目的:高齢患者のせん妄発症時に,身体拘束を回避するための看護師のアセスメントとケアのプロセスを記述する.
方法:一般病棟の看護師8名に半構造化面接を行い質的記述的に分析した.
結果:身体拘束を回避するために看護師は,【症状や行動の変化から異変を感じる】ことで,【安心につながるよう言動を受け止め気持ちを和らげる】と同時に【即時の対応ができるよう見守る】中で,【症状や危険を感じた行動から起こりうる事態を予測する】と【症状や行動の変化の原因を分析するために患者背景とせん妄の発症要因に着目する】を行きつ戻りつし,【症状や行動の変化の原因には心身の苦痛があると解釈する】ことで【不快や苦痛を軽減し普段の生活に近づける】ケアをしていた.
結論:看護師は,医療安全の視点に偏らず,患者の視点に立ち安楽を目指したケアを実践することが身体拘束の回避につながることが示唆された.
Purpose: This study describes assessment and care processes of nurses used to avoid physical restraint at the onset of delirium in elderly patients.
Methods: Semi-structured interviews were conducted with eight nurses working in general wards and the interview data were qualitatively and descriptively analyzed.
Results: When the nurses ‘sensed unusual changes in symptoms and behaviors in patients’, they were ‘accepting the behaviors of patients in a manner to ease the mind of the patient, and trying to calm the patients’, and ‘observing the patients while being ready for a further immediate response’ to avoid employing physical restraints with elderly patients. The nurses provided care to ‘make the patient conditions closer to those of ordinary life by reducing the discomfort and distress’ based on the ‘interpretation that the changes in the symptoms and behaviors are caused by physical and mental distress’, while repeatedly ‘estimating the risks arising from the symptoms and dangerous behaviors’ and ‘focusing on the patient background and factors affecting the onset of delirium, to analyze the reasons for changes in the symptoms and behaviors’.
Conclusions: The findings suggest that nursing care practices to make patients comfortable from the patient view point without bias from medical safety concerns may be linked to maintaining avoidance of physical restraints.
2000年の介護保険における身体拘束禁止を契機に,医療機関においても身体拘束の予防に関するガイドライン(日本集中治療医学会看護部会,2010;日本看護倫理学会,2016)の普及や「認知症ケア加算」(厚生労働省,2016)が新設された.一方,全日本病院協会の調査(2016)によると,何等かの身体拘束を実施する割合は,介護保険施設46.6%に比べ一般病棟が93.4%と高い傾向にある.
医療機関に勤務する看護師を対象にした身体拘束の判断に関する研究(玉山・小野,2017;早川,2016)では,せん妄症状や認知症のある患者が身体拘束の対象となっていた.しかし,身体拘束はせん妄の発症要因のひとつであり(Inouye et al., 2014),身体拘束の実施はさらにせん妄状態を悪化させるといった悪循環を招く.また,高齢者に身体拘束を開始する状況には,患者のインシデントにつながる行動,繰り返されるライン類の自己抜去,暴力的行為があり(渡邉・齋藤,2021),実際のインシデント発生だけでなく,予防的に身体拘束を行っている看護師は8割以上という報告もある(石倉ら,2015).しかしながら,看護師は,身体拘束は人権にふれるのではないか(大木・松下,2014),身体拘束はできるだけしたくない(島内ら,2014)と考え,患者の安全確保と尊厳の間でジレンマを抱えている.
身体拘束の回避には,せん妄のアセスメントが重要である(日本看護倫理学会,2016).また,診療報酬改定による「せん妄ハイリスクケア加算」(厚生労働省,2020)の新設や,せん妄ケアリストの発表(日本クリティカルケア看護学会,2020)など,近年は,せん妄ケアの重要性が示唆されている.しかし,未だせん妄を発症した患者への身体拘束が課題となる背景には,アセスメントが十分ではない可能性がある.身体拘束の回避における看護師のアセスメントおよびケアに関する報告(佐藤,2019;牧野・加藤,2019;松尾,2019)では,認知症高齢患者を対象に,患者の全身状態や生活背景をアセスメントし,患者のニーズを読み取り充足するケアが実践されているが,せん妄を発症した患者に焦点をあてた報告は見当たらなかった.また,先行研究では,せん妄発症時の患者に焦点をあて,生命の危機や身体損傷に及ぶ可能性のある行動のアセスメントから身体拘束を回避するケアまでの一連の思考過程は明らかにされていない.
