目的:日本の医療分野で健康問題を抱える人へ実践されている応援の概念分析を行い,定義を明らかにする.
方法:国内文献29件を対象にRodgersの概念分析を行った.
結果:前提要件3つ,属性4つ,帰結4つのサブカテゴリーから,各一つの【カテゴリー】が抽出され,医療分野の応援は,生き方の模索が続く健康問題を抱える人への【自分らしくあることの困難性への共感】に基づいて,医療者が【その人が自分らしく生きるために味方になり新たな活動を試みる】ことで【その人の主体性の高まりに医療者としての自分らしさが充実していく】過程であった.味方になるとは,医療情報を分かりやすく伝えること,対象者と願いを共に考え支えること,対象者の思いを代弁し共感を周囲に波及させ仲間を作ることにより,その人らしさを支えることだった.
結論:医療分野での応援は,対象者のその人らしさを大切にしたい医療者の新たな活動の創出を助ける概念と考えられた.
Purpose: This study aims to determine a definition for the Ohen, an activity which is practiced in the medical field for people with some health problems in Japan, by conducting a conceptual analysis of Ohen.
Methods: For 29 articles published in Japan, a concept analysis was conducted based on the Rodgers method.
Results: One ‘category’ was extracted from each subcategory identified: three for antecedents, four for attributes, and four for consequences. Ohen is a process based on ‘empathy towards difficulty of living in ways preferred by a person’ someone who is at a loss for how to live with health problems. In this process, health professionals ‘Mikataninaru (become a supporter for a person) so that the person can live in ways the person likes, and then try new activities’, resulting in ‘enriching the own identity as a health professional when seeing the person (patient) living as that person likes’. Mikataninaru here is defined as the activity to help the person live in ways the person likes by communicating medical information in a way that is easily understood, thinking about the wishes of the subject together with him/her, expressing the thoughts of the subject as a spokesperson, spreading empathy to people around the subject, and creating an environment of comradery.
Conclusions: It is suggested that Ohen in the medical field is a concept that helps health professionals, who think a great deal about the subject of living in the way a person likes, help create new their activities.
日本では,急激な少子高齢化や医療技術の進歩など保健医療を取り巻く環境が大きく変化している.誰もが自分らしく生きていくために,患者には医療や人生の選択に積極的に参加・協働する主体性が求められ,支援者には,それを支える新たな価値やアイディアの創出が求められている(厚生労働省,2015).一方で,医療者の疲弊や燃えつきも大きな課題であり,医療の利用者・支援者の双方が自分らしくあるための主体性の在り方が問われている.そして,日本人の主体性は個の中にあるのでなく,他者との関係の中で立ち上がること(Markus & Kitayama, 1991)はこれまで指摘されてきたことであり,この特徴を踏まえて,自分らしさに関わる主体性を捉えていく必要がある.
相手の主体性に主体的に関与する活動として,日本には応援がある.応援は,「①味方となって励まし,助けること.また,その者.加勢.②競技などで,拍手をし,歌をうたい,声をかけるなどして,味方やひいきの選手を元気づけること」(日本国語大辞典,2005)を意味する日常語である.英語では支援を意味するsupportに相応し,サッカーのサポーターという使用例からもほぼ同様の概念と考えられる.しかし,日本人は支援やサポートと応援を同じに捉えているだろうか.推しを“支援”する,よりは“応援”するであろう.
近年,応援概念は日本の様々な分野で探求されている.手嶋(2007)は,ポピュラーカルチャーとしての応援を研究し,「相手に対する愛情や憧憬といった共感的な心情と,自分本位の考えを退けようとする利他的/非利己的態度を伴った行為」と定義した.この定義に基づき,丹羽(2020)は,応援は支援と重なり合う部分があるとしながらも対象者との心理的距離の近さが支援と異なるとしている.経済界では,「対象に対して,プラスの感情(好意)から,行動すること」と定義され(新井・山川,2018),“人の助けになりたい”気持ちを経済活動の活路とする応援経済が注目されている.いずれも,誰かの役に立とうとする誰かの主体的な関与であり,日本固有の主体的な活動とみられている.
