日本看護科学会誌
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原著
抗がん剤変更時における高齢消化器がん患者のフレイルとQOLの関連
大日方 裕紀矢ヶ崎 香浜本 康夫平田 賢郎須河 恭敬小松 浩子
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2022 年 42 巻 p. 254-262

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Abstract

目的:抗がん剤変更時における高齢消化器がん患者のフレイルの実態とQOL の関連を明らかにすることである.

方法:抗がん剤変更時の65歳以上の消化器がん患者を対象に横断的観察研究を行った.フレイル及びQOLの測定は,G8とEQ-5D-5Lを用いた.

結果:51名が研究参加を同意し,データ収集と分析を行った.フレイルに該当する高齢消化器がん患者は,40名(78.4%)であった.フレイルには,BMI(p < .001),下腿三頭筋周囲径(p = .023)が関連していた.また,フレイル群は非フレイル群に比べQOLが低かった(p = .04).

結論:抗がん剤変更時における高齢消化器がんのフレイル患者の特徴とフレイルサイクルへ陥りやすい集団が明らかになった.治療変更時における高齢がん患者に対するフレイルの評価は,QOLを考慮した個別的な支援の重要な要素になり得る.

Translated Abstract

Aim: The study aimed to investigate the relationship between frailty and quality of life (QOL) in older patients with gastrointestinal cancer at the time when an anticancer drug regimen is changed.

Methods: We conducted a cross-sectional observational study of gastrointestinal cancer patients aged 65 years or older at the time of anticancer drug change. Frailty and QOL were measured using G8 and EQ-5D-5L.

Results: Fifty-one patients agreed to participate in this study. Data collection and analysis were conducted. Forty (78.4%) older patients with gastrointestinal cancer were considered frail. Flail group had a lower BMI (p < .001), thinner calf (p = .023), and lower quality of life (p = .04) compared to the non-frail group.

Conclusion: This study showed the characteristics of frail patients with gastrointestinal cancer when changing anticancer drug regimen and the population that is vulnerable to falling into the frail cycle. The assessment of frailty in older cancer patients receiving anticancer drugs was an essential factor for QOL-conscious treatment decision.

Ⅰ. 諸言

わが国では超高齢社会に伴い,高齢がん罹患者数は65~74歳で30.9%,75歳以上は43.6%と増加傾向にある(国立がん研究センターがん情報サービス,2018).これまで高齢がん患者に対する治療は,医師の経験や患者の年齢などエビデンスの乏しい理由で治療が決定され,併存疾患や受ける治療に耐えうるかなどの複合的な影響の評価は十分に行われていなかった(Townsley et al., 2005).

このような高齢がん患者の状況に対し,日本臨床腫瘍学会(2019)は,高齢者のがん薬物療法ガイドラインを作成し,高齢者に対するがん薬物療法においては,がん患者のQOL(Quality of Life.以下,QOL)や身体機能を評価し,適応を判断することを推奨した.また,国外においても国際老年腫瘍学会(International Society of Geriatric Oncology)は,高齢者の機能評価を行い,高齢者の状態に適した治療法を検討することを推奨している(Wildiers et al., 2014).高齢者の機能評価の一つにフレイルの評価がある.フレイルとは,累積的に生じる様々な身体および精神的な予備能力が低下した状態である(Fried et al., 2001).フレイルは,介入によって可逆的な変化も可能である一方,フレイルサイクルと呼ばれる骨格筋量の低下,歩行速度の低下,身体活動性の低下,慢性的な低栄養のいずれかを起点とし,悪循環に至ることも報告されている(Fried et al., 2001).

