日本看護科学会誌
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原著
母性看護学実習における看護学生の学び
―正統的周辺参加の視点から―
小野 加奈子山波 真理加納 尚美
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2022 年 42 巻 p. 222-230

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Abstract

目的:本研究は,母性看護学実習における看護学生の学びについて正統的周辺参加の視点から明らかにすることを目的とした.

方法:母性看護学実習を履修した大学4年次の看護学生9名を対象に半構造化面接を実施し,質的記述的に分析した.

結果:母性看護学実習において看護学生は,看護者と【段階的な看護実践】を行ない,正統的周辺参加の過程の中にいた.しかし,学生として実践できることには限りがあり,母子二人を受け持つことへの重みを感じていた.一方で,褥婦や看護者とのコミュニケーションの難しさを痛感し,【他者との関わりの中での成長】を実感していた.さらに,実習での体験から母性看護を捉え,【現場で経験して得る感覚】から学んでいた.

結論:看護学生は,看護者と共に看護を実践していく中で段階的に実践力を高め,学内では直接関わることのできない妊産褥婦や新生児,看護者などとの相互交流を通して,自己の成長を感じ母性看護学実習でしか学べないことを現場の経験から学んでいた.

Translated Abstract

Aim: This study aimed to identify the learnings of students of maternal nursing from the perspective of legitimate peripheral participation.

Method: Semi-structured interviews were conducted with nine fourth-year university nursing students who had completed maternal nursing training. A descriptive, qualitative approach was used for analysis.

Results: The students of maternal nursing engaged in step-by-step practical training alongside established nurses and were thus in the process of legitimate peripheral participation. However, they found it burdensome as there were certain practices they could not perform by themselves, and they had the responsibility of taking care of the mother and child simultaneously. Moreover, they experienced challenges communicating with the postpartum mothers and nurses, resulting in growth through interaction with others. Their experiences in practical training helped them understand maternal nursing. They learned more from the experience in practical training than they could from lectures and exercises in school.

Conclusion: The nursing skills of students gradually improved as they practiced them alongside established nurses. They also reported additional self-growth and learning via these field experiences and interactions with people they could not otherwise directly interact with on campus.

Ⅰ. 緒言

看護教育における臨地実習は,最も重要な教育形態として,位置づけられている(日本学術会議健康・生活科学委員会看護学分科会,2017).その中でも専門分野の領域別看護実習の一つである母性看護学実習は,主に妊産褥婦や新生児の看護が展開される周産期の場で行われ,看護学を構成する一つの柱になっている.しかし,日本での産後の入院期間は,経腟分娩でおよそ1週程度であり,看護学生が母子を受け持つ期間は平均3~4日であるため(北林・中山,2011),対象と密に関わることのできる期間は限られている.加えて,昨今では,少子化や産科医療施設の減少により,母性看護学実習の場を確保することが困難であり,母性看護学実習の内容の見直しをせざる得ない状況である(日本看護学校協議会,2012日本医師会,2014).

母性看護学実習における学習成果としては,母性看護特有ともいえる分娩見学において,看護学生は子を産む母親の強さや児への愛着を目の当たりにして,命の尊厳や母子のきずなについて理解を深めていた(井上・佐々木,2014伊東・島内,2018).また,看護学生を対象とした意識調査では,母性意識(近藤ら,2015)や親準備性(贄・中川,2016)が実習前後において変化しており,実習での経験は看護学生にとって子を産み育てることのできる自身に気づき見つめ直す機会となっていた.周産期の場以外の実習では,子育て支援センター(山口・澤田,2019),市町村保健センター(門,2020)等において,退院後の母子の状況を実際に知り,母子を支える地域の人々の存在や現状に結び付いた子育て支援への理解が深まっていたことが報告されている.このように先行研究では,母性看護学実習における対象理解や母性意識の触発など実習での経験から抽出された内容を学習の成果として明示しているものが多い.

