日本看護科学会誌
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原著
日本のCOVID-19禍における周産期うつの実態とその関連要因
堀口 範奈中澤 港松島 みどり
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2022 年 42 巻 p. 509-517

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Abstract

目的:周産期うつの実態,関連する要因について,COVID-19流行禍の社会的影響を踏まえ検討する.

方法:2020年10月オンライン自記式質問紙調査を行い妊婦739名,産後1年未満の母親1,603名から回答を得た.

結果:周産期うつ高リスク者は,妊娠期108名(14.6%),産後1年未満351名(21.9%)であった.COVID-19禍の経験として,『子供を公共の場に連れていくことに対する批判の経験』は18.1%,『収入減少』は38.0%,『COVID-19罹患への恐怖』は77.2%であった.ロジスティック回帰分析の結果,周産期うつ高リスクと関連がみられた項目は,精神疾患既往,最終学歴,母児の健康問題,COVID-19の社会的影響であり,時期や分娩歴により異なった.

結論:COVID-19禍において妊婦や母親の周産期うつが増加しており,COVID-19の社会的影響を考慮したケアの必要性が示唆された.

Translated Abstract

Objective: This study aimed to investigate the actual situation of perinatal depression and related factors considering the social impact of COVID-19.

Method: This was a cross-sectional study using an online self-administered questionnaire in October 2020, and responses were obtained from 739 pregnant women and 1,603 mothers less than a year postpartum.

Results: Regarding the experience of crises related to the Coronavirus disease 2019 (COVID-19) pandemic, “experiencing criticism for taking the child to public places” was found to be 18.1%, “reduced income” was 38.0%, and “fear of COVID-19 illness” was 77.2%. The logistic regression analysis showed that factors associated with the high risk of perinatal depression were ‘history of mental disorders’, ‘academic background’, ‘maternal and infant health condition’ and ‘social impact of COVID-19, varied depending on timing and delivery history.

Conclusion: Depression among pregnant women and mothers increased in the COVID-19 pandemic, and it suggested the need for care considering the social impact of COVID-19.

Ⅰ. 緒言

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックに伴い,世界中で感染封じ込めのための都市封鎖,渡航制限等個人の行動を強制的に制限するような厳しい政策が取られてきた.日本においては,2020年4月に初めて緊急事態宣言が発出され,『密閉』『密集』『密接』という『3密回避』に努めるための対策としてマスクの着用,テレワークの推進,不要不急の外出制限,大規模イベントの自粛や飲食店の営業自粛などが実施されてきた.しかし,基本的にこれらの政策は個人の自主性に任されており,諸外国のような罰則を伴うものではなかった.Etzioniは日本の政策について,パブリックシェーミング,つまり公共の場で恥をさらすことやピアプレッシャーを利用することによって成功したと指摘している(Etzioni, 2021).しかし,『恥』は抑うつと有意な関連があることが先行研究によって指摘されており(Dunford & Granger, 2017),抑うつを含めた精神的健康への影響が懸念される.

また,周産期医療の現場においても,感染機会を減少させるために,妊婦健診の回数減少,両親学級などの中止,オンライン妊婦健診や学級の実施,入院中の面会禁止,立ち合い分娩の中止等の対策が取られてきた.さらには,保育・教育機関の休止などの公的なサポートの減少や,移動の自粛により里帰り出産の断念のように私的なサポートの減少といったサポートを享受できない状況にあった.このような中で,心理的サポートが不十分である可能性や周産期うつに対する悪影響が報告されている(Matsushima & Horiguchi, 2020向井ら,2021Obata et al., 2021).妊産婦のメンタルヘルスは虐待死や女性の自殺の引き金となり,さらには児の心身の健康にも影響するといった報告があり,女性自身だけでなく児の健康にも大きく影響する重大な問題である(公益社団法人日本産婦人科医会,2017).

そのため,本研究では周産期うつの実態とうつを認識した時の対応について明らかにするとともに,COVID-19禍の妊婦及び産後1年未満の女性の体験と精神的健康の関連について検討する.これによって,パブリックシェーミングに象徴されるような日本文化の中での,日本人女性の周産期メンタルヘルスを明らかにし,支援の在り方について示唆が得られる.

Ⅱ. 研究目的

本研究の目的は,周産期うつの実態,関連する要因について,COVID-19禍という社会的な背景を踏まえ検討する.