高齢がん患者に対する抗がん剤の使用は,フレイルに陥るリスクがある(Aparicio et al., 2013).進行及び再発がん患者は,有害事象と効果を勘案し抗がん剤の継続や中止の検討もしくは抗がん剤の種類の変更を行なう(大腸研究会,2019日本胃癌学会,2018).また,フレイルに該当する高齢がん患者は,抗がん剤の不耐のリスクや死亡率が高いと報告されている(Handforth et al., 2015).フレイルは経時的に変化するため,治療開始前のみに限らず,抗がん剤の変更時も重要なポイントである.さらに,抗がん剤変更時のタイミングにおけるフレイルの程度やQOLを知ることは,治療の有害事象のみならず,患者の身体的・精神的な予備能力を評価し,今後の高齢がん患者に適した治療法の提示もしくは推奨することができる(Wildiers et al., 2014).しかしながら,高齢消化器がん患者のフレイルとQOLの関連性は,手術患者に対して調査は亀山ら(2017)によって行われているものの,抗がん剤治療を受ける患者に対する調査はない.さらに,フレイル患者は予備能力の低下を示しているが,実質的な機能障害に至っておらず,QOLとの関連は明らかではない(Williams et al., 2019).本研究の目的は,抗がん剤変更時における高齢消化器がん患者のフレイルの実態とQOLとの関連を明らかにし,フレイル患者のQOLを考慮した個別的な支援の一助となることである.

Ⅱ. 研究方法

1. 用語の操作的定義

1) 高齢者

高齢者とは,世界保健機関を含む多くの国で使用されている「65歳以上」の定義を用いた(World Health Organization, 2001).

2) フレイル

フレイルとは,Friedら(2001)の定義を参考とし,「加齢に伴う様々な機能変化や予備能力の低下によって健康状態に対する脆弱性が増加した状態」とした.本研究では,一般的に使用されているBelleraらのカットオフ値であるGeriatric 8 ≦ 14をフレイル患者とした(Bellera et al., 2012).

3) 抗がん剤変更時

抗がん剤変更時とは,病勢の悪化や有害事象などにより治療計画で使用してきた抗がん剤を中止し,異なる種類の抗がん剤を開始する前の期間を指す.

2. 研究デザイン

横断的観察研究

3. 研究対象者

対象者は,都内の大学病院に外来通院中の消化器がん患者とした.対象者の選択基準として1)65歳以上の高齢者,2)II期〜IV期の消化器がん(胃・大腸・直腸・膵臓・胆道を原発とするがん)の患者,3)現在投与されている抗がん剤を変更し,新たな抗がん剤の投与開始前の者,4)診療科医師が身体的・精神的に調査協力が可能な状態であると判断している者,5)研究目的・調査方法・手順等の研究の主旨を理解し,研究の協力に同意を示している者とした.除外基準として,1)認知症の既往がある者,2)質問紙を回答するための日本語を理解できない者とした.

4. 研究期間

2019年6月~2020年2月

5. 測定項目およびデータ収集

1) 調査項目

(1) 患者の基本情報

自記式質問紙から年齢,性別,身長,体重を調査した.また,日本臨床腫瘍学会が推奨する高齢者機能評価ツールである居住状況の調査用紙を用いて,自宅(独居)・自宅(同居),施設(高齢者向け住宅や介護施設など)を調査した.IADLは電話の使用,買い物,食事の準備,家事,洗濯,移動,服薬管理,金銭管理の8項目を3から5の区分に分け自立度に応じて得点を算出する,Lawtonの手段的日常生活動作(Instrumental Activities of Daily Living.以下,IADL),を用いて調査した(本間,1991).男性のIADLの調査は,食事の準備,家事,洗濯を除く5項目を調査することになっている.また,診療録からBMI(Body Mass Index.以下,BMI),ECOG-PS(Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status.以下,ECOG-PS),チャールソン併存疾患指数(Charlson Comorbidity Index.以下,CCI)のアップデート・バーションを調査した(Quan et al., 2011).

(2) 治療関連の情報

① 治療関連の情報

診療録から治療変更時におけるがんの原病巣,病期,抗がん剤治療の段階の情報を調査した.

② 有害事象について

抗がん剤療法の有害事象の程度の調査には,PRO-CTCAE(Patient Reported Outcomes version of the Common Terminology Criteria for Adverse Events.以下,PRO-CTCAE)の日本語版を用いた(Miyaji et al., 2017).本研究においては,消化器がんに使用される抗がん剤のインタビューフォームにて有害事象の出現率が50%以上で,日常生活への影響が考慮される①末神経系障害②手掌・足底発赤知覚不全症候群③口腔粘膜炎④下痢⑤食欲不振⑥疲労⑦脱毛⑧ざ瘡⑨発疹に該当する項目をPRO-CTCAEから選出した.また,調査時から過去7日間の症状または生活の妨げを評価した.