現実の患者と触れ合い看護者と共に看護実践を直接体験できるのが臨地実習である.看護学生は,その実習において対象理解や看護の一員としての行動が求められており,実際に臨地において多くの人と交流する.しかし,他者との相互関係の中で何を体験しているのかはあまり注目されてこなかった.その背景には,看護学実習の学習は,個人の頭の中で起きる現象であることを前提とした行動主義的学習観の影響を受け,学習目標が設定されていることがある.一方,社会的構成主義に基づく認知科学において,「学び」は「学習」よりも活動的なニュアンスを伝えることができ,learningのもつ意味の広がりをカバーする.その意味において,臨地実習における看護学生の「学び」は,看護の現場で実際に直に患者や看護師と関わり,他者との「関係性」の中で経験して得られるものとも言える.また,稲山ら(2018)は,臨地実習は流動的な環境の中での学習過程であり,その時の状況の中で学習を成立させていく状況的学習であると述べており,状況的学習とは,Lave & Wenger(1991/1993)の状況的学習論に端を発している.香川(2008)は,「状況的学習論は,実践現場での看護師,学生,教員,患者などの諸成員の生き生きとした学習過程を,社会的実践が本来もつ複雑やリアリティ,そしてダイナミクスを崩さぬまま,解明させてくれる視座である」と述べており,看護学生の実習体験について質的に分析することで,従来研究で見過ごされがちだった「学び」に焦点が当てることができると考える.

Lave & Wenger(1991/1993)は,状況的学習論において学習を実践共同体への参加として捉え直し,そのプロセスを「正統的周辺参加」として描いた.学びは,新参者(初心者)が実践共同体の一人として参加することから始まり,共同体の中で周辺に参加し,見ているだけの存在から一つずつあまり全体に影響のない仕事から参加し,次第に重要な仕事まで任せられる十全参加へと移っていく中で,知識や技能を獲得し,アイデンティティの構築に繋がるとされるものとしている.この概念は,社会的構成主義の文脈の中で認知心理学や成人教育,最近では医学教育においても取り入れられてきている.

看護学教育においても状況的学習論を看護師に適用し,実践から熟達化に向けての学びが明らかにされている(山田・齋藤,2009奥野,2013).国外においては,看護学生が実践共同体に参加することによる学びへの影響が示されている(Spouse, 1998Thrysoe et al., 2010).日本においても,看護学生は,患者や看護者など様々な人と関わっており,自分と周囲との「関係性」の変化として学びを捉えることにより,より新たな知見が見出される可能性が高い.そこで本研究は,正統的周辺参加の視点から臨地の実践共同体への参加を通して看護学生が母性看護学実習において学んでいることについて明らかにすることを目的とした.

Ⅱ. 用語の操作的定義

「実践共同体」:共同体とは活動を行っている人たちが属する集団のことであり,本研究においては,「実践共同体」を看護実践の現場において実際に相互交流している人たちの集団であり,その場において看護学生を正当な参加者として認めている共同体と定義する.

「学び」:知識,技術,態度などの習得を目指した学習だけでなく,実践共同体への参加を通して人や物との相互的な関係性の中で生じる変化を学びと定義する.

Ⅲ. 研究方法

1. 研究参加者

母性看護学実習を履修した大学4年次の看護学生.

看護学教育は,学問としての発展を志向するため学士課程教育の拡大が著しい.そこで,本研究では,今後ますます大学での学士課程教育が浸透していくことを推し測り,大学4年次の学生を対象とした.また,所属大学のカリキュラム内容によっては,実習での経験内容に差が生じるため,実習期間内に母子を受け持ち看護過程の展開をしていることを選択基準とした.

インタビューの対象となる看護学生の募集は,関東近郊の看護学科を設置している大学へ,研究の目的や方法について説明文書を郵送して研究協力を依頼した.その中で,同意の得られた大学に学内でのポスター提示やチラシ配布をお願いした.また,あわせてスノーボーリングサンプリングも行い,参加者を募った.

2. データ収集期間および方法

データは,2020年8月~10月に収集し,インタビューガイドに沿って半構造化面接を行った.インタビュー内容は,実習前後の母性看護のイメージについて,自分が看護に参加していると感じた場面について,自分の実践の変化と周囲の人との関わりについて,実習を通して得た学びについて,実習中の自分の存在の感じ方についてなどをできるだけ具体的に,自由に語ってもらった.なお,研究参加者の同意を得て,面接内容はICレコーダーに録音した.

