日本看護科学会誌
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原著
通院患者のがん疼痛セルフマネジメントを促進する看護介入プログラムの臨床的有用性の評価
山中 政子鈴木 久美山本 桂子柳井 瑞乃吹田 智子加藤 理香藤田 美佐緒江藤 美和子神山 智秋
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2022 年 42 巻 p. 150-159

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Abstract

目的:通院患者のがん疼痛セルフマネジメントを促進する看護介入プログラムを臨床適用し有用性を評価した.

方法:通院患者10名に本プログラムを用いた対面式個別介入を実施し,介入前後の疼痛強度,日常生活への支障,QOL,自己効力感,不安・抑うつを比較した.

結果:対象者は平均年齢59.9歳(SD 8.3)であった.介入前後で効果量が大きかったのは不安(r = .63)と抑うつ(r = .67)で有意に低下した(p < .05).有意差はないが効果量が中程度であった最も強い痛み(r = .36),平均の痛み(r = .33),日常生活への支障合計(r = .31)は介入後に低下し,鎮痛治療への満足感(r = .36)は介入後に上昇した.

結論:患者の不安・抑うつが有意に改善し,疼痛強度と日常生活への支障合計,鎮痛治療への満足感において効果量が中程度であったことから,本プログラムは臨床的に有用であると示唆された.

Translated Abstract

Purpose: This study aimed to evaluate the clinical utility of a nursing intervention program to promote cancer pain self-management for outpatients by adapting the program for clinical practice.

Methods: This study used a single-group, pre-post intervention comparative research design. In the study, a face-to-face individual intervention using the program was conducted three times for 10 outpatients with cancer pain. A self-administered questionnaire survey was conducted, and the scores of pain intensity, interference with daily life, quality of life, self-Efficacy, anxiety and depression were compared and analyzed before and after the intervention.

Results: The mean participant age was 59.9 (SD 8.3) years. The items that had a large effect size comparing those before and after the intervention were anxiety (r = .63) and depression (r = .67), which decreased significantly (p < .05). The items that were not significantly different but had a medium effect size were the most severe pain (r = .36), average pain (r = .33), and total interference with daily life (r = .31), which both decreased after the intervention. The satisfaction with the analgesic treatment (r = .36) increased after the intervention.

Conclusion: Patient anxiety and depression decreased significantly, and pain intensity, interference with daily life and satisfaction with analgesic treatment had a medium positive effect size. Overall, this program was suggested to have clinical utility.

Ⅰ. はじめに

がん疼痛は多くのがん患者が経験する症状である.日本では通院中の進行がん患者の約60%が痛みを有し,約半数が身体的苦痛とこころのつらさを感じている(Yamagishi et al., 2012).また,がん疼痛の除痛率は外来患者で24.7%,入院患者で35.8%と外来患者の方が有意に低い(p < .001)(榊原ら,2015).近年,在院日数の短縮やがん支持療法の発達によってがん患者の通院治療が増加し,これに伴い外来診察の場で麻薬性鎮痛薬が初回導入されるようになっている.今後も麻薬性鎮痛薬を使用する通院患者は増加すると推測される.したがって,がん疼痛のある通院患者が痛みを緩和し,日常生活やこころの安寧を維持できるよう支援することは重要課題である.

がん疼痛は日常生活行動や社会生活に支障を及ぼすだけでなく,こころのあり様に影響する複雑な痛みであり,痛みや鎮痛薬の自己管理が必要になる(山中ら,2016).特に,通院患者は医療者から離れた自宅で痛みや鎮痛薬に関する判断や対処を自身で行わなければならない.しかし,がん疼痛のある患者が鎮痛薬への懸念から使用を最小限にとどめていると報告されているように(山中ら,2016村上・廣川,2018),患者ひとりで痛みの状況を判断し対処することは難しい.がん患者はセルフマネジメントによって医療者とのパートナーシップのもとエンパワーされて目標達成に向かうとされている(McCorkle et al., 2011).通院患者が自宅でがん疼痛の諸問題に取り組むためには,主体的にがん疼痛を管理するセルフマネジメントが必要となる.がん疼痛のある通院患者のセルフマネジメントには,医療者との協働関係の形成や社会生活に合わせた心身両面からの対処,自己効力感の高まりなど複数の要素が存在すると報告されている(Yamanaka, 2018a).そのため,医療者主導で疼痛緩和法の助言や指導を行う関わりでは患者の主体性を促すことは難しいと考えた.海外では,がん患者のセルフマネジメントを支援する介入の比較対照試験が行われているが(Koller et al., 2018Musavi et al., 2021),日本の外来に適用可能な看護介入プログラムは見当たらない.そこで,通院患者ががん疼痛の諸問題に患者自ら取り組めるようになることを目指して,通院患者のがん疼痛セルフマネジメントを促進する看護介入プログラム(以下,Cancer Pain Self-managementプログラム;CPSMプログラム)を開発した(Yamanaka & Suzuki, 2021).本研究はCPSMプログラムの有効性検証の前段階としてはじめて臨床に適用し,有用性を評価することを目的とした.