Ⅲ. 研究方法

1. 研究デザイン

オンライン自記式質問紙調査による横断研究である.

2. 研究参加者及びデータ収集方法

研究対象者は,株式会社カラダノート及び株式会社ベビーカレンダーが実施しているメーリングサービスの利用登録をした妊娠5週目以降の妊婦及び出産後1年未満の母親である.調査実施前にシステム登録ユーザー707,817名にアンケートのURLを含めた調査依頼をメールで送付した.調査実施期間は2020年10月8日から12日の5日間とし,3,566件の回答を得た.全回答から,研究対象者に合致しないもの,重複回答及び欠損値を含むものを除外し,2,304件(妊婦701件,産後1年未満の母親1,603件)を分析対象とした.

3. 調査項目

1) 回答者の特性

回答者の特性を把握するため,年齢,住居(市町村),婚姻状況,最終学歴,就労状況(本人/パートナー),世帯所得,既往歴(精神疾患・内科疾患),喫煙状況,初経産,流産/死産の既往,直近の周産期に関連する情報(望まない妊娠・多胎・妊娠期/産褥期/早期新生児期の健康問題・分娩方法)について調査した.妊娠期/産褥期/早期新生児期の健康問題は,それぞれ,妊娠高血圧症候群/妊娠糖尿病/入院治療を要する妊娠期の健康問題,乳房のトラブル/入院期間延長を要する産褥期の健康問題,入院治療を要する新生児期の健康問題の有無について尋ねた.各項目一つでも有りと回答した場合には,妊娠期/産褥期/早期新生児期の健康問題を有りとして分析に用いた.

2) 周産期うつ関連について

COVID-19禍の周産期うつについて検討するために下記項目を調査した.

(1) 日本版エジンバラ産後うつ病自己評価票(EPDS)

1987年Coxらによって産後うつ病のスクリーニングを目的として身体症状によって影響を受けないEdinburgh Postnatal Depression Scale(EPDS)が開発された(Cox et al., 1987).日本版エジンバラ産後うつ病自己評価票(EPDS)は,岡野らによって原版を基に作成され,信頼性と妥当性が検証されている.現在医療機関において広く使用されており,カットオフ値として妊娠期13点,産褥期9点が推奨されている(岡野,1996Usuda et al., 2017).

(2) 抑うつの自覚の有無

抑うつの自覚について「はい」/「いいえ」の二件法で尋ねた.

(3) 抑うつにある時の対応

抑うつの自覚があるときの対応について,以下の項目について「はい」/「いいえ」の二件法で尋ねた(複数回答):①夫/パートナーに相談②家族/友人に相談③市町村が提供する子育て支援のための施設で相談④市町村が提供する子育て支援のためのオンライン/電話相談⑤医療機関を受診⑥医療機関のオンライン診療を受診⑦民間セクターが提供する子育て関連Webサイト等で相談⑧自分自身で解決⑨その他(自由記載).分析においては,③⑤を専門家(対面)へ相談,④⑥⑦を専門家(オンライン)へ相談として使用した.

3) 新型コロナウイルス感染症関連について

新型コロナウイルス流行時における,回答者の経験を把握し,周産期うつとの関連を検討するため下記項目について調査した.(1)および(2)については「はい」/「いいえ」の二件法,COVID-19罹患に関する恐怖については①以前も今も感じていない②以前は感じていたが今は感じていない③以前は感じなかったが今は感じている④常に感じているで尋ねた.分析は,①②を不安あり,③④を不安なしとして使用した.

(1)家計の収入減少の経験

(2)子どもを公共施設(電車移動等を含む)などへ連れていくことに対する批判(批判されているように感じる他者の振る舞い)の経験

(3)新型コロナウイルス感染症罹患に対する恐怖経験

4. 用語の操作的定義

1) 抑うつ

「気分が落ち込んで何もする気になれない」,「憂鬱な気分」などの心の状態が強くなり,様々な精神症状や身体症状がみられることととする.

2) 周産期うつ

周産期うつは,妊娠期や産後の女性に起こりえる気分障害である.抑うつが妊娠中に出現する妊娠うつと,出産後に出現する産後うつ病を合わせて,周産期うつ病とする(National Institute of Mental Health, 2022).本研究ではEPDSのカットオフ値を基準とし,妊婦ではEPDS 13点以上の者を妊娠うつ高リスク者,産後1年未満の女性ではEPDS 9点以上を産後うつ高リスク者とする.

