日本看護科学会誌
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原著
労働状況および偏りのある勤務割り振り,勤務日・休暇のコントロール感不足とバーンアウトおよび身体愁訴との関連
―交代制勤務に従事する看護職を対象としたオンライン調査―
渡邊 龍之介木田 亮平武村 雪絵
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2022 年 42 巻 p. 63-71

詳細
Abstract

目的:看護職の労働条件,相対的に偏りのある勤務割り振り(以下,相対的偏り)や勤務日・休暇のコントロール感不足(以下,コントロール感不足)とバーンアウトや身体愁訴との関連を検証する.

方法:2020年1~2月,交代制勤務に従事する看護職を対象にweb調査を行った.バーンアウトの下位尺度(情緒的消耗感,脱人格化,個人的達成感)と身体愁訴を従属変数とし,基本属性,労働状況,相対的偏りおよびコントロール感不足を順に投入する階層的重回帰分析を行った.

結果:分析対象者は394名だった.階層的重回帰分析の結果,最終モデルでは労働状況には統計学的有意差を認めず,相対的偏りは情緒的消耗感と脱人格化に,勤務日や休暇の見通しのなさは情緒的消耗感に,急な休暇取得のしにくさは脱人格化と身体愁訴に関連した.

結論:交代制勤務に従事する看護職にとっては労働状況よりも相対的偏りやコントロール感不足と心身のストレスとの関連が明らかになった.

Translated Abstract

Aim: To identify the relationship between work conditions, unequal work-assignments, lack of work-life control, and burnout or somatic complaints among shift-work nurses.

Methods: In January and February 2020, a web-based questionnaire was sent to 4,360 shift-work nurses in Japan. First, an exploratory factor analysis and Spearman correlation were conducted to confirm the construct of unequal work-assignment and lack of work-life control. Second, a hierarchical multiple regression analysis was conducted to evaluate the relationship between unequal work-assignment, lack of work-life control, and burnout or somatic complaints after adjusting work conditions.

Results: Data from 394 nurses were analyzed. An exploratory factor analysis and Spearman correlation revealed lack of work-life control on the basis of three factors: vacation requests are not approved, there is uncertainty about working days and vacations, and nurses cannot take paid vacation. Unequal work-assignment was related to emotional exhaustion and depersonalization, uncertainty about working days and vacations was related to emotional exhaustion, and unpaid vacations was related to depersonalization and somatic complaints.

Conclusion: In addition to poor working conditions, unequal work-assignments and lack of work-life control may cause psychological or physical stress reactions.

Ⅰ. 緒言

医療施設では,24時間365日看護ケアを提供するため,看護職は交代制勤務を行っている.米国国立職業安全保健研究所(National Institute for Occupational Safety and Health: NIOSH)の職業性ストレスモデル(Hurrell & McLaney, 1988)では,仕事の量的負荷や交代制勤務を含む労働状況や職場環境などが労働者の心身のストレスに影響することが示されている.看護職対象の研究では,労働負荷,夜勤,勤務間インターバルの短さがバーンアウトや欠勤,睡眠や月経への影響など,心身の健康に影響すると報告されている(Dall’Ora et al., 2020Wang et al., 2016Chung et al., 2012Vedaa et al., 2016).交代制勤務に従事する看護職の心身の健康を守るためには,労働時間や夜勤回数,勤務間インターバル時間など労働状況の整備が必要である.

しかし,交代制勤務に従事する看護職にとっては労働状況だけでなく,日勤や夜勤などの勤務や休暇がどのように割り振られているかも重要である.部署ごとに看護職員のシフト予定を割り振った勤務割り振り表(以下,勤務表)に対し,「土日出勤が多い」「他のスタッフとの差がある」「新人との勤務が多い」といった,他者と比べて偏りのある勤務割り振りに対する不満が報告されている(日本看護協会,2010).看護職の「働きやすさ」の基準に関する先行研究(鹿島ら,2016)では,「職務負担・休暇取得への公平性の程度」が働きやすさの基準の一要因としてあげられていることから,不公平な勤務割り振り,すなわち他者と比べて相対的に偏りのある勤務割り振りは,交代制勤務に従事する看護職の心身のストレス状態と関連する可能性がある.