Ⅱ. 研究の枠組み

がん疼痛のセルフマネジメントの概念分析と(Yamanaka, 2018b),通院がん患者へのインタビュー調査(Yamanaka, 2018a)をもとに,通院患者のがん疼痛セルフマネジメントとCPSMプログラムの関係を図式化した(図1).がん疼痛のある通院患者は,痛みによる日常生活および社会生活の支障と,痛みによる意欲の低下,麻薬性鎮痛薬の副作用による生活の支障という「がん疼痛から派生する課題」をもっている.この課題に対し,「医療者との協働関係」のもと「がん疼痛から派生する課題を意識化」し,「痛みのセルフモニタリング」と「医療者とのやり取りや身体感覚に基づく鎮痛薬の自己調整」,痛みに影響される「こころの変化の自己調節」,「生活を維持するための自己努力」というがん疼痛セルフマネジメントを行っており,CPSMプログラムはこのがん疼痛セルフマネジメントを促進するものとして位置づけた(図1).CPSMプログラムの目標は,がん疼痛のある通院患者が,医療者との協働関係のもと,がん疼痛から派生する課題に対し,生活に合わせて積極的に対処する中で自己効力感を高めることにより,痛みが緩和され心理的安定とQOL向上につながることとした.そのため,本研究は,痛みの強さと日常生活への支障,鎮痛治療の効果と満足感,QOL,自己効力感,不安と抑うつ,本プログラムに対する患者評価の観点から有用性を評価することとした.

図1 

通院患者のがん疼痛セルフマネジメントと通院患者のがん疼痛セルフマネジメントを促進する看護介入プログラムの関係

Ⅲ. 研究方法

1. 研究デザイン

本研究は,対照群を置かない単群の前後比較による介入研究とした.

2. 研究対象者

研究対象者は,関西圏のがん診療連携拠点病院3カ所に通院中のがん疼痛のある患者で,研究の同意が得られた者とした.選定基準は,20歳以上,がん告知を受けている,推定余命が6カ月以上,悪性腫瘍を原因とする痛みが1週間以上持続,がん疼痛に対し麻薬性鎮痛薬を使用中で服薬指導を受けた経験ありとした.2ヶ月以内に外科的治療や入院を予定している者や,認知機能障害および精神疾患を診断されている者は除外した.

3. 調査期間

調査期間は2019年6月26日~2020年10月30日であった.

4. CPSMプログラムの概要と実施方法

CPSMプログラムは,先行研究(山中・鈴木,2018Yamanaka, 2018aYamanaka, 2018b)の結果をもとに考案した.考案したプログラムは,通院患者に関わるがん看護分野の専門看護師・認定看護師と薬剤師の計12名の意見をもとに洗練し,適切性と臨床適用可能性を評価した(Yamanaka & Suzuki, 2021).

