日本看護科学会誌
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原著
医療ニーズの高い小児に対する訪問看護師の在宅ケア実践における困難
村田 優子, 岩脇 陽子, 滝下 幸栄, 江本 厚子
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2021 年 41 巻 p. 915-923

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Abstract

本研究は,医療ニーズの高い小児に対する訪問看護師の在宅ケア実践における困難を明らかにし,訪問看護師への支援のあり方について検討することを目的とした.京都府内の小児訪問看護師33名を対象に半構造的面接法を用いて調査した.質的記述的研究の方法を用い,医療ニーズの高い小児に対する訪問看護師の在宅ケア実践における困難として,【単独での看護ケアの実践】【適切な時期の受診の促進】【予測できない急変時の対応】【小児特有の知識やスキルの体得】【母親との関係づくり】【多職種との連携の促進】の6つのカテゴリーが抽出された.

医療ニーズの高い小児の訪問看護師に対する支援として,在宅ケア実践における判断力,多職種連携に対するコーディネート力,および母親との関係づくりに対する力を身に付けるための教育支援が必要である.

Translated Abstract

This study aimed to identify the difficulties faced by visiting nurses providing home care for children with high medical needs, and to examine ways to provide support to visiting nurses. Semistructured interviews were conducted to survey 33 visiting nurses providing services for children in the Kyoto Prefecture. Using qualitative descriptive research methods, six categories of difficulties in home care practice by home care nurses for children with high medical needs were identified: [single-handedly practicing nursing care], [encouraging to seek medical care in an appropriate period], [responding to unpredictable emergencies], [acquiring knowledge and skills specific to pediatric care], [building relationships with the mothers], and [promoting interprofessional collaboration]. As support for visiting nurses of children with high medical needs, educational support is needed to help them acquire judgmental skills in home care practice, coordination skills for interprofessional collaboration, and skills for building relationships with mothers.

Ⅰ. 緒言

医療技術の進歩に伴い,複雑な先天性疾患を有する小児を救命できるようになり,退院後も人工呼吸器の医療機器の装着や痰の吸引などの医療ニーズの高い小児が増加している(前田,2018).全国の医療的ケア児は,2005年に9,403人が2015年には17,078人と10年間で2倍に増加しており,人工呼吸器使用例数は全国平均18.0%である(奈倉・田村,2016).NICU(Neonatal Intensive Care Unit)からの退院後だけでなく,PICU(Pediatric Intensive Care Unit)で急性期の治療を受けた小児も増えてきており(厚生労働省,2016),医療依存度が上がっている.しかし,小児を取り巻く施設機関間および職種間の調整は進んでおらず,診療所や訪問看護ステーションなどの医療・福祉資源が乏しい(田村,2018).わが国では医療的ケア児に対する取り組みは厚生労働省が担い,医政局は在宅医療の観点,障害保健福祉部は重症心身障害児の観点から医療的ケア児に対する施策を行ってきた.2016年に児童福祉法の一部が改正され,地方自治体は,医療的ケア児が適切な支援を受けられるよう,各関係機関との連携体制の整備に努めなければならないとされた(奈倉,2018).

訪問看護は,1992年に老人訪問看護ステーションから始まり,1994年からは障害児に対する訪問看護制度が実施されている.小児の訪問看護を受け入れる意向がある訪問看護ステーションは多いものの,マンパワー不足や(松澤ら,2015),知識・技術の不足を理由に(生田・宮里,2013),実際に受け入れている訪問看護ステーションは全国平均28.5%である(西ら,2015).

京都府においても,2018年に第1期京都府障害児福祉計画及び京都府保健医療計画が策定され,医師・看護師の人材育成並びに医療機関や保健機関などへの連携支援事業が進められている(京都府,2018).2019年の京都府内の医療的ケア児実数調査によると,京都市内149人,京都市以外の京都府内は89人で合計238人であり,京都府全域に均一に分布していた.その医療的ケアの内容は,喀痰吸引177人,酸素療法144人,気管切開78人,経鼻経管などの栄養療法171人,人工呼吸器79人であった.人工呼吸器使用例数は全体の33%を占め,全国平均の18.0%を上回っている(京都府医師会,2019).

