりを維持できるようにする
25. 対象者が,対象行為に伴って生じた喪失に順応し,対処できるようにする
26. 対象者のパートナーや親類,友人が,対象行為に伴って生じた喪失に順応し,対処できるようにする
27. 対象行為や行動に関わらず,ひとりの人として対象者と接する
28. ピアサポートネットワークの設立と運営に貢献する
29. 入院中の対象者とコミュニティとの間に境界を設けて維持する
30. 対象者を対象者自身や他者から守る(特別な観察や検査など)
31. 虐待的な環境から対象者を守ることに貢献する
32. 医療観察法病棟内や病棟外で対象者に付き添う
33. 対応の優先度が高い対象者を担当している看護師の仕事量を管理する
34. 仕事の目的に合わせてチームを導き支援する
35. 病棟スタッフの主体性や安全なパーソナルスペースの保持を支援する
36. ストレスが高まっている状態にある病棟スタッフの相談に乗り支援する(臨床的スーパーヴィジョン)
37. 全ての専門職種の人々の健康,職場環境の安全と保安を促進,監督,維持する
38. 多職種協働において,知識と実践の発展に貢献する
39. 役割の中で自分自身を成長させる
40. 他者の成長に貢献する

Ⅴ. 考察

FPNC日本語版の開発について,項目の理解のしやすさ,適切性,網羅性の3つの視点から考察する.

英国の司法精神看護実践における治療共同体の理念や方法論は日本の医療観察法病棟での医療・看護の理念と共通点が多いことから,FPNCの項目は日本の医療観察法病棟看護師にも理解しやすいと推測していたが,パイロット調査では複数の指摘があった.尺度原版と尺度翻訳版との間の等価性の確保と,項目の理解のしやすさとの両立は今後の課題と考えられる.医療観察法病棟の規模は施設によって異なり(厚生労働省,2020),看護師の人員配置や提供される治療プログラムにも違いがあると報告されている(美濃ら,2011).研究参加者により項目から想起される看護実践内容が様々であったことは,医療観察法病棟での勤務年数だけではなく施設規模の違いが影響したと考えられる.本尺度を使用する際には調査対象者の勤務経験年数だけではなく,所属施設の規模も把握する必要がある.

妥当性に関しては「保安状態」や対象者を「管理する」といった,保安処分を想起させる語について指摘があった.保安処分とは「犯罪者の将来の危険性に対する社会防衛のために,その犯罪者を一定の施設に収容し,又は収容しないで矯正,教育,治療,改善等を行う処分で,刑罰に代替し,又は刑罰を補充するもの」(法令用語研究会,2020)を指す.医療観察法における医療・看護の理念は,公共の安全や再犯リスクに関することではなく本人の社会復帰に重点が置かれており(厚生労働省,2005b),研究参加者らの指摘は医療観察法成立の歴史的背景を踏まえた日本特有の内容かつ適切なものであり,指摘を踏まえて日本の実情に沿った項目の表現に修正することができた.

包括性に関して研究参加者からの指摘はなかった.本尺度の包括性を検討するための資料として,入院処遇ガイドライン(厚生労働省,2005b)に記載された治療ステージ別の看護業務を検討したが,作成過程が明らかにされていないため使用しなかった.これまで日本国内に本尺度に類似した尺度は作成されておらず,研究参加者が本尺度の包括性を検討することには限界があった.今回の結果からは包括性が確保されたとは判断できない.今後,日本の医療観察法病棟における看護実践内容を明確にしたうえで包括性を検討する必要がある.

Ⅵ. 研究の限界と今後の課題

本研究ではCOSMINの研究デザインにおける重要事項に準じて尺度日本語版を作成した.パイロット調査では尺度日本語訳(暫定版)の理解のしやすさや妥当性は検証できたが,包括性の検証は十分ではないため,さらに研究を行う必要がある.今後は医療観察法病棟の看護師を対象とした大規模な調査を実施し,FPNC日本語版の信頼性および構造的妥当性を検証する必要がある.異文化間妥当性については,原版開発者に日本の実情に沿って尺度項目を翻訳して良いとの了承を得たが,今後,両方の国での調査をもとに確認的因子分析等を行い,翻訳した尺度の項目の性能が,原版の尺度の項目の性能を十分に反映しているかどうかの検討が必要である.

謝辞:調査にご協力頂きました皆様に心よりお礼申し上げます.本研究は,令和2年度国立看護大学校教育研究費,令和2年度政策医療振興財団研究助成事業の助成を受けて実施した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:KMは研究の着想及びデザイン,翻訳検討,データ収集と分析,草稿の作成;ATは翻訳検討,研究プロセス全体への助言;MMはデータ収集と分析に貢献;DTは尺度原版の使用許諾,翻訳検討に貢献.著者全員が最終原稿を読み,承認した.

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