2022 年 42 巻 p. 468-475
目的:日本における認知症高齢者のアドバンス・ケア・プランニングの概念を概念分析により明らかにすることである.
方法:42文献を分析対象としRodgersの概念分析の手法を用い分析した.
結果:分析の結果,【本人・多職種・関係者全員がチームを組み関係構築】,【代理意思決定者の選定】,【倫理的に適切な事前指示書の共有】,【人生の最終段階に向けた家族の準備】,【早期から最期まで継続した本人中心の意思決定】,【望む生き方の最善を考える取り組み】の6属性と,4先行要件,3帰結が抽出された.
結論:本概念は,「認知症の変化,進行,不安に伴い,将来の意思決定に向けて環境を整備し,認知症早期から本人と関係者全員が関係構築しながら,事前指示書の共有,代理意思決定者の選定,人生の最終段階に向け家族も準備し,最期まで継続した本人中心の意思決定と望む生き方の最善を考える取り組みのプロセス」と定義した.
Objective: The purpose is to clarify the concept of advanced care planning for older adults with dementia in Japan by concept analysis.
Method: Forty-two documents were analyzed using the method of concept analysis by Rodgers.
Result: The 6 attributes are “Person, multi-professional, all related parties form a team to build a relationship”, “Selection of proxy decision makers”, “Share ethically appropriate advance directives”, “Final of life family preparation for the stage”, “Person-centered decision-making that continued from early to final”, “Efforts to think about the best way of life desired”. In addition, 4 prerequisites and 3 consequences were extracted.
Conclusion: This concept is defined as follows: “With changes, progression, and anxiety of dementia, we will prepare an environment for future decision-making, and from the early stage of dementia, while building relationships between the person and all concerned, sharing advance directives, proxy decision-makers selection, family preparation for the final stages of life, a process of personal-centered decision-making that continues to the end and efforts to think about the best way of life.”
認知症は,進行性疾患であり認知機能が徐々に低下し,診断後比較的早い段階から自分の意思でケアを決定することが困難になり,希望通りのケアが受けられなくなる可能性が高まる(粟田,2016)ことから,認知症本人の意思決定を確認することは疾患の進行とともに困難となっていく特性がある.がんの場合は,診断告知が遅れ進行してからでも多くは,インフォーム・ド・コンセントが可能であり(内門,2019),疾患の進行とともに,本人の意思決定を支援してくことができる.これらのことより,疾患の特性によりエンド・オブ・ライフにおける意思決定支援のアプローチには違いがあることが考えられるが,現在のところ,認知症の人のアドバンス・ケア・プランニング(以下,ACP)をふまえた看護実践について,明確な特徴は示されていない.
厚生労働省(2018b)は,認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定ガイドラインにおいて,認知症本人の意思決定を支援するためには,認知症の進行度を見極め,取り組みのタイミングを逃がさず支援チームによる話し合いが必要であり,ACPが重要であるとしている.ACPについて長江(2018)は,エンド・オブ・ライフケアの中心概念にACPがあるとし,その定義は「将来の意思決定能力の低下に備えて,今後の治療・ケア・療養に関する意向,代理意思決定者などについて,価値観や選好を共有すべく,患者・家族,そして医療者があらかじめ話し合うプロセス」としており,厚生労働省(2018a)は,人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドラインを提示し,ACPの愛称を「人生会議」と謳い,国内での啓蒙活動を行っている.
認知症の終末期医療については,欧米豪において,医療者と家族は,リビング・ウイルや事前指示書等で示された本人の意思を尊重し,我が国は,延命至上主義の人が多いことに加え,本人よりも家族の意向が尊重される.そのため,本人が望まない延命医療が行われる(宮本,2019).また海外のACPは「個人」が中心であるが,日本は「個人」ではなく「家族」が望むようにという場合も多々あり,家族を中心とした関わりが重要であると考えられ(大濱・福井,2019),各国の文化的背景からACPの概念に違いがあると推測できる.また,高齢者と若年者では,人生の長さ,就労の有無,家族構成,社会的立場の違いから,年齢により概念に違いがあると考えられる.特に,超高齢社会における高齢者への支援は急務であると考え着目した.そこで本研究は,日本における認知症高齢者のACPの概念を概念分析により明らかにすることを目的とした.