しかし,京都府内の小児を受け入れている訪問看護ステーション数の割合は,2015年は27.3%で,全国平均28.5%に比べてやや少ないが(西ら,2015),2021年では36.5%であり(京都府訪問看護ステーション協議会,2021),医療依存度が上がっているにもかかわらず,小児を受け入れている訪問看護ステーション数の増加率は緩徐である.

また,京都府看護協会の調査では,78.0%の訪問看護ステーションが小児を受け入れるためのスキルがないと答えており(島田,2019),京都府内は,医療ニーズの高い小児に対する訪問看護師の困難が高い地域であることが推測できる.

小児の緊急受診や入院を減少させるには,何度も繰り返し訪問看護を行い(Kilburn & Cannon, 2017),迅速に判断し,ケアが実施されることが重要であり(Mosquera et al., 2014),確実な観察とアセスメントに基づき,ひとりで判断をする場面に遭遇することが多い.特に小児は成人に比べて疾患や症状に個別性があることから,小児の訪問看護師は様々な困難を抱きながらケアにあたっている.先行研究でも,小児の訪問看護師は自信を持てず苦悩しており(生田,2015),経験不足や知識不足という課題を抱えているため,多職種で連携して支援する必要があることが指摘されている(大西・石田,2019).

訪問看護師の困難が高い地域において,その内容を明らかにし,困難に対する支援のあり方について示唆を得ることができれば,訪問看護師の困難が解消され,訪問看護ステーション数の底上げが期待できる.ひいては,医療ニーズの高い小児とその家族が安心して在宅生活を送る一助になると考える.

本研究では,医療ニーズの高い小児に対する訪問看護師の在宅ケア実践における困難を明らかにし,訪問看護師への支援のあり方について検討することを目的とした.

Ⅱ. 用語の定義

医療ニーズの高い小児:医療的ケア児は,「生きていくために日常的な医療的ケアと医療機器が必要な児で,気管切開部の管理,人工呼吸器の管理,吸引,在宅酸素療法,胃瘻・腸瘻・胃管からの経管栄養,中心静脈栄養等を受けている児(中村,2020)」と定義されており,本研究における医療ニーズの高い小児についても,この定義を用いる.

在宅ケア実践:在宅ケアは,「疾病や生活機能障害を持つ人と,家族の暮らしの場すなわち地域において専門職や非専門職の連携による複合的なケア,およびケアサービスを提供することにより,質の高い自立した生活を維持することや改善を図ること」と定義されている(一般社団法人日本在宅ケア学会,2021).本研究における在宅ケア実践とは,「医療ニーズの高い小児と家族に対して,訪問看護師が在宅において実践する看護ケア」とする.

Ⅲ. 研究方法

1. 研究デザイン

本研究は,質的記述的研究を用いた.小児は成人に比べて疾患や症状の個別性が多岐に渡り,様々な医療的ケアに依存していることから,訪問看護師の在宅ケア実践時の困難の内容は,それぞれの経験からの具体的な記述が必要となる.それらを客観的かつ体系的に分析し,推論を実証するために質的記述的研究の方法を用いた.

2. 対象者の選定

対象者は,京都府内の小児を受け入れている訪問看護ステーションに勤務する訪問看護師約30名とした.医療ニーズの高い小児は,京都府全域に偏り無く分布していることから(京都府医師会,2019),母集団の特性をより確実に反映させるために,京都府内の行政区18か所それぞれの,小児を受け入れている訪問看護ステーション1か所ずつに対して,訪問看護師1~2名の選出を依頼した.また本研究は,小児の訪問看護師の困難を明らかにすることが目的であるため,経験年数の限定は行わないこととした.

3. 調査期間

2019年8月~2019年12月

4. データ収集方法

調査方法は,インタビューガイドに基づく半構造的面接法とし,対象者の同意を得てICレコーダーに録音した.インタビューの所要時間は30分~40分程度とした.インタビュー内容は,医療ニーズの高い小児に対するケアの内容と,看護ケア実践時に困っていることについて自由に語ってもらった.対象者の発言に対して肯定や否定はせず,意見を述べることを避け,受容的な態度で傾聴を行った.