(3) QOL

QOLの調査には,EQ-5D-5L日本語版を用いた(Shiroiwa et al., 2016).EQ-5D-5Lは,移動の程度,身の回りの管理,ふだんの活動,痛みもしくは不快感,不安もしくはふさぎ込みの5項目を,支障がないからとても支障があるまでの5段階で評価した.そして,5項目の評価スコアから換算表によって「死亡=0」から「完全な健康=1」と基準化されたQOLスコアを算出した.また,5項目から換算するQOLとは別に,それぞれの下位尺度のスコアと患者が認識する全人的な健康状態のQOLとして視覚的評価スケール(Visual Analog Scale.以下,VAS)を用いて回答を得た.スコアは,0~100の範囲で高い方がよいQOL状態であることを示している.

(4) フレイル

フレイルは,Belleraら(2012)のGeriatrics 8:以下,G8を用いて調査した.G8は簡易栄養状態評価表(Mini Nutritional Assessment)を修正し,身体機能(1項目),薬剤(1項目),栄養(3項目),気分(2項目),年齢区分(1項目)の8項目で作成され,0(重度のフレイル)から17(フレイルなし)の範囲でスコア化し,カットオフ値 ≦ 14点,感度85%,特異度65%と報告されている(Bellera et al., 2012).Mizutaniら(2019)も日本の高齢者の栄養スクリーニングとして推奨しており,本研究はG8 ≦ 14点をフレイル患者とした.

(5) 下腿三頭筋周囲径

下腿三頭筋周囲径は,対象者の栄養・身体活動を反映し,フレイルに関連があると報告されている(Landi et al., 2014).対象者が椅子に腰かけた状態で最大周囲を計測した.着衣は脱がず,捲るか丈の長い靴下などは下げて実施した.また,本人から着衣の上からとの申し出があった場合には,着衣のまま実施し,布の厚さとして標準的な0.5 mmを差し引いた.なお,薄地で透明感のあるストッキング素材は着衣に含まないとした.

2) データ収集方法

研究対象施設の医師が選択基準,除外基準に基づき該当する対象候補者を選出し,外来診察時に対象候補者として研究者へ紹介した.研究者は対象候補者が外来診察後,原則としてプライバシーが確保できる個室またはそれに準ずる場で口頭と文書で研究の説明を行い,研究の協力を依頼した.研究協力の同意が得られた対象者に対し,研究者が外来受診当日の患者の状態を自記式質問紙(有害事象に関する質問は1週間以内),調査票,下腿三頭筋周囲径の測定,診療録から調査を行った.収集したデータは,個人が特定できないよう匿名化した.

6. 分析方法

データ分析には,統計ソフトEZR ver 1.37を使用した.各変数の基本統計量を算出し,測定値は中央値(95%信頼区間)で表記した.G8 ≦ 14の対象者を「フレイル」,G8 > 14の対象者を「非フレイル」の2群に分類した.人口統計学的データ,疾患・治療関連データ,QOLとフレイル有無の関連を明らかにするための2群間の比較にはカテゴリカルデータの場合はFisherの正確確率検定,連続変数の場合はMann WhitneyのU検定を用いた.有意水準は5%とした.

7. 倫理的配慮

本研究は,慶應義塾大学医学部(承認番号:2019-12)および慶應義塾大学健康マネジメント研究科(承認番号:20190012)の研究倫理審査委員会による審査において承認を受けて実施した.すべての対象者に文書と口頭で研究の趣旨,匿名性,自由意思による参加,同意の撤回の自由などについて説明し,署名による研究参加の同意があった者を対象者とした.なお,既存の尺度使用に関しては,尺度開発者に許可を得て使用した.

