2022 年 42 巻 p. 365-374
目的:天疱瘡・類天疱瘡患者が発症初期から現在に至るまでに体験した日常生活における困難感を明らかにする.
方法:13名の患者を対象に半構造化インタビューを行い,質的記述的に分析した.
結果:身体症状の強い時期は,【症状により日常生活行動に支障を来す】【患部の必要な処置に伴い痛みや負担を感じる】が,治療によりこれらの大部分は軽快し,【ステロイド療法の副作用により日常生活行動に制約がある】といった治療により軽快しない困難感を生じていた.また,【希少疾患であること,他者に理解されないことで不安,孤独を感じる】【病気や治療,再燃に対する不安,恐れを感じる】【症状や治療の副作用による影響で人付き合いが難しい】【病気により学業,就職,仕事が思うようにいかない】心理的・社会的な困難を感じていた.
結論:天疱瘡・類天疱瘡患者は,症状や治療,疾患の希少性・難治性,症状の可視性や他者に理解されないことでの困難感を抱いていた.
Purpose: The study aim was to understand difficulties experienced in daily life from the early stage of onset to the present by patients with pemphigus and pemphigoid.
Methods: We conducted semi-structured interviews with 13 patients with pemphigus or pemphigoid, and analyzed the data qualitatively and descriptively.
Results: During periods when their physical symptoms were strong, patients experienced difficulties such as “symptoms interfering with daily activities”, and “feelings of pain and burden when the affected area required treatment”, even though these difficulties were alleviated by the treatment. Patients also experienced difficulties such as “restrictions in daily activities owing to side effects of steroid therapy”. Furthermore, patients reported psychological and social difficulties experienced “anxious and lonely because of their rare disease and lack of understanding by others”, “anxious and afraid because of the disease, treatments, and relapse”, or “difficulty in socializing with others owing to symptoms and treatment side effects”, and “disturbances in schoolwork, employment, and jobs owing to the disease”.
Conclusion: Patients with pemphigus or pemphigoid experienced difficulties owing to the effects of symptoms and treatment, the rarity and intractability of the disease, the visibility of the symptoms, and the lack of understanding by others.
天疱瘡・類天疱瘡は,全身の皮膚や粘膜に水疱,びらんを生じる希少難治性の自己免疫性水疱症である.天疱瘡は,日本全国で約6,000人の患者がおり,40~60歳代に好発し,やや女性に多く発症する(難病情報センター,2021a).類天疱瘡は,日本全国で約7,100人の患者がおり,60歳以上,とくに70~90歳代の高齢者に好発する(難病情報センター,2021b).まれに18歳以下の若年者例および小児例もあり,性差はない(氏家ら,2017).両疾患はともに多数の病型・亜型が存在し,皮膚・粘膜ともに病変を有する病型,どちらか一方だけの病型など症状はさまざまである(鶴田,2016).治療はおもにステロイド内服療法が主体であり,重症・難治例ではステロイドパルス療法,血漿交換療法,各種免疫抑制薬,大量ガンマグロブリン静注療法などが行われ(橋本,2017),近年では,リツキシマブの有効性も報告されている(Di Lernia et al., 2020).かつては予後不良の疾患と認識されていたが,病態の解明,診断,治療法の進歩により,治癒も望める疾患になりつつある(橋本,2017).しかしながら,難治例や再燃を繰り返す場合も多く,慢性的な皮膚・粘膜症状や長期にわたる治療により,患者は身体面のみならず心理社会面においても生活の質(Quality of Life:以下QOL)に深刻な影響を受けている(Chee & Murrell, 2011;Sebaratnam et al., 2012).
これまでの研究では,尺度を用いたQOL評価が多数行われている.結果は各国によりさまざまではあるが,女性や高齢者,皮膚・粘膜病変のある患者でQOLの低下を認め,疾患の重症度とQOLとの相関があることや(Paradisi et al., 2009),発症初期の罹病期間が短い患者ほどQOLが低下していることが報告されている(Ghodsi et al., 2012).反対に,水疱やびらんなどの活動性病変のない患者においてもQOLは低下したままであることも報告されている(Tabolli et al., 2014).これらのQOL尺度を用いた評価では,症状・感情,治療,日常生活,機能,仕事・学校,人間関係,心の健康など,QOLのどの側面が低下しているのかを数量的に捉えることができる.しかしながら,患者が日常生活の中で,QOLの低下につながるどのような困難を具体的に感じているのかについては,これまで十分に明らかにはされていない.患者自身が現在の生活をどのように受け止めているのか,といった主観的QOLの評価指標として“困難感”を取り上げた先行研究では,困難感をQOLの否定的な側面として捉え,困難感がQOLの低下につながることが報告されている(鈴木ら,2001).したがって,日常生活における困難感を具体的に明らかにし,これに対する具体的な支援を検討することは,QOLを向上・維持するために非常に重要である.