5. 統計解析

回答者の背景を確認するために,記述統計を算出した.その後,妊婦,褥婦のそれぞれのカットオフ値を用いて,妊娠期・周産期うつ高リスク群と低リスク群の2群に分類した.周産期うつの関連要因を検討するために,2群を初産婦と経産婦に分類し各変数について二変量解析を行った.さらに二変量解析でp値が0.2以下の項目を投入し,多変量解析を行った.全ての統計解析は,Rバージョン4.0.4を使用し,有意水準5%とした(R Core Team, 2021).

6. 倫理的配慮

本研究は著者所属機関の倫理審査委員会の承認を得て実施した(神戸大学大学院保健学研究科保健学倫理委員会 第956号).アンケート調査実施前に,本研究の目的・方法・データの管理方法・研究協力辞退・学会などでの結果の公表について記載された文書を熟読していただき,同意の得られた者のみアンケートに回答した.またアンケートを最終提出する直前に,同意についての確認を再度行った.

Ⅳ. 結果

1. 回答者の背景

回答者の年齢は,10代4名(0.17%),20代668名(28.5%),30代1,491名(63.7%),40代179名(7.6%)であり,初妊産婦1,503名(64.2%),経妊産婦839名(35.8%)であった.妊娠の時期については,初期68名(2.9%),中期273名(11.7%),後期398名(17.0%),児の月齢は1か月未満212名(9.1%),1~4か月未満576名(24.6%),4~7か月未満444名(19.0%),7~12か月未満371名(15.8%)であった.

2. 周産期うつについて

周産期うつ高リスク者は,妊娠期108名(14.6%),産後1年未満351名(21.9%)であった.EPDS合計得点の平均値(標準偏差)は妊娠期6.40点(5.27),産後5.43点(4.67)であった.時期別の周産期うつ高リスク者割合は,妊娠期は中期17.6%,初期16.2%,後期12.3%の順となった.児の月齢別では1か月未満25.5%,7か月以降23.7%,4か月以降に7か月未満22.3%,1か月以降4か月未満19.1%であった(図1).また抑うつを自覚している人は298名(12.9%)であり,自覚をしていない人のうちで周産期うつ高リスク者の割合は妊娠期14.3%,産後21.6%であった(表1).ロジスティック回帰分析の結果,周産期うつ高リスクと関連がみられた項目は,初妊婦では収入減少,精神疾患既往,望まない妊娠,子どもを公共の場に連れていくことに対する批判の経験,経妊婦では子どもを公共の場に連れていくことに対する批判の経験,産後1年未満の初産婦では精神疾患既往,大学卒業,子どもを公共の場に連れていくことに対する批判の経験,産後・新生児の健康問題,経産婦では精神疾患既往,望まない妊娠,多胎,収入減少であった(表25).

