日本看護科学会誌
Online ISSN : 2185-8888
Print ISSN : 0287-5330
ISSN-L : 0287-5330
原著
糖尿病性腎症高齢患者の透析導入に伴う移行見通し測定尺度の信頼性と妥当性の検証
木村 美香
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2022 年 42 巻 p. 412-421

詳細
Abstract

目的:糖尿病性腎症高齢患者の透析導入に伴う移行見通し測定尺度を開発し,信頼性と妥当性を検証する.

方法:インタビュー調査に基づいて尺度原案40項目を作成し,全国1,665施設で定期的に血液透析を行っている糖尿病性腎症から透析を導入した65歳以上の患者に質問紙調査を行い,信頼性と妥当性を検証した.分析には欠損値を補完したデータを用いた.

結果:収束妥当性の検証では496名,それ以外の検証では502名のデータを分析した.探索的因子分析で6因子32項目が抽出され,確証的因子分析においてCFI = .955,RMSEA = .067であった.収束的妥当性,既知グループ妥当性は統計学的に有意な結果であったが,併存的妥当性は有意な結果ではなかった.信頼性係数は尺度全体で.887,下位尺度で.728~.922であった.

結論:併存的妥当性に課題はあるが,一定の信頼性,妥当性を確認できた.

Translated Abstract

Purpose: To develop a scale (Scale for Elderly with Diabetic Nephropathy being initiated on dialysis: SEDNID) that measures the prospect of transition associated with the introduction of dialysis in elderly patients with diabetic nephropathy, and then verify the reliability and validity of the scale.

Methods: A draft scale consisting of 40 items was prepared after an interview-based survey. Using this scale, a questionnaire survey was conducted on patients aged 65 years old or older who were on regular hemodialysis treatment at any of 1,665 facilities nationwide for diabetic nephropathy. Analysis was conducted with data imputed for missing values.

Results: Data from 496 patients were analyzed to verify the convergence validity. For other validations, data from 502 patients were analyzed. Exploratory factor analysis led to the extraction of 6 factors and 32 items. Confirmatory factor analysis showed a comparative fit index (CFI) of .955 and a root mean square error of approximation (RMSEA) of .067. Thus, the results of convergence validity and known-group validity were statistically significant. However, the results of concurrent validity were not statistically significant. McDonald’s ω coefficient was .887 for the entire scale and .728 to .922 for the subscales.

Conclusion: Although issues of concurrent validity remain, we confirmed a certain level of reliability and validity.

Ⅰ. 緒言

わが国の透析導入患者の平均年齢は70.88歳と年々上昇し,最も割合が高い年齢層は男性が70~74歳,女性が80~84歳である(花房ら,2021).超高齢社会を迎えるわが国では,社会保障制度を維持する取り組みは喫緊の課題であり,透析医療においても,透析導入患者の原疾患のうち最も多い糖尿病性腎症からの新規透析導入の予防と,血液透析に偏らない治療法選択に注力している(厚生労働省保険局医療課,2018).糖尿病性腎症高齢患者にとって,新規透析導入の予防,血液透析に偏らない治療法選択のどちらもQOLに資する政策である.一方,これらの政策は,透析はなんとしても回避すべきという認識をもたらしながら,いざ透析が必要になると,透析の種類やメリット・デメリットを理解して治療法を選択しなければならないという,価値観の急速な転換を要求する.糖尿病患者として長年にわたり築いてきた価値体系を加齢に伴い認知機能が低下した高齢者が短期間で転換することは容易ではなく,透析導入に伴う移行が患者のQOLに資する形で進むとは言い難い.

先行研究では糖尿病性腎症から透析を導入した高齢患者が,自覚症状がなく血糖値も比較的良好であったこと,透析に関する周囲の人々の言葉やニュースの情報がネガティブであったこと等から透析の必要性を認識できず,かかりつけ医への受診を止め透析を回避する方法を模索していた(金子,2020).この報告は,糖尿病性腎症高齢患者が,透析導入に伴う移行を適切に見通せていないこと,不適切な見通しが円滑な透析導入を妨げていることを示唆している.