福祉の分野では,1984年に設立された精神障害を持つ当事者の地域活動の拠点として知られる「浦河べてるの家」(向谷地・小林,2013)の活動において,応援は,当時の精神科医療の管理的な対応とは異なる,当事者のその人らしさに主体を置いた支援する側のユニークな立ち位置を表す言葉として使用されてきた.しかし,近年,医療の分野の文献においても,患者の夢を応援する(森山,2019),子育て応援(田村,2019),応援ミーティング(伊藤,2020)など,“応援”ということばが散見されてきている.なぜ,支援でなく応援なのか.医療分野において支援提供者が支援対象者に“応援”という言葉を使用する時,それはどのような活動を示し,そして,主体性やその人らしさは関わっているのだろうか.それらの文献の中に,応援の定義を明らかにした研究はみられなかった.
本研究において,医療分野における主体性に関わるアプローチの在り方に示唆を得るため,何らかの健康課題を有する人を対象として医療関係者により行われた応援について概念分析を行い,医療分野において実践されている応援の定義を明らかにする.
本研究における概念分析には,Rodgersのアプローチ(Rodgers, 2000)を用いた.この手法は,領域的,社会文化的,時間的な変遷に着目して,概念の定義あるいは属性,文脈的基盤を同定し,概念の特性を明らかにする方法とされている.応援の概念は,時代や社会背景の変遷による変化が考えられることからこの方法を選択した.
1. 対象文献の選定対象となる文献の収集は,「応援」をタイトルに含む医療系の国内文献を検索(検索日2021年9月22日)した.医学中央雑誌web版(以下,医中誌)では会議録を除き抄録がある文献とし116件が該当し,最新看護索引Web〈機関版〉では217件,医学書院検索サイトMedical Finderでは57件が該当した.
今回の研究では,医療ニーズのある人へ医療関係者が実践している応援を分析対象とするため,タイトルと抄録を熟読し,診療応援など「一定期間,所属する職場を離れて他の職場に移り,期間が過ぎると再び元の職場に戻る移動」(上井,1994)である人員配置としての応援,スポーツ応援,研修医や新人職員への応援について報告しているもの,健康づくりの行政事業の名称として使われていたものを除外した.さらに,応援を実践している人の応援の捉えを読み取るために執筆者自身が応援を実践している文献に限定した.文献検索の手順を研究者間で共有しながら選定を行い,その結果,医中誌では30件,最新看護索引webでは6件,Medical Finderで2件が該当し,ハンドサーチで該当した10件を加え,重複した文献を除き,同じ事象について同じ筆者が執筆した論文は一つを選択し,29件が分析対象となった.
2. データ分析方法各文献を精読し,①応援の対象となっている人の健康課題,②対象への著者の認識,③応援の目的,④応援の内容,⑤応援を説明する記述,⑥応援の結果に関わる記述を抜粋し表に整理した.これを分析データとし,内容の意味を損ねないようにコード化し,応援の概念を構成する「先行要件」,「属性」,「帰結」に関する記述に着目しながら類似性に基づき抽象化を行い,2次コード,サブカテゴリー,カテゴリーを抽出した.これらの結果に基づき医療分野における応援の定義と概念モデルを示した.
分析対象文献の執筆者(以下,実践者)と応援対象者,応援の概要を表1に示した.実践者は,看護師が10件ともっとも多く,次いで,医師の7件,ソーシャルワーカーが6件であった.応援の対象者は,精神障害を抱える患者・家族が多く,発達障害を含め16件であり,精神障害をもつ親も含め子育てしている人は8件,がんと慢性疾患を有する人が各4件であった.応援の概要は,情報共有の工夫,患者の願いの実現,多職種連携による在宅支援の始動などが複数見られ,すべてが事例・実践報告であった.