そこで本研究では,天疱瘡・類天疱瘡患者が日常生活を送るうえで,疾患の発症初期から現在に至るまでに,具体的にどのような困難を感じていたのかを明らかにする.これにより,患者がQOLを向上・維持するために必要とされる具体的な看護支援について示唆を得たいと考える.
天疱瘡・類天疱瘡患者が,発症初期から現在に至るまでに体験した日常生活における困難感を明らかにする.
日常生活における困難感:日々の生活の中で,天疱瘡・類天疱瘡の症状や治療により飲食,活動,睡眠,清潔,更衣,整容などの日常生活行動や,不安,恐れ,孤独などの心理面,学業,就職,仕事,人付き合いなどの社会面において,苦しみ悩むこと,成しとげたり実行することが難しいと感じること.
質的記述的デザイン
2. 研究対象者対象者は,天疱瘡・類天疱瘡の症状や治療により生じた日常生活における困難感を語ることのできる,認知機能に低下がない者とし,九州・関西地区の天疱瘡・類天疱瘡友の会(以下,患者会)の代表者から患者を紹介していただいた.その後は,対象者の心身の状況に配慮し,必要時,紹介者に対象者への研究依頼時期を確認したうえで,研究者が直接連絡をとり,本研究の趣旨を説明し参加協力を依頼した.対象者の年齢は問わなかった.性別,疾患の分類(天疱瘡・類天疱瘡),粘膜病変の有無,罹病期間は,できるだけ異なる状況にある患者をご紹介いただくように患者会代表者に依頼した.罹病期間は初発症状出現時から現在までの期間とした.
3. 調査期間2021年4月から11月であった.
4. データ産出方法半構造化インタビュー法を用いた.インタビューは新型コロナウイルス感染症の拡大状況を考慮し,個別で,ビデオ会議ツール(Zoom)または電話にて実施した.インタビューは,対象者1名につき計2回とし,1回目は60分程度,2回目は1回目のインタビューでの不足内容や,意味内容の確認のために30分以内を目安に実施した.インタビューガイドを用いて,初めに年齢と天疱瘡・類天疱瘡の病型,皮膚・粘膜病変の有無,罹病期間について尋ね,次に,天疱瘡・類天疱瘡に罹患していることにより,現在,日常生活で困っていること,発症初期から過去において日常生活で困っていたことを,そのときのエピソードをまじえて出来るだけ具体的に語っていただくように依頼した.インタビューの内容は,対象者の許可を得てICレコーダーに録音し,研究者自身で逐語録をおこした.
5. 分析方法逐語録から対象者一人ひとりの語りを読み込み,発症初期から現在に至るまでの時系列にそって,個々の体験を把握した.つぎに,対象者ごとに文脈が損なわれないように逐語録を区切り,“日常生活における困難感”を示している内容を抽出し,データにより近い表現でコード化した.それぞれの対象者から得られたコードは,類似性に着目してサブカテゴリとカテゴリを生成し抽象度を上げ,質的記述的に分析した.その後,個々の体験をもとに,コードを発症初期から現在に至るまでの時系列の観点からも検討し,サブカテゴリ,カテゴリが示す特徴や特徴的な時期について分析した.分析過程においては,質的研究に精通した研究者のスーパーバイズを受け,分析の妥当性を確認した.
6. 倫理的配慮本研究は,武庫川女子大学・武庫川女子大学短期大学部研究倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:No. 20-102).研究対象者には,研究の目的および意義,研究方法,インタビューはいつでも中止できること,同意後も撤回が可能であることを,書面を用いて口頭で説明した.同意書は,追跡可能かつ配達の際に受領印が必要なレターパックプラスにて対象者に郵送し,署名を得た.署名後の同意書は,同様の方法で回収した.
また,インタビューは,プライバシーが確保できる対象者の可能な時間帯に実施した.得られたデータは,USBメモリにはパスワードをかけ,紙媒体とともに鍵のかかる棚にて保管した.結果の公表に関しては,個人が特定されないように配慮し,対象者が開示を希望される場合には,開示することを説明した.
対象者は13名(天疱瘡9名,類天疱瘡4名)であった.皮膚病変のあった対象者は11名(85%),粘膜病変のあった対象者は8名(62%),罹病期間は8か月~22年の範囲であった.