そこで本研究の目的は,急性期の内科的治療を受ける高齢患者のせん妄発症時に,身体拘束を回避するために看護師が行うアセスメントとケアのプロセスを記述することとした.このプロセスを明らかにすることは,せん妄患者の安全対策に苦慮する看護師にとって,身体拘束を回避するアセスメントの一助になりうると考える.
「せん妄を発症した患者」とは,一瀬(2019)を参考に「突然発症する注意,認知,知覚が変化した状態であり,一日の中で変動があり短期間で進行する症状を認める患者」と定義する.本研究では,認知症の診断の有無は問わない.
「身体拘束」とは,厚労省告示(昭和63年)の「身体的拘束」の定義に準じて「衣類または綿入り帯等を使用して,一時的に当該患者を拘束し,その運動を抑制する行動の制限」をいう.具体的な行為は,「身体拘束ゼロへの手引き」(厚生労働省,2001)を参考に,抑制具による四肢または体幹の抑制,ミトン型手袋やオーバーテーブル,4点柵の使用による行動の抑制を指す.なお,医師の指示による鎮静薬の使用や病室への隔離は含めない.
「アセスメント」とは,古橋(2017)を参考に,「せん妄発症時に,身体拘束を回避するための必要な情報を集め,そしてその情報がなぜ起こっているのか,今後どうなるのかを予測し,援助が必要な状態かどうかを考え判断すること」とする.
「ケア」とは,「看護師が,せん妄を発症した患者に,身体拘束以外の手段で対応する看護師の行動」とする.
本研究は,看護師のアセスメントとケアのプロセスを明らかにするため,研究したい現象が明らかにされていない場合に適しているとされる質的記述的研究デザインを用いた(グレッグら,2020).
2. 研究参加者研究協力施設は,医療法に基づく「急性期機能」の病床機能を有する北海道内の医療機関,かつ病院機能評価認定病院で同意を得られた6施設である.以下の選定基準を満たす研究参加者を看護管理者から推薦していただいた.
研究参加者の選定基準は,①内科系一般病棟に5年以上勤務,②夜勤に従事している,③過去5年以内に認知症患者や高齢者ケア等について学習経験がある,④せん妄を発症した高齢患者に対して日頃から身体拘束を行わないよう努めてケアをし,そのことについて語れると看護管理者が判断した看護師とした.
3. データ収集方法データ収集は,インタビューガイドを用いた半構造化インタビューを行い,看護師が「高齢患者のせん妄発症時に,身体拘束を回避するためにどのようなアセスメントをしてケアを実践したか」について尋ねた.インタビュー内容は同意を得てICレコーダーに録音し,逐語録を作成した.研究参加者の属性として年齢,看護師経験年数,所属病棟を把握した.データ収集期間は,2021年2月9日~2021年3月30日である.
4. 分析方法逐語録を精読し,分析の焦点である「高齢患者のせん妄発症時に,身体拘束を回避するために看護師が行うアセスメントとケア」に基づき一次コードを抽出した.一次コードの類似性と相違性について比較分類しながら,二次コード,サブカテゴリー,カテゴリーと抽象度を高めた.さらに各カテゴリーをアセスメントとケアの用語の定義に即して「患者情報」「解釈」「分析」「ケア」の視点から関連性を検討しプロセスを図示した.
データの信用性の確保は,研究参加者に対しメンバーチェッキングを実施した.分析過程と分析結果の妥当性については,研究者間で繰り返し検討した.