Ⅲ. 結果

医師から53名の対象候補者の紹介があり,そのうち同意が得られた候補者は51名であった.対象候補者のうち,1名が外来時間の変更,1名が患者の緊急入院により研究調査の説明が行なえず,同意が得られなかった.同意が得られた51名から有効回答を得て,データ収集及び分析を行った.

1. 対象者の概要

対象者の概要を表1に示す.年齢の中央値は74(範囲:65~90)歳であった.男性は32名(62.8%),女性は19名(37.3%)であった.PSは,0~1が50名(98.1%)であった.IADLの中央値は,男性が5点満点中5(範囲:3~5)点,女性が8点満点中8(範囲:4~8)点であった.チャールソン併存疾患指数(CCI)は,予後に影響を及ぼす併存疾患がない者が36名(70.6%),自己免疫疾患や重複がんなどの併存疾患を有する1点以上の者が15名(29.4%)であった.疾患関連データでは,胃がんが最も多く,食道がんを含む上部消化管がんは30名(58.8%)であった.直腸がん,大腸がんを含む下部消化管がんは14名(27.5%),神経内分泌がんを含む胆道・膵臓がんは,7名(13.7%)であった.診断時の病期としては,stage IVが30名(58.8%),再発が21名(41.1%)であった.

表1  対象者の概要とフレイルの有無による比較(n = 51)
項目 全体(n = 51) フレイル:G8 ≦ 14(n = 40) 非フレイル:G8 > 14(n = 11) p
中央値 中央値 中央値
年齢,歳(範囲) 74(65~90) 74(65~90) 72(65~85) .543
性別,n(%)
男性 32(62.8) 23(57.5) 9(81.8) .176
女性 19(37.3) 17(42.5) 2(18.2)
身長,cm(範囲) 160.0(145.0~181.0) 160(145.0~181.0) 170(154.0~178.0) .023
体重,kg(範囲) 54.0(36.9~83.0) 50.0(43.4~83.0) 65.0(55.0~76.1) <.001
BMIa,kg/m2(範囲) 20.3(14.7~29.5) 19.4(14.7~29.5) 24.0(19.6~26.6) <.001
居住状況(%)
独居 7(13.7) 4(10.0) 3(27.3) .162
同居 44(86.3) 36(90.0) 8(72.7)
ECOG-PSb(%)
0 14(27.5) 10(25.0) 4(36.4) .589
1 36(70.6) 29(72.5) 7(63.6)
2 1(2.0) 1(2.5) 0(0.0)
IADLc(範囲)
男性(n = 32) 5(3~5) 5(3~5) 5(4~5) .058
女性(n = 19) 8(4~8) 8(4~8) 8(8~8) .317
下腿三頭筋周囲径,cm(範囲) 34.0(26.0~44.5) 33.0(26.0~44.5) 36.5(33.5~41.0) .002
CCId(%)
0 36(70.6) 30(75.0) 6(54.5) .264
1 ≦ 15(29.4) 10(25.0) 5(45.5)
がんの原発巣(%)
上部消化管 30(58.8) 26(65.0) 4(36.4) .115
下部消化管 14(27.5) 10(25.0) 4(36.4)
胆道・膵臓がん 7(13.7) 4(10.0) 3(27.3)
原発巣(%)
切除可能例 24(47.1) 19(47.5) 5(45.5) .999
切除不可能例 27(52.9) 21(52.5) 6(54.5)
診断時の病期(%)
stage IV 30(58.8) 23(57.5) 7(63.6) .999
再発 21(41.1) 17(42.5) 4(36.4)
G8e(範囲) 12.0(6.0~17.0) 11.0(6.0~14.0) 15.0(14.5~17.0) <.001

BMIa = Body Mass Index

ECOG-PSb = ECOG Performance Status

IADLc = Instrumental Activities of Daily Living

CCId = Charlson Comorbidity Index

G8e = Geriatric 8

治療関連データを表2に示す.抗がん剤変更前の治療段階は,1次治療が30 名(58.8%)と最も多く,2次治療10名(19.6%),3次治療以降7名(13.7%)の順であった.PRO-CTCAEの項目では,手足の痺れやピリピリ感28名(54.9%),疲れ,だるさ,活力低下31名(60.8%),疲れ,だるさ,活力低下による生活の妨げ29名(56.9%)において,対象者の50%以上が調査日の過去7日間に経験があると回答した.

