目的:機能強化型訪問看護管理療養費を算定していない訪問看護事業所における訪問看護師への教育や研修も含めた在宅看取りの関連要因を明らかにする.
方法:無作為抽出した全国2,000事業所を対象に,事業所の体制,研修・教育体制,在宅看取りの地域・文化,在宅看取りの実施に関する質問紙調査を実施した.
結果:242事業所の回答を分析した.看護職の常勤換算数,24時間対応体制加算算定の有無,在宅看取りを実施する上での地域・文化的な困難で調整したロジスティック回帰分析では,管理者の在宅看取り研修受講経験(オッズ比:4.17(95%信頼区間:1.76~9.90))と初めて在宅看取りを実践する看護師への同行訪問の頻度を増やす支援(3.12 (1.33~7.29))が在宅看取りの実施と関連していた.
結論:管理者を対象とした在宅看取り研修や初めての看護師への同行訪問は,在宅看取りを推進する可能性がある.
Objective: To clarify the education and training-related factors associated with provision of end-of-life care by home-visit nursing agencies that did not calculate the medical expenses for function-enhanced home nursing management.
Methods: An anonymous questionnaire was administered to 2,000 randomly selected home-visit nursing agencies throughout Japan. It asked about the facility structure, training/education factors among nurses and managers, regional and cultural difficulties in implementing end-of-life care at home, and provision of end-of-life care at home.
Results: A total of 242 responses were analyzed. Logistic regression analysis was carried out, adjusting for the number of full-time equivalent nurses, the presence of an additional 24-hour response system and regional and cultural difficulties in implementing end-of-life care at home. It showed that the provision of end-of-life care at home was associated with end-of-life care training for managers (odds ratio: 4.17, 95% confidence intervals: 1.76–9.90), and support to increase the frequency of accompanied visits for nurses practicing end-of-life care at home for the first time (3.12, 1.33–7.29).
Conclusion: End-of-life care at home may be promoted by providing specific training for managers and ensuring that nurses who are practicing end-of-life care at home for the first time are accompanied.
わが国は超高齢多死社会を迎えている.2018年に約136万人であった年間死亡者数は,2040年には,約168万人に増えると推測されている(内閣府,2020).人生の最終段階における医療に関する意識調査によると,自宅で医療・療養を受けたい国民の約70%は自宅で最期を迎えたいと答えている(厚生労働省,2018a).しかし,2017年の自宅死の割合はわずか13.2%であった(厚生労働省,2017a).今後急増する看取りに対応し,さらに自宅で最期を迎えたいという国民の希望を実現するためには,居宅における看取り(以下,在宅看取り)を推進していくことが重要である.
自宅死の割合は,65歳以上の人口当たりの訪問看護利用者数が多い地域ほど大きい傾向にあり(厚生労働省,2017b),訪問看護の利用は在宅死を可能にする1つの要因である(松久ら,2015;鈴木・鈴木,2005).また,自宅で家族を看取った遺族は,療養者の思いを尊重した訪問看護師のケアに満足し,訪問看護師との関わりは「私の支えであった」と述べていたという報告もあり(井口・岡田,2020),訪問看護を利用することで本人や家族が安心して在宅看取りを選択できる場合も多い.このように,在宅看取りを推進していくうえで訪問看護に期待される役割は大きい.
在宅看取りとなった訪問看護利用者はそうでない利用者と比較し,自宅死を希望している,日常生活自立度が低い,疼痛や呼吸苦などの訴えがない,介護者がいる(多い)といった特徴がある(Fukui et al., 2003;Ikezaki & Ikegami, 2011;早川ら,2000).また,介護者が在宅看取りを希望していることも,在宅看取りが実現される1つの要因である(Fukui et al., 2003;Ikezaki & Ikegami, 2011;秋山ら,2007).このように,在宅看取りを実現したケースの利用者本人や介護者の特徴に着目し,その要因を明らかにした研究は多く行われてきた.