執筆者(応援実践者) | 件 | 応援対象者 | 件 | 実践された応援の概要 |
---|---|---|---|---|
看護師 | 10 | 人工肛門造設患者 | 1 | 患者会設立・運営補助(桐生,1986) |
NICU・ICUの患者とその家族 | 2 | 看護応援カードによる情報共有(飯塚ら,2000)(本藤ら,2001) | ||
精神科病院入患者 | 2 | 看護応援カードによる情報共有(岸田,2008),患者の願い(コンサートへ行く)の実現(森山,2019) | ||
精神科病院入患者の家族 | 1 | 看護応援カードによる情報共有(斉藤ら,2006) | ||
地域で暮らす精神障害者 | 1 | 多職種チームによる訪問看護(寺田,2011) | ||
精神疾患をもつ親と子ども | 1 | 配偶者と子どもの語りを聴く(蔭山,2020) | ||
がん終末期患者・家族 | 2 | 患者の願い:郷土料理を食べる(山田,2015).疎遠となっていた家族との面会(小村,2018)の実現 | ||
医師 | 7 | 慢性疾患をもつ患者・病児 | 2 | 一般向け院内図書館設立(佐栁ら,2012)・子どもの病気のWebコンテンツの作成(武田,2005) |
地域で暮らす精神障害者 | 2 | ACTの始動(西尾,2010),SDMによる薬物療法適正化(渡部,2017) | ||
精神疾患をもつ親と子ども | 1 | 絵本・Webコンテンツ・教材作成(北野・細尾,2017) | ||
発達障害児と家族 | 1 | 生活モデルに基づいた診療スタイル(田中,2015) | ||
在宅療養児と家族 | 1 | 多職種チームによる在宅支援(宮田,2018) | ||
ソーシャルワーカー | 6 | 地域で暮らす精神障害者 | 2 | IPSに基づく就労支援(高橋,2013)患者中心の応援団による在宅支援(岡西,2016) |
精神疾患をもつ親と子ども | 2 | 当事者参加型地域応援ミーティング(伊藤,2020),子育て応援ステーション開設(田村,2019) | ||
精神科病院入院患者 | 1 | 当時者参加型病棟応援ミーティング(玉村,2007) | ||
がん終末期患者・家族 | 1 | 対象者主体の個別相談(金田,2014) | ||
助産師 | 3 | 出産後の育児期にある母 | 3 | 妊娠期から育児期の連携支援の構築(高梨ら,2010)(中西,2015)(樋口,2021) |
作業療法士 | 1 | 地域で暮らす精神障害者 | 1 | ACTの始動(菅沼,2011) |
精神保健相談員 | 1 | 精神疾患をもつ親 | 1 | 産後ケア応援室(宿泊・デイケア)新設(中野,2019) |
健康運動療法士 | 1 | 糖尿管理の必要な糖尿病患者 | 1 | モニタリングスマホアプリの開発(野村・津下,2020) |
ACT:Assertive Community Treatment SDM:Shared Decision Making IPS:Individual Placement and Support
先行前提で3つ,属性で4つ,帰結で4つのサブカテゴリー,それぞれから1つのカテゴリーが抽出された(図1).以下,【 】はカテゴリー,《 》はサブカテゴリー,〈 〉は2次コードを示す.2次コードを構成する文献は代表的な文献のみを引用した.
1) 先行要件応援が生じる先行要件として【自分らしくあることの困難性への共感】というカテゴリーが,以下の3つのサブカテゴリーから抽出された(表2).
