日本看護科学会誌
Online ISSN : 2185-8888
Print ISSN : 0287-5330
ISSN-L : 0287-5330
資料
訪問看護師の「寄り添う」
城所 環吉川 悦子石田 千絵
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2022 年 42 巻 p. 330-336

詳細
Abstract

目的:訪問看護師の「寄り添う」を明らかにする.

方法:訪問看護師6名に半構造化面接を行い,質的記述的に分析した.

結果:訪問看護師の「寄り添う」は,【人と家の雰囲気を捉え共感する】,【人として近づき信頼を深める】,【在宅療養の青写真を共に描き共に成長する】,【本人・家族の覚悟を見通し支える】,【暮らしの中で共に歴史を積み重ねる】,【安心して落ち着く場と日常を保障する】の6カテゴリーと14サブカテゴリーから構成された.

結論:訪問看護師の「寄り添う」は,訪問看護師自身が利用者や家族にとって安心できる存在として認められ,積み重ねてきた信頼関係を基盤に成り立っていた.多様な背景を持つ療養者とその家族との暮らしの中での関わりは,訪問看護師自身の成長の機会にもなり,訪問看護の価値,やりがいや自らの看護観の醸成につながっていることが示された.

Translated Abstract

Objective: To clarify visiting nurses’ “being with patients”

Methods: Semi structured interviews with six visiting nurses were conducted and analyzed qualitatively and descriptively.

Results: Visiting nurses’ “being with patients” consisted of six categories and 14 subcategories; the categories were sympathizing by perceiving the atmosphere of the patient and home with all five senses; approaching patients and their families as a person and deepen trust with them; realizing a blueprint for home care together; supporting the bracing of the patient and family for what is expected to happen in the future; building up a shared history with the patient in their day-to-day life; and ensuring that the patient has a place to relax and a sense of security in daily life.

Conclusion: The findings of this study suggest that visiting nurses’ being with patients can be an opportunity for visiting nurses themselves to grow through forming relationships with patients of diverse backgrounds and their families. Morever, there are rfacilitating the formation of visiting nurses’ sense of values, motivation, and the development of their own view of nursing.

Ⅰ. 緒言

看護には,マニュアルや原則だけで伝えられない重要なケアがあり,その一つが「寄り添う」である.「寄り添う」は,看護師が伝統的に大事にしてきた価値であり(小西ら,2013),看護師は人に寄り添って支えになることで,人が健康になることを助ける使命を持つ(西田,2018).岡(2020)は,「寄り添う看護」について文献レビューし,「寄り添う看護」とは,信頼関係を構築しながら,専門的な知識を活用しつつ共に考え,対象者のペースに合わせ一緒に歩んでいくことと示している.藤井(2010)は,寄り添うという行為をすることではなく,かかわろうとする看護師自身が,苦しみを持つ人,その存在そのものを尊いものとして,ありのまま受け止めることができるかという問いが寄り添いの原点であると述べている.このように,看護において「寄り添う」とは,対象に近づくための振る舞いだけではなく,困難な状況にあり苦しむ人をどのように捉え,どうあるべきか自分自身が問われることでもあり,一様に特質を表すことが困難と言える.

