2022 年 42 巻 p. 271-280
目的:壮年期の軽症脳卒中患者のセルフマネジメント自己評価尺度案を作成し,信頼性・妥当性を検討する.
方法:先行調査および文献レビューを基に【知識の獲得】,【悪化予防の実施】,【資源の活用】の3概念からなる37項目の尺度案を作成し,外来に通院中の40~65歳の軽症脳卒中患者に質問紙調査を行い,回答のあった93名を分析対象とした.
結果:尺度案は,確証的因子分析の結果,【知識の獲得】1因子構造7項目,【悪化予防の実施】3因子構造12項目,【資源の活用】1因子構造9項目からなる28項目で構成された.これらは,内的一貫性,基準関連妥当性,既知集団を用いた検討において,信頼性・妥当性が確認できた.
結論:尺度の信頼性・妥当性は概ね確保された.本尺度は,壮年期にある軽症脳卒中患者が悪化予防に向けた疾患管理に加え,心理社会的状況を包括して自己評価し得る尺度であると考えられた.
Objective: This study aimed to verify a self-evaluation scale for middle-aged mild stroke survivors’ self-management status and examine its reliability and validity.
Methods: A questionnaire was created using 37 items based on a previous study that comprised three domains: “acquisition of knowledge”, “actions to prevent disease progression”, and “utilization of resources”. We conducted a survey among mild stroke survivors, aged 40–65 years, who visited the clinic. Data obtained from 93 patients were then analyzed.
Results: As a result of a confirmatory factor analysis, the scale comprised 28 items. A good fit was obtained for the 1-factor with 7 items relating to “acquisition of knowledge”, 3-factor with 12 items relating to “actions to prevent disease progression”, and 1-factor with 9 items relating to “utilization of resources”. Internal consistency and criterion validity was confirmed, and the scale was evaluated by a parallel group test.
Conclusion: The reliability and validity of the scale were almost confirmed. The scale included self-management contents unique to middle-aged mild stroke survivors, and was considered to be an index that can comprehensively self-evaluate disease management and psychosocial conditions among such individuals.
脳卒中は治療や薬剤の進歩により死亡率が低下し,障害の重症度は経年的に軽症化の傾向にあるが(山口・小林,2014),再発を繰り返すたびに重症化することが明らかにされている(小林ら,2015).発症から5年以内の再発率は1割を超えており(Lin et al., 2021;Flach et al., 2020),脳卒中患者が重症化を予防するには生涯にわたって食事や運動等の生活管理を含むセルフマネジメントへの取り組みが必要となる.脳卒中治療ガイドライン(日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会,2021)では薬物療法での疾病管理に加え,運動や食事を中心とした生活習慣の改善の重要性が指摘されている.しかし,脳卒中患者の多くは複数の危険因子を保有しており,食事や運動,喫煙等の生活管理は不十分であることが明らかとなっている(上坂ら,2011).
近年におけるセルフマネジメントの概念は,疾病管理に加え,心理社会的課題への対処や社会的役割の維持・再獲得に向けたプロセスへと拡大されている(Ellis et al., 2017;浅井ら,2017).脳卒中患者のセルフマネジメントについても,機能障害に対するリハビリテーションの重視から生活の再構築へと焦点が広げられており(Satink et al., 2016;Kidd et al., 2020),自己に合わせたセルフマネジメントの方策を見出し,生活に適応していくことが重要となる.軽症の脳卒中患者の場合,発症後早期では再発の危機感が動機づけとなってセルフマネジメント行動を試みるが,次第に再発の危機感が低下して自己中断に至ると言われ(佐藤ら,2013),軽症者の長期的なセルフマネジメント継続は課題とされている.加えて,壮年期患者のうち50歳代以下の約8割は軽症者(小林ら,2015)であり,その多くは職場や家庭において社会的役割を担う立場にある.そのような軽症の脳卒中患者は,セルフマネジメントよりも社会的役割の遂行を優先せざるを得ない状況にあると推測されるが,反面,軽症であることが病気への脆弱性を薄れさせ,重症化につながりやすいと考えられる.そのため,特に壮年期にある患者が自己の状況を捉え,自己の生活に即した脳卒中の進行予防に必要となるセルフマネジメント方略を獲得することは重要であると考える.
