日本看護科学会誌
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原著
新型コロナウイルス感染症の第一波流行期に院内感染した看護師の職場復帰に関する葛藤と使命感
新改 法子大西 香代子矢野 久子
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2022 年 42 巻 p. 559-567

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Abstract

目的:新興感染症に院内感染した看護師の職場復帰と就労継続に必要な支援の示唆を得るために,第一波流行期にCOVID-19に院内感染して職場復帰した看護師の職場復帰前後の思いと,思いに影響した要因を考察する.

方法:A病院でCOVID-19に院内感染し,研究に同意した看護師13名に半構造化面接法によるインタビューを行い質的帰納的に分析した.

結果:職場復帰前は復帰をためらう思いと復帰したい思いの両方を抱いて[復帰に向けての葛藤]があった.復帰後は[復帰後も続く不安と病院の対応への不満]と同時に[復帰後の充実感]も抱いていた.復帰をためらう思いの持続は復帰後の不安と不満を強める要因の一つであった.感染症病棟看護師は感染した体験を今後に活かそうとしていた.

結論:復帰前は復帰に向けての葛藤があった.感染の辛さの理解,職場環境の改善など看護師としての使命感を持ち続けられる病院からの支援は職場復帰と就労継続への支援につながることが示唆された.

Translated Abstract

Objective: To clarify the thoughts of nurses before and after returning to work following infection with coronavirus disease 2019 (COVID-19) in the early stages of the pandemic, as well as the factors affecting these thoughts, and obtain suggestions regarding return-to-work support for nurses infected with newly emerging infectious diseases.

Methods: Semi-structured interviews were conducted with 13 nurses who had been infected with COVID-19 while working at Hospital A and consented to participate in this study. The data obtained were qualitatively and inductively analyzed.

Results: Before returning to work, the nurses experienced “conflicts about returning to work” between hesitation and anticipation. After returning to work, they had “a sense of fulfillment” while experiencing “continuing anxiety even after returning and dissatisfaction with the hospital’s responses.” The persistence of hesitation before returning to work was a factor that reinforced their anxiety and dissatisfaction after returning. The nurses working on an infectious disease ward were willing to apply their experience of being infected to the care of their patients.

Conclusions: Before returning to work, nurses experienced conflicts, and after returning to work, they experienced contradictory feelings of a sense of fulfillment and anxiety and dissatisfaction. These findings suggest that hospitals can help nurses maintain a sense of responsibility by understanding their suffering and improving their working environment, and that such support can help nurses to not only return to work, but also continue working.

Ⅰ. 緒言

2020年1月に日本で初めて報告された新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)は感染者が急速に増え,同年4月7日にCOVID-19による緊急事態宣言が発令された.国内発生初期である第一波(松本,2021)当時,COVID-19には未知な部分が多く,感染経路や有効な感染予防策は十分に解明されていなかった(日本環境感染学会,2020).本邦でワクチン接種が始まったのは2021年2月であり(全国知事会新型コロナウイルス感染症ワクチン接種特別対策チーム,2021),この時期はワクチンの話題も挙がっていなかった.個人防護具(personal protective equipment,以下PPE)が世界的に不足し,混乱した状況の中,医療従事者は不安や恐怖を抱えながらCOVID-19患者の医療や看護に従事していた(舘野ら,2021).

とりわけ,この第一波に院内感染した看護師は何が起こったのか十分に理解できないまま勤務の中止と隔離を余儀なくされ,身体的心理的ダメージを持ちながら職場復帰していたと推測する.COVID-19に感染した医療従事者1名から体験を聞き取った報告(倉持ら,2020)では,未知の病気に対する不安や動揺,疲労感や周囲への感染拡大の懸念,自責感を抱いていたことが明らかとなっている.COVID-19に感染した看護師は,心身へのダメージや後遺症の出現,さらにQOLの低下から就労継続にも影響を及ぼすと推測する.しかしCOVID-19に感染した看護師の報告は極めて少なく,中でも第一波で院内感染した看護師の職場復帰に関する報告は見当たらない.