本研究は,Rodgers(2000)の概念分析の手法を用いた.Rodgers(2000)の概念分析は,革新的視点に基づいた哲学的基盤を持ち,概念はたえず変化する対象として発展するもので,看護において関心のある概念に関連する知識を開発するプロセスの重要なステップであるとしている.ACPは,時代の流れや社会的背景,医療の変化や発展,現在の取り組みにより変化するものと捉え,Rodgersの概念分析の手法が適切であると考えた.
2. データ収集方法認知症高齢者のACPの概念は日本の文化的背景の影響を受けると考えられることから,本研究では日本における認知症高齢者に関する研究を対象とし,著者が文献検索した後に,共著者から絞り込み抽出の助言を受けた.データベースは,医学中央雑誌Web版,PubMed,CINAHLを使用した.検索式は,国内文献は「アドバンスケア計画/TH orアドバンスケアプランニング/AL or ACP/AL or人生会議/AL」AND「認知症/TH or認知症/AL or認知症高齢者/AL」,海外文献は「advance care planning [MeSH Terms] OR advance [All Fields] AND care [All Fields] AND planning [All Fields] OR advance care planning [All Fields]」AND「Dementia [All Fields] Elderly people with dementia [All Fields]」とし,検索年,論文の種類の指定は行わずに検索を行った.検索後の分析対象とする文献を抽出する際の包含基準は,前述の長江(2018)のACPの定義を本研究の基準とし,ACP,人生会議,意思決定支援,エンド・オブ・ライフのいずれかの用語が文献内に使用されていること,ACPの原著論文は限られているため(角田,2015;大濱・福井,2019),会議録以外の文献は対象とした.また除外基準は,重複文献,外国人または国外在住の日本人対象の文献,若年性認知症を対象として限定した文献とした.さらに,より多くの文献収集のために,引用,参考文献とACPについて触れている文献より著者がハンドサーチにより入手した文献15件と,認知症のACPについて記述があり,出版年度が新しい2018,2021年出版の書籍2件を加えた.
3. データ分析方法Rodgers(2000)の概念分析の手法を用い,各文献を精読しコーディングシートを作成し,認知症高齢者へのACPの概念を構成する属性,それに先立ち生じる先行要件,概念に後続して生じた帰結に関して記述されている内容を抽出した.抽出内容を要約し意味を損ねないようコード化し,類似性に基づき分類し,カテゴリー化した.また,老年看護分野の研究者によるスーパーバイズを受け,検討を重ね分析結果の妥当性確保に努めた.
文献検索の結果,医学中央雑誌Web版347件,PubMedとCINAHLを合わせた344件,計691件抽出した文献と,著者が入手した15文献を合わせた中から,タイトルもしくは抄録から除外基準に則り99文献を抽出した.抄録がなくタイトルだけでは判断できなかった文献は,本文を取り寄せて,包含・除外基準から内容を確認し,99文献リストから共著者から助言を受け,内容が合致する40文献を精選し,書籍2件を加えた最終42文献を分析対象とした.文献種別の内訳は,原著論文4件,総説1件,特集27件,研究報告4件,資料2件,講演2件,書籍2件であった.英文献は,和文献と重複していたため除外した.
2. 分析の結果分析の結果,図1に示すように,6つの属性,4つの先行要件,3つの帰結が抽出された.カテゴリーは【 】,サブカテゴリーは〈 〉で表す.
