2022 年 42 巻 p. 375-384
目的:看護職員のワーク・エンゲイジメントと看護師長の自己効力感の関連について,看護職員による所属部署の看護師長に対するリーダーシップの認識の媒介効果を明らかにすることを目的とする.
方法:16医療機関の看護師長,看護職員を対象に看護職員のワーク・エンゲイジメントと看護師長の自己効力感,リーダーシップについて質問紙調査を行った.看護職員269名を対象にマルチレベル媒介分析を行った.
結果:看護職員による看護師長のリーダーシップの認識は看護師長の自己効力感と看護職員のワーク・エンゲイジメントを完全に媒介していることが明らかとなった.看護師長の自己効力感と看護職員のワーク・エンゲイジメントにおけるリーダーシップの認識の媒介効果は個人レベルでの効果であることが示唆された.
結論:看護師長の自己効力感は看護職員によるリーダーシップの認識を介して,看護職員のワーク・エンゲイジメントに影響を及ぼしていることが明らかとなった.
Purpose: The purpose of this study is to clarify the mediating effect of nurses’ perceptions of head nurse leadership on the relationship between nurses’ work engagement and head nurse’s self-efficacy.
Method: A questionnaire survey was conducted on the head nurse and nursing staff in 16 medical institutions regarding work engagement of nursing staff and self-efficacy and leadership of head nurses. A multilevel mediation analysis was conducted on 269 nursing staff members.
Results: It was found that nurses’ perceptions of the head nurse’s leadership were fully mediated by the head nurse’s self-efficacy and staff nurses’ work engagement. It was suggested that the mediating effect of the perception of leadership on the head nurse’s self-efficacy and nurses’ work engagement was an individual level effect.
Conclusion: It was found that nursing staff’s perception of the head nurse’s leadership was fully mediated by the head nurse’s self-efficacy and nursing staff’s work engagement.
これまで産業保健分野における労働者のメンタルヘルス対策としては,ストレスや不安,抑うつという健康を阻害する要因や状態等に着目し,それらを予防,回避することに重点が置かれてきた.しかし,近年,人間のポジティブな側面や,健康促進要因への着目の意義が論じられ,個人や組織の活性化を視野にいれた対策が重要視されている.このような中,注目されている概念の一つにワーク・エンゲイジメント(Work engagement)がある.ワーク・エンゲイジメントは,仕事に関連するポジティブで充実した心理状態であり,活力,熱意,没頭によって特徴づけられる.そして,特定の対象,出来事,個人,行動などに向けられた一時的な状態ではなく,仕事に向けられた持続的かつ全般的な感情と認知であると定義されている(Schaufeli et al., 2002).
ワーク・エンゲイジメントの規定要因としては,「仕事の資源」と「個人の資源」がある.作業・課題レベル,部署レベルの仕事の資源には,上司のリーダーシップや,上司・同僚からの支援,コーチング,仕事のコントロール,報酬,承認,組織と個人との価値の一致があり,ワーク・エンゲイジメントと正の相関を有することの報告がある(Hakanen et al., 2006;Koyuncu et al., 2006).また,「個人の資源」に関しては,自己効力感,楽観性とワーク・エンゲイジメントが関連していることがメタアナリシスによって明らかとなっている(Halbesleben, 2010/2014).これら仕事の資源と個人の資源は,「仕事の要求度-資源モデル(Job demands-Resources Model)」(以下,JD-Rモデル)の「動機づけプロセス」において,相互に影響を及ぼし合い,ワーク・エンゲイジメントを高めること(Xanthopoulou et al., 2009)が明らかにされており,組織における仕事の資源や個人の資源をより充実させるための管理監督者研修,職場環境の改善等を行うことの重要性が指摘されている(島津,2010).
我が国の看護職員の労働状況に着目してみると,正規雇用および新卒看護職員離職率は10%前後である(日本看護協会,2021).また,長期病気休暇取得の常勤看護職員総数に占めるメンタルヘルス不調者の割合は36.8%という報告(日本看護協会,2016)があり,看護職員の離休職予防対策は喫緊の課題の一つである.