他方,在宅看取りを実施している訪問看護事業所の特徴もいくつか報告されている.在宅で亡くなる利用者の割合が比較的高い事業所では,看護有資格者の数が多い,24時間サポート体制を提供していることが報告されている(Fukui et al., 2003;杉本ら,2003).さらに,医師の在宅で看取る姿勢が積極的である,予想外の急変があった場合にすぐに入院を頼める病院・診療所がない,農村部であるといった特徴があることも明らかとなっている(杉本ら,2003).このように,訪問看護事業所における在宅看取りの実施には,事業所の体制に加え,事業所を取り巻く地域・文化的な要因も関連することが報告されている.
訪問看護師による在宅看取りの需要が高まるなか,それを実践するための研修会が各地で開催されている.ELNEC(The End-of-Life Nursing Education Consortium)は,看護師がエンド・オブ・ライフ・ケアにおける緩和ケアを提供するために必須とされる能力を取得する系統的な教育プログラムであり,国内外で広く用いられている(Ferrell et al., 2015).ELNECを受講した看護師は,終末期患者へのケアに関する知識や態度が向上したと報告されており(O’Shea & Mager, 2019),日本ではELNEC‐Japanを用いた訪問看護師を対象とした研修も実施されてきた.その他にも,関連学会や職能団体が「緩和ケア」や「ターミナルケア」をテーマとした研修を実施しており,訪問看護師が受講して最も役に立った研修会はターミナルケアであるという報告もある(柄澤ら,2012).しかし,訪問看護事業所における在宅看取りを推進する要因として,研修に着目した研究はほとんど行われておらず,訪問看護師が研修を受講することと事業所における在宅看取りの実施との関連は明らかでない.また,在宅看取りの推進には,事業所外部の研修のみならず,事業所内部における教育も有効であると推測されるが,どのようなスタッフ教育が在宅看取りの実施と関連するのかも明らかとなっていない.
多くの訪問看護事業所では,管理者が事業所内における教育の中心的な役割を担っている(小澤ら,2020).また,在宅看取りには,緩和ケア,家族ケア,排泄ケア,多職種連携など,様々な専門的知識・技術が求められる.したがって,管理者が在宅看取り研修を受講していることや,認定看護師や専門看護師などの専門的教育を受けた看護師が在籍していることも,事業所における在宅看取りを推進させる可能性がある.
診療報酬の機能強化型訪問看護管理療養費1と2は,ターミナルケアの実施や重症児の受入れを積極的に行う看護体制等を評価するために創設された.さらに,その算定要件として地域住民等に対する情報提供や相談・人材育成のための研修を実施していることが望ましいとされている.一方,機能強化型訪問看護管理療養費3は,地域の訪問看護の人材育成の役割等を評価する目的で追加され,その要件の1つは地域の保険医療機関や訪問看護ステーションを対象とした研修を年2回以上実施していることである(公益財団法人日本訪問看護財団,2021).つまり,機能強化型訪問看護管理療養費を算定している事業所は,既に研修に力を入れており,ターミナルケアを積極的に実践している.したがって,さらに訪問看護事業所における在宅看取りを推進していくためには,それ以外の事業所における在宅看取りの実施要因を明らかにすることが重要である.
そこで機能強化型訪問看護管理療養費を算定していない事業所内・外の教育や研修も含めた在宅看取りの関連要因を明らかにすることで,訪問看護事業所における在宅看取りを推進するための示唆を得ることができるのではないかと考えた.
本研究の目的は,機能強化型訪問看護管理療養費を算定していない訪問看護事業所における訪問看護師への教育や研修も含めた在宅看取り実施の関連要因を明らかにすることである.
各都道府県厚生局が公表しているコード内容別訪問看護事業所一覧表をもとに,健康保険法の規定により指定されている全国12,169か所の訪問看護事業所を把握し,番号を振った(2020年7月).そして,1~12,169の間で無作為に2,000個の番号を発生させ,その番号に該当する2,000事業所を対象に,郵送法による無記名式質問紙調査を実施した.調査は2020年9月に実施し,管理者に記入を依頼した.
2. 調査項目 1) 事業所および管理者の基本属性訪問看護事業所の基本属性として,機能強化型訪問看護管理療養費1,2,3の算定の有無,開設主体,開設年,管理者の年代および訪問看護の経験年数を収集した.