脳卒中患者のセルフマネジメントの状況を示した指標には,疾病管理の状況や心理社会的状況を表すものがある.疾病管理状況を表す指標は,食事や運動,血圧のモニタリング,服薬遵守,脳卒中に関する知識獲得状況などがある(Ovbiagele, 2015;Sit et al., 2016).心理社会的状況を表す指標には,健康関連QOL(Lo et al., 2016),セルフマネジメント行動や社会参加への自己効力感(Lee et al., 2018;Lo et al., 2016)などがある.先行研究において,これらの多くは介入による変化の指標として用いられ,指標の組み合わせは論文によって異なっている.さらに,多くは医療者側から評価されており,患者が自己のセルフマネジメントを身体的・心理社会的に包括して把握できる指標は見当たらない(Boger et al., 2013;佐藤ら,2019).以上から,脳卒中患者が自分自身でセルフマネジメント状況を把握し,すでに獲得しているセルフマネジメントに気づき,さらにセルフマネジメント上の課題が見出せる自己評価指標が必要であると考える.
患者自身が自己のセルフマネジメントを評価することは,これまで気づいていなかった脳卒中に対する自己の認識や行動を客観視できるとともに,セルフマネジメントの洗練につなげることが期待できる.また,明確となったセルフマネジメントの状況を専門職者と共有することは新たな動機づけとなり,セルフマネジメントの継続へとつながって,悪化への予防効果が得られると考えられる.
筆者らは,先行研究で壮年期にある軽症脳卒中患者のセルフマネジメントの実態を明らかにし,概念化を図った(内田・青木,2020).本研究では,概念化したセルフマネジメントの実態をもとに軽度脳卒中患者のセルフマネジメント自己評価尺度案を作成し,尺度案の信頼性,妥当性の検討を行うことを目的とする.
1)壮年期:基礎代謝が低下して生活習慣の影響が現れてくる40歳以上から多くの雇用者が定年を迎える65歳までとする.
2)軽症脳卒中患者:脳梗塞,脳出血を発症した患者で,脳卒中後の障害の程度が,歩行や身の回りのことが介助なしで行えるレベルで,modified Rankin Scale(mRS)がグレード0~2に相当する脳卒中患者とする.
3)セルフマネジメント:浅井らの定義(浅井ら,2017)を参考に,「脳卒中と共に生きる人が医療者とのパートナーシップに基づく協働により,疾患特有の管理とその影響の管理という課題に対処する活動であり,その人が問題とすることに主体的に取り組み,対処法が洗練されていくプロセスである」とする.
著者らは先行研究(内田・青木,2020)にて質的調査を行い,壮年期にある軽症脳卒中患者のセルフマネジメントの概念化を図った.先行研究のインタビューガイドは,Corbinら(Corbin & Strauss, 1988)による慢性病者のセルフマネジメントにおける3つの課題(健康状態の医学的管理,新しい行動や生活役割の生成・維持・変更,情緒的ストレスに対処すること)や,Lorigら(Lorig & Holman, 2003)の5つのセルフマネジメントスキル(問題を解決する力,状況に応じて日々の意思決定を下す力,資源をみつけて活用する力,医療者とのパートナーシップの形成,行動計画を立てて実行すること)を参考に作成した.分析の結果,軽症脳卒中患者のセルフマネジメントは,〔セルフマネジメント方策の自己決定への思索〕,〔セルフマネジメントの実践と生活に合わせた洗練〕,〔自己に合った資源の選択と活用〕,〔悪化予防のための医療者との協働〕の4概念から構成された.尺度案はこの4概念に含まれるコードを質問項目に置き換え,35項目からなる質問紙を作成した.さらに尺度案の構成概念は,先行研究の4概念を基に【知識の獲得】,【悪化予防の実施】,【資源の活用】の3概念とした.
質問項目の内容妥当性は,脳卒中看護の経験のある看護師2名と脳神経外科医1名,尺度開発経験のある研究者1名で,構成概念と項目の整合性について検討した.さらに,修士課程を修了した看護師・看護研究者18名を対象に各質問項目が3概念のうち,どの概念に当てはまると思われるかを尋ね,18名の回答一致率が70%未満であった項目については,内容の検討および表現の修正と項目の削除・追加を行った.その結果,【知識の獲得】は8項目,【悪化予防の実施】は19項目,【資源の活用】は10項目となり,最終的に37項目を尺度案とした.
表面的妥当性の検討には,脳神経外科外来に通院中の軽症脳卒中患者3名にプレテストを行い,回答のしづらさや表現の分かりにくさの確認を行い,質問項目の表現の確認を行った.