5. データ分析方法

Mayringの質的内容分析の要約的内容分析および説明的内容分析の手法を参考に分析した(フリック,2007/2011).要約的内容分析は,文章は手順として,データの言い換えがなされる.重要でない文章や同じ意味の言い換えを削除したり,同じ意味の言い換えをたばねて要約したりする.類似する内容を削除する手法と,内容をより高次元の抽象レベルにまとめる手法との組み合わせである.説明的内容分析は,焦点がぼやけて曖昧な文章や矛盾する文章を,その文章に関する追加の発言や,外側の情報を用いて明らかにする手法である.インタビュー内容から意味を損なわないように逐語録を作成し,医療ニーズの高い小児に対する看護ケア実践時に困っていることについて,文脈を損なわないように抽出して,言い換えをたばねて要約し,分析単位とした.次にそれらを抽象化のレベルへと一般化し,分析単位の中で意味が同じもの,内容がないと思われる言い換えを削除し,コード化単位を決定した.続いて意味内容が類似するものをまとめてサブカテゴリー,カテゴリーに分類した.なお,データのタイプや形式的な構造を分析する手法である構造化内容分析については,本研究の目的に対して適切ではないと判断したため,行わなかった.信頼性と妥当性の確保は,共同研究者間でコード,サブカテゴリー,カテゴリーの抽出プロセスにおいて,最終的に共同研究者間で全ての一致を認めるまで討論を重ねた.

6. 倫理的配慮

本研究は,京都府立医科大学医学倫理審査委員会の承認を受けて実施した(承認番号:ERB-E-422-1).京都府内の小児を受け入れている訪問看護ステーションの施設管理者に対して,研究の趣旨と実施方法について文書と口頭で説明をし,同意を得た施設管理者に研究対象の訪問看護師の選出を依頼した.研究対象者に対して研究の趣旨と実施方法について文書と口頭で説明をした.インタビューの日時と場所については研究対象者と個別に相談し,場所は事前に施設管理者と調整し,プライバシーが保護できるよう配慮した.また,研究参加は自由意志であること,不利益を受けることなく同意の撤回が可能であること,匿名性の保持,データの厳重管理,結果の公表について文書および口頭で説明し,文書で同意を得た上で実施した.

Ⅳ. 結果

1. 研究参加者の概要(表1)

研究参加者は京都府内(京都市19名,京都市以外14名)に在住する訪問看護師33名であった.性別は全員女性で,平均年齢は46.0(SD = 9.4)歳であった.看護師経験年数5年以上は京都市95%,京都市以外100%であったが,臨床での小児看護経験なしは,京都市63%,京都市以外50%であった.また訪問看護師経験年数5年以上は京都市47%,京都市以外54%であり,小児訪問看護師経験年数5年以上は京都市32%,京都市以外50%であった.

表1  対象者の概要
経験年数 年数区分 京都市内
(n = 19)
京都市以外
(n = 14)
人 % 人 %
看護師 1年未満 0 0.0 0 0.0
1~4年 1 5.0 0 0.0
5~9年 2 11.0 5 36.0
10年以上 16 84.0 9 64.0
小児看護師 なし 12 63.0 7 50.0
1年未満 0 0.0 0 0.0
1~4年 3 16.0 5 36.0
5~9年 4 21.0 2 14.0
10年以上 0 0.0 0 0.0
訪問看護師 なし 0 0.0 0 0.0
1年未満 2 11.0 1 5.0
1~4年 8 42.0 5 36.0
5~9年 4 21.0 2 11.0
10年以上 5 26.0 6 43.0
小児訪問看護師 なし 0 0.0 0 0.0
1年未満 3 16.0 2 14.0
1~4年 10 52.0 5 36.0
5~9年 3 16.0 2 14.0
10年以上 3 16.0 5 36.0

2. 医療ニーズの高い小児に対する訪問看護師の在宅ケア実践における困難(表2)

医療ニーズの高い小児に対する訪問看護師の在宅ケア実践の困難として,表2に示すように,【単独での看護ケアの実践】【適切な時期の受診の促進】【予測できない急変時の対応】【小児特有の知識やスキルの体得】【母親との関係づくり】【多職種との連携の促進】の6つのカテゴリーおよび15のサブカテゴリー,79のコードが抽出された.以下に,カテゴリーは【 】,サブカテゴリ―は[ ],コードは〈 〉で示す.

