2022 年 42 巻 p. 310-320
目的:訪問看護師の視点から,COPD療養者の身体活動性を改善した訪問看護師の看護実践を明らかにすること.
方法:訪問看護師4名にCOPD療養者の身体活動性が改善した1例の経験について半構造化面接を実施した.Steps for Coding and Theorizationを用いて,協働的パートナーシップ螺旋モデルを分析的枠組みに適用し,質的に分析した.
結果:すべての事例から,COPD療養者と訪問看護師の相互作用を示す62個の理論記述が得られた.さらに,各事例の理論記述の共通性と差異性を検討した結果,【動機付けを高める信頼の獲得】や【安楽な生活動作スキルの協働構築】等,26個の訪問看護師の看護実践が立ち現れた.
結論:終末期であっても,身体活動や栄養障害の改善に向かう看護の視点が重要であり,特定の訪問看護師によってCOPD療養者の思いが打ち明けられるような関係性を構築しながら,医療的な課題を解決していくことが身体活動性の改善を導くキーポイントであると考えられた.
Objective: To clarify the nursing practices of home-visit nurses that improve the physical activity of patients with chronic obstructive pulmonary disease (COPD) from the viewpoint of home-visit nurses.
Methods: Semi-structured interviews were conducted with four home-visit nurses about their experience of one case in which they improved the physical activity of a COPD patient. The interview responses were qualitatively analyzed using the Steps for Coding and Theorization by applying the spiraling model of collaborative partnership to the analytical framework.
Results: A total of 62 pieces of theory writing showing interactions between COPD patients and home-visit nurses were obtained from all the case examples. Examination of the commonalities and differences between the theory writing of each case example revealed 26 nursing practices of home-visit nurses, including “gaining of trust to improve motivation” and “collaborative building of comfortable activities of daily living skills.”
Conclusions: The results suggest the importance of a nursing perspective aimed at improving the physical activity and nutritional disorders of patients even at the end of life, and that solving medical problems while building a relationship in which specific visiting nurses can encourage COPD patients to open up about their thoughts is a key element in improving the physical activity of these patients.
慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease: COPD)は,2019年のWHOの調査(2020b)で死因の第3位に位置づけられ,日本においても2018年の死亡数は18,577人と最高値を記録するなど(厚生労働省,2018),世界的に重要な慢性疾患である.
このような高いレベルのCOPDの死亡率について,身体活動性が最大の予測因子であることが報告され(Waschki et al., 2011),どのような介入が有効であるかに注目が集まっている.例えば,これまでに身体活動性が改善した介入として,気管支拡張薬と呼吸リハビリテーションの併用(Kesten et al., 2008)や,歩数計を提供して自己記録を促すこと(Mendoza et al., 2015)等が報告されている.しかしながら,以上のような身体活動性を改善するいくつかの介入に限られたエビデンスはあるが,介入の最適なタイミング,構成要素,期間,モデルはまだ不明であることが結論づけられている(Burge et al., 2020).すなわち,身体活動性の改善には,薬物療法や呼吸リハビリテーションに加えて,行動変容をもたらす動機付け等の多面的な介入が必要なうえに,あらゆる要素が複雑に関連し合っていることが推測される.さらに,安定期COPD療養者に対する低強度および在宅の呼吸リハビリテーションが身体活動性の改善に効果があることや(Kawagoshi et al., 2015),歩行時間による身体活動がベースラインから改善するには6ヶ月を要したことが報告されており(Pitta et al., 2008),在宅生活に即した長期的な支援が有効な介入法となる可能性がある.
日本には,在宅生活に即した長期的な支援が期待される資源として,量的拡充が進められてきた訪問看護がある.訪問看護は,既に多くの地域に整備されている看護師とセラピスト等による持続可能な訪問系サービスであり,密な連携による学際的な呼吸リハビリテーションが可能である.さらに,日本の訪問看護師は,対象となる在宅療養者とその家族とのパートナーシップ形成を基盤として,自立支援を志向した支援を行っていたことが明らかにされている(冨安・山村,2009).このようなパートナーシップ形成を基盤とした訪問看護師の支援により,COPD療養者の身体活動性を改善しうる可能性はあるが,日本の訪問看護師を対象とした研究では,増悪予防支援に関するもの(森ら,2019;梨木ら,2019)にとどまっており,身体活動性に関する具体的な看護実践の構成概念やモデルについて報告されたものは存在しない.そこで,本研究ではCOPD療養者の身体活動性を改善した訪問看護師の看護実践を明らかにすることを目的とした.
身体活動とは,WHO(2020a)のPhysical activityの定義を参考に,「骨格筋を収縮させて行うあらゆる身体の動きであり,安静にしている状態よりも多くのエネルギーを消費するすべての動作」と定義した.
2. 身体活動性の改善身体活動性の改善とは,COPD診断と治療のためのガイドライン第5版(2018)による身体活動性の指標および厚生労働省(2013)が公表している身体活動基準における生活活動のメッツ表・運動のメッツ表を参考に,「研究参加者の訪問看護開始時と比較して歩数の増加もしくは立位または自転車で行う趣味や家事,運動,社会参加活動など生活活動時間の増加が想定された状態」と定義した.
3. 訪問看護師の看護実践訪問看護師の看護実践とは,Wiedenbach(1964/1984)が示す看護実践の4つの構成要素(援助へのニードの明確化,援助の実施,成果の確認,調整)と,その看護実践の行為が看護師の思考と感情とによって導かれるという考え方を参考に,「訪問看護師が療養者との相互作用の中で行うニードの明確化,援助の実施,成果の確認,調整であり,その行為を導く訪問看護師の思考や感情,欲求を含むもの」と定義した.