3. 分析方法

インタビューデータを質的記述的に分析した.質的記述的な分析は,現象を率直に記述することに適しており(Sandelowski, 2000),本研究は,母性看護学実習における看護学生の現場での学びについて,研究参加者の体験に基づいた語りから明らかにすることを目的としており,本手法が有用と考えた.分析の手順は,谷津(2015)の手順を参考に次のように行った.インタビューデータを逐語録に起こし,研究参加者ごとに第1段階(データを精読し意味のまとまりに区切る)と第2段階(第1段階のコードを分類,整理,統合)のコード化を行なった.次に,全研究参加者の個別コードを意味内容の類似性に着目して分類し,「臨地の実践共同体への参加を通して人や物との相互的な関係性の中で生じる変化」に視点をおいてサブカテゴリーを作成した.さらに,サブカテゴリー間の類似性と差異性に沿って抽象度をあげながら,カテゴリー,コアカテゴリーを生成した.分析の段階で,母性看護学を担当する大学教員や質的研究に精通した研究者と共に繰り返し内容を確認し,研究参加者6名からメンバーチェッキングを受けた.

Ⅳ. 倫理的配慮

研究参加者には,文書及び口頭にて研究の目的や方法,研究協力の任意性と撤回の自由,個人情報の保護,匿名性の確保,データの保管方法,研究成果の公表等について説明し,同意書への署名をもって研究への同意とした.また,インタビュー実施の際は,三密を避け研究参加者の希望に応じて対面もしくは遠隔にてインタビューを実施した.なお,本研究は,茨城県立医療大学倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:938).

Ⅴ. 結果

1. 研究参加者の概要

研究参加者は5大学に所属する看護学生9名であり女性8名,男性1名であった.所属大学の所在地は東北地方2名,関東地方6名,中部地方1名で,全員が高等学校卒業直後の大学進学者であり社会人を経験している者はいなかった.1名は大学4年次に助産師取得のためのコースを選択しており,2名は大学卒業後,助産師取得のため専攻科や大学院への進学が決定していた.面接時間は,平均65 ± 11分であった.

2. データ分析の結果

正統的周辺参加の視点からみた母性看護学実習における看護学生の学びは,43サブカテゴリーが導き出され12カテゴリーと3コアカテゴリー【段階的な看護実践】,【他者との関わり中での成長】,【現場で経験して得る感覚】が抽出された(表1).以下,それぞれのコアカテゴリーについて説明していく.

表1  正統的周辺参加の視点からみる母性看護学実習における看護学生の学び
コアカテゴリー カテゴリー サブカテゴリー
段階的な看護実践 学習不足を自覚し自ら学習する 報告でうまく答えられないことから学習不足を自覚する
看護者とうまくやるために自ら意欲的に学習に取り組む
実習の中で学習不足に気づき自己学習の大切さを実感する
目の前の対象を思い遣ることから実践意欲がわく 目の前にいるからこそ対象理解が進みその人に合った看護が展開できる
褥婦を思い遣る言動から信頼関係の構築へとつながり精神的支援ができる
見学から入り看護者と共に段階的に実践できる 褥婦が自信を持てるような関わりが大事であることを看護者を見て学ぶ
対象をよく観て必要な看護を実践する看護者の関わり方を見て学ぶ
看護者と一緒に実践する中で段階的にできる実践が増えていく
実践できたという実感から自信につながる 褥婦の反応をみて実践できたと実感しやる気がでる
自己学習と現場での実践が結びつくことで自信をもつ
自立してできないことから実践の重みを感じる 母子二人をみる責任は重く適切な知識や技術が求められる
直接出来ない実践は見て知識を深めるが看護した気にならない
経験しても難しく不安のある実践は看護者と一緒に行う
対象のことを考え立場上出来ないことで実践の重みを感じる
他者との関わりの中での成長 看護者の対応が実習態度に大きく影響する 厳しい看護者に自分の意見が言えない
受容的な態度や今後の学びにつながる助言を看護者からほしい
看護者に認められたいが母性実習は初めてでうまくできない
看護者から評価されることは自信や意欲の向上につながる
実習態度により看護者の反応は良くも悪くもなる
教員や仲間に支えられて実習が乗り越えられる 学生の状況を理解して支援してくれる教員に支えられる
実習を円滑に進めるためにも看護者と教員の関係性は大事
学生間で情報を共有することで実習に対応できる
学生同士で気持ちを共有することで頑張れる
コミュニケーションの難しさや大事さを実感する 褥婦や看護者とのコミュニケーションの難しさを痛感する
看護者とのうまいコミュニケーションの取り方を考える
積極性の大切さなどコミュニケーションを通した学びは現場でしか学べない
褥婦や看護者と積極的に関わりうまくコミュニケーションがとれるとやる気につながる
現場で経験して得る感覚 実習での体験から母性看護を捉える 対象が病気ではないことが母性看護の特徴であり観察力が問われる
現場で実物に見て触れることで感覚的に理解できる
新生児との関わりは難しいが日々接することで知識や技術が深まる
分娩の見学で感動を味わい実習の中で命について考える
母親が我が子や育児に不安を抱くのは当たり前のことだと分かる
産科領域での母性看護と助産の違いを感じる
実習で出会う人から看護について考える 色々な人と関わり新しいことを発見できる実習は楽しい
経験を実践に活かしていくことが重要であると看護者を見て感じる
色々な看護者との関わりを通して理想の看護者像を描く
実習を経験しての母性看護に対する興味は人により異なる
実習はゆとりなく現場での居心地の悪さを感じ取る 実習前のイメージとの違いや現場の雰囲気を知る
実習はこなすのが精一杯で楽しむゆとりはない
現場で実践メンバーの一員として認知されておらず居心地は良くない
実習を経験できることに感謝する 看護者の指導に感謝する
受け持ちの褥婦に対して申し訳なく思うが感謝して頑張りたいと思う
現場での学びは大きくその機会があることに感謝する