訪問看護師を対象とする先行研究では,訪問看護ステーション管理者は,「近づき寄り添う看護」を訪問看護のありようとして期待し,近づき寄り添うことができる訪問看護師が期待する看護師像であると述べている(中村,2013).対象の生活の場で看護を提供する訪問看護において「寄り添う」は重要なケアと位置付けられていると考えられる.例えば,療養者の生活に寄り添い,現実を見据えた切れ目のない医療を提供する(小川,2014)こと,療養者だけでなく人として家族に寄り添い共にある関係性をつくり,専門職として家族に近づく親近感と訪問看護師として在ることの調和をとる(小野・麻原,2007)ことなどが示されている.また,自宅での看取り適応プロセスにおいては,訪問看護師は,療養者や家族の気持ちの揺らぎに「寄り添う」心理的支援を提供し(古瀬,2014),様々な多職種と連携しつつ不安やストレスにも寄り添いながら,独居者の看取りも可能にしている(米澤ら,2014).このように先行研究では,訪問看護師の「寄り添う」支援や重要性などが示されているが,訪問看護師の語りから「寄り添う」に焦点をあて,「寄り添う」を具体的に記述した研究は見当たらなかった.訪問看護師の「寄り添う」は,単に療養者や家族との物理的な距離を表すことではなく,個人の考えや看護観にも影響され,一様に特質を表すこと可視化が難しい概念であるため,言語化が困難であると考えられる.そこで,訪問看護師の「寄り添う」に焦点を当て,当事者の視点での語りから,当事者の価値観を基盤に据え,また,長い時間をかけて積み重ねられてきた「寄り添う」をその人の言葉でありのまま表現してもらうことで,訪問看護師の「寄り添う」を具体的に示すことが可能になるのではないかと考えた.

本研究では,訪問看護師の「寄り添う」に焦点をあて,訪問看護師の語りから訪問看護師の「寄り添う」を具体的に記述することを目的とする.訪問看護師の「寄り添う」を具体的に明らかにすることで,看護師が伝統的に大事にしてきた「寄り添う」のありようを示すことができる.自宅に赴き展開する訪問看護実践の基盤となる対象者との関わりや関係性構築において,訪問看護の経験がない看護師や新人訪問看護師にとって,自身の実践そのものを「寄り添う」という視点から振り返ることが可能となり,現任教育の資料の一助となると考える.

Ⅱ. 用語の定義

看護における「寄り添う」は,画一的で統一された援助技術ではなく,目の前の出来事やプロセスを人としてどう捉えるか,看護師のもつ看護観や人間に対する尊厳などの倫理観にも多く影響する多様で複雑な概念である.そこで本研究の「寄り添う」は,「対象者に何も求めずただ傍らにあり,目の前の対象を丸ごと受け止めるかかわり」(藤井,2013)とした.

Ⅲ. 研究方法

1. 研究デザイン

本研究では,多様で複雑な人間の「寄り添う」さまを探求するため,体験の語りを記述し質的に分析する質的記述的研究デザインとした.「寄り添う」は一様に特質を表すことや可視化が難しいため,研究参加者の自由な発想や発言を促すことができる半構造化面接法を実施した.また,その人が感じたこと,考えたこと,知覚したことを知り,その人自身が行っている意味付けを理解するためにインタビューを実施した(谷津,2010).

2. 研究参加者

研究参加者の選定は以下の手順で行った.まず,全国訪問看護事業財団の正会員リストで公表されている関東圏内の訪問看護事業所一覧から,訪問看護実践者や地域看護学領域の研究者からの優れた看護実践をしている事業所の推薦を参考に16の訪問看護事業所を抽出した.次に,これら16訪問看護事業所の管理者宛に研究参加者の紹介を依頼した.管理者から紹介が得られた7事業所の訪問看護師に直接研究協力依頼書を送付し,本研究に協力同意が得られた6事業所の訪問看護師6名を研究参加者とした.

研究参加者の選定にあたって,これまでの訪問看護の実践から,「寄り添う」と捉えている場面を想起し具体的に語ってもらうため,多くの事例に対応している訪問看護師が適していると考えた.通常,訪問看護事業所においては,療養者・家族に初回面談・初回アセスメントし契約が交わせるのは管理者もしくは管理者の代行業務を担える経験豊富な看護師としているため,療養者・家族に初回面談・初回アセスメントができる者を参加者の選定条件として,管理者からこの選定条件に当てはまる訪問看護師の推薦を得て実施した.

3. データ収集期間・データ収集方法

データ収集期間は,2018年3月から2018年7月であった.