過去5年以内にCOPD療養者の身体活動性を改善した1年以上の訪問看護経験がある訪問看護師で,研究参加の同意が得られる者とした.サンプリングは,日本看護協会の分野別都道府県別登録者検索から慢性呼吸器疾患看護認定看護師が所属している訪問看護ステーションに加えて,呼吸ケアに特化していることをホームページに掲載している訪問看護ステーションを抽出した.そして,研究者から訪問看護ステーションの管理者に直接電話またはメールで依頼し,研究参加者の条件に該当する訪問看護師を紹介いただいた.5ヶ所の訪問看護ステーションに依頼後,3ヶ所の管理者から本研究への同意が得られた.そのうち,1ヶ所の訪問看護ステーションでは2名同時にインタビューへの協力が得られたため,COPD療養者への訪問看護の経験が豊富な4名の研究参加者から語られた3事例を研究対象とした(表1).研究対象を3事例とした理由は,全国的にも数少ない専門性の高い訪問看護師が経験したCOPD療養者との相互作用における看護実践の個別性を重視しながらも,共通性を浮き彫りにするためである.また,質的研究の場合,サンプルサイズを大きくすると,個別性や具体性の詳細な検討がしにくくなるため,かえって深い追及を妨げることになる(大谷,2019).そのため,本研究では少数の事例から,より解釈的な分析を行うことを意図して3事例とした.
研究参加者 | 性別 | 年齢 | 職位 | 看護師経験年数(年) | 訪問看護師経験年数(年) | 看護師資格の他に取得している資格 | 担当経験のあるCOPD療養者の人数 | 語られた事例 |
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1 | 女性 | 60代 | スタッフ | 35 | 12 | 3学会合同呼吸療法認定士 認知症ケア専門士 |
約46人 | A |
2 | 女性 | 50代 | 管理者 | 31 | 20 | 3学会合同呼吸療法認定士 介護支援専門員 |
44人 | A |
3 | 女性 | 50代 | 管理者 | 35 | 25 | 主任介護支援専門員 慢性呼吸器疾患看護認定看護師 |
20人 | B |
4 | 女性 | 40代 | スタッフ | 22 | 15 | 保健師 慢性呼吸器疾患看護認定看護師 |
12人 | C |
2020年11月から2021年4月に,研究参加者が勤務する訪問看護ステーションの個室またはオンライン(Zoom)で,1回ずつインタビュー調査を行った.面接は,これまでに担当したCOPD療養者で,身体活動性が改善したと判断できる1事例を想起してもらい,インタビューガイドを用いて半構造化面接を行った.インタビューガイドは,「訪問看護開始時の身体活動の状態」「身体活動性を改善するために実施した看護」等の10項目で構成した.また,インタビュー当日までに郵送で研究参加者の年齢,性別,職位,訪問看護師経験等,属性についての情報も得た.インタビュー内容は,メモにとるとともに,了解を得てICレコーダーに録音した.65~75分程度のインタビュー終了後に,録音内容の逐語録を作成し,テキストデータ化した.
3. データ分析方法大谷(2019)の開発した質的データ分析法(Steps for Coding and Theorization: SCAT)を使用した.SCATは,本研究のような小規模のデータに適用可能とされており,理論化までの手続きを内包している(大谷,2019).訪問看護実践のような基本的に一対一の人間による相互作用の意味の記述においては,「AならばBである」のような理論的知見を記述することが,実践への転用可能性を高められると考えたため,この分析方法を採用した.
第一に,テキストデータをSCATの分析フォームに入力し,インタビュー内容のまとまりからテクストのセグメント化を行った.次に,4ステップコーディングを進め,得られた構成概念からストーリーラインを記載し,理論記述を抽出した(表2).大谷(2019)は,枠組みを用いた分析は,客観性が高くなり,了解性と説得性が高くなるだけでなく,既存の知見との関連が明確になること等から,分析的枠組みを利用することの重要性を強調している.そのため,本研究の分析プロセスの中でも分析的枠組みの適用と探索を繰り返し,最終的にGottlieb et al.(2005/2007)の協働的パートナーシップ螺旋モデルを分析的枠組みに適用した.協働的パートナーシップ螺旋モデルは,地域看護師の実践から発展したモデルで,相互に関連する4つの段階(探索段階,目標設定段階,実施段階,再吟味段階)があり,いずれの段階でも看護師と患者はそれぞれ別の役割であるが相互に働きかける役割を担うとされている.