また,勤務の割り振りに個人の希望が考慮されない,つまり,柔軟性の低い状態が情緒的消耗感と関連することや(Dhaini et al., 2018),望まないシフトパターンを強いられることが健康状態の悪化と関連すること(Galatsch et al., 2013)が報告されている.さらに日本看護協会(2010)の調査では,「希望が通らない」「希望の締め切りが早い」「勤務計画表の掲示時期が遅い」といった勤務表に関する不満が挙げられている.前述した鹿島ら(2016)の研究では,体調が悪くても休めないなどの「柔軟な休日・休暇取得の可否」,プライベートの予定が立てにくいなどの「私生活への計画立案難易」も働きやすさの基準として報告されている.勤務表は,看護職の配置が24時間必要な部署において各勤務帯に必要な人員を配置するために,各看護職に勤務スケジュールを割り振ったもので,平均1ヶ月単位で作成される(武村ら,2020).そのため看護職は,約1か月を単位として示された勤務表の日勤,夜勤,休暇スケジュールに従って生活することになる.交代制勤務に従事する看護職にとって,勤務日や休暇,日勤・夜勤のパターンを自分の意思で決定できない状況や見通しを持てない感覚,すなわち勤務日や休暇のコントール感不足がストレッサーとなる可能性がある.

したがって本研究は,偏りのある勤務割り振りや勤務日・休暇のコントロール感不足と心身の健康との関連を検証することを目的とした.本研究により,交代制勤務に従事する看護職のストレス軽減のために,勤務表作成過程を含む健康的な勤務割り振りについての示唆を得ることができる.

Ⅱ. 方法

1. 調査対象

様々な病床規模の病院で働く看護職を対象とするため,99床以下,100~199床,200~299床,300~399床,400床以上の病院に層化し,各層1,000人に質問紙を配布することを目標とした.機縁法で選定した施設の看護部門責任者に研究説明文書を送付し,承諾の得られた施設で交代制勤務に従事している全看護職に調査の依頼を行った.機縁法で配布目標数に到達しなかった場合は,平成30年度版全国保険医療機関一覧(医療経済研究機構,2019)から層化無作為抽出して協力を依頼した.なお,勤務割り振りの裁量が異なると考えられる部署の管理者や勤務表作成に携わる者は対象から除外した.また,日々の業務に他スタッフからのフォローを要するために勤務割り振りの際に配慮が必要と考えられる卒後1年以内の看護職,部署異動あるいは中途採用後半年以内の看護職も対象から除外した.

2. 調査方法

本研究のデザインは,web調査による横断研究とした.2020年1~2月,研究の概要とweb調査用のURL,ID,パスワードを記載した調査説明書一式を,施設の研究担当者経由で対象者に配布し,研究参加の意思がある場合は調査画面にアクセスするよう依頼した.調査画面の冒頭に研究説明文書を掲載し,研究参加に同意した場合のみ回答画面に進むようにした.なお,重複回答を防ぐために個別にIDを付与したが,個人とIDの紐付けは行わず,個人は特定できないようにした.全ての質問項目に回答し,謝礼の受け取りを希望した者にAmazonポイント200円分を付与した.

3. 調査内容

1) 個人属性

性別,年齢,最終学歴,婚姻状況,子どもの有無,通算看護経験年数,通勤時間,所属施設の病床数,所属部署,交代制勤務の種類,役職などを尋ねた.