中野・岩佐(2019)の中堅看護師の職場継続に関する文献検討では,看護師が離職を考える要因に,仕事のやりがいや職場の人間関係,労働環境などが関わっていると同時に,それらは職務継続の要素でもあり,職務継続には特にストレス・マネージメントに着目した支援の重要性が強調されている.一方,COVID-19流行下では,感染リスクの高い部署での勤務,仕事の支障になるほどの感染予防措置,差別や偏見(Kisely et al., 2020)があり,メンタルヘルスの不調を生じ(Serrano-Ripoll et al., 2020),これらの問題は職場の人間関係や労働環境といった中野・岩佐(2019)の離職要因に該当し,早期離職のリスクを高める(Bansal et al., 2020)と考えられる.

COVID-19は発生から2年以上が経過してもなお感染者数の増減を繰り返し,収束の兆しが見えない(国立感染症研究所,2022a).国内では医療機関や福祉施設等でクラスターが発生し,医療従事者のCOVID-19感染事例が後を絶たず(国立感染症研究所,2022b),院内感染した看護師への職場復帰や就労継続の支援は喫緊の課題である.

筆者らは,感染した看護師に必要な支援を明らかにするために,第一波で院内感染した看護師にインタビューを行い,感染する前から感染判明直後の思いを分析した(新改ら,2022,以下,第1報とする).その結果,現場は混乱し感染可能性に不安があったこと,院内で感染したことにショックと恐怖に襲われ,所属先を責める思いがあったこと,感染判明のダメージからの立ち直りには,他の陽性者と支え合っていたことが明らかとなった.感染した看護師への支援として,陽性者の気持ちに寄り添ったサポートシステムの構築や,病院からの時宜を得た情報提供の重要性が示唆された.

第1報では,感染によって心身のダメージを受けていることが明らかになったが,看護師は入院・入所を経た後も職場復帰している.今回,職場復帰の実態と復帰の陰にはどのような思いがあったかを明らかにすることで,職場復帰と就労継続の支援をすることができると考え,インタビューで得られたデータから職場復帰に関連するデータを用いて,職場復帰前後の思いと,思いにつながる要因を分析した.これにより,今後,新興感染症発生時の感染発生初期における感染した看護師への就労継続を支援する一助になると考える.

Ⅱ. 研究目的

目的は,新興感染症に院内感染した看護師の職場復帰と就労継続の支援をするために,COVID-19の第一波で院内感染し職場復帰した看護師の職場復帰前後の思いを明らかにすると共に,思いに影響した要因を考察することである.

Ⅲ. 研究方法

1. 用語の定義

1)国内発生初期(第一波)とは,国内でCOVID-19感染者の1例目が発生した2020年1月16日から,全国の緊急事態宣言が解除された2020年5月25日までの期間とする.

2)院内感染とは,①医療機関において患者が原疾患とは別にり患した感染症,②医療従事者等が医療機関内において感染した感染症のことである(厚生労働省,2014).本研究では,2020年4月にCOVID-19患者を受け入れていたA病院の感染症病棟に入院していた非感染患者に同感染症の感染が確認され,感染リスクのある患者と医療従事者にPCR(Polymerase Chain Reaction)検査を実施した結果,感染症病棟と感染症病棟以外の病棟および部署で陽性が確認された者の同感染症クラスターとする.

3)思いとは,物事を理解したり感受したりするときの心の働き(日本国語大辞典,2001)とある.本研究の職場復帰前後の思いとは,第一波の未曽有の状況下で院内感染が発生し,自分が感染者となったこと,院内感染の状況が分からないまま勤務の中断と隔離を余儀なくされたこと,入院・入所を経て職場に戻ること,再びCOVID-19患者の看護に戻ることなどに対し,職場復帰前後に抱いた幅広いこころのありようとする.なお職場復帰後の思いは,復帰後約5ヵ月程度経過してから想起した思いとする.

2. 対象

A病院の感染症病棟でCOVID-19院内感染が発生し,院内で感染が確認された看護師13名である.

3. データ収集期間と収集方法

1) データ収集期間

院内感染から5ヵ月が経過し,感染した看護師の多くが職場に復帰し,平常の業務に就けるようになった2020年9月とした.