研究協力施設の看護管理者および研究参加者に対し,本研究の趣旨,研究参加の任意性と同意撤回の自由,それに伴う不利益がないこと,個人情報の保護等について文書と口頭で説明し同意書に署名を受けた.インタビューの日時および実施場所については,研究参加者の希望に沿って個室あるいはオンラインを選択した.本研究は,札幌医科大学倫理委員会の審査・承認を得て実施した(承認番号2-1-65).
研究参加者は,急性期機能を有する病院6施設の内科系一般病棟の看護師8名であった.研究参加者の平均年齢は37.3(SD6.04)歳,看護師経験年数は平均14.8(SD5.15)年,インタビュー時間は平均58(SD12.4)分であった.
研究参加者の所属病棟は,循環器内科・心臓血管外科混合病棟1名,消化器内科2名,消化器内科・血液内科混合病棟1名,脳神経内科・糖尿病内科混合病棟1名,総合内科1名,地域包括ケア病棟(現:コロナ疑似病床)2名であった. 所属病棟において,せん妄評価ツールを使用していたのは5病棟であり,身体拘束に関するカンファレンスは全ての病棟で定期的に開催していた.
2. 身体拘束を回避するために看護師が行うアセスメントとケアのプロセス分析の結果,インタビューデータから479一次コード,75二次コード,28サブカテゴリー,8カテゴリーを抽出した(表1).抽出したカテゴリー間の関連性を検討し「せん妄発症時に身体拘束を回避するためのアセスメントとケアのプロセス」を図示した(図1).なお表記は,カテゴリー【 】,サブカテゴリー〈 〉,二次コード《 》,一次コード「 」とする.
| カテゴリー | サブカテゴリー | 代表的な二次コード | |
|---|---|---|---|
| アセスメント | 症状や行動の変化から異変を感じる | 行動や表情の変化からせん妄症状を捉える | 落ち着かない行動がある 目つきや表情の変化がある 見当識や注意の障害がある |
| 患者の行動の変化に危険を感じる | 薬剤や栄養注入のライン類を自己抜去しそうになる 酸素化の維持に重要なチューブ類を外そうとする 不安定な歩行で転倒しそうになる 暴力的な状態になる | ||
| 症状や危険を感じた行動から起こりうる事態を予測する | 生命の危機や身体への侵襲を予測する | チューブ類の自己抜去による呼吸状態の悪化から生命の危機を予測する 薬剤投与のルートの自己抜去から治療の中断による症状悪化を予測する | |
| インシデントにつながりかねないと予測する | 転倒・転落を予測する 挿入物の認識困難による自己抜去を予測する | ||
| インシデントによる影響が少ないと判断する | 自己抜去による影響が少ないと判断する | ||
| 普通の反応と判断する | 体調が悪いときに落ち着かないのは普通の反応と捉える | ||
| 早急に判断しない | 攻撃的ではないので経過をみる 眠らなくても経過をみる | ||
| 症状や行動の変化の原因を分析するために患者背景とせん妄の発症要因に着目する | 患者なりの行動の理由に着目する | 行動の変化には理由があるのではないかと推測する 患者の言動から行動の理由を読み取る | |
| 普段のその人との違いに着目する | 普段の人柄から今どういう気持ちなのか察する 普段の生活から今なにがしたいのか推測する | ||
| せん妄の発症要因に着目する | 症状や行動だけでなくせん妄の原因に焦点をあて分析する 発症要因になる身体症状や病態に基づき分析する 生活環境の変化によるストレスの影響を推測する せん妄になりやすい薬剤の影響を推測する | ||
| 症状や行動の変化の原因には心身の苦痛があると解釈する | 点滴や酸素マスクに対する理解不足と不快感から外してしまうと解釈する | 点滴や酸素マスクの理解が難しく外してしまう 点滴や酸素マスクによる違和感や不快感がある | |