データ収集方法は,半構造化面接を60分程度,一人につき1回実施した.事前にインタビューガイドを配布し,自身の訪問看護実践において「寄り添う」と捉えられた場面(体験),「寄り添う」かかわりと感じられた場面,これらの場面から印象に残ったことなど,訪問看護の実践の中から,「寄り添う」と捉えた具体的な場面を想起し,自由に語ってもらった.研究依頼書には「寄り添う」の定義を示して研究依頼を行ったが,研究参加者自身の「寄り添う」を自由に語ってもらうことを意図し,インタビューガイドの中には「寄り添う」の定義を示さずにインタビューを実施した.語られた内容は,許可を得てICレコーダーに録音した.

4. 分析方法

データ分析方法は,谷津(2010)が示す日常の場面で使用する言葉を率直に記述し分析していく方法を用いた.インタビューから逐語録を作成し,研究参加者が語ったデータから,「寄り添う」の意味内容を損なわない範囲で文節ごとに区切りコード化し,相違点や類似性を比較し,サブカテゴリーを生成し抽象度を高めカテゴリー化した.一連の分析過程において,大学院生のピアレビュー,地域看護学の研究者,質的研究者,大学教員などにスーパーバイズを受けながら信憑性,妥当性が担保できるように努めた.

Ⅳ. 倫理的配慮

本研究は,日本赤十字看護大学の倫理審査委員会の承認を得て開始した.(承認番号2017-099).研究参加は,個人の自由意思によって行うこと,得られた全ての情報は匿名化し,個人が特定されないこと,本研究以外の目的では使用しないことを文書及び口頭で説明し同意を得た.

Ⅴ. 結果

1. 研究参加者の概要と特徴

研究参加者は,関東圏内の訪問看護ステーションに勤務する6名の訪問看護師であった.訪問看護師としての経験年数は4年から30年(平均14.5 ± 8.6年)で,すべて女性であった.インタビューの時間は,57分から88分(平均69.0 ± 10.0分)であった(表1).

表1  研究参加者の属性と事業所概要
仮名 A B C D E F
年齢 40代 40代 50代 40代 30代 30代
訪問看護師歴(年) 18 4 30 17 6 12
面接時間(分) 79 63 88 65 64 57
事業所所在地 神奈川県 東京都 東京都 東京都 神奈川県 東京都
学生実習受け入れ有無
事業所規模訪問看護師数(人) 6~10 3~5 6~10 10以上 6~10 6~10

2. 訪問看護師の「寄り添う」

訪問看護師の「寄り添う」は,【人と家の雰囲気を捉え共感する】,【人として近づき信頼を深める】,【在宅療養の青写真を共に描き共に成長する】,【本人・家族の覚悟を見通し支える】,【暮らしの中で共に歴史を積み重ねる】,【安心して落ち着く場と日常を保障する】の6カテゴリーと14サブカテゴリーから構成され,カテゴリー,サブカテゴリーは表2に示した.カテゴリーを【 】,サブカテゴリーを《 》,コードを〈 〉で示し,研究参加者の語りは,「 」で表記した.以下は6つのカテゴリー毎の記述である.

表2  訪問看護師の「寄り添う」
カテゴリー サブカテゴリー
人と家の雰囲気を捉え共感する 人と家の雰囲気をつかみ自然な形で入る
発せられるサインを捉える
人として近づき信頼を深める ひとりの人間として近づく
距離感をつかむ
思いを尊重し関心を寄せ続ける
在宅療養の青写真を共に描き共に成長する ひとり一人の価値に添いケアを描く
家族の力を引き出し成長につなげる
本人・家族の覚悟を見通し支える 思いの揺れ幅に添って共に考え先を見通す
本人・家族の意思・覚悟を汲み取る
暮らしの中で共に歴史を積み重ねる 暮らしの中で共に体験を積み重ねる
役割を尊重しその人の輝きを引き出す
家族を気遣い家族の歩みを見守る
安心して落ち着く場と日常を保障する つながる安心感を届ける
療養を支える地域の一員としてつながる

