2022 年 42 巻 p. 131-139
目的:小児がんの病児をもつ家族が,看護師に希望する家族支援を明らかにすることを目的とした.
方法:入院中の小児がんの病児をもつ12家族14名の親を対象に半構造化面接を行い,質的帰納的内容分析の手法を用いて分析した.
結果:小児がんの病児をもつ家族が看護師に希望する家族支援として,【家族への思いやりのある支援】【家族に配慮のある声掛けをする支援】【病児への十分な支援の提供により家族が安心できるようにする支援】【家族の負担を軽減する支援】【家族の相談に乗る支援】【家族に必要な情報を提供する支援】【家族と多職種を調整する支援】の7カテゴリー,23サブカテゴリーが明らかになった.
結論:看護師は,家族の希望に添う支援を行うために,7つの家族支援について深く熟思する必要がある.これらの家族支援を組み合わせ,適切に提供することは,家族の抱える心理・社会的な問題や,不安,負担の軽減に繋がるであろう.
Objective: To clarify the support most expected from nurses for families of hospitalized children with cancer.
Methods: Semi-structured interviews were conducted with 12 families of children with cancer consisting of 14 parents and the results were analyzed using qualitative inductive content analysis.
Results: The analysis identified seven categories and 23 subcategories of support themes. They are “Support of care and consideration for the family”; “Support to encourage communication in order to share and discuss the family members’ problems”; “Support to help the family members feel secure and trust the health care providers”; “Support to reduce the burden they have”; “Support to offer appropriate consultation and advice”; “Support to provide them with information they currently need”; “Support for their liaison with other health care professionals.”
Conclusion: It is critical for pediatric nurses to analyze and understand clearly how, when, and why the families expect and require certain types of support depending on their situation. Enhancing these support themes with the professional medical care and providing the families with timely and effectively combined support services and care would help the nurses to relieve the psychological and socioeconomic problems, anxiety and burdens the families endure.
近年,小児がんは,治療技術の進歩により,治癒の望める病気となってきている.しかし生命を脅かす疾患であることには変わりなく,子どもが小児がんと告知された家族は,大きな衝撃を受け,自責の念や身体的・心理的苦痛,将来に対する予期的悲嘆など,様々な情緒的反応や心理的混乱が見られることが明らかにされている(濱中,2005).また,小児がんは救命が優先されるため,告知直後より治療が開始されることがほとんどであり,家族は心理的準備をする猶予もないまま,病児の入院生活や治療に伴う生活の変化に適応することが求められる.加えて,小児がんの治療は長期にわたるため,一方の親が看病の中心となることで,その親が担っていた役割を他方の親やきょうだいが担わざるを得ず,役割過重となることや,家族間のコミュニケーションが不足がちとなり,夫婦やきょうだいが苦悩を抱え,孤独感や被害的な感情を抱いてしまうことがある(渡辺,2012)など,家族全体に多大な影響を長期的に与える.そのため,看護師は,小児がんの病児のケアを行うだけでは不十分であり,家族への支援を行う必要がある.
最近の,入院中の小児がんの病児をもつ家族への支援に関する看護学研究には,小児がんの病児の母親の思いを共有する場の提供と共有する場における看護介入について検証した研究(橋本・藤田,2019)や,母親の不安軽減につながった看護師の関わりを明らかにした研究(園田ら,2015)などがある.しかし,これらの研究は,研究から得られた知見をもとに看護師が必要と考える家族支援策を検討しているが,家族が看護師に希望する家族支援については知見が少ない.また,入院中の病児をもつ家族が看護師に期待する家族支援を明らかにした研究(平谷ら,2018)は存在するが,入院中の小児がんの病児をもつ家族が看護師に希望する家族支援に焦点を当てた研究は存在しない.
本研究では,家族全体を支援対象として捉え,小児がんの子どもをもつ家族が看護師に希望する家族支援を明らかにすることを目的とした.これにより,小児がんの病児をもつ家族への支援に役立てることとした.