なお,本稿では,コアカテゴリーを【 】,カテゴリーを《 》,サブカテゴリーを[ ],研究参加者から語られた内容を「斜体」で示し,語りの補足は( )で表した.また,結果で使用する「看護者」とは,臨地実習の中で看護学生が関わる助産師もくしは看護師を指す.

1) 【段階的な看護実践】

このコアカテゴリーは,《学習不足を自覚し自ら学習する》,《目の前の対象を思い遣ることから実践意欲がわく》,《見学から入り看護者と共に段階的に実践できる》,《実践できたという実感から自信につながる》,《自立してできないことから実践の重みを感じる》の5つのカテゴリーから構成された.

看護学生は,看護者への報告でうまく答えられないことや日々の実習の中で知識や技術などの《学習不足を自覚し自ら学習する》ようになり,また母子との直接的な関わりを通して対象理解が進み,《目の前の対象を思い遣ることから実践意欲がわく》ようになっていた.そして,[褥婦が自信を持てるような関わりが大事であることを看護者を見て学ぶ]など,褥婦との関わり方について看護者をよく観て理解し,実際に実践する際には,対象に必要な看護を実践している看護者の関わりの《見学から入り看護者と共に段階的に実践できる》ようになっていた.自己学習と現場での実践が結び付くと,《実践できたという実感から自信につながる》一方で,[母子二人をみる責任は重く適切な知識や技術が求められる]ため[経験しても難しく不安のある実践は看護者と一緒に行う]ようにしており,《自立してできないことから実践の重みを感じる》時もあった.

(看護者を見て)そういう声掛け,そこに目をつけて褒めていくんだっていうのが分かると,学生だけでお母さんと話している時にも少し真似てみたりとか実践できたので.

なんかやっぱり母性っていうと,特殊な領域かなって思うので.〈中略〉,他のところと比べると専門性が高いような,助産師さんもいるじゃないですか.看護師さんに加えて.だから,(一人で実践できなくても)仕方ないかなみたいな.

看護学生は,看護者と共に【段階的な看護実践】を踏んでいく中で,経験して自立して実践できることと,学生一人では実践できないことの双方があることを捉えていた.

2) 【他者との関わりの中での成長】

このコアカテゴリーは,《看護者の対応が実習態度に大きく影響する》,《教員や仲間に支えられて実習が乗り越えられる》,《コミュニケーションの難しさや大事さを実感する》の3つのカテゴリーから構成された.

看護学生は,実習で必ず看護者と関わるが,[厳しい看護者に自分の意見が言えない]ことから[受容的な態度や今後の学びにつながる助言を看護者からほしい]と望んでいた.しかし,[看護者から評価されることは自信や意欲の向上につながる]こともあり,《看護者の対応が実習態度に大きく影響する》ものであった.看護者以外では,学生の状況を理解して看護者と上手く関係性のとれる教員に支えられ,学生同士で実習に関する情報や気持ちを共有して実習に対応しており,《教員や仲間に支えられて実習を乗り越えられる》ことにつながっていた.さらに,褥婦や看護者との関わりにおいては,コミュニケーションの難しさを痛感しながら,うまいコミュニケーションの取り方を考える中で,[積極性の大切さなどコミュニケーションを通した学びは現場でしか学べない]と考え,現場での《コミュニケーションの難しさや大事さを実感する》ことにつながっていた.