対象者 | 年代 | 性別 | 病型 | 皮膚病変 | 粘膜病変 | 罹病期間 | インタビュー時の治療内容 (内服薬は1日の服用量) |
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A | 40代後半 | 女性 | 尋常性天疱瘡 | – | + | 3年2か月 | PSL 10 mg 局所軟膏 |
B | 40代後半 | 女性 | 尋常性天疱瘡 | + | + | 2年5か月 | PSL 11 mg,ミゾリビン100 mg 局所軟膏 |
C | 40代後半 | 女性 | 尋常性天疱瘡 | + | + | 4年9か月 | PSL 10 mg,シクロスポリン80 mg 局所軟膏 |
D | 40代後半 | 女性 | 尋常性天疱瘡 | + | + | 2年6か月 | PSL 12 mg |
E | 60代前半 | 男性 | 尋常性天疱瘡 | + | + | 22年 | PSL 12.5 mg |
F | 60代前半 | 男性 | 尋常性天疱瘡から落葉状天疱瘡に移行 | + | + | 20年 | 内服,軟膏なし |
G | 50代後半 | 女性 | 落葉状天疱瘡 | + | – | 3年5か月 | PSL 5 mg 局所軟膏 |
H | 30代後半 | 男性 | 落葉状天疱瘡 | + | – | 20年8か月 | PSL 5 mg~10 mgを調整して内服 局所軟膏 |
I | 40代後半 | 女性 | 落葉状天疱瘡 | + | – | 5年5か月 | PSL 10 mg,ミゾリビン150 mg |
J | 70代前半 | 男性 | 粘膜類天疱瘡 | – | + | 1年7か月 | PSL 7.5 mg 局所軟膏 |
K | 70代後半 | 男性 | 水疱性類天疱瘡 | + | – | 2年1か月 | PSL 8 mg |
L | 70代前半 | 女性 | 水疱性類天疱瘡 | + | + | 6年10か月 | PSL 5 mgを週2回内服 局所軟膏 |
M | 50代前半 | 女性 | 水疱性類天疱瘡 | + | – | 8か月 | PSL 10 mg |
注)PSLはプレドニゾロン(副腎皮質ステロイド)を示す
日常生活における困難感として,7カテゴリ,27サブカテゴリ,102コードが生成された.以下,カテゴリを【 】,サブカテゴリを《 》,コードを〈 〉,対象者の語りは「斜体」で示した.語りの末尾に( )で対象者のIDをアルファベットで示した.
カテゴリ | サブカテゴリ | おもなコード(一部を抜粋) |
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症状により日常生活行動に支障を来す | 水疱,びらんの痛みで自由に体を動かせない | 痛くて寝返りもうてない 水疱が全身にできてトイレで屈むのも痛い 歩くと水疱がつぶれて痛い 起き上がると瘡蓋が割れて痛い |
びらんに衣服が当たったり,貼り付いて着替えが痛い | 皮膚に衣服が当たるだけで痛む,傷になる トイレのたびに下着に貼り付いた生傷を剝がすのが痛い | |
かゆみ,痛みにより衣服の選択が難しい | 症状がひどいときは何を着ても痛い 締め付けたところが痒くなる 厚着をすると温まって痛がゆくなる | |
かゆみ,痛みで眠れない | かゆみと熱感で眠れない どの体位でも痛くて眠れない | |
皮膚が刺激されてシャワー,入浴で痛む | シャワーの水圧で皮膚が剝がれて痛い 皮膚がピリピリするため長湯できない シャンプー,石鹸がしみる | |
顔や頭に症状が出ると整容が制限される | 顔に症状が出るとお化粧できない,髭が剃れない 頭に症状が出ると美容院に行けない | |
水疱,びらん,痛みにより活動が制限される | 症状のために趣味ができなくなる 風や太陽光があたっても痛みを感じる | |
痛み,出血により飲食が難しい | 水を飲んでも痛い 口内炎とびらんが痛くて食べられない パイナップルや柑橘系,トマト,ケチャップ,醤油がしみる 熱いもの,冷たすぎるものはしみる てんぷらの衣で出血する 食べると舌から出血する 歯茎が下がり知覚過敏になりしみる | |
痛みや出血により歯磨きが難しい | 歯を磨くと痛い 歯磨きで血だらけになる | |
患部の必要な処置に伴い痛みや負担を感じる | 水疱穿刺や軟膏塗布,ガーゼ交換の処置が痛い | 水疱をつぶす処置が痛い 頭の瘡蓋をとる処置が痛い ガーゼがくっつき外すときに痛い 軟膏を塗るだけでも痛い |
処置に時間がとられる | 病変部の処置に時間を要し時間がとられる | |
浸出液や軟膏で衣服が汚れ,下洗いが負担 | 浸出液や軟膏で衣服が汚れ,下洗いが必要になり負担 | |