2. 調査方法 1) 調査対象者対象施設は,関東圏内の病院またはクリニックで研究協力が得られた17施設とした.対象者は,発症後6ヶ月以上経過した初発の脳卒中患者で,通院中の40~65歳にある軽症者(mRS 0~2)であり,うつ病や重度の認知機能障害がなく,質問紙に回答可能な者とした.
2) 調査方法および調査期間質問紙は無記名自記式とし,データ収集は2019年7月~2021年12月に実施した.
3) 調査内容 (1) 対象者の属性と医学的情報対象者の属性では年齢,性別,医学的情報は診断名,罹病期間,後遺症の有無,歩行用補助具の使用の有無について尋ねた.
(2) 軽症脳卒中患者セルフマネジメント自己評価尺度項目自己評価尺度項目は,【知識の獲得】8項目,【悪化予防の実施】19項目,【資源の活用】10項目からなる3概念,37項目の尺度案を用いた.回答の選択肢は,リッカート尺度を用いて,「4.かなりあてはまる」「3.少しあてはまる」「2.あまりあてはまらない」「1.全くあてはまらない」の4件法とし,点数が高いほどセルフマネジメントの実施状況が高くなるように得点化した.
(3) 基準関連妥当性の検討項目尺度の基準関連妥当性の検討には,外的基準として坪田ら(坪田ら,2005)が開発した「高血圧症患者の日常生活における自己管理度測定尺度(以下,高血圧尺度とする)」を用いた.この尺度は,高血圧症患者を対象に,下位尺度には食事管理,運動管理,ストレス管理の3つの要素で構成されている.回答の選択肢は,「4.かなりあてはまる」「3.少しあてはまる」「2.あまりあてはまらない」「1.全くあてはまらない」の4件法で,点数が高いほど自己管理の実施状況が高いことを示している.
3. 分析方法統計上の必要数を保つには,項目数 × 5~10のサンプル数が必要とされる(Gorsuch, 1983)ことから,3概念【知識の獲得】【悪化予防の実施】【資源の活用】毎に検討を行うこととした.
統計ソフトSPSS statistics ver. 25ならびにAmos 25.0を使用した.
1) 項目分析質問紙調査の実施後,対象者の基本属性,記述統計を算出した.尺度の項目分析として,各項目の度数分布および平均値を算出し,質問項目に対する回答分布の偏りの確認,I-T(Item-Total)相関を検討した.I-T相関は3概念毎に合計得点と各質問項目得点との相関を算出し,相関係数が.3以上および.7以下であることが判断の目安とされる(Streiner et al., 2015/2020)ことから,本研究では.4未満および.8以上の項目を削除の候補とした.
2) 信頼性・妥当性の分析 (1) 因子構造の検討尺度案の構成概念妥当性を確認するために,概念毎に確証的因子分析を用いモデルの適合度の検討を行った.先行研究(内田・青木,2020)のカテゴリーの分類から各概念の因子構造は,1~3因子であることを想定して分析を行った.モデル適合度が不良である場合は修正指数を参考にモデルを修正した.モデル適合度の判定には,適合度検定(Test for Exact Fit)としてχ2値(CMIN),適合度指標として比較適合度指標 Comparative Fit Index(CFI),残差平方平均平方根 Root Mean Square Error of Approximation(RMSEA)を用いた.χ2値はモデルが適合するという帰無仮説を分析するため有意でなく(p > .05),CFIは.9以上,RMSEAは.08以下を許容範囲とした.
尺度案の信頼性の検討には尺度案全体と3概念それぞれについてCronbach α係数を算出し,信頼性係数は一般に信頼性が高いとみなされる.7以上を許容範囲とした.
(2) 基準関連妥当性の検討尺度案の基準関連妥当性の検討には,坪田ら(坪田ら,2005)の高血圧尺度27項目の合計得点と,尺度案の合計得点および概念毎にPearsonの相関係数を算出して検討した.高血圧は脳卒中発症の最大の危険因子であることから(日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会,2021),高血圧症の自己管理度は尺度案の合計得点と正の相関を示すものと仮定した.軽症脳卒中患者のセルフマネジメントには,高血圧症患者の自己管理と異なる【知識の獲得】を含んでいるため,この概念との相関は低くなると想定した.
3) 既知集団を用いた構成概念妥当性の検討導かれた尺度案の構成概念妥当性を確認するため,既知集団を用いて群間の得点差にて検討を行った.群間比較の項目には,対象者の属性,身体状況,資源の活用および支援状況とし,尺度案全体および3概念それぞれの平均値について群間に得点差があるかで,妥当性を検討した.検討方法はt検定を用いて有意水準を5%とした.