本プログラムの構成要素は,医療者とのコミュニケーションを促す,痛みに関する課題の意識化を促す,痛みのセルフモニタリングを促す,麻薬性鎮痛薬と副作用の自己調整を促す,ストレスマネジメントを促す,生活を維持するための備えを促す,の6つとし,これらを促進する介入方法として,自己効力理論が体系的に組み込まれている「慢性疾患の人のためのセルフマネジメントプログラム」(Lorig et al., 2012)を参考に,教育的支援,認知的支援,行動的支援,情緒的支援を用いることとした.また,がん疼痛セルフマネジメントが医療者との協働関係に基づくものであることから,看護師の基本的態度は,患者とのパートナーシップを構築するため,患者との対話を重視し,痛みのマネジメントに関する患者の意見を聞いて共有し一緒に考えることとした.本プログラムの詳細は表1に示す通りである.介入提供者は,がん看護分野の専門看護師と認定看護師で,対面式個別介入を3回実施した.がん疼痛セルフマネジメントの属性のひとつに「痛みに関する課題解決のプロセス」があることや(Yamanaka, 2018b),介入内容とそれにかかる時間を考慮したことから,介入を段階的に進める必要があると考え3回とした.介入時期として,介入1回目は麻薬性鎮痛薬を使用中にも関わらずがん疼痛が持続・増強しており看護介入が必要と判断したタイミングに実施した.介入2回目は介入1回目の次回外来診察日,介入3回目は介入2回目の次回外来診察日に実施した.3回の介入は同じ看護師が1回30分程度で実施し,対象者の家族も同席可能とした.

表1  通院患者のがん疼痛セルフマネジメントを促進する看護介入プログラムの内容
介入1回目 介入2回目
(介入1回目の次回外来診察日)
介入3回目
(介入2回目の次回外来診察日)
患者目標
■痛みの経験を看護師へ詳細に伝えることができる.
■薬理学的疼痛緩和法および非薬理学的疼痛緩和法について理解することができる.
■痛みと鎮痛薬のセルフモニタリングの意義と方法を理解することができる.
■セルフモニタリングの結果から,痛みの緩和目標と行動計画を看護師と共同で設定することができる.
■医療者とのコミュニケーションの重要性を理解することができる.
■自立した生活を維持するためのこころとからだの療養法について理解することができる.
■行動計画の成果を医療者と共有し,行動計画の継続・追加・変更について話し合い設定することができる.
■今後の生活を維持していくための備えについて考えることができる.
■痛みの緩和には自身の主体性が重要であることを認識することができる.
麻薬性鎮痛薬と副作用の自己調整を促す・生活を維持するための備えを促す・医療者とのコミュニケーションを促すための教育的支援:
痛みから派生する課題を解決していくために必要な知識と技法を理解するための支援
●自己紹介する
●プログラムの目標と流れを説明する.
●現在,服用中の鎮痛薬の内容と服用指示について確認する.
●「麻薬性鎮痛薬について」「麻薬性鎮痛薬の保管に関する注意事項」「こんなときは病院に連絡してください」を説明する.
●次回セッションまでに,「痛みを緩和するための鎮痛薬以外の方法」「日常生活の活動に大切な運動と食事」「医師や医療スタッフとのコミュニケーション」を読んで頂くよう促す.
●読んで頂いた患者用ブックレットを媒体として,感想や質問などを問いかけ,話し合い,必要とされる助言や情報提供を行う.
●麻薬性鎮痛薬に対する考えや認識を確認する.
●今後の生活を維持するために必要な備えについて話し合い,患者のニーズに合わせた情報提供を行う.
痛みのセルフモニタリングを促す・痛みに関する課題の意識化を促す・麻薬性鎮痛薬と副作用の自己調整を促すための認知的支援:
自身の身体の声に聴いて,痛みと鎮痛薬の状況を自己分析するための支援
●痛みは他者には理解されにくいものであるため,痛みの状況を医療者に伝えることが重要であると説明する.
●痛みの日記の使用状況を確認し,使用を促す.
●セルフモニタリングの結果をもとに,痛みと鎮痛薬の関連性や副作用の状況について,一緒に分析する. ●セルフモニタリングの結果をもとに,患者が自己分析したことや考えを聴き,話し合う.
痛みのセルフモニタリングを促す・痛みに関する課題の意識化を促す・麻薬性鎮痛薬と副作用の自己調整を促すための行動的支援:
患者が日常生活の中で疼痛緩和法を実行するための支援
●患者と一緒に痛みのアセスメントを行う.
・痛みの状態およびレスキュー薬使用前後の痛みの変化,副作用の状況.
・痛みの原因に対する理解.
・鎮痛薬に関する認識や疑問.
・痛みから派生する日常生活・社会生活での困り事.
・疼痛緩和で達成される自己像(なりたい自分)や自分らしい生活
●実現可能で具体的な目標を一緒に考える.
●目標達成のための行動計画を一緒に考える.
●行動計画の実行にあたり,医師に対して質問し,考えていることを相談できるよう援助する.
●行動計画の実行状況を一緒に振り返り,自分が積極的に取り組んだことやその成果を実感してもらう.
●患者の行動を目標の到達度から一緒に評価し,必要に応じて計画や方法の変更について話し合う.
●今後どのように鎮痛薬を使っていきたいかの考えを聴く.
●鎮痛薬に対する考えや意向を患者の言葉で医師に伝えられるよう支援する.
ストレスマネジメントを促すための情動的支援:ストレスマネジメントを実行するための支援
●患者の語りに関心を示して傾聴する. ●患者の語りに関心を示して傾聴する.
●ストレスへの対処法として取り組んでいることや今後のストレス対処法について話し合う.
●患者の語りに関心を示して傾聴する.
●ストレス対処法の効果について話し合う.

