日本看護科学会誌
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原著
地域在住高齢者の服薬管理の工夫と服薬アドヒアランス
小山 晶子小山 智史伊東 美緒紫村 明弘福嶋 若菜山﨑 恒夫内田 陽子
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2022 年 42 巻 p. 176-185

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Abstract

目的:地域在住高齢者の服薬支援の在り方を検討するために,服薬アドヒアランス良群・不良群別に対象者の属性を検討し,2群の服薬管理の工夫の特徴を示した.

方法:地域在住高齢者55名を対象に,属性と服薬アドヒアランスに関する質問紙調査と,服薬管理の工夫に関する聞き取りおよび観察を行った.

結果:服薬アドヒアランス良群は19名(34.5%),不良群は36名(65.5%)であり,全対象者が何らかの服薬管理の工夫を行っていた.【服薬指示理解と服薬の段取り】は〈服薬指示を記憶する〉など13の工夫,【薬の保管】は〈1週間分程の薬を手元に置く〉など10の工夫,【薬の飲み忘れ対策】は〈食事から服薬までを一連の流れで行う〉など9の工夫がされていた.

結論:服薬管理の工夫は,個人の生活に合わせて調整されていた.したがって,看護師は対象者の生活と服薬管理の工夫を把握した上で,服薬支援を行うことが必要である.

Translated Abstract

Objective: To consider the ideal way to support community-dwelling older adults to take medicine correctly, we compared the attributes of subjects in good and bad medication adherence groups and then analyzed the characteristics of the medication self-management strategies used by these two groups.

Methods: We surveyed 55 community-dwelling older adults with a questionnaire to examine their background and medication adherence. Their medication self-management strategies were identified through observation and interviews.

Results: Of the 55 subjects examined, 19 (34.5%) had good medication adherence, while the remaining 36 (65.5%) had poor adherence. All subjects were found to have devised some form of medication self-management strategies. In the medication instructions and setup, there were 13 medication self-management strategies, such as “memorizing medication instructions”; in medication storage, there were ten strategies, such as “storing medicines scheduled for the week in the place where the person spends most of his or her time”; and in the measures against forgetting timely medicine intake, there were nine strategies, such as “going from eating to taking medicine in a series of steps.”

Conclusions: The self-management strategies were tailored to the individual’s daily life. Therefore, it is important to understand one’s daily life and medication self-management strategies before providing medication support.

Ⅰ. 緒言

多くの高齢者は,複数の慢性疾患を抱え,多剤を長期間服用するため(Salive, 2013),疾患の増悪や,薬物有害事象を防ぐ上で,医療者の指示通りに服薬することは重要である.患者が医療者の方針と一致した服薬行動をとることを服薬アドヒアランスと言い,50%以上の高齢者は指示通りに服薬できていないとされる(WHO, 2003).この高齢者の服薬アドヒアランスを阻害する要因は,身体・認知機能の低下,薬への所信(薬の効果の実感や副作用への懸念),服薬指示理解の低下,多剤併用,副作用の出現,医療従事者のフォローアップ不足,経済問題など多岐にわたるが,決定的な要因は明らかではない(Yap et al., 2016).

一方,服薬管理は,薬剤を適正に使用するために必要なプロセスを伴う行為と定義され,疾病を有する者が最も一般的に行うセルフケア行動である(Vrijens et al., 2012).高齢者は,服薬アドヒアランスを阻害する要因に対処するために,服薬管理の場で様々な工夫を試みると言われ,先行研究では特定の阻害要因に対する工夫(Boron et al., 2013)や,特定の疾患を有する患者が行う工夫(Swanlund, 2010Mickelson & Holden, 2018)が報告されている.しかしこれらの多くは,対象者の服薬管理場面を実際に確認しておらず,ピルケースや,リマインダーの利用など一般的な工夫の報告に留まる.服薬管理の工夫は,個人のライフスタイルに合わせて調整されるため,服薬支援を検討するには,高齢者各人の生活とともに細やかに把握する必要がある(Insel & Cole, 2005).加えて,上記の先行研究は,服薬アドヒアランスの評価が対象者の主観によるため,実際よりも高く評価される危険がある(Vik et al., 2004).服薬アドヒアランス向上に有効な服薬管理の工夫を見出すには,服薬管理の工夫と客観的指標による服薬アドヒアランスを照らし合わせる必要がある.

本研究の目的は,地域在住高齢者の服薬支援の在り方を検討するために,服薬アドヒアランス良群・不良群別に対象者の属性を検討し,この2群の服薬管理の工夫の特徴を示すことである.

Ⅱ. 用語の定義

先行研究(Mickelson & Holden, 2018)を参考に「服薬管理の工夫」とは,服薬管理に伴う制約に適応するために対象者が用いる実践的な方法とした.