図1 

時期別 周産期うつスクリーニング陽性割合

表1  単回帰分析の結果(フィッシャーの正確検定)
妊婦 N = 739
初産 N = 463 経産 N = 276
高リスク群 低リスク群 オッズ比 95%信頼区間 高リスク群 低リスク群 オッズ比 95%信頼区間
N = 80 N = 383 下限 上限 N = 28 N = 248 下限 上限
抑うつに関する情報 抑うつの自覚 あり 10 12.5 53 13.8 3 10.7 29 11.7
抑うつ症状出現時の相談相手(複数回答) パートナー 56 70.0 264 68.9 24 85.7 185 74.6
家族・友達 49 61.3 228 59.5 19 67.9 163 65.7
専門家(対面) 22 27.5 95 24.8 8 28.6 74 29.8
専門家(オンライン) 9 11.3 38 9.9 5 17.9 29 11.7
自分で解決 26 32.5 164 42.8 8 28.6 80 32.3
COVID-19流行時の経験 子どもを公共の場に連れていくことに対して批判された(されているように感じた) あり 13 16.3 17 4.4 4.16 1.77 9.58 *** 10 35.7 44 17.7 2.56 0.99 6.34 *
収入減少 あり 55 68.8 148 38.6 3.48 2.03 6.10 *** 15 53.6 92 37.1
COVID-19罹患への不安 あり 288 75.2 66 82.5 23 82.1 183 73.8
個人特性 年齢 35歳以上 20 25.0 103 26.9 8 28.6 98 39.5
婚姻状況 結婚 74 92.5 373 97.4 0.33 0.11 1.15 * 26 92.9 243 98.0
夫との同居 あり 73 91.3 366 95.6 25 89.3 237 95.6
家族の形態 拡大家族 18 22.5 81 21.1 8 28.6 66 26.6
最終学歴 大学卒業以上 76 95.0 380 99.2 0.15 0.02 0.91 * 28 100.0 240 96.8
就業状況 正社員 35 43.8 204 53.3 12 42.9 100 40.3
家計年収 500万円以上 69 86.3 341 89.0 20 71.4 210 84.7
就業状況(パートナー) 正社員 69 86.3 328 85.6 23 82.1 208 83.9
既往歴 精神疾患 あり 18 22.5 22 5.7 4.74 2.26 9.87 *** 5 17.9 18 7.3
内科的疾患 あり 14 17.5 36 9.4 2.04 0.96 4.14 * 3 10.7 19 7.7
流産・死産 あり 22 27.5 70 18.3 8 28.6 68 27.4
今回の妊娠について 望まない妊娠 はい 12 15.0 19 5.0 3.37 1.42 7.71 ** 5 17.9 19 7.7
多胎 あり 2 2.5 2 0.5 0 0.0 3 1.2
妊娠中の健康問題 あり 8 10.0 30 7.8 4 14.3 38 15.3
産後1年未満の母親 N = 1603
初産 N = 1040 経産 N = 563
高リスク群 低リスク群 オッズ比 95%信頼区間 高リスク群 低リスク群 オッズ比 95%信頼区間
N = 235 N = 805 下限 上限 N = 116 N = 447 下限 上限
抑うつに関する情報 抑うつの自覚 あり 36 15.3 103 12.8 13 11.2 56 12.5
抑うつ症状出現時の相談相手(複数回答) パートナー 171 72.8 564 70.1 78 67.2 350 78.3 0.57 0.36 0.92 *
家族・友達 145 61.7 509 63.2 292 65.3 73 62.9
専門家(対面) 67 28.5 229 28.4 33 28.4 138 30.9
専門家(オンライン) 19 8.1 80 9.9 11 9.5 62 13.9
自分で解決 96 40.9 339 42.1 42 36.2 183 40.9
COVID-19流行時の経験 子どもを公共の場に連れていくことに対して批判された(されているように感じた) あり 66 28.1 147 18.3 1.75 1.23 2.47 ** 31 26.7 97 21.7
収入減少 あり 93 39.6 280 34.8 58 50.0 149 33.3 2.00 1.29 3.09 **
COVID-19罹患への不安 あり 191 81.3 634 78.80 92 79.3 330 73.8
個人特性 年齢 35歳以上 64 27.2 259 32.2 53 45.7 190 42.5
婚姻状況 結婚 230 97.9 791 98.3 115 99.1 442 98.9
夫との同居 あり 219 93.2 776 96.4 0.51 0.26 1.03 * 113 97.4 433 96.9
家族の形態 拡大家族 44 18.7 172 21.4 34 29.3 113 25.3
最終学歴 大学卒業以上 224 95.3 800 99.4 0.13 0.03 0.40 *** 109 94.0 428 95.7
就業状況 正社員 109 46.4 445 55.3 48 41.4 202 45.2
家計年収 500万円以上 194 82.6 724 89.9 0.53 0.35 0.82 ** 99 85.3 396 88.6
就業状況(パートナー) 正社員 205 87.2 705 87.6 94 81.0 396 88.6 0.55 0.31 1.00 *
既往歴 精神疾患 あり 46 19.6 57 7.1 3.19 2.04 4.96 *** 18 15.5 21 4.7 3.71 1.79 7.64 ***
内科的疾患 あり 32 13.6 81 10.1 11 9.5 30 6.7
流産・死産 あり 44 18.7 145 18.0 41 35.3 98 21.9 1.94 1.21 3.09 **