背部の軟膏塗布が難しい | 家族に塗ってもらうと力加減がわからず痛い 肩甲骨あたりに皮疹ができると自分で軟膏が塗れない | |
ステロイド療法の副作用により日常生活行動に制約がある | ステロイドの副作用で眠れない | ステロイドの副作用で眠れない |
ステロイドの副作用で食事が制限される | ステロイドの副作用で食欲が増すが制限しなければならない | |
ステロイドの副作用により活動,外出が制限される | ステロイドの副作用で疲れやすい ステロイドの副作用で足腰が痛み歩きづらい 感染が気になり外出できない ステロイドの量が多いと歯科治療を受けられない | |
希少難病であること,他者に理解されないことで不安,孤独を感じる | 周りに同じ病気の人がいない,情報が少ないことで不安,孤独を感じる | 周りに同じ病気の人がいないため不安が大きい 病気により日々孤独を感じる 病気や他の患者の情報が入ってこないため不安 |
病気のつらさを分かってもらえない,忘れられる | 見た目が元気に見えるためしんどさを分かってもらえない まれな病気なので話をしても分かってもらえない 弱音を吐くと「早く治ればいいね」と的外れな答えが返ってくる ステロイドの副作用だが人から太ったと言われる 家族であっても皮膚症状が見えないと難病であることを忘れられてしまう 外来担当医がよく変わり関係性を築きにくい 医療者との間に壁を感じる | |
病気や治療,再燃に対する不安,恐れを感じる | 先の見えない不安がある | この先どうなるのかわからず不安が強い(発症~1年) 難病と言われてお先真っ暗,死ぬのかなと思った |
治療や副作用,感染が怖い | ステロイドの副作用が怖い ステロイド治療の副作用で病気が増える 免疫が下がっているため人との接触が怖い 免疫抑制剤を内服しているのでコロナのワクチンを打っても効かないかもしれない 新しい治療薬が怖い | |
再燃の不安がある | 再燃の不安が常にある 症状が他の部位に拡大しないかと不安になる ステロイドを減量して再燃した | |
症状や治療の副作用による影響で人付き合いが難しい | 見えるところに症状が出るため人から避けられる | 顔に症状が出るため他者に病気だとわかる 顔に症状が出ておりうつると思われたのか,コンビニでおつりを投げられた 病気のせいで周りの人から避けられる |
病気になってから周りの人と話が合わなくなる | 病気になってから周りの人と話が合わなくなった 病気で活動を制限しているため,人に提供する話題がなくなる | |
ステロイド,免疫抑制剤の副作用の影響で,人付き合いが億劫になる | 太ったねと言われるが副作用だといちいち説明するのが面倒くさい ステロイドの副作用でしゃべるだけでも疲れる ステロイドの副作用でお腹が出て人に会いたくない | |
病気により学業,就職,仕事が思うようにいかない | 全身のびらんでみんなと同じように授業,行事に参加できない | 全身にびらんが出現し体力がなく,朝のホールムールだけ行って帰る みんなと同じように学校行事,遊びに参加できない |
病気のために就きたい職業に就くことが難しい | 病気のために就きたい職業に就くことが難しい | |
目に見える症状や副作用,痛みにより仕事,家事で困る | 目に見えるところに症状が出ると仕事のときに困る 仕事中に汗で傷がしみる 洗濯物を干すときに手のカサカサがひっかかり痛む |
このカテゴリは,天疱瘡・類天疱瘡による皮膚・粘膜病変に伴う痛み,びらん,出血,かゆみなどの症状が日常生活行動に及ぼす影響を示す.
皮膚病変のある対象者では,発症初期の身体症状が強い時期は,〈痛くて寝返りもうてない〉〈水疱が全身にできてトイレで屈むのも痛い〉,足底部に水疱が形成された対象者では〈歩くと水疱がつぶれて痛い〉など,《水疱,びらんの痛みで自由に体を動かせない》状況が語られた.
「起き上がりもできない,寝返りもうてないから関節とか筋肉とかも固まって体がぎちぎちこわばって,そこに傷もあるから一人で起き上がれなくてしんどかったですね.高いところのものを取ろうとすると傷が割れるので,体の曲げ伸ばしするだけで痛くて痛くて大変でした.」(I氏)
「就寝時は体の病変の痛みが辛くて,どの体位でも痛み,思わず宇宙飛行士のように無重力で眠れたらと思うことがありました.」(F氏)
また,〈皮膚に衣服が当たるだけで痛む,傷になる〉〈トイレのたびに下着に貼り付いた生傷を剥がすのが痛い〉など,《びらんが衣服に当たったり,貼り付いて着替えが痛い》といった苦痛や,〈症状がひどいときは何を着ても痛い〉〈締め付けたところが痒くなる〉といった,《かゆみ,痛みにより衣服の選択が難しい》状況が語られた.