Ⅲ. 研究方法

1. 研究デザイン

地域在住高齢者の属性と服薬アドヒアランスを明らかにする量的データ収集と,服薬管理の工夫を明らかにする質的データ収集を1回の訪問調査で行った.

2. 研究対象者

自己管理のもと1日に1剤以上の内服薬を1か月以上継続して服用する65歳以上の地域在住高齢者55名を対象とした.精神疾患の診断のある者,1か月以内に服薬指示に変更があった者は除外した.精神疾患患者は,服薬への抵抗感,治療に対する不信感,精神疾患に対する偏見により服薬治療継続が困難になりやすいため(永江・花田,2009),対象から除外した.対象者は,研究者の知り合いの地域包括支援センター職員,ケアマネジャー,老人会の世話役(以下,研究協力者)へ研究協力を求め,機縁法により募った.

3. データ収集方法(図1

データ収集期間は2019年7月~2020年2月であった.機縁法により,関東および中国地方在住者である対象者の自宅を訪問し,一人につき約1時間の調査を1度実施した.訪問調査は,研究代表者と研究補助者の2名で実施した.まず,服薬管理の工夫を明らかにするための質的データを収集し,その後,属性と服薬アドヒアランスを明らかにするための量的データを収集した.対象者の属性と服薬アドヒアランスの結果による先入観を持たずに服薬管理の工夫を把握するためこの順で情報を収集した.

図1

データ収集と分析

4. データ収集内容

1) 服薬管理の工夫を明らかにするための質的データ

服薬管理は,薬剤を適正に使用するために必要なプロセスを伴う行為と定義される(Vrijens et al., 2012).本研究では服薬管理のプロセスに着目し,地域在住高齢者を対象にした研究(Sumida et al., 2019Shrestha et al., 2019)を参考に,服薬管理を【服薬指示理解と服薬の段取り】,【薬の保管】,【薬の飲み忘れ対策】の3つの領域に区分した.この3領域に合わせて聞き取り調査と観察調査を行った.プレテストの際に服薬管理の工夫に影響を及ぼすと考えられた自宅の間取り,対象者の身体機能と日常生活上の動線,同居家族との関わりについても調査した.手順を以下に示す.①3領域ごとに「薬を正しく飲むために行っている服薬管理の工夫を教えてください」と対象者にたずねた.対象者には,服薬管理の工夫について実演をしながら語ってもらった.さらに,その目的についても語ってもらった.②語られた状況や服薬管理の行動を観察した.③服薬管理の工夫は,対象者が日常生活に組み込み,それを工夫と認識していない可能性があると考えた.そのため,対象者より発言はなかったが,観察の過程で研究者が気付いた服薬管理の工夫は,対象者にその目的について語ってもらい,研究者の気づきが本人の意図と異なっていないかを確認した.④服薬管理の工夫の状況は対象者の許可を得て写真撮影した.⑤得られた情報は,調査終了後速やかにフィールドノートに記載した.

2) 属性と服薬アドヒアランスを明らかにするための量的データ

服薬アドヒアランスに影響する対象者の属性(Yap et al., 2016)と服薬アドヒアランスを収集するための質問紙調査を行った.自記式調査を行ったが,本研究の対象者は高齢であるため,対象者が質問を読み,回答を記入することが負担である場合には,研究者が質問を読み上げ,口頭で回答してもらった.対象者の属性は,性別,年齢,同居家族の有無,学歴,仕事の有無,視力・聴力・手指の巧緻性による生活への障害の有無,薬への所信,うつ傾向,認知機能,服薬状況,主な疾患名について情報を収集した.薬への所信は,先行研究(Horne & Weinman, 1999)を参考に,薬のおかげで体調を維持できると思うか,体調が良い日は薬を飲まなくて良いと思うか,薬を飲むと効果を感じるか,長期間薬を飲むことは体に良くないと思うか,薬を飲むと調子が悪くなると感じるかの5項目を「はい」「いいえ」の2択で問うた.うつ傾向,認知機能の評価には,日本語訳の信頼性と妥当性が検証されているGDS (Geriatric Depression Scale)-5(遠藤,2003)とMini Mental State Examination Japanese(MMSE-J)(杉下ら,2018)を用いた.GDS-5は5点満点中2点以上でうつ傾向が疑われる.MMSE-Jは30点満点中23点以下で認知症が疑われる.服薬状況と服薬アドヒアランスは,処方薬のうち,頓服薬,シロップ薬を除く内服薬を調査対象とした.直近の受診で処方を受けた薬と,服薬指示が確認できるお薬手帳または薬剤情報提供書を提示してもらい確認した.服薬状況は,1日あたりの薬剤の種類数,数,服薬回数,薬の包装形態(PTPシート,一包化,PTPシートと一包化)について情報を得た.服薬アドヒアランス評価は,客観的に評価できるピルカウント法を用いた.ピルカウント法は,直近に処方を受けた薬のうち,処方日からの日数と薬の数を数え,計算式(服用した薬の総数÷服用すべきだった薬の総数×100)を用いて,服薬遵守率を算出する(Vik et al., 2004).直近に処方を受けた薬から,服用した薬の総数と服用すべきだった薬の総数について情報を得た.ピルカウント法は,80%以上を服薬アドヒアランス良群,80%未満を不良群とした.ヘルスリサーチの多くの研究がこのカットオフ値を採用していたことを受け(Okuno et al., 1999Charlotte et al., 2014),研究者と同じ大学に所属する薬学研究者にその妥当性を確認して決定した.