| 身体症状が原因で行動が変化すると解釈する | 発熱や痛みが原因でいつものように動けない 呼吸苦が原因で普段はしない行動がみられる | ||
| 思いどおりにならない状況から不安・混乱が生じると解釈する | 状況がわからず混乱や不安が生じる 思い通りにいかない状況が耐えられない | ||
| 生理的欲求が満たされないと解釈する | 排泄の欲求が満たされない 食の欲求が満たされない | ||
| ケア | 安心につながるよう言動を受け止め気持ちを和らげる | 患者の言動を受け止める | 患者に行動の理由を尋ねる 否定せず穏やかに受け止める |
| せん妄症状を助長しないよう距離感を調整し興奮や不安を和らげる | 興奮症状が助長しないよう行動の制止や否定をしない 距離感を調整し馴染みの関係をつくる | ||
| 即時の対応ができるよう見守る | 行動に付き合いながら見守りを継続する | チームで見守りを継続する 患者が納得するまで行動をともにする | |
| 付き添いが難しいときはセンサーの使用や部屋移動する | 行動を察知できるようにセンサーを使う 看護師の視界に入りやすい場所へ移動する | ||
| 不快や苦痛を軽減し普段の生活に近づける | 生理的欲求を満たす | 食の欲求を満たす トイレで排泄する欲求を満たす | |
| 活動を促し生活リズムを整える | 離床やリハビリを促す 生活のリズムをつける | ||
| 身体症状を緩和する | 発熱や痛みを緩和する 脱水を改善するよう働きかける | ||
| 興奮症状の緩和のために薬剤を使う | ケアの効果がない場合は薬剤を考慮する 落ち着けるように薬剤を使う | ||
| ライン類や酸素マスクによる不快な感覚を軽減する | ライン類や固定部位を気にしないように工夫する 医師とライン類の必要性を吟味する | ||
| 落ち着いて過ごせる環境をつくる | 気が紛れるように環境を変える 安心できるように家族との関わりを調整する | ||
| 基盤となる考え | 患者の安全と安楽を大事にする | せん妄を予防し安全・安楽に過ごせるケアを基本とする | せん妄予防や早期発見によるケアが大事である 安全・安楽に過ごせるケアを基本とする |
| 患者や自分の身に置き換えて考える | 患者や家族の苦痛を一番に考える 自分が身体拘束をされたらいやだと感じる | ||
| 身体拘束や行動制限では安全は守れない | 身体拘束は興奮症状を悪化させる 行動制限や監視は見えない身体拘束になる | ||
| 身体拘束を当たり前にしない職場風土がある | 身体拘束を当たり前にしない 病棟全体で身体拘束をしない職場風土がある |

せん妄発症時に身体拘束を回避するためのアセスメントとケアのプロセス
このカテゴリーは,看護師が,普段の患者には見られない症状や行動の変化を感じたことを意味し,2つのサブカテゴリーが含まれた.〈行動や表情の変化からせん妄症状を捉える〉には「ずっと寝ていたのに急に荷物の整理を始める」などの《落ち着かない行動がある》,《目つきや表情の変化がある》,「説明に対し全く的を得ない返答をし言いたいことを延々言う」などの《辻褄の合わない発言がある》があった.〈患者の行動の変化に危険を感じる〉には,「ルートを見えないようにしたり,触りづらく引っ張りづらくしてもルート固定を剥がしたとき」など《薬剤や栄養注入のライン類を自己抜去しそうになる》,「高濃度でいく酸素マスクを外すと危険だと思う」などの《酸素化の維持に重要なチューブ類を外そうとする》,ほかに「安静が必要な状態にもかかわらず,ベッドから降りてしまう」「ふらついて歩いているが(患者は)ちゃんと歩いているつもりで大丈夫だって思っている」といった《不安定な歩行で転倒しそうになる》などがあった.