4. 倫理的配慮本研究は,順天堂大学大学院医療看護学研究科研究等倫理委員会の承認を得た(順看倫第30-61号).必要に応じて,研究協力者が通院している診療機関の病院倫理委員会で承認を受けて実施した(承認番号2019-1号).対象施設の施設長および医師に対して,研究協力依頼文書および調査票を用いて研究概要を口頭および文書にて説明を行い,書面で同意を得た.研究協力候補者には,調査の目的,協力の任意性,匿名性の保持等を書面にて説明し,返信をもって研究協力への同意とみなした.
質問紙を依頼した153名のうち,102名(66.7%)から回答が得られた.記入漏れのあった1名および年齢や疾患など対象基準から外れた8名を除外し,93名を分析対象とした.
1. 対象者の特性(表1)対象者の性別は男性67名(72.0%),女性26名(28.0%)で,平均年齢は57.0[6.2(SD)]歳であった.診断名は,脳梗塞または一過性脳虚血発作(TIA)51名(54.9%),脳出血39名(41.9%),脳梗塞と脳出血の両方の診断があるのは3名(3.2%)であった.平均罹病期間は5.5[4.7]年であった.脳卒中による症候と軽度の後遺症がある(mRS 1~2)のは67名(72.0%)であった.
調査項目 | n(%)または平均値±SD | |
---|---|---|
年齢 | 57.0 ± 6.2 歳 | |
性別 | 男性 | 67(72.0%) |
女性 | 26(28.0%) | |
診断名 | 脳梗塞またはTIA | 51(54.9%) |
脳出血 | 39(41.9%) | |
脳出血および脳梗塞 | 3(3.2%) | |
罹病期間 | 5.5 ± 4.7年 | |
症候および後遺症あり | 67(72.0%) | |
歩行用補助具*の使用あり | 24(25.8%) |
* 補助具:杖,足の装具
質問項目の分布の偏りについては,天井効果,床効果がみられたため,回答の集中の程度の確認を行った.平均値と標準偏差をもとに天井効果・床効果の有無を判断し,項目を除外することは適切とは言えない(吉田ら,2012)とされていることや,セルフマネジメントに必要な項目と判断されたため,この段階での項目削除は行わなかった.I-T相関の分析では,各項目の得点は正規分布していないため Spearmanの相関係数を用い,.4未満の6項目および.8以上の1項目を削除の対象とした.
質問項目(37項目) | かなりあてはまる | 少しあてはまる | あまりあてはまらない | 全くあてはまらない | I-T相関 | |
---|---|---|---|---|---|---|
知識の獲得(range 1~4,平均値3.6,標準偏差=0.6) | ||||||
1) | 血圧の変化に気をつける重要性を分かっている | 68(73.1) | 21(22.6) | 4(4.3) | 0(0.0) | .531** |
2) | 体重をコントロールすることの大切さを分かっている | 55(59.1) | 30(32.3) | 8(8.6) | 0(0.0) | .778** |
3) | 食事や間食を摂り過ぎてはいけないことを分かっている | 51(54.8) | 35(37.6) | 5(5.4) | 2(2.2) | .786** |
4) | 脂っぽいものを多く摂り過ぎてはいけないことを分かっている | 57(61.3) | 27(29.0) | 8(8.6) | 1(1.1) | .819** |
5) | 塩分を摂り過ぎてはいけないことを分かっている | 68(73.1) | 22(23.7) | 3(3.2) | 0(0.0) | .700** |
6) | 糖分を摂り過ぎてはいけないことを分かっている | 52(55.9) | 32(34.4) | 9(9.7) | 0(0.0) | .769** |
7) | 野菜を食べることの大切さを分かっている | 69(74.2) | 19(20.4) | 3(3.2) | 2(2.2) | .641** |
8) | 脳卒中になる前の生活を振り返って,改善する必要があると感じている | 58(62.4) | 25(26.9) | 9(9.7) | 1(1.1) | .575** |
悪化予防の実施(range 1~4,平均値3.1,標準偏差=0.9) | ||||||
9) | 自宅や職場で血圧を測っている | 49(52.7) | 15(16.1) | 16(17.2) | 13(14.0) | .411** |
10) | 自宅や職場で体重を測っている | 33(35.5) | 20(21.5) | 25(26.9) | 15(16.1) | .477** |
11) | 処方された内服薬は忘れずに飲んでいる | 79(84.9) | 12(12.9) | 1(1.1) | 1(1.1) | .080 |
12) | 定期的に通院している | 91(97.8) | 1(1.1) | 1(1.1) | 0(0.0) | .215* |
13) | 禁煙または節煙している | 73(78.5) | 3(3.2) | 6(6.5) | 11(11.8) | .333** |