サブカテゴリー | 2次コード | コード |
---|---|---|
これからの生き方に模索が続く健康課題を抱えるその人 | 社会に理解されにくい疾患をもつ人 | 精神科病院入院患者(玉村,2007)(岸田,2008))(森山,2019),精神科病院入院の患者の家族(斉藤ら,2006),地域で暮らす精神障害者(西尾,2010)(寺田,2011)(菅沼,2011)(高橋,2013)(岡西,2016)(渡部,2017),精神疾患をもつ親とその子ども(蔭山,2020)(伊藤,2020)(北野・細尾,2017),発達障害を持つ子ども・家族(田中,2015) |
子育てしていく人 | 周産期(高梨ら,2010)(中西,2015)(樋口,2021),精神疾患をもつ親(中野,2019)(伊藤,2020)(蔭山,2020) | |
高度医療を受ける人 | NICUに入室した患児の家族(飯塚ら,2000),ICUに入室した患者・家族(本藤ら,2001) | |
自分で健康管理しなくてはいけない疾患をもつ人 | 人工肛門増設患者(桐生,1986),慢性疾患をもつ患児・家族(武田,2005)(佐栁ら,2012)(野村・津下,2020),在宅療養児と家族(宮田,2018) | |
根治治療はなく余命を宣告された人 | がん患者・家族(金田,2014)(山田,2015)(小村,2018) | |
自分らしく生きたいとの願いに共感している医療者 | 自分らしく生きたいとの願っていることへの共感 | 誰もが自分らしく生きたいと願っている(西尾,2010)(寺田,2011)(菅沼,2011)(高橋,2013)(金田,2014)(山田,2015)(田中,2015)(渡部,2017)(小村,2018)(森山,2019)(伊藤,2020)(蔭山,2020) |
自分の健康について学びたいとの願いへの共感 | 自分の健康のことを自分で学びたいと考えている(武田,2005)(佐栁ら,2012) | |
医療だけでは自分らしく生きることが難しい社会 | 疾病・障害のある人の地域生活を支える資源が不足している | 疾病・障害のある人の地域生活を支える資源と理解が不足しているという認識(桐生,1986)(西尾,2010)(寺田,2011)(菅沼,2011)(高橋,2013)(岡西,2016)(渡部,2017)(宮田,2018)(伊藤,2020) |
主体的な健康管理は一人では難しい | 糖尿病の健康管理の継続は一人では難しい(野村・津下,2020),精神疾患をもって地域で暮らすには応援団が必要(岡西,2016) | |
誰もが自分らしく生きることが難しい社会 | 誰もが子育てが難しい時代になった(高梨ら,2010)(中西,2015)(田村,2019)(中野,2019)(伊藤,2020)(樋口,2021),誰もが主体性を奪われかねない社会(高橋,2013) | |
超高齢化に直面しているという危機感 | 世界に先駆けて急速な社会の超高齢化に直面 しているわが国(佐栁ら,2012) |
応援の対象者は,精神障害など〈社会に理解されにくい疾患をもつ人〉(斉藤ら,2006;岸田,2008;西尾,2010;田中,2015),がんなど〈根治治療はなく余命を告知された人〉(山田,2015;小村,2018),〈子育てしていく人〉(高梨ら,2010),生活習慣病など〈自分で健康管理しなくてはいけない疾患をもつ人〉(野村・津下,2020),ICU,NICUに入室している患者と家族など〈高度医療を受ける人〉(飯塚ら,2000)であり,これからの生き方に模索が続く健康課題を抱える人たちであった.
② 《自分らしく生きたいとの願いに共感している医療者》実践者は,対象者が〈自分らしく生きたいと願っている〉(金田,2014;小村,2018),〈自分の健康について学びたいと願っている〉(武田,2005)ことに共感していた.
③ 《医療だけでは自分らしく生きることが難しい社会》実践者は,現行の医療体制は〈疾病・障害のある人の地域生活を支える資源が不足している〉(西尾,2010;宮田,2018;伊藤,2020),〈主体的な健康管理は一人では難しい〉(岡西,2016;野村・津下,2020)と認識し,更に,子育て困難など〈誰もが自分らしく生きることが難しい社会〉(高橋,2013;田村,2019),〈超高齢化に直面しているという危機感〉(佐栁ら,2012)があり,誰にとっても自分らしく生きることは難しい医療体制であり社会であると認識していた.
2) 属性属性として【その人が自分らしく生きるために味方になり新たなことを試みる】というカテゴリーが,応援の目的と方法に関わる4つのサブカテゴリーから抽出された(表3).