1) 人と家の雰囲気を捉え共感する

訪問看護師は,〈人にはそれぞれ空気感があることを大事にする〉,〈家の雰囲気,持ち味を崩さない〉,〈雰囲気を壊さないように相手に合わせ歩み寄る〉など,人や家の雰囲気を重要と捉え,訪問看護師自身がその雰囲気に沿い《人と家の雰囲気をつかみ自然な形で入る》というように,対象者が自分のペースで営む暮らしを尊重していた.そして,「ちょっとでも,手でも目でも空気でも,何か感じたら少しその人のペースに合わせながら,しばらく何もしないでほっとく…(C氏)」と語り,〈見て,手で触れ何か感じとりしばらくペースに合わせる〉,〈呼吸を合わせながらサインを感じとる〉,〈少しでも楽になるよう手を添え言葉はなくても心を通わせる〉よう,時に静かに見守り共に感じながら,《発せられるサインを捉える》ことを大事にしていた.

2) 人として近づき信頼を深める

訪問看護師は,信頼関係を築く過程において,「相手の懐に入って,テリトリーに入ってある意味私たちもさらけ出すし,お互い人となりが一体化する.そこで,信頼感が生まれたりして.(C氏)」と語った.訪問看護師の「寄り添う」は,〈自分をさらけ出しながら近づく〉,〈雰囲気を感じとりながら懐に入っていく〉,〈自分のことも伝えながら人としての信頼を深める〉よう歩み寄り,《ひとりの人間として近づく》ことが示された.また,関係を築くための距離感について〈近づく,離れるタイミングを図り距離感を大事にする〉,〈話しかけるタイミング,ケアの間合いを大事にする〉,〈杓子定規でなく相手に合わせコミュニケーションを深める〉など,訪問看護師はその場の流れを汲み取り,対象者との間合いを大切にしながら,《距離感をつかむ》ことを重視していた.さらに,〈思いの丈を言葉にできる雰囲気をつくる〉,〈複雑な思いを熱心に黙って聴く〉,〈24時間看ていく家族の精神的身体的な辛さをそばで一緒に感じる〉ように,療養者だけでなく,状況によって複雑に変化する家族の思いも受け止め,《思いを尊重し関心を寄せ続ける》過程から人として近づき信頼を深めていた.

3) 在宅療養の青写真を共に描き共に成長する

訪問看護師は,在宅療養の移行期では,「本人や家族は在宅療養の青写真が描けてない(E氏)」と語り,療養者・家族の心理的な負担から,〈本人の体調の波や家族の介護力を見極める〉,〈在宅療養の希望を確認しケアの方向性を定める〉,〈その日その時の状況に添い向き合う〉ことを重視していた.そして〈価値観もひとり一人異なり出会うたびごとに勉強していく〉ことを積み重ね,《ひとり一人の価値に添いケアを描く》過程は,訪問看護師自身の成長の糧となっていた.また,介護を通し家族が成長する過程について「自分の生活の中で経験していくことが増えて家族たちもそこで力をつけていくわけですよ.(C氏)」,「(家族が)ぐっと集まって決め色々やることで達成感とか家族の充実感とか絆が深まったりいい時間(F氏)」と語り,〈本人・家族のできる力を認め,伸びしろを広げる〉,〈経験することが増え家族が力をつけることを支える〉,〈家族の充実感 ,達成感を引き出す〉ことが示された.訪問看護師の「寄り添う」は,《家族の力を引き出し成長につなげる》ことであり,青写真を一緒に描きながら共に成長していくことが示された.