透析導入の遅れは,加齢に伴う身体的予備能力の低下に加え,糖尿病による血管障害を有する患者に深刻な身体的ダメージをもたらし,入院の長期化とADL低下の悪循環を生じさせる.患者が在宅へ円滑に移行し,住み慣れた地域で暮らし続けるには,透析導入に伴う移行を適切に見通せるよう支援する必要がある.そのためには,患者の見通しの速やかな把握を可能にする尺度が必要である.しかし,糖尿病性腎症高齢患者の透析導入に伴う移行の見通しに特定した研究はおろか,透析導入に伴う移行の見通しに着目した研究も見当たらない.以上により,糖尿病性腎症高齢患者の透析導入に伴う移行見通し測定尺度を開発し信頼性と妥当性を検証することにした.本尺度は,糖尿病性腎症高齢患者が透析導入に伴う移行を適切に見通し,自分に合う透析を計画的に導入するための支援を考案する一助になると考える.

Ⅱ. 用語の定義と概念枠組み

患者の移行を看護学の視点から説明している移行理論(Meleis, 2010/2019)を参照して,用語を定義し概念枠組みを作成した.移行理論では,移行に直面した人は新しい生活と古い生活を比較して,時間,空間,人間関係等から位置づけを行い,新しい意味や知覚を生み出すと説明している.この説明から,移行に直面した人は,移行前後を比較して新たな意味づけを行うことにより,移行に伴う変化を認識すると考えた.文献検討の結果は,透析導入に伴う移行に直面した患者は,過去と現在のみでなく,これから生じる変化についても認識,すなわち予測していることを示した.以上により,透析導入に伴う移行の見通しを,「健康/疾病状態から生じた透析導入に伴い,病期,診療科,治療の場,生活様式といった複数の移行が,順次/同時に生じた後の未来の状況を想像した意味づけ」と定義した.移行理論は「移行のタイプとパターン」「移行経験の特性」「移行条件:促進因子と阻害因子」「プロセス指標」「アウトカム指標」「看護治療」で構成される(図1).本研究では,「移行条件:促進因子と阻害因子」「プロセス指標」「アウトカム指標」に焦点を当て概念枠組みを作成した(図2).「移行条件:促進因子と阻害因子」を構成する「個人条件」の「意味」として「透析導入に伴う移行の見通し」を設定した.「透析導入に伴う移行の見通し」は,移行理論では「プロセス指標」を構成する「つながり感」「相互作用」から影響を受けると想定した.「つながり感」は「支援者や医療従事者とつながっている感覚」,「相互作用」は「看護師との相互作用」とした.また,「透析導入に伴う移行の見通し」は移行理論では「アウトカム指標」を構成する「熟達」「流動的で統合的なアイデンティティ」に影響を与えると想定した.「熟達」の指標として「透析に関する身体的指標」を,「流動的で統合的なアイデンティティ」の指標として「透析に関する自己効力感」を用いた.本研究では一時点の移行を捉えているため,反応パターンのプロセス指標を先行要因,アウトカム指標を結果要因とし,見通しとの間を一方向の矢印で結んだ.

図1 

移行理論の枠組み:6つの構成要素間の関係

図2 

移行理論の概念と本研究の概念枠組みの対比

Ⅲ. 研究方法

1. 尺度原案の作成

2019年7月~8月に,糖尿病性腎症を有する65歳以上の血液透析患者9名・腹膜透析患者1名,家族3名,透析看護認定看護師1名,透析室看護師3名,訪問看護師3名に,半構成的面接を行い,質的記述的に分析した.糖尿病性腎症高齢患者の透析導入に伴う移行の見通しとして,透析導入前の見聞に基づく見通し4カテゴリー,透析の経験に基づく見通し10カテゴリー,透析導入数年前からの看護師の継続的な関わりに基づく見通し4カテゴリーの18カテゴリーが生成された.18カテゴリーに基づいて,40項目の尺度原案を作成した.その際,患者が透析導入後の身体や生活の在り様を具体的に見通せる項目になるよう配慮した.当該患者の看護に精通する看護研究者1名と透析看護認定看護師1名に,尺度原案について助言を依頼し,項目の表現を修正した.