褥婦さんの言葉をちゃんと受け止めて,相互的に褥婦さんと関わって,自分の思っていることを伝えるっていうのはやっぱり大事だなと感じて.〈中略〉ちゃんと伝えて,相手に承諾してもらうとか.そこは,そうでなくてこうのがいいって言われたら,そっちに切り替えるとかって言うのは大事だなって.コミュニケーションのところは,結構成長したかなって思います.

妊産褥婦や看護者などとうまくコミュニケーションがとれると,学生は自らコミュニケーションをとることに対して前向きになり,【他者との関わりの中での成長】を感じていた.

3) 【現場で経験して得る感覚】

このコアカテゴリーは,《実習での体験から母性看護を捉える》,《実習で出会う人から看護について考える》,《実習はゆとりなく現場での居心地の悪さを感じ取る》,《実習を経験できることに感謝する》の4つのカテゴリーから構成された.

看護学生は母性看護学実習において,[対象が病気でないことが母性看護の特徴であり観察力が問われる]と感じ,新生児や産後の母体の変化を直接,[現場で実物に見て触れることで感覚的に理解できる]経験をしていた.また,学生によっては[分娩の見学で感動を味わい実習の中で命について考える]機会をもてていた.他にも,[母親が我が子や育児に不安を抱くのは当たり前のことだと分かる]ようになり,母性看護の対象の心理的特徴や,産科の現場で働く助産師との関わりを通して[産科領域での母性看護と助産の違いを感じる]など,《実習での体験から母性看護を捉える》ことができていた.

現場では多くの人と出会い,多くのことを経験するが,[色々な人と関わり新しいことを発見できる実習は楽しい]と感じる学生もいた.そして,学生の大半が[色々な看護者との関わりを通して理想の看護者像を描く]など看護者のあり方や自己の看護観などについて考えていた.ただし,[実習を経験しての母性看護に対する興味は人により異なる]ものであった.いずれにしても,学生は,《実習で出会う人から看護について考える》機会を得ていた.くわえて,現場の中に実際,身を置くことで[実習前のイメージとの違いや現場の雰囲気を知る]ことができたが,実習をこなすのに精一杯で,忙しい現場で実践メンバーの一員として学生は認知されていない気がして,《実習はゆとりなく現場での居心地の悪さを感じ取る》ことにつながっていた.一方で,実習の場で関わる看護者や受け持ちの褥婦に対して申し訳なく思いながらも感謝の念を抱き,現場で得る学びの大きさから《実習を経験できることに感謝する》ようになっていた.

ポジティブな経験もネガティブな経験も全部自分にとっては必要なものなのかなって.自分が現場に臨床に出た時のことを考えると.行くと行かないとではやっぱり,行ったほうのがダメなところとかも分かるし.教科書でしか見てなかったところとかが実際の臨床の方向性とかも分かるし,まぁ行って良かったなっていうか行くべきだなって,行く価値があるなっていうのは何となく思います.

看護学生は,母性看護学実習でしか学べないことを,【現場で経験して得る感覚】から学んでいた.しかし,実習での経験がすべて肯定的なものばかりでは決してなかった.

Ⅵ. 考察

1. 母性看護学実習における看護学生の学び

今回,母性看護学実習における看護学生の学びについて,臨地の実践共同体への参加を通して人や物との相互的な関係性の中で生じる変化に着目し,社会的構成主義ことに正統的周辺参加の視点から分析を試みた.その結果,看護学生は,知識・技術・態度などの看護実践能力の習得以外に,母性看護学実習で出会う妊産褥婦や新生児,看護者などとの相互交流を通して,自己の成長を感じ,学びとしていることが明らかとなった.さらに,本研究は,母性看護学実習における看護学生の実践共同体への参加の特徴や相互的な関係性の中で生じた学びの具体的内容について学生の語りから記述したものであり,ここに新規性があると考える.