2) データ収集方法

インタビューはプライバシーが確保できる場所で,感染症看護専門看護師である研究者が行った.インタビューは半構造化面接法で行い,研究協力者の承諾を得てICレコーダーに録音した.インタビューは,COVID-19に感染した看護師の体験に焦点をあて,感染前及び感染判明後に関する思いの他,職場復帰や同じ部署に復帰することへの思い(肯定的,否定的),復帰後の思い,看護師として働き続けようと思った理由(または働き続けられなかった理由)などを盛り込んだインタビューガイドを作成し実施した.

4. 分析の手順

分析はうえの式質的分析法(上野,2018)を用いた.まず,録音データを逐語録に起こした後,繰り返し熟読し,質的帰納的にコードからサブカテゴリ,カテゴリ,コアカテゴリへと抽象度を高めて抽出した.コードは簡略化した表現とはせず,逐語録を一意味内容ごとに区切ったものをそのままコードとした.次にカテゴリ間の論理的な関係を見出すために要因関連図を作成した.カテゴリ間の論理的関係について,関連性が高いと考えられる場合を因果関係ありとし,両者の関係が相容れない場合は対立関係ありとした.

次に,協力者の属性の違いによるコードの特徴を見出す目的で,看護師経験年数別(4年目未満・以上),所属別(感染症病棟とそれ以外)にマトリックス表を作成した.縦軸に属性,横軸にサブカテゴリを並べ,サブカテゴリに含まれるコードがあった場合を「+」,なかった場合を「空白」で示し,比較分析した.なお,協力者は全員女性だったため,性別による分析は行わなかった.

分析の全ての過程において共同研究者間で検討を行い信頼性と妥当性の確保に努めた.なお,全ての研究協力者に分析結果を見てもらい,内容に齟齬がないことを確認した.

5. 倫理的配慮

本研究の実施にあたっては,神戸市立医療センター中央市民病院の臨床研究倫理審査委員会で承認を得て開始した(審査番号k211019).協力者には研究の目的,方法,協力は任意であり拒否可能なこと,個人が特定できないように配慮することを口頭と文書で伝え同意を得た.強制力が働かないように十分に配慮し,上司や管理者を含む研究者以外の誰にも誰が何を言ったかを言わないこと,誰にインタビューをしたかを明かさないことを約束した.公表の際は話し方の特徴が表れないように標準語で表現し,各コードがどの協力者のものかを示さないようにする等して匿名化の確保に細心の注意を払った.利益相反はない.

Ⅳ. 結果

1. 協力者の概要

協力者は全員女性で看護師経験2~20年であった.所属別では感染症病棟9名,感染症病棟以外の病棟および部署4名であった.協力者は全員職場復帰を経験しているが,インタビュー実施時点で就労継続していたのは12名であった.また,1つ以上の症状(発熱,呼吸困難,咽頭痛,鼻汁,味覚・嗅覚障害,倦怠感など)を認め,症状が持続し入院が長引いた看護師がいた.

2. コード分析によるカテゴリの抽出(表1

インタビューは1回ずつ平均64分(42~114分)で行われ,職場復帰に関わる462コードを分析対象とした.その結果4コアカテゴリ,13カテゴリ,35サブカテゴリが抽出された.コアカテゴリごとにその内容を述べ,カテゴリを【 】,サブカテゴリを《 》,コードを〈 〉で表す.