表2  医療ニーズの高い小児に対する訪問看護師の在宅ケア実践における困難
カテゴリー サブカテゴリー コード
単独での看護ケアの実践 上司や同僚に相談する体制とタイミング 一人で判断ができないため,急を要する時でも上司や同僚に相談する時間が必要になる.
その時かもう少し後か,上司や同僚への相談のタイミングが難しい.
上司や先輩にもっと相談したほうがよいと指摘を受ける.
単独でケアを行うことへの不安 一人でケアを実施する際に判断や対応に迷うことがある.
家族が不在の中で一人で判断をしながら入浴介助をしなければならないことが不安.
急変時は,アセスメントをする時間がない中で一人で判断をしなければならない.
医師から様子を見てよいと指示があったとしても,家族が心配するので何とかしなければと焦る.
医師不在の中でケアを実践する際は,常時不安が伴う.
受診の最終判断を母親から求められることでストレスを感じる.
適切な時期の受診の促進 受診を促す時期の見極め きょうだいを預けることができない場合,受診を勧めることをためらってしまう.
受診を促すべきかどうか判断に迷っているうちに,児が重症化してしまう.
受診時に人工呼吸器などの持参物品が多く,誘導を戸惑っているうちに受診行動が遅れてしまう.
症状や家族背景などについて考えているうちに,受診のタイミングを逃してしまいそうになる.
受診の同意を得るための説明 明らかに受診が必要な状態であるが,医師からの指示を満たしていない場合の説得が難しい.
受診の必要性を説明するが,同意を得ることができない.
受診が必要であると判断していても,理解を得るための説明に努力を要する.
予測できない急変時の対応 急変の予防と早めの対応 状態の変化が速い小児に対して早めの対応ができる自信がない.
訪問した時に,既に児の状態が悪化している場合がある.
急変対応を行うものの,後遺症を来したり亡くなってしまうことがある.
児が目の前で突然急変することがあるので怖い.
訪問看護師も親も児の状態の変化に気付かず,見過ごしてしまうことがある.
急変を来すのではないかと毎回不安を感じながら,入浴介助を実施している.
小児はいつ急変するか分からないという不安や恐怖感が常にある.
急変の場面に遭遇した経験がないため,不安を感じる.
いつもと違う状態に気づいた時の対応 いつもと違う状態に気付いた時,様子を見てよいかどうか迷う.
緊急時に電話で相談を受けるが,状態の把握が難しい.
常時観察ができないため,いつから状態が変化しているのか不明なことが多い.
熱発時に,このまま様子を見ていてよいのか早急に受診をするべきなのか判断に迷う.
小児特有の知識やスキルの体得 小児看護の知識や技術の獲得 小児特有の病態生理の理解が不足しているためアセスメントに繋ぐことができない.
小児訪問看護の技術や知識,判断力が身についていないため不安.
知識や経験が不十分であるため母親に適切なアドバイスができない.
研修で学んだことが実践に繋がらない.
小児は同じ疾患であっても個人差があり,それぞれの特徴の理解が難しい.
職場が人員不足であるため,自己研鑽の機会を持つことができない.
小児看護特有のケアの実践 小児に接した経験が少ないため,小児訪問看護に対する不安がある.
小児訪問看護の経験が浅く,分からないことが多いため十分な対応ができない.
経験が浅いため,母親から信頼を得ることができない.