領域別看護実習では,さまざまな発達段階・健康レベル・生活背景の人々を対象に看護を展開する.それぞれの実習において対象の特徴や看護の視点が異なるため看護学生の学びは当然違ったものとなる.今村(2018)は,老年看護学実習における看護学生と看護師との相互行為について質的に分析し,学生は看護師のケアを模倣し取り入れながら看護ケアを行い,高齢者の特徴を踏まえた看護ケアの有り様について学んでいることを明らかにした.本研究参加者の学生も,看護者と共に【段階的な看護実践】を行い,実践への参加の度合いを高め,Lave & Wenger(1991/1993)の正統的周辺参加の過程の中にいた.そして,【段階的な看護実践】の中で,自分の実践に対する自信を高めていた.ただし,母性看護学実習において看護学生は,[経験しても難しく不安のある実践は看護者と一緒に行う]ようにしており,《自立してできないことから実践の重みを感じる》経験をしていた.これは,患者の権利や安全のもと許容される看護技術に限りがある看護学生ならではの実践共同体への参加のあり方とも言える.特に,母性看護の対象はセルフケア能力が高く,看護者が直接的に援助を行うよりも確認や見守りというケアのほうが多い.必然的に学生自身も健康教育などの指導の場面を見て学ぶことが多く,見学が主となる実践参加のあり方は,母性看護学実習の特徴であると言える.一方で,学生は[褥婦が自信を持てるような関わりが大事であることを看護者を見て学ぶ]ことができており,妊産褥婦への直接的な実践のみが学びにつながるわけではないことが明らかとなった.また,看護学生は,妊産褥婦や新生児と直接関わることで,《実習での体験から母性看護を捉える》ことができていた.対象が病気ではないことが母性看護の特徴であり,正常からの逸脱がないか観察する力が問われること,分娩見学での感動,新生児との関わりの難しさ,他の実習では交わることのない助産師との関わりから母性看護と助産の違いを知るなど,学内では得られない学びを【現場で経験して得る感覚】から学んでいた.

くわえて,母性看護学実習において看護学生は[厳しい看護者に自分の意見が言えない]ことも多く,《実習はゆとりなく現場での居心地の悪さを感じ取る》経験をしていた.佐藤(2020)は,急性期の成人看護学実習における看護学生の困難について明らかにしているが,本研究の結果と同様に,急性期の実習において看護学生は看護師との対応に戸惑い,病棟の雰囲気をせわしなく感じていた.ただし,本研究参加の学生は,看護者に評価されることで自信や意欲も感じており,《看護者の対応が実習態度に大きく影響》することは間違いないが,決してネガティブな影響ばかりではなく,看護学生が【他者との関わりの中での成長】を実感していることが明らかとなった.そして,看護学生にとって臨地実習は,様々な看護者との関わりを通して理想の看護者像を描くなど自己のアイデンティティについて考える機会にもつながっていた.現場で直に人と交流して主体的に学べる実習は,他者との相互的な関わりから自己を見つめ直し,職業アイデンティティの形成の礎ともなっていることが示された.

2. 看護学生の学びを支えるための母性看護学実習の展開

実習を通して,看護学生は[現場での学びは大きくその機会があることに感謝する]ようになっていたが,[現場で実践メンバーの一員として認知されておらず居心地が良くない]とも感じており,実際,周産期の現場は常に忙しく,学生に細やかに対応するのは難しい.柳原(2000)は「臨床という実践共同体への参加で学生が,〈学びの役割〉を持ちつつも,その役割を通して,学生の参加が周囲の関係性の中で認められ,自己の役割を実感していくことが臨床実習の学習において重要である」と述べている.つまり,初心者である学生が実践共同体の一員として受け入れられ,周辺参加から十全参加に向けての実践への参加が認められていることが重要であり,さらに,積極的に学生を実践に巻き込むような看護者の配慮が学生の学びのプロセスを促進させることにつながると考える.

また,看護学生は,妊産褥婦や看護者,教員,学生同士など【他者との関わりの中での成長】を実感していた.Pritchard & Woollard(2010/2017)は,リアリティについての個人的あるいは共有した解釈や理解を発展させていくためには,文化や文脈,他者の役割や,あらゆる形での社会的相互作用が重要であると述べており,学びには他者との相互作用が不可欠であると言える.《教員や仲間に支えられて実習が乗り越えられる》ことにつながっていたことから,馴染みのある仲間や教員は学生の学びを支えるものである.その一方で,《看護者の対応が実習態度に大きく影響する》ことも明らかとなり,看護者の関わり方次第で,学生の学びは違ったものになるであろうことが示唆された.