表2  対象者の治療と有害事象のフレイル有無による比較(n = 51)
項目 全体(n = 51) フレイル:G8 ≦ 14(n = 40) 非フレイル:G8 > 14(n = 11) p
抗がん剤変更前の治療段階(%)
術後補助療法 4(7.8) 4(10.0) 1(9.1) .184
1次治療 30(58.8) 24(60.0) 6(54.5)
2次治療 10(19.6) 7(17.5) 2(18.2)
3次治療 2(3.9) 2(5.0) 0(0.0)
4次治療 2(3.9) 0(0.0) 1(9.1)
5次治療 1(2.0) 1(2.5) 0(0.0)
6次治療以降 2(3.9) 2(5.0) 1(9.1)
PRO-CTCAE*
手足の痺れやピリピリ感(%)
あり 28(54.9) 21(52.5) 7(63.6) .734
手足の痺れやピリピリ感による生活の妨げ(%)
あり 19(37.3) 13(32.5) 6(54.5) .291
手足症候群(%)
あり 13(25.5) 10(25.0) 3(27.3) .999
口の中や喉の痛み(%)
あり 7(13.7) 6(15.0) 1(9.1) .999
口の中や喉の痛みによる生活の妨げ(%)
あり 6(11.8) 6(15.0) 0(0.0) .319
下痢をすること(%)
あり 18(35.3) 18(45.0) 0(0.0) .005
食欲不振(%)
あり 23(45.1) 21(52.5) 2(18.2) .084
食欲不振による生活の妨げ(%)
あり 16(31.4) 15(37.5) 1(9.1) .14
疲れ,だるさ,活力低下(%)
あり 31(60.8) 28(70.0) 3(27.3) .015
疲れ,だるさ,活力低下による生活の妨げ(%)
あり 29(56.9) 26(65.0) 3(27.3) .039
毛髪が抜ける(%)
あり 8(15.7) 8(20.0) 0(0.0) .176
顔や胸にできたニキビや吹き出物(%)
あり 3(5.9) 1( 2.5) 0(0.0) .999
発疹(%)
あり 2(3.9) 2(5.0) 0(0.0) .999
その他の症状a(%)
あり 11(21.6) 10(25.0) 1(9.1) .418

* PRO-CTCAE5段階の評価グレードのうち,症状は,「軽度」「中等度」「高度」「極めて高度」を「あり」とした.生活の妨げは,「少し」「ある程度」「かなり」「ものすごく」を「あり」とした.

その他の症状a:腹部の張り,腹痛,腰痛,喉のつかえ感,爪の剥がれ,肩の痛み,ふらつき

2. 抗がん剤変更時における高齢消化器がん患者のフレイルに関連する要因

対象者のG8は17点満点中,中央値は12.0(範囲:6.0~17.0)点であった.カットオフ値G8 ≦ 14でフレイル群,非フレイル群の2群に群別し,フレイルに該当するものは40名(78.4%)であった.人口統計や疾患に関するデータにおける2群間の比較を行い,表1に示した.非フレイル群は,男性が9名(81.8%),女性が2名(18.2%)であった(p = .172).フレイル群は非フレイル群と比較し,身長が低く(p = .023),体重が軽く(p < .001),BMIが低く(p < .001)あった.フレイル群の下腿三頭筋周囲径は,非フレイル群に比べ3.5 cm有意に細かった(p = .023).

治療と有害事象のフレイルの有無による2群間比較(表2)では,フレイル群は非フレイル群と比較し,下痢をすること(p = .005),疲れ,だるさ,活力低下(p = .015),疲れ,だるさ,活力低下による生活の妨げ(p = .039)の項目でフレイル群が有意に有害事象を生じていた.