小児に対する苦手意識があり,ケアの実践に対する重圧を感じる.
小児看護の経験が不足しているため,成長発達に合わせたケアが難しい.
きょうだいのケアをもっとしていく必要があるが難しい.
児との関係性づくりは難しく,時間を要する.
親とのトラブルが生じた場合の対応が難しい.
安全なケアの実践 安全な入浴介助を実施することは難しく不安である.
技術が未熟であるため,安全安楽な看護の実践が難しい.
人工呼吸器に対する知識や技術が不足しているため,安全な看護ケアに不安がある.
入浴時は児の体動が激しく,カニューレの事故抜去の危険性を感じる.
母親との関係づくり 母親の思いに寄り添うケア 母親の個別性や家族の状況に合わせたケアの工夫が難しい.
母親の思いに寄り添いケアすることは重要だが難しい.
児を大切に思う母親の気持ちが理解できるからこそ,責任を背負う負担を感じる.
ひとりで育児を抱え込んでしまう母親への対応に困る.
知識やスキルを押し付けてしまいがちになり,母親に寄り添うことができていない.
児の障害受容ができない母親への対応 これまでの生活環境や育児方針の変更を受け入れることができない母親への対応に困る.
母親が児の障害を受容することができないことが辛い.
母親が児の状態を受け入れないことにより,急変を来してしまう.
母親が傷つくかもしれないことを話してよいかどうか悩む.
母親は児の異変に気付いているが,様々な理由で受診を躊躇するため対応に困る.
母親の役に立てない辛さ 看護師ができることが少ないため,役に立てないことが辛い.
母親は児の状態やケア方法に関する知識や技術があるので,看護師ができることは少ない.
保健福祉制度についての知識が不足しているため,母親に助言ができない.
母親は急変時の対応について病院から指導を受けているため,訪問看護師は必要とされない.
母親からの信頼の獲得 母親との関係によりストレスが生じる.
家族の思いや訪問看護師との関係によりケアに支障が生じる.
母親との信頼関係が築けていない場合は,助言を受け入れてもらうことができない.
訪問看護に不満を持っている母親への対応が難しい.
多職種との連携の促進 多職種との連携不足 救急隊員に病態生理の理解が得られず緊急時の対応が遅れる.
多職種と情報共有をしたり,助言をもらうことができない.
小児を支える多職種の部門が少ないため,訪問看護ステーションの負担が大きい.
保健師との連携を図ることができず,情報共有ができない.
訪問看護師が中心となって多職種連携を図らなければならないため,負担を感じる.
小児に携わる多職種の役割や活動の内容がわからない.
児や家族が社会と繋がるために,相談支援専門員に介入してもらいたいが連携が難しい.
医療チームとのスムーズな連携 地域の訪問看護師同士の交流の機会がないため,情報交換ができない.
在宅医との連携が充実していないため,入院していた病院を受診することになってしまう.
入院していた病院の看護ケアが在宅で継続されない.
児の成長に伴い,必要となる教育機関との連携を図ることができない.
他の訪問看護ステーションの看護ケア方法を知る機会がない.
急変時に訪問看護ステーションに相談したくても連絡がつかない場合がある.
入院中のケア方法を知る機会がない.
地域の小児訪問看護ステーションの数が少ないため,十分な対応ができていない.