5. 分析方法

1) 服薬管理の工夫を明らかにするための質的データ

看護研究者2名がフィールドノートや写真を繰り返し確認し,【服薬指示理解と服薬の段取り】,【薬の保管】,【薬の飲み忘れ対策】の3領域別にコード化し,コードから服薬管理の工夫(以下,工夫)とその目的(以下,目的)を抽出した.これらのコードは,工夫と目的の類似性に基づいて分類した.その後,質的研究に精通する研究者からスーパービジョンを受けた.再訪に応じてくださった5名の対象者(服薬アドヒアランス良群2名,不良群3名)に分析結果を提示し,工夫の分類に違和感がないか確認した.量的調査で得られた服薬アドヒアランス良群・不良群別にコードを精査した.工夫が,どちらの群で行われる傾向にあるのかを把握するために,工夫毎に群の該当コード数を明記した.

2) 属性と服薬アドヒアランスを明らかにするための量的データ

服薬アドヒアランス良群・不良群の2群の属性を確認するために,χ二乗検定,t検定またはMann-WhitneyのU検定を用いた.統計ソフトSPSS for windows25.0を用い,有意水準は5%とした.

Ⅳ. 倫理的配慮

本研究は,群馬大学人を対象とする医学系研究倫理審査委員会(試験番号HS2019-030)の承認を得た後,対象者,代理人,研究協力者に研究目的,方法,個人情報の保護,公表等を文書および口頭にて説明をした.対象者または代理人には,文書での同意を得た.訪問調査時は,対象者に負担や不快を与えないよう,対象者の言動,表情に配慮した.

Ⅴ. 結果

1. 対象者の属性と服薬状況

対象者は55名,男性19名(34.5%),女性36名(65.5%),平均年齢79.3 ± 7.3歳であった.MMSE-Jの平均値は27.2 ± 2.6であった.MMSE-Jが23点以下であった7名は,同居家族や研究協力者より認知症の診断がついていないこと,日常生活上の問題がないことを確認した.加齢に伴い認知機能は低下するが,この7名の平均年齢は84.4歳で,それ以外の者の78.5歳よりも有意に高い傾向があった(Mann-WhitneyのU検定,p < 0.1).以上より,高齢者人口の割合が高い我が国の状況を鑑み,7名を対象者に含めた.主な疾患(複数回答)は,該当者が多かった順に,高血圧25人(45.5%),心疾患17人(30.9%),糖尿病8人(14.5%)であった.1日あたりの平均薬剤数は,10.1 ± 7.3であった.

服薬アドヒアランス良群(以下,良群)の者は19名(34.5%)で平均服薬遵守率91.9%,服薬アドヒアランス不良群(以下,不良群)の者は36名(65.5%)で平均服薬遵守率35.9%であった.この2群で対象者の属性を比較した結果,薬の包装形態でのみ有意差が認められ,薬の包装形態がPTPシートの者は,不良群の割合が有意に高く,PTPシートと一包化の者は,良群の割合が有意に高かった(p < 0.05)(表1).