患者用教材として痛みのセルフマネジメントノートと痛み日記を作成した.セルフマネジメントノートには,看護師と対話しながら痛みの分析などを記入できるようにした.本プログラムの導入前に,介入提供者に介入の主旨や目的,介入方法,自己効力感を高める関わり方を記載した看護実践ガイドを用いて説明し,均一な介入ができるようにした.自己効力感を高める関わり方として,痛みのアセスメントを患者と共に行い患者が問題に気づくよう関わる,疼痛緩和で達成される自己像やチャレンジしたいことを尋ねて目標を共有する,一方的な助言や指導を避ける,痛みのアセスメント内容を伝える前に患者の自己分析を促す,痛みへの対応策は患者がどうしたいのかを尊重する,などがある.

5. データ収集方法

1) 調査内容

(1) 基礎データ

対象者の基礎データとして,年齢,性別,就労の有無,同居家族の有無,がんの原発部位,がん疼痛の部位と種類,現在のがん治療の内容,鎮痛薬の種類とレスキュー薬の使用回数,Performance Status(PS),疼痛管理の質を収集した.疼痛管理の質はPain management Index(PMI)を用いた.PMIはがん患者の疼痛管理の質の指標であり,信頼性,妥当性が検証されている(Cleeland et al., 1994).WHO3段階除痛ラダーの鎮痛薬のレベルと疼痛の程度を組み合わせて点数化した.得点範囲は–3~3点で,PMI < 0は疼痛治療不十分と評価される.

(2) BPI-J

痛みの強さと日常生活への支障,および鎮痛治療の効果と満足感は,Brief pain inventory(short form)日本語版(BPI-J)を用いた.BPI-JのCronbachのα係数は0.8以上で,がん疼痛に対する信頼性と妥当性が検証されている(Uki et al., 1998).痛みの強さは,24時間以内の最も強い痛みと平均の痛み2項目を0~10の11段階で回答を得た.数値が大きいほど痛みが強いことを示す.日常生活への支障は11段階で問い,項目ごとに集計した.得点範囲は0点~70点で,得点が高いほど日常生活への支障が大きいことを示す.鎮痛治療の効果は0%(少しも軽減しなかった)~100%(完全に和らいだ)で,鎮痛治療への満足感は0(満足していない)~10(非常に満足している)の11段階で回答を得た.

(3) QOL

QOLは,Short-Form 36-Item Health Survey(Ware & Sherboune, 1992)の短縮版である12 item Sort-form health survey(SF-12)日本語版を(福原・鈴鴨,2004),ライセンス契約し用いた.健康関連QOL尺度であるSF-12は,8つの下位尺度の①身体機能,②日常役割機能(身体),③日常役割機能(精神),④全体的健康観,⑤社会生活機能,⑥痛みによるいつもの仕事・家事の妨げ,⑦活力,⑧心の健康で構成されている.12項目を3件法または5件法で問い,項目ごとに集計した.得点範囲は12点~56点で,得点が高いほどQOLが良いことを示す.

(4) 自己効力感

自己効力感は,痛みがあるなかでの自己効力感を評価するPain Self-Efficacy Questionnaire(PSEQ-J)(Nicholas, 2007)の日本語短縮版を用いた(Adachi et al., 2019).短縮版のCronbachのα係数は0.9で信頼性と妥当性が検証されている(Adachi et al., 2019).4項目を7件法で問い,合計得点を算出した.得点範囲は0点~24点で,得点が高いほど自己効力感が高いことを示す.