2) 【症状や危険を感じた行動から起こりうる事態を予測する】このカテゴリーは,患者のせん妄症状や行動の変化がどのような事態につながるか予測することを意味し,5つのサブカテゴリーが含まれた.〈生命の危機や身体への侵襲を予測する〉では,看護師は,「気道確保のチューブの自己抜管は生命の危機を考える」など《チューブ類の自己抜去による呼吸状態の悪化から生命の危機を予測する》,《薬剤投与のルートの自己抜去から治療の中断による症状悪化を予測する》があった.〈インシデントにつながりかねないと予測する〉では,「体力の低下やふらつきは転倒・転落を心配する」などの《転倒・転落を予測する》,「点滴・チューブ類の認識ができず自己抜去のリスクがある」などの《挿入物の認識困難による自己抜去を予測する》などインシデントの発生を予測していた.〈インシデントによる影響が少ないと判断する〉では,「投与中の薬剤にもよるが,末梢ルートを抜いても仕方ない」「胃瘻の抜去は命の危機になるわけではないので様子をみる」など《自己抜去による影響が少ないと判断する》があった.〈普通の反応と判断する〉では,「動いたら『動いた』『ひとりで立ち上がっている』と捉えがちだが,トイレの時は一人で立ち上がる方が自然」「そわそわしたり,落ち着きのない状態は,体調が悪い時は寝たり起きたりは普通のこと」など《体調が悪い時に落ち着かないのは普通の反応と捉える》があった.また,〈早急に判断しない〉では,「辻褄の合わない言動だが,看護師を頼り穏やかなので観察のみでいい」という《攻撃的ではないので経過をみる》《眠らなくても経過をみる》があった.
3) 【症状や行動の変化の原因を分析するために患者背景とせん妄の発症要因に着目する】このカテゴリーは,看護師が,患者の症状や行動の変化の背景にはどのような原因があるかを分析する視点を意味し,3つのサブカテゴリーが含まれた.
〈患者なりの行動の理由に着目する〉では,看護師は「原因がわからないとケアに繋がらないので行動の理由,原因を考える」など《行動の変化には理由があるのではないかと推測する》,《患者の言動から行動の理由を読み取る》ことで行動の理由を分析していた.〈普段のその人との違いに着目する〉には,《普段の人柄から今どういう気持ちなのか察する》,《普段の生活から今なにがしたいのか推測する》,「元々どういう方かを捉えるために高齢か既往歴,入院歴,生活状況,認知症やせん妄発症歴,内服を確認する」といった《既往やこれまでの入院歴を把握する》などが含まれた.〈せん妄の発症要因に着目する〉では,「行動や症状だけでなくせん妄になるきっかけをアセスメントする」など《症状や行動だけでなくせん妄の原因に焦点をあて分析する》,「高齢でかつ急性増悪,心不全と肺炎,発熱を伴う状況からせん妄を発症する可能性がある」「身体症状の変化からせん妄発症を考え,フィジカルアセスメントにより身体のことを第一に考える」など《発症要因になる身体症状や病態に基づき分析する》,入院による《生活環境の変化によるストレスの影響を推測する》,《せん妄になりやすい薬剤の影響を推測する》ことが含まれた.
4) 【症状や行動の変化の原因には心身の苦痛があると解釈する】このカテゴリーは,せん妄症状や行動の背景には,患者の身体的・精神的不快や苦痛があると解釈したことを意味し,4つのサブカテゴリーが含まれた.〈点滴や酸素マスクに対する理解不足と不快感から外してしまうと解釈する〉では,《点滴や酸素マスクの理解が難しく外してしまう》,《点滴や酸素マスクによる違和感や不快感がある》があった.〈身体症状が原因で行動が変化すると解釈する〉では,「熱や痛みが原因で足に力は入らず,いつもの動きができない」などの《発熱や痛みが原因でいつものように動けない》,「痰が多くサクションで苦痛が重なり,たまりにたまって点滴ルートを抜いた」など《呼吸苦が原因で普段はしない行動がみられる》があった.〈思いどおりにならない状況から不安・混乱が生じると解釈する〉では,《状況がわからず混乱や不安が生じる》や,《思い通りにいかない状況が耐えられない》こと,〈生理的欲求が満たされないと解釈する〉では,《排泄の欲求が満たされない》や,《食の欲求が満たされない》,《眠れない》状態が,普段と異なる行動の原因ではないかと解釈していた.