2) 心身のストレス反応

(1) 心理的ストレス反応

原作者からの許可を得て,日本版バーンアウト尺度(久保・田尾,1994)を用いた.この尺度は「情緒的消耗感」5項目,「脱人格化」6項目,「個人的達成感」6項目で構成され,リッカート5件法(1:ない~5:いつもある)で測定される(項目例:「こんな仕事,もうやめたいと思うことがある」「同僚や患者の顔を見るのも嫌になることがある」「今の仕事に,心から喜びを感じることがある」).「情緒的消耗感」と「脱人格化」は得点が高い方が,「個人的達成感」は得点が低い方が高いバーンアウト状態にあることを表す.本研究のCronbachのα係数はそれぞれ,.84,.88,.80であった.

(2) 身体的ストレス反応

職業性ストレス簡易調査票(下光ら,2005)の「身体愁訴」の11項目を用いた.この尺度はリッカート4件法で測定され,得点が高い方が身体の不調があることを表す(項目例:「めまいがする」「体のふしぶしが痛む」).本研究のCronbachのα係数は,.87であった.

3) 労働状況

過去の研究では,時間外労働時間のような量的負荷,夜勤回数,勤務間インターバルなどの労働状況が心身の健康に影響を与えることは明らかになっている(Dall’Ora et al., 2020Wang et al., 2016Chung et al., 2012Vedaa et al., 2016).したがって本研究では,労働負荷となりうる労働状況として,調査前月あるいは前々月の1か月間の時間外労働時間,調査時点で勤務が終了している直近の勤務表1クールにおける実際に行った夜勤回数,勤務間インターバル11時間未満の回数を尋ねた.なお,勤務間インターバルの時間設定は,先行研究やガイドラインを参考に11時間未満とした(Vedaa et al., 2017, 2019日本看護協会,2013).夜勤回数は,2交代制勤務の場合1回の夜勤を2回,3交代制勤務の場合準夜勤と深夜勤をそれぞれ1回と計算した.

4) 相対的に偏りのある勤務割り振りおよび勤務日・休暇のコントロール感不足

先行文献から,心身のストレスとの関連が想定される勤務割り振りについて,偏りのある勤務割り振り(以下,相対的偏り)と勤務日・休暇のコントロール感不足(以下,コントロール感不足)が重要であり,さらにコントロール感不足は,休暇希望が実現しにくいこと,急な休暇が取得しにくいこと,勤務日や休暇の見通しがたたないことが重要であると考えられた(日本看護協会,2010鹿島ら,2016Dhaini et al., 2018Galatsch et al., 2013).各要素を測定するための調査項目は,日本看護協会の調査項目(日本看護協会,2010)を参考に項目案を作成し,看護師として病院勤務の経験がある研究者および就業中の看護師5名に,各項目をどのように理解したかを尋ね,表現等を修正した.最終的に,相対的に偏り3項目,コントロール感不足8項目を作成した.いずれも,「当てはまらない(1点)」から「当てはまる(5点)」の5件法とし,点数が高いほど相対的偏りやコントロール感不足が高い状況を示すこととした.

5) その他の項目

自作した相対的偏り及びコントロール感不足の併存的妥当性を検証する目的で,相対的偏りやコントロール感不足と関連が想定される日本語版組織公平性尺度(Shibaoka et al., 2010),日本語版努力-報酬不均衡モデル調査票(Tsutsumi et al., 2001),過去半年の勤務表に対する全体的な満足度(自作,7件法)の3つの尺度を使用した.

4. 分析方法

1) 相対的偏りとコントロール感不足の構成概念の確認

自作した相対的偏りの3項目とコントロール感不足の8項目は,項目内容から,相対的偏りと,休暇希望が実現しにくいこと,急な休暇が取得しにくいこと,勤務日や休暇の見通しがたたないことに関する項目に分けられると考えたため,それぞれ探索的因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行った.因子負荷量0.4以上を基準として下位因子を構成する項目を解釈し,各項目内容に沿った因子名を付与し,下位尺度とした.各下位尺度の内的整合性を確認するため,Cronbachのα係数を算出した.また,併存妥当性を検討するため,組織公平性,努力-報酬不均衡,および勤務表の満足度と勤務割り振りに関する取り扱いの各下位尺度との関連についてSpearmanの相関係数を確認した.