14) | 禁酒または節酒している | 41(44.1) | 21(22.6) | 19(20.4) | 12(12.9) | .463** |
15) | 自分で決めた運動を定期的に行っている | 26(28.0) | 29(31.2) | 23(24.7) | 15(16.1) | .558** |
16) | 積極的に水分を摂っている | 51(54.8) | 33(35.5) | 9(9.7) | 0(0.0) | .366** |
17) | 睡眠を十分にとっている | 37(39.8) | 31(33.3) | 23(24.7) | 2(2.2) | .453** |
18) | 医療者からの助言を,自分の生活に合わせて実施している | 46(49.5) | 39(41.9) | 6(6.5) | 2(2.2) | .584** |
19) | バランスを考えて食事量と運動量を加減している | 17(18.3) | 56(60.2) | 13(14.0) | 7(7.5) | .557** |
20) | ストレスにならない程度に,食事や飲酒を加減している | 33(35.5) | 46(49.5) | 7(7.5) | 7(7.5) | .575** |
21) | 体重や血圧値を目安に生活を振り返って改善している | 32(34.4) | 38(40.9) | 20(21.5) | 3(3.2) | .668** |
22) | 無理をしないように,仕事や家事の量を加減している | 27(29.0) | 39(41.9) | 17(18.3) | 10(10.8) | .682** |
23) | しびれや麻痺などの後遺症に対してリハビリやマッサージを行っている | 21(22.6) | 13(14.0) | 23(24.7) | 36(38.7) | .489** |
24) | 体調が悪い時は,ひどくなる前に病院に行くようにしている | 33(35.5) | 23(24.7) | 28(30.1) | 9(9.7) | .396** |
25) | 日常生活や仕事に影響する後遺症に対処する方法やコツをつかんでいる | 19(20.4) | 37(39.8) | 25(26.9) | 12(12.9) | .406** |
26) | 日常生活や仕事上のストレスを溜めないようにしている | 28(30.1) | 33(35.5) | 27(29.0) | 5(5.4) | .573** |
27) | ストレスに自分なりの方法で対処し,ストレスを発散している | 24(25.8) | 37(39.8) | 27(29.0) | 5(5.4) | .505** |
資源の活用(range 1~4,平均値2.9,標準偏差=1.0) | ||||||
28) | 生活習慣に気をつけることで,家族や周りの人に迷惑をかけないようにしている | 37(39.8) | 42(45.2) | 11(11.8) | 3(3.2) | .449** |
29) | 家族や友人が自分の体や生活を気遣ってくれていることに感謝している | 54(58.1) | 27(29.0) | 8(8.6) | 4(4.3) | .586** |
30) | 重い物を持つなど,血圧や症状に影響するようなことは,家族や周りの人に依頼するようにしている | 22(23.7) | 25(26.9) | 22(23.7) | 24(25.8) | .735** |
31) | 後遺症のためにできない活動があれば,それを周りの人に伝えて理解を得るようにしている | 27(29.0) | 21(22.6) | 21(22.6) | 24(25.8) | .723** |
32) | 通院時に,普段の血圧や服薬状況を医療者に伝えている | 63(67.7) | 22(23.7) | 4(4.3) | 4(4.3) | .395** |
33) | 血圧の治療などについて,医療者に自分の希望や考えを伝えて相談している | 40(43.0) | 29(31.2) | 18(19.4) | 6(6.5) | .664** |
34) | 気になる症状や日常の困ったことについて医療者に質問したり,相談したりしている | 53(57.0) | 24(25.8) | 12(12.9) | 4(4.3) | .739** |
35) | 気になる症状があれば,パソコンや携帯電話,スマートフォン,本などを使って情報を集めている | 41(44.1) | 24(25.8) | 13(14.0) | 15(16.1) | .567** |
36) | 血圧や健康に関する情報を活用して,できそうなことを生活に取り入れている | 26(28.0) | 36(38.7) | 25(26.9) | 6(6.5) | .627** |
37) | 必要があれば,補助具や雇用申請などの社会資源を活用している | 13(14.0) | 8(8.6) | 19(20.4) | 53(57.0) | .426** |
I-T相関:** p < 0.01
網掛けはI-T相関にて削除した項目
項目分析にて削除した7項目を除いた30項目について因子構造の検討を行った.【知識の獲得】7項目,【悪化予防の実施】14項目,【資源の活用】9項目とし,3概念について確証的因子分析を行った(図1).