2. 予備調査

2020年3月~4月に,糖尿病性腎症から血液透析を導入した患者33名に質問紙調査を行い,31名から質問紙が回収され,本尺度に欠損値のない20名の回答を分析した.分析過程で削除された項目12「透析開始後の必要なときには身近な人が手助けをしてくれる」,13「透析をはじめることで身近な人にかかる負担は想像ほど大きいものではない」,14「透析開始後の自分と周囲の関係性はこれまでと変わらない」,21「医療者に相談すれば透析による症状は軽くなる」は,支援者や医療従事者とつながっている感覚を,34「透析開始後の生活スタイルの変化には自分なりの工夫で対処できる」,35「透析開始後の外見の変化には自分なりの工夫で対処できる」,36「透析による症状は自分なりの工夫により防止できる」は,自己効力感を測定していると考えられた.予備調査は新型コロナウイルス感染症流行開始時期と重なり,予定対象者数を満たすことができなかったため,本調査でも40項目の尺度を用いることにした.

3. 信頼性・妥当性の検証

1) 対象者

日本全国の血液透析を行っている病院1,665施設を対象とした全数調査を実施した.対象施設において通院もしくは入院により定期的に血液透析を行っている,糖尿病性腎症を原疾患として透析を導入した直後~10年前後までの,自分で自記式質問紙に回答できる65歳以上の患者を対象者とした.

2) データ収集方法

看護管理者が指名した看護師へ質問紙を郵送し,対象者の条件に該当する患者へ渡すことを説明文書で依頼した.質問紙は,同封の返信用封筒を用いて無記名個別投函してもらい回収した.データは2020年9月~11月に収集した.

3) 調査項目

透析導入に伴う移行の見通しは,開発する糖尿病性腎症高齢患者の透析導入に伴う移行見通し測定尺度で測定した.6下位尺度,40項目で構成される,「非常にそう思う:6」から「全くそう思わない:1」の6段階リッカート尺度で,得点が高いほど適切な見通しを獲得できている.透析に関する自己効力感は,2つの自己効力尺度で測定した.透析患者の食事管理の自己効力尺度(岡ら,1996)は,「食事管理の自己効力」の1下位尺度,9項目で構成される4段階リッカート尺度で,得点が高いほど自己効力感が高い.本研究におけるMcDonaldのωは.936であった.血液透析患者の水分管理の自己効力尺度(榊・小松,2012)は,「水分管理の自己効力」の1下位尺度,15項目で構成される5段階リッカート尺度で,得点が高いほど自己効力感が高い.本研究におけるMcDonaldのωは.943であった.なお,双方の自己効力尺度共に信頼性・妥当性が検証されている.看護師との相互作用は,透析開始に向けて看護師と話した頻度を6件法で尋ねる自作の1項目で測定した.支援者や医療従事者とつながっている感覚は,透析施設医療従事者の相談のしやすさを4件法で尋ねる自作の1項目で測定した.透析に関する身体的指標は,質問紙回答日から直近の収縮期血圧・拡張期血圧・血清リン・カルシウムリン積・体重増加量で測定した.対象者の属性として,年齢,性別,糖尿病・糖尿病性腎症と診断された年齢,透析期間,透析を開始した状況,現在の状況等を収集した.

4) データ分析方法

統計解析にはIBM SPSS Statistics 27及びAmos 27を用いた.各尺度の項目の約半数以上で観測値がある場合に(Hawthorne & Elliot, 2005),SPSSでは多重代入法,Amosでは完全情報最尤推定法で欠損値を代入した.項目分析について,天井効果と床効果を確認した.I-T相関はr < .2を基準とし,項目の削除は因子負荷量確認後に判断した.GP分析は各25%を基準点とし,上位群と下位群の差をt検定で確認した.構造的妥当性の検証では,データを無作為に2群に分け探索的因子分析と確証的因子分析を行った.最尤法・プロマックス回転で探索的因子分析を行い,共通性≧.3,因子負荷量≧.3かつ2因子以上にまたがらないことを採用基準とした.First-Order Factor Model,Bifactor Model,Parcel Modelで確証的因子分析を行い,適合度指標にはCFIとRMSEA,モデル比較には対数尤度比検定とAICを用いた.収束的妥当性の検証では,本尺度と,食事管理の自己効力尺度・水分管理の自己効力尺度の関連を確認した.正の相関を想定した.既知グループ妥当性の検証では,透析開始に向けて看護師と話す機会・透析施設医療従事者の相談のしやすさの有無別にそれぞれ2群に分けt検定を行い,尺度得点を比較した.有りが無しに比べ得点が高いと想定した.併存的妥当性の検証では,本尺度と,収縮期血圧・拡張期血圧・血清リン・カルシウムリン積・体重増加量間の関連を確認した.負の相関を想定した.信頼性の検証では,McDonaldのωを算出した.