「家族」とは,家族であると相互に認知しあっているひと(生者)の小集団システム(同居の有無は問わない)とし,「家族支援」とは,対象家族を主体とし,家族と看護師がパートナーシップを形成して,家族のセルフケア力を家族が自立的かつ自律的に発揮できるよう行われる看護実践(法橋・樋上,2010)と定義した.「病児」とは,18歳未満の病気の子どもと定義した.
2. データ収集方法研究対象は,入院中の小児がんの病児をもつ家族(回答者は病児の親)とし,除外基準は設けなかった.調査が現実的に実施可能な都道府県からA県を選定し,小児がんの治療を行う全11施設の看護部長または担当者に依頼文を用いて協力を依頼した.協力が得られたA県の大学病院2施設で治療を受ける小児がんの病児をもつ家族に,研究対象者募集用チラシを配布し調査への参加を募ったが,研究対象数が2家族と少なかった.そのため,倫理委員会の再審査を受けた上で対象施設を,A県を起点として近隣都道府県に拡大し,研究協力者(小児科医)より小児がん治療施設の小児科医に依頼文を用いて説明し依頼する方法に変更した.A県にある総合病院とB県にある小児専門病院の2施設の小児科医に協力を依頼した結果,2施設から協力が得られた(合計4施設から協力が得られた).なお,研究対象者募集用チラシの具体的な配布方法などは,対象施設と相談して決定した.その際,強制力が働かないよう,勧誘は行わず配布のみにとどめたり,配布は行わず掲示のみとするなど配慮した.調査はインタビューガイドを作成し,約1時間の半構造化面接を実施し,「看護師にどのような家族支援を希望しますか」や「看護師から受けた家族支援はどのような内容ですか」などの質問を行った.家族支援について説明する際には,専門用語を避け,分かりやすい表現を用いたり,例えを示すなど,対象者にとって分かりやすい説明に努めた.面接の内容は,対象者の承諾を得てICレコーダーに録音し,逐語録を作成してデータとした.
3. データ収集期間半構造化面接は,2019年7月から2020年3月に実施した.
4. 分析方法Elo & Kyngäs(2008)の質的帰納的内容分析の手法を用いて分析した.すなわち,面接により得られたデータ(逐語録)を熟読し,研究対象者により語られた,家族が希望する家族支援に着目した.この内容に関する語りを分析対象とし,それを表現する見出しを書き,コード化した.全てのコードはコーディングシートに集め,類似性と差異性に着目してグループ化し,サブカテゴリー,カテゴリーとして抽象度を高めた.なお,「家族支援」の内容は,本研究における定義と照らし合わせて判断し,これに該当しない支援,例えば,子どものケアなどの個人看護と判断できる内容については分析対象外とした.全ての分析過程において,質的研究に熟知した研究者(1名)からスーパーバイズを受けた.また,承諾が得られた研究対象者と小児がんの専門医に分析結果を確認してもらい,真実性の保証(Holloway & Wheeler, 1996/2006)に努めた.
5. 倫理的配慮本研究は,大阪市立大学大学院看護学研究科の倫理審査委員会(承認番号2019-8)と受審を求められた2施設の倫理審査委員会の承認を得て実施した.研究対象者には,研究の目的や方法,匿名性・安全性の保持などについて口頭および書面で説明を行い,書面による同意を得た.半構造化面接調査は約1時間を要するため,対象者の都合に合わせて日時を設定し,対象施設内のプライバシーが保護できる個室を確保し実施した.
A県の大学病院2施設と総合病院は,小児がん連携病院であり,B県にある小児専門病院は,小児がん拠点病院であった.いずれの施設も,院内には,院内学級やプレイルームが完備され,保育士が配置されるなど,子どもの療養環境が整っていた.
本研究に参加した家族は12家族(14名)で,基本属性は表1に示した.面接時間は平均67.8 ± 13.2分(51分から91分の範囲)であった.