1) 【単独での看護ケアの実践】のカテゴリー

医師や多職種が不在の中で,〈一人でケアを実施する際に判断や対応に迷うことがある〉〈急変時は,アセスメントをする時間がない中で一人で判断をしなければならない〉といった[単独でケアを行うことへの不安]が生じていた.

そのような時に,〈その時かもう少し後か,上司や同僚への相談のタイミングが難しい〉,〈上司や先輩にもっと相談したほうがよいと指摘を受ける〉など,[上司や同僚に相談する体制とタイミング]に困難を感じていた.

2) 【適切な時期の受診の促進】のカテゴリー

小児の状態が悪化した際に,〈きょうだいを預けることができない場合,受診を勧めることをためらってしまう〉〈受診時に人工呼吸器などの持参品が多く,誘導を戸惑っているうちに受診行動が遅れてしまう〉など,[受診を促す時期の見極め]や,〈受診の必要性を説明するが,同意を得ることができない〉〈受診が必要であると判断していても,理解を得るための説明に努力を要する〉など,[受診の同意を得るための説明]に困難を感じていた.

3) 【予測できない急変時の対応】のカテゴリー

〈訪問した時に,既に児の状態が悪化している場合がある〉〈急変対応を行うものの,後遺症を来したり亡くなってしまうことがある〉ということから,〈児が目の前で突然急変することがあるので怖い〉〈小児はいつ急変するか分からないという不安や恐怖感が常にある〉と感じており,[急変の予防と早めの対応]に対する困難を抱いていた.また,〈常時観察ができないため,いつから状態が変化しているのか不明なことが多い〉こともあり,[いつもと違う状態に気づいた時の対応]が困難であった.

4) 【小児特有の知識やスキルの体得】のカテゴリー

〈小児特有の病態生理の理解が不足しているためアセスメントに繋ぐことができない〉〈小児は同じ疾患であっても個人差があり,それぞれの特徴の理解が難しい〉といった[小児看護の知識や技術の獲得]に対する困難があり,〈小児看護の経験が不足しているため,成長発達に合わせたケアが難しい〉〈きょうだいのケアをもっとしていく必要があるが難しい〉など,[小児看護特有のケアの実践]に対する困難や,〈安全な入浴介助を実施することは難しく不安である〉〈人工呼吸器に対する知識や技術が不足しているため,安全な看護ケアに不安がある〉など,[安全なケアの実践]に対する困難を感じていた.

5) 【母親との関係づくり】のカテゴリー

母親との関係性について,〈母親の個別性や家族の状況に合わせたケアの工夫が難しい〉〈母親の思いに寄り添いケアすることは重要だが難しい〉といった[母親の思いに寄り添うケア]に対する困難や,〈母親が児の障害を受容することができないことが辛い〉〈母親が傷つくかもしれないことを話してよいかどうか悩む〉といった[児の障害受容ができない母親への対応]に困難を感じていた.また,〈母親は児の状態やケア方法に関する知識や技術があるので,看護師ができることは少ない〉〈母親は急変時の対応について病院から指導を受けているため,訪問看護師は必要とされない〉という[母親の役に立てない辛さ]があり,〈母親との信頼関係が築けていない場合は,助言を受け入れてもらうことができない〉〈家族の思いや訪問看護師との関係によりケアに支障が生じる〉といった[母親からの信頼の獲得]に対する困難を感じていた.

6) 【多職種との連携の促進】のカテゴリー

〈多職種と情報共有をしたり,助言をもらうことができない〉〈小児に携わる多職種の役割や活動の内容がわからない〉など,[多職種との連携不足]に苦慮しており,〈在宅医との連携が充実していないため,入院していた病院を受診することになってしまう〉〈入院していた病院の看護ケアが在宅で継続されない〉など,[医療チームとのスムーズな連携]に対する困難を感じていた.

Ⅴ. 考察

1. 医療ニーズの高い小児に対する訪問看護師の在宅ケア実践における困難

小児の訪問看護師は,【単独での看護ケアの実践】に困難を感じていた.小児は病状が不安定であるほど,身体的な予備能力の少なさや抵抗力の弱さから症状が急速に進行し,急変する可能性があることから(奈良間,2020),ケアを実施する場面において,一人で判断をしなければならないことに困難を感じており,訪問看護ステーションに相談体制があったとしても,相談のタイミングを見極めることも難しいと感じていた.ケアを実践する際の判断や,相談しなければならないことが発生した場合には,そのタイミングを見極める判断力が必要であると言える.

小児の訪問看護師の役割は,子どもの生命の安全,健康の維持,体調の安定,その子なりの成長を促すとともに,子どもの体調の判断を家族と共有する支援が求められる(前田,2013).児の状態悪化時においては,【適切な時期の受診の促進】に困難を感じており,この要因として,受診時に人工呼吸器などの持参物品が多いことや,きょうだいを預けることができないなど,医療ニーズの高い小児特有の生活背景を考慮していることが関連していた.訪問看護師が迷うことなく【適切な時期の受診の促進】をするためには,[受診を促す時期の見極め]の判断が必要であり,これにより[受診の同意を得るための説明]が円滑になると考える.