表1  対象者の属性と服薬アドヒアランスとの関係
全体(n = 55) 良群(n = 19) 不良群(n = 36) p
人数(%) 人数(%) 人数(%)
Mean ± SD(Range) Mean ± SD(Range) Mean ± SD(Range)
性別a 36(65.5) 12(63.2) 24(66.7) .795
年齢c 79.3 ± 7.3(66~99) 81.1 ± 6.0(71~91) 78.3 ± 7.8(66~99) .172
同居家族の有無a あり 44(80.0) 16(84.2) 28(77.8) .730F
学歴a 高卒以上 36(65.5) 15(78.9) 21(58.3) .126
仕事の有無b あり 9(16.4) 2(10.5) 7(19.4) .473F
視力による生活への障害の有無a 無し 48(87.3) 17(89.5) 31(86.1) 1F
聴力による生活への障害の有無a 無し 52(94.5) 18(94.7) 34(94.4) 1F
手指の巧緻性による生活への障害の有無a 無し 37(67.3) 13(68.4) 24(66.7) .895
薬への所信 薬のおかげで体調を維持できると思うかa はい 50(90.9) 19(100) 31(86.1) .152F
体調が良い日は薬を飲まなくて良いと思うかa はい 12(21.8) 2(10.5) 10(27.8) .183F
薬を飲むと効果を感じるかa はい 42(76.4) 14(73.7) 28(77.8) .749F
長期間薬を飲むことは体に良くないと思うかa はい 22(40.0) 7(36.8) 15(41.7) .728
薬を飲むと調子が悪くなると感じるかa はい 7(12.7) 3(15.8) 4(11.1) .682F
うつ傾向 GDS5(0~5)a 2点以上 22(40.0) 9(47.4) 13(36.1) .418
認知機能 MMSE-J(0~30)c 27.2 ± 2.6(21~30) 27.9 ± 1.9(23~30) 26.9 ± 2.9(21~30) .112
24点以上a 48(87.3) 18(94.7) 30(83.3) .401F
服薬状況 薬剤の種類数/日c 6.1 ± 3.4(1~14) 5.3 ± 3.1(1~12) 6.5 ± 3.5(1~14) .204
薬剤の数/日c 10.1 ± 7.3(1~30) 8.5 ± 6.1(1~22) 10.9 ± 7.8(1~30) .248
服薬回数/日c 2.6 ± 1.0(1~4) 2.6 ± 1.0(1~4) 2.5 ± 1.0(1~4) .712
薬の包装形態b PTPシート 41(74.5) 10(52.6)* 31(86.1)* .025*
一包化 5(9.1) 3(15.8) 2(5.6)
PTPシートと一包化 9(16.4) 6(31.6)* 3(8.3)*

※1 a:χ二乗検定 b:χ二乗検定+残差分析 c:t検定 d:Mann-WhitneyのU検定 F:Fisherの直接法

※2 * p < 0.05

2. 服薬管理の工夫

258のコードより,32の工夫,12の目的が抽出された.対象者一人あたりの平均コード数は,4.7 ± 1.6(2~9)であった.以下領域ごとに,目的と工夫について述べる.《 》は目的,〈 〉は工夫を示す.なお工夫は,良群・不良群別にコード数とコード例を示した.

1) 【服薬指示理解と服薬の段取り】(表2

【服薬指示理解と服薬の段取り】には,《薬を整理して服薬指示の実行を容易にする》,《服薬指示の確認を容易にする》,《薬物治療の知識や見解を治療継続の推進力にする》,《服薬指示を日常生活に組み込むよう努める》の4つの目的と13の工夫が含まれた.コード数が10以上あった工夫のうち,《薬を整理して服薬指示の実行を容易にする》の〈服薬指示に沿って薬を仕分けする〉は,24コード中16コードが不良群で,両群はピルケースや服薬カレンダーを利用していた.同目的の〈サービスによる薬の仕分けを活用する〉は,18コード中11コードが良群で,両群は薬の一包化や薬袋を用いていた.それらの利用方法として,両群は一包化や薬袋によって服薬時間別に集約された薬を服用していたが,一包化の包装に印字された服薬日時を服薬確認に利用することは,良群で行われていた.なお,良群のコード例はどちらも薬の包装形態がPTPシートと一包化の者であった.《服薬指示の確認を容易にする》の〈服薬指示を記憶する〉は,14コード中12コードが不良群で,良群は服薬指示を確認できる環境を整えて服薬指示を記憶できるとしていた.一方,不良群は環境を整えず,長期服用を理由に服薬指示を記憶できるとしていた.コード数が10未満であった工夫のうち,《服薬指示の確認を容易にする》の〈薬剤情報提供書を薬の近くで保管する〉では,両群で薬剤情報提供書を薬の近くで保管していた.しかし,良群の2コードは,薬剤情報提供書を用いて服薬指示を確認していたのに対し,不良群の4コードは念のため保管しており,服薬指示を確認していなかった.《服薬指示を日常生活に組み込むよう努める》の〈服薬時間と生活パターンの調和を思慮する〉では,良群の1コードでは予定のある時間に服薬指示が無いことによって服薬できることが語られた.一方,不良群の3コードでは,予定のある時間に服薬指示があることによって服薬が難しいことが語られた.