I.D. | 参加者 | 参加者の年齢(歳) | 病児の年齢(歳) | 病名 | 家族形態 | 家族構成 | 付き添いの有無 | 親の就業状態 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
A | 両親 | 父親:33 母親:33 |
2 | 肝芽腫 | 核家族 | 両親 | あり | 父親:発症を機に休職 母親:発症を機に休職しその後パートで復職 |
B | 父親 | 46 | 17 | ユーイング肉腫 | 核家族 | 両親・弟 | なし | 父親:就業継続 母親:発症を機に退職予定 |
C | 母親 | 31 | 1 | 横紋筋肉腫 | 核家族 | 両親 | あり | 父親:就業継続 母親:専業主婦 |
D | 母親 | 42 | 9 | 急性リンパ性白血病再発 | 核家族 | 両親・兄 | あり | 父親:就業継続 母親:発症を機に休職 |
E | 母親 | 36 | 1 | ランゲルハンス細胞組織球症 | 核家族 | 両親・姉・兄 | なし | 父親:就業継続 母親:発症を機に休職 |
F | 母親 | 36 | 13 | 急性骨髄性白血病再発 (幼少時に神経芽細胞腫) |
核家族 | 両親・妹・妹 | なし | 父親:就業継続 母親:専業主婦 |
G | 母親 | 35 | 6 | 急性骨髄性白血病 | 核家族 | 両親・姉・兄・姉 | あり | 父親:就業継続 母親:発症を機に休職 |
H | 母親 | 44 | 8 | 急性リンパ性白血病 | 核家族 | 両親・姉 | あり | 父親:就業継続 母親:発症を機に休職 |
I | 母親 | 35 | 5 | 膵芽腫 | 拡大家族 | 両親・妹・祖母 | あり | 父親:就業継続 母親:発症を機に退職 |
J | 母親 | 38 | 7 | 急性リンパ性白血病 発達障害 |
拡大家族 | 母親・祖父母 | あり | 父親:ひとり親家族のため不在 母親:発症を機に退職 |
K | 母親 | 41 | 6 | 神経芽腫 | 拡大家族 | 両親・兄・姉 | あり | 父親:就業継続 母親:発症を機に休職後退職 |
L | 両親 | 父親:40 母親:35 |
9 | 急性リンパ性白血病 | 核家族 | 両親・妹・妹 | あり | 父親:発症を機に休職 母親:専業主婦 |
12家族の逐語録の分析から,7カテゴリー,23サブカテゴリー,82コードが抽出された(表2).以下では【 】内にカテゴリー,〈 〉内にサブカテゴリー,「 」内に参加者の語りを示した.文意が分かりにくい個所には,前後の文脈から( )内に言葉を補った.
カテゴリー | サブカテゴリー |
---|---|
家族への思いやりのある支援 | 家族の思いを傾聴する支援 |
家族の心情を察して寄り添う支援 | |
家族に親身になって向き合う支援 | |
家族への対応の仕方を工夫する支援 | |
家族差をふまえて家族への接し方を工夫する支援 | |
家族が気兼ねしない雰囲気づくりをする支援 | |
家族に配慮のある声掛けをする支援 | 家族の心情を理解し声掛けをする支援 |
家族を気遣い声掛けをする支援 | |
家族が気兼ねなく看護師に依頼できるよう声掛けをする支援 | |
病児への十分な支援の提供により家族が安心できるようにする支援 | 病児への気遣いにより家族が安心できるようにする支援 |
病児の生活を支援することで家族が安心できるようにする支援 | |
病児の個別性を尊重した対応をすることで家族が安心できるようにする支援 | |
病児への適切なケア提供により家族が安心できるようにする支援 | |
病児が安全安楽に過ごせるよう対応することで家族が安心できるようにする支援 | |
家族の負担を軽減する支援 | 家族に任せきりにせず病児のケアを引き受ける支援 |
外出泊や入退院に伴う家族の負担を軽減する支援 | |
家族の相談に乗る支援 | 家族の身近な相談相手になる支援 |
病児への対応方法を家族と共に考える支援 | |
家族に必要な情報を提供する支援 | 家族へのサポートに関する情報を提供する支援 |
病児の疾患・治療に関する具体的な情報を提供する支援 | |
家族の不安に対する情報を提供する支援 | |
家族と多職種を調整する支援 | 家族と医師を仲介する支援 |
家族の意向を把握し医療者間で病児への言動を統一する支援 |
この支援は,家族に関心を向け,家族の立場に立って状況や心情を推察し,家族の思いを汲み取りながら,家族が困らないよう配慮する支援を表しており,6 サブカテゴリーで構成された.