「Uネックのシャツの襟が当たってめちゃめちゃ痛かったんです.首のところ分厚いですよね,あれ当たると痛いんです.あとレースものとかレース素材の下着とかも凶器です.凹凸が痛くて痛くて.こんなのみんなよく着るなって.髪の毛だって首に刺さって痛いんです.」(G氏)
この他,《かゆみ,痛みで眠れない》苦痛や,〈シャワーの水圧で皮膚が剝がれて痛い〉〈皮膚がピリピリするため長湯できない〉など《皮膚が刺激されてシャワー,入浴で痛む》,〈顔に病変があるとお化粧ができない/髭が剃れない〉〈頭に症状が出ると美容院に行けない〉など《顔や頭に症状が出ると整容が制限される》,〈症状のために趣味ができなくなる〉,〈風や太陽光があたっても痛みを感じる〉など,《水疱,びらん,痛みにより活動が制限される》といった困難感が語られた.
これらの皮膚病変に伴う困難感は,治療の導入により大部分が軽快する一方で,皮膚のかゆみや皮膚の圧迫・刺激に伴う症状の出現,悪化といった一部の困難感は持続していた.また,再燃時には症状の程度や部位は異なるものの,類似した困難感が語られた.
口腔粘膜病変のある対象者では,とくに発症初期からステロイド療法が開始されて間もない時期は,〈水を飲んでも痛い〉〈口内炎とびらんで痛くて食べられない〉〈パイナップルや柑橘系,トマト,ケチャップ,醤油がしみる〉〈熱いもの,冷たすぎるものはしみる〉〈てんぷらの衣で出血する〉〈歯磨きで血だらけになる〉など,《痛み,出血により飲食が難しい》《痛み,出血により歯磨きが難しい》といった困難を感じていた.これらの困難感は,ステロイド療法の導入により軽快する一方で,ステロイドの減量により再燃を経験し,一部の尋常性天疱瘡の患者では困難感が持続していた.
「一番困るのは食事.食べると舌から出血します.おかゆとかパンが主食です.硬いごはんは食べられないんで,20年間,7~8割はおかゆとか,やわくたいたやつです.」(E氏)
「朝起きた時点でもう血が,口の中が….歯磨きは鏡みながらここ痛い,ここ痛いってチェックしながら,やっぱりちゃんと磨かないといけないんで,血を流しながら磨いてました.」(A氏)
2) 【患部の必要な処置に伴い痛みや負担を感じる】このカテゴリは,皮膚・粘膜に生じる病変部の水疱穿刺,洗浄,軟膏塗布,ガーゼ交換といった処置に伴う痛みや負担を示す.
身体的な症状が強い時期は,〈水疱をつぶす処置が痛い〉〈頭の瘡蓋をとる処置が痛い〉〈ガーゼがくっつき外すときに痛い〉〈軟膏を塗るだけでも痛い〉など,《水疱穿刺や軟膏塗布,ガーゼ交換の処置が痛い》といった苦痛や,処置が必要な範囲が広く,痛みを増強させないようにゆっくり処置を行うことから《処置に時間がとられる》といった困難感が語られた.また,《浸出液や軟膏で衣服が汚れ,下洗いが負担》であることや,日々のケアでは《背部の軟膏塗布が難しい》といった現実的な問題が語られた.
「風呂入るにしても痛いし,洗うのも痛いから時間がかかる,タオルで拭くのも時間がかかる,そーっと拭くでしょ.あがったら保護しないといけない,痛いから.なおかつ普通のシャツでなくて,前開きとか一部をガーゼで覆うとかしないといけないから,普通より倍くらいかかりますよ.この時は,仕事の時間を短縮して,家に帰ってから全部自分でやっていました.」(F氏)
3) 【ステロイド療法の副作用により日常生活行動に制約がある】このカテゴリは,ステロイド療法により生じる副作用の影響で,治療継続中に持続する食事や活動,睡眠,外出などの日常生活行動にもたらす制約を示す.