2) 相対的偏りおよびコントロール感不足とバーンアウト・身体愁訴との関連

相対的偏りおよびコントロール感不足を独立変数とし,日本版バーンアウト尺度の「情緒的消耗感」「脱人格化」「個人的達成感」,職業性ストレス簡易調査票の「身体愁訴」を従属変数とする階層的重回帰分析を行った.係数の変化を確認するため,独立変数は,コントロール変数としてモデル1で個人属性および所属病院の病床規模,モデル2で労働状況を投入し,モデル3で相対的偏りおよびコントロール感不足をそれぞれ投入した.なお,個人属性については,先行研究より従属変数との関連が示されている,性別,年齢,婚姻状況,通算看護経験年数,子供の有無を選択したが,独立変数同士の相関係数が0.7以上の組み合わせについては多重共線性を懸念し,年齢と子どもの有無を除外した.多重共線性については分散拡大係数(Variance Inflation Factor; VIF)が2.0以下であること,条件指数が15以上の場合に分散の比率が0.5以上の変数が2つ以上ないことを確認した.残差の正規性の確認のため,Durbin-Watson比を参照した.統計解析にはSPSS Statistics version 26を用い,有意水準αは5%とした.

5. 倫理的配慮

本研究は,東京大学大学院医学系研究科・医学部倫理審査委員会(承認番号:2019246NI)の承認を得て実施した.対象者には研究説明文書を用い,研究への参加は自由意思であり,参加しない場合も施設や個人に不利益は生じないことを説明し,調査画面冒頭のチェックボックスで研究参加の意思を確認した.

Ⅲ. 結果

1. 対象者の概要

研究協力を依頼した338施設のうち,承諾を得た47施設4,360名に調査説明文書を配布した.640名がインターネットの調査画面にログインし,研究参加に同意しなかった7名,交代制勤務をしていなかった27名,部署の管理者3名,勤務表作成者37名を除く566名が調査回答画面に移行した.全ての質問に回答した者が410名,そのうち新卒1年以内の者5名,部署異動後半年以内の者8名,転勤後半年以内の3名を除く394名(有効回答率9.0%)を分析対象とした.

分析対象者の平均年齢は36.7歳(標準偏差:SD = 10.3),通算看護経験年数は平均13.3年(SD = 9.8)であった.対象者の88.3%は女性であった.日本版バーンアウトの下位尺度の平均得点は,情緒的消耗感3.2(SD = 1.0),脱人格化2.4(SD = 0.9),個人的達成感3.7(SD = 0.8)であった.身体愁訴の平均得点は2.0(SD = 0.6)であった(表1).

表1  対象者の基本属性,労働状況,バーンアウトおよび身体愁訴の得点 (n = 394)
項目 カテゴリー n(%),平均±SD
個人属性
年齢(歳) 36.7 ± 10.3
性別 女性 348 (88.3)
男性 46 (11.7)
最終学歴 准看護学校 23 (5.8)
専門学校・短期大学 317 (80.5)
4年制大学以上 54 (13.7)
保有資格a 准看護師 84 (21.3)
看護師 368 (93.4)
保健師 37 (9.4)
助産師 14 (3.6)
婚姻状況 未婚 194 (49.2)
既婚 172 (43.7)
離別・死別 28 (7.1)
子どもの有無 あり 142 (36.0)
なし 252 (64.0)
子どもの人数b 1.8 ± 0.9
通算看護経験年数(年) 13.3 ± 9.8
所属施設の病床数 99床以下 60 (15.2)
100~199床 67 (17.0)
200~299床 90 (22.8)
300~399床 89 (22.5)
400床以上 88 (22.3)
所属部署 病棟 344 (87.3)
外来(救急外来除く) 3 (0.8)
救急外来 4 (1.0)
手術室 16 (4.1)
その他 27 (6.9)
交代制 2交代制 261 (66.2)
2交代制(長日勤あり) 66 (16.8)
3交代制 37 (17.0)
役職 スタッフ(非役職者) 363 (92.1)
主任相当 31 (7.9)
通勤時間(分) 80.2 ± 26.3
労働状況
夜勤回数(回/月) 8.0 ± 3.1
時間外労働時間(時間/月) 9.3 ± 9.7
勤務間インターバル11時間未満の回数(回/月) 1.1 ± 2.1
心理的・身体的ストレス尺度
日本版バーンアウト 情緒的消耗感 3.2 ± 1.0
脱人格化 2.4 ± 0.9
個人的達成感 3.7 ± 0.8
職業性ストレス簡易調査票 身体愁訴 2.0 ± 0.6