(5) 不安と抑うつ

不安と抑うつは,Hospital anxiety and depression scale(HADS)(Zigmond and Snaith, 1983)の日本語版(Zigmond and Snaith/北村訳,1993)を用いた.がん疼痛患者への介入研究では,心理状態をHADSで評価している研究が多いため(山中・鈴木,2018),HADSを用いた.HADS日本語版のCronbachのα係数は,不安尺度で0.8以上,抑うつ尺度で0.7以上あり,信頼性と妥当性が検証されている(東ら,1996).不安7項目と抑うつ7項目を4件法で問い,それぞれの合計得点を算出した.0~7点を「不安,抑うつなし」,8~10点を疑診,11点以上を確診と評価する.

(6) CPSMプログラムに対する患者評価

CPSMプログラムに対する患者評価項目は独自に作成した.看護師の介入,痛みのセルフマネジメントノート,痛み日記について「よい」~「よくない」の5段階,介入時間を「短い」~「長い」の5段階で問い,項目ごとに集計した.また,感想を問う自由記載欄を設けた.

2) 調査方法

調査は,対象者への自記式質問紙調査により行った.調査時期は,看護介入前と介入3回目終了後の2時点である.質問紙の配布は介入提供者が行い,質問紙の回収は個別郵送法にて行った.対象者の基礎データは介入提供者が診療録や聞き取りにより収集した.

6. 分析方法

対象者の基礎データや感想は項目ごとに単純集計した.PMI,BPI-J,SF-12,PSEQ-J,HADSは正規性がみとめられなかったためWilcoxonの符号付き順位検定を行い,効果量は求められたZから算出した(r = Z/√N).分析には統計ソフトSPSS statistics version 25を使用し有意水準を5%とした.効果量rの目安は,.10を小さい,.30を中程度,.50を大きいとした(水本・竹内,2008).自由記載は内容の類似性によりカテゴリー化した.

7. 倫理的配慮

本研究は天理医療大学研究倫理審査委員会(第134号),第二大阪警察病院看護倫理委員会(承認日2019年7月5日),箕面市立病院倫理委員会(承認日2019年7月24日),ベルランド総合病院臨床研究審査委員会(承認番号2019-015)の承認を得て実施した.研究対象者には,研究の趣旨,目的,プログラムの内容と実施方法,研究方法,研究参加の任意性や途中辞退の保障,利益と不利益,個人情報の保護,データの管理および破棄について文書と口頭で説明し書面で同意を得た.

Ⅳ. 結果

1. 対象者の概要

調査期間中に研究の同意が得られた者は15名であったが,状態悪化のため入院した者が5名,CPSMプログラムを完遂した者が10名(完遂率66.7%)であった.本プログラムを完遂し,有効回答が得られた10名を分析対象とした.対象者の背景は表2に示す通りである.介入1回目から2回目の平均日数は18.9日(7日~56日),介入2回目から3回目の平均日数は17.7日(6~37日)であり,外来診察日の間隔に応じて介入時期に違いがみられた.

表2  対象者の背景 n = 10
項目
年齢 平均(標準偏差) 59.9歳(SD 8.3)
年齢範囲 46~70歳
性別 男性 4名
女性 6名
人数 (%)
職業 会社員 4 (40.0)
主婦 3 (30.0)
無職または休職中 3 (30.0)
同居の家族 6 (60.0)
4 (40.0)
Performance Status(PS) 0 2 (20.0)
1 5 (50.0)
2 1 (10.0)
3 2 (20.0)
がんの原発臓器 大腸 4 (40.0)
卵巣 2 (20.0)
食道 1 (10.0)
1 (10.0)
乳房 1 (10.0)
膵臓 1 (10.0)
がんの治療(のべ) 化学療法 8 (72.7)
ホルモン療法 1 (9.1)
放射線療法 1 (9.1)
なし 1 (9.1)
がん疼痛の部位(のべ) 胸部 2 (12.5)
肩・背部 1 (6.3)
腹部 5 (31.3)
腰部 2 (12.5)
臀部 2 (12.5)
会陰部 1 (6.3)
上肢 1 (6.3)
下肢 2 (12.5)
痛みの種類(のべ) 侵害受容性疼痛 10 (76.9)
神経障害性疼痛 3 (23.1)
鎮痛薬 NSAIDs 10 (100.0)
麻薬性鎮痛薬 10 (100.0)
麻薬性鎮痛薬の定時投与量の介入前後における変化 増量 4 (40.0)
同量 4 (40.0)
減量 2 (20.0)
レスキュー薬使用回数の介入前後における変化 増加 4 (40.0)
同じ 2 (20.0)
低下 4 (40.0)
疼痛管理の質(PMI) 中央値[四分位範囲] p
 介入前 2[0~2.00] .350
 介入後 2[1.75~3.00]