サブカテゴリー | 2次コード | コード |
---|---|---|
人生の主役としてその人らしくあることを願う | その人が自分の健康を守る主体であることを願う | 患者が治療の主体である(飯塚ら,2000)(本藤ら,2001)(武田,2005)(斉藤ら,2006)(岸田,2008)(渡部,2017),本人が健康を管理することの主体である(桐生,1986)(佐栁ら,2012)(野村・津下,2020) |
その人が自分らしく生きることを願う | 自分に願いをかなえて欲しい(金田,2014)(山田,2015)(小村,2018)(森山,2019),地域の暮らしに希望をもって欲しい(玉村,2007),地域でその人のスタイルで生きて欲しい(西尾,2010)(寺田,2011)(菅沼,2011)(高橋,2013)(金田,2014)(田中,2015)(渡部,2017)(伊藤,2020)(蔭山,2020) | |
その人が安心して成長していくことを願う | 地域で成長して欲しい(宮田,2018),親として自信を持って欲しい(高梨ら,2010)(田村,2019),親子が安心して暮らして欲しい(中西,2015)(北野・細尾,2017)(中野,2019)(伊藤,2020)(樋口,2021) | |
その人に伴走する味方になる | 医療情報を共有し対話する | 看護応援カードによる患者・家族との情報共有(飯塚ら,2000)(本藤ら,2001)(斉藤ら,2006)(岸田,2008),患者・家族に医学情報を分かりやすく説明し話を聴く(田中,2015),対話する(伊藤,2020) |
継続的に伴走できる仕組みを作る | 応援団をつくる(岡西,2016),多職種連携による在宅支援(西尾,2010)(菅沼,2011)(寺田,2011)(宮田,2018)(伊藤,2020),体調モニタリングアプリの開発(野村・津下,2020) | |
その人の生き方を一緒に考える | IPSに基づく就労支援(高橋,2013)),患者中心の個別相談(金田,2014),SDMによる薬物療法的適正化(渡部,2017),当事者参加型応援ミーティング(伊藤,2020),子ども・配偶者の語りを聴く(蔭山,2020) | |
その人の願いの実現を支える | 願いの実現に手を貸す:病棟で郷土料理を作る(山田,2015),家族の面会を調整する(小村,2018),患者がコンサートにいくことをスタッフチームで実現する(森山,2019) | |
周りの人に共感を波及させ仲間を増やす | その人の思いを周囲の人に代弁し共感を広める | 当事者の願いを代弁して伝える:スタッフへ(金田,2014)(山田,2015)(森山,2019),家族へ(小村,2018),問題をユーモアに変換し周囲の人に伝える(伊藤,2020) |
その人が安心して関われる人を増やす | 患者会の設立(桐生,1986),連携先を増やす(寺田,2011)(宮田,2018)(伊藤,2020),暮らしを支えるボランティアを増やす(伊藤,2020),同じ体験の人が集う場を作る(玉村,2007)(田村,2019)(伊藤,2020)(蔭山,2020) | |
医療情報を身近なものにする | 院内の健康応援図書館の設置(佐栁ら,2012)医療情報の関わる一般向けwebコンテンツの作成(武田,2005)(北野・細尾,2017),子どもや支援者向け絵本・教材の作成(北野・細尾,2017) | |
個別の生き方に対応する治療行為ではない新たな活動を試みる | 治療行為ではない生活への関与 | 治療ではない行為(田中,2015)(宮田,2018)(野村・津下,2020),患者会へ参加する(桐生,1986),医療職以外の人も参加する(佐栁ら,2012)(伊藤,2020) |
個別の生き方に対応できる新たな活動 | ACTの試行(西尾,2010)(菅沼,2011),訪問看護ステーションの設立(寺田,2011),IPSに基づく就労支援(高橋,2013),体調モニタリングアプリの開発(野村・津下,2020),妊娠期から育児期の連携支援の構築(高梨ら,2010)(中西,2015)(樋口,2021) |
SDM:Shared Decision Making ACT:Assertive Community Treatment IPS:Individual placement support
実践者は,〈その人が自分の健康を守る主体であること〉(渡部,2017),〈その人が自分らしく生きること〉(高橋,2013),〈その人が安心して成長していくこと〉(宮田,2018)を目的として,対象者とともに願いの実現を目指していた.