家族は,他病児やその家族への配慮,病児への気遣いなどから,病室では感情を抑え,看護師に十分に思いを話すことができない状況にあった.そのため,家族が気兼ねなく思いや感情を看護師に表出できるよう,時間や場所を確保して環境を整え,真摯な態度で話を聴く,〈家族の思いを傾聴する支援〉を希望していた.また,家族は,「私一人で(病児の病名の)告知を受けたんですね.その時は,1人(看護師が)付いてくださってて,一緒に.私が泣いてた時,ずっと一緒に居ってくださったのは,ありがたかったのかな.(家族I.D:D)」のように,家族を側で見守ることや,思いやりのある態度を示すなど,〈家族の心情を察して寄り添う支援〉を希望していた.
家族は,看護師との何気ない会話や関わりを通して,看護師への親しみや信頼が増したと語っており,〈家族に親身になって向き合う支援〉を希望していた.一方で,看護師の,家族への配慮の足りない対応には負担を感じていたため,家族の立場に立って伝え方を工夫したり言葉を選ぶなど,〈家族への対応の仕方を工夫する支援〉や,同じような支援であっても家族によって受け止め方が違うことに配慮し,〈家族差をふまえて家族への接し方を工夫する支援〉を希望していた.その他にも,家族は,役割規範から,看護師に支援を申し出ることが難しい状況にあったため,家族が困らないよう配慮して,看護師から支援を提案するなど,〈家族が気兼ねしない雰囲気づくりをする支援〉を希望していた.
2) 【家族に配慮のある声掛けをする支援】この支援は,家族の状況や心情を見極め,看護師から家族に働きかけを行うことで,家族が必要とする看護のきっかけを作る支援を表しており,3サブカテゴリーで構成された.
家族は,シャワー介助や内服など,病児の日常ケアに対する悩みや治療の副作用に苦しむ病児を見て辛い気持ちを抱くことがあったが,医療者に全てを打ち明けられるわけではなく,悩みや思いを抱え込んでいた.そのため,「みんな(他病児の親)が笑ってるから,あんまりこう,自分だけ泣けへん,泣かれへんっていうか.やっぱりニコニコしてしまうので.そこをこう,(看護師に)フォローしてもらえたっていう感じですかね.『お母さん,今,しんどいよね』とか,『私,看とくから,ちょっと休憩行ってきていいよ』って.(家族I.D:D)」のように,余裕のない家族の状況を見極め,〈家族の心情を理解し声掛けをする支援〉や,疲労やストレスが蓄積する状況を理解し,〈家族を気遣い声掛けをする支援〉を希望していた.また,きょうだいや夫婦間の関係性について気遣う声掛けは,家族に関する心配事を相談するきっかけとなっていた.一方で,看護師への支援の依頼は,看護業務の支障となるのではないかと感じていた家族もおり,〈家族が気兼ねなく看護師に依頼できるよう声掛けをする支援〉を希望していた.
3) 【病児への十分な支援の提供により家族が安心できるようにする支援】この支援は,病児を気遣い,安全を確保し,適切なケアを提供することにより,家族を不安にさせない支援を表しており,5サブカテゴリーで構成された.
家族は,病児が環境の変化に適応できるか不安に感じていたため,病児が医療者や他病児と関係性を構築できるよう配慮することや,病児が楽しむことができる遊びの提供など,〈病児への気遣いにより家族が安心できるようにする支援〉を希望していた.また,家族は,「(親として病児に対して)怒るし,あかん事はあかんて言うし.入院してても,やっぱり,(生活上の)決まり事とか守って欲しいし.(中略)せやから,何でも,ハイハイじゃなくて,そこは親として線引きして,しっかり(しつけを)やってあげななって.(家族I.D:L)」のように,入院により,社会性の発達の遅れや生活リズムの乱れが生じないか気がかりを感じていた.その他にも,遊びや学習の不足など,入院中の病児をもつ家族は,病児の入院生活に関する様々な心配事を抱えていたため,病児の生活に関する家族の気がかりが解消するよう,〈病児の生活を支援することで家族が安心できるようにする支援〉を希望していた.