認知症高齢者のアドバンス・ケア・プランニングの概念図
【本人・多職種・関係者全員がチームを組み関係構築】は,〈成年後見人を含めた多職種での意思決定支援のプロセスを踏む〉,〈専門職・関係者が多職種チームでかかわる〉ことで,〈専門職がチームでかかわり本人・家族との関係構築〉,〈本人の意思を繰り返し話し合い家族・関係者全員が合意形成を図る〉ことから構成され,他のすべてのカテゴリーに関係する要素となっていた.【代理意思決定者の選定】は,〈認知症の早期に代理決定者の選定〉が構成されていた.【倫理的に適切な事前指示書の共有】は,〈価値観・自己決定の権利を尊重する事前指示書を共有〉,〈認知症の早期から本人・家族・関係者で事前指示書を作成〉,〈本人の意思・最善の利益を倫理的に適切な代理判断〉から構成されていた.【人生の最終段階に向けた家族の準備】は,〈代理意思決定家族・家族の将来に向けた心づもり〉,〈代理意思決定家族・他家族の関係の調整と支援〉,〈家族の代弁・代理意思決定を担う取り組み〉から構成され,【早期から最期まで継続した本人中心の意思決定】は,〈家族や関係者間で本人の価値観・意思決定を共有〉,〈認知機能障害に沿って配慮したコミュニケーション〉,〈認知症ケアパスをツールとして活用し本人・家族と共に将来を計画〉,〈認知症早期から意思決定を促す取り組み〉から構成されており,両カテゴリーは相互に関係し,本人と家族が共に意思決定を進めていくことが抽出された.【望む生き方の最善を考える取り組み】は,〈認知症が進行する中で日々快適に過ごすための緩和ケアを考える〉,〈認知症高齢者の望む生き方における最善を考える支援〉から構成されていた.
カテゴリー | サブカテゴリー | コード | 文献 |
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本人・多職種・関係者全員がチームを組み関係構築 | 成年後見人を含めた多職種での意思決定支援のプロセスを踏む | 成年後見人等,意思決定支援チームの一員として支援 | 渕野,2019 |
成年後見人に意思決定支援のプロセスに参加してもらう | 成本,2020 | ||
専門職・関係者が多職種チームでかかわる | 患者にかかわる多職種関係者での話し合い | 粟田,2016;稲野,2019;犬尾,2020;内門,2020;成本,2020;曽根ら,2011 | |
各機関の多職種がACPの過程を情報共有し継続支援 | 角田,2021;宮本,2020 | ||
多職種アプローチが認知症高齢者の意思を支えるうえで不可欠 | 曽根ら,2011;髙梨,2020;田中a,2020 | ||
本人の意思を繰り返し話し合い家族・関係者全員が合意形成を図る | 本人・家族・保健医療福祉専門職の間で,本人の生活史,価値観,好み,希望を共有する | 粟田,2016;角田,2015 | |
繰り返し話し合う機会をもち合意形成を図る | 五十嵐,2020;西村,2008;髙梨,2020;髙梨,2015 | ||
話し合いのプロセスから関係構築されていく | 山口,2017 | ||
専門職がチームでかかわり本人・家族との関係構築 | 不安な気持ちやとまどいを受け止め,これからのことを一緒に考える姿勢を示す | 石川,2019;鶴若ら,2020;鶴若ら,2016 | |
認知症本人が意思決定できる段階に,終末期を見据えて,全員で話し合いを進めていく | 加藤ら,2015;内門,2019;髙梨,2015 | ||
診断後の家族のショックや思いを受容し関係性を構築していく | 長江,2018 | ||
代理意思決定者の選定 | 認知症の早期に代理決定者の選定 | 代理決定者を選ぶことだけでも早めにする | 箕岡,2012;田中a,2020 |
本人に代わって意思決定を行う信用できる人を選定する | 内門,2020 | ||
認知症は進行すると意思決定が不可能となるため,代理意思決定が重要 | 内門,2019 | ||