今回の妊娠について 望まない妊娠 はい 24 10.2 46 5.7 1.88 1.07 3.22 * 20 17.2 24 5.4 3.66 1.84 7.24 ***
多胎 あり 0 0.0 5 0.6 6 5.2 2 0.4 12.07 2.12 123.90 **
妊娠中の健康問題 あり 54 23.0 146 18.1 24 20.7 69 15.4
分娩方法 経腟分娩 150 63.8 516 64.1 87 75.0 357 79.9
産後の健康問題 あり 58 24.7 134 16.6 1.64 1.13 2.35 ** 23 19.8 49 11.0 2.01 1.11 3.55 *
新生児の健康問題 あり 41 17.4 87 10.8 1.74 1.13 2.65 ** 15 12.9 56 12.5
表2  ロジスティック回帰分析(妊婦・初産)
Estimate z value OR lower95ci upper95ci Pr(>|Z|)
(Intercept) –0.635 –0.498
収入減少 0.945 3.297 2.572 1.467 4.510 0.001
精神疾患既往 1.246 3.195 3.476 1.619 7.465 0.001
望まない妊娠 1.110 2.479 3.035 1.262 7.300 0.013
子供を公共の場に連れていくことに対する批判の経験 1.074 2.445 2.928 1.238 6.925 0.014
うつ症状出現時:自分で解決 –0.481 –1.681 0.618 0.353 1.083
大学卒業以上 –1.297 –1.466 0.273 0.048 1.549
流産・死産既往 0.395 1.266 1.485 0.805 2.740
結婚 –0.425 –0.661 0.654 0.186 2.301
正社員 –0.093 –0.333 0.911 0.527 1.576
内科疾患既往 –0.058 –0.141 0.944 0.421 2.116
夫との同居 0.052 0.092 1.054 0.345 3.216
年収500万円以上 –0.037 –0.088 0.964 0.427 2.177
NagelkerkeR2(res) 0.197
表3  ロジスティック回帰分析(妊婦・経産)
Estimate z value OR lower95ci upper95ci Pr(>|Z|)
(Intercept) –1.7072 –1.552
子供を公共の場に連れていくことに対する批判の経験 1.0224 2.234 2.7797813 1.13347354 6.81726 0.026
望まない妊娠 0.9315 1.547 2.5383021 0.77993334 8.260934
収入減少 0.6234 1.484 1.8652525 0.81878107 4.249203
精神疾患既往 0.613 0.998 1.8460245 0.55365299 6.15513
結婚 –1.0019 –0.879 0.3671923 0.03932635 3.428496
夫との同居 –0.3586 –0.381 0.6986203 0.11027401 4.425978
正社員(パートナー) 0.1058 0.186 1.1115732 0.36423863 3.392268
NagelkerkeR2(res) 0.099
表4  ロジスティック回帰分析(産後・初産)
Estimate z value OR lower95ci upper95ci Pr(>|Z|)
(Intercept) 0.764 1.116
精神疾患既往 0.991 4.293 2.695 1.714 4.238 0.000
大学卒業以上 –1.658 –2.848 0.191 0.061 0.596 0.004
子供を公共の場に連れていくことに対する批判の経験 0.466 2.569 1.594 1.117 2.275 0.010
産後の健康問題 0.450 2.394 1.568 1.085 2.266 0.017
新生児の健康問題 0.477 2.158 1.612 1.045 2.486 0.031
35歳以上 –0.295 –1.691 0.744 0.529 1.048
正社員 –0.234 –1.453 0.791 0.577 1.085
年収500万円以上 –0.341 –1.452 0.711 0.449 1.127
望まない妊娠 0.358 1.238 1.430 0.812 2.521
夫との同居 –0.332 –0.939 0.717 0.358 1.435
妊娠中の健康問題 0.180 0.927 1.198 0.818 1.755
内科疾患既往 –0.020 –0.080 0.980 0.604 1.591
収入減少 0.001 0.005 1.001 0.726 1.379
NagelkerkeR2 0.102
表5  ロジスティック回帰分析(産後・経産)
Estimate z value OR lower95ci upper95ci Pr(>|Z|)
(Intercept) –1.329 –3.508
精神疾患既往 1.129 3.090 3.091 1.511 6.324 0.002
望まない妊娠 0.951 2.715 2.588 1.303 5.142 0.007
多胎 2.262 2.552 9.597 1.690 54.515 0.011
収入減少 0.567 2.441 1.762 1.118 2.777 0.015
うつ症状出現時:パートナーに相談 –0.464 –1.839 0.629 0.383 1.031
産後の健康問題 0.488 1.589 1.629 0.892 2.974
流産・死産既往 0.372 1.503 1.451 0.893 2.356
正社員(パートナー) –0.388 –1.251 0.678 0.369 1.246
NagelkerkeR2 0.147