これまでの看護職員のワーク・エンゲイジメントに関する研究では,ワーク・エンゲイジメントが高い看護職員は,心理的苦痛や身体愁訴が少ないこと(Shimazu et al., 2012),離転職の意思が少なく,職務遂行能力が高いこと(川内・大橋,2011;Kubota et al., 2012;中村・吉岡,2016),患者満足度と正の相関があること(Bacon & Mark, 2009),また,組織の理解や上司のリーダーシップの認識と正の相関があるという報告(伊藤ら,2018)がある.加えて,組織においてはワーク・エンゲイジメントが従業員間で伝播すること(Bakker et al., 2005;Bakker et al., 2011)が明らかにされている.これらから,ワーク・エンゲイジメントに着目することは,労働者としての看護職員個人の精神保健の維持,専門性や看護の質向上の観点のみならず,組織を対象に労働の質向上のための方略を考える上で有意義な指標であるといえる.
看護職員の仕事の資源に関しては,新たな業務に挑戦する機会,知識や技術を習得,発揮する機会,心理的報酬や裁量権の付与が有意にワーク・エンゲイジメントを高めるという結果が示されている(新宮・安保,2019).また,仕事の資源としての重要な役割を担うであろう看護師長については,看護職員対象の調査によって看護師長のメンタリング機能の発揮と看護職員の内発的モチベーションに有意な正の相関があること(今堀ら,2008)や,看護師長のリーダーシップの発揮と職員間の関係性や職場志向性との関連が明らかになっている(野中・服部,2019),加えて,最新の知見では看護師長からの動機付けや裁量権に関するソーシャルサポートは部署の職員の全体(集団レベル)のワーク・エンゲイジメントの向上と関係があることが判明している(髙谷・安保,2022).このことからワーク・エンゲイジメントを高める組織作り,人的資源の観点から,看護師長のリーダーシップに着目する意義があると考えられる.
JD-Rモデルにおける個人の資源として自己効力感(Self-efficacy)がある.自己効力感と性格特性の関連について,自己効力感が高い人は,気分が安定し劣等感が小さく神経質傾向がない,協調的で社会的指導性があり,活動的であるという性格の傾向を持つことが示されている(佐藤,2009).また,性格特性とリーダーシップとの関連については,外向性が高く神経質傾向が低いほど変革型リーダーシップの傾向があること(Jelena & Marija, 2017)や,倫理的リーダーシップの認識と協調性・勤勉性という性格特性に正の相関が,神経症傾向に負の相関があることの報告がある(Gonul, 2016).これらのことから,看護師長の自己効力感と関連する性格傾向は,看護職員からはリーダーシップ行動として認識されることで,ワーク・エンゲイジメントに影響を与えている可能性が考えられる.
看護職員を対象とした自己効力感についての研究では,自己効力感が離職願望と有意な負の相関を示すこと(池田ら,2011),上司がほめることが自己効力感を高め,ストレス反応を軽減する可能性があること(吉田ら,2011),身体疲労との関連に関する報告(市江ら,2014)などがあるが,これらは主に看護職員の「個人の資源」としての自己効力感に着目し,自己効力感を高めることでの効果やその重要性の主張に留まっており,組織における「仕事の資源」として看護師長の自己効力感に着目し,看護職員への影響を調査した研究はこれまで我が国では見られていない.そのため本研究では代表的なリーダーシップ行動理論であるPM理論(三隅,1978)を用いて,看護師長の自己効力感と看護職員による看護師長のリーダーシップの認識およびワーク・エンゲイジメントとの関連について明らかにするものである.この関連について明らかにすることは,従来実施されてきたメンタルヘルス不調者や職員の自己効力感を対象にした個人への介入や対策に留まらず,不調を未然に予防する職場環境の整備等の検討など,組織を対象に対策を講じるうえで重要な示唆となりうるものであると考えられる.