5) 【安心につながるよう言動を受け止め気持ちを和らげる】このカテゴリーは,看護師が患者の言動を受け止め,かつ患者の興奮や不安という精神症状を和らげるよう接することで,患者にとって馴染みのある存在となり,安心につなげる関わりを意味し,2つのサブカテゴリーが含まれた.
〈患者の言動を受け止める〉では,看護師は,《患者に行動の理由を尋ねる》と同時に,「安心感につなげ,せん妄の危険をなくすために否定せず1回受け入れる」など,患者の言動を《否定せず穏やかに受け止める》関わりをしていた.〈せん妄症状を助長しないよう距離感を調整し興奮や不安を和らげる〉では,患者の言動に対して「してはいけない,失敗したというと興奮させるので制止やそういう言葉は使わない」など《興奮症状が助長しないよう行動の制止や否定をしない》や《距離感を調整し馴染みの関係をつくる》ことで患者が落ち着くよう接していた.
6) 【即時の対応ができるよう見守る】このカテゴリーは,看護師が,患者の普段と異なる行動に対し,その行動の原因を分析しながら,いつでも患者の行動に対応できるために見守ることを意味し,2つのサブカテゴリーが含まれた.〈行動に付き合いながら見守りを継続する〉では,「介護福祉士や他のスタッフと交代で傍にいて見守る」など《チームで見守りを継続する》中で,《患者が納得するまで行動をともにする》や,《症状が落ち着くまで傍にいる》ことで見守っていた.また,〈付き添いが難しいときはセンサーの使用や部屋移動する〉では,《行動を察知できるようにセンサーを使う》《看護師の視界に入りやすい場所へ移動する》ことで,患者の行動に対応できるようにしていた.
7) 【不快や苦痛を軽減し普段の生活に近づける】このカテゴリーは,患者の普段と異なる行動の原因となる心身の苦痛を軽減するためのケアを意味し,6つのサブカテゴリーが含まれた.〈生理的欲求を満たす〉では,「主治医と相談した上で栄養士に介入依頼しゼリー食を開始する」など《食の欲求を満たす》関わりや《トイレで排泄する欲求を満たす》などがあった.〈活動を促し生活リズムを整える〉では,《離床やリハビリを促す》,《夜間の睡眠を確保する》など,生活リズムを整えていた.〈身体症状を緩和する〉では,《発熱や痛みを緩和する》《脱水を改善するよう働きかける》があった.〈興奮症状の緩和のために薬剤を使う〉では,「せん妄の原因にアプローチをした上でダメなら,抗精神薬を検討する」など《ケアの効果がない場合は薬剤を考慮する》ことでせん妄症状の緩和を図っていた.〈ライン類や酸素マスクによる不快な感覚を軽減する〉では,《ライン類や固定部位を気にしないように工夫する》や《酸素化を維持するために,酸素マスクの不快感がないように工夫する》など,治療に伴う不快症状を軽減していた.〈落ち着いて過ごせる環境をつくる〉では,「気分転換を図るために散歩にいくなどして環境を変える」など《気が紛れるように環境を変える》や《安心できるように家族との関わりを調整する》とともに,《生活に馴染みのあるものを取り入れる》ことで,患者が落ち着けるような環境調整をしていた.