② 《その人に伴走する味方になる》実践者は,対象者に医療情報を分かりやすく説明する(田中,2015),看護方針についてカードを交換する(飯塚ら,2000),対話する(伊藤,2020)など〈医療情報を共有し対話し〉,継続的な繋がりを保つため多職種連携による応援団をつくること(岡西,2016)(寺田,2011)や,アプリを開発する(野村・津下,2020)など〈継続的に伴走できる仕組みを作り〉ながら,〈その人の生き方を一緒に考える〉(伊藤,2020)ことに努め,その過程で見えてきたコンサートに行く(森山,2019)など〈その人の願いの実現を支える〉など個別の生き方に関心を寄せ,その人の「味方」(森山,2019)になっていた.
③ 《周りの人に共感を波及させ仲間を増やす》実践者は,時に周囲に理解されにくい対象者の願いを分かりやすく家族や医療スタッフに伝え〈その人の思いを周囲の人に代弁し共感を広める〉(小村,2018)ことや,連携先を増やす(寺田,2011),ボランティアなど暮らしを助ける人を増やす(伊藤,2020),同じ仲間が集う場を作る(桐生,1986;田村,2019)ことにより〈その人が安心して関われる人を増やす〉こと,さらに,病院内に図書館を作る,絵本やWebサイトの作成など〈医療情報を身近なものにする〉(北野・細尾,2017)ことで,対象者への共感を周囲に波及させ,社会に仲間を増やしていた.
④ 《個別の生き方に対応する治療行為ではない新たな活動を試みる》これらの活動は,患者会への参加(桐生,1986)やアプリ開発(野村・津下,2020),医療職以外の人も参加できる(佐栁ら,2012)〈治療行為ではない生活への関与〉であり,周産期連携の新たな構築(中西,2015),重度の精神障害者を対象とした包括型地域生活支援プログラム(ACT:Assertive Community Treatment)の導入(西尾,2010;菅沼,2011)など〈個別の生き方に対応できる新たな活動〉であった.
3) 帰結帰結として【その人の主体性の高まりに医療者としての自分らしさが充実していく】というカテゴリーが,応援で得られた体験の4つのサブカテゴリーから抽出された(表4).
サブカテゴリー | 2次コード | コード |
---|---|---|
安心感と主体性が増したその人の人生を実感する | 主体性が増したその人の姿を見る | 対象者の願いの実現(金田,2014)(山田,2015)(小村,2018)(森山,2019),患者の主体的な健康増進行動(佐栁ら,2012),対象者の治療への主体的参加(飯塚ら,2000)(本藤ら,2001)(斉藤ら,2006)(岸田,2008)(玉村千里,2007),患者会の活動の充実(桐生,1986),対象者の希望が高まる(玉村,2007)(菅沼,2011)(森山,2019)(高橋,2013),自分の気持ちを話すようになる(伊藤,2020) |
その人から安心の言葉を聞く | 対象者の安心の言葉(高梨ら,2010)(寺田,2011)(岡西,2016)(田村,2019)(伊藤,2020),暮らしにあった薬物調整の実現(渡部,2017) | |
その人から学び理解が深まる | その人から学ぶ | 対象者のユニークさの発見(金田,2014)(伊藤,2020)(小村,2018),その人たちから学ぶ(伊藤,2020) |
新たなニーズに気づく | 対象者の新たなニーズの発見(本藤ら,2001)(玉村,2007)(岸田,2008)(高梨ら,2010)(菅沼,2011)(寺田,2011)(高橋,2013)(金田,2014)(中西,2015)(中野,2019)(田村,2019)(伊藤,2020)(樋口,2021) | |
職域を超えた仲間が増えたことを実感する | チームで充実感の共有 | その人たちから元気をもらう(金田,2014),支援者の安心感(岡西,2016)(伊藤,2020).チーム全体で喜び達成感を得る(山田,2015)(森山,2019) |
仲間が増えたことを実感する | 患者が支援者になる(桐生,1986),理解者が増える(玉村,2007)(山田,2015),活動への参加者が増える(寺田,2011)(北野・細尾,2017),非医療職の健康支援への参与の実感(武田,2005)(佐栁ら,2012) | |
活動が拡充し試行錯誤への意欲が高まる | 活動のレパートリーが増える | 提供するサービスが増える(寺田,2011),教材・活動が増える(北野・細尾,2017) |
支援充実への意欲が高まる | 試みた活動の必要性の確信(寺田,2011)(菅沼,2011)(田中,2015)(宮田,2018)(小村,2018),支援活動継続への意欲(飯塚ら,2000)(本藤ら,2001)(斉藤ら,2006)(玉村,2007)(岸田,2008)(佐栁ら,2012)(金田,2014)(中西,2015)(山田,2015)(渡部,2017)(森山,2019)(田村,2019),より良い支援の試行錯誤への意欲(高梨ら,2010)(西尾,2010)(高橋,2013)(中西,2015)(田中,2015)(中野,2019)(蔭山,2020)(伊藤,2020)(樋口,2021) |
実践者は,自分が行った新たな試みにより,願いが叶い前向きになった姿(森山,2019)や,患者会が充実する(桐生,1986),自分の気持ちを話すようになる(伊藤,2020)など〈主体性が増したその人の姿を見る〉ことや〈その人から安心の言葉を聞く〉(高梨ら,2010;岡西,2016)など,試みの成果を実感する体験をしていた.