本研究は,看護職員のワーク・エンゲイジメントと看護師長の自己効力感の関連について,看護職員による所属部署の看護師長に対するリーダーシップの認識の媒介効果を明らかにすることを目的とする.本研究の仮説は,自己効力感が高い看護師長の性格特性は,リーダーシップ行動として看護職員に認識され,看護職員のワーク・エンゲイジメントを高める,である.本研究の媒介分析モデルを図1に示す.
本研究の媒介分析モデル
研究者の所属機関は,教育,研究,人事交流に関する連携協定を21病院と締結している.調査対象機関は,この21病院のうち協力の同意が得られた16病院である.調査対象者は,この16病院に所属する看護職員,看護師長とした.ただし,医療機関の規模(部署数)による重みが生じることを避けるため,医療機関ごとの調査対象部署数は最大4部署とした.質問紙は対象病院に郵送し,看護部長またはそれに類する方に配布を依頼した.対象部署の所属看護職員全員に配布し,研究対象者自身が回答後,研究者へ直接郵送するよう書面にて依頼をし,回収した.質問紙は乱数表によるIDを所属部署に対して割り付け,部署ごとに看護師長と看護職員双方の回答をマッチングさせ分析を行うものとした.IDは部署ごとに割り当てているため個人は特定しない.なお,本研究の調査期間は,2019年2月から3月である.
2. 調査項目 1) 個人属性看護職員に対して,性別,年齢,主に従事している職種,卒業した看護基礎教育機関,看護師従事経験年数,職位(副看護師長,主任看護師,副主任看護師,スタッフナース),所属部署(病棟勤務,病棟以外勤務(外来や手術室など))とその在籍年数,看護体制の計9項目について質問した.また,看護師長に対しては,上記の項目に加え看護師長としての経験年数を尋ねた.
2) ワーク・エンゲイジメント(対象:看護職員,看護師長)ワーク・エンゲイジメントを測定する尺度として,日本語版Utrecht Work Engagement尺度短縮版(以下,UWES-J)を使用した.この尺度は3つの下位概念,熱意,没頭,活力の全9項目で構成される.それぞれの質問に対し「いつも感じる(6点)」から「全くない(0点)」までの7段階評定で回答を求め,1項目あたりの平均値を算出しワーク・エンゲイジメントのスコアとしている.得点が高いほど,仕事に積極的に向かい活力を得ている心理状態であることを意味する.この尺度は原版および日本語版で,信頼性と妥当性が確認されている(Schaufeli et al., 2002;Shimazu et al., 2008).UWES-Jは,研究目的の場合には自由に使用が可能であった.
3) 自己効力感(対象:看護師長)成田らが翻訳した特性的自己効力感尺度23項目(Generalized Self-Efficacy Scale:以下,GSE)を使用した.原版はShererらが作成し(Sherer et al., 1982),成田らにより日本語版の信頼性と妥当性が確認されている(成田ら,1995).各項目に対し「そう思う(5点)」から「そう思わない(0点)」までの5段階評定で回答を求めるものである.逆転項目を含み,換算後の得点が高いほど自己効力感が高いことを意味する.
4) 看護師長のリーダーシップ(対象:看護職員,看護師長)本研究では看護師長のリーダーシップについて,看護職員による看護師長のリーダーシップの認識(他者評価),看護師長自身による評価(自己評価)双方を得るためPM理論に基づきリーダーの自己評価,他者評価双方を得ることを想定し作成されたPMサーベイ(吉田ら,1995)を使用した.PM理論は,リーダーシップを仕事や課題志向的な目標達成機能(Performance Function)(以下,P機能)と人間関係志向的な集団維持機能(Maintenance Function)(以下,M機能)の2つの機能に大別している.使用した質問項目はP機能,M機能各10項目のリーダーシップ行動からなるものであり,PM理論を用いたリーダーシップの測定は高い信頼性と妥当性がある(松原,1995).各項目は,「とても当てはまる(6点)」から「全く当てはまらない(0点)」までの7段階評定で回答するものとした.得点が高いほど,看護師長がリーダーシップ機能を発揮していると認識していることを示す.PM理論では各々の機能の回答者(評価者)全体の平均値を基準とし,リーダーごとの両機能の平均値を得点としてリーダーシップを4つの類型(PM型,pM型,Pm型,pm型)に分類する.両機能が共に高い状態,すなわちPM型リーダーが組織の目標達成,集団の維持に優れた最も望ましいリーダーであることを示すものである.