SD:標準偏差

a:複数回答.

b:子ども「あり」と回答した対象者における平均と標準偏差.

2. 相対的偏りとコントロール感不足の構成概念の検討

相対的偏り3項目とコントロール感不足8項目に対し探索的因子分析を行い,それぞれ1因子,3因子が抽出された(表2).

表2  相対的に偏りのある勤務割り振りおよび勤務日・休暇のコントロール感不足の探索的因子分析 (n = 394)
因子負荷量
因子1
第1因子 相対的に偏りのある勤務割り振り
夜勤回数が多い .59
フォローが必要な看護師との勤務回数が多い .47
土日祝日の出勤回数が多い .80
因子負荷量
因子1 因子2 因子3
第1因子 休暇希望の実現のしにくさ
休暇の希望を出す仕組みがないため,希望が出せない .80 –.04 –.12
休暇の希望を出す仕組みがあっても,希望を言えない .79 .04 .04
希望を伝えても希望日に休暇が取得できない .66 .02 .19
第2因子 急な休暇取得のしにくさ
家族の病気や事故など急な事情による休みの取得が難しい .03 .93 –.07
自分の対象不良などによる急な休みの取得が難しい .02 .84 .01
第3因子 勤務日や休暇の見通しのなさ
勤務表の掲示時期が遅い –.05 –.05 .93
勤務表の希望の締め切りが早い .12 .06 .48
長期の連続休暇(おおよそ5日以上)の予定を立てることができない –.12 .40 .33

注)探索的因子分析は最尤法,プロマックス回転で実施した.

8項目3因子構造が確認されたコントロール感不足は,休暇希望が実現しにくいという認識を表す因子である「休暇希望の実現のしにくさ」,休暇を必要とする事情があっても急な休暇が取得しにくいという認識を表す因子である「急な休暇取得のしにくさ」,先の予定が立てにくいという認識を表す因子である「勤務日や休暇の見通しのなさ」とそれぞれ命名した.なお,「長期の連続休暇(おおよそ5日以上)の予定を立てることができない」は因子負荷量が複数の因子で0.3以上あったため,下位尺度から除外した.以上より,自作した勤務割り振りの取り扱いに関する項目は,「相対的偏り」「休暇希望の実現のしにくさ」「急な休暇取得のしにくさ」「勤務日や休暇の見通しのなさ」の4つに分けられると判断した.これら4つの下位尺度のCronbachのα係数は,「相対的偏り」.64,「休暇希望の実現のしにくさ」.80,「急な休暇取得のしにくさ」.89,「勤務日や休暇の見通しのなさ」.67であった.関連概念との相関は,組織公平性とは中程度からやや弱い負の相関が(ρ = –.41~–.17, p < .01),勤務表の満足度とは中程度の負の相関があり(ρ = –.45~–.35, p < .01),努力-報酬不均衡とは中程度の正の相関があった(ρ = .40~.49, p < .01)(表3).