2) 事業所の体制看護職(看護師,保健師,助産師,准看護師)の常勤換算数,夜間休日に緊急対応できる訪問看護師数,24時間対応体制加算算定の有無,1か月間の介護保険・医療保険の利用者数および延訪問回数を収集した.
3) 在宅看取りを実施する上での地域・文化的な困難在宅看取りを実施する上での地域・文化的な困難に関しては,文献検討(Fukui et al., 2003;杉本ら,2003)で要素を抽出した後,共同著者間および経験豊富な訪問看護師や在宅ケアの専門家で構成する有識者会議で議論を重ね決定した.困難と感じている項目を,往診医・訪問診療医が少ない,地域で在宅看取りの希望が少ない,地域で緩和ケア病院が充足している,主治医の在宅看取りに関する姿勢が消極的,多職種連携が少ない,介護する人が少ない,バックベッドがない(急変で入院が必要となった時に頼める病院がない)という7項目から複数回答可で選択してもらった.
4) 研修・教育体制研修・教育体制に関しては,共同著者間での議論および有識者会議で議論を重ね,調査項目を抽出した.スタッフの受けた教育・研修として,認定看護師・専門看護師・特定行為研修を修了した看護師(以下,特定行為研修修了者)の在籍の有無および分野別在籍人数と,管理者の在宅看取り研修受講経験の有無を尋ねた.また,事業所内・外の研修体制については,「在宅看取りに関する内部研修がない」および「在宅看取りにおける外部研修がない」を収集した.
スタッフの研修参加については,1.管理者から声をかける,2.勤務扱いとする,3.自主参加とする,4.関与/把握していない,初めて在宅看取りを実践する看護師への支援については,1.同行訪問の頻度を増やす,2.看取れるように訪問を調整する,3.在宅看取りに関する研修を受けさせる,4.メンタルサポート,5.その他から複数回答可で選択してもらった.
5) 在宅看取り実施の有無およびその数2019年度1年間の診療・介護報酬上のターミナルケア加算,訪問看護ターミナルケア療養費1,訪問看護ターミナルケア療養費2の算定の有無および件数を収集し,本研究ではいずれか1件以上算定した場合を「在宅看取りの実施あり」とした.なお,これらは全て訪問看護事業所が死亡日および死亡前14日以内に,2日以上ターミナルケアを実施した場合に算定できる(公益財団法人日本訪問看護財団,2021).
3. 分析方法調査項目全ての記述統計を算出した後,在宅看取り実施の有無を従属変数とし,単変量解析を行った.名義変数はカイ二乗検定またはフィッシャーの正確確率検定,連続変数はマン・ホイットニーのU検定を用いた.次に,単変量解析で有意となった研修・教育体制に関する変数を独立変数として強制投入し,二項ロジスティック回帰分析を行った.最後に,前述した独立変数に加えて,調整変数として看護職の常勤換算数および24時間対応体制加算算定の有無,単変量解析で有意となった地域・文化的な困難に関する変数を強制投入し,二項ロジスティック回帰分析を実施した.多重共線性を確認し,「在宅看取りに関する内部研修がない」と「在宅看取りに関する外部研修がない」については両者を統合した「在宅看取りに関する研修がない」(内部研修も外部研修もない)を投入した.また,先行研究で在宅看取りとの関連が報告されている「主治医の在宅看取りに関する姿勢が消極的」も調整変数として多変量解析に投入した.有意水準は両側5%とし,分析ソフトはSPSS ver. 25を使用した.
4. 倫理的配慮回答の有無により生じる不利益はないこと,調査票の返送をもって研究参加に同意したものとみなすことを依頼書に明記したうえで無記名調査とした.公益財団法人日本訪問看護財団研究倫理委員会の承認を得て実施した(No. 2020-01).
発送した2,000件のうち,廃止・休止等の事業所が35件あり,最終調査対象は1,965件であった.回収数は575件,回収率は29.3%であった.機能強化型訪問看護管理療養費1は27事業所(4.7%),2は12事業所(2.1%),3は13事業所(2.3%)が算定しており,これらいずれも算定していない380事業所(66.1%)を分析対象とした.さらに,在宅看取り実施の有無,看護職の常勤換算数,24時間対応体制加算算定の有無,研修・教育体制,地域・文化的な困難の全てに回答した242件(有効回答率63.7%)を最終的に分析した.