3. 分析方法分析対象は,UWES-Jに欠損のない回答とし,記述統計を算出した.UWES-J,GSE,リーダーシップの認識に関する各設問については,尺度全体,下位尺度ごとのCronbachのα係数を算出し,内的整合性の確認を行った.また正規性の検定(Kolmogorov-Smirnov検定)を行い,正規分布しているか否かの確認を行った.
部署の平均値等の集団(部署)レベルの変数を用いて分析を行う際には代表性の問題が生じる.そのためリーダーシップに関する設問の回答について,本研究で最も回答率の高い部署を対象に無作為に数名を抽出して標本平均を算出し,標本平均と母平均との差(標本誤差)が標準偏差の1.96倍以内(信頼区間を95%に設定したため)にとどまる人数を検証した.その結果,サンプルサイズが4人以上の場合は前述の条件以内に収束した.また,本調査のデータは,個人,集団レベルの階層的データであり,集団内類似性が生じる可能性がある.そのため級内相関係数(ICC)を算出し,集団内類似性の評価を行った.マルチレベル分析においては集団における回答数が5名以上必要である(村澤,2005)ため,分析の際は部署において5名以上の回答があった調査データを分析対象とし,マルチレベル相関分析を行い,個人レベル,集団レベルでの変数間の関連を確認した.
リーダーシップの類型とワーク・エンゲイジメントの関連については,P機能項目,M機能項目の分析対象者全体の平均値を基準点として,①看護職員個人による評価②同一部署に所属する看護職員の評価(平均)③看護師長の自己評価の各々の得点に基づき,リーダーシップを分類し,看護職員のUWES-Jを比較した.
媒介分析では,媒介変数をレベル1(個人レベル)とした分析において,看護師長のGSE得点(集団レベル)を独立変数,看護職員のUWES-J得点(個人レベル)を従属変数,看護職員個人の看護師長のリーダーシップの認識(個人レベル)を媒介変数として分析を行った(2-1-1モデル).間接効果の検定には,Bootstrap法を用い,リサンプリング回数は10,000回とした.媒介変数をレベル2(集団レベル)とした分析では,同様に看護師長のGSE得点(集団レベル)を独立変数,看護職員のUWES-J得点(個人レベル)を従属変数とし,看護師長のリーダーシップの認識の部署平均値(集団レベル)を媒介変数として分析を行った(2-2-1モデル).間接効果の検定は2-1-1モデルと同様の方法で実施した.データの分析には,IBM SPSS Ver24.0 for WindowsおよびHAD17を使用した.なお,統計学的検討の有意水準は,すべて両側検定で5%とした.
4. 倫理的配慮質問紙には特定個人情報の記載欄を設けず,本研究への協力は任意であること,質問紙への回答をもって研究への同意とすること,研究への参加の有無に関わらず不利益が生じないこと,研究結果は学術的に公表する予定であることなどを質問紙表紙に明記した.また,回答の有無や内容による対象者の業務等への不利益が生じないように郵送法を用いて個別に返送してもらい,研究への参加状況が判明しないようにした.所属部署ごとの集計は無作為に割り付けたIDによって管理した.また,本研究は山形県立保健医療大学倫理委員会の承認を受けて実施した(承認番号1809—20).
16医療機関の看護師長と看護職員1231人に対して質問紙を配布し,回答数は447部であった(返送率36.3%)内訳は看護職員414部,看護師長33部である.UWES-Jの回答に欠損がある質問紙を除外し,看護職員408部,看護師長33部の回答を分析対象とした(有効回答率35.8%).対象者の属性を表1に示す.UWES-J,GSE,リーダーシップの認識に正規性は認められなかった.また,看護師長が看護職員に対して有意にUWES-Jの得点が高かった(Mann-WhitneyのU検定,p < .001).