表1  COVID-19の第一波で院内感染した看護師の職場復帰前後の思い
コアカテゴリ カテゴリ サブカテゴリ コード数
復帰に向けての葛藤 十分に回復しておらず復帰したくなかった 心や身体がしんどかったが復帰を迫られた 22
仕方がないと思って復帰を決めた 15
感染症の病棟に戻るのは気が進まなかった 病棟の看護師に感染したことを非難されるのではと不安だった 12
またCOVID-19の患者を受け持つのかと思った 5
復帰後別の病棟に行くのは嫌だった 4
職場復帰に向けた病院のサポートが不足して不安だった 職場復帰期間の指示が職場と入院・入所していた施設で食い違い,モヤモヤした 13
休んでいる間放っておかれていると感じた 6
ブランクがあったので怖かった 5
復帰したい 看護師として自分も早く力になりたい 16
今後は自分が積極的に感染対策に気を付ける 18
感染した経験を今後に活かしたい 感染したからこそ患者のことが分かる 7
大変なことを乗り越えたからこそ絆が深まった 2
当然のこととして復帰 復帰に向けての葛藤はなかった 症状が軽く復帰にためらいはなかった 14
復帰後も続く不安と病院の対応への不満 身体的に辛かった 心身がかなりしんどかった 12
後遺症が不安である 10
COVID-19患者の看護に自信がもてない 重症患者を看る自信がない 6
COVID-19の患者を看るのは避けたい 3
病院の対応には感染者への理解が感じられなかった 管理者や医師に辛い思いを理解してほしかった 34
病院の対応がはっきりしなくて辛かった 24
COVID-19の看護をしていることで差別されていると感じた 18
院内感染した思いや不満を聞いてくれる場が欲しかった 10
病院の報告は感染者が特定されると感じた 9
危険手当には満足できない 危険手当の説明が欲しかった 19
当然のことと感じた 13
250円は少なく支給開始が遅かった 12
お金じゃない 7
復帰後の充実感 同僚に支えられて嬉しかった 同僚に温かく迎えられて復帰できた 13
感染した看護師と一緒に復帰するのは心強かった 8
復帰して問題なく働けてホッとした 今は防げると思うので不安はない 18
復帰してみたら大丈夫だった 16
病院の果たす役割に満足と期待がある 危険手当がつくようになって嬉しい 28
再発防止に役立てて欲しい 21
病院のシステムが改善されてよかった 21
療養期間をもらえて助かった 16
感染経路の説明に納得し救われた 5

・COVID-19:新型コロナウイルス感染症

1) 復帰に向けての葛藤

まず【十分に回復しておらず復帰したくなかった】には,《心や身体がしんどかったが復帰を迫られた》,《仕方がないと思って復帰を決めた》があった.【感染症の病棟に戻るのは気が進まなかった】には,《病棟の看護師に感染したことを非難されるのではと不安だった》ことや《またCOVID-19の患者を受け持つのか(と思った)》があった.その一方で《復帰後別の病棟に行くのは嫌だった》があり,どちらも肯定的になれない思いがあった.【職場復帰に向けた病院のサポートが不足して不安だった】には,《職場復帰期間の指示が職場と入院・入所していた施設で食い違い,モヤモヤした》,《休んでいる間放っておかれていると感じた》,《ブランクがあったので怖かった》があった.

復帰をためらう否定的な思いがある一方で,同時に肯定的な思いも存在した.【復帰したい】には,〈長期間休んで申し訳なかった〉,〈復帰して支え合わないとじゃないですけど,病床の確保に貢献しないとなって思いましたね〉など《看護師として自分も早く力になりたい》と復帰を願う思いがあった.今回の経験をプラスに捉え,《今後は自分が積極的に感染対策に気を付ける》と決意した語りがあった.【感染した経験を今後に活かしたい】では,《感染したからこそ患者のことが分かる》や,《大変なことを乗り越えたからこそ絆が深まった》と皆で乗り越えた体験がポジティブな気持ちとなっていた.

2) 当然のこととして復帰

【復帰に向けての葛藤はなかった】では,休んだから復帰するのが当たり前と感じ《症状が軽く復帰にためらいはなかった》があった.

3) 復帰後も続く不安と病院の対応への不満

復帰後の思いには【身体的に辛かった】があった.〈(略)味も臭いもないので全然満腹感もなくて.治ったらいいのにということしか考えられないです〉など《後遺症が不安である》や,《心身がかなりしんどかった》があった.【COVID-19患者の看護に自信がもてない】では,《重症患者を看る自信がない》,《COVID-19の患者を看るのは避けたい》があった.

【病院の対応には感染者への理解が感じられなかった】には,《管理者や医師に辛い思いを理解してほしかった》や《病院の対応がはっきりしなくて辛かった》があった.《COVID-19の看護をしていることで差別されていると感じた》辛い経験や,《院内感染した思いや不満を聞いてくれる場が欲しかった》こと,自分は感染防護をしていたが,〈(略)読んだ人にとってはそれが全てだから,それを読んだらこの看護師が悪いって思われることが辛かった〉と《病院の報告は感染者が特定されると感じた》などの思いを語った.