倫理的に適切な事前指示書の共有 | 価値観・自己決定の権利を尊重する事前指示書を共有 | 本人の意向の確認や事前指示の作成はACPの考え方に沿った意思決定支援を見直す | 粟田,2016;舟槻,2017;五十嵐,2020;加藤ら,2015;西川ら,2014 |
本人の意向を記録し関係者で対話を重ね事前指示として実践 | 箕岡,2021;箕岡,2011;髙梨,2020;谷本ら,2018 | ||
認知症の早期から本人・家族・関係者で事前指示書を作成 | 認知症診断前や診断後早期段階におけるACPの導入 | 舟槻,2017;高田,2021 | |
事前指示作成プロセスそのものが全員のコミュニケーションを促進し信頼関係を高める | 箕岡,2021 | ||
本人の意思・最善の利益を倫理的に適切な代理判断 | 本人の意思の推定も難しい場合は本人にとっての最善の利益を多職種で検討 | 濱吉,2020,箕岡,2021 | |
本人の意志および選好を考え続け推定する | 井藤,2016;濱吉,2020 | ||
患者の人生を振り返り推定される意思を最善の利益判断を中心に合意形成する | 木下ら,2016;箕岡,2011 | ||
早期から最期まで継続した本人中心の意思決定 | 家族や関係者間で本人の価値観・意思決定を共有 | 治療方針の決定は,関係者間の情報格差を少なくするよう意思決定共有を行う | 加藤ら,2015;髙梨,2020;髙田,2021 |
明確な意思でなくても価値観や原則のようなものを家族間で話し合うきっかけをつくる | 山口,2017 | ||
認知機能障害に沿って配慮したコミュニケーション | 日常の意思をキャッチし本人が理解しやすい環境を整え必要に応じた説明や思いの確認 | 片山,2020 | |
認知機能をアセスメントし認知機能に即した説明を行う | 粟田,2016;髙梨,2020 | ||
意思決定が難しい場合はその人自身を理解するという原点から始める | 角田,2021 | ||
認知症者のコミュニケーション能力に応じ,根気よくコミュニケーションを図る | 長江,2018 | ||
認知症ケアパスをツールとして活用し本人・家族と共に将来を計画 | ケアパスを活用し認知症のステージの進行とそれに応じたサービスの利用を共に話し合い | 粟田,2016 | |
本人の現在の意思が確認できない状況で意思を推定しACPを実施できるパス改良 | 戸谷ら,2019 | ||
認知症早期から最期まで本人中心・強みを活かす意思決定支援 | 必要な情報を理解力に合わせて繰り返し説明し手自分で決定できるよう支援を継続 | 粟田,2016;五十嵐,2020;犬尾,2020;角田,2021;西村,2008;長江,2018 | |
認知症だから意思決定支援もいらないではなく,本人の思いがあることを理解し尊重する | 井藤,2016;長尾,2015;成本,2020;宮本,2020;田中b,2020;髙梨,2020 | ||
認知症の長い経過をどのように過ごしていきたいか,今をどう生きるのかをともに考え支援 | 石川,2019;箕岡,2012;内門,2019;西川ら,2014 | ||
早期の段階から本人への終末期に対する意思確認の方法を検討していく | 福地,2020;木村,2016 | ||
サポートによって本人のもつ強みを生かし本人を中心とした意思決定を支援 | 片山,2020;木下ら,2016;内門,2020 | ||
できる限り意思表明しやすい早期にACPを行う | 箕岡,2021;田中a,2020 | ||
認知症早期からライフストーリー・価値観を共有し理解 | 軽度の時期により早くライフストーリーを残す | 片山,2020;田中a,2020; | |
それが困難であっても,価値観・人生観・大切なものなどの共有が意思決定プロセスに有用 | 粟田,2016;五十嵐,2020;箕岡,2021;田中b,2020; | ||
認知症の場合は元気なうちから知っておけば,進行したあとの援助においても寄り添う気持ちをもてる | 石川,2019;犬尾,2020;長江,2018;内門,2019 | ||