2. 事業所および管理者の基本属性・事業所の体制事業所および管理者の基本属性,事業所の体制に関する結果を表1に示す.開設主体は営利法人が96事業所(40.0%)で最も多く,次いで医療法人70事業所(29.2%)であった.事業所の開設年は2011年以降が半数以上を占めていた.管理者の年代は50代が45.9%で最も多く,訪問看護経験は平均10.2 ± 7.9年であった.看護職の常勤換算数は平均5.2 ± 2.9人であった.認定看護師・専門看護師・特定行為研修修了者のいずれかが在籍したのは23事業所(9.5%)であり,緩和ケア認定看護師が7事業所(8人)で最も多く,次いで訪問看護認定看護師6事業所(6人)という結果であった.
項目 | 内容 | |
---|---|---|
事業所および管理者の基本属性 | 開設主体(n = 240)(事業所(%)) | |
営利法人 | 96(40.0%) | |
医療法人 | 70(29.2%) | |
社会福祉法人 | 15(6.3%) | |
社団・財団法人 | 13(5.4%) | |
市区町村 | 10(4.2%) | |
医師会 | 10(4.2%) | |
その他 | 26(10.8%) | |
開設年(n = 230)(事業所(%)) | ||
1995年以前 | 24(10.4%) | |
1996~2000年 | 42(18.3%) | |
2001~2005年 | 15(6.5%) | |
2006~2010年 | 15(6.5%) | |
2011~2015年 | 51(22.2%) | |
2016~2020年 | 83(36.1%) | |
管理者の年代(n = 242)(事業所(%)) | ||
20代 | 6(2.5%) | |
30代 | 29(12.0%) | |
40代 | 74(30.6%) | |
50代 | 111(45.9%) | |
60代 | 19(7.9%) | |
その他 | 3(1.2%) | |
管理者の訪問看護経験年数(年(平均±標準偏差)) | 10.2 ± 7.9 | |
事業所の体制 | 看護職の常勤換算数(人(平均±標準偏差)) | 5.2 ± 2.9 |
夜間休日に緊急対応できる常勤訪問看護師数(n = 233)(人(平均±標準偏差)) | 3.5 ± 2.3 | |
24時間対応体制加算算定(事業所(%)) | ||
あり | 230(95.0%) | |
なし | 12(5.0%) | |
1か月間の介護保険による利用者数(n = 238)(人(平均±標準偏差)) | 51.0 ± 64.1 | |
1か月間の介護保険による延訪問回数(n = 238)(回(平均±標準偏差)) | 321.0 ± 777.8 | |
1か月間の医療保険による利用者数(n = 236)(人数(平均±標準偏差)) | 22.7 ± 34.2 | |
1か月間の医療保険による延訪問回数(n = 236)(回(平均±標準偏差)) | 201.2 ± 289.9 |
2019年度のターミナルケア加算は130事業所(53.7%)が算定しており,平均1.9 ± 3.6件であった.訪問看護ターミナルケア療養費は160事業所(66.1%)が算定しており,訪問看護ターミナルケア療養費1は平均3.3 ± 4.9件,訪問看護ターミナルケア療養費2は0.1 ± 0.8件であった.
4. 在宅看取りの実施と関連する要因看護職の常勤換算数(在宅看取り実施あり:中央値5.0(四分位範囲3.9~6.3),なし:3.8(3.0~5.0),p < 0.001),夜間休日に緊急対応できる常勤訪問看護師数(あり:4.0(2.0~5.0),なし:3.0(2.0~3.0),p = 0.002),24時間対応体制加算算定の有無(p < 0.001),1か月間の介護保険利用者数(あり:49.0(27.0~70.0),なし:26.0(4.0~50.0),p < 0.001),その延訪問回数(あり:259.0(151.0~416.0),なし:139.0(5.0~318.0),p < 0.001)は在宅看取りの実施と有意に関連していた.一方,1か月間の医療保険利用者数(あり:16.0(10.0~26.0),なし:16.0(5.0~27.0),p = 0.277)およびその延訪問回数(あり:139.0(78.0~227.0),なし:104.0(24.0~273.5),p = 0.220)と在宅看取りの実施の間に関連はみられなかった.