【危険手当には満足できない】には,《250円は少なく支給開始が遅かった》があった.一方で,《当然のことと感じた》や《危険手当の説明が欲しかった》があった.危険手当をもらっても〈(略)お金なくても罹らないほうがよかった〉という《お金じゃない》気持ちがあった.

4) 復帰後の充実感

復帰後の充実感には,《同僚に温かく迎えられて復帰できた》ことや《感染した看護師と一緒に復帰するのは心強かった》などの【同僚に支えられて嬉しかった】ことであった.【復帰して問題なく働けてホッとした】には,知識の積み上げによるCOVID-19患者看護への不安が払拭され,《今は防げると思うので不安はない》や《復職してみたら大丈夫だった》があった.

【病院の果たす役割に満足と期待がある】には,当初より時間が経過し危険手当が増額されたことで《危険手当がつくようになって嬉しい》や,《再発防止に役立てて欲しい》など肯定的な語りがあった.COVID-19患者の感染対策が改善されていることに対して〈(PPEの着脱)テストをしてくれているし,(略)慣れてきた頃に(PPEの)再テストを徹底してくれているので,今不安はそんなにない〉と感染管理チームのサポートを含めて《病院のシステムが改善されてよかった》感謝の語りがあった.《療養期間をもらえて助かった》こと,《感染経路の説明に納得し救われた》思いもあった.

3. COVID-19の第一波に院内感染した看護師の職場復帰の前に抱いた思いが復帰後の思いに影響する要因関連図(図1

院内感染した看護師が職場復帰前後の思いから要因関連図を作成した(図1).症状が軽く復帰に向けての葛藤がなかった看護師がいた一方で,多くの看護師は,復帰前のためらいと復帰したい思いの相反する思いを抱いて復帰していた.復帰後も復帰前と同様に,一人の思いの中には復帰後続く不安と病院の対応への不満を抱きながらも,復帰後の充実感といった肯定的な思いの両方があった.復帰をためらう思いが解決しない場合,復帰後も続く不安と病院対応への不満を強めた.

図1 

COVID-19の第一波に院内感染した看護師の職場復帰前の思いが職場復帰後の思いに影響する要因関連図

・カテゴリ間の関連性が高いと考えられた場合は因果関係ありとして,→で示した.両者の関係が相容れない場合は対立関係ありとして↔で示した.

4. 感染症病棟の看護師が抱いたCOVID-19患者看護への使命感(表2

属性の違いによる思いの特徴を見出す目的で,マトリックス表を作成して分析した結果,看護経験年数別によるサブカテゴリの違いはなかった.しかし,所属別において感染症病棟で感染した看護師に見出され,感染症病棟以外の病棟および部署で感染した看護師には見出されなかったサブカテゴリとして,《またCOVID-19の患者を受け持つのかと思った》,《重症患者を看る自信がない》,《COVID-19の患者を看るのは避けたい》,《(危険手当は)当然のことと感じた》,《お金じゃない》,《感染した看護師と一緒に復帰するのは心強かった》,《感染したからこそ患者のことが分かる》,《感染経路の説明に納得し救われた》以上7つのサブカテゴリが抽出された.

表2  感染症病棟と感染症病棟以外の病棟および部署別サブカテゴリの比較
病棟 協力者 サブカテゴリ
またCOVID-19を受け持つのかと思った 重症患者を看る自信がない COVID-19の患者を看るのは避けたい (危険手当は)当然のことと感じた お金じゃない 感染した看護師と一緒に復帰するのは心強かった 感染したからこそ患者のことが分かる 感染経路の説明に納得し救われた
感染症病棟 A + + +
B + + + + +
C + +
D + + + +
E + + +
F + + + +
G + + + +
H + +
I + +
感染症病棟以外の病棟および部署 J
K
L
M

・COVID-19;新型コロナウイルス感染症

・サブカテゴリに協力者のコードが含まれる場合を「+」,なかった場合を「空白」で示した

Ⅴ. 考察

1. 揺れ動く職場復帰への葛藤

今回,職場復帰前後に抱いた思いを分析した結果,一人の思いの中には復帰をためらう思いと復帰を願う思いの両方を抱いて揺れ動く葛藤の中で復帰し,復帰後も不安や不満と充実感の相反する思いがあることが明らかとなった.