とくに高用量のステロイドを使用している治療導入期では,《ステロイドの副作用で眠れない》《ステロイドの副作用で食事が制限される》といった苦痛が語られた.治療維持期や寛解期においても,一部の対象者では不眠が持続し,高血糖や高血圧,脂質異常症を予防するために,多くの対象者で食事制限に関する困難感が持続していた.その他,ステロイド療法の副作用に伴う困難感としては,〈疲れやすい〉〈足腰が痛み歩きづらい〉〈感染が気になり外出できない〉〈ステロイドの量が多いと歯科治療を受けられない〉など,《ステロイドの副作用により活動,外出が制限される》といった困難感が語られた.
「ステロイドをして水疱は良くなったんですが,骨密度がすごく減ってしまったので,膝や腰が痛くて歩きづらいです.ステロイドっていいお薬なんだけど大変なこともたくさんあって,骨のことが一番困ります.」(L氏)
4) 【希少疾患であること,他者に理解されないことで不安,孤独を感じる】このカテゴリは,疾患の希少性や他者に病気や治療による影響,気持ちを理解されないことで生じる不安や孤独を示す.
とくに発症初期から1年半頃までの間もない時期は,疾患の希少性などの理由から〈周りに同じ病気の人がいないため不安が大きい〉〈病気により日々孤独を感じる〉といった思いを抱えていた.昨今の状況では,新型コロナウイルス感染症拡大の影響により患者会の会合がなくなり〈病気や他の患者の情報が入ってこないため不安〉といった《周りに同じ病気の人がいない,情報が少ないことで不安,孤独を感じる》状況をさらに増強させていた.
また,〈見た目が元気に見えるためしんどさを分かってもらえない〉〈まれな病気なので話をしても分かってもらえない〉〈ステロイドの副作用だが人から太ったと言われる〉,〈外来担当医がよく変わり関係性を築きにくい〉などの理由から〈医療者との間に壁を感じる〉など,《病気のつらさを分かってもらえない,忘れられる》といった困難感が語られた.
「ちょっと弱音吐きたい時に,やっぱりダメだったとか,入院してくるはとか話したりするんですけど,早く治ればいいねとか,今回で治るんじゃないとか,全然わかってもらえないというか….やっぱり見た目が元気だから.」(C氏)
5) 【病気や治療,再燃に対する不安,恐れを感じる】このカテゴリは,疾患の難治性や再燃,治療に伴う不安,恐れを示す.
発症して間もない時期は,〈この先どうなるのかわからず不安が強い〉〈難病と言われてお先真っ暗,死ぬのかなと思った〉など,《先の見えない不安がある》状況が語られた.治療が開始されると,〈ステロイドの副作用が怖い〉〈免疫が下がっているため人との接触が怖い〉〈新しい治療薬が怖い〉といった《治療や副作用,感染が怖い》という新たな不安,恐れが生じていた.そして,〈症状が他の部位に拡大しないかと不安になる〉ことや,〈ステロイドを減量して再燃した〉経験から,《再燃の不安がある》といった思いを抱えていた.
「たまに赤い虫刺されみたいなのが出るんですけど,それができるたびにドキドキします.ステロイド塗って消える分にはあんまり気にしなくていいって言われたんですけど,また何個かできたらどうしようっていうのが,減薬するときとか,そういうのが1個でもできたときはドキドキします.」(M氏)
6) 【症状や治療の副作用による影響で人付き合いが難しい】このカテゴリは,症状の可視性や治療の副作用の影響により,他者との関わりの中で生じる困難感を示す.
目に見える部位に症状が出現している対象者では,〈顔に症状が出るため他者に病気だとわかる〉ことから《見えるところに症状が出るため人から避けられる》体験をしていた.また,〈病気で活動を制限しているため,人に提供する話題がなくなる〉ようになり《病気になってから周りの人と話が合わなくなる》,〈太ったねと言われるが副作用だといちいち説明するのが面倒くさい〉〈ステロイドの副作用でしゃべるだけでも疲れる/お腹が出て人に会いたくない〉といった,《ステロイド,免疫抑制剤の副作用の影響で,人付き合いが億劫になる》現状が語られた.
「コンビニに行ったら,おつりをポンって投げられたんです.あー,やっぱそう見えるんやなって.どうしても顔の方に強く出るので,なんかの皮膚病だって,感染するんじゃないかって色んなことを思われるんだろうなって思うんですよね.」(H氏)
7) 【病気により学業,就職,仕事が思うようにいかない】このカテゴリは,病気による症状や治療の副作用による影響で,学業,就職,仕事などの社会面で生じる困難感を示す.