家族は,家族不在時の病児の世話にも不安を抱いており,看護師の人柄や仕事の仕方から,適切に病児に対応してくれるかどうかを見極めて,病児のケアを看護師に任せて自宅に戻るかどうかを判断してた.そのため,〈病児の個別性を尊重した対応をすることで家族が安心できるようにする支援〉や,〈病児への適切なケア提供により家族が安心できるようにする支援〉を希望していた.また,家族は,看護師がライン類のトラブルや,転倒・転落の危険性を予測し,病児の状態に合わせて,環境を整える様子をみて安心感を抱いていた.そのため,病児にあった工夫をするなど,〈病児が安全安楽に過ごせるよう対応することで家族が安心できるようにする支援〉を希望していた.
4) 【家族の負担を軽減する支援】この支援は,家族が抱えている重荷を減らして軽くする支援を表しており,2サブカテゴリーで構成された.
病児に付き添う家族は,昼夜を問わず病児の世話を行っていたため,夜間熟睡することができず,日中も休息を取ることが難しい状況にあった.環境の変化に伴う,月経痛や腰痛などの身体的影響を受けており,加えて,日常的なケアを病児が嫌がる場合には家族もストレスを感じていた.そのため,家族が担う病児のケアを看護師が引き受けることや,家族が病児から離れられる時間を確保するなど,〈家族に任せきりにせず病児のケアを引き受ける支援〉を希望していた.また,家族は,付き添いや面会による,就業への影響も受けており,病児の小児がん発症を機に退職したケースもあった.仕事を継続している場合でも,業務量の調整や残業を減らすなどの影響が生じていた.「平日(に外泊時の病児の送迎)とか行けないんで.仕事で行けないですけど,夜間にしてくださいとか,土日とか,なるべく,そう言う(仕事の都合のつく)時間とかに合わせていただいたりとかね.(家族I.D:B)」のように,できるだけ職場に迷惑を掛けないよう気を配っていた.そのため,家族の仕事の都合に合わせて外出泊や入退院の日時を調整したり,事務手続きの効率化を図るなど,〈外出泊や入退院に伴う家族の負担を軽減する支援〉を希望していた.
5) 【家族の相談に乗る支援】この支援は,家族が家族自身の力で問題を解決できるよう,家族の話を聞き,家族とともに考えたり話し合う支援を表しており,2サブカテゴリーで構成された.
家族は,入院中も病児の健全な成長を願い,病児が発達に応じた生活習慣を身につけられるよう,病児の状況に応じた育児の方法を模索していた.また,闘病中の日々の生活に関する疑問や不安を抱えていた.そのため,医療や育児に関する専門的知識をもち,病児の性格・生活スタイルを理解している看護師に,〈家族の身近な相談相手になる支援〉を希望していた.また,家族は,「白血病なんやで,なんて(意思疎通がうまくできず,状況を理解することが難しい病児に)言っても全然ちんぷんかんぷんな感じやから.(説明の仕方が)難しいなと思って.(家族I.D:J)」のように,病気や危険防止について,病児が理解可能な方法で適切に説明ができず困っていた.そのため,病児への病状や治療の説明方法,病児の安全確保など,〈病児への対応方法を家族と共に考える支援〉を希望していた.
6) 【家族に必要な情報を提供する支援】この支援は,家族のニーズにあった知識や家族が物事を判断するのに役立つ材料を家族に与える支援を表しており,3サブカテゴリーで構成された.