地域・文化的な困難項目については,往診医・訪問診療医が少ない,地域で在宅看取りの希望が少ない,地域で緩和ケア病院が充足している,介護する人が少ない,バックベッドがないことが在宅看取りの実施と有意に関連していた(表2).
全体 N = 242 |
在宅看取りあり n = 178 |
在宅看取りなし n = 64 |
P値 | |
---|---|---|---|---|
往診医・訪問診療医が少ない | ||||
あり | 24(9.9%) | 8(4.5%) | 16(25.0%) | <.001 a |
なし | 218(90.1%) | 170(95.5%) | 48(75.0%) | |
地域で在宅看取りの希望が少ない | ||||
あり | 21(8.7%) | 6(3.4%) | 15(23.4%) | <.001 a |
なし | 221(91.3%) | 172(96.6%) | 49(76.6%) | |
地域で緩和ケア病院が充足している | ||||
あり | 8(3.3%) | 3(1.7%) | 5(7.8%) | .032 b |
なし | 234(96.7%) | 175(98.3%) | 59(92.2%) | |
主治医の在宅看取りに関する姿勢が消極的 | ||||
あり | 18(7.4%) | 10(5.6%) | 8(12.5%) | .072 a |
なし | 224(92.6%) | 168(94.4%) | 56(87.5%) | |
多職種連携が少ない | ||||
あり | 5(2.1%) | 3(1.7%) | 2(3.1%) | .610 b |
なし | 237(97.9%) | 175(98.3%) | 62(96.9%) | |
介護する人が少ない | ||||
あり | 30(12.4%) | 14(7.9%) | 16(25.0%) | <.001 a |
なし | 212(87.6%) | 164(92.1%) | 48(75.0%) | |
バックベッドがない | ||||
あり | 10(4.1%) | 4(2.2%) | 6(9.4%) | .023 b |
なし | 232(95.9%) | 174(97.8%) | 58(90.6%) |
a:カイ二乗検定,b:フィッシャーの正確確率検定,数値は事業所(%)
研修・教育体制と在宅看取り実施の関連を表3に示す.管理者の在宅看取り研修受講経験,在宅看取りに関する内部研修または外部研修があることが,在宅看取りの実施と有意に関連していた.スタッフの研修参加へのサポートと在宅看取りの実施には有意な関連はみられなかった.他方,初めて在宅看取りを実践する看護師への支援では,「同行訪問の頻度を増やす」,「在宅看取りに関する研修を受けさせる」,「メンタルサポート」が有意に関連していた.