就学,就職を経験した対象者では,《全身のびらんでみんなと同じように授業,行事に参加できない》《病気のために就きたい仕事に就くことが難しい》といった困難感が語られた.また,〈見えるところに症状が出ると仕事の時に困る〉〈仕事中に汗で傷がしみる〉〈洗濯物を干す時に手のカサカサがひっかかり痛む〉など,《目に見える症状や副作用,痛みにより仕事,家事で困る》といった困難感が語られた.
「目に見えるところ,手とかに出てくると長袖着てみたり,それは困りましたね.見えるところに出たら仕事がね.やっぱりお客さん相手だとできないし,お客さん相手じゃなくても何か皮膚にこんなバーッて出てると,やっぱりなんかうつるって思っている人もいるみたいで.まあ,目につくんやね.」(G氏)
発症初期など身体症状の強い時期は,【症状により日常生活行動に支障を来す】【患部の必要な処置に伴い痛みや負担を感じる】といった困難感が特徴的であった.この時期の対象者は,飲食,活動,睡眠,清潔,整容などに伴う軽微な動作や刺激により症状を増悪させ,日常生活行動に支障を来していた.支障を来す程度は,症状の出現する部位や範囲によってさまざまであり,これらの困難感は,治療により大部分が軽快していたが,かゆみや皮膚・粘膜の圧迫・刺激に伴う症状の出現,悪化といった一部の困難感は持続し,再燃時にも類似した困難感が生じていた.また,対象者の語りの内容から,皮膚・粘膜病変に伴うこれらの困難感は,化学療法の副作用や放射線療法の有害事象として生じる口腔粘膜炎や皮膚障害の症状と類似している部分を認めた.これらのケアは,すでに確立されたものが多く(後藤,2019;百合草・古川,2020),観察・アセスメント方法,具体的なスキンケア・口腔ケア方法,セルフケア支援など,天疱瘡・類天疱瘡患者のケアに応用できる部分が多くあると考える.
もう一つの特徴的な困難感は,患部の必要な処置に伴う痛みや負担であった.この時期は,高用量のステロイド療法を導入しており入院して治療を行うことが多いが(山田,2014),本研究の対象者では,入院はせずにすべての処置を自分で行っていた方もおられた.天疱瘡の好発年齢は,40~60歳代といった壮年期であり,家庭での役割や働き盛りの年代として社会的役割が大きい(林,2019).また,類天疱瘡の好発年齢は70~90歳代と高齢である.そのため,この時期を自宅や施設で過ごす患者も増加することが予測される.したがって,病院スタッフのみならず,患者やその家族,在宅医療者や施設職員などにおいても実施可能な,より良い処置方法を今後確立していく必要がある.
治療導入後は,前述した困難感の大部分は軽快する一方で,【ステロイド療法の副作用により日常生活行動に制約がある】といった治療により軽快しない困難感を生じていた.今回,インタビュー時にステロイド療法を継続している対象者は12名(92%)であった.ステロイドの副作用は多岐にわたり,高用量のステロイド導入後は,不眠や食欲増進に伴う食事制限の苦痛を経験する患者は多く,これらはステロイド減量後の治療維持期においても持続する困難感として語られた.また,免疫機能の低下や骨粗鬆症による活動の制約も特徴的な困難感であった.類天疱瘡の好発年齢は70~90歳代であり,免疫機能の低下や骨粗鬆症はステロイドの副作用だけではなく,加齢による影響も加わる.天疱瘡は壮年期に好発することから,加齢に伴い徐々にこれらの影響が出現し,とくに閉経後の女性では女性ホルモンの減少により骨粗鬆症を発症しやすい.先行研究では,活動性病変のない患者においてもQOLは低下したままであることが報告されている(Tabolli et al., 2014).この理由は,長期的なステロイド療法の継続が必要な患者は,ムーンフェイスや中心性肥満など目に見える副作用や,骨粗鬆症,免疫機能の低下,疲労,不眠,精神症状,血液検査異常など他者の目には見えない副作用など,多種多様な副作用を経験し,身体面のみならず心理・社会面においても長期的な困難感を抱えていることに関連していると考える.治療を継続する限り,少なからずこれらの困難感は持続する.したがって,これらを患者あるいは家族から一つ一つ丁寧に聴き取り,治療により生じる困難感を最小限にとどめられるような支援が必要である.