5) 倫理的配慮

研究依頼書に,研究概要,説明に基づく同意,個人情報・プライバシーの保護等について明記した.調査は,日本赤十字看護大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(第2020-038).

Ⅳ. 結果

1. 対象者の概要

1,665施設中121施設より研究協力に承諾を得た.3施設は,新型コロナウイルス感染症流行状況により,研究者が研究倫理審査等で当該施設へ通うことが難しく,こちらから辞退した.最終的に118施設の患者1,289名へ質問紙を配布し,525名から回収した(回収率40.7%).年齢と糖尿病性腎症の存在を確認できない20名を除外し,505名となった.欠損値を有する113名は,尺度を構成する項目の約半数で観測値のある回答を抽出し欠損値を補完した.収束的妥当性の検証では496名を(有効回答率98.8%),それ以外の検証では502名を分析対象とした(有効回答率99.4%)(図3).対象者496名(502名)は,男性354名(360名),女性141名(141名),無回答1名(1名)であり,平均年齢74.21 ± 6.37歳(74.24 ± 6.37歳),平均透析期間77.67 ± 55.66カ月(75.15 ± 55.53カ月),計画的導入56.25%(56.18%),緊急導入42.34%(42.43%)であった.

図3 

分析対象者の選定プロセス

2. 項目の削除

34名と未回答者数が多い仕事に関する項目9は本尺度には適さないと考え削除した.予備調査同様,項目12,13,14,21,34,35,36は透析導入に伴う移行の見通しを測定していないと考え削除し,32項目となった.

3. 項目分析

項目分析の結果を表1に示す.天井効果・床効果は平均値+標準偏差>6が2項目あった.平均値-標準偏差<1はなかった.天井効果があった項目39「元気にすごすために定期的に透析を続ける必要がある」,40「透析を続けるためにシャント部/出口部をよい状態に保つ必要がある」は,透析導入に伴う移行を適切に見通すために不可欠な項目であることを重視し削除しないことにした.I-T相関はr < .2が1項目あった.I-T相関 < .2の項目15「透析をはじめると何もできなくなる」は,探索的因子分析において因子負荷量≧.3が示されたため,削除しないことにした.G-P分析は全ての項目で有意差があった.