全体 N = 242 |
在宅看取りあり n = 178 |
在宅看取りなし n = 64 |
P値 | |
---|---|---|---|---|
専門的教育・研修を受けたスタッフ | ||||
認定看護師・専門看護師・特定行為研修修了者 | ||||
在籍あり | 23(9.5%) | 18(10.1%) | 5(7.8%) | .804 b |
在籍なし | 219(90.5%) | 160(89.9%) | 59(92.2%) | |
管理者の在宅看取り研修受講経験 | ||||
あり | 116(47.9%) | 101(56.7%) | 15(23.4%) | <.001 a |
なし | 126(52.1%) | 77(43.3%) | 49(76.6%) | |
事業所内・外の研修体制 | ||||
在宅看取りに関する内部研修がない(困難感) | ||||
あり | 14(5.8%) | 3(1.7%) | 11(17.2%) | <.001 b |
なし | 228(94.2%) | 175(98.3%) | 53(82.8%) | |
在宅看取りに関する外部研修がない(困難感) | ||||
あり | 8(3.3%) | 2(1.1%) | 6(9.4%) | .005 b |
なし | 234(96.7%) | 176(98.9%) | 58(90.6%) | |
在宅看取りに関する研修がない(困難感) | ||||
あり | 7(2.9%) | 2(1.1%) | 5(7.8%) | .015 b |
なし | 235(97.1%) | 176(98.9%) | 59(92.2%) | |
スタッフの研修参加へのサポート | ||||
管理者から声をかける | ||||
している | 191(78.9%) | 144(80.9%) | 47(73.4%) | .209 a |
していない | 51(21.1%) | 34(19.1%) | 17(26.6%) | |
勤務扱いにする | ||||
している | 110(45.5%) | 81(45.5%) | 29(45.3%) | .979 a |
していない | 132(54.5%) | 97(54.5%) | 35(54.7%) | |
自主参加 | ||||
している | 172(71.1%) | 129(72.5%) | 43(67.2%) | .424 a |
していない | 70(28.9%) | 49(27.5%) | 21(32.8%) | |
関与していない,把握していない | ||||
関与・把握していない | 3(1.2%) | 2(1.1%) | 1(1.6%) | 1.000 b |
関与・把握している | 239(98.8%) | 176(98.9%) | 63(98.4%) | |
初めて在宅看取りを実践する看護師への支援 | ||||
同行訪問の頻度を増やす | ||||
している | 190(78.5%) | 153(86.0%) | 37(57.8%) | <.001 a |
していない | 52(21.5%) | 25(14.0%) | 27(42.2%) | |
看取れるように訪問を調整する | ||||
している | 92(38.0%) | 73(41.0%) | 19(29.7%) | .109 a |
していない | 150(62.0%) | 105(59.0%) | 45(70.3%) | |
在宅看取り研修を受けさせる | ||||
している | 54(22.3%) | 46(25.8%) | 8(12.5%) | .028 a |
していない | 188(77.7%) | 132(74.2%) | 56(87.5%) | |
メンタルサポート | ||||
している | 108(44.6%) | 87(48.9%) | 21(32.8%) | .027 a |
していない | 134(55.4%) | 91(51.1%) | 43(67.2%) | |
その他 | ||||
あり | 11(4.5%) | 7(3.9%) | 4(6.3%) | .488 b |
なし | 231(95.5%) | 171(96.1%) | 60(93.8%) |
a:カイ二乗検定,b:フィッシャーの正確確率検定,数値は事業所(%)
最後に,二項ロジスティック回帰分析の結果を表4に示す.モデルの有意性(モデルカイ二乗検定 調整前:p < 0.001,調整後:p < 0.001)および適合性(Hosmer & Lemeshow検定 調整前:p = 0.230,調整後:p = 0.346)は確認できた.看護職の常勤換算数,24時間対応体制加算算定の有無,在宅看取りを実施する上での地域・文化的な困難で調整した後の判別的中率は84.3%であり,管理者が在宅看取り研修を受講している(オッズ比:4.17(95%信頼区間:1.76~9.90)),初めて在宅看取りを実践する看護師に同行訪問の頻度を増やす支援をしている(3.12 (1.33~7.29))ことが在宅看取りの実施と有意に関連していた.
調整前 | 調整後 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
オッズ比 | 95%信頼区間 | オッズ比 | 95%信頼区間 | ||||
下限 | 上限 | 下限 | 上限 | ||||
専門的教育・研修を受けたスタッフ | |||||||
管理者が在宅看取り研修 | 受講している | 3.65 | 1.74 | 7.67* | 4.17 | 1.76 | 9.90* |
受講していない | 1[Reference] | 1[Reference] | |||||
事業所内・外の研修体制 | |||||||
在宅看取りに関する研修 | ある | 1[Reference] | 1[Reference] | ||||
ない | 0.48 | 0.08 | 2.91 | 1.75 | 0.13 | 23.03 | |
初めて在宅看取りを実践する看護師への支援 | |||||||
同行訪問の頻度を増やす支援 | している | 3.82 | 1.89 | 7.71* | 3.12 | 1.33 | 7.29* |
していない | 1[Reference] | 1[Reference] | |||||
在宅看取り研修を受けさせる | している | 1.10 | 0.43 | 2.80 | 1.51 | 0.49 | 4.68 |
していない | 1[Reference] | 1[Reference] | |||||
メンタルサポート | している | 1.53 | 0.80 | 2.94 | 1.53 | 0.73 | 3.21 |
していない | 1[Reference] | 1[Reference] |
単変量P < 0.05の変数を強制投入し,ロジスティック回帰分析をした.