また,発症初期や診断時,治療導入期の症状の強い時期はとくに,不安や孤独といった心理的な困難を感じていることが明らかとなった.新たに診断された天疱瘡患者61名を対象とした先行研究では,患者の77.5%がQOLの低下を伴う不安と抑うつを経験しており,罹病期間が短いほどQOLの低下を認め,治療が開始される疾患の初期段階から不安,抑うつ,QOLの管理を行う必要性が報告されている(Ghodsi et al., 2012).先行研究からも,発症初期の早期の段階から心理的支援が必要であることが裏付けられる.しかしながら,前述のとおり長期のステロイド療法による副作用の影響や,再燃を繰り返す難治性疾患であることからも,全経過を通して心理的支援を検討することが重要である.この際,今回明らかとなった,【希少疾患であること,他者に理解されないことで不安,孤独を感じる】【病気や治療,再燃に対する不安,恐れを感じる】といった患者が抱える心理的な困難感を踏まえ,患者が表出するサインを鋭敏にキャッチすることが大切であると考える.
人付き合いや仕事などの社会面に関しては,患者は症状の可視性や他者との関わりの中で困難感を抱いていることが明らかとなった.Wang et al.(2018)による自己免疫性水疱症患者61名を対象とした研究では,対象者の14.8%が外見を理由に職場での非難を経験し,とくに手,腕,足など見えやすい部位に症状のある対象者で多く認められたことが報告されている.本研究の対象者においても,手や顔など目に見える部位に症状が出現することで,先行研究と同様の状況が示された.また,天疱瘡・類天疱瘡と同様に全身の皮膚に水疱,びらんを生じる遺伝性疾患である表皮水疱症の子どもの日常生活における問題と困難さを定性的に調査した研究においても,【病気の可視性】【違うという感覚(他者による理解の欠如)】など本研究と類似した要素が抽出されている(Scheppingen et al., 2008).天疱瘡・類天疱瘡という疾患や治療による影響など患者が抱える困難感が,今後社会に広く理解されることが望まれる.
2. 看護実践への示唆今回,明らかとなった困難感のカテゴリ,サブカテゴリ,コードの内容や出現する時期から,看護支援のタイミングと方略が推察できる.たとえば,発症初期や治療導入期などの身体症状が強い時期は,症状が生じる部位や範囲,程度に応じて日常生活行動への支障が出現することを予測し,必要に応じた日常生活援助や症状マネジメント,苦痛緩和に注力する.これと並行して,発症初期に患者が感じる孤独や不安に対する心理的な支援についても忘れてはならない.治療導入後は,その治療に伴う副作用について注意深く観察する.副作用によっても,患者は身体的,心理的,社会的な困難感を生じることから,個々の状況に応じた長期的な視点での支援が必要である.また,疾患の希少性や難治性の観点からも,患者会やセルフヘルプ・グループといった同じ病気の仲間との交流や,長期的に患者・家族と関わる医療者との関係性が非常に重要であると考える.天疱瘡・類天疱瘡の患者が,少しでも孤独を感じることなく治療を継続し,最終的には治癒を目指していけるように,目に見える部分だけはなく,目に見えない部分をも含めた全人的な支援を行うことが重要である.
今回,患者会に所属している患者や,患者会代表者からの紹介患者を対象としているため,対象者に選択バイアスが生じている可能性がある.また,罹病期間が20年以上の方にも発症初期の体験を語っていただいており,リコールバイアスが生じている可能性や,治療に伴う困難感がステロイド療法を中心としたものに限定されているなど,時間の経過に伴う医療の発展により,困難感に変化が生じている可能性がある.さらに,今回の対象者では,粘膜病変においては,口腔内の問題がおもに語られたが,病型によっては眼粘膜,食道粘膜,陰部粘膜などにも症状が出現する可能性がある.したがって,これらの日常生活への影響についても,今後検討する必要がある.
天疱瘡・類天疱瘡患者は,身体症状の強い時期は,日常生活行動や患部の必要な処置に伴う困難感を抱え,治療導入を契機に副作用による日常生活行動の制約に伴う困難感を生じていた.心理面では,発症初期から1年半頃までの時期に,疾患の希少性や難治性に伴う不安,孤独を強く感じるが,その後も治療や再燃に対する不安,恐れを抱いていた.社会面では,症状や治療の副作用による影響で人付き合いに難しさを感じ,病気により学業,就職,仕事が思うようにいかないといった困難感を抱いていた.
付記:本研究の一部は,第43回水疱症研究会(2022年1月21~22日,高知市)にて発表した.
謝辞:本研究にご協力いただきました天疱瘡・類天疱瘡の患者の皆様に心より感謝いたします.本研究はJSPS科研費(課題番号:20K19078)の助成を受けて実施したものです.
利益相反:本研究に関する利益相反は存在しない.
著者資格:CTは,研究のデザインからデータの収集・分析,および論文の執筆を行った.MN,YM,KK,DT,THは研究全体の指導,および原稿への示唆を行った.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.