復帰をためらう思いの一つには症状が十分に回復していないことがあった.症状の持続は復帰に大きく影響すると推察する.COVID-19に罹患し,診断/発症/入院後2ヵ月あるいは退院/回復後1ヵ月を経過した患者では72.5%が何らかの症状を訴えていた(罹患後症状のマネジメント編集委員会,2021).その症状は軽症から長期に渡るサポートが必要な症状まで様々あり,症状に応じたマネジメントの重要性や職場復帰における配慮の必要性が強調されている.COVID-19に感染した医療従事者の心理を聞き取った倉持ら(2020)の報告では,入院後3日間は倦怠感を感じ,1週間は嗅覚,味覚症状が持続していたが次第に回復し,入院1週間後から身体症状はなくなっていた.本調査では,復帰後心身がかなりしんどかったという語りが多数あり,人によって症状の出現に差のあることが分かる.症状緩和は職場復帰できる重要な要素であり,症状に応じた休暇の確保や診療提供などによる症状緩和の支援をし続けることは必要であると考える.

本結果では,復帰前のためらう要因には,【感染症病棟に戻るのは気が進まなかった】ことや【職場復帰に向けた病院のサポートが不足して不安だった】があった.復帰後も看護に自信が持てないことや病院の対応への不満があり,復帰前のためらいの持続は復帰後の不安や不満を強める要因の一つであることが示唆された.瀬藤ら(2020)が実施した新型コロナウイルス感染症流行時における医療従事者のメンタルヘルス支援に関する文献レビューでは,最前線の医療従事者として働くことは,メンタルヘルスを悪化させる危険因子であり,悪化させる背景は仕事の変化や孤立,必要な物資の不足など複雑に絡み合っていた.不安や不満が解決しなければ,苛立ちや組織への不信感につながるだろう.加えて終わりが見えない状況の中で新たな課題に直面し,更に不安やストレスが増大し得ると考える.これらの要因をなくすことは困難であるが,個々のニーズに丁寧に応えていくことは必要な支援であると考える.

一方で,復帰後は充実感も感じていた.感染対策の知識や技術が得られたことで不安が払拭され,危険手当がついたことによる満足感があった.我々が報告した第1報では,感染する前は感染対策の手順が頻繁に変わって現場が混乱していたなど不安と不満があったが,職場復帰後に現場の改善が図られていたことで【病院の対応に満足と期待(がある)】が感じられたと推測する.

2. 感染症病棟の看護師が抱いたCOVID-19患者看護への使命感

今回,所属とサブカテゴリを併用したマトリックス分析で,感染症病棟で感染した看護師にのみ見出されたサブカテゴリを7つ認めた.《またCOVID-19の患者を受け持つのかと思った》,《重症患者を看る自信がない》,《COVID-19の患者を看るのは避けたい》というサブカテゴリは,COVID-19患者看護の過酷さが表出されていると推測する.院内感染が発生した第一波は緊急事態宣言が発令されるほど急激な患者の増加を認めており,仕事の支障になるほどの感染防御措置(Kisely et al., 2020),そして本疾患が急激に悪化する特徴があることから現場の過酷さと心身の疲労や急変への恐怖心があったと推測する.

一方で《感染した看護師と一緒に復帰するのは心強かった》では,同じ境遇の仲間が励みとなり,復帰への後押しになったと考える.逆に,感染症病棟以外の病棟や部署で感染した看護師が自分以外に感染した看護師がいなかった場合,復帰時は心細かっただろう.孤立感を感じさせない支援は重要である.

《感染経路の説明に納得し救われた》では,これまで感染症病棟で様々な感染症患者を看護してきた経験者なのに,COVID-19に感染したことを負い目に感じていたが,仕方のなかったことと納得できた,又は自分でもこの感染対策は十分でないと感じていたが,やはりその通りだった,など色々な思いが錯綜していたと思われる.そして《感染したからこそ患者のことが分かる》では,自分の看護の対象者と同じ状態になった実体験から得られた思いであり,使命感とたくましさが感じ取られた.