2. CPSMプログラム介入前後におけるBPI-J,SF-12,PSEQ-J,HADSの変化

CPSMプログラム介入前後における変化は表3に示す通りであった.BPI-Jの全項目では介入前後で有意差は認められなかったが,最も強い痛み(r = .36),平均の痛み(r = .33),気分・情緒への支障(r = .36),生活を楽しむことへの支障(r = .47),日常生活への支障の合計(r = .31)の効果量は中程度であり,介入後得点が低下していた.また,通常の仕事への支障は効果量が大きく(r = .56),介入後得点が低下していた.鎮痛治療への満足感は介入前後で有意差は認められなかったが,効果量は中程度(r = .36)で,介入後得点が増加していた.SF-12の日常役割機能(身体)は有意差がみられ効果量も大きく(p < .05, r = .70),介入後得点は増加していたが,他の項目および合計は有意差が認められなかった.日常役割機能(精神)は効果量が中程度で(r = .49),介入後得点が増加していた.痛みによるいつもの仕事・家事への妨げ(r = .59)と活力(r = .59)は効果量が大きく,介入後得点が低下していた.PSEQ -Jは有意差が認められず,効果量はr = .08と小さかった.HADSは,不安(p < .05, r = .63)と抑うつ(p < .05, r = .67)ともに有意差が認められ,効果量は大きく,介入後得点が低下していた.

表3  通院患者のがん疼痛セルフマネジメントを促進する看護介入プログラム前後におけるBPI-J,SF-12,PSEQ-J,HADSの変化 n = 10
介入前 介入後 Z p 効果量r
中央値 [四分位範囲] 中央値 [四分位範囲]
BPI-J
疼痛強度
最も強い痛み 3.00 [1.75~8.00] 1.50 [0~3.63] 1.129 .259 .36
平均の痛み 2.00 [1.00~5.25] 1.75 [0~2.63] 1.054 .292 .33
日常生活への支障
日常生活の全般的活動 1.50 [0~8.00] 1.00 [1.00~3.25] 0.052 .959 .16
気分,情緒 3.00 [1.00~5.00] 0.50 [0~5.00] 1.131 .258 .36
歩行能力 1.00 [0~5.50] 0.50 [0~1.25] 0.426 .670 .14
通常の仕事 4.50 [0~10.00] 1.00 [0~2.33] 1.757 .079 .56
対人関係 0.50 [0~7.25] 0.00 [0~1.70] 0.931 .352 .29
睡眠 2.50 [0~5.00] 0.50 [0~4.75] 0.566 .572 .18
生活を楽しむこと 4.00 [0.80~5.50] 0.00 [0~3.28] 1.472 .141 .47
14.50 [8.25~46.25] 4.00 [2.75~20.90] 0.968 .333 .31
鎮痛治療の効果 85.00 [57.50~90.00] 90.00 [77.50~92.50] 0.776 .438 .25
鎮痛治療への満足感 8.65 [5.75~9.25] 9.00 [8.00~9.25] 1.131 .258 .36
SF-12
身体機能 62.50 [43.75~100.00] 71.05 [25.00~100.00] 0.344 .731 .11
日常役割機能(身体) 43.75 [25.00~75.00] 62.50 [46.88~100.00] 2.209 .027 .70
痛みによるいつもの仕事・家事への妨げ 75.00 [18.75~75.00] 25.00 [0~27.63] 1.856 .063 .59
全体的健康感 72.50 [60.00~88.75] 78.15 [60.00~88.75] 0.271 .786 .09
活力 75.00 [68.75~100.00] 57.90 [25.00~81.25] 1.852 .064 .59
社会生活機能 62.50 [25.00~100.00] 87.50 [50.00~100.00] 0.768 .443 .24
日常役割機能(精神) 56.25 [25.00~75.00] 68.75 [50.00~100.00] 1.544 .123 .49
心の健康 62.50 [50.00~75.00] 62.50 [50.00~66.15] 0.175 .861 .06
486.25 [438.13~572.50] 501.85 [453.75~559.38] 0.059 .953 .02
PSEQ-J 13.00 [6.50~19.25] 13.50 [6.00~16.50] 0.238 .812 .08
HADS
不安 5.50 [3.00~9.00] 3.50 [1.75~6.50] 1.980 .048 .63
抑うつ 5.00 [3.25~9.25] 3.50 [2.00~5.50] 2.127 .033 .67