3. 高齢消化器がん患者の抗がん剤変更時におけるフレイルの有無とQOLの関連

フレイル群,非フレイル群の2群間でQOLの比較を行ない,結果を表3に示した.フレイル群(EQ-5D-5L = 0.867)は非フレイル群(EQ-5D-5L = 0.895)に比べ,QOLが有意に低かった(p = .049).VASで測定したQOLは,有意な差を認めなかった(p = .152).QOLの下位尺度では,フレイル群は非フレイル群に比べ有意に『ふだんの活動』への支障のレベルが高かった(p = .007).

表3  フレイルの有無によるQOLの比較
項目 全体(n = 51) フレイル:G8 ≦ 14(n = 40) 非フレイル:G8 > 14(n = 11) p
中央値(範囲) 中央値(範囲) 中央値(範囲)
QOLa
EQ-5D-5L 0.875(0.225~1.000) 0.867(0.225~1.000) 0.895(0.758~1.000) .049
QOLサブスケール
移動の程度 1(1~4) 1(1~4) 1(1~3) .429
身の回りの管理 1(1~4) 1(1~4) 1(1~1) .183
ふだんの活動 1(1~4) 1(1~4) 1(1~1) .007
痛み/不快感 1(1~5) 1.5(1~5) 1(1~4) .96
不安/ふさぎ込み 1(1~5) 1(1~5) 1(1~3) .097
VASbn = 50) 80(10~100) 75(10~100) 80(50~95) .152

QOLa = Quality of Life

VASb = Visual Analogue Scale

Ⅳ. 考察

本研究において,抗がん剤変更時における高齢消化器がん患者のフレイルの実態及びQOLとの関連を明らかにした.

1. 抗がん剤変更時における高齢消化器がん患者のフレイルの実態

本研究の高齢消化器がん患者のフレイル患者は,78.4%であった.主に抗がん剤治療を受ける前の大腸がんや乳がんなど多様な病期のがんの高齢者を対象としたHandforthら(2015)らの20文献のシステマティックレビューでは,フレイルの割合は42%(範囲6~86%)であり,本研究の対象者集団のフレイルの割合が高いことがわかった.本研究の対象者のフレイルの割合が高くなった理由として,本研究の対象者の病期は,ステージIVや再発転移のある消化器がん患者であった.特に消化器がん転移の新規病変としては,肺,腹膜,骨などが挙げられ,症状の悪化に伴う呼吸苦や腹水の増加,痛みは患者のフレイルを増悪させる可能性がある(Budczies et al., 2015).また,進行がん患者は身体的な苦痛のみならず,精神的な苦痛も生じフレイルの割合が高くなったと考えられる(浅海・村上,2017).また,フレイル患者への抗がん剤治療は,死亡リスクの増加や治療耐性が低いと報告されている(Handforth et al., 2015).そのため,本研究の高齢がん患者の治療変更時におけるフレイルの評価は,今後の抗がん剤治療においてフレイルのリスクが高く注視すべき対象を選出することが可能と考えられた.

2. 抗がん剤変更時における高齢消化器がん患者のフレイル要因の検討

カットオフ値G8 ≦ 14で群別したフレイル群と非フレイル群の2群間比較において,フレイル群は非フレイル群に比べ体重が軽く(p < .001),BMIが低く(p < .001),下腿三頭筋周囲径が細い(p = .023)ことがわかった.Friedら(2001)の研究では,筋力の低下,身体活動性の低下,低栄養などを契機としてフレイルサイクルを引き起こすことが示唆されている.本研究対象者もフレイルサイクルの要素である筋力の低下,身体活動性の低下,低栄養を有し,要素間の相互作用により,フレイルサイクルに陥る可能性が高いと考えられる.

また,フレイル群の有害事象は,非フレイル群に比べ,下痢をすること(p = .005),疲れ,だるさ,活力低下(p = .015),疲れ,だるさ,活力低下による生活の妨げ(p = .039)の項目で有意に症状があった.抗がん剤治療を受ける高齢者の吐き気や下痢などの消化器症状は,栄養失調の原因として報告されている(Caillet et al., 2017).また,疲労,だるさは,日常動作を低下させ,さらに活動耐性の低下を引き起こす(Fried et al., 2001).このように,高齢消化器がん患者のフレイルの要因は一つではなく,いくつかの要素が複合的に生じていると考えられる(Ethun et al., 2017).