② 《その人から学び理解が深まる》実践者は,対象者の味方になり,その人の語りや姿に触れることで〈その人たちから学び〉(伊藤,2020),〈新たなニーズに気づく〉(本藤ら,2001;高橋,2013)体験を得ており,対象者への更なる理解を深めていた.
③ 《職域を超えた仲間が増えたことを実感する》実践者は,対象者の願いの実現をチームで喜ぶ(山田,2015),医療者の安心感の高まり(岡西,2016)など〈チームで充実感を共有〉し,患者会が診療を助ける(桐生,1986),医療職以外の人も含め〈仲間が増えたことを実感〉(佐栁ら,2012)していた.
④ 《活動が拡充し試行錯誤への意欲が高まる》実践者は,新たな試みを続ける中で,訪問看護ステーションの事業が拡充する(寺田,2011)など〈支援のレパートリーが増え〉,試みた活動の必要性の確信(菅沼,2011),活動継続への意欲(中西,2015),試行錯誤への意欲(高橋,2013)の高まりなど,〈支援拡充への意欲を高めて〉いた.
医療分野における応援は,精神障害,がんの終末期,慢性疾患,子育てなどこれからの生き方に模索が続く健康課題を抱える対象者へ様々な医療者により実践されていた.応援の実践者は,現行の体制の不十分さや超高齢化社会に,自分らしくあることの難しさを誰にでも起こりうる危機と認識し,【自分らしくあることの困難性への共感】を抱き,この共感に基づき【その人らしくあることの実現のために味方になり新たなことを試み】ていた.味方になるとは,患者中心志向とキュアよりケアの重視を基盤に,個人に対しては,医療情報の分かりやすい説明によるヘルスリテラシーの強化や,対話により対象者の願いをともに考える存在になることであった.そして,その人らしさを支えるために,周囲の人々に対して対象者の思いを代弁すること,Webサイトを通じた情報の発信によって,共感を波及させることも含んでいた.更には,ACTなど米国のリカバリー支援の導入や助産師の子育て支援への参入といった地域のケアシステムの構築に関わる活動にも及んでいた.その過程で,対象者の主体性が増した姿に,新たな学び,職域をこえた仲間が増え,支援が拡充していくことを仲間とともに実感し,次なる活動への意欲を高め,【その人の主体性の高まりに医療者としての自分らしさの充実】が生じていた.これらは,研究報告ではなく,医療の実践者が“対象のその人らしさを大切にしたい”という願いから行った様々な試みを“応援”という言葉で報告したものであった
医療現場において健康課題を抱える人に実践されている応援の概念モデル
そして,これらの報告には,対象者の変化だけでなく,医療者自身の学びや成長が記述され,応援は対象者と実践者の双方に成長をもたらした体験として記述されていた.この応援のもつ互恵性は,手嶋(2007)の「応援は他者への“利他的/非利己的態度”でありながら,深い意味では利己的行為である」との記述や,「浦河べてるの家」における応援する/されるという互酬的な関係性(浮ケ谷,2009)や,スポーツ解説者松岡(2013)の「応援とは人のそして自分自身の強きになる」との定義にも示されている.