また,小児は病勢の進行が早く,緊急度・重症度の予知が困難であり,主訴が不明瞭で非特異的であるため(市川・天本,2019),訪問看護師は,【予測できない急変時の対応】に困難を抱いていた.児がいつもと違う状態であることに気づいた場合,このまま様子を見ていてよいかどうか判断に迷いが生じていることから,児の生死に関わる重要な場面においては,[急変の予防と早めの対応]や[いつもと違う状態に気づいた時の対応]に対する的確な判断力が必要であると言える.

しかしながら,小児は疾患やその症状が多岐に渡り,年齢幅以上に発達幅が広く,全身的かつ広範な対応が求められることから(市川・天本,2019),訪問看護師にとって【小児特有の知識やスキルの体得】が困難であった.小児の在宅医療は,成人に比べて医療的ケアが多く重症度が高いことから(前田,2013),小児看護の経験がないと小児との関わりが難しく,小児訪問看護に対する抵抗感が強いとされている(生田,2015).本研究の対象者は,京都市内または京都市以外という,医療圏が異なる訪問看護ステーションに勤務していたが,看護師経験年数は医療圏に関係なく,概ね全員が5年以上であった.しかしながら,そのうちの約6割が臨床での小児看護の経験が全くなかったことから,[小児看護の知識や技術の獲得][小児看護特有のケアの実践][安全なケアの実践]に困難が生じていることが推測される.

一方,小児の実務経験をある程度有していても,家族とのコミュニケーションや家族へのケアは難しいと言われており(松澤ら,2015),訪問看護師は,【母親との関係づくり】に困難を感じていた.母親は,児の成長に伴う将来への不安や出生時に感じた悲哀を抱き続けており(橘・鈴木,2017),訪問看護師は,[児の障害受容ができない母親への対応]を困難としていた.母親は訪問看護師を頼りにしたいと思っており(水落・益守,2016),いつでも相談できる相手となることが大切である(橘・鈴木,2017).母親の不安に耳を傾け,児の障害を少しずつ受け入れられるよう母親の辛さに共感し,よき相談相手となることで,[母親の思いに寄り添うケア]ができると考える.

また母親は,入院中に最初に習ったケア方法からの変更や調整が困難であり(中村ら,2017),これまでの生活環境や育児方針などの変更を受け入れることができないため,児の状態が急変してしまうこともあり,訪問看護師は[児の障害受容ができない母親への対応]に困難を感じていた.母親と一緒に入院中のケア方法を在宅に合わせた方法へと改善していくことが必要であり,児にとってよりよいケア方法が確立できれば,[母親からの信頼の獲得]にも繋がると考える.母親に寄り添い,よき相談相手となるためには,【小児特有の知識やスキルの体得】が必要であり,これにより,【母親との関係づくり】に対する困難も解消されていくと推測するが,母親が医療的ケア児を育てる上で【多職種との連携の促進】が非常に重要である.小児の医療,福祉,教育はいくつかの制度や法律が絡み合う非常に複雑な構造になっており,訪問看護師は小児と家族の医療と福祉を橋渡しをする役割を担っている(前田,2013).しかし現状では,訪問看護師がサービス全体を俯瞰してマネジメントする仕組みにはなっていない(田村,2018).状態悪化時の受診先は小児病院や大学病院などの専門病院が多く,入院を必要としない程度の日常的な診療は在宅医であることが一般的である(高橋,2020).実際,京都府内では,小児の訪問診療を行っている小児科医は少なく,退院前に訪問看護師や行政の福祉担当者等とともにカンファレンスを持ち,情報を共有することができるケースもあるが,時間的な事情などによっては紹介状のやり取りだけで在宅診療を開始することもある(京都府医師会,2019).