4) 本人・家族の覚悟を見通し支える

訪問看護師は,体調の波によって揺れ動く対象者や家族の感情を受け止め,〈思いの揺れ幅に添って支える〉,〈型に嵌めず本人・家族の思いに添う〉など,双方の気持ちに折り合いがつけられるよう,〈本人・家族の意向を確認しながら看取りのサポート体制を調整(する)〉していた.本人や家族の覚悟,思いを尊重し,《思いの揺れ幅に添って共に考え先を見通す》ことは,訪問看護の重要な役割であった.本人の意思確認が困難となる過程においても訪問看護師は,臨死期を受け止めていく家族の心身の負担の大きさを捉え,〈現実と向き合う辛さを予測して関わる〉,〈葛藤を抱える家族の思いに気づき,家族の覚悟を支え(る)〉ていた.「家にいることだけが正解でもない.本人が望む選択しだい,どの選択でも送り出す(D氏)」と語り,〈本人が望んだどの選択肢でも送り出す〉用意があり,《本人・家族の意思・覚悟を汲み取る》ことは,その人らしさや家族の意思を尊重し,覚悟を見通し支えることにつながっていた.

5) 暮らしの中で共に歴史を積み重ねる

訪問看護師は,「その人が好きなテレビを一緒に見る(B氏)」,「ラジオをいつも一緒に聞いていた(C氏)」,「ぐらぐらしている歯を一緒に抜いた(E氏)」,「あの時こんなこともありましたねと時間を共有していた歴史がある(F氏)」など,〈いつもの暮らしの中で起こることを一緒に体験する〉,〈在宅療養を通しかけがえのない時間を共有する〉ことで,本人・家族と絆が深まる実感を得ていた.《暮らしの中で共に体験を積み重ねる》ことは,本人の生き様や生活のよりどころを尊重することであった.また,訪問看護師は,「住み慣れた家の中の自分,夫であったり父親であったりという存在が大事(F氏)」と語り,〈家での役割を全うできるようにする〉,〈その人なりのやり方を尊重し高める〉,〈これまで本人なりにやってきた流れを邪魔しない〉というように,対象者が家族内や社会生活でこれまで築き上げてきた《役割を尊重しその人の輝きを引き出(す)》し,暮らしの中でその人らしさを守ることにつなげていた.

また,暮らしの場で看取りを体験する家族について,〈いい時も苦しい時もずっと見てきた家族であることを尊重し伝える〉,〈家族が頑張る姿をありのまま受け止め承認する〉ことが示された.訪問看護師の「寄り添う」は,看取りの過程を支え続け,看取りを経験した家族がその後葛藤を抱えながらも生活していることを受けとめ,《家族を気遣い家族の歩みを見守る》ことであった.

6) 安心して落ち着く場と日常を保障する

訪問看護は,契約に基づく回数や時間の中で提供される.次回の訪問まで本人・家族だけで過ごすため,「(家族が)心配になることを片付けて帰ってくる(B氏)」と語り,〈訪問時に気がかりなことを解決し安心して落ち着けるように整える〉こと,臨終期や差し迫った病状期に〈電話や訪問を密にして状況に備える〉など,訪問看護師は,物理的に離れていても《つながる安心感を届ける》ようにしていた.訪問看護師の「寄り添う」は,訪問看護師と療養者・家族とのかかわりだけでなく,地域全体で在宅療養を支えるかかわりの中でも語られた.〈組織ごとのつながりや結びつきの中で支える〉,〈多職種と連携しバトンを次から次に渡していく〉ことで,本人や家族のいつもの生活を保証していた.〈最大限できることを地域の専門職と考えながら密着体制をつくる〉ことで,本人や家族には直接見えない関係性を構築しながら《療養を支える地域の一員としてつながる》ことも訪問看護師の「寄り添う」として示された.

Ⅵ. 考察

本研究結果から訪問看護師の「寄り添う」は,療養者と家族が自分のペースで営む暮らしをあるがまま受け止め尊重し,人と家の雰囲気を捉え人として近づき信頼を深めること,対象者の療養と暮らしを支えながら様々な意思決定の場面で共に考え,本人・家族の覚悟を支えながら共に成長することであった.暮らしの中で様々な体験を一緒に積み重ねていくことや安心して落ち着いて過ごす日常の生活を保障することも訪問看護師の「寄り添う」として示された.以下,訪問看護師の「寄り添う」特徴と重要性について考察する.