看護職員(n = 408) | 看護師長(n = 33) | ||||||
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n(%)/mean(SD) | n(%)/mean(SD) | ||||||
性別 | 女性 | 374 | (91.7%) | 31 | (93.9%) | ||
男性 | 33 | (8.1%) | 2 | (6.1%) | |||
無回答 | 1 | (0.2%) | 0 | (0.0%) | |||
年齢 | 40.1 | (11.9) | 51.6 | (6.4) | |||
看護師従事経験年数 | 17.0 | (11.7) | 29.3 | (6.7) | |||
看護師長経験年数 | ― | 4.9 | (5.0) | ||||
職位 | 一般職 | 298 | (73.0%) | ― | ― | ||
主任級 | 88 | (21.6%) | ― | ― | |||
副師長級 | 22 | (5.4%) | ― | ― | |||
師長級 | ― | ― | 33 | (100.0%) | |||
UWES-J | 2.5 | (1.1) | 3.0 | (0.9) | |||
下段はmedian(min–max) | 2.6 | (0.0–6.0) | 3.1 | (0.0–5.0) | |||
特性的自己効力感尺度 | ― | 75.2 | (6.5) | ||||
看護師長のリーダーシップに関する認識 | (20項目) | 3.7 | (1.2) | 3.8 | (0.6) | ||
リーダーシップP機能(目標達成行動) | (10項目) | 3.6 | (1.2) | 3.3 | (0.6) | ||
リーダーシップM機能(集団維持行動) | (10項目) | 3.8 | (1.4) | 4.2 | (0.8) |
看護師長が回答したGSEの平均値+標準偏差は,2.77~4.59,平均値-標準偏差は1.53~3.15の範囲に収まり天井効果,フロア効果を示した項目は認めなかった.また,看護職員が回答した看護師長のリーダーシップの認識に関する設問各項目の平均値+標準偏差は,4.51~5.74,平均値-標準偏差は1.44~2.55の範囲に収まり天井効果,フロア効果を示した項目は認めなかった.各尺度のCronbachのα係数は,UWES-Jが.95,GSEが.74,また,看護師長のリーダーシップに関する設問では全体で.97,P機能項目で.92,M機能項目で.97であった.マルチレベル相関分析の結果,UWES-J,看護師長のリーダーシップについての看護職員個人の認識,各々の回答の級内相関係数(ICC)は有意であった(表2).
個人レベル変数 | 集団レベル変数 | ||||||||||||||
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UWES-J | ①看護職員個人による評価 | ②所属看護職員の平均 | ③看護師長自身による評価 | ||||||||||||
PM理論 全項目 |
P機能 項目 |
M機能 項目 |
PM理論 全項目 |
P機能 項目 |
M機能 項目 |
PM理論 全項目 |
P機能 項目 |
M機能 項目 |
|||||||
個人レベル変数 | UWES-J | .148* | .318** | .244** | .349** | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ||||
① | PM理論全項目 | .229 | .398** | .936** | .948** | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ||||
P機能項目 | .114 | .927** | .363** | .774** | ― | ― | ― | ― | ― | ― | |||||
M機能項目 | .296 | .955** | .775* | .427** | ― | ― | ― | ― | ― | ― | |||||
集団レベル変数 | ② | PM理論全項目 | (部署平均) | .291 | 1.057** | 1.001** | .994** | 1.00** | ― | ― | ― | ― | ― | ||
P機能項目 | (部署平均) | .108 | .940** | 1.049** | .759** | .901** | 1.00** | ― | ― | ― | ― | ||||
M機能項目 | (部署平均) | .364 | 1.016** | .839** | 1.052** | .950** | .734** | 1.00** | ― | ― | ― | ||||
③ | PM理論全項目 | (自己評価) | .325 | .258 | .407 | .114 | .262 | .403 | .131 | 1.00** | ― | ― | |||
P機能項目 | (自己評価) | .232 | .031 | .319 | –.199 | .066 | .327 | –.163 | .768** | 1.00** | ― | ||||
M機能項目 | (自己評価) | .302 | .348 | .358 | .305 | .329 | .347 | .304 | .891** | .394 | 1.00** |
** p < .01,* p < .05
※対角行列(太字)は級内相関係数(ICC)を示す.