本研究参加の学生は,実際の看護について《見学から入り看護者と共に段階的に実践できる》ようになっていたが,Wood et al.(1976)は,幼児の発達過程を研究する中で,問題解決過程を共有し支援してくれる有能な他者の助けを借りることで,子どもたちが,その助けがないときよりも複雑な課題に取り組めるようになるという「足場かけ」の概念を提案している.下井(2019)は,この「足場かけ」の概念について,専門職養成課程においても重要な学習支援方略の一つになると述べている.山本・片岡(2019)は,分娩期における新人助産師の気づきと解釈を促進するために,指導者が適したタイミングで思考を促す発問をすることが効果的であることを明らかにした.また,助産師主導の環境において助産学生が強力に支えられていることをNorris & Murphy(2020)は示した.これは,新人助産師や助産学生が有能な他者(指導者)の助けにより成長できることを示すものであるが,同様に看護学生においても課題の達成や問題解決において有能他者となる看護者からの適切な支援は欠かせず,看護者は看護学生にとって足場かけを提供してくれる存在とも言える.一方で,学生の[実習態度により看護者の反応は良くも悪くもなる]ものであったことから,学生同様に看護者もまた,学生との関わりを通して相互作用していることが明らかとなった.

以上のことより,母性看護学実習における看護学生の学びを正統的周辺参加の視点から捉えると,実習の目的,目標を達成することをねらいとした従来の学習という考え方に集約できる成果のみならず,現場の実践共同体の中で看護学生は,複雑かつ現実的な学びをしていることが明らかとなった.本研究は大学生を対象としたが,日本においては専門学校等で学ぶ看護学生が多い.「学び」を他者との相互作用から得た自己の変化に注目した本研究の結果は,看護者や褥婦,新生児など学内では関われない人との交流のとれる実習においては,大学生に限らず多くの看護学生に共通するものであると言える.そして,看護学生は,現場でしか交われない人や経験から母性看護の理解を深めており,状況的学習論の観点から看護学生の学びを捉えていくことは意義あるものであった.本研究で示された看護学生の学びは,実践メンバーの一員として看護学生が実践共同体の中に受け入れられ,正統的に周辺参加できることにより深まるものであろうと考える.

Ⅶ. 本研究の限界と今後の課題

本研究の限界として,看護学生は,各自が所属する施設の学習目標に沿って実習を経験しており,設定される学習目標によって得られる経験は異なり学びが変わる可能性がある.しかし,今回の研究では,学習目標に関する聴取はしておらず,研究参加者の学びが学習目標のもとにあるものなのか,外にあるものなのかは検討できていない.また,研究参加者には助産コース専攻者や卒業後に助産へ進学する者が含まれ,比較的母性看護に興味が高い対象であった可能性がある.母性看護に対する捉え方は多様であるため,母性看護学実習を肯定的に受けとめていない学生や母性看護にあまり興味や関心のない学生などを対象に含めることで結果の網羅性が高まると考える.

そして,看護学生が看護者との相互作用の中で学びを得ていたように,看護者も同様に学生との関わりを通して指導する立場にある自身の変化を学生から学んでいることが考えられ,正統的周辺参加の視点で看護者の学びについてみていくことで新たなる知見が得られる可能性が示唆された.今後は,母性看護学実習において学生指導を行う看護者の学びについて明らかにすることを通じて,看護学生の学びをいかに支えていくかを検討していくことが課題である.

Ⅷ. 結論

母性看護学実習における看護学生の学びは,【段階的な看護実践】【他者との関わりの中での成長】【現場で経験して得る感覚】があることが明らかになった.母性看護学実習において看護学生は,看護者と共に看護を実践していく中で段階的に実践力を高め,正統的周辺参加の過程の中にいた.そして,学内では直接関わることのできない妊産褥婦や新生児,看護者などとの相互交流を通して,自己の成長を感じていた.

謝辞:本研究を行うにあたりインタビューにご協力いただきました研究参加者の学生の皆様に深くお礼申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:KOは,研究の着想およびデザイン,データ収集,データ分析,論文執筆のすべてを実施した.MYはデータの分析および原稿への示唆を行った.NKは,研究の着想から原稿への示唆に至る研究の全プロセスにおいて助言を行った.すべての著者は,最終原稿を確認し,承認した.

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