1. 訪問看護師の「寄り添う」特徴

本研究結果から,訪問看護師は,バイタルサインのような測定値から得られる情報だけでなく,【人と家の雰囲気を捉え共感する】といった,療養者その人の体調や思いの変化,家全体の雰囲気を対象の重要な情報として受け取り,ケアの手掛かりにしていることが明らかになった.外山(2003)は,暮らしそのものが一人ひとりの固有の生活リズムを持ち,長年積み重ねられ,人と住まいを結びつける見えない糸は,一朝一夕で編みあがったものではないと述べている.本研究結果からも,訪問看護師は人と家の雰囲気を同時にとらえ共感することを「寄り添う」として語っていた.これらは,外山(2003)が示した人と住まいを結びつける見えない糸とも共通した対象のとらえ方であると考えられる.訪問看護は,固有の暮らしの中で展開される看護である.それゆえ,暮らしを営む住まい全体に関心を向けること,住み慣れた家でその人らしさを引き出し尊重することが重要であり,訪問看護師の「寄り添う」特徴であると考えられた.島村ら(2013)は,看護を展開する療養者の家には,五感だけでは図り知ることができないその日の雰囲気があり,訪問看護師はその家の雰囲気に反映されている療養者の気持ちも汲み取っていると述べている.本研究でも,人や家の雰囲気全体から発せられるサインを捉えることが語られており,人や家の雰囲気を結びつけ捉えることは,療養者の気持ちに寄り添い,その人らしさを引き出すかかわりとして重要な看護の視点であることが示唆された.

本研究結果から,【本人・家族の覚悟を見通し支える】という,病状によって複雑に変化する対象者の思いを捉え,その気持ちの揺れ幅に添いながら,対象者の意思決定を支えていることが示された.思いを尊重するだけでなく,生活そのものが破綻しないよう見据えケアの方向性を定めることも含め,訪問看護師の「寄り添う」特徴であると考える.家にいたいという本人の希望を叶える一方で,介護がいつまで続くのか見通しの立たない状況は,家族の心身の負担も大きいと予測される.本人だけでなく家族の思いも汲み,介護する家族にも関心を持ち続けること,双方の意思決定を支えることが「寄り添う」重要であると示唆された.長尾(2015)は,介護者の体調管理も自宅での看取りには影響し,家族がすべてを担わなければならないという家族の在宅介護の観念を開放する役割が訪問看護師にはあると述べている.訪問看護師の「寄り添う」は,家族が本人の思いを尊重し,最期まで介護を継続していく力や家での看取りまで可能にできる力を引き出すことにつながっていると考えられた.

2. 訪問看護師の「寄り添う」重要性

本研究結果から,訪問看護師は療養者や家族との関係性を構築する過程では,【人として近づき信頼を深める】ことが明らかになった.片平(2019)は,心理的距離が適切な看護実践につながり,自己開示は一つの信頼関係の土台づくりとなると述べている.本研究結果からからも,時に自分自身を開示しながら歩み寄り,人として信用され安心できる存在として認められることを重要と捉えていることが示され,療養者一人一人の生活を見据えながら【本人・家族の覚悟を見通し支える】ことにつながっていた.看護において,対象者との信頼関係の構築は重要な基盤であるが,特に訪問看護では,自宅に赴くという特徴から,信頼関係の基盤つくりにおいて,重要性が高いと考えられた.