3. うつ症状出現時の対応について

抑うつ出現時の対応は,周産期うつのリスク群別,時期別に関わらず,全てのグループでパートナーに相談,家族・友達相談,自分で解決,専門家(対面)に相談,専門家(オンライン)に相談の順であった.産後1年未満の経産婦のみ,うつ症状出現時パートナーへ相談することが有意に低リスク群に属していた.また,産後の初産婦において,うつ症状の自覚のあるものはないものに比べ有意に援助要請を行うものが少なく,自分で解決すると答えるものが多かった(表1).

4. COVID-19流行状況下における経験

子どもを公共の場に連れていくことへの周囲からの批判を受けたもしくは受けたように感じる人は,全体の18.1%を占めた.また収入の減少については38.0%,COVID-19罹患への恐怖は現在感じているというものは77.2%であった(表1).

Ⅴ. 考察

1. 周産期うつの実態

周産期うつの高リスク者割合は妊娠後期を除いて,依然COVID-19流行以前に比べ高値であった(Tokumitsu et al., 2020).高リスク者割合の時期別の傾向は,初経産に関わらず妊娠後期に減少し,産後1か月未満で最多となり,その後減少するも産後4か月以降は微増していた.妊娠期については第1回緊急事態宣言発出後の調査やCOVID-19パンデミック以前の妊娠経過に沿って増加する傾向とは異なった(Matsushima & Horiguchi, 2020Tokumitsu et al., 2020).通常の妊娠期から産褥期における感情は,初期では妊娠していることへの喜びと心配,中期では妊娠が現実のものとなるに従い胎児の健康についての心配が生まれ,後期では胎児の生存が確実なものになるため不安や心配が解消され,出産について意識が向くようになる(Oates, 1989).本研究の調査時期はCOVID-19の流行が落ち着いている時期にあったため,今後不明瞭な期間が長い初期や中期の妊婦への影響が大きかった可能性が考えられる.

ロジスティック回帰分析の結果,妊婦及び産後の経産婦では周産期うつ高リスクと関連がみられた項目として,先行研究同様にCOVID-19パンデミックの影響や望まない妊娠,精神疾患既往があった(Matsushima & Horiguchi, 2020Lancaster et al., 2010Kokubu et al., 2012).加えて,産後の初産婦では,産後や新生児の健康問題が含まれていた.経産婦と比較し出産・育児経験がなく,それらを通して構築したサポートが欠如している初産婦に対して(Nakamura et al., 2020Tokumitsu et al., 2020),自身や児の健康問題が産褥早期の母親の精神状態により影響したことが考えられる.一方,産後4か月以降になると,初経産による高リスク者割合は同程度で推移しており,初経産に関わらず支援の重要性が示唆された.産後ケア事業の対象者は,現在初経産については問わず『産後1年以内』へと延長されたが(厚生労働省,2020a),2019年時点で父親やきょうだい児の宿泊を伴う利用は,67%以上の施設で認められていない(厚生労働省,2020b).産前産後ケアセンター不使用理由では育児のためと回答したものは35.9%と最も多いことからも(小田巻ら,2020),支援を必要としている経産婦が育児のために利用を断念していることが予測される.産前産後ケアセンターへの保育士導入や家族同伴利用が可能となる等環境の整備とともに,パートナーや家族に対し初経産に関わらず産後の支援の必要性について理解を求める必要があると考える.

2. うつ出現時の対応

産後のメンタルヘルスの不調に関して,パートナーや家族・友達に相談する割合が約70~80%と非常に高く,医療機関の受診などを含む専門家へ相談すると回答した割合は約30%,また自分で解決する者は30~40%存在していた.産後の初産婦では,うつ症状の自覚があるにも関わらず,援助要請を行うものが少なく,自身で解決しようとしていた.母親が専門家への援助要請を行わない理由として,どこでケアが受けられるかなどの情報不足,自身の不調に気づけないもしくは自然なことと捉える,スティグマや恥等が指摘されている(Hadfield & Wittkowski, 2017前川・金井,2016Viveiros & Darling, 2019Dennis & Chung-Lee, 2006).一方,精神疾患における専門家への援助要請を促進させる要因に,産後うつに関する教育,対象者と医療職者の親密な関係,家族・友人の勧めや実際に使用したことのある人を知っているかどうかを挙げている(Vogel et al., 2007Dennis & Chung-Lee, 2006).妊婦や産後の母親は援助要請を行う相手としてインフォーマルな対象を望んでおり,専門職からのケアや治療に比べ受け入れられやすく,それらの人々の役割は非常に重要である.以上より,妊婦・母親だけでなくパートナーや両親/義父母を対象とした周産期うつやその支援に関する情報提供や健康教育を行うことが重要である.さらに社会全体の精神疾患,専門的な援助要請の重要性についての理解が深まことが非常に重要であるため(Vogel et al., 2007),メディアの活用や市民公開講座等の地域住民,国民を対象とした知識の普及が促進されることが望まれる.