調整前:Hosmer & Lemeshow検定:p = .230,モデルカイ二乗検定:p < .001,判別的中率:78.1%
調整変数:看護職の常勤換算数,24時間対応体制加算算定の有無,在宅看取りを実施する上での地域・文化的な困難(往診医・訪問診療医が少ない,地域で在宅看取りの希望が少ない,地域で緩和ケア病院が充足している,主治医の在宅看取りに関する姿勢が消極的,介護する人が少ない,バックベッドがない)
調整後:Hosmer & Lemeshow検定:p = .346,モデルカイ二乗検定:p < .001,判別的中率:84.3%
* p < 0.05
本研究では,機能強化型訪問看護管理療養費を算定していない訪問看護事業所における在宅看取りの実施には,管理者の在宅看取り研修受講経験および初めて在宅看取りを実践する看護師への同行訪問の頻度を増やす支援が関連していることが明らかとなった.このように事業所外での管理者の研修受講経験や事業所内における教育が訪問看護事業所における在宅看取りの実施と関連することが初めて示された.
本研究では,機能強化型訪問看護管理療養費を算定していない事業所を対象に分析を行った.機能強化型訪問看護管理療養費の算定事業所は,地域のなかで中心となってターミナルケアや研修を実施しており,在籍する看護師の研修受講機会も多いと考えられる.他方,算定していない事業所においても,管理者の約半数は在宅看取り研修を受講していたという本研究の結果は,在宅看取りに関心のある管理者が少なくないことを示している.そして,管理者の在宅看取り研修受講経験は在宅看取りの実施と有意に関連していた.小澤ら(2020)は,訪問看護事業所では管理者が,在宅ターミナルケアについて悩んでいるスタッフに対し,面接や同行訪問などの支援を行っている割合が高いことを報告している.また,管理者にはステーションの理念を基に「自ステーションらしさ」を構築することが求められている(勝眞,2017).つまり,在宅看取りの実践を1つの理念として掲げた管理者がその研修を受講し,知識と技術をもってスタッフを教育することで,事業所全体の看取りを推進させると考えられる.したがって,機能強化型訪問看護管理療養費を算定していない事業所の管理者が,さらに在宅看取り研修を受講することは,訪問看護事業所における在宅看取りを推進させる可能性がある.
2つ目に,初めて在宅看取りを実践する看護師に同行訪問の頻度を増やす支援をしていることも在宅看取り実施の有意な関連要因であった.訪問看護では,看護師が一人で訪問し判断することが多いため,段階的に自立を促す同行訪問がしばしば行われている(森・深堀,2020).また,一般的な訪問看護を習熟している看護師でも,在宅でのターミナルケアにおいては,管理者などとの同行訪問による直接的な看護技術の指導が必要であるといわれている(小澤ら,2020).なぜなら在宅でのターミナルケアにおいては,疼痛,食欲不振,全身倦怠感,浮腫など,ターミナルに特徴的な症状に対するきめ細やかな観察とそれらに対するアセスメントが必要であることに加えて,訪問看護師は利用者本人や家族に対するグリーフケアなど,精神的なサポートも求められるからである.療養と生活の場が同じである在宅においては,例えば家族が利用者と長年暮らしてきた家で暮らし続けられるよう生前から支援することも,重要なターミナルケアの1つである.さらに看護師自身も,精一杯ケアをしてきた患者が亡くなることに悲しみを感じ,心残りや無力感が残ることがある(広瀬,2011).訪問看護ステーションの管理者は在宅看取りを担当する看護師の負担を減らす取り組みとして,利用者の生前に同行訪問を行うといった精神的な支援をしていることが報告されている(小澤ら,2018).初めて利用者の生活の場でその生と死に向き合う訪問看護師にとって,同行訪問を通して利用者への思いを先輩看護師と共有できていることは,日々のケアにおいて精神的な支えとなる.そして利用者が亡くなったときにも,共に実践してきたケアを振り返りながら利用者への思いを共有できることは,看護師自身のグリーフケアに繋がっているのだろう.さらに先輩看護師は指導を通して新人看護師から学ぶこともある(日高,2016).つまり,同行訪問は初めて在宅看取りを実践する看護師だけでなく,それを指導する看護師にとっても,自身のケアを振り返り,よりターミナルケアを推進したり,ケアの質を向上させていく機会となっているのではないだろうか.このように,同行訪問を通して共に悩みながらも,お互いの看護観,さらには死生観を共有していくことが,在宅看取りの推進に繋がっていると考える.