表3  相対的偏りおよびコントロール感不足と関連概念との相関係数 (n = 394)
範囲 α 平均±SD 組織公平性 努力-報酬不均衡 勤務表の満足度
ρ ρ ρ
相対的偏り 3~15 .64 8.72 ± 3.04 –.17** .40** –.35**
コントロール感不足
休暇希望の実現のしにくさ 3~15 .80 5.17 ± 2.72 –.40** .43** –.45**
急な休暇取得のしにくさ 2~10 .89 5.28 ± 2.76 –.41** .49** –.44**
勤務日や休暇の見通しのなさ 2~10 .67 9.30 ± 3.46 –.37** .40** –.44**

α:Cronbachのα係数,SD:標準偏差,ρ:Spearmanの相関係数.

** p < .01

3. バーンアウト,身体愁訴と労働状況,相対的偏りおよびコントロール感不足との関連

階層的重回帰分析の結果を表4に示す.情緒的消耗感を従属変数とした場合,モデル2(調整済みR2 = .09,p < .01)では「時間外労働時間」と有意な正の関連を示した(β = .18, p < .01)が,モデル3(調整済みR2 = .22,p < .01)ではこの関連は消失し,「相対的偏り」「勤務日や休暇の見通しのなさ」「急な休暇取得のしにくさ」と有意な正の関連がみられた(β = .12, p < .05; β = .23, p < .01; β = .17, p < .01).脱人格化を従属変数とした場合,モデル2(調整済みR2 = .05,p < .05)では労働状況の変数とは関連はなく,モデル3(調整済みR2 = .15,p < .01)で「相対的偏り」「急な休暇取得のしにくさ」(β = .18, p < .01; β = .21, p < .01)と有意な正の関連がみられた.個人的達成感を従属変数とした場合,今回使用した独立変数ではどのモデルでも個人的達成感を説明することはできなかった.身体愁訴を従属変数とした場合,モデル2(調整済みR2 = .05,p < .01)では「勤務間インターバル11時間未満の回数」(β = .17, p < .05)と有意な正の関連を示したが,モデル3(調整済みR2 = .10,p < .01)では「勤務間インターバル11時間未満の回数」との関連は消失し,「急な休暇取得のしにくさ」(β = .15, p < .05)と有意な正の関連を示した.Durbin-Watson比は,情緒的消耗感では1.96,脱人格化では1.83,身体愁訴では1.96であった.

表4  バーンアウトおよび身体愁訴と個人特性,職場の労働状況,相対的偏りおよびコントロール感不足との関連(階層的重回帰分析) (n = 394)
情緒的消耗感 脱人格化 身体愁訴
β
(モデル1)
β
(モデル2)
β
(モデル3)
β
(モデル1)
β
(モデル2)
β
(モデル3)
β
(モデル1)
β
(モデル2)
β
(モデル3)
個人特性
性別a(参照カテゴリー:男性) .06 .06 .04 –.04 –.05 –.08 .01 .01 .01
婚姻状況b(参照カテゴリー:未婚) –.11 –.11 –.12* –.14* –.14* –.15* –.12* –.12 –.11
通算看護経験年数 –.12* –.11 –.16** –.11 –.11 –.15** .02 .04 .01
通勤時間 .08 .06 .07 .05 .05 .06 .11 .09* .09
所属施設の病床数(参照カテゴリー:400床以上)
99床以下 –.01 .05 .06 –.04 –.03 –.02 –.13 –.10 –.08
100~199床 .08 .10 .11 .01 .01 .02 –.03 –.03 –.03
200~299床 –.11 –.14* –.05 –.14 –.14 –.06 .00 –.01 .04
300~399床 –.04 .01 .04 –.07 –.06 –.04 .00 .03 .05
労働状況
時間外労働時間 .18** .08 .06 –.03 .06 .01
夜勤回数(回/月) .08 .04 .01 –.04 .05 .04
勤務間インターバル11時間未満の回数(回/月) .07 .02 .02 –.04 .17** .13
相対的偏り .12* .18** .01
コントロール感不足
休暇希望の実現のしにくさ –.01 .02 .05
急な休暇取得のしにくさ .23** .21** .15*
勤務日や休暇の見通しのなさ .17** .09 .05
R .27 .37 .50 .26 .26 .44 .21 .29 .37
調整済みR2 .05** .09** .22** .04** .04* .15** .02* .05** .10**