施設によっては,小児がんの病児の入院が少ない施設もあり,このような場合に家族は,入院生活の工夫や治療経過に関する情報がピア(同じような立場や境遇,経験等を共にする人たち)から得られない状況であった.また,病児の小児がん発症を機に退職した家族の中には,休職制度があることを知らずに退職したひともいた.そのため,同じ病気の病児をもつ家族との交流についての情報や,就業する家族へのサポートなど,〈家族へのサポートに関する情報を提供する支援〉を希望していた.また,家族は,医療者から疾患や治療について情報提供を受けていても,病児が摂取可能な食事や,内服を嫌がる場合の服薬方法などの細やかな情報が不足し,判断に困っていた.治療の流れや退院後の生活を想像できず,休職・離職の判断に迷う家族も存在した.そのため,予測される病児の経過や外泊のタイミング,退院に関する情報など,治療の流れを具体的にイメージし退院後の生活を見通せるよう,〈病児の疾患・治療に関する具体的な情報を提供する支援〉を希望していた.その他にも,家族は,病児の治療や薬の副作用とその対処について不安を感じていた.「ほんと,ちっちゃなことだから.クリーム塗ったかなとか,うんちしたかなとか.ほんとなら電話して聞きたいくらい.(家族I.D:E)」のように,病児の状態の変化や親不在時の病児の様子に気がかりを感じていた.そのため,看護師にとっては些細な情報でも,家族にとっては重要な,このような〈家族の不安に対する情報を提供する支援〉を希望していた.
7) 【家族と多職種を調整する支援】この支援は,家族と看護師や家族と他の医療職の間の基準を合わせたり,状態を整える支援を表しており,2サブカテゴリーで構成された.
家族は,医師に相談や要望があっても,医師とのタイミングが合わなかったり,医師には伝えにくいと感じる傾向にあったため,家族と医師がコミュニケーションを取れるよう,〈家族と医師を仲介する支援〉を希望していた.
家族は,「私がいないところでね,やっぱり看護師さんや先生に(病児が小児がんのことを)聞いたりすることがあるかも(しれない).(中略)(親が病児にした説明と)同じ説明をしていただけたってことは(ありがたかった).(家族I.D:H)」のように,家族が病児にした説明内容と,医療者がする説明内容に食い違いが生じないか不安を感じていた.そのため,このような家族の思いを理解した上で,〈家族の意向を把握し医療者間で病児への言動を統一する支援〉を希望していた.
本研究の対象家族のうち,就業していた全ての母親が,子どもの小児がん発症を機に退職もしくは休職したり,退職の予定を立てていた.さらに,休職する父親もいたことから,家族の就業に影響が及んでいることは明らかであった.これは,小児がんが,長期療養を必要とするため,職場復帰の目途が立てにくいことや,不安の大きい疾患であるため,病児を支えようとする親の役割規範が影響していると考えられる.
2. 小児がんの病児をもつ家族が看護師に希望する家族支援の特徴本研究で明らかとなった7つの家族支援と,入院中の病児をもつ家族が看護師に期待する家族支援(平谷ら,2018)の結果を比較すると,一致する結果があるものの,【病児への十分な支援の提供により家族が安心できるようにする支援】と【家族と多職種を調整する支援】は,小児がんの病児をもつ家族が希望する家族支援として,特徴的な結果であった.先行研究の対象者には,急性疾患の治療や症状コントロールの目的で入院した子どもの家族が半数以上含まれていたため,希望する支援の違いは,病児の疾患による特徴の違いによるものと考えられる.小児がんの病児をもつ家族がこれらの支援を希望する理由として,小児がんが,長期の治療期間を要する見通しの立てにくい疾患である上,難治性や再発といった死を意識せざるを得ない不安の大きい疾患であること,晩期合併症や二次がんのような長期的な問題に対し,多職種によるトータルケアを必要とする疾患であることが考えられる.