8) 【患者の安全と安楽を大事にする】このカテゴリーは,せん妄発症時に身体拘束を回避するためのアセスメント及びケアの基盤になる看護師の考え方を意味し,4つのサブカテゴリーが含まれた.〈せん妄を予防し安全・安楽に過ごせるケアを基本とする〉では,看護師は,「安全確保しスムーズな退院のために,せん妄予防と早期発見によるケアが大事」など《せん妄予防や早期発見によるケアが大事である》という考えや,「患者にとって日常的で快の刺激,当たり前で好きなことやニーズを満たす安心できる療養環境にする」,「認知症やせん妄の有無よりも,とにかく安全に安楽がベースになる」など《安全・安楽に過ごせるケアを基本とする》と考えていた.〈患者や自分の身に置き換えて考える〉では,「(拘束が)第一選択で当たり前だったが他に方法があると考えたとき,縛られるのはどんなに苦痛かと考えた」など《患者や家族の苦痛を一番に考える》,また《自分が身体拘束をされたらいやだと感じる》ことで身体拘束による患者及び家族の苦痛を汲みとっていた.〈身体拘束や行動制限では安全は守れない〉では,看護師は「せん妄症状の悪化は何度も経験しているため,(拘束を)することが決して安全ではない」など《身体拘束は興奮症状を悪化させる》や《身体拘束は循環動態や皮膚損傷の弊害を招く》,《行動制限や監視は見えない身体拘束になる》と認識していた.〈身体拘束を当たり前にしない職場風土がある〉では,《身体拘束を当たり前にしない》,「病棟全体で本当に(拘束が)必要なのかを考え,抑制したくない気持ちで働いている」など《病棟全体で身体拘束をしない職場風土がある》ことが,身体拘束を回避するアセスメントおよびケアの実践に影響を与えていた.
9) カテゴリー間の関連性8カテゴリーについて関連性を検討した結果,以下のプロセスが抽出された.
せん妄発症時の患者の身体拘束を回避するために看護師が行うアセスメント及びケアのプロセスは,【症状や行動の変化から異変を感じる】ことから始まっていた.これらの症状及び行動に対し看護師は,まず【安心につながるよう言動を受け止め気持ちを和らげる】とほぼ同時に【即時の対応ができるよう見守る】ケアをしていた.このように見守りながら看護師は【症状や危険を感じた行動から起こりうる事態を予測する】および【症状や行動の変化の原因を分析するために患者背景とせん妄の発症要因に着目する】を行きつ戻りつしながら,【症状や行動の変化の原因には心身の苦痛があると解釈する】ことで【不快や苦痛を軽減し普段の生活に近づける】ためのケアを実践していた.このプロセスは,【患者の安全と安楽を大事にする】という看護師の考えを基盤としていた.
本研究の結果から,看護師が行う身体拘束を回避するためのアセスメントとケアのプロセスには,二つの特徴があった.
一つ目の特徴は,看護師が,患者のいつもと異なる症状や行動について,〈普通の反応と判断する〉,〈早急に判断しない〉ことが身体拘束の回避につながっていたことである.これらのアセスメントは,インシデント発生の可能性は低いという推測およびインシデントにつながるかどうか,いったん判断を保留にする思考である.これらの思考を可能にした要因について,〈普通の反応と判断する〉では,看護師が疾患や病態,環境の変化という苦痛を抱える患者の状況を全人的に捉え,せん妄を発症するに至った患者の視点に立ってアセスメントしていたからだと考える.〈早急に判断しない〉は,安易に危険と判断することは患者にとって最善のケアに繋がらないと考え,判断を熟考するために経過をみていたのではないかと推測する.また,これらの思考は,【症状や危険を感じた行動から起こりうる事態を予測する】と【症状や行動の変化の原因を分析するために患者背景とせん妄の発症要因に着目する】を行きつ戻りつする過程によって,危険という判断やインシデントの予測だけに捕らわれない思考を可能にしたと考える.
二つ目の特徴は,これらのアセスメント過程が,せん妄を発症した患者を見守るケアの中で展開されていたことである.看護師が,【即時の対応ができるよう見守る】中で,同時に【安心につながるよう言動を受け止め気持ちを和らげる】ことは,せん妄状態にある患者の,自分の置かれた状況が現実か非現実か判別できない混乱や,孤独感や恐怖感というネガティブな情動(阿部・上野,2020)から抜け出す救いの糸口になり,さらに看護師と繋がることで安心感が得られると考える.在院日数の短縮や緊急入院という急性期医療の特徴から,看護師は,患者との関係性が十分に築けていない状況で,せん妄発症時の患者に対応する場面が想定される.そのような状況で看護師は,せん妄による孤独を感じる患者にとって馴染みのある安心できる存在となり,患者に受け入れられるよう接することが,せん妄発症時に身体拘束を回避するための重要なケアの1つではないかと考える.