このような現状から,訪問看護師は,[多職種との連携不足][医療チームとのスムーズな連携]に困難を感じている.訪問看護師の多職種連携に関する知識や技術に対する支援が求められているが(大西・石田,2019),例えばケア方法については,病院側と共有,実践し,退院後のケア方法や問題点を話し合うことで,訪問看護師のケアへの自信が確立できることから(生田,2015),病院看護師が訪問看護師の困難を理解して連携することにより,訪問看護師の【小児特有の知識やスキルの体得】への困難が軽減され,【多職種との連携の促進】および【母親との関係づくり】に良い影響をもたらすことになると考える.

2. 医療ニーズの高い小児の訪問看護師に対する支援

医療ニーズの高い小児は今後も増えることが予想され,子どもとその家族にとって訪問看護師の役割は重要であり,【単独での看護ケアの実践】【適切な時期の受診の促進】【予測できない急変時の対応】といった小児特有の看護実践力を強化することが必要である.看護実践力とは専門知識と技術に基づいたケア能力であることから(高瀬ら,2011),本研究結果における【小児特有の知識やスキルの体得】に基づいている能力であると言える.先行研究では,経験と熟練によって技能は変化し,この変化が実践を改善する(Benner, 2001/2005).看護実践をしているその時その場で,専門的で的確な判断をすることが求められており(尾形,2014),迅速に判断し,ケアが実施されることが重要であることが明らかになっている(Mosquera et al., 2014).判断は,知識を蓄え看護実践を省察することによって磨かれる(杉山・朝倉,2017).また,判断力は訪問看護師特有の役割として備えなければならないアセスメント力と看護技術であり,相対的医行為の範囲において看護ケアを導く重要な決定能力である(村田ら,2020).

これらのことから,小児訪問看護師の判断力は,【単独での看護ケアの実践】【適切な時期の受診の促進】【予測できない急変時の対応】といった実践の場面におけるアセスメント力と看護技術であり,決定能力であると言える.以上のことから,小児訪問看護師の在宅ケア実践における困難を解消するためには,判断力を身に付けることに着目した教育支援が必要であると考える.

また訪問看護師は,家族と多職種との間の中心的な役割を担っていることから,【多職種との連携の促進】に対するコーディネート力や,母親とのかかわりや対話などから心情を確認し,ニーズを想像する力を養うなどの(山口,2021),【母親との関係づくり】に向けた教育支援を行うことで,判断力の向上がより確実なものとなり,医療ニーズの高い小児に対する訪問看護師の困難の解消に繋がると考える.

したがって,医療ニーズの高い小児の訪問看護師に対する支援として,在宅ケア実践における判断力,多職種連携に対するコーディネート力,および母親との関係づくりに対する力を身に付けるための教育支援が必要であると言える.

3. 研究の限界と今後の課題

本研究で調査対象とした施設は京都府内に限定されているため,データには地域特性の偏りがある.国の施策を利用して,各地域で医療的ケア児とその家族を支援する総合的な体制の構築はまだまだ地域差が大きいのが現状であることから(中村,2020),今後は調査対象の範囲を拡大する必要がある.加えて,訪問看護師のための医療ニーズの高い小児に対する新たな在宅ケア教育方法を確立することが課題である.

Ⅵ. 結論

1.医療ニーズの高い小児に対する在宅ケア実践における困難として,【単独での看護ケアの実践】【適切な時期の受診の促進】【予測できない急変時の対応】【小児特有の知識やスキルの体得】【母親との関係づくり】【多職種との連携の促進】の6つのカテゴリーが抽出された.

2.医療ニーズの高い小児の訪問看護師に対する支援として,在宅ケア実践における判断力,多職種連携に対するコーディネート力,および母親との関係づくりに対する力を身に付けるための教育支援が必要である.

付記:本論文の内容の一部は第46回日本看護研究学会学術集会にて発表した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

謝辞:本研究にご協力くださいました研究参加者および参加施設の皆様に心より御礼申し上げます.

著者資格:YMは研究の着想およびデザイン,分析の実施,草稿の作成に貢献.YIは研究の着想およびデザイン,原稿への示唆および研究プロセス全体への助言.AE,YTは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承諾した.

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