3. 小児がんの病児をもつ家族が希望する7つの家族支援の意味本研究結果より,家族は,病児の小児がんの発症・再発や入院に伴い,苦悩を抱えていることが明らかになった.Wright(2005/2005)は,病に苦しむ患者や家族の苦悩を軽減・緩和するために,苦悩と苦悩する人を認めること,苦悩のストーリーを引き出し,耳を傾け,証人になること,病い体験を話す場のような苦悩を軽減する癒しの環境を作ることなどが有効と述べている.本研究により抽出された7つの家族支援のうち,家族への寄り添いや傾聴,親身になって向き合う【家族への思いやりのある支援】や,家族の心情を理解し,気遣い,声掛けをする【家族に配慮のある声掛けをする支援】は,Wrightが述べる苦悩を軽減・緩和する支援に該当すると考えられる.また,他の5つの支援についても,家族が,闘病生活のなかで経験する困難や苦しみに対して実践される支援であるため,家族の苦悩の軽減・緩和に繋がる可能性が考えられる.
【家族への思いやりのある支援】は,家族に関心を向け,家族の立場に立って状況や心情を推察し,家族の思いを汲み取りながら,家族が困らないよう配慮する支援を表していた.そのため,この支援の実施は,人間対人間の関係を築くプロセス(Travelbee, 1971/1996)であると考えられ,家族との信頼関係を築く上で重要な支援といえる.別の見方をすると,【家族への思いやりのある支援】は,看護師の態度や姿勢を表していることから,家族ケアリング(法橋ら,2016)に相当する支援であるとも考えられ,どの支援を実施する際にも必要不可欠な支援である.したがって,他の6つの支援を実施する際にも,この支援と組み合せて家族支援を行うことが必要である.ただし,同じ,入院中の小児がんの病児をもつ家族であっても,家族によって必要とする支援のタイミングや程度に違いがあるため,家族差をふまえて家族への接し方や対応の仕方を工夫することが必要と考えられる.
家族は,病児や家族の問題を抱えていても,誰に相談すればよいのか分からない状況にあるが(渡辺,2012),看護師が【家族に配慮のある声掛けをする支援】を行うことで,家族が抱える問題を知るきっかけとなり,必要な支援につなげることが可能となる.また,小児がんの病児をもつ母親の不安を軽減させる看護師の関わりとして,看護師からの気遣いのある言葉かけや励ましが報告されており(園田ら,2015),【家族に配慮のある声掛けをする支援】は,家族の不安の軽減にもつながると考えられる.
家族は,病児が住み慣れた家や家族と離れ,病院と言う特殊な環境で長期間過ごすことにより,成長・発達を含む,心身への影響や社会的な影響が生じることを懸念していた.また,家族は,日頃の看護師の病児への気遣いや対応の仕方を見て,病児のケアを看護師に任せて自宅に戻るかどうかを判断しており,家族は,看護師が適切にケアしてくれると感じることができなければ,安心して病児を病院に託すことができないことが推測できる.加えて,戈木(1999)は,小児がんの病児をもつ母親の主な不安は,医療者の観察不足や治療ミスと,期待するほど看護師が子どもの世話をしないことだと述べている.したがって,看護師は,【病児への十分な支援の提供により家族が安心できるようにする支援】を行うことが重要であり,家族が病児を安心して看護師に任せられると認識できれば,この支援の実施は,家族の安心や安定につながると考えられる.
先行研究の結果から(平谷ら,2018),長期にわたり病児に付き添う親は,体調不良を抱えていたことが報告されている.たとえ,毎日のように行う病児の世話であっても,家族にとっては大きな負担となりうることを考えると,【家族の負担を軽減する支援】が必要となる.上述したように,家族は,看護師が適切にケアしてくれると感じることができなければ,安心して病児を病院に託すことができないため,【病児への十分な支援の提供により家族が安心できるようにする支援】と組み合わせて,家族の負担が軽減するよう支援する必要がある.また,仕事をもつ親は,職場の協力を得ながら仕事を調整し,家族の役割を担っていた.しかし,慢性疾患を抱える病児をもつ親の調査では,約4割が就労調整上の困難を感じており(入江ら,2018),仕事を調整することは容易ではないことが推測できる.特に,小児がんは入院期間が長期に及ぶため,仕事の調整を必要とする機会が多くなる.本研究の対象家族の中には,仕事を調整できずに,休職や退職をした家族も多く存在した.したがって,【家族の負担を軽減する支援】は,家族にとって,仕事と病児の世話を両立させるために必要な支援であるとともに社会的にも重要な支援であると考えられる.