番号 | 発話者 | テクスト | 〈1〉テクスト中の注目すべき語句 | 〈2〉テクスト中の語句の言いかえ | 〈3〉左を説明するようなテクスト外の概念 | 〈4〉テーマ・構成概念(前後や全体の文脈を考慮して) | 〈5〉疑問・課題 |
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21 | 4 | で,あとは,動くって事はすごく,んーと,抵抗があったんですけれども,やっぱり女性だったのかな.髪…髪を洗うとか,んーと,顔を洗うという事には,んーと,ちょっと興味を示してくれたところがあったので,じゃあどうやって洗面所で,あのー,髪を洗うか,あのー,風呂は絶対嫌だって言ってたけど,髪だったら洗面所で洗えるかもしれないって言うので,んーと,出来るだけ苦しくなく,で姿勢を楽にするっていうので,車椅子で連れてってどうすればいいかっていうのも,あのー,長女さんと一緒に,あのー,相談しながらやってみたっていうのはありますかね.はい.最初は多分,そこら辺だったような気がします. | 動くって事/抵抗があった/髪を洗う/顔を洗う/ちょっと興味を示してくれた/洗面所で洗える/出来るだけ苦しくなく/姿勢を楽にする/長女さんと一緒に/相談しながらやってみた | 動作への抵抗/洗髪と洗顔には少し興味を示す/洗面所での洗髪の可能性/できる限りの安楽な姿勢/長女と相談しながらの実施 | 身体活動に対する抵抗感/整容への関心/安楽な動作方法/主介護者との検討 | 身体活動に対する抵抗感の中にも存在する関心事/主介護者との検討による安楽な動作方法の提案 | ・男性のCOPD療養者の場合には,どのような関心事があるのか. |
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34 | 4 | はい,そうですね.えーとー….ステップアップ….まぁんーと,それも本当,長女さんからの,長女さんの,んーと,協力がすごくあった…ところも大きいんですけれども,んーと,おうちの生活が安定してきた時に,ずっとパジャマで過ごされてたので,うん,でー,あのー,最初は本当に着替えるのも面倒くさいっていうことで,週2回の看護が入った時に着替えるだけ,だったんですけど,うん,やっぱり,あのー,おうちだし,病人じゃないんだしっていうので,んーと,娘さんが普段着に着替えなさいっていう話しを,あのー,一緒にいた時に出してくれた時に,すごく拒否をされたんですけど,着替えるのが大変なのになんて事を言うんだみたいな事を仰ってたんですけど,あのー,でそこで,自分で着たい物を選ぶ事だったら出来るんじゃないのーっていう話しをして,で,あのー,最初は自分で着替える物を,まぁ多分渋々だったかもしれないんですけど選んでくれるようになって,でもそこから,あのー,今日は着替えたんですって,あのー,長女さんが仰ってくれるようになって,うん,毎日パジャマから普段着に着替えるっていうのは,はい,一つ出来るように…なりましたかね. | 長女さん/協力がすごくあった/面倒/週2回の看護が入った時に着替えるだけ/普段着に着替え/自分で着たい物を選ぶ事だったら出来るんじゃないの/毎日パジャマから普段着に着替える/一つ出来るように…なりました | 長女の多大な協力/煩わしさ/訪問日のみの普段着への着替え/衣服の選択を提案/毎日の着替えの実施/出来るようになった | 主介護者の後援/機会的な更衣/自己決定支援/習慣的な更衣/日常生活動作の変化 | 主介護者の後援による衣服の自己決定支援/機会的な更衣から習慣的な更衣への変化 | ・主介護者と訪問看護師の関係性は構築されていたのか. |
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ストーリー・ライン | 訪問看護師は,COPD療養者の身体活動に対する抵抗感の中にも存在する関心事から,主介護者との検討による安楽な動作方法の提案をしていた.これにより,COPD療養者は,訪問看護師の主介護者との協働による整容動作の促進によって,整容動作の拡大が起きていた.そして,COPD療養者は,訪問看護師と主介護者の後援による衣服の自己決定支援によって,機会的な更衣から習慣的な更衣への変化が起きていた.(略) | ||||||
理論記述 | ・訪問看護師は,COPD療養者の身体活動に対する抵抗感の中にも存在する関心事から,主介護者との検討による安楽な動作方法の提案をする. ・COPD療養者は,訪問看護師の主介護者との協働による整容動作の促進によって,整容動作の拡大が起きる. ・COPD療養者は,訪問看護師と主介護者の後援による衣服の自己決定支援によって,機会的な更衣から習慣的な更衣への変化が起きる.(略) | ||||||
さらに追究すべき点・課題 | ・男性のCOPD療養者の場合には,どのような関心事があるのか. ・主介護者と訪問看護師の関係性は構築されていたのか. ・分析的枠組みには,協働的パートナーシップ螺旋モデルの枠組みを適用した.〈Gottlieb, N. L., Feeley, N., Dalton, C. (2005)/吉本照子,酒井郁子,杉田由加里(2007):協働的パートナーシップによるケア 援助関係におけるバランス,エルゼビア・ジャパン株式会社,東京.〉(略) |
第二に,COPD療養者の身体活動性を改善した訪問看護師の看護実践の共通性を浮き彫りにするため,3事例のストーリーラインから得られた理論記述について,訪問看護師の看護実践の共通性と差異性を検討し,立ち現れた訪問看護師の看護実践の名称を付記した.SCATでは,各事例の分析で得られた結果を突き合わせたい場合,個々の分析結果の共通性と差異性を検討することが推奨されており(大谷,2019),この方法に従って分析した.
以上のプロセスでは,分析の信頼性・妥当性を高めるために,研究者が所属する博士後期課程の大学院生と質的研究の豊富な経験がある研究者によるピア・チェッキングを受けた.
4. 倫理的配慮本研究は,東京都立大学荒川キャンパス研究倫理委員会の承認(承認番号:20044)を得て実施した.研究計画の概要,本研究への参加にともなう不利益・リスク,研究協力は自由意思に基づき研究協力はインタビュー終了後までの間は拒否できること,研究協力の撤回方法,個人情報の取扱い,情報の保管及び破棄の方法,研究に関する情報公開の方法,本研究の資金源,利益相反に関する事項,研究協力にともなう謝礼等,研究計画書の開示や研究対象者等及びその関係者からの相談等への対応について,口頭と文章によるインフォームド・コンセントを行い,研究参加者全員から同意書への署名を得た.