訪問看護師の「寄り添う」は,本人や家族の様々な思いに添いながら支え,本人,家族が在宅療養や介護の経験によって本人や家族の力を引き出し,【在宅療養の青写真を共に描き共に成長する】ことが示された.訪問看護の場では,本人の体調の変化に伴い抱く感情,家族が抱く先の見えない介護に対する葛藤を受け止め支えるプロセスを繰り返している.訪問看護師による在宅での療養と暮らしの可能性を広げる関わりを通し,本人や家族の在宅療養を継続する力を引き出すことが重要であり,本人や家族の成長を促す関わりは,訪問看護師の「寄り添う」を通じた高い実践能力であると考える.本研究結果から,本人や家族の成長とともに,訪問看護師自身も成長することが示された.Mayeroff(1971/1999)は,ケアするとは最も深い意味で,他者の成長や自己実現を助けることであると述べている.本研究結果からは,訪問看護師の「寄り添う」は,他者である本人や家族の成長を助けるだけでなく,訪問看護師も一緒に成長するといった新たな視点が示唆された.

さらに,本研究結果から,一人一人の暮らしぶりを尊重しながら,対象者の多様な価値観を受け入れ,【暮らしの中で共に歴史を積み重ねる】ありようは,訪問看護師自身の学びを深め,次のケアに活かす糧となり,訪問看護師自身の成長につながっていると考えられた.森村(2000)は,ケアに従事することは,ケアされる人が成長していくための契機として必要なのではなく,ケアを実践する私たちにとっても重要であると述べている.多様な背景を持つ療養者・家族との訪問看護実践の積み重ねは,訪問看護師自身の倫理観や自律性を養い,訪問看護のやりがいや看護観の醸成につながっていると考えられた.

3. 本研究の限界と課題

本研究は,訪問看護師の語りから「寄り添う」について具体的に記述し,訪問看護師の寄り添うを明らかにすることを目的とした.「寄り添う」は多様な概念や価値観の中に存在するものであり,本研究で明らかになった「寄り添う」は,研究参加者がとらえる「寄り添う」であることが研究の限界としてあげられる.その一部は言語化できたものの,個々の実践の中で強く印象に残る出来事や場面に限局されている可能性がある.また,「寄り添う」は複雑で多様な関係性の中で導き出される概念であることを考えた場合,本研究ではカテゴリー間の関係性について検討されていないことも研究の限界としてあげる.さらなるデータの蓄積やインタビュー法以外の様々な研究手法を併用していくことで,多様な側面を持つ「寄り添う」の構造化が可能となるかもしれない.最後に,本研究は訪問看護師の視点からの「寄り添う」であるため,訪問看護のケアの受け手である本人・家族が,訪問看護師の「寄り添う」をどのように捉えているか検討されていない.今後は,本人・家族の視点を含め検討することで,より包括的な視点からの訪問看護師の「寄り添う」が明らかになると考える.

Ⅶ. 結論

本研究では,訪問看護師の「寄り添う」を明らかにすることを目的に質的記述的研究を実施した.訪問看護師が人として近づき信頼を深めながら,対象者その人とその人の生き様や暮らしぶりが反映された家の雰囲気を受け止め尊重し,共に在宅療養をつくり上げる中で本人・家族が生活の場で力をつけていくことを支えていた.このような訪問看護師の「寄り添う」は,訪問看護師自身の成長にもつながり,やりがいや自らの看護観の醸成につながっていることが示唆された.

付記:本論文の一部は,第39回日本看護科学学会学術集会において発表した.本研究は,日本赤十字看護大学大学院看護学研究科修士論文に加筆・修正を加えたものである.

謝辞:本研究にご協力頂きました研究対象の訪問看護師の方々に深く感謝いたします.本研究にご助言をいただきました先生,修士課程,博士課程の皆様に心より感謝申し上げます.

利益相反:本研究における利益相反はない.

著者資格:TKは,研究の着想,データ収集,論文作成の全過程に貢献,EYおよびCIは,分析の過程・論文への示唆及び論文作成,研究のプロセス全過程において助言,すべての著者は,最終原稿を読み承認した.

文献
 
© 2022 公益社団法人日本看護科学学会
feedback
Top