※上三角行列は個人レベル相関,下三角行列は集団レベル相関を示す.
個人レベルの相関係数は個人間の変動に基づいて算出し,集団レベルの相関係数は集団間の分散から個人間の分散を差し引いて算出するものである.
看護師長のリーダーシップ類型による看護職員のUWES-Jの比較を行ったところ,看護職員個人の認識,看護師長の自己評価に基づく分類でPM型リーダーがpm型リーダーと比較して看護職員のUWES-Jの得点が高かった(表3).
看護師長のリーダーシップの類型による看護職員のUWES-Jの比較
マルチレベル分析の条件を満たし,看護師長の回答とマッチングできた看護職員の回答269部を媒介分析の対象とした(対象者は22部署に所属し,部署の回答者数は最小5名,最大26名であった).看護師長の自己効力感が看護職員のワーク・エンゲイジメントに与える影響について,分析モデルに基づき媒介分析を行った.分析の結果,看護師長の自己効力感(GSE)から看護職員のワーク・エンゲイジメント(UWES-J)へ有意な正の効果が見られた(β = .17, p < .01).また,看護師長の自己効力感から看護職員による看護師長のリーダーシップの認識へ有意な正の効果が見られた(β = .40, p < .01).さらに看護師長のGSEを独立変数,看護職員のUWES-Jを従属変数,看護職員による看護師長のリーダーシップの認識を媒介変数として間接効果の分析を行った.検定の結果,間接効果が有意で(z = 3.491, p < .01),媒介変数投入後にβ = .17が,β = .07になり,有意ではなくなった.そのため,看護師長の自己効力感が部署の看護職員のワーク・エンゲイジメントに与える効果はリーダーシップの認識によって完全に説明されるという結果となった(完全媒介).リーダーシップの認識の下位尺度P機能項目,M機能項目各々を媒介変数としても同様の結果であった.図2の看護師長の自己効力感から看護職員のワーク・エンゲイジメントへのパス係数の変化は,直接のパス係数の変化から,看護職員によるリーダーシップの認識を媒介した後のパス係数の変化を意味している(図2).また,集団レベルの変数である,部署における看護師長のリーダーシップの認識の平均を媒介変数に用いて同様に媒介分析を行った.分析の結果,看護師長の自己効力感から部署における看護師長のリーダーシップの認識(部署平均)へ有意な正の効果が見られた(β = .61, p < .01).看護師長のGSEを独立変数,看護職員のUWES-Jを従属変数,看護師長のリーダーシップの認識(部署平均)を媒介変数として間接効果の分析を行った結果,間接効果は有意ではなかった(z = 0.076, p = .939).下位尺度P機能,M機能各々の部署平均値を媒介変数としても同様の結果であった(図3).
2-1-1モデルの媒介分析結果
2-2-1モデルの媒介分析結果
看護師長のUWES-Jと看護職員のUWES-Jの得点(中央値)は各々3.1,2.6であった.先行研究(中村・吉岡,2016;須藤・石井,2017)と比較すると本研究で得られたUWES-Jの値は,同等の得点であり,管理職者が他の看護職員よりUWES-Jの得点が高いという点でも一致しているため,本研究の対象者に大きな偏りは存在しないと思われる.また,本研究で使用したUWES-JおよびGSE,リーダーシップの認識に関する設問の信頼性係数は各々.70以上を示しており,内的整合性があるものと判断した.看護職員のUWES-J,リーダーシップの認識の回答の級内相関係数(ICC)はすべての項目で有意であった.データの階層性の判断基準(清水,2014)に基づき,本調査データが階層的であると判断した.