事例A:80代男性.気管支喘息の合併に加えて,腰椎圧迫骨折,腰椎脊柱管狭窄症等の既往歴があった.訪問看護師の介入時は,下肢に痛みがあり,入浴動作や外出が困難な状態であったが,集合住宅の共用廊下を毎日歩行できるようになった.
事例B:70代男性.COPDの増悪で入退院を繰り返し,腰椎圧迫骨折,肺結核後遺症等の既往歴があった.訪問看護師の介入時は,腰痛もあり,自信がないために動けず,寝て過ごす事が多くなっていたが,室内歩行や居間での食事が可能となった.
事例C:80代女性.COPDの増悪を繰り返していたが,全身の併存症はなかった.訪問看護師の介入時は,呼吸が苦しく,ほぼベッド上で過ごしていたが,トイレまでの室内歩行が可能となった.
事例Bは,セラピストによる訪問看護を一時的に利用していたが,事例AとCはセラピストによる訪問看護を利用していなかった.
2. SCATを用いた分析SCATを用いた分析の結果,事例A:39種類,事例B:74種類,事例C:59種類の構成概念を抽出し,3事例のストーリーラインから計62個の理論記述が得られた.次に,各事例の理論記述の共通性と差異性を検討した結果,26個の訪問看護師の看護実践が立ち現れ,そのうち6個の訪問看護師の看護実践がすべての事例に含まれていた(表3).また,この訪問看護師の看護実践は,下記のように協働的パートナーシップ螺旋モデルの各段階を表していた.なお,【 】は訪問看護師の看護実践を示す名称,〈 〉は理論記述を示している.
訪問看護師の看護実践を示す名称 | 理論記述 | 語られた事例 |
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身体活動に関わるニーズの探索 | 訪問看護師は,COPD療養者が機能回復スキルの未獲得状態であるため,最初から順序立てた包括的呼吸リハビリテーションの必要性を認識する. | B |
訪問看護師は,COPD療養者が持つ動きたい欲求の察知によって,関心のある実現可能な活動ニーズの探索を行う. | C | |
栄養障害に対する課題の探索 | 訪問看護師は,COPD療養者の栄養障害に対して,日常的な栄養摂取状況の把握を目的とした訪問時間の調整を行う. | B |
訪問看護師は,COPD療養者に体重減少に伴う栄養改善の認識があっても低栄養化が生じるため,栄養改善の強い志向をする. | C | |
身体活動に影響を与える要因の探索 | 訪問看護師は,COPD療養者の生活歴と言動による人物像の把握により,外向的で自立心のある性格と活動的な人物像を理解する. | C |
訪問看護師は,COPD療養者の身体活動への否定的感情の表出と閉じこもりへの疑念から,身体活動性改善への志向が高まる. | C | |
訪問看護師は,COPD療養者の身体活動への影響要因の総合的評価から,身体活動性改善への可能性の認識する. | C | |
動機付けを高める信頼の獲得 | 訪問看護師は,関心を示す姿勢と複数の方略の提案によって,COPD療養者の前向きな気持ちへの変化を生じさせ,待望される訪問看護師となる. | B |
COPD療養者は,特定の訪問看護師に対する信頼感によって外発的動機付けが高まり,訪問看護師への信頼感による吸入療法の継続を可能とする. | C | |
COPD療養者は,訪問看護師への信頼による疾患理解の促進によって,活動に対する否定的な態度からの行動変容が起きる. | C | |
思いの打ち明けを導く関係性の構築* | 訪問看護師は,COPD療養者の最期の意思決定支援に必要な時間の確保によって,人生の最終段階の真意を汲み取る姿勢を示し,COPD療養者の唯一の相談相手となる. | C |
COPD療養者は,訪問看護師の何気ない会話と訪問看護師の介入による症状改善の集積によって,打ち解けた心理状態となる. | A | |
COPD療養者は,訪問看護師との関係性構築の促進から,感情の露見と室外歩行への難色を示す本心の打ち明けをする. | B | |
身体活動に対する改善欲求 | 訪問看護師は,COPD療養者の動作と呼吸の同調困難に対して,動き方に対する改善欲が生じる. | B |
訪問看護師は,COPD療養者の呼吸困難感に伴う活動の断念から活動意欲を与えたい欲求が生じる. | B | |
身体活動を高めるための具体的な目標の共有 | 訪問看護師は,COPD療養者が不安定な精神状態のときには強みの探索を行い,COPD療養者との協働による目標設定をする. | A |
COPD療養者は,訪問看護師による実現可能性のある熱中できそうな活動目標の提示から,目標達成に向けた準備を行う. | B | |
訪問看護師は,COPD療養者と増悪前の身体活動レベルを共通の最終目標にして,段階的な実現可能性のある小さな目標を設定する. | B | |
訪問看護師は,COPD療養者の本質的な思いの理解によって,COPD療養者の意思に沿った目標軌道修正を行う. | B | |
訪問看護師主導による目標設定 | 訪問看護師は,COPD療養者の臥位中心の生活に対して,座位保持を目指した目標設定をする. | B |
安楽な生活動作スキルの協働構築 | 訪問看護師は,COPD療養者に入院中における安楽な動作スキルの未獲得状態があるため,酸素使用時における動作方法の実演を通して,COPD療養者と自宅における安楽な動作スキルの協働構築を行う. | B |