表1  糖尿病性腎症高齢患者の透析導入に伴う移行見通し測定尺度の探索的因子分析 項目分析(n = 248
質問項目 因子負荷量 共通性 平均値 標準偏差 I-T相関 G-P分析
【Ⅰ因子:自分なりのやり方を要する】(ω = .922)
23.透析をしながら元気にすごすために自分なりの食事管理のやり方をつかむ必要がある .967 –.096 .002 –.074 .009 .056 .801 4.880 0.879 .572 <.001
24.透析をしながら元気にすごすために自分なりの体重管理のやり方をつかむ必要がある .934 –.119 –.057 –.012 .069 .003 .829 4.940 0.845 .562 <.001
22.透析をしながら元気にすごすために自分なりの水分管理のやり方をつかむ必要がある .809 .103 .012 –.085 –.055 .067 .628 4.870 0.891 .542 <.001
25.透析をしながら元気にすごすために自分なりの血圧管理のやり方をつかむ必要がある .694 –.021 .129 .043 .003 –.046 .725 4.770 0.919 .535 <.001
27.透析をしながら元気にすごすために自分なりの体調管理のやり方をつかむ必要がある .557 .069 .163 .199 –.021 –.208 .718 4.870 0.778 .569 <.001
26.透析をしながら元気にすごすために自分なりの服薬管理のやり方をつかむ必要がある .504 .205 .045 .012 .017 –.047 .690 4.770 0.911 .545 <.001
【Ⅱ因子:工夫でなんとかなる】(ω = .865)
33.透析開始後の体調管理は自分なりの工夫でなんとかなる –.148 .852 .059 –.044 .020 .114 .764 4.130 0.991 .540 <.001
31.透析開始後の血圧管理は自分なりの工夫でなんとかなる –.115 .763 .183 –.040 .024 –.063 .755 3.810 1.153 .482 <.001
32.透析開始後の服薬管理は自分なりの工夫でなんとかなる –.113 .722 .005 .047 .132 –.072 .761 4.120 1.096 .494 <.001
29.透析開始後の食事管理は自分なりの工夫でなんとかなる .256 .673 –.089 –.056 –.071 .052 .836 4.310 1.010 .487 <.001
28.透析開始後の水分管理は自分なりの工夫でなんとかなる .197 .599 –.115 .058 –.060 .012 .822 4.410 0.980 .460 <.001
30.透析開始後の体重管理は自分なりの工夫でなんとかなる .225 .575 –.123 .044 –.016 .048 .799 4.360 0.962 .472 <.001
【Ⅲ因子:身体が楽になる】(ω = .866)
 3.透析をはじめると息苦しさがなくなり楽になる .000 .080 .888 –.015 –.043 .016 .820 3.330 1.328 .471 <.001
 2.透析をはじめると動悸がなくなり楽になる .021 .005 .854 .033 –.083 –.032 .742 3.270 1.324 .423 <.001
 4.透析をはじめるとめまいがなくなり楽になる .032 .091 .792 –.105 –.085 .059 .695 2.910 1.242 .414 <.001
 1.透析をはじめるとむくみがとれて楽になる .007 –.061 .654 .089 .122 –.016 .571 4.030 1.297 .463 <.001
 5.透析をはじめると食欲が出てくる .102 –.095 .632 –.059 .097 .044 .546 3.390 1.338 .369 <.001
【Ⅳ因子:選択により負担が減る】(ω = .850)
19.ゆとりをもって透析をはじめれば生活へおよぼす影響は小さくなる .003 –.055 –.024 .935 –.117 –.057 .786 3.950 1.116 .491 <.001
18.自分の生活スタイルにあう透析を選べば生活へおよぼす影響は小さくなる –.054 –.011 –.080 .932 –.048 .074 .806 3.890 1.130 .502 <.001
17.ゆとりをもって透析をはじめれば体にかかる負担は少なくなる .030 .056 .005 .647 .119 .112 .736 4.080 1.065 .595 <.001
16.自分の体調にあう透析を選べば体にかかる負担は少なくなる –.025 .021 .051 .582 .053 .041 .634 4.010 1.085 .492 <.001
20.医療費補助の手続きをすれば自分で支払う医療費は少なくなる .072 .078 .079 .284 .181 –.142 .351 4.900 1.069 .320 <.001
【Ⅴ因子:継続的な透析を要する】(ω = .899)
38.検査データからみて自分には透析が必要である .005 –.016 .004 –.051 .979 .003 .858 4.930 1.019 .571 <.001
37.自覚症状からみて自分には透析が必要である –.106 .019 .067 .024 .898 –.057 .803 4.820 1.129 .536 <.001
39.元気ですごすために定期的に透析を続ける必要がある .195 .036 –.053 –.036 .679 .071 .801 5.140 0.870 .546 <.001
40.透析を続けるためにシャント部/出口部をよい状態に保つ必要がある .230 .077 –.122 –.004 .511 .006 .635 5.320 0.760 .476 <.001
【Ⅵ因子:自分らしく暮らせる】(ω = .728)
 6.透析は人から聞くほど辛いものではない .006 –.080 –.015 –.064 .014 .818 .737 3.400 1.364 .213 <.001
 7.透析は人から聞くほど怖いものではない .039 –.120 .071 .061 –.015 .719 .705 3.870 1.266 .307 <.001
 8.透析をしながら自分らしい生活を送れる .047 .014 .104 .085 .033 .678 .662 3.800 1.245 .504 <.001
10.透析をしながら趣味を続けられる .017 .147 –.055 .069 –.039 .575 .699 3.730 1.239 .351 <.001
15.透析をはじめると何もできなくなる(逆転項目) .138 –.196 .022 .050 .041 –.416 .717 3.140 1.262 .103 <.001
11.透析をはじめると食べられるものがふえる –.095 –.061 .234 .062 .083 .238 .385 2.970 1.222 .291 <.001
累積寄与率 27.465 38.594 47.898 54.240 60.312 64.935
尺度全体(ω = .887) 因子間相関 第Ⅰ因子 1.000
第Ⅱ因子 .470 1.000
第Ⅲ因子 .204 .144 1.000
第Ⅳ因子 .309 .368 .325 1.000
第Ⅴ因子 .487 .330 .255 .305 1.000
第Ⅵ因子 .128 .256 .251 .363 .190 1.000