a,女性=1,男性=0;b,既婚=1,未婚=0;β,標準化偏回帰係数;R,重相関係数;R2,決定係数

* p < .05,** p < .01.

注)個人的達成感は独立変数との関連がなかったため省略.

Ⅳ. 考察

1. 相対的偏りおよびコントロール感不足の測定概念

これまで勤務表に関する取り扱いに対する認識は,勤務表への満足度として包括的に捉えられることが多かったが,本研究により,「相対的偏りがある勤務割り振り」1つと,「休暇希望の実現のしにくさ」「勤務日や休暇の見通しのなさ」「急な休暇取得のしにくさ」の3つの側面で捉えられることが示された.

本研究で明らかにした勤務割り振りの取り扱いにおける相対的偏り1つとコントロール感不足の3つの要素は,組織公平性,努力-報酬不均衡,勤務表への満足度といずれも弱~中程度の相関がみられ,いずれの概念とも関連するものの弁別可能な概念であると考えられる.しかし,内的一貫性が低い下位尺度もあるため,項目や因子構造についてさらなる精錬が必要である.

2. バーンアウト,身体愁訴と関連する要因について

調整済みR2値より,情緒的消耗感,脱人格化,身体愁訴をそれぞれ従属変数としたいずれのモデルも有意であった.情緒的消耗感と脱人格化を従属変数としたモデルでは,モデル2までの調整済みR2値は10%未満であったのに対し,モデル3では,情緒的消耗感で22%,脱人格化で15%と上昇していた.身体愁訴はモデル3でも10%と他の2つの従属変数より説明率は低かったが,モデル2から3にかけ5%上昇しており,モデル3で投入した相対的偏りおよびコントロール感不足が他の変数に比べて説明率が高い結果であった.すべてのモデルにおいて,Durbin-Watson比は1.83~1.96であり,残差の正規性が確認された.

情緒的消耗感を従属変数とした重回帰分析の結果,時間外労働時間が情緒的消耗感と有意に関連していた.先行研究では,仕事の労働負荷と情緒的消耗感との関連が報告されており(López-López et al., 2019松本・臼井,2010中山・香月,2020),本研究でも同様の結果であった.本研究では新たに,情緒的消耗感と「相対的偏り」「勤務日や休暇の見通しのなさ」「急な休暇取得のしにくさ」との関連が明らかになった.看護職は,働きやすい職場の基準として「柔軟な休日・休暇取得の可否」「職務負担・休暇取得への公平性」「私生活への計画立案難易」を知覚している(鹿島ら,2016).このことから,交代制勤務に従事する看護職にとって,相対的偏り,勤務日や休暇の見通しのなさ,急な休暇取得のしにくさといった要因は,働きやすさだけでなくストレッサーとなりうる重要な要因であることが示唆された.また本研究では,勤務割り振りに関する変数を投入したところ,時間外労働時間と情緒的消耗感の関連が消失した.時間外労働時間と情緒的消耗感との関連において,偏りのある勤務割り振りや,見通しの立てにくい勤務表の取り扱い,急な休暇が取りにくい状況が交絡していたと考えられる.このような状況にある看護職にとっては,実際の労働状況よりも自身の勤務割り振りの取り扱われ方の認識がより大きなストレッサーとなる可能性が考えられた.