訪問看護師は,COPD療養者との複数の呼吸法獲得に向けた協働訓練と合わせて,訪問看護師主導による下肢中心のトレーニングを実施する. | B | |
訪問看護師は,入浴動作支援時,COPD療養者の更衣に伴う酸素の着脱動作困難に対する酸素吸入方法の反復指導と動作と呼吸の同調方法の順序立てた助言を行う. | B | |
活動制限に対する複数の改善策の提案 | 訪問看護師は,COPD療養者が誤った病気の理解による呼吸困難感の強さに伴う活動制限の誤認から活動への不安感の表出をするため,あらゆる改善策の提案による気づきの促進を行う. | B |
吸入手技向上の教育 | 訪問看護師は,COPD療養者の吸入手技不良に対して吸入デバイスの使用方法の説明を行う. | A |
訪問看護師は,COPD療養者の吸入手技不良に対して吸入手技の継続的な模範実演を行う. | B | |
下肢の状態改善を志向したケア | 訪問看護師は,COPD療養者の下肢の循環障害に対して,下肢の循環促進に効果的なケアを実施する. | A |
訪問看護師は,徹底的なフットケアと歩行阻害因子を低減させる薬物の有効活用によって,COPD療養者の下肢の状態改善を促す. | A | |
自主的な身体活動の促進* | COPD療養者は,訪問看護師の室外における呼吸同調歩行訓練への誘いと療養者の進度に同調した介入から,目標設定に基づく歩行訓練を行うことにより,非監視下における無理のない自主トレーニングを実施する. | A |
訪問看護師は,COPD療養者の安全な歩行可能距離の確認による負担の少ない範囲における日常生活動作方法の検討から,COPD療養者と合意された低負荷の非監視下運動の提示をする. | C | |
訪問看護師は,無理なく実施可能な自主トレーニングの提案を行い,COPD療養者の不確かな自主トレーニングの実施があっても継続的な自主トレーニングの促しを行う. | B | |
訪問看護師は,COPD療養者との動作と呼吸同調のための協働訓練と実現可能性のある日常生活動作の再獲得支援によって,COPD療養者に後戻りしながらの主体的活動の増加を起こす. | B | |
COPD療養者が取り組みやすい方法の選択* | COPD療養者は,訪問看護師の主治医の勧めによる新たなアプローチの導入と適応の見定めによって,馴染みやすい呼吸訓練法を獲得し,習慣化された呼吸訓練による換気効率の改善をもたらす. | A |
訪問看護師は,COPD療養者の機能回復スキルの未獲得状態に対して,症状安定する時間帯への訪問時間の調整から意向に合わせた低負荷の監視下運動療法を実施する. | C | |
訪問看護師は,COPD療養者の非侵襲的陽圧換気療法における独自のデバイス管理に対して,こだわりを尊重したデバイス調整を行う. | B | |
訪問看護師は,COPD療養者の個別性に合わせた酸素の使用方法の指導をする. | B | |
訪問看護師は,COPD療養者の意向に合わせた清潔ケアの選択に対して,活動と休息を考慮した全身の清潔ケアを実施する. | C | |
感染兆候等の状態変化に対する主治医との早期連携 | 訪問看護師は,COPD療養者の感染兆候の早期発見から主治医との早期連携による薬物療法の開始により,COPD療養者の早期治癒を可能にする. | A |
訪問看護師は,COPD療養者の状態変化の早期発見から主治医との早期連携による薬物療法の開始により,COPD療養者の病状安定による入院回避を可能にする. | C | |
体調変化時の具体策の共同立案 | COPD療養者は,訪問看護師の症状モニタリングと状態変化時の連絡に対する徹底的な指導から,体調に合わせた具体策の共同立案を行うことによって,長期的な病状安定による入院回数の減少を達成する. | B |
症状理解の促進 | 訪問看護師は,症状変化に伴うリスクの明示とセルフモニタリング技術と対処行動の指導によって,COPD療養者の症状理解の促進を促す. | A |
在宅酸素療法のアドヒアランス向上への支援* | 訪問看護師は,COPD療養者の呼吸困難感の鈍麻に伴う在宅酸素療法のアドヒアランス不良に対して,機器の数値に基づく気づきの促進と安全性の高い具体的な動作方法の提示を行うことで,COPD療養者はセルフモニタリングによる低酸素血症の回避をする. | A |
訪問看護師は,COPD療養者の労作時の解釈違いによる指示酸素流量の誤認を優先課題とし,在宅酸素の使用方法に対する定期的で念入りな確認を行う. | B | |
訪問看護師は,COPD療養者に注意不足と故意による酸素流量調節の誤りがあるため,COPD療養者と酸素管理の失敗防止策の検討を行うことで,COPD療養者の在宅酸素療法における良好なアドヒアランスが保たれる. | C | |
吸入療法のアドヒアランス向上への支援* | 訪問看護師は,定期的な吸入薬の残量確認による非意図的な吸入忘れの発見から主治医との連携による吸入薬の変更によって,COPD療養者の吸入アドヒアランスの向上を促す. | A |
訪問看護師は,COPD療養者の吸入療法のアドヒアランス低下に対する継続的支援を行う. | B | |
訪問看護師は,COPD療養者の吸入効果の無実感による吸入アドヒアランス不良に対し,吸入薬の必要性の説明と主介護者の協力による吸入確認を行う. | C | |
重要他者との協働による栄養改善への提案 | 訪問看護師は,COPD療養者の関心の高いニーズに対する主介護者との即時対応による不十分な食事摂取量を補完する簡便法の提案と主治医との連携による栄養補給療法の提案によって,COPD療養者の栄養状態の維持を達成し,それが外出欲求の出現をもたらす. | C |