3. COVID-19禍における妊婦及び産後1年未満の女性の体験と周産期うつ高リスクの関連

COVID-19禍の収入減少が初妊婦と産後の経産婦で,公共の場へ子どもを連れていくことに対する批判を受けた経験は産後の経産婦を除き周産期うつ高リスクに影響していた.COVID-19への罹患への恐怖を感じていると回答した者は,全体の約77%を占めたが,周産期うつ高リスクとの関連は見られなかった.COVID-19パンデミックは化学(Chemical)・生物(Biological)・放射線物質(Radiological)・核(Nuclear)・高性能爆発物(Explosive)を示すCBRNE災害の生物学的危機に属すると考えられている.CBRNEのうち生物学的危機は,その特質・感染経路・治療などについて未知な部分が多いことにより不安の増強や,周囲への警戒や疑念が高まりやすいといわれている(重村ら,2020).また,貧困とうつ病間の相互の因果関係は明らかになっており(Ridley et al., 2020),本研究結果においても初妊婦や経産婦で周産期うつハイリスクと関連がみられている.さらに日本では『ソーシャル・ディスタンス(社会的距離)』の確保やパブリックシェーミングを利用した施策がとられることによって,ロックダウンという強制措置を取らずに,感染自体をある程度コントロールすることができた(Etzioni, 2021).本調査では,子どもを公共施設などへ連れていくことに対する批判及び批判されているように感じる他者の振る舞いの経験について尋ねた.そのため,抑うつが強いものが,他者の振る舞いを批判的に捉える可能性が存在する.一方,周産期や育児期にある母親への周囲の振る舞いによって,妊婦や産後の母親の精神的健康に悪影響を及ぼす可能性は示唆された.先行研究の結果からも,恥の傾向が産後うつの予測因子となる可能性が示唆されており(Dunforld & Granger, 2017),またGilbertは親しい関係の欠如を含む社会的ストレスがうつ状態を起こす鍵であると指摘している(Gilbert, 2006).感染対策と同時に,CBRNE災害としての特徴,家計への経済的な影響や周産期や育児期にある母親への周囲の振る舞いが精神的健康へ与える負の影響について考慮され支援される必要がある.

4. 研究の限界

本研究では,調査デザインの特性上,正確な回収率の計算が不可能である.また,母子を対象とするオンラインサービスに登録している対象者に調査依頼をしたため,結果の一般化には限界がある.さらに横断研究であること,経験ではなく認識を問いに含めたため,因果関係については言及することができない.そのため,COVID-19禍における社会文化的な要因が妊娠期や子育て早期の母親の抑うつへ与える影響について,更なる調査が必要となる.

Ⅵ. 結論

本研究によって,COVID-19禍において周産期うつ高リスク者の増加,産後4か月以降では経産婦も初産婦同様に周産期うつのリスクがあることが示された.またうつ状態出現時の対応として,パートナーなどのインフォーマルな対象に援助要請を行うこと専門家への相談は約30%にとどまることが明らかとなった.COVID-19パンデミックの影響として,収入減少や子どもを公共の場に連れていくことに対しての批判や批判的態度が,妊娠期から産後を通して母親の抑うつに影響する可能性が示唆された.

謝辞:本研究のための調査にあたり株式会社カラダノート及び株式会社ベビーカレンダーにご協力いただきました.厚く御礼申し上げます.なお本研究はJSPS科研費 19K13704の助成を受けたものです.

利益相反:本研究における利益相反は存在しない.

著者資格:HHは研究の実施,データの収集と分析,草稿の作成,MNはデータの分析及び草稿への助言,MMは研究の企画,実施,草稿への助言により研究及び論文に貢献した.すべての著者は最終原稿を読み承認した.

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