因子抽出法:最尤法 回転法:Kaiserの正規化を伴うプロマックス法 ω:McDonaldのω係数 .項目分析はn = 502

4. 構造的妥当性の検証

探索的因子分析の結果を表1に示す.502名中248名のデータにより,32項目で探索的因子分析を行い,6因子32項目が抽出された.因子負荷量 < .3が2項目あった.因子負荷量 < .3の項目11「透析をはじめると食べられるものがふえる」,20「医療費補助の手続きをすれば自分で支払う医療費は少なくなる」は,透析導入に伴う移行を適切に見通すために不可欠であった.500名以下のサンプルでは因子負荷量が変動するとの指摘もあるため(Hirschfeld et al., 2014),502名のデータで探索的因子分析を行い,因子負荷量を確認した.その結果,因子構造と各因子に属する項目は248名の結果と同様であり,因子負荷量は項目11が.331,項目20が.361,2項目共に他の因子への因子負荷量 < .2であることが確認された.そのため,2項目を削除しないことにした.

第I因子は,透析をしながら元気にすごすには自分なりの自己管理のやり方を要するという見通しを表しているため,【自分なりのやり方を要する】と命名した.第II因子は,透析開始後の自己管理は工夫でなんとかなるという見通しを表しているため,【工夫でなんとかなる】と命名した.第III因子は,透析を始めると息苦しさがなくなるなど身体が楽になるという見通しを表しているため,【身体が楽になる】と命名した.第IV因子は,自分の体調や生活に合う透析を選ぶ等の選択で負担が減るという見通しを表しているため,【選択により負担が減る】と命名した.第V因子は,自分は継続的な透析を要する状態にあるという見通しを表しているため,【継続的な透析を要する】と命名した.第VI因子は,透析をしながら趣味を続けられるなど透析導入後も自分らしく暮らせるという見通しを表しているため,【自分らしく暮らせる】と命名した.

確証的因子分析の結果を図4に示す.502名中254名のデータにより確証的因子分析を行った.χ2の差は,First-Order Factor Model,Bifactor Model,Parcel Modelの順に有意に低下,AICも同様の順で低下し,Parcel Modelの適合度はCFI = .955,RMSEA = .067であった(表2).

図4 

糖尿病性腎症高齢患者の透析導入に伴う移行見通し測定尺度の確証的因子分析

Factor I.自分なりのやり方を要する:Factor II.工夫でなんとかなる:Factor III.身体が楽になる:Factor IV.選択により負担が減る:Factor V.継続的な透析を要する:Factor VI.自分らしく暮らせる

表2  糖尿病性腎症高齢患者の透析導入に伴う移行見通し測定尺度のモデル比較 n = 254
Model χ2 df Δχ2 (df) CFI RMSEA AIC
First-Order Factor Model 1181.561 449 Ref .856 .080 1403.561
Bifactor Model 917.868 418 263.693 (31)*** .902 .069 1201.868
Parcel Model 160.959 75 756.909 (343)*** .955 .067 280.959

* p < .05 ** p < .01 *** p < .001

5. 収束的妥当性の検証

本尺度と食事管理の自己効力尺度間でr = .299(p < .001),水分管理の自己効力尺度間でr = .393(p < .001)であった.本尺度の下位尺度のうち第III因子を除く5つの下位尺度と食事管理の自己効力尺度間でr = .119~.384(p < .001),水分管理の自己効力尺度間でr = .151~.421(p < .001)であった.第III因子では,双方の自己効力尺度共に有意な相関はなかった.