重要他者との協働による日常生活動作支援 | 訪問看護師は,COPD療養者の身体活動に対する抵抗感の中にも存在する関心事から,主介護者との検討による安楽な動作方法の提案をする. | C |
COPD療養者は,訪問看護師の主介護者に対する日常生活援助の具体的な提案から,主介護者の介護肯定感による自助努力支援を受け,日常生活動作における福祉用具の活用をする. | C | |
COPD療養者は,訪問看護師と主介護者の後援による衣服の自己決定支援によって,機会的な更衣から習慣的な更衣への変化が起きる. | C | |
COPD療養者は,訪問看護師の主介護者との協働による整容動作の促進によって,整容動作の拡大が起きる. | C | |
運動療法を主目的とした訪問看護の調整* | 訪問看護師は,家族の運動療法への希望とCOPD療養者の症状安定による訪問看護回数の調整を行う. | A |
訪問看護師は,COPD療養者のセラピストによるリハビリテーションの拒否によって,動作訓練を主目的とした入浴動作支援の必要性と運動療法の必要性を感じ,訪問看護回数の調整を行う. | B | |
訪問看護師は,COPD療養者のセラピストによるリハビリテーションの拒否によって,無理のない運動療法の開始を目的とした介護保険の範囲内における訪問看護回数の調整を行う. | C | |
セラピスト導入の調整 | 訪問看護師は,COPD療養者に運動器症状の増強が生じた時には,専門性の高いリハビリテーションの必要性を認識し,セラピスト導入の調整を行う. | B |
歩行を促進する福祉用具導入の調整 | 訪問看護師は,COPD療養者の症状安定による余力の出現から生じた歩行行動の欲求に対して,歩行器導入による歩行再開の機会設定をすることによって,COPD療養者の自立歩行の達成をもたらす. | C |
目標達成に対する成功体験の称賛 | 訪問看護師の目標達成に対する成功体験の称賛から,COPD療養者に自己効力感の向上がみられる. | A |
COPD療養者は,段階的な疾患管理目標の達成に対する訪問看護師からの継続的な成功体験の称賛によって,訪問看護師に対する信頼感が高まる. | B | |
見えにくい成果に対する気づきの促進 | 訪問看護師は,COPD療養者の呼吸リハビリテーションによる症状改善の実感の乏しさから,見えにくい成果に対する粘り強い関わりを継続し,見える成果による気づきの促進を行う. | B |
訪問看護師は,COPD療養者の非侵襲的陽圧換気療法の良好なアドヒアランスに対する言語的称賛と達成項目の言語的伝達を行ことにより,COPD療養者の非侵襲的陽圧換気療法のアドヒアランス維持をもたらす. | B | |
訪問看護師は,COPD療養者の非侵襲的陽圧換気療法による効果の共有を行うことで,COPD療養者の改善要因の把握による非侵襲的陽圧換気療法のアドヒアランス維持をもたらす. | B |
* すべての事例で共通性がみられた訪問看護師の看護実践
事例BとCには,【身体活動に関わるニーズの探索】と【栄養障害に対する課題の探索】が共通してみられた一方で,事例Cには【身体活動に影響を与える要因の探索】の看護実践があった.とくに事例Cでは,〈訪問看護師は,COPD療養者が持つ動きたい欲求の察知によって,関心のある実現可能な活動ニーズの探索を行う〉ことが抽出されており,COPD療養者の欲求を察知することからも療養者理解が深まっていた.そして,このような療養者理解の深化によって,訪問看護師は栄養改善や身体活動性改善への志向が高まっていた.
事例BとCには,【動機付けを高める信頼の獲得】が共通してみられ,〈COPD療養者は,特定の訪問看護師に対する信頼感によって外発的動機付けが高まり,訪問看護師への信頼感による吸入療法の継続を可能とする〉等,特定の訪問看護師への信頼感による相互作用が医療的な課題解決を促進させていた.また,【思いの打ち明けを導く関係性の構築】に関する理論記述はすべての事例で抽出されていた.さらに,事例Bでは,〈訪問看護師は,COPD療養者の呼吸困難感に伴う活動の断念から活動意欲を与えたい欲求が生じる〉等,COPD療養者の身体活動への阻害要因の観察から【身体活動に対する改善欲求】が生じていた.
2) 目標設定段階事例AとBから,〈訪問看護師は,COPD療養者が不安定な精神状態のときには強みの探索を行い,COPD療養者との協働による目標設定をする〉や〈訪問看護師は,COPD療養者の本質的な想いの理解によって,COPD療養者の意思に沿った目標軌道修正を行う〉等の理論記述が抽出され,【身体活動を高めるための具体的な目標の共有】があった.また,事例Bには【訪問看護師主導による目標設定】の看護実践があり,療養者の状態に合わせて協働もしくは訪問看護師主導で目標設定を行っていた.
3) 実施段階事例Bでは,安楽な動作スキルの未獲得状態や誤った病気の理解,吸入手技不良等,複数の多重課題があったことから,訪問看護師に【安楽な生活動作スキルの協働構築】と【活動制限に対する複数の改善策の提案】,【吸入手技向上の教育】があった.また,事例Aには【吸入手技向上の教育】に加えて,【下肢の状態改善を志向したケア】があり,呼吸と動作に関する状態改善に向けた支援が実施されていた.一方,すべての事例で【自主的な身体活動の促進】の看護実践は共通してみられた.