しかし,その人らしさへの関与や相互成長のような互恵性は支援においても生ずるのであり,応援だけの特徴ではない.また,丹羽(2020)は,支援,応援,ファンの区分の基準として“心理的距離の近さ”を挙げているが,この区分により医療分野の応援を説明するのは難しい.医療分野の応援は支援と異なるというよりも,支援者が対象者を主体に置いた個別性の高い支援を実現することや,“応援団”という仲間をつくること,それによって生じた相互成長を実感することを促進させる概念なのではないだろうか.つまり,対象者と支援者間の互恵的関係を拡充しながら,対象者のその人らしさと支援を創出する支援者の主体性を引き出していくことが,医療分野の応援の特性と推察された.
2. 応援の定義とこれからの看護・医療おける応援概念の意義看護における応援は,精神障害や終末期にあるなど声を上げにくい人に,その人らしくあることを願う看護者が強い関心をもって関り,コンサートに行きたい(森山,2019),郷土料理を食べたい(山田,2015)などの思いを引き出し,その思いを家族やスタッフと共有し,個別性の高いケアをチーム全体でやりがいをもって実践した報告であった.前原(2020)は,老衰死の看取りに関わる質的研究において,“ある看護師は環境を整えながら死期の迫っている高齢者の傍らにいたことを「応援」と表現した”と報告した.すなわち,応援は,病状の改善など医学的な成果が得られない局面においても,その人らしさを支えようとする看護の価値を支え,具現化することを可能にする概念であると推察された.
以上から,応援は,医療者と対象者双方の「自分らしく生きる」ための主体性に関わる相互作用であることが明らかになった.これを踏まえて,医療分野における応援を以下のように定義した.医療における応援とは,「医療者が,自分らしさを模索する健康課題をもつその人の味方になり新たな活動を試みることで,医療者自身も自分らしさが充実していく過程である.味方になるとは,その人の生き方を重視し,医療情報を分かりやすく伝えること,対象者と願いを共に考え支えること,対象者の思いを代弁し共感を周囲に波及させ仲間を作ることにより,その人らしさを支えることである」.
Markus & Kitayama(1991)が述べるように,日本人の主体性は他者との関係性の中に立ち上がるとするなら,双方の互恵的な関係性に基づく応援は日本文化になじみのよい主体性へのアプローチとなりうる.特に,精神疾患など周囲に理解されにくい人への共感を周囲へ波及させることは,互恵性を高め,その人の主体性を支えていくことに有用であり,医療者に求められる役割だと考えられた.松宮(2019)は,「応援」は当事者と支援者の双方がより積極的・主体的に課題と取り組むための方法論であり得るとし,支援システムと支援関係の双方に新たな視点を提示できる可能性があると述べている.本研究において,医療分野における応援は,その人らしさを大切にしたいと願う医療者が新たな活動を実践することを助け,生き方を模索する人への支援の拡充に寄与する概念であることが示された.
本研究は,応援を実践した医療関係者側が捉えた応援を扱っており,家族や応援される側からの応援の概念は扱われていない.また,応援は主体の利益とは必ずしも関係しない場合があること(丹羽,2020),自己満足的なものになり得ること(手嶋,2007)が指摘されており,本研究は応援の肯定的な報告に限定されている可能性がある.今後は,応援の実践者と対象者へのインタビューを通じて,応援の否定的側面も明らかにしながら概念図を洗練し検証していく必要がある.
付記:本研究は,2019~2021年度文部科学省科学研究補助金基盤研究(C)(課題番号19K10928)“応援概念に基づく精神障害をもつ人の子育て支援アプローチの開発に関わる研究”の一部である.
著者資格:ISは研究の着想,デザイン,文献収集,分析,論文作成をすべて主導し執筆した.RMは文献の選定,カテゴリー生成におけるスーパーバイズ,考察への助言,YI,KO,HHは文献の選定,データの解釈の妥当性,定義の検討,考察,意義の検討に関与した.すべての著者は最終原稿を確認し承認した.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.