できるだけ早期に患者の意向や意思・価値観や大切にしているものなど,どんな情報であってもくみ取る | 角田,2021;角田,2015 | ||
認知症早期から意思決定を促す取り組み | 本人が意思決定可能な早期からACP等の取組みを行うことが望ましい | 赤津ら,2018;五十嵐,2020,田中b,2020;山口,2018 | |
認知症では診断後支援の段階でACPの実践に取り組む | 粟田,2016 | ||
認知症は生命や身体にかかわるような重要な決定をする能力が保たれている早期の段階で実施する | 角田,2021;内門,2020;小川,2019 | ||
人生の最終段階に向けた家族の準備 | 代理意思決定家族・家族の将来に向けた心づもり | 家族の心の変化に寄り添い,グリーフケアも視野に入れて精神的負担の軽減をサポートする | 角田,2021 |
医療者は,家族の悲嘆を推し量ろできるだけ後悔の念を残すことなく,死を受け入れる準備教育 | 長江,2018 | ||
家族内の役割や,家族の心配事や要望,希望,恐れはなにかを把握する | 田中a,2020 | ||
代理意思決定家族・他家族関係の調整と支援 | 代理決定者・家族のキーパーソンと心構えを一緒に持つ | 髙梨,2020;田中b,2020 | |
代理意思決定を行う家族への支援は確認事項として家族間の関係性の把握 | 田中a,2020 | ||
家族の代弁・代理意思決定を担う取り組み | 診断時から家族や代理意思決定者となり得る人へのACP支援を開始できるようにサポートする | 角田,2021;長江,2018 | |
症状の進行にしたがって本人の意思表示が困難になるため家族など代理意思決定者が必要 | 木下ら,2016;箕岡,2012;宮本,2020;曽根ら,2011;髙梨,2015 | ||
認知症の人への意思決定については,代理意思決定者として家族が担う場合が多い | 田中b,2020;戸谷ら,2019; | ||
認知症,本人に意思決定能力がない場合は家族等による代理判断が行われる | 箕岡,2021;田中a,2020;髙梨,2020; | ||
望む生き方の最善を考える取り組み | 認知症が進行する中で日々快適に過ごすための緩和ケアを考える | 認知症終末期において平穏に過ごし最期をその人らしくよりよく生きるために寄り添う | 箕岡,2012 |
認知症終末期患者の緩和ケアは,がん患者と異なり余命も長いため,生きること意識する | 箕岡,2011 | ||
医療者は認知症者の苦痛に対し緩和・快適に過ごせるようにケアする | 箕岡,2011;長江,2018 | ||
認知症高齢者の望む生き方における最善を考える支援 | 患者にとっての最善を見いだす | 田中a,2020;髙梨,2020;髙田,2021 | |
患者・家族と医療者間での認識のギャップを防ぐために必須となるのが十分なACPである | 粟田,2016;山口,2018;家根ら,2020 | ||
認知症の末期では家族が治療方針を問われるため,本人の目標に沿った医療を知る | 舟槻,2017 | ||
認知症の長い経過をどのように過ごし今をどう生きるのか,最善とはなにかをともに考え支援 | 石川,2019;角田,2021;木下ら,2016;小川,2019;鶴若ら,2020;鶴若ら,2016 | ||
認知症高齢者の医療的処置について家族と十分に生命倫理・本人の最善を話し合う | 宮本,2020 |
先行要件は,【本人・関係者・多職職のACPの理解】が基盤にあり,【認知症の変化と進行】【今後の人生についての不安】が出現した際に【将来の意思決定に取り組める環境を整備】がされている4カテゴリーが概念に先立って生じる出来事であると抽出された.
帰結は,概念に後続し【専門職の支援・ケアの推進】されることで,認知症の進行とともに【人生の最終段階における家族の準備状態】が整い,それが【最期までQOLの維持・向上】につながる3カテゴリーが抽出された.