表2  服薬指示理解と服薬の段取り
目的 工夫 コード例
薬を整理して服薬指示の実行を容易にする 服薬指示に沿って薬を仕分けする (24) 良群(8) 曜日が印字されたピルケースで1週間分の薬を管理する
不良群(16) 服薬カレンダーで1週間分の薬を管理する
サービスによる薬の仕分けを活用する (18) 良群(11) 一包化の包装の服薬時間の印字を手掛かりに薬を飲む
薬は一部一包化.「薬が多いから,まとまると助かる」
不良群(7) 薬は,種類・服薬時間別になった6つの薬袋で管理する.「薬が多く,失くしたら困る」
複数の診療科の薬の服用手順を決める (7) 良群(5) 朝夕にA医師の一包化の薬(A),B医師のPTP包装の薬(B)を服用する.まずAの薬を手に取り,包装に印字された日付,時間を確認する.次にBの薬を手に取る.Bを保管する箱の底に記載した服薬時間別合計錠数と手元の薬の数を確認して服用する
不良群(2) 「トースター横に置くA先生の薬を飲んだ後,食卓に置くB先生の薬を飲む」
経常的な薬の携帯に向けた用意をする (4) 良群(1) 薬は紙にテープで張り付けて居間で管理.居間から寝室に移動する19時,寝室で服用する眠前薬を紙からテープごと剥がし,携帯に貼って運ぶ
不良群(3) 自室で薬を管理し,リビングやデイサービスへ薬を携帯する.夜,翌日の薬を時間別に机上へ出し,朝,それらをティッシュで包み,服薬時間を書く
服薬指示の確認を容易にする 服薬指示を記憶する (14) 良群(2) 数日分の薬をコップに入れる.「朝昼夕の薬は10錠,朝夕の薬は6錠入れるので,数が多い薬が朝昼夕とわかる.だから服薬指示を覚えられる」
不良群(12) 「服薬期間が長く,服薬指示を覚えているから確認しない」
薬剤情報提供書を薬の近くで保管する (6) 良群(2) 服薬時間別に薬と薬剤情報提供書を透明な袋に入れる.「服薬指示が目に入る」
不良群(4) 薬はチャック付きポリ袋に入れる.折りたたんだ薬剤情報提供書を同封するが,「あまり見ない.念のために入れてある」
薬の錠数や薬包の色から服薬時間を同定する (4) 良群(1) 朝と夕に服用する薬が異なる.「PTPシートの色で服薬時間がわかる.朝が黄色,夜が紫」
不良群(3) 朝・夕の薬は1回分ずつ小分けの袋で管理する.袋に服薬時間の記載はないが,「錠数が多い方が朝薬」
薬物治療の知識や見解を治療継続の推進力にする 薬を飲むべき理由を見出す (14) 良群(6) 「元気でいるためには,薬を飲まないといけない」
不良群(8) 「骨粗鬆症の薬と降圧剤は,飲まないといけない」
薬に対する疑問や不安について情報を収集する (6) 良群(3) 「薬に対する疑問は調べ,安心して服薬できるようにする」
不良群(3) 「薬について聞こうと,研究に協力した.薬を沢山飲んで効果は出るのか」,疑問を研究者にたずねる
治療経過を振り返る (3) 良群(3) 通院,薬剤,検査の経時的記録を振り返り,「医師に相談することもある」
服薬指示を日常生活に組み込むよう努める 服薬時間と生活パターンの調和を思慮する (4) 良群(1) 「出かける可能性が高い昼に薬が無いから,薬が飲める」(対象者の服薬時間:朝・夕・眠前)
不良群(3) 「昼外出し,薬を飲み忘れる」.カレンダーにほぼ毎日外出予定がある
服薬回数を自己調整する (4) 良群(1) 昼薬はビタミン剤1錠.「昼は忙しいから夕に飲む」
不良群(3) 眠前薬を夕薬と一緒に服用し,服薬回数を減らす
服薬時間帯の居場所に薬を配置する (4) 不良群(4) 昼間は台所,夜は居間で過ごすことが多い.朝・昼薬は台所の棚,夕薬は居間に置く.「薬を手にしやすい」

※1 工夫は服薬管理の工夫を,目的は服薬管理の工夫の目的を示す

※2 ( )内の数値は,該当するコード数を示す

2) 【薬の保管】(表3

【薬の保管】には,《薬の所在を明確にする》,《薬の保有状況を明瞭にする》,《薬の紛失や誤用を防止する》,《薬を円滑に取り出す》,《非常時に備える》の5つの目的と10の工夫が含まれた.コード数が10以上あった工夫のうち,《薬の所在を明確にする》の〈1週間分程の薬を手元に置く〉は,10コード中8コードが不良群で,両群は1週間分ほどの薬を専用の薬袋やポーチで保管していた.同目的の〈薬置き場を1か所に定める〉の群の箇所に“不良群反転”とあるが,反転とは,工夫に対して反対の意味を持つコードを指す.この工夫では,薬を複数個所に置いていた.