そのため,高齢がん患者のフレイルに対する介入は単一の介入ではなく,看護師,栄養士,理学療法士による食事内容の検討や運動リハビリの実施など集学的なチームによる介入が期待されている(Lund et al., 2021).

3. 抗がん剤変更時における高齢消化器がん患者のフレイルとQOLの検討

本研究対象の治療変更時の高齢消化器がん患者において,フレイル群は非フレイル群に比べQOLが有意に低かった(p = .049).また,QOLの下位尺度では,フレイル群は非フレイル群に比べ『ふだんの活動』の支障のレベルが有意に高かった(p < .001).本研究のフレイル患者の特徴として明らかとなった筋力の低下や疲労・だるさにより,ふだんの活動に支障が生じ,QOLの低下につながったと推察される.

一方で,再発大腸がん手術後の患者に行った亀山ら(2017)の調査では,EQ-5D-5L によるQOLスコアが0.820であったのに対し,本研究対象者のQOLスコアは0.875と良好であった.予後が非常に悪い場合でも抗がん剤治療を行っている患者は,治療効果の希望からQOLが高いことが報告されている(Sjoquist et al., 2013).本研究においても,抗がん剤の変更となった者を対象としており,次の治療への希望を有することによって,QOLの低下をまぬがれていると事が推測される.ただし,フレイルは長期的なQOLの低下と関連すると報告され,注視すべき要素である(Williams et al., 2019).その為,抗がん剤変更時にフレイルを評価し,身体活動や栄養などの介入を早期に行う必要がある.そうすることにより,フレイルの可逆的な変化や悪化の予防となり,QOLの維持もしくは改善が期待できると推察される.

Ⅴ. 本研究の限界と今後の課題

本研究は横断的研究であり,初発もしくは再発や身体状況などの治療変更前の患者の状態から因果関係を示すことはできない.さらに,単施設での研究であったため,対象者背景に偏りがあった可能性がある.また,研究対象者の男女比が異なること,治療に関する要素として,抗がん剤の適応基準にPSが示されていること,病期や治療内容は多様であり,層別化して分析ができておらず,一般化には限界がある.サンプル数が少なく,フレイルに対する多変量解析が実施できなかったため,フレイルの要因が十分に検討できていない可能性がある.また,日本人の高齢がん患者を対象にしたG8のカットオフ値は,予後予測に関しては頭頚部がん(石井ら,2018)や進行消化管がん(Nakazawa et al., 2021)で12点との報告があるが,フレイルに関しての報告は見当たらず,がん種等を含めたカットオフ値のさらなる検討が必要と考える.

Ⅵ. 結論

抗がん剤の変更時における高齢消化器がん患者のフレイルは,78.4%に認め,QOLが有意に低かった(p = .049).フレイル患者の身体的特徴として,BMI が低く(p < .001),下腿三頭筋周囲径が細かった(p = .023).フレイル群の有害事象は,非フレイル群に比べ,下痢をすること(p = .005),疲れ,だるさ,活力低下(p = .015),疲れ,だるさ,活力低下による生活の妨げ(p = .039)の項目で有意に症状が生じていた.本研究の結果から,抗がん剤変更時における高齢消化器がんのフレイル患者の特徴やフレイルサイクルに陥る可能性が高い集団を明らかにした.また,フレイルは長期的なQOLの低下と関連すると報告されており,抗がん剤変更時における高齢者のフレイルの評価は,早期の介入が必要な対象者を選出し,個別的な支援を検討する一助になり得ると考えられた.

付記:本研究は,慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科に提出した修士論文に加筆・修正を加えたものである.

謝辞:本研究にご協力いただいた対象および対象施設の皆様に心より感謝申し上げます.また,本研究は,湘南藤沢研究助成金を受け実施した.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:HOは研究の着想から原稿の作成まで,研究プロセス全体に貢献,KYとKHは研究の着想,デザイン,データの解釈,原稿の作成に貢献,YH,KH,YSは研究デザイン,データ収集および解釈,原稿の作成に貢献.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.

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