確証的因子分析の結果(n = 93)
【知識の獲得】7項目は脳卒中悪化予防のための知識の状況を表す項目から構成し,1因子構造を想定して分析を行った.項目5と6は摂り過ぎに気を付ける栄養素に関する項目であることから,修正指数を参考に項目5と6に誤差相関を設定した.修正後のモデル適合度はCFI = .988,RMSEA = .049であった.
【悪化予防の実施】は,〈セルフモニタリング〉〈生活の調整〉〈ストレスの緩和〉の3因子構造で14項目を想定して検討を行った.モデルの適合度が不良であったことから,項目の意味内容を吟味し,1つの質問に2つの意味内容が含まれると考えられた項目22,後遺症の有無や程度により全員に当てはまらないと考えられた項目23の2項目を削除し,3因子構造12項目で確証的因子分析を行った.項目9と10は数値的なモニタリング内容に関する項目,項目20と27は精神的なストレスを考慮した行動に関する項目,項目25と27は生活上の困り事への対処方法の獲得を表す項目であることから,修正指数を参考に誤差相関を設定した.修正したモデルにおける適合度は CFI = .943,RMSEA = .060であった.
【資源の活用】は2因子構造で9項目を想定し,周りの人や医療者の力を借りながらマネジメントする〈他者との共同〉,情報の収集や社会資源の活用などの〈公共資源の活用〉とした.項目29と33について,周りの人への感謝の気持ちはセルフマネジメントへの関心や積極的な行動につながると考えられ,また,項目30と37は自分以外の資源や力に頼ることに関するものであるため,修正指数を参考に誤差相関を設定した.修正モデルの適合度はCFI = .949,RMSEA = .072であった.
軽症脳卒中患者のセルフマネジメント自己評価尺度は,確証的因子分析の結果,【知識の獲得】7項目,【悪化予防の実施】12項目,【資源の活用】9項目からなる3概念28項目から構成された.
尺度の信頼性を示すCronbachのα係数は,尺度合計得点.87,【知識の獲得】.86,【悪化予防の実施】.77,【資源の活用】.81であった(表3).
軽症脳卒中患者のセルフマネジメント自己評価尺度 | 項目数 | Cronbach’s α |
---|---|---|
尺度合計得点 | 28 | .87 |
知識の獲得 | 7 | .86 |
悪化予防の実施 | 12 | .77 |
資源の活用 | 9 | .81 |
尺度案の合計得点と高血圧尺度の合計得点との相関は,尺度合計得点r = .639,【知識の獲得】r = .204,【悪化予防の実施】r = .655,【資源の活用】r = .516であり,有意な相関を認めた(p < .05).
軽症脳卒中患者のセルフマネジメント自己評価尺度 | 項目数 | r |
---|---|---|
尺度合計得点 | 28 | .639** |
知識の獲得 | 7 | .204* |
悪化予防の実施 | 12 | .655** |
資源の活用 | 9 | .516** |
Pearsonの相関係数 *p < .05,**p < .01
対象者の属性,身体状況,資源の活用および支援状況における群間の得点差について検討を行った.尺度案の平均値に有意差があったのは,対象者の属性の「同居者の有無」,資源の活用および支援状況の「歩行用補助具使用の有無」「経済的支援の有無」「心理的支援の有無」であり,「同居者あり」「歩行用補助具使用あり」「経済的支援あり」「心理的支援あり」と回答した群が「なし」群より有意に平均値が高かった(p < .05).