事例AとCから,〈COPD療養者は,訪問看護師の主治医の勧めによる新たなアプローチの導入と適応の見定めによって,馴染みやすい呼吸訓練法を獲得し,習慣化された呼吸訓練による換気効率の改善をもたらす〉や〈訪問看護師は,COPD療養者の機能回復スキルの未獲得状態に対して,症状安定する時間帯への訪問時間の調整から意向に合わせた低負荷の監視下運動療法を実施する〉の理論記述が抽出され,COPD療養者が取り組みやすい方法で運動療法を行っていた.また,事例Bから,〈訪問看護師は,COPD療養者の個別性に合わせた酸素の使用方法の指導をする〉等の理論記述が抽出され,COPD療養者が取り組みやすい方法で指導管理とケアを行っていた.このように,【COPD療養者が取り組みやすい方法の選択】の看護実践はすべての事例に共通していた.
事例AとCには,【感染兆候等の状態変化に対する主治医との早期連携】の看護実践が共通していた一方で,事例Bから〈COPD療養者は,訪問看護師の症状モニタリングと状態変化時の連絡に対する徹底的な指導から,体調に合わせた具体策の共同立案を行うことによって,長期的な病状安定による入院回数の減少を達成する〉の理論記述が抽出され,【体調変化時の具体策の共同立案】の看護実践があった.このようなCOPD療養者に対する訪問看護師の症状モニタリング等の指導は事例Aにもみられ,COPD療養者の【症状理解の促進】と主治医との連携によって入院が回避されていた.さらに,すべての事例で,【在宅酸素療法のアドヒアランス向上への支援】と【吸入療法のアドヒアランス向上への支援】の看護実践が共通していた.
事例Cのみ主介護者の長女と同居していたが,【重要他者との協働による栄養改善への提案】と【重要他者との協働による日常生活動作支援】の看護実践がみられ,訪問看護師は,主介護者や主治医と連携・協働しながら,栄養管理と日常生活動作の支援を行っていた.また,すべての事例に共通して【運動療法を主目的とした訪問看護の調整】に関する理論記述が抽出され,COPD療養者と家族の意向によって訪問看護師による運動療法の役割拡大が起きていた.また,事例BとCにそれぞれ【セラピスト導入の調整】と【歩行を促進する福祉用具導入の調整】の看護実践があり,COPD療養者の意向や症状に合わせてリハビリテーションを促進する調整を行っていた.
4) 再吟味段階事例AとBから,〈訪問看護師の目標達成に対する成功体験の称賛から,COPD療養者に自己効力感の向上がみられる〉や〈COPD療養者は,段階的な疾患管理目標の達成に対する訪問看護師からの継続的な成功体験の称賛によって,訪問看護師に対する信頼感が高まる〉の理論記述が抽出され,【目標達成に対する成功体験の称賛】があった.また,事例Bから〈訪問看護師は,COPD療養者の呼吸リハビリテーションによる症状改善の実感の乏しさから,見えにくい成果に対する粘り強い関わりを継続し,見える成果による気づきの促進を行う〉等の理論記述も抽出され,訪問看護師には【見えにくい成果に対する気づきの促進】をする看護実践があった.
事例BとCは,増悪を繰り返し,ほとんど動けない状態であった.このような状態は,非がん性呼吸器疾患緩和ケア指針(2021)における終末期に該当するが,終末期でも増悪後の回復期や安定期には心身機能の改善やADLの拡大が得られることもあるとされている.終末期のCOPD療養者に対して,【身体活動に関わるニーズの探索】と【栄養障害に対する課題の探索】の看護実践が共通してみられたことから,終末期であっても身体活動や栄養障害の改善に向かう看護の視点が重要であり,室内歩行までのADL改善は見込めると考えられる.また,事例BとCでは【動機付けを高める信頼の獲得】の看護実践が共通してみられ,特定の訪問看護師への信頼感による相互作用が医療的な課題解決を促進させていたことが明らかになった.Gottlieb et al.(2005/2007)の協働的パートナーシップ螺旋モデルでは,患者がパートナーとして積極的になり,看護師に対して信頼を育むようになるには,まず看護師が患者にとって重大なことや最も懸念していることに取り組むことが重要であるとされている.とくに事例Cの訪問看護師の場合には,COPD療養者にとって重要な最期の意思決定支援に必要な時間を確保することによって,人生の最終段階の真意を汲み取る姿勢を示し,COPD療養者の唯一の相談相手となっていた.そして,COPD療養者は特定の訪問看護師に対する信頼感によって外発的動機付けが高まり,吸入療法の継続や疾患理解が促進され,活動に対する否定的な態度からの行動変容が起きていた.このように,COPD療養者の身体活動性を高めていくためには,関係性の構築から医療的な課題を解決していくことがキーポイントであると考えられ,呼吸リハビリテーション後の身体活動が医療従事者との関係性と影響するという先行研究(Robinson et al., 2018)と一致していた.