Wilcoxonの符号付き順位検定

3. CPSMプログラム終了後の対象者の感想

全員が看護師の介入を「よい」と回答し,痛みのセルフマネジメントノートと痛み日記を「よい」「ややよい」と回答したものは,それぞれ8名と6名であった.感想のカテゴリーとして,【日記を書きづらい時がある】【痛み増強時ほど痛み日記をつけた】【痛みの対処法がわかり目標をもてた】【看護師との会話から気づきや学びを得た】【気持ちが安定した】が抽出され,代表的な記述として,「調子が悪いと痛み日記がおっくうになる」「調子が悪い時の方がこまめに日記をつけた」「書くと痛みのコントロールや対処方法がわかるようになってきた」「痛み日記,自分の生活の見直しができて良かった」「思い出して記録することや目標を立てることなど,とても自分のためになった」「痛みを分析して目標をもつことができた」「毎回,色々な気付きがあってよかった」「厳しい話が続く中,話すことで落ち着くことができた」があった.

Ⅴ. 考察

1. CPSMプログラムによる痛みの強さ,日常生活への支障,鎮痛治療への満足感の変化

プログラム前後で痛みの強さ,日常生活への支障,鎮痛治療への満足感は有意差が認められなかったが,通常の仕事への支障は効果量が大きかった.また,効果量が中程度だったのは,最も強い痛みと平均の痛み,気分・情緒への支障,生活を楽しむことへの支障,日常生活への支障合計でいずれも介入後に低下し,鎮痛治療への満足感は介入後に上昇していた.対象者3名が侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛を併存しており,難治性疼痛が含まれていると考えられるが,痛みと日常生活への支障が低下し,鎮痛治療への満足感が高まったことから,CPSMプログラムは臨床的に有用であると示唆される.がん疼痛患者はできるだけ麻薬性鎮痛薬を使用したくないと考えているため,レスキュー薬の使用を最小限に止めている(山中ら,2016村上・廣川,2018).一方,鎮痛薬の切れ目にレスキュー薬を使用する人は平均の痛みが有意に低い(p < .05)と報告されている(千葉ら,2019).対象者の4名がレスキュー薬の使用回数を増加させていたことから,患者がレスキュー薬を自己調整できるようになったことで痛みと日常生活への支障が低下し,鎮痛治療への満足感が高まったのだと推察する.また,CPSMプログラムによって,セルフモニタリングした結果を患者と共に振り返り,自己分析できるよう支援したことにより,患者は痛みと鎮痛薬,生活行動との関連性に気づいて痛みに関する課題を意識化することができ,痛みに関する課題に対する方略としてレスキュー薬の自己調整が促されたのではないかと推察する.さらに,患者の感想である「痛みを分析して目標をもつことができた」,「痛み日記,自分の生活の見直しができて良かった」からは痛みへの主体的な取り組みが伺え,「毎回,色々な気付きがあってよかった」からは看護師と話し合う姿が伺える.Koller(2012)は,セルフマネジメントに焦点化された介入や,専門家と問題を議論する十分な時間が疼痛緩和と満足感をもたらしたと報告している.このことから,本プログラムが疼痛緩和と満足感をもたらしたのは,対面式個別介入を採用したことや,痛みのマネジメントに関する患者とのコミュニケーションを基盤にセルフモニタリングと鎮痛薬の自己調整を促進する内容になっているからだと考える.