また,看護師は見守りと患者の気持ちを和らげるケアを行うことで,患者の行動から起こりうる事態を予測し,患者の行動の意味や原因を探るための時間的余裕を確保しアセスメントを展開していたと考える.本研究のアセスメントとケアを行きつ戻りつする過程は,川島ら(2020)が明らかにした看護アセスメント能力の,看護実践と同時に行われる思考のプロセスを踏むといった「プロセスのなかで検証していく力」と通底していると考える.身体拘束を回避するためには,繰り返し推論する過程およびケアの中でアセスメントを展開しながら,より患者の個別性に適したケアへつなげることが重要だと考える.
また,せん妄の発症要因は複雑であり,患者個人の生活背景や人柄も多様である.認知症高齢患者を対象にした先行研究(佐藤,2019;牧野・加藤,2019;松尾,2019)では,患者の全身状態や生活背景のアセスメント,ニーズを充足するケアが報告されており,本研究の【症状や行動の変化の原因を分析するために患者背景とせん妄の発症要因に着目する】アセスメント及び【不快や苦痛を軽減し普段の生活に近づける】ケアと同様であった.このことは,認知症の有無に関わらず,せん妄の患者の身体拘束を回避するために重要な要素であると考える.
以上のアセスメントとケアの特徴が,せん妄患者のケアに苦慮する看護師にとって,身体拘束を回避するための示唆となりうると考える.
2. 身体拘束を回避するための基盤となる看護師の考え看護師の倫理観はケアの選択や決定に常に関わる(鶴若・倉岡,2014).本研究の〈せん妄を予防し安全・安楽に過ごせるケアを基本とする〉〈患者や自分の身に置き換えて考える〉は,看護師の倫理観であり,身体拘束を回避するためのアセスメントやケアの原動力であったと考える.この倫理観が培われた背景には,〈身体拘束を当たり前にしない職場風土がある〉ことが確認された.身体拘束廃止を推進する医療機関(小藤,2018)では,職員が身体拘束をしない看護という意識統一のために,組織トップによる身体拘束廃止の方針を明確化している.したがって,身体拘束を回避するためには,看護師の倫理観の醸成とともに,身体拘束廃止を理念に掲げる職場風土が重要と考える.
本研究は,研究参加者に対し過去の事例についてインタビューを実施したことから,想起できないアセスメントやケアは語り切れていない可能性もある.今後は参加観察法を併用し,本研究で示したアセスメントとケアのプロセスと,その効果を検証する必要があると考える.また,認知症患者はせん妄を発症しやすく,身体拘束を受けやすいことから,認知症高齢者を含めたアセスメント及びケアの相違性や共通性を見出すことを今後の課題とする.
身体拘束を回避するために看護師は,患者のせん妄症状や行動の変化を普通の反応として捉え,早急に危険と判断せずアセスメントしていた.急性期医療を受ける患者に対し,看護師は,医療安全の視点に偏らず,患者の視点に立つことで安楽を目指したケアを実践するとともに,患者にとって安心できる存在となり受け入れられるよう接し見守ることの必要性が示唆された.
付記:本研究は,札幌医科大学大学院保健医療学研究科に提出した修士論文に加筆・修正を加えたものである.本研究の一部は,日本老年看護学会第27回学術集会で発表した.
謝辞:本研究にご協力いただきました研究協力施設の看護部の皆様に深く感謝申し上げます.
利益相反:本研究における利益相反は存在しない.
著者資格:HAは,研究の着想・デザイン,データ収集,分析,執筆の全てを行った.MH,TKは,原稿への示唆及び研究プロセス全体への助言を行った.全ての著者は最終原稿を読み,承認した.