6. 既知グループ妥当性の検証

透析開始に向けて看護師と話す機会あり群(269人)がなし群(233人)に比べ有意に得点が高かった(t = 4.001, p < .001).下位尺度は第II因子(t = 2.997, p < .01),第III因子(t = 3.514, p < .001),第IV因子(t = 2.437, p < .05),第V因子(t = 2.124, p < .05),第VI因子(t = 2.357, p < .05)で,あり群がなし群に比べ有意に得点が高かった.第I因子で有意差はなかった.透析施設医療従事者を相談しやすいと認識群(460人)がなし群(42人)に比べ有意に得点が高かった(t = 3.130, p < .01).下位尺度は第I因子(t = 1.995, p < .05),第III因子(t = 2.633, p < .01),第VI因子(t = 3.395, p < .001)で,認識群がなし群に比べ有意に得点が高かった.第II因子,第IV因子,第V因子で有意差はなかった.各群のサンプル数の相違は検定力に影響しない(Winter & Dodou, 2010).

7. 併存的妥当性の検証

本尺度と身体的指標の間に有意な相関はなかった.下位尺度は,第II因子と血清リン間でr = –.123(p < .05),カルシウムリン積間でr = –.124(p < .01),第IV因子と拡張期血圧間でr = –.106(p < .05)であった.第III因子と収縮期血圧間ではr = .106(p < .05)であった.

8. 信頼性の検証

McDonaldのω係数は,尺度全体.887,下位尺度.728~.922であった(表1).

Ⅴ. 考察

1. 尺度の構成要素

透析に付随する自己管理は必要性や方法を知識として理解すればできるものでなく,自分なりのやり方を要する.第I因子【自分なりのやり方を要する】は,自分なりの自己管理のやり方をつかむ必要性を認識する見通しであった.自己管理を継続するには,その自己管理についてなんとかなりそうだと思えることも必要である.第II因子【工夫でなんとかなる】は,自己管理を適度に楽観する見通しであった.患者が透析導入に踏み切るには,周囲から寄せられた透析の危険なイメージを払拭する必要がある(金子,2020).第III因子【身体が楽になる】は,透析に対する危険なイメージを払拭する見通しであった.わが国の透析医療は,患者による治療法選択が可能という特徴がある.穏やかな透析療法である腹膜透析は高齢者に適する点が多い(伊藤ら,2014).患者のQOLを向上させるには,患者が侵襲の少ない腹膜透析の存在やその選択が可能であることを把握している必要がある.第IV因子【選択により負担が減る】は,わが国の透析医療システムを効果的に活用するための見通しであった.患者は,長期に及ぶ糖尿病患者としての療養経験の中で定着した血糖値がよければ問題ないなどの考え方により,腎機能の悪化や透析の必要性を認識することが非常に難しい(金子,2020).第V因子【継続的な透析を要する】は,糖尿病患者としての療養経験の中で定着した固定観念を刷新する見通しであった.患者が透析導入に踏み切るには,周囲から寄せられた透析をすると何もできなくなるなどの抑圧的なイメージも払拭する必要がある.第VI因子【自分らしく暮らせる】は,透析に対する抑圧的なイメージを払拭する見通しであった.

2. 尺度の信頼性と妥当性

1) 構造的妥当性

6因子32項目はParcel Modelで十分な適合度を示した.一方,Parcel Modelは項目の潜在因子への特異性を隠す短所もある(Matsunaga, 2008).項目の潜在因子への特異性を隠さないFirst-Order Factor ModelはCFI = .856,RMSEA = .080,Bifactor ModelはCFI = .902,RMSEA = .069で十分な適合度とはいえなかった.しかし,多因子評価尺度に適合度基準を適用するのは厳しすぎであり,CFI > .9,RMSEA ≦ .05を得るのは非常に難しいという指摘もある(Marsh et al., 2004).そのため,適合度は3種類のモデル共に許容範囲であると捉えられ,本尺度が6因子構造であることを支持すると考える.

2) 収束的妥当性

本尺度と食事管理・水分管理の自己効力尺度間,第III因子以外の下位尺度と双方の自己効力尺度間で有意な正の相関があった.第III因子【身体が楽になる】は,透析導入前に適切に見通せていない場合,導入後の比較的早い段階で実感される身体の変化の意味づけで構成され,他の因子に比べ,透析経験や思考錯誤の積み重ねを要しない.一方,食事管理と水分管理の自己効力感は,透析経験や試行錯誤の積み重ねで向上する.本研究では,透析導入前に適切に見通せていない可能性の高い緊急導入の患者が,対象者の4割を占めた.そのため,第III因子と2つの自己効力尺度間で有意な正の相関がみられなかったと考える.