当然,在宅看取りは訪問看護師だけで実施できるものではない.在宅看取りの実現・推進のためには,地域全体で療養者や家族を最期まで支えられる体制を整えることが重要である.つまりそのような体制なしには,訪問看護師に対する教育を行っても,在宅看取りの推進は難しい.実際に単変量解析では,在宅看取りを実施する上での地域・文化的な困難に関するほとんどの項目が在宅看取りの実施と有意に関連していた.さらに地域・文化的要因について,本研究では往診医・訪問診療医の少なさや主治医の看取りへの姿勢については検討できた一方で,訪問看護事業所(看護師)と病院・診療所(医師),訪問介護事業所(訪問介護員)の関係性は検討できていない.チームでの支援が求められる在宅看取りにおいて,他職種間のどのような関係性が在宅看取りの実施と関連するのか,今後さらに検討していきたい.
本研究の限界として,調査票の回収率は29.3%であり,在宅看取りに比較的関心の高い事業所が回答した可能性は否定できない.その一方で,本研究にける看護職の常勤換算数は平均5.2人であり,全国の1事業所当たりの常勤換算看護・介護職員数平均5.3人とほぼ同じである(厚生労働省,2018b).また,介護保険利用者数平均51.0人/月も,全国平均52.9人/月とおおよそ合致しており(厚生労働省,2019),本研究の結果は全国の訪問看護事業所の状況を概ね反映できていると考える.2つ目に,本研究では事業所の所在地に関する詳細な情報を収集していない.所在地のデータをもとに,例えば農村部と都市部を別々に分析することで(杉本ら,2003),より地域の特性に応じた在宅看取りの実施要因が明らかとなるかもしれない.3つ目に,従属変数には診療報酬または介護報酬で算定された在宅看取りを採用しており,複数事業所でターミナルケアを実施している場合や在宅がん医療総合診療料に係る看取り,退院日当日の看取りとなった場合などは含まれていない.最後に,本研究は横断調査であるため,管理者や初めて在宅看取りを実践する看護師に対する研修や教育と在宅看取りの実施の因果関係は明らかではない.本研究の結果をもとに,今後訪問看護師を対象とした在宅看取りに関する研修を実施し,それが質の高い在宅看取りの推進に繋がるか,縦断的な調査を実施していく予定である.
機能強化型訪問看護管理療養費を算定していない訪問看護事業所における在宅看取りの実施には,管理者の在宅看取り研修受講経験および初めて在宅看取りを実践する看護師への同行訪問の頻度を増やす支援が関連していた.管理者を対象とした在宅看取り研修や初めて在宅看取りを実践する看護師に同行訪問を実施することは,訪問看護事業所における在宅看取りを推進させる可能性がある.
付記:本研究の内容の一部は,第41回日本看護科学学会学術集会において発表した.
謝辞:本研究にご協力いただきました,訪問看護事業所管理者の皆様に心より感謝申し上げます.本研究は公益財団法人日本財団の助成を受け実施しました.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:MHは研究のデザイン,データの収集・分析,原稿の作成;YKは研究の着想,デザインおよびデータ収集に貢献;HNおよびRYは研究のデザインおよびデータの収集・分析に貢献;MNWはデータの分析および原稿の作成に貢献;YH,EO,MSは研究の着想およびデータ収集に貢献;NYMは研究プロセス全体への助言.すべての著者は最終原稿を読み,承認した.