2. CPSMプログラムによるQOL,自己効力感,不安と抑うつの変化

HADSの不安と抑うつは,介入後で有意に低く効果量も大きかったことから,CPSMプログラムは不安と抑うつの改善をもたらすことが示された.その理由として,本プログラムが,患者と対話し,痛みに関する患者の意見を聞いて共有し一緒に考えることを看護師の基本的態度としたことがあげられる.外来がん患者において,主治医と話すことへのためらいと患者のコミュニケーション行動との間には負の相関関係があり(小川ら,2015),通院がん患者は痛みのつらさをわかってもらえないと感じていると報告されている(平岡,2015).そのため,看護師との個別介入が患者のコミュニケーションニーズを満たし,わかってもらえないつらさを軽減して不安と抑うつの改善をもたらしたのだと考える.また,不安と抑うつの改善をもたらした理由として,痛みが緩和したらチャレンジしたいことやなりたい自分をセルフマネジメントノートに記述する方法をとったことがあげられる.山中ら(2016)は,がん疼痛のある進行肺がん患者は,家族や社会復帰を心の拠りどころに新たな生きる意味や価値,希望を見出してがん治療や社会生活に臨んでいると報告している.患者はこれまで,がんの診断や再発・転移,抗がん治療の変更といった悪い知らせを少なからず受けてきたと推察する.そのような状況において,疼痛緩和で達成される自己像を言語化して目標を設定する本プログラムの内容が,患者に新たな希望やこころの拠りどころをもたらしたのではないかと推察する.

SF-12合計とPSEQ-Jに有意差がなく効果量も小さかったことから,本プログラムがQOLおよび自己効力感の改善をもたらすことは示されなかった.SF-12は全体的健康感や心身の機能状態を測定する包括的QOL尺度であり,PSEQ-Jは痛みがあってもできるという自信を測定する尺度である.対象者の9名(90%)は抗がん治療中であったことから,進行がん患者が多かったと考えられる.進行がんにおいてはがん治療の副作用による身体的苦痛や感染予防の行動制限,再発・転移などの疾病不安が常に存在するため(小澤・有田,2020),本プログラムによるQOLの向上と自己効力感の高まりが認められなかったと推察する.

3. CPSMプログラムに対する患者評価

対象者の全員が看護師の介入を「よい」と回答し,「毎回,色々な気付きがあってよかった」「厳しい話が続く中,話すことで落ち着くことができた」という感想が得られた.また,対象者の8名(80%)が,痛みのセルフマネジメントノートを「よい」「ややよい」と回答していた.このことから,対面式個別介入を採用したことや患者用冊子は適切であったと考える.がん疼痛治療では鎮痛薬の投与量やレスキュー薬の使用方法は患者個々に設定されるため,患者の個別性に応じた介入を行ったことが功を奏したと考える.しかし,本研究におけるプログラムの完遂率は66.7%であり,先行研究の完遂率68.4%(Koller et al., 2018)と同程度であるがやや低いと考える.完遂できなかった理由が状態悪化による入院であったため,今後は,早い時期から介入できるよう患者の選定基準や開始時期を検討する必要がある.また,患者用冊子が書きづらいとの意見があったため,より使いやすくなるよう教材を修正する必要がある.

4. 本研究の限界と今後の課題

本プログラムの介入を外来診察日に実施したため,各介入の間隔を統制できなかったことが結果に影響している可能性がある.また,本研究は単群前後比較による介入研究であったため,今後は対照群をおく実験研究デザインによりCPSMプログラムの有効性を検証することが課題である.

Ⅵ. 結論

通院患者ががん疼痛の諸問題に自ら取り組めるようになることを目指して開発したCPSMプログラムを臨床に適用した結果,介入前後で有意差があり効果量が大きかったのは不安と抑うつで,有意差はないが中程度の効果量が認められたのは痛みの強さと日常生活への支障,鎮痛治療への満足感であった.また,プログラムに対する患者の肯定的評価が得られ,これらの結果から,本プログラムは臨床的に有用であると示唆された.しかし,単群の前後比較介入研究であったため,今後は比較対照研究により本プログラムの有効性を検証することが課題である.

謝辞:本研究の遂行にあたりご協力頂いた対象者の皆様,研究実施施設の関係者の皆様に心よりお礼申し上げます.本研究は,JSPS科学研究費基盤研究JP16K12084(代表者山中政子)の助成を受けて実施した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:MYは研究の着想およびデザイン,統計解析の実施,解釈,草稿の作成に貢献;KSは研究プロセス全体への助言と原稿への示唆に貢献;KY,MY,TS,RK,MF,ME,CKは研究の着想およびデザイン,データ収集,解釈,原稿への示唆に貢献した.全ての著者は最終原稿を読み,承認した.

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