5. 概念の定義本研究で概念分析を行った結果より認知症高齢者のACPは,「認知症の変化・進行,不安に伴い,将来の意思決定に向けて環境を整備し,認知症早期から本人と関係者全員が関係構築しながら,事前指示書の共有・代理意思決定者の選定・人生の最終段階に向け家族も準備し,最期まで継続した本人中心の意思決定と望む生き方の最善を考える取り組みのプロセス」と定義した.
本研究の概念の中心である属性から本概念の特性を考察する.
まずACPを進めていくためには【本人・多職種・関係者全員がチームを組み関係構築】することが必要であり,関係者全員が繰り返し話し合いながら合意形成を図り信頼関係が深まっていくことがプロセスの始まりである.粟田(2016)は,本人が病気についてよく理解し,社会のなかで孤立することなく,将来のケアの意思決定に関与できるように,よく配慮された支援を行うことは重要であると述べているように,長い経過の中で関係者がチームを組み関係を構築し続けることは不可欠である.そして,認知症の早期から【代理意思決定者の選定】を行い,関係者全員で本人の意思・最善の【倫理的に適切な事前指示書の共有】を行うことが必要である.また,認知症の進行に伴い【人生の最終段階に向けた家族の準備】を行い,代弁者となる家族と共に,認知症の本人と話し合い,ツールを活用しながら将来を計画(粟田,2016)し,【早期から最期まで継続した本人中心の意思決定】を支える体制や環境も重要である.そして,本人の意思決定能力が低下しても日々快適に過ごせるよう緩和ケアを行っていくことが,【望む生き方の最善を考える取り組み】の推進につながると言えよう.前述の長江(2018)のACPの定義や厚生労働省(2018b)のガイドラインと,本研究の属性は,共通する部分が多く概念の主要な内容として妥当であると考える.
また,認知症の疾患の特性から他領域のACPとの違いがあると考える.認知症と同様に,高齢者が罹患することが多く,経過が不明瞭でACPのタイミングの見定めが難しい心不全において,山本・吉岡(2020)の属性である【段階的で継続的な取り組み】,【患者の意思をつむいでいくこと】は,進行する疾患に対して継続的な意思決定支援を行う必要があるという点で共通すると考える.一方で,心不全のACPも代理意思決定者について検討していくとあるが,本研究属性の【代理意思決定者の選定】,【倫理的に適切な事前指示書の共有】,【人生の最終段階に向けた家族の準備】は,心不全のACPにはない.角田(2021)は,認知症の進行とともに患者や周囲の状況は多様に変化していくため,意向を読み取れない場合もあり,やがて代理意思決定者が必要となると述べていることからも,本人の認知機能低下に伴い,自身で意思決定ができなくなる時を見通し,早期より家族や周囲が代理意思決定できるように準備することが必要であることは,認知症の人のACPの特性であると考える.
2. 研究の限界と課題本研究の限界として,現在もACPに関する研究は進んでおり,分析対象文献の範囲に限界があった.データ収集時に認知症の人はほとんどが高齢者であるため,若年性認知症限定の文献は除外したが,高齢者限定の文献を選定することができなかったこともあり,本研究の結果からは高齢者と若年者の世代特性の違いをはっきりと反映できなかった.また,和文献に基づいて抽出された概念であり,日本と海外の文化的背景の特性を十分にとらえきれてなかったと考える.したがって,他のデータベースを含めること,他文化圏の文献と比較検討すること,日本の文化的背景の特性や高齢者をふまえた概念を精錬させ,看護実践の活用可能性の検証が課題である.
謝辞:本研究に関して,ご協力いただきましたすべての皆様に感謝申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:YKは本研究を着想し,デザイン,文献の収集,分析,結果,考察,論文作成のすべてのプロセスを担当した.AT,YIは研究プロセス,結果,考察に助言し,論文に加筆・修正に関与し,すべての著者が最終原稿を確認し承認した.