表3  薬の保管
目的 工夫 コード例
薬の所在を明確にする 薬置き場を1か所に定める (14) 良群(4) 薬を入れた4つのボックス(服薬時間別)をかばんにまとめる
不良群(8) 薬は箱で管理する.「薬は全てこの中にある」
不良群反転(2) 薬は,「なんとなく」台所の引き出し3か所と食卓の引き出し1か所に置く
1週間分程の薬を手元に置く (10) 良群(2) ここ10日分の薬を薬袋に入れる.「さっと取り出せる」
不良群(8) 直近1週間の薬はポーチに入れる.「ここの薬を飲む」
薬と医療品をまとめる (6) 良群(3) 薬,インシュリンの機器を入れたかごを併置する.「病気のものは,ここ」
不良群(3) ピルケース,血圧計,血圧手帳をかごにまとめる.「病気のものはこの中」
薬の保有状況を明瞭にする 薬を種類別に一括する (4) 不良群(4) 全ての薬を種類別にして1つの缶に入れる.「薬が一目瞭然」
薬を用量別に一括する (5) 良群(3) 全ての薬は,1週間分ずつ日・時間別に用紙に貼り付けて管理する.「服薬指示も薬の数も把握しやすい」
不良群(2) 28日分処方,朝・夕服薬.28区画のピルケースを時間別に2つ所有.「薬が全部入り,数を把握しやすい」
薬の紛失や誤用を防止する 薬置き場として共用場所を避ける (6) 良群(1) 薬が入ったかごは,自室に置く.同居家族が多く,居間は物で溢れる.「居間は皆が使う場所だから」
不良群(5) 孫が小さく,薬を誤飲することを恐れ,自室に薬を置く
処方薬,市販薬,中止薬をひとまとめにする (2) 不良群(2) 服用中の薬,中止薬,市販薬を箱にまとめる.「薬が無くなったら困る.“薬”は何でもここ」
自分の薬と家族の薬を区別する (2) 不良群(2) 薬の保管場所は,妻のそれとは異なる.「ばあちゃんと一緒だと,(自分の薬が)わからなくなる」
薬を円滑に取り出す 身体機能に応じて道具を活用する (3) 良群(2) 「腰が痛く,背中を伸ばすのが辛い」.服薬カレンダーは壁にかけると背中を伸ばして薬をとる必要がある為,折りたたみ,床上50 cmの棚にしまう
不良群(1) 「痛風で細かい作業が難しい」.薬の開封にはさみを使う.また,服用中のPTPシートを薬袋内の一番上に配置し,取り出しやすくする
非常時に備える 普段から薬の保有数や置き場所に気を配る (3) 不良群(3) 薬を入れる箱は寝室の“目が覚めたら視界に入る場所”に置く.「(災害等)何かあった時に薬を持ち出せる」

※1 工夫は服薬管理の工夫を,目的は服薬管理の工夫の目的を示す

※2 反転は服薬管理の工夫に対して反対の意味を持つコードを指す

※3 ( )内の数値は,該当するコード数を示す

3) 【薬の飲み忘れ対策】(表4

【薬の飲み忘れ対策】には,《服薬を食事と結び付ける》,《服薬を想起できる環境を整える》,《服薬できたかどうか振り返る》の3つの目的と9つの工夫が含まれた.コード数が10以上あった工夫は,以下の3つであった.《服薬を食事と結び付ける》の〈食事をとる場所に薬を置く〉は,23コード中18コードが不良群で,両群は,食事をとる場所に薬を置いていた.同目的の〈食事から服薬までを一連の流れで行う〉は,20コード中14コードが良群で,両群は,食事からの流れの中で服薬をしていた.《服薬を想起できる環境を整える》の〈目につく場所や容器で薬を管理する〉は,14コード中11コードが不良群で,両群は目に付きやすい場所や容器で薬を管理していた.コード数が10未満であった工夫のうち,《服薬できたかどうか振り返る》の〈薬を飲み忘れがちであると自認する〉は,不良群の5コードであった.そのうちの1コードでは,飲み忘れを自認しつつもその事実を医療者に言いにくいことが語られた.