2. 看護師長の自己効力感の看護職員のワーク・エンゲイジメントへの影響看護師長の自己効力感は,看護職員によるリーダーシップの認識を媒介して看護職員のワーク・エンゲイジメントに影響しているということが媒介分析により明らかとなった.すなわち,自己効力感の高い看護師長は看護職員からリーダーシップ行動のとれる人として認識され,そのことが看護職員のワーク・エンゲイジメントの向上に影響を与えていることを意味する.管理職者の自己効力感が看護職員のワーク・エンゲイジメントに寄与するという本研究の結果は,組織を対象にした労働者のメンタルヘルス対策や労働の質向上の方略を検討する上で新規性のある知見へ発展する可能性を有すると考えられる.
また,PM理論はこれまで看護職員のワーク・エンゲイジメントとの関連において実証的な成果や知見は見られていなかったが,本研究は医療職者という労働環境でもPM理論によるリーダーシップのアセスメントに一定の意義があることを示すものであると考えられる.PM理論の2機能のうち,M機能は組織の人間関係維持や集団凝集性を高めるリーダーシップ機能であり,ワーク・エンゲイジメントが持つ伝播性という特徴を考慮すると,所属看護職員の集団凝集性を高める看護師長のリーダーシップ行動が看護職員のワーク・エンゲイジメントを高める要因の一つである裏付けになると考えられる.
2-2-1モデルにおいて,集団レベルの変数である部署におけるリーダーシップの認識の平均を媒介変数として分析したところ,看護師長の自己効力感からリーダーシップの認識への正の効果があるものの,リーダーシップの認識から看護職員のワーク・エンゲイジメントへの効果が有意ではなかった.すなわち,看護師長のリーダーシップが看護職員のワーク・エンゲイジメントの向上に寄与するのは,看護職員に個人レベルで(個別に)働きかけた場合に限ることを意味すると考えられる.この結果はこれまでの先行研究では報告がない知見である.この結果は,看護管理職者の課題志向,人間関係志向のリーダーシップ行動や職場組織における人材管理に個別性の重視が必要であることを示すものであるといえ,効果的なリーダーのあり方にも示唆を与える結果であるといえるだろう.
これまでの看護職員を対象とした研究では,自己効力感は個人の資源として着目され,疲労感やストレス反応,離職願望との関連などについて調査がなされてきた(市江ら,2014;池田ら,2011;吉田ら,2011).看護師長の自己効力感が看護職員のリーダーシップの認識を介して,ワーク・エンゲイジメントに影響していることを示す本研究の結果は,看護師長の自己効力感が看護職の職場における仕事の資源としての機能を持つことを裏付ける知見であると考えられる.すなわち,看護師長の自己効力感を高めるための研修や看護管理者等からの支援などは看護師長個人への効果に留まらずに間接的に所属する看護職員のワーク・エンゲイジメントへの効果が期待できる.この結果を踏まえると,看護管理者の自己効力感の増進にむけた効果的な教育および支援方法の開発とその効果の検証を行うことが本研究分野の発展に寄与することになるだろう.
本調査は,看護師長の自己効力感と看護職員のワーク・エンゲイジメントとの関連について,リーダーシップの認識を媒介変数としてその関連を示すものである.本研究では,その目的から看護職員個人要因は最小限度の調査にとどめているため,看護職員のワーク・エンゲイジメントに他の変数が交絡する可能性は調査していない.今後は,個人要因や職場環境要因を含む個人・集団レベルの他の変数の影響を調査項目に加えたり,教育的介入の効果や長期的アウトカムを調査する縦断的調査を実施したりすることが本研究分野の課題である.
謝辞:本研究は,山形県立保健医療大学の平成30年度共同研究事業として採択され実施したものである.また,本研究に快く承諾しご協力をいただきました看護師長,看護職員の皆様に心より御礼を申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:STは調査に使用した尺度の選定,調査の実施と分析,主要な執筆を行った.HAは研究枠組みの構成と倫理面を含む研究過程全般に有力な案を与えるなどの助言,一部の分担執筆を行った.DSは調査の分析およびその結果の解釈に貢献した.すべての著者が最終原稿を読み,承認した.