本研究の対象家族は,養育期から教育期の段階にあり,退院後の生活を見据えて病児が発達段階に応じた生活を身に着けられるよう教育的に関わっていた.病児の長期入院による家族役割の変化に伴う家族のストレス要因として,しつけや育児が報告されており(福井ら,2016),本研究の対象家族も,しつけや育児にストレスを感じやすいと考えられる.さらに,子どもは成長・発達の途上にあり,個別性が大きいため,家族の不安や悩みも変化しやすく多岐にわたる.したがって,家族が家族自身の力で問題を解決できるよう,病児と家族の身近にいる看護師が,【家族の相談に乗る支援】を行う必要がある.
他病児の付き添い者は,家族にとって入院生活の情報を得るためのサポート源だけでなく,母親を勇気づけ,励ます力となっていることが報告されている(服部ら,2007).そのため,【家族に必要な情報を提供する支援】を行い,家族がピアと思いを共有する機会をつくることは,家族への精神的な支援につながると考えられる.また,家族は,治療の副作用や生活上の注意点に関する情報を必要としているため(川村ら,2019),看護師は,専門的な立場から必要な情報をタイミングよく提供する必要がある.さらに,看護師が病児を看てくれているという安心感が,母親のセルフ・エンパワメントの生成を促進することが報告されていることから(横森ら,2014),容態に変化がない場合や看護師にとっては些細な情報であっても,家族不在時の病児の情報を提供することは,家族に安心感を与え,家族の力の向上につながると考えられる.
渡辺(2012)は,家族が行う治療の意思決定について,自分たちが医療者とともに下した決断だと感じるからこそ,治療過程で生じるさまざまな出来事への対処にも主体性を貫くことができ,家族が力を発揮することにつながると述べている.小児がんは,四肢切断のような機能障がいを伴う治療や,妊孕性温存のための治療など,小児分野以外の専門家との連携が必要であり,チーム医療が不可欠である.そのため,看護師は,家族と医療者のパートナーシップが形成できるよう【家族と多職種を調整する支援】を行い,多職種とともに,家族の意思決定や合意形成を支援する必要がある.また,小児がんの病児をもつ母親は,病児を死への恐怖や偏見から守るため,病児の病気のとらえ方に合わせた表現を用いて説明したいと考えていることが明らかにされている(袋田・堀田,2019).したがって,病児への疾患説明に関する家族の意向を医療者間で共有し,病児への言動を統一する支援が重要である.看護師が,このような,家族の希望に沿った家族支援を行うことは,家族の不安や負担を軽減し,家族が病児の入院という危機を乗り越えることを助けると考えられる.
4. 研究の限界と課題本研究は,限定された地域における一部の病院で実施した調査であることや,病期や入院回数の違いを加味して分析していないことから,研究結果を入院中の小児がんの病児をもつ家族が看護師に希望する家族支援として一般化することはできない.また,対象者にとって家族支援の理解は難しく,全ての語りが,必ずしも,家族支援の定義通りに語られていない可能性も考えられる.今後は,対象を拡大して調査を継続し,知見を集積していく必要がある.
小児がんの病児をもつ家族が看護師に希望する支援として,【家族の負担を軽減する支援】などの7つの家族支援が明らかとなった.看護師が,状況に応じて,これらの家族支援を組み合わせ,適切に提供することは,家族の抱える心理・社会的な問題や,不安,負担の軽減に繋がるであろう.
付記:本研究は,大阪市立大学大学院看護学研究科博士前期課程に修士論文として提出したものの一部に加筆,修正をしたものである.また,本論文の一部は,15th International Family Nursing Conferenceにおいて発表した.
謝辞:本研究にご協力いただきました対象者の皆様と,研究対象施設の皆様に深く感謝申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:AOは,研究の着想および研究計画,データの入手と分析,論文作成を行った.YHは,研究計画,データ分析,論文作成に関わり,研究プロセス全体への助言を行った.STは,論文作成に関わり,研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者は,最終原稿を承認した.