表4  薬の飲み忘れ対策
目的 工夫 コード例
服薬を食事と結び付ける 食事をとる場所に薬を置く (23) 良群(5) 薬を入れたポーチは食卓に置く.「食後すぐ飲める」
不良群(18) ピルケースは食卓の下に置く.「すぐに薬を取り出せる」
食事から服薬までを一連の流れで行う (20) 良群(14) 料理→自室から薬を持ち出し,食卓に置く→食事→服薬という流れがある.「これが習慣.忘れにくい」
不良群(6) 薬は前日に容器に出し,台所に置く.「食後,食器を下げて薬を飲む」
服薬を想起できる環境を整える 目につく場所や容器で薬を管理する (14) 良群(3) 薬は蓋に大きく“クスリ”と書いたタッパーに入れ,目につく食器棚の上に置く
不良群(11) 薬は,対象者の立位時の目線の高さにある食器棚の皿の上に置く.食器棚横に財布,携帯電話を置くので,「朝,外出準備の時,薬が目に入る」
よく使う日用品と一緒に薬を管理する (6) 良群(3) 薬を入れたポーチは眼鏡や筆記用具と一緒に管理する.「必要な物はここ」
不良群(3) 薬は眼鏡や携帯等と一緒に居間で管理する.「必要な物はこの辺りにある」
家族が服薬する様子を服薬の誘因にする (4) 良群(1) ピルケースの未利用スペースで介護中の妻の朝薬も管理する.「ばあちゃんに薬を飲ませて自分も飲む」
不良群(3) 対象者と息子の服薬カレンダーが並ぶ.「息子が薬を飲むと,飲もうと思う」
服薬できたかどうか振り返る 定期的に残薬を数える (8) 良群(4) 2週間ごとの処方.薬を1日分ずつまとめる作業の後,残薬を確認する
不良群(2) 週に1回の配薬の後,前週の残薬を確認する.「飲み忘れが結構ある」
不良群反転(2) 残薬の確認について問うと「飲めていると思う」と苦笑いする
服薬が済んだ形跡を残す (7) 良群(2) PTPシートの全取り出し部分に服薬予定日を書く.「空なら,服薬済み」
不良群(5) テーブルに服薬済みのPTPシートを置く.「服薬済みとわかる」
身体症状の出現から薬の飲み忘れに気付く (4) 良群(1) 胸やけを自覚し,薬の飲み忘れに気付く
不良群(3) 「胸がどきどきした時血圧を測る.血圧が高いと薬を飲み忘れたとわかる」
薬を飲み忘れがちであると自認する (5) 不良群(5) 「夕薬を飲み忘れ,1か月分余っている」.服薬状況を医師に伝えるよう促すと「言えないよな~」と苦笑いする

※1 工夫は服薬管理の工夫を,目的は服薬管理の工夫の目的を示す

※2 反転は服薬管理の工夫に対して反対の意味を持つコードを指す

※3 ( )内の数値は,該当するコード数を示す

Ⅵ. 考察

1. 対象者の特徴

本研究対象者の主な疾患は該当者数が多い順に,高血圧,心疾患,糖尿病であった.この結果は,厚生労働省が報告する外来高齢患者に多い疾患と相違は無かった(厚生労働省,2019).本研究対象者のうち服薬アドヒアランスが良好な者は約35%で,52.8%とする先行研究(Okuno et al., 1999)よりも低かった.本研究の対象者の1日あたりの平均薬剤数が10.1であったのに対し,同先行研究では5.8であった.これより,対象者の平均薬剤数の多さが,服薬アドヒアランスに何らかの影響を及ぼした可能性が考えられる.一方,服薬アドヒアランスの評価に用いたピルカウント法は,対象者が保有する余剰薬を考慮することなく,算出式の分母を服用すべきだった薬の総数として計算するので,過小評価となる恐れがあると指摘される(Vik et al., 2004).本研究の対象者は長期間多剤を服用する者であった.調査時,研究者は直近の受診による処方薬のみ提示するよう依頼したが,提示された薬の中に余剰薬が混在していた可能性は否定できない.

2. 対象者の属性と服薬アドヒアランスの関連

対象者の属性と服薬アドヒアランスの関連では,薬の包装形態でのみ有意差が認められ,薬の包装形態がPTPシートの者は,不良群の割合が高く,PTPシートと一包化の者は,良群の割合が高かった.処方薬の一包化は,アドヒアランス向上に有効とされる(日本老年医学会,2015)が,この結果を質的データ【服薬指示理解と服薬の段取り】の〈サービスによる薬の仕分けを活用する〉で補完したい.表2に示す良群コード例はどちらも薬の包装形態がPTPシートと一包化の者であった.彼らは,一包化による一部の薬の集約化や,包装に印字された服薬時間を服薬の手掛かりにすることで,服薬指示の実行を容易にしていたと考えられた.可能な薬剤だけでも一包化することは,服薬アドヒアランス向上につながる可能性がうかがえた.

3. 服薬管理の工夫と服薬アドヒアランス

服薬支援の在り方を見据え,服薬管理の工夫ごとに考察を進める.

先行研究で報告される服薬管理の工夫には,薬を整理する容器の利用(Mickelson & Holden, 2018Swanlund, 2010),一貫した場所での薬の保管(Boron et al., 2013Mickelson & Holden, 2018),視覚的手掛かりの利用(Boron et al., 2013Swanlund, 2010)などがある.これらは,本研究で〈服薬指示に沿って薬を仕分けする〉(表2),〈薬置き場を1か所に定める〉と〈1週間分程の薬を手元に置く〉(表3),〈目につく場所や容器で薬を管理する〉(表4)として見出された.これらの工夫は,24コード中16コード,14コード中8コード,10コード中8コード,14コード中11コードが不良群であった(登場順).加えて,良群・不良群でコードの内容に違いは無かった.よって,本研究ではこれらの工夫が服薬アドヒアランス向上の一助になるとは言い難かった.