3) 既知グループ妥当性

下位尺度の結果は,透析開始に向けて看護師と話す機会が,ネガティブなイメージを払拭する【身体が楽になる】【自分らしく暮らせる】,固定観念を刷新する【継続的な透析を要する】,今後を適度に楽観する【工夫でなんとかなる】,透析医療システムを効果的に活用する【選択により負担が減る】の,自分に合う腎代替療法を計画的に導入するために必要な見通しをもたらすことを示していると考える.そして,透析施設医療従事者の相談のしやすさが,はじめた透析を継続するために第一に必要な【身体が楽になる】【自分らしく暮らせる】【自分なりのやり方を要する】を深めることを示していると考える.

4) 併存的妥当性

本尺度と血圧間に有意な負の相関はなかった.高齢透析患者の透析前血圧値は生命予後に影響するため降圧目標を慎重に決める必要がある(平和,2019).糖尿病透析患者は非糖尿病患者に比べ血圧パターンが不安定であり(中井ら,2003),高齢患者ではさらに注意を要する.以上から,本研究結果は,患者が血圧を維持していることを示しているとも考えられる.本尺度と血清リン・カルシウムリン積・体重増加量間にも有意な負の相関はなかった.高齢透析患者では低栄養により動脈硬化を合併しやすい(神田,2019).蛋白質摂取量の近似値nPCRは年齢と共に低下し高齢患者で最も低く,糖尿病透析患者が非糖尿病患者に比べ低い(政金ら,2017).つまり,糖尿病性腎症高齢患者では,蛋白質摂取量と密接な正の相関がある血清リン(中川・駒場,2019),カルシウムリン積,体重増加量を維持/増加させる必要がある.以上から,本研究結果は,患者が蛋白質摂取量を維持していることを示しているとも考えられる.

5) 信頼性

本尺度の信頼性係数は尺度全体で.887,下位尺度で.728~.922であり,十分な内的一貫性を示していると考える.

3. 尺度の活用可能性

透析導入後の身体や生活の在り様を肯定的に見通せたら,機を逸せず計画的に自分に合った透析を導入できる.看護師は外来や腎臓病教室で患者と関わる際,本尺度を用いて見通しの獲得状況を把握できる.適切に見通せていない場合,看護師はその項目について,患者の経験や考えを引き出し導く・知識や経験に基づき具体的に説明することで見通しの獲得を支援できる.透析導入後も,看護師は外来や透析室で本尺度を活用できるが,患者の心身のダメージを最小限にするために,透析導入前に適切に見通せるよう注力する必要がある.本尺度は高齢者のための尺度であるが,内容的に成人にも活用できる可能性がある.今後,高齢者に加え成人における活用可能性についても検証する必要がある.

Ⅵ. 研究の限界と今後の課題

本研究では再検査信頼性を検証していない.今後,再テスト法を行い,十分な信頼性を確保する必要がある.本研究では倫理的課題から透析導入前の患者を対象としていない.今後,本研究結果に基づいて,糖尿病性腎症高齢患者の透析導入に伴う移行を促進する看護介入を開発し,透析導入前の患者を対象とした介入研究を行う中で本尺度を用いて検証する必要がある.

Ⅶ. 結論

糖尿病性腎症高齢患者の透析導入に伴う移行見通し測定尺度は,【自分なりのやり方を要する】【工夫でなんとかなる】【身体が楽になる】【選択により負担が減る】【継続的な透析を要する】【自分らしく暮らせる】の6下位尺度32項目で構成された.本尺度の信頼性と妥当性は,統計学的に概ね許容範囲であることが確認された.

付記:本研究は日本赤十字看護大学大学院に提出した博士論文に加筆・修正を加えたものである.

謝辞:本研究にご快諾頂きました,対象施設の看護管理者の皆様,調査にご協力いただきました患者,看護師の皆様に心より御礼申し上げます.本研究にご指導いただきました日本赤十字看護大学の安部陽子先生に心より御礼申し上げます.本研究はJSPS科研費基盤研究C(19K10712)の助成を受けたものである.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

文献
 
© 2022 公益社団法人日本看護科学学会
feedback
Top