調査項目 | n | 尺度合計得点 | 知識の獲得 | 悪化予防の実施 | 資源の活用 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
平均値±SD | t値 | 平均値±SD | t値 | 平均値±SD | t値 | 平均値±SD | t値 | |||
対象者の属性 | ||||||||||
性別 | 男性 | 67 | 3.03 ± .17 | –1.86 | 3.55 ± .05 | –0.74 | 2.95 ± .14 | –0.49 | 2.75 ± .12 | –2.98** |
女性 | 26 | 3.21 ± .22 | 3.63 ± .11 | 3.00 ± .18 | 3.16 ± .15 | |||||
同居者 | あり | 75 | 3.13 ± .17 | 2.05* | 3.58 ± .07 | 0.20 | 3.00 ± .11 | 1.69 | 2.94 ± .13 | 2.35* |
なし | 18 | 2.91 ± .23 | 3.55 ± .08 | 2.79 ± .20 | 2.56 ± .19 | |||||
身体状況 | ||||||||||
高血圧 | あり | 66 | 3.13 ± .22 | 1.67 | 3.66 ± .10 | 2.47* | 2.96 ± .16 | –0.12 | 2.94 ± .16 | 1.94 |
なし | 27 | 2.97 ± .15 | 3.36 ± .06 | 2.97 ± .09 | 2.67 ± .18 | |||||
糖尿病 | あり | 16 | 3.11 ± .28 | 0.29 | 3.77 ± .16 | 1.87 | 3.01 ± .21 | 0.38 | 2.74 ± .22 | –0.87 |
なし | 77 | 3.08 ± .17 | 3.53 ± .07 | 2.95 ± .12 | 2.89 ± .13 | |||||
資源の活用および支援状況 | ||||||||||
歩行用補助具使用 | あり | 24 | 3.28 ± .20 | 2.73** | 3.60 ± .16 | 0.29 | 3.12 ± .14 | 1.81 | 3.24 ± .19 | 3.66** |
なし | 69 | 3.02 ± .18 | 3.56 ± .06 | 2.91 ± .13 | 2.73 ± .15 | |||||
経済的支援 | あり | 15 | 3.23 ± .26 | 2.28* | 3.70 ± .08 | 1.21 | 3.00 ± .25 | 0.32 | 3.17 ± .22 | 2.90** |
なし | 78 | 3.05 ± .17 | 3.55 ± .07 | 2.96 ± .12 | 2.80 ± .12 | |||||
心理的支援 | あり | 59 | 3.19 ± .18 | 3.48** | 3.60 ± .08 | 0.79 | 3.08 ± .14 | 3.26** | 3.01 ± .19 | 3.25** |
なし | 34 | 2.90 ± .19 | 3.52 ± .08 | 2.75 ± .14 | 2.60 ± .11 |
t検定:* p < .05,** p < .01
網掛けは有意差がみられた項目
軽症脳卒中患者のセルフマネジメントを自己評価する尺度案は,先行研究(内田・青木,2020)および文献レビューを基に,【知識の獲得】,【悪化予防の実施】,【資源の活用】の3概念を想定して信頼性・妥当性の検討を行った.
【知識の獲得】は,軽症脳卒中患者が脳卒中の悪化予防に向けた知識を持ち,セルフマネジメント行動をとる必要性を認識していることを表す項目で構成され,先行研究の「セルフマネジメント方策の自己決定への思索」に相応すると考えられた.1因子構造7項目からなる【知識の獲得】は適合度も良好であり,因子的妥当性が確保されたと考えられた.
【悪化予防の実施】は,〈セルフモニタリング〉〈生活の調整〉〈ストレスの緩和〉の3因子構造で,軽症脳卒中患者が脳卒中の悪化予防に向けて健康行動を行い,自己の社会生活に合わせて工夫しながら心身の調整を行う内容の17項目で構成した.適合度が許容水準に達しなかったため項目の意味内容を検討し,修正した3因子構造12項目のモデルにおいて適合度指標は良好な水準となった.〈セルフモニタリング〉は,自ら血圧を測ったり,運動を定期的に行うなど,意識的に行動して自己の状態を観察したり,管理したりする内容の5項目であった.〈生活の調整〉は,自分の生活や心身の状態に合わせて食事や運動を調整し,生活を振り返る内容が含まれる4項目であり,〈ストレスの緩和〉は,日々の生活の中で精神的なストレスを溜めないように工夫している内容が含まれた3項目となった.脳卒中患者のセルフマネジメントについて,Satinkら(Satink et al., 2016)が「脳卒中患者は日常生活の中でセルフマネジメントを探求・実践・評価しながら自己に合わせた方策を見出し,生活に適応させている」と述べていることからも,これらの12項目は脳卒中悪化の予防に向けた重要な実施内容と考えられた.以上から,【悪化予防の実施】は〈セルフモニタリング〉〈生活の調整〉〈ストレスの緩和〉から構成され,自己の生活に合わせて心身の調整を行う内容として,先行研究の〔セルフマネジメントの実践と生活に合わせた洗練〕に相応する概念と解釈でき,因子的妥当性が示されたと考える.