〈服薬指示を記憶する〉(表2)の良群の者は,服薬指示を確認できる環境を整えた上で服薬指示を記憶していた.〈薬剤情報提供書を薬の近くで保管する〉(表2)の良群の者は,服薬指示を確認するために薬剤情報提供書を薬の近くで保管していた.服薬指示理解は,服薬アドヒアランス向上の一つの要因であることから(Zhang et al., 2014),服薬指示の確認や,それを可能にする環境の調整が,服薬アドヒアランス向上の一助になる可能性がうかがえた.

服薬のように長期的に繰り返す日常生活動作は,実行を想起する必要があり,確実に実施し続けることは難しい(Einstein et al., 1998).高齢者は想起する際,環境や状況を活用すると言われ,それらが想起すべき事象と関係がある場合は手掛かりとなるが,関係が薄い場合は障害となる(Kliegel et al., 2008).〈服薬時間と生活パターンの調和を思慮する〉(表2)は,外出によって服薬の想起が障害され,薬を飲み忘れたと考える.服薬時間と患者の生活パターンを調整することが,服薬アドヒアランス向上の一助になる可能性が考えられた.一方,食事は服薬と関係の深い日常生活動作で,服薬を食事と関連付けることが服薬管理の工夫として多く報告される(Mickelson & Holden, 2018Swanlund, 2010).本研究では〈食事をとる場所に薬を置く〉,〈食事から服薬までを一連の流れで行う〉(表4)として見出されたが,前者は23コード中18コードが不良群で,後者は20コード中14コードが良群であった.想起すべき事象が,環境や状況と自動的に結びつくほど深い関係の場合,想起はより上手くいくとされる(Smith et al., 1998).〈食事から服薬までを一連の流れで行う〉は,食事に関連する行為と服薬が深く結び付いて習慣化されることの効果と考える.

4. 地域在住高齢者を対象にした服薬支援

服薬管理の工夫の3領域【服薬指示理解と服薬の段取り】,【薬の保管】,【薬の飲み忘れ対策】は,プロセスを経るのではなく,互いに重複していた.また,服薬管理の工夫は先行研究が指摘する通り(Insel & Cole, 2005),個人の生活に合わせて調整されることがうかがえた.

本研究では,全対象者が何らかの服薬管理の工夫を有しており,アドヒアランスの良・不良に関わらず,彼らが日常生活の中で調整しながら服薬しようと努力していることが推察された.一方,〈薬を飲み忘れがちであると自認する〉(表4)のコード例で示したように,服薬が遵守できない状況を医療者に言い出しにくい高齢者は少なくない.服薬支援を行う際,看護師は対象者の生活と服薬管理の工夫について把握した上で,これまで取り組んできた服薬管理の工夫をどのように改善すれば,指示通りに服薬しやすくなるか,対象者と共に彼らの生活状況を確認しながら検討するべきである.その際,本研究結果より得られた服薬アドヒアランス向上の一助になると思われる,薬の一包化,服薬指示の確認,服薬時間と生活パターンの調整,服薬と食事の強固な関連付けという服薬管理の工夫についても検討することが望ましいと考える.

Ⅶ. 本研究の限界と今後の課題

本研究は,地域在住高齢者を対象に詳細な服薬管理の工夫と客観的指標による服薬アドヒアランスを示し,服薬アドヒアランス良群・不良群別に服薬管理の工夫の特徴を検討した.今後,地域在住高齢者に対する服薬支援を行う際の参考になると考える.しかし,本研究は機縁法により対象者を選定したため,対象者に偏りが生じた可能性がある.また,長期に服薬治療をする者は,複数の服薬管理の工夫を組み合わせると言われる(Swanlund, 2010).本研究でも全対象者が複数の服薬管理の工夫を行っていたが,対象者の人数が少なく,各項目の検討にとどまった.今後は,より体系的な調査をもとに,服薬アドヒアランスに影響する服薬管理の工夫について探索していく必要がある.

謝辞:本研究にご協力を賜りました対象者とご家族の皆様,および研究協力者の皆様に深謝いたします.なお,本研究はJSPS科研費 JP20K19236の助成を受けたものです.

利益相反:本研究は開示すべきCOI関係にある企業・組織および団体は無い.

著者資格:AKは研究の着想,デザイン,データの入手,分析,論文執筆の全てを行った.TKおよびMIはデータの入手,分析,原稿への示唆および研究プロセス全体への助言を行った.ASおよびWFはデータの入手,分析,草稿の作成を行った.TYおよびYUは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言を行った.全ての著者は最終原稿を読み,承認した.

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