筆者らの第1報では,この新興感染症で混乱した医療現場において,自身の感染という恐怖とショックが表現され,看護職である前に一人の患者になり自分を守りたい思いが見出された.しかし,様々な思いが錯綜する中でこの新興感染症に罹患した経験を自身の血肉とし,「災害によって影響を受けたすべての人々の生命,健康,生活をまもることに最善を尽くす」という看護師の責務(日本看護協会,2021)に立ち戻れたと推測する.それは,《今後は自分が積極的に感染対策に気を付ける》や《感染したからこそ患者のことが分かる》というサブカテゴリからも裏付けられる.特に感染症病棟の看護師は,過酷な現場に戻ることへの不安がある中で,感染症病棟で培った知識と経験から得たCOVID-19患者看護への強い思いを抱いて立ち向かいたいという使命感のあることが明らかとなった.

3. 職場復帰と就労継続に求められる支援への示唆

感染した看護師は職場復帰前に復帰をためらう思いと復帰したい思いの両方を抱いて復帰しており,復帰後も不安や病院対応への不満と復帰に向けた充実感を同時に抱いていた.ためらいを否定するのではなく,葛藤しながら復帰していることを認め,感染した辛さを理解し,職場環境の改善などによって不安や不満の改善を図ることが必要な支援であることが示唆された.

復帰後の充実感を満たす要因の一つは,同僚に支えられたことであった.これは第1報でも,同僚の存在は立ち直るきっかけになっていた.同僚とのコミュニケーションやサポートは医療従事者の心身の健康に必要な要素であり(Gross et al., 2021WHO, 2020),孤立しない支援,充実感が維持でき,看護師の使命感を持ち続けられる病院からの支援は職場復帰と就労継続への支援につながることが示唆された.

Ⅵ. 研究の限界と今後の課題

調査を実施した2020年9月は第2波が過ぎた時期であり(松本,2021),ワクチンの実用化に至っておらず,第3波以降の感染者の増加が懸念されていた.メンタルサポートや危険手当など看護師を支援する体制も少ない中であった.加えて対象人数が少なく1施設のデータであることから一般化には限界がある.

しかし,国内発生初期の第一波到来時にCOVID-19の院内感染で感染した看護師の職場復帰に焦点をあてた調査は見当たらず,今回の未曽有の体験における感染した看護師の職場復帰の把握は,今もなお感染の収束が見えない中での感染した看護師の職場復帰時に求める支援を考える上で大きな意義があると考える.今後は,発生から時間が経過した段階で検討することは必要である.更に,異なった環境で院内感染した看護師の体験や感染症対応をした看護師の体験を聞き,違った角度から求められる支援を明らかにすること,そして今なお長期化するCOVID-19に対峙している看護師のメンタルヘルスの把握と対応が課題である.

Ⅶ. 結論

1.職場復帰する前は復帰をためらう思いと復帰したい思いの相反する思いを抱いて,復帰に向けての葛藤があった.

2.復帰後も復帰前と同様に,一人の思いの中には復帰後も続く不安と病院対応への不満を抱きながら,復帰後の充実感も感じていた.

3.復帰前のためらいの持続は復帰後の不安や病院対応への不満を強める要因の一つであることが示唆された.

4.感染症病棟の看護師は,過酷な現場に戻ることへの不安がある中で,感染症病棟で培った知識と経験から得たCOVID-19患者看護への強い思いを抱いて立ち向かう使命感があった.

付記:本論文の内容の一部は,第41回日本看護科学学会学術集会において発表した.

謝辞:ご自身の辛い体験を話してくださった看護師の方々に心より感謝申し上げます.

本研究は,科学研究費助成基金(若手研究22K17441)を受けて行った研究成果の一部である.

利益相反:利益相反はなし.

著者資格:NS は,研究の着想から原稿執筆までの全過程を実施した.KOは,データ分析を中心に研究の全過程において助言・示唆を行った.HYは,感染予防看護学の視点から研究の全過程において助言・示唆をした.両著者は最終原稿を読み承認した.

文献
 
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