【資源の活用】は,〈他者との共同〉〈公共資源の活用〉の2因子構造9項目で構成され,家族や友人など周りの人々や医療者の力を借りてマネジメントする内容が含まれた.適合度は良好であり,因子的妥当性が確保され,【資源の活用】は先行研究の〔自己に合った資源の選択と活用〕,〔悪化予防のための医療者との協働〕を併せ持った概念に相応すると考えられた.
さらに,尺度案全体および【知識の獲得】,【悪化予防の実施】,【資源の活用】それぞれの信頼性係数は十分な水準を満たし,内的一貫性が示され,28項目からなる本尺度の信頼性は確保された.
基準関連妥当性の検討では,尺度案の合計得点と坪田らの高血圧尺度の合計得点との間には中等度の相関がみられ,基準関連妥当性は確保できていた.【知識の獲得】においては弱い相関が示され,これは,坪田らの高血圧尺度は食事,運動,ストレスに対する管理行動が中心であり,悪化予防に向けた知識の獲得状況を確認する内容が含まれていないためと考えられた.そのため,【知識の獲得】は軽症脳卒中患者の疾患管理の知識や理解の状況を患者自身が確認できる本尺度特有の内容であると考えられた.
既知集団を用いた検討においては,同居者がいる者や周囲の人からの心理的な支えがあると感じている者の方がセルフマネジメントを行っている傾向が示された.これは,退院後の脳卒中患者はセルフマネジメントにおいて心理的・情緒的支援を求めている(Satink et al., 2015)ことを支持する結果と考えられた.また,杖などの歩行用の補助具を必要とし,脳卒中による身体の脆弱性を認識している者や,経済的支援のある者の方がセルフマネジメントを行っている傾向が示され,これらの結果は,本尺度が軽症脳卒中患者のセルフマネジメントの継続要因の査定に活用可能であることを示唆するものであると考える.
以上より,3概念28項目からなる本尺度の信頼性・妥当性は確認でき,社会的活躍が期待される壮年期にある軽症脳卒中患者の知識の獲得状況や悪化予防に向けた実施状況,周囲の人や公共資源の活用状況を把握し得る指標となると考えられた.
2. 研究の限界と今後の課題本研究の対象者は,関東圏内の病院またはクリニックの研究協力が得られた17施設で,初発後6ヶ月以上経過した40~65歳にある通院中の脳卒中軽症者(mRS 0~2)である.本研究では壮年期にある軽症脳卒中患者へのインタビューを基に項目を作成した.研究の限界として,専門職者による項目の内容妥当性,軽症脳卒中患者による回答可能性の確保に努めたが,対象とした軽症脳卒中患者の多くは3か月毎に通院しており,短い間隔で2回の調査を設定することができず,再検査法による信頼性の確認は行えていない.また,対象者の選定に地域の偏りがあることや,サンプルサイズが大きいとはいえない点が挙げられる.そのため,本尺度は構成概念妥当性について概念毎に検討を行ったが,今後は対象地域を拡大してサンプル数を増やし,全項目をまとめた分析を行い,本研究結果の再現性を確認する必要がある.さらに,セルフマネジメント尺度を使用することがセルフマネジメント獲得に効果をもたらし,疾病の進行予防につながるかどうかを検証していくことが課題である.
壮年期にある軽症脳卒中患者のセルフマネジメント自己評価尺度は,【知識の獲得】【悪化予防の実施】【資源の活用】の3概念からなる28項目で構成された.これらの構造は確証的因子分析により確認でき,内的一貫性,基準関連妥当性,既知集団を用いた妥当性も認められた.本尺度は,壮年期にある軽症脳卒中患者が悪化予防に向けた疾患管理に加え,心理社会的状況を包括して自己評価し得る尺度であると考えられた.
付記:本研究は,順天堂大学大学院医療看護学研究科に提出した博士論文の一部に加筆・修正を加えたものであり,第40回日本看護科学学会学術集会にて一部発表した.
謝辞:本研究にご協力いただきました対象者の皆様に深く御礼申し上げます.また,調査を行うにあたり快く承諾を頂きました対象施設の施設長ならびに医師,看護師,スタッフの皆様に心より御礼申し上げます.本研究は,日本学術振興会科学研究費助成金(基盤研究(C)課題番号19K10895)の助成を受けて行った研究である.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:KUは研究の着想から原稿作成のプロセス全体に貢献,KAは原稿への示唆および研究プロセス全体への助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.