この探索段階で最も興味深い知見は,【思いの打ち明けを導く関係性の構築】に関する理論記述がすべての事例に含まれていたことである.進行したCOPD療養者には,不安や社会的孤立,希望の喪失等,COPDと共に生きることの絶え間ない心理を経験していることが明らかにされており(Disler et al., 2014),そうしたあらゆる思いを打ち明けられるような関係性を構築することが重要であると考えられる.また,呼吸リハビリテーションは,原則としてチーム医療で行われるが(植木ら,2018),本研究の事例でCOPD療養者以外に連携・協働の状況が語られたのは主介護者と主治医のみで,特定の訪問看護師による介入が大部分を占めていた.さらに特定の訪問看護師は,療養者理解の深化から身体活動性改善への志向が高まり,COPD療養者の身体活動への困難感から身体活動に対する改善欲求が生じていたことからも,一対一の相互理解による信頼関係の構築が重要であるといえる.
2. 目標設定段階と実施段階事例AとBから,COPD療養者の状態に合わせて協働もしくは訪問看護師主導で目標設定を行っていたことが明らかになった.Gottlieb et al.(2005/2007)の協働的パートナーシップ螺旋モデルにおいても,患者の体調がきわめて悪かったり,気分がひどく落ち込んでいるときは,活力,意欲,わざや自信が患者に十分備わっていないと思われるため,看護師主導で計画を実行することがあるとされている.このような流動的な介入は,実施段階においてもその傾向がみられ,とくに【安楽な生活動作スキルの協働構築】と【自主的な身体活動の促進】の看護実践については,COPD療養者と協働した介入が主体となっていた.これは,COPD療養者に呼吸困難感等に伴う安楽な生活動作スキルの未獲得状態があるためと推察され,身体活動に直結するような問題解決については,COPD療養者と協働的に進めていくことが重要であると考えられる.また,【COPD療養者が取り組みやすい方法の選択】のときには,意向や適応等を考慮し,COPD療養者に合わせて寄り添う傾向がみられた一方で,【在宅酸素療法のアドヒアランス向上への支援】と【吸入療法のアドヒアランス向上への支援】については,訪問看護師主導で支援している傾向がみられた.一般的にCOPD療養者のアドヒアランスは低いことが指摘されているが(Blackstock et al., 2016),吸入薬のアドヒアランスに関する系統的レビューでは,不注意が多いことも報告されている(Świątoniowska et al., 2020).本研究の理論記述においても非意図的なCOPD療養者のアドヒアランス不良がみられたことから,このような場合には訪問看護師主導による多面的な予防策が有効となる可能性がある.
本研究のすべての事例で,訪問看護師による運動療法の役割拡大が起こり,訪問看護の調整が行われていたことが明らかになった.Gottlieb et al.(2005/2007)の協働的パートナーシップにおいても,対象者のニーズや能力,状況に最も合うように協働的パートナーシップのあり方を調整することが原則とされている.COPD療養者に対する訪問看護サービスは,基本的に介護保険による訪問となるため,介護支援専門員により作成されたケアプランに基づいて行われる.しかしながら,埼玉県深谷市の調査では,介護支援専門員の呼吸リハビリテーションに対する認知度は54.8%で,ケアプラン率は9.7%と低いことが明らかにされており(山田ら,2017),訪問看護師が状況に応じて介護支援専門員に必要な訪問回数(または訪問時間)の提案を行うことが求められる.本研究の結果のように,COPD療養者がセラピストによるリハビリテーションを望まない状況があっても,訪問看護師による運動療法が実施できるように調整し,COPD療養者の身体活動性を改善していくことが重要である.
3. 再吟味段階事例Bには,【見えにくい成果に対する気づきの促進】の看護実践が特徴的に示された.事例BのCOPD療養者は,非侵襲的陽圧換気療法を受けていたが,呼吸リハビリテーションによる症状改善の実感の乏しさがあった.Gottlieb et al.(2005/2007)の協働的パートナーシップ螺旋モデルでは,患者が,物事が起こった理由やその起こり方に関して洞察や理解を深めれば,将来この知識を活用する可能性が高まるとされている.本研究においては,成果の気づきがアドヒアランスの維持をもたらしており,このような医学的管理による効果の気づきの積み重ねが身体的な安定を保ち,身体活動性の改善に導くものと考えられる.
4. 本研究の限界と課題本研究により,COPD療養者と訪問看護師の相互作用をもたらす訪問看護師の看護実践について,一定程度の理論化をすることができたが,事例数が少なくセラピスト等も含めた協働事例が語られていないため,訪問看護師の看護実践をすべて網羅しているとは言い難い.また,本研究の結果は,あくまで訪問看護師の認識に基づくものであるため,今後は,研究および実践による理論の構築と検証を行い,本研究で得られた結果がCOPD療養者の身体活動性の改善に導くのかを精錬する必要がある.
COPD療養者の身体活動性が改善した3事例から,26個の訪問看護師の看護実践が立ち現れ,そのうち6個の訪問看護師の看護実践がすべての事例に含まれていた.終末期であっても身体活動や栄養障害の改善に向かう看護の視点が重要であり,特定の訪問看護師によってCOPD療養者の思いが打ち明けられるような関係性を構築しながら,医療的な課題を解決していくことが身体活動性の改善を導くキーポイントであると考えられた.同時に,訪問看護師にも身体活動性に対する改善志向の高まりや改善欲求が生じていることの重要性が示唆された.
謝辞:インタビュー調査にご協力いただきました訪問看護師のみなさまに深く感謝申し上げます.
著者資格:NMは本研究の着想,研究計画の作成,研究の実施,インタビューデータの分析,論文執筆を行った.KKは,研究計画の作成から論文執筆まで研究プロセス全体について助言を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.