脱人格化を従属変数とした重回帰分析の結果,労働状況として投入したいずれの変数とも関連がみられず,「相対的偏り」「急な休暇取得のしにくさ」が有意に関連していた.先行研究でも,「土日出勤が多い」「他のスタッフと差がある」「新人との勤務が多い」という勤務の偏りに対する不満や,体調が悪くても休めないなどの「柔軟な休日・休暇取得の可否」などが働きやすさに影響することが示されている(日本看護協会,2010鹿島ら,2016).夜勤やフォローが必要な看護師との勤務が他の看護職と比べ多い勤務割り振りや,自身や家族の健康状態,家庭の事情による急な休暇が取得できない状況は,実際の労働状況以上に脱人格化につながるストレッサーであることが示唆された.

個人的達成感は,本研究で使用した独立変数では説明することができなかった.Herzbergの衛生-動機付け理論では,対人関係や労働条件などの衛生要因が不良な場合は不満などのネガティブ感情に繋がるが,良好だからと言ってポジティブな感情(やりがい,満足)にはつながらないとされている(Herzberg, 2008).相対的に偏りのある勤務や勤務日・休暇のコントロール感は,労働状況と同じく看護職にとって衛生要因として作用する可能性が考えられる.

身体愁訴を従属変数とした重回帰分析の結果,モデル2で勤務間インターバルが11時間未満だった回数が身体愁訴と関連していた.11時間未満の勤務間インターバルが健康アウトカムと関連するという先行研究(Vedaa et al., 2017)と同様の結果であったが,勤務割り振りに関する変数を投入すると関連は消失し,自身や家族の体調不良や事故等による急な休暇が取得できない状況である「急な休暇取得のしにくさ」との間に有意な関連がみられた.自身の体調が悪いときや家庭での役割が増大する状況でも休暇を取得できないことが身体的不調につながることが示唆された.

以上より,心身の健康を保つためには,労働状況の整備に加えて,偏りがなく先の見通しがつきやすいような勤務表の作成,急な休暇が必要な場合に休暇が取得できるよう柔軟に対応していくことが重要であると考えられる.

3. 本研究の限界

第1に,層化抽出を行ったが,層毎に回答数が異なっていた.さらに,回答率が9.0%と低く,今回の参加者が母集団を適切に反映していない可能性があり,一般化には限界がある.第2に,今回施設機能や算定している入院基本料等,施設や病棟の特徴を調査していないため,こうした組織特性の影響を考慮できていない.第3に,相対的偏りおよびコントロール感不足は,本人の認識を尋ねているため実際の休暇の取得状況や希望の反映,勤務の偏り等については不明である.また,作成した尺度の一部はα係数が低く,時間的安定性の検証も行っていないため,信頼性には課題が残る.

Ⅴ. 結論

本研究により,時間外労働時間や夜勤回数,勤務間インターバルなどの労働状況だけでなく,「相対的偏り」「勤務日や休暇の見通しのなさ」は心理的ストレスに,「急な休暇取得のしにくさ」は心理的ストレス・身体的ストレス両方と関連することが明らかになった.

付記:本研究は,東京大学大学院医学系研究科に提出した修士論文に加筆・修正を加えたものである.

謝辞:本研究は,平成31年度厚生労働行政推進調査事業費補助金(厚生労働科学特別研究事業「看護職の労働時間・勤務環境の改善に向けた調査研究(19IA2017)」(研究代表者:武村雪絵)の助成を受け,「看護職の労働時間・勤務環境の改善に向けた調査研究―看護職調査―」の一部として実施した.本研究の実施にあたり,ご協力くださいました調査参加者の皆様,研究協力施設関係者の皆様に深く御礼申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:RWは,研究デザイン,データ収集,データ分析,結果の解釈,原稿執筆を担当した.RKは,研究デザイン,データ収集,データ分析,結果の解釈,原稿執筆をRWとともに行い,原稿に加筆・修正を加えた.YTは,研究デザイン,結果の解釈に助言し